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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第五章】イシュガルド殲滅篇
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【第五章】イシュガルド殲滅篇Ⅶーcross duringー

「あなたは…」

「久しぶり…という程でもないわね」


 慧留はプロテアと遭遇した。ここは繁華街であり、辺りは夜にも関わらず明るい。

 しかし、この二人の回りだけは異様に不気味な雰囲気を醸し出していた。


「何か用かな?イシュガルドさん」

「私には一応、プロテアという名前があるのだけど」

「じゃあ、プロテアさん、私に何か用?」

「少し、話しましょう」

「……」


 慧留は黙りこんだ。プロテアの意図がまったく読めない。しかし、戦うつもりは無いようだ。なら、大人しく従った方がいいだろう。


「分かったよ。で?何の話をするの?」

「仲間になってくれないかしら?」

「いや、引き受けるわけないでしょ?」

「即答…か…まぁ、予想はしてたけど」

「いきなり何を言い出すのかと思えば…あなたのことは四宮先生から聞いてるわ」

「そう、なら私があの人たちを殺そうとしている理由も知ってる訳ね」

「私はあなたを止める。絶対に。あなたも分かってるでしょ?四宮先生は…」

「分かっているわ。彼女が私の命を助けたこと…常森厳陣も黒宮大志も望んであの戦争に参加していない事も…けど、この溢れる怒りはそんなものでは止められないわ」

「私が止める!」


 慧留とプロテアの口論は続いた。しかし、どちらも引き下がる気は無い。


「やっぱり駄目ね。…今度会う時はどちらが死ぬかもね」

「私はあなたを殺さない。生きて、もう一度やり直してもらう」

「やり直す?もう、私は止まらないわ」


「月影!」


 慧留とプロテアが話していると屍が慧留の後ろから現れた。


「天草屍…」

「てめぇは…久しぶりだな…プロテア」

「ええ、久しぶりね。あなたも、私の邪魔をするつもりなのね?」

「まぁ、そうなるな」

「あなたは…私に近いと思っていたのだけど…」

「…かもな…だが、お前を野放しには出来ねぇな」

「成程…あなたたちは私と組む気は無いと」


 プロテアは溜め息を吐いた。慧留も屍も彼女の意図が全く分からなかった。

 戦いに来た…という訳でも無さそうだ。もしそうであれば彼女の性格上、とっくに仕掛けてきている筈だ。


「今度会う時は、敵同士ね。いいわ、あなたたちも。思い知る事になるわ。あなたたちのその選択が…間違いである事を」

「どういう…」

「話は終わりよ。また、会いましょう」


 プロテアは人混みの中に消えていった。


「何であいつ…こんな所に…」

「分からない…けど、今回の件…何か裏がある気がしてきた。……根拠はないけど…」

「そうだな…復讐だけが目的じゃないみたいだな…」


 二人はプロテアから何か違和感のようなものを感じた。彼らには別の目的があるのではないか、そんな気がしたのだ。


「ところで、時神は見つかったか?」

「だめ、見つからない」

「今日はもう遅い。捜索は明日にしよう」

「うん…」


 屍がそう言うと、慧留は返事をして自宅に帰っていった。






「黒宮、ご苦労だった」

「いえいえ」


 厳陣と黒宮は四神天城(シシンテンジョウ)の中で話をしていた。

 黒宮はイシュガルドの一人を拘束し、今は地下牢に閉じ込めている。いずれ、情報を聞き出すつもりだ。


「残念ながら時神君たちは見つかりませんでしたが…まぁ、今はイシュガルドを捕らえるのが先ですね」

「ああ、そうだな」


 蒼たちは未だに見つかっていない。しかし、彼らを探すのに時間を費やしている余裕は今はない。

 彼らに関してはこの件が片付いた後、ゆっくりと対処する方が良いだろう。


「黒宮、ヘレトーアの動向は掴んだか?」

「ええ…大体は…行動を起こすのであれば、今でしょうね」


 厳陣と黒宮はこの先に起こるであろう戦いに目を向けていた。そして、蒼たちは確実に首を突っ込む。


「事によっては時神君たちを力づくで黙らせなければならないね。今回ばかりは彼らの手に負える事ではない」

「今度は…私も全力で彼らを止めます」

「頼んだよ、黒宮。………なぁ黒宮、私は…ズルくなっただろうか?」

「ええ、なりましたね。ですが、上に登るためには変わる事も必然。私は地獄に落ちてもあなたに付いていきますよ」

「ははは、吸血鬼に地獄に堕ちても付いてくる…なんて言われたら…私以外なら御免こうむるだろうね」

「ふふふ…そうかもしれませんね。……どうします?私たちだけではイシュガルドと時神君たち…両方対処するのは厳しいですよ?」

「ああ、時神君たちについては手は打ってある。そろそろ来る筈だ」


 扉から音が聞こえた。やって来たのは常森澪と董河湊であった。


「叔父様…」

「要件は聞いているね。時神蒼、苗木一夜、霧宮美浪の三名を拘束しろ」

「二人を捕らえろと?」

「これは命令だ、従え」

「納得出来かねますね。素直に了承するとでも?」


 厳陣が澪と湊に命令を下すが二人は従う様子が無かった。まぁ、当然かもしれないが。

 いきなり、理由も告げず仲間を拘束しろなどと言われればそりゃ命令にも従いかねるだろう。


「今回の件は我々で決着を着けねばならんのだ。彼等ではイシュガルドに…いや、ヘレトーアには勝てん」

「どういう…」


 湊がそう言うと厳陣は更に話を続けた。その内容は澪や湊にとって衝撃的な事実であった。


「分かったか…速く彼らを拘束する。そして、事の一件が収まるまで彼らを幽閉する」

「………分かりました」


 澪と湊は部屋から出ていった。








「さて、ここからどうしようか?」


 一夜がそう呟いた。そこには蒼と美浪もいた。彼らは厳陣たちから逃亡し、今は厳陣たちから遠く離れている秋葉原に来ていた。

 この町は電化製品やサブカルチャーが発達しており、所謂オタク向けの町である。

 一夜や美浪はこの手の知識に詳しく、好きなためよくこの町に頻繁に訪れるのだが、あまり興味が無い蒼はこの町を訪れるのは初めてである。

 因みに今は夜であり、彼らはネットカフェで泊まっていた。


「つっても今日はここで寝泊まりするしか無いんだろ?にしても何だ?この町…辺りを歩くとメイドはいるしコスプレしてる奴らはいるし…ここだけ別世界みたいだぞ…」

「あー、そっか、蒼はアキバ初めてでしたね。大丈夫です。最初は戸惑うかもしれません。ですが!オタクに目覚めたその時!この町を愛する事が出来るのです!」

「いや、美浪…俺、オタクになる気無いから」

「何の会話をしてるんだ君たちは…」


 蒼と美浪の会話を一夜は呆れつつ聞いていた。どうやら、蒼は自分のいる町とアキバでの町の雰囲気のあまりの違いにかなり戸惑っているようであった。

 まぁ、日本では町中でメイドが当たり前の様に歩いているのはアキバぐらいであろう。

 蒼はオタク文化にあまり詳しくないため、ぶっちゃけオタクは若干変だと思うことがある。

 まぁ、一夜や美浪もオタクな為、別に悪い奴等では無い事は分かってはいるのだがやはり若干抵抗はある。


「明日はこのアキバを拠点にイシュガルドについての情報を集めよう」

「そうだな、だがここもいずれは特定されるぞ」

「そうですね、遅くても三日後にはこのアキバから移動しないと不味いかもしれないですね」

「彼等もイシュガルドの件がある。僕たちにそこまで戦力を削く余裕が無いだろう。とはいえ、確かに美浪君の言う通り、三日以内にはここから移動するのが無難だね。後、集団行動も避けた方がいいだろう。単独の方が隠れやすいからね」

「だな。なら、予め合流する時間と場所を決めておいてから明日は各自探索した方が良さそうだな」

「そういう事だね」


 話は大体まとまった。明日は各自で情報収集をするといった感じだ。

 一通り話を終えると蒼は一つの疑問を投げ掛けた。


「で?何で潜伏先にここを選んだ?もっと隠れれそうな場所もあっただろう?」

「いや、ここが最適だよ。ここは地下都市だ。以外と情報収集もしやすい。しかも、渋谷とかに比べて一部の人にしか有名ではないからね。隠れるにはいいというわけだ。…決して趣味が絡んでるとか最近あまりアキバに行けてないからとかそんなんじゃないからね」

「いや、後半のが主だよね!?」

「蒼、この期に及んでそんなわけ無いですよ。ああ、私も別にアニ○イト行こうとかゲー○ーズ行こうとか考えて無いので大丈夫です」

「もう駄目だこいつら…速く何とかしないと…」


 この期に及んで自分の趣味に忠実な彼等に蒼は軽く恐怖していた。…オタクというのは実に恐ろしいものだと蒼は思った。

 まぁ、皆が皆こんなんじゃないのだろうが蒼の身近な人間が残念ながらどんな時でも趣味に忠実な様だ。

 ある意味、ここまで趣味に没頭出来るのは凄い事なのかもしれないが。


「そういう蒼も結構オタク要素はあると思いますよ?」

「はぁ!?俺にそんなもん…」

「いやいや、神聖ローマの第四王子っていう設定とか氷と時間を操る能力とか神聖ローマにいた頃は『氷騎士(ひょうきし)』なんて二つ名で呼ばれていたそうじゃないか?ほら!オタク要素の一つである中二要素てんこ盛りじゃないか!」

「いや!それ全部俺が考えた訳じゃないから!そんなんで中二病呼ばわりされたら世の中の奴等皆中二病じゃねーか!」

「でも、蒼って最初の頃は皆と関わるのを拒んでたり自分の力を制御しきれてない時がありましたよね?ほら、中二要素ありました」

「今は制御出来てるでしょ!?それに…昔の事は…俺もここに来たばかりで皆を巻き込みたく無くてだな」

「自身の強すぎる力によって回りを巻き込みたくない…か…うん、中二だね」

「結局何言っても中二にこじつけられるんですけど!?いい加減にしろてめぇら!」

「それに、今は制御出来ていても後から更なる力に目覚めたとかでまた制御効かなくなる奴ですよ。パワーインフレは避けられませんからね」

「お前らはどんだけ俺を中二にしたいんだよ…」


 蒼はこの先何を言っても二人によって中二病にさせられる未来しか見えないので一端話を打ち切った。蒼は若干二人に呆れていた。


「取り合えず、明日に備えよう」


 一夜がそう言うと話は終わった。









「………どうも居心地が悪いな…」


 蒼はそう呟いた。一夜と美浪とは別行動をとっている。蒼はアキバの町がどうも落ち着かないでいた。

 普段来ない場所…というのもあるが辺りにいる者たちはコスプレをしていたりメイド服を着ていたり、でかいリュックサックの中からアニメのポスターが出ているのが見えたりといかにもオタクの町と言った感じがしたからだ。

 一夜や美浪は見た目は然程オタクっぽくない為、あまり気にしなかったが彼等はまだ可愛い方なんだなと蒼は思い知らされた。

 蒼は結構見た目などは気にするタイプなので身近にこんな人達がいたら全力で避けていただろう。


「メイドカフェでーす!お願いしまーす!」


 蒼にチラシを渡して来た者がいた。蒼は反射的に受け取ってしまった。


「あっ!?受け取っちまった…」


 蒼は少し考え事をしていた為、何となくチラシを取ってしまったのだ。

 どこか適当なゴミ箱にぶちこんでスルーする、という手もあるのだが、蒼は少しメイドカフェというものに興味があった。

 別にメイドに興味があるという訳では無く、アキバはメイドカフェが有名という話を聞いた事がある為、一度行くのもアリだと思ったのだ。

 調査も行き詰まっていたし、休憩がてら寄り道するのも悪くはないだろう。


「行ってみるか…」


 幸い、メイドカフェはここから歩いて五分程の場所にあったし分かりやすい場所にあった為、然程行くのに苦労はしなかった。

 蒼は扉の前にたった。外装は普通のカフェと変わらない感じであった。

 蒼は扉を開けるするとー


「いらっしゃいませ!ご主人様!」

「!?」


 蒼はいきなりご主人様と言われて驚いてしまった。そこにいたのはメイド姿の女性であった。

 銀髪赤目が特徴的な可憐な少女であった……というより……蒼は目の前にいる少女に見覚えがあった。


「ティラ!?」

「フローフル!?え!?ちょっ…何でここに!?!?」

「こっちの台詞だ!お前……何でメイドやってるんだよ!?しかも、ご、ご、ご主人様って…お前…もしかしてそういう趣味が…」

「違う違う違う!違うわよ!アルバイトよ!ここ結構儲かるから!それだけだから!というか、あなたこそメイドカフェに来たって事はそういうのに興味があるんでしょ!?」

「あー、俺はチラシ貰ったから来ただけだ。アキバのメイドカフェって有名らしいから、ちょっと来てみただけだ。お前と一緒にするな」

「私だって別に……う~~…」


 蒼とティラの会話が周囲の客とメイドに注目されている事にティラは気が付いたのかそのまま押し黙った。


「まぁ、何だ…似合ってるぞ…」

「ありがと……じゃなくて!………コホン………それでは席にご案内しますね!ご主人様!」

「あ、ああ」


 ティラが蒼を席まで誘導した。二人とも顔が赤かった。まぁ、こんな所で知り合いと出会したら気まずいのは当然かもしれないが。


「なあ、そのご主人様って何とかなんねぇのか!?」

「ならないわね。ここに来た以上、それは諦めなさい」


 ティラは覚めた感じでそう言った。蒼を席まで誘導した頃にはティラは冷静さを取り戻していた。

 蒼は席に座り、メニューを見た。そして、蒼はそのメニューに愕然とする事となる。


「は!?ただのオムライス一つで三千円!?高すぎだろ!?」

「ただのオムライスでは無いわ。メイドの愛情が籠ったオムライスよ」

「いやいやいやいや!ただのオムライスだよね!?何!?メイドの愛情って!」

「メイドカフェに来る人の大半の目的は品では無くて可愛いメイドの人とお喋りしたいからなのよ。あ、言っておくけれど、最低一品は注文しないと駄目よ」

「そんな事の為にわざわざメイドカフェに行くのかよ…」

「オタク男子の多くは女に免疫ないからこういう癒しの場が必要なのよ。そう、ここは童貞という名のオタクにとっての楽園なのよ」

「いや、お前さらっと酷い事言ってるぞ」

「女に免疫無い男なんて可愛い女の子にちょっと優しくされただけでコロッと墜ちるものよ」

「もうそれ、男に対しての暴言だよね!?酷くないですかね!?てか、メイドカフェでそんな発言しちゃダメでしょ!?」

「大丈夫よ。他の客なんて可愛いメイドにデレッデレで誰も私たちの会話なんて聞いてないわ」


 蒼はメイド業界の闇を垣間見た気がした。こんなドロッドロな世界、蒼は知りたくなかった。

 確かに周囲の男性客たちはメイドにデレデレであった。蒼は何となくいたたまれない気持ちになった。

 というか、たった一品三千円は高すぎである。しかもこれでまだ安い方だ。ヤバイのだと一品一万円とかもある。

 成る程、儲かるわけだ。というか、メイドカフェに迷い無く金を注ぎ込めるとは大した強者だと蒼は思った。

 別に女の子と話すだけならそれほど難しい事でもないにも関わらず、わざわざメイドカフェに行く理由が蒼には分からなかった。


「てか、別に話せるだけで、恋人に出来る訳じゃないんだろ?金の無駄じゃね?」

「そんな事無いわ。メイドは皆のご主人様なの。皆のアイドルなの。癒しの場なのよ。こういう癒しの場は時として必要なものよ」

「そういうもんかね?」

「そういうものよ。メイド側もメイド側で男たちにチヤホヤされるのが好きな子が多いし」

「そうなのか?」

「ある程度好きじゃないと続かないわよ。こんな商売。私はこのメイド服可愛いから何となくやってる感じだけどね…まぁ、やっぱりチヤホヤされる事に悪い気分はしないし」

「うん、分からん」

「でしょうね。あなたこういうの分からなそうだし」


 ティラがそう言うと蒼は釈然としないと言いたげな表情をしていた。


「ま、皆お姫様でいたいって事よ。で?注文決まったかしら?」

「ああ、じゃあ…オムライスで…」

「ドリンクはどうするの?」

「え?ドリンクも?」

「当たり前よ」

「しかもドリンクも高いし…たったの一杯…しかも普通のジュースで千円近くするんだが?」

「速く選びなさい」

「じゃあ…オレンジジュースで」

「畏まりました!ご主人様!」


 蒼が注文を終えるとティラはニッコリと笑いながら返した。さっきまでの素っ気なさが嘘のようだ。切り替えが凄い。

 ティラはそのまま去っていった。まぁ、すぐに品を持ってくるだろう。


「……メイドカフェにはもう二度と行かねぇ」


 蒼はそう決心した。

 しばらくするとティラが蒼が注文した品を持ってきた。やはり、見た感じは普通のオムライスとオレンジジュースだ。


「お待たせしましたー!メイド特製オムライスとメイド特製オレンジジュースでーす!」

「何がメイド特製だ…メイド特製つけりゃ許されるとでも思うなよ…」


 蒼は吐き捨てるようにそう言った。実際、この二品だけで四千円以上いってるのだ。しかも普通の品で、文句を言いたいぐらいだ。


「更に美味しくなるようにおまじないをしまーす!」

「ああ、そういうのいいから」

「美味しくな~れ!萌え萌えキュン☆」

「なぁ、俺、もう帰っていいか、いや帰らせてくれマジで!」


 ティラが手をハートにながら言った言葉が蒼の心をへし折った。

 蒼はドン引きしたのは勿論、ティラの事を憐れにすら思ったのだった。


「そんな人を憐れる様な目で見ないでくれるかしら?」

「お前、職人だなぁ。たまげたなぁ…」

「…速く食べなさい。覚めるわよ」


 ティラがそう言うと蒼は食べ始めた。やはり、普通のオムライスだし、普通のオレンジジュースだった。

 蒼はここにいる人間たちがメイドに飼い慣らされているペットに見えた。

 ここにオタクたちはメイドたちの奴隷なんだなと蒼は思った。メイドカフェに通うのは酷だなと蒼は痛感した。


「おかしいな?俺の知ってるメイドは主人に従う者の筈なのに俺の目にはメイドが主人を飼い慣らしてる様に見えるぞ?」

「それはあなたの心が荒んでいる証拠ね。でも大丈夫。このメイドカフェに…いえ、メイドたちに全てを委ねればあなたは気持ち良くなれるわ」

「何かカルト宗教みたいな発言するの止めてくれますかね!?」

「もしあなたが望むのなら鎖、あるけど?メイドを物理的に飼い慣らせるわ。…一時的に、だけど」

「どんな店だ!?ここは!?」

「冗談よ。からかいがいがあるわね、あなたは」


 ティラは表情こそあまり変化していないが、愉快そうであった。

 どうも、ティラは感情の変化が乏しいだけで感情自体はむしろ喜怒哀楽が激しい方なのかもしれない。

 まぁ、蒼にとっては何を考えているか表情からまったく読み取れないので不気味ではあったが。


「つーか、男性客だけじゃなくて女性客もいるんだな」

「少数だけど、女性もいるわよ。人は皆誰しも癒しが必要という訳よ」

「いや、どういう訳だよ?」

「それすらも分からないなんて…あなた、相当心をこじらせてるわね」

「いや、心こじらせてるって何!?意味が分かんないんですけど!?」


 ここにお金を注ぎ込む女性客もいるという事実に蒼は驚きを隠せなかった。

 オタクの気持ちがイマイチ蒼には分からなかった。蒼はメイドカフェの良さがイマイチ分からなかった。


「そう言えば、お前、表情変える事が出来なくなったって言ってたけど普通に笑顔作れるじゃねーかよ?」

「ああ、これは私の術で顔の筋肉を動かしてるのよ。そうでもしないと表情変えれないしね」

「そうまでして何でメイドなんかやってんだよ?」

「前にも言ったでしょ?そうやってズケズケと他人の秘密をしろうとするものでは無いわ。それに言ったでしょ?メイド服が好きだからって」

「それだけでも無いだろ?絶対…」

「この話は終わりよ」


 蒼はまさかこんな所でティラと会えるとは思わなかった。ティラには聞きたい事があるのだ。

 ここで遭遇出来たのは運がいいと言えるだろう。


「この後、会えるか?」

「…どうせ、会えないと言ってもあなたは追いかけるんでしょう?」


 どうやら、ティラは蒼の考えている事がある程度分かっているようだ。


「…夜、また店の前に来る」

「……分かったわ」


 蒼はそのまま店から去って行った。








「どう?見つかった?」

「駄目だね…どうやら新宿にはいないみたい…」


 澪と湊は厳陣の命令により、蒼と一夜、美浪を捜索していた。あれから一日経っていた。今はもう夜中だ。

 蒼たちが住んでいる町は新宿内に当たる。新宿内は一通り湊の霊呪法で探したが蒼たちの霊力が探知出来なかった。


「月影さんや天草さんに聞けば何かわかるかも…」

「彼女たちは多分、口を割らない。仮に知ってても…それにあっちにはなえきんがいる。わざわざ情報を漏らす要素を残しているとは思えないよ」


 一夜は抜かりのない性格をしている。わざわざ自分の首を絞めるような事はしない。


「いずれにせよ、捜索は明日だね。新宿にはいないと分かっただけで今日は良しとしよう」

「分かりました…音峰さんに協力は出来ませんかね?」

「ハルちゃんは巻き込めないよ。これは私の問題なんだから。それにハルちゃんは多分、協力してくれない。それだけは分かるんだ…」


 澪は遥と付き合いの長い親友なのだ。だからこそ、彼女の性格もよく分かっている。

 恐らく、遥は蒼たちの捜索には協力しない。仲間を売る様な事は絶対にしない。その相手が例え親友の澪であっても。


「常森さんが言うなら、そうなんでしょうね。分かりました!また、明日探しましょう」


 そう言って澪と湊は捜査を打ち切った。







 蒼はメイドカフェにいるティラを店の前で待っていた。暫くするとゴスロリ衣装の少女がやって来た。ティラだ。


「本当に素直に来るなんてな」

「あなたの場合、逃げても追いかけて来そうだったからね」

「ここじゃ人目につく。場所を変えるぞ」

「分かったわ」


 蒼とティラは場所を移動した。そして、アキバの数ある近くの裏路地に蒼はティラを連れ込んだ。

 ここなら人目につかない。


「慧留と四宮さんを襲撃したのは…お前か?」


 蒼はティラを睨み付けてそう問いただした。すると、ティラは薄ら笑いを浮かべて答えた。


「ええ、四宮舞と月影慧留を襲撃したのは…私よ」

「お前が前に話したイシュガルドの内乱…要は復讐か?」

「ええ、四宮舞、黒宮大志、そして、常森厳陣、彼等を殺す。そうする事で私の復讐は終わるわ。次は世界に復讐する。そして、全ての骸を引っ提げて、世界が私一人になるまで私は復讐を止めないわ」

「それに…何の意味があるんだよ?」

「意味なんかないわ。理由がないと行動出来ないなんて人間が傲慢だという証明よ」

「復讐は、何も産み出さない」

「だから、何?私はあの戦争で表情を失った。弟を失った、母を父を、イシュガルドの人達も皆死んだわ!なのにそれを忘れてノウノウと生きろと言うの!?あなた、言ったわよね?大事な人が誰かに殺された時、忘れる事は出来ないって!あなたは私と同じ答えだと感じたから私はあなたにイシュガルドの事を、私の過去を話した。………けど、その様子じゃ、違ったみたいね」

「ああ、そうみたいだな。俺は…死んだ奴等の事を忘れる気はねぇ、けど、復讐をしようとも思わねぇ。俺は…怒りに任せた復讐は必ずしっぺ返しが帰ってくる事を知ってる。だから、復讐はしねぇ。そうする事で大事なものをまた失う事になっちまう」

「私には!何も残ってない!」

「仲間が…今のお前にはいるだろ!?」

「それでも!私はー!」

「今なら間に合う、頼む!剣を…怒りの刃を…収めてくれ!」

「それは…無理よ。私は…三年前に引き金を引いたわ。閻魔弦地…あの男を暗殺したのは私よ。もう、止まらないわ」

「な!?」


 蒼は絶句した。まさか、閻魔弦地を殺したのがティラだったとは…


「私は全てを終わらせる。この復讐はその序章に過ぎないわ」

「ティラ…」


 蒼はティラにかつての自分と重ねていたのかもしれない。蒼もかつて、ティラと似たような出来事があった。

 しかし、蒼は何も守れなかった。救えなかった。蒼は一度、全てを失った。

 だが、今は…今は違う。蒼には慧留が、屍が、一夜が、美浪が、皆がいる。

 蒼は再び大事なものを手にした。蒼は再びそれを失いたくない。ティラにも同じ思いをして欲しくない。


「私を殺す?それとも力づくで止める?」

「俺は…」

「まぁ、話は終わりよ。今度会う時は敵同士かもね。時神蒼…」

「!? お前…俺の名前を…」

「あなたも…私の本当の名前を知ってるんでしょ?もっとも、私があなたの事を知ったのはつい最近の事だけど…もっとも、フローフルも、本名みたいだけど」

「なら、何で俺に会った瞬間から逃げる素振りすら見せなかったんだよ?」

「さぁね、私にも…分からないわ」


 蒼はティラに何と言えばいいのか、分からなかった。ティラは既に引き返せない所まで来ていたのだ。

 今の蒼に彼女を止める事が出来るのか?

 蒼には迷いが生じていた。ティラを止めなければならない。その気持ちは確かだ。

 しかし、ティラはの瞳には強い覚悟を感じた。今の蒼にあのティラを止める事が出来ない気がしたのだ。


「話は終わりよ。あなたにこの場所がバレた以上、ここには居られないわね。残念ね、結構…気に入ってたんだけど」

「待て!まだ話は…」

「さようなら、フローフル」


 ティラは闇夜に消えていった。蒼は走ってティラを捕まえようとしたが、ティラは……プロテアは姿を消してしまった。





To be continued

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