【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅥーThe ice revellionー
「これを持って、イシュガルド殲滅を終了する」
イシュガルド殲滅戦は終わった。期間としてはたったの一週間程で終結した。
しかし、この戦争は多くの爪痕を残す事となった。この戦争で心に傷を負い、軍隊を止める者が多くいた。
更に、イシュガルドを殲滅した事により、ヘレトーアの人口は多く減らす事となった。
「この戦いを勝ち抜けたのは君たちの協力のお陰だ、感謝する」
今、壇上で多くの軍人を見下ろしながら話しているのはヘレトーアセクラム教神官アラルガンドである。横にはセイント教神官ルバートもいた。
更に、その横に十二支連合帝国の総統閻魔弦地、USW光明庁長官カーシス、神聖ローマセラフィム騎士団団長フランが横にいた。
彼等はただ、軍人に指示を与えただけで後は終始、高みの見物をしている状態であった。
彼等はただ、見下ろしているだけだ。彼等にとって兵隊は使い捨ての駒であり、消耗品でしかない。
彼等は口では感謝の言葉を口にしているが、それは偽りだ。厳陣、黒宮、舞は少なくともそう思っている。
「四宮君、君に十二支連合帝国に帰還するよう、命令が出た」
厳陣がそう言うと舞は「分かりました」と静かに返事をした。そして、全てが済み、厳陣、黒宮、舞は十二支連合帝国に帰還した。
そしてイシュガルドの内乱から暫くして、厳陣たちが水面下で暗躍し始めた。
舞は今回の件で軍人を止める事に決めた。ジャイアを殺した瞬間からそうすると決めていた。
それを聞いた厳陣はわざわざ停めるような事はせず、舞に教師をやる事を勧めた。
舞は最初は渋い顔をしていたが、暫くして、教師をする事を決め、黒宮と三人で協力し、一宮高校を作り出した。
そして、一宮高校と厳陣と黒宮とで繋がる事で閻魔弦地を引き摺り下ろす機会を伺っていた。
そして、数十年経ち、時神蒼が十二支連合帝国へとやって来て、慧留と出会い、屍たち「アザミの花」との死闘を繰り広げ、そして、四大帝国会議へと繋がる…
舞はミルフィーユと遭遇したあの夜の事を思い出していた。
「手を貸す?どういう事?」
「そのままの意味よ、私もね、何人か子供を見逃してるのよ、だからついでにね」
「そんな言葉を信じろと?」
「あなたには選択肢がないわ。そのまま捕まる?」
確かに舞はミルフィーユに協力するしかない。このままではどの道、終わりだ。
「分かったわ、どこに行けばいいの?」
「付いてきて」
ミルフィーユはそう言って、走り出した。
「何で手を貸すの?あなた、イシュガルドの子供を憐れみでもしたの?戦闘狂のあなたが?」
「少し違うわね。憐れに思ったのは本当だけど…それよりも、これから強くなるかもしれない子供を殺すのは勿体無いと思ったんだよ」
「…結局…戦いの為…って事ね」
「彼等は必ず私たちを殺しに来る…復讐心を糧として…その日を楽しみにしてるんだ~」
ミルフィーユは戦闘狂として知られている。強くなって自分を殺しに来させる為にあえて相手を生かす。実にミルフィーユらしい理由である。
しかし、舞は理由はどうあれ、ミルフィーユの助けを感謝した。
「まぁ、感謝するわ」
「お礼?別に助けた覚えは無いけど…ま!いっか!困った時はお互い様だしね」
どうやら、ミルフィーユは戦闘狂という事を除けば存外、まともな人物であるようだ。
舞は自身が思っていたミルフィーユとかなりイメージが違ったので驚いていた。
「着いたよ~」
そこは巨大な空洞があった。間違いなく、洞窟だ。
「ここは…」
イシュガルドの隠れ家の一つだよ。精霊の力で【不可視能力】が常に発動してて見つかる事はまずない。
「こんな場所、どうやって見つけたの?」
「それは秘密だね~」
どうやら、神聖ローマにもこの内乱に参加した事に何らかの理由があるようだあった。
まあ、それを詮索するのは今は止めておいた方がいいと舞は考えていた。
詮索してミルフィーユと対立するわけにもいかない。恐らく、舞が戦ったところでミルフィーユには勝てない。
仮に勝てたとしても軍に見つかれば終わりだ。これらの事を踏まえても敵対するのは好ましくない。
「これは…」
舞は洞窟の中に入った。すると、そこには子供たちが五人いた。皆、意識はない。
「心配しなくても死んでないわ。皆、眠ってもらってるだけ…私たちを見たら間違いなく殺しにかかるからね~。それじゃあ、わざわざ生かした意味が無くなる。さ、その子をここに置いてさっさとトンズラするわよ」
ミルフィーユがそう言うと舞はプロテアを子供たちのいる所まで運んだ。
「後は彼女たちが生き残れるか…それ次第ね」
ミルフィーユがそう呟いた。そして、舞とミルフィーユはここから去っていった。
「はははははははは!!これで!これで私も長い時を生きられるぞ!」
閻魔は嗤いながらそう言った。イシュガルドは普通の人間より長い寿命を持っている。
イシュガルドが普通の人間より寿命が長いのは身体に精霊の加護が生まれつき備わっているからだ。
その精霊の加護はイシュガルドの血が関係している。その血を取り込めば、閻魔は普通の人間より長い時を生きられる。
閻魔がイシュガルド殲滅戦に参加したのはそれが理由である。
「上手くぅ、いったようですねぇ」
「おめでとうございます」
現れたのは阿修羅餓鬼と安部徹であった。二人とも彼の腹心である。
「これで、魔族殲滅に大きく近付いた」
「黒宮大志…彼は吸血鬼でありながら我々人間の軍に紛れていますが…」
「そうだな、奴はいずれ殺す。だが、今は精々有効活用するよ」
閻魔はそう言った。そして、彼等の野望が本格的に始まるのであった。
しかし、閻魔の目的が達成される事は無かった。閻魔たちが一宮高校を経由して水面下で反乱を始め、四大帝国会議で追い討ちをかけられた。
閻魔と阿修羅と阿部は牢獄で終身刑を告げられた。そして、閻魔はイシュガルドの内乱から47年後、プロテアにより、惨殺された。
時神蒼は四神天城に向かっていた。ティラからイシュガルドの内乱の全貌を聞いたからだ。恐らく、ティラはその戦争の被害者だ。
蒼は厳陣と黒宮に詳しい話を聞きたかった。
城に辿り着き、蒼は厳陣のいる執務室に行った。そして、扉を開ける。
「やぁ、時神君。久しぶりだね」
「ああ、そうですね。黒宮さんも一緒ですか、丁度いい」
「何かあったのですか?」
執務室には厳陣だけでなく、黒宮もいた。詳しい話を聞くには丁度良かった。
「イシュガルドの内乱について詳しく聞きたい」
「…予想はしていたが、やはり…か」
「やっぱり?どういう事だ?」
「四宮さんと月影さんがイシュガルドの生き残りの襲撃を受けました。恐らく、次も来るでしょう。狙いは四宮さんと私、そして厳陣の命…でしょうね」
「復讐…てことか?」
「そうだろうね」
「アンタらは…どうするんだ?」
「勿論、殺しますよ。厳陣に仇なす者は消し去るのみです」
「元々、アンタらのせいだろ!なのに…」
「では、みすみす殺されろと?あなたはどうしろと言うのですか?」
「俺が止める。必ず」
「出来るのですか?」
「やってやる」
「済まないが、君を行かせる訳にはいかない」
厳陣が立ち上がり、いきなりそんな事を言い出した。蒼は驚いた。
「何でだよ!?」
「これは我々の問題だ。私たちが息の根を止めなければならん」
「納得行くかよ!?」
「命令だ!従え…」
厳陣が手を上げると蒼の回りに魔道警察たちが包囲した。
「な!?」
「これは警告だ。月影慧留も同様に手を出させぬ。これは我々でけじめをつける」
「………」
蒼はどうにかして逃げようとしたが、このままでは捕まってしまう。
「君は暫くの間、拘束させて貰う」
厳陣が蒼に近づく。その瞬間ー
「そうはさせないよ」
窓をぶち破り、やって来たのは一夜と美浪であった。どうやら二人はここを嗅ぎ付けたようだ。
「霊呪法第二十六番【雷光閃光】!」
一夜とその周辺が光り出した。目眩ましだ。やがて、光は消えた。しかしー
「見失ったか…」
「追いますか?」
「いいや、取り敢えず今はイシュガルド殲滅が優先だ」
厳陣と黒宮は蒼たちを無理に追いかけるより、先にイシュガルドを殲滅する事を優先した。
「助かった。ありがとな、一夜、美浪」
「いいえ、平気です」
「まったく…無茶をするね、君は」
一夜たちは四神天城から離れた公園で一休みしていた。
「まぁ、彼等の事だ。無理に追っては来ないだろうね」
「何でお前らは俺の居場所が分かったんだよ?」
「えっと…その…」
蒼が質問すると美浪が視線を反らした。明らかに挙動不審である。
「実は…君と【ティラ】の話を盗み聞きしてしまってね…ああ、悪気は無かったんだ」
「そう言う事かよ…」
「…恐らく、彼女が襲撃者と見るべきだね」
「ああ、多分…そうだな」
「これからどうします?」
「取り敢えず、今は情報が欲しい」
「そうだね…話を聞く限り、敵は一人では無さそうだし…ね…それに僕らは常森総帥たちに目を付けられてしまっている。大きく行動するのは無理だね」
「慧留たちに連絡は取れそうか?」
「駄目だね…痕跡を残す事になる。下手を打てばそこから嗅ぎつかれる可能性がある」
「じゃあ、俺たちで調べるしかねぇか…」
迂闊であった。まさか、厳陣や黒宮がこんな強行策に出るとは……いや、よくよく考えればUSWの一件でも蒼たちを妨害してきたのでこうなる可能性は考慮すべきであった。
「暫く僕達は潜伏生活を続ける事になるだろうね。僕ら三人で手分けして色々調べよう」
慧留たちと連絡を取りたかったが、そこから足取りが掴まれるかもしれなかった。
暫くは慧留たちと会えない。しかし、蒼たちは進むしかないのだ。
「さぁ、行こうか」
蒼たちは行動を開始した。
「ドラコニキル!入るぞ!」
スープレイガが執務室に入った。そこには黒髪のストレートヘアーと黒い瞳が特徴の男がいた。
彼はドゥームプロモ・ドラコニキル。『七魔王』のリーダーであり、今は光明庁長官代理も勤めている。
「珍しいな、お前からやってくるなんて」
「近くに妙な奴にあった。」
「どんな奴だ?」
「ピエロの化粧をしてたな。捕まえようとしたんだが逃がした」
「そうか…やはり…」
「何か知ってんのか?」
スープレイガがドラコニキルに質問すると後ろからドアをノックする音が聞こえた。
「入れ」
入って来たのは黒かかった赤い髪と瞳が特徴の黒人の大男と緑色の髪と瞳、色白の肌が特徴の小柄な男性と紫の長い髪とダークメタルな服を着ている男性とそして、黒かかった茶色のセミロングとワンピースが特徴の女性であった。
いずれもスープレイガには見覚えがあった。
「グリトニオン、ウルオッサ、グリーフアルト、アルビレーヌ…何でお前らまで…」
スープレイガはそう呟いた。彼等はスープレイガと同じ、『七魔王』のメンバーだ。
「よし、これで全員揃ったな」
「いやいや、ルッシュベルを忘れてるぞ」
「あいつは来ない、永遠にな」
「? どういう事だ?」
スープレイガはドラコニキルの言っている意味が分からなかった。『七魔王』は全員で七人いるのだ。
スープレイガが言ったルッシュベルとはルッシュベル・ルルルガルの事であり、『七魔王』の一人だ。
「まさか…死んだのか?」
「そうじゃない。まずは順を追って話す。単刀直入に言うと『三賢人』が全員殺された」
「「「「「!?」」」」」
ドラコニキルがそう言うと全員驚いていた。『三賢人』とはUSWの中枢的存在であり、総帥に代わってこの国を統治していた者たちの一人だ。
三年前まではカーシスと『三賢人』でUSWを統治していたのだ。
かつてはアザゼルも『三賢人』の一人であった。まぁ、今となっては完全に三人とも別の人物に変わっていて最初の『三賢人』たちは既に死亡している。
しかし、それを差し引いても彼等を殺せる者はかなりの手練れと言える。
「ルッシュベルは『三賢人』を護衛していた所で殺された…という訳では無いのか?」
グリトニオン・ニヒルがドラコニキルにそう言ったが、どうもそう言うわけでは無さそうだ。
「逆だ。ルッシュベルが…『三賢人』を殺した」
「な!?それ、どういう事!?」
珍しくウルオッサ・テディベアが声を荒げた。他の者も声には出していないが動揺を隠しきれていなかった。
「流石にルッシュベルだけでは『三賢人』を殺すのは無理だ。襲撃者はルッシュベルを含めて二人だ。そして、もう一人が白い肌と白髪が特徴で精霊術を使っていたそうだ」
「イシュガルド…か…」
グリーフアルト・ギアールが冷や汗をかきながらそう言った。
「いつ殺られたんだ?」
「約二ヵ月前にアザゼルが起こした四大神事件…その時だ。ルッシュベルだけ『闇魔殿』に待機させていた時だ。その時に殺された。更にシェパードを初めとする先代『七魔王』も全員殺された」
「たった二人で!?…嘘だろ…」
グリーフアルトは動揺を隠せなかった。ルッシュベルは『七魔王』の中で一番戦闘力が低い…というのが周囲の認識だ。
にも関わらず、味方がもう一人いたにしても『三賢人』と先代『七魔王』を全滅させるとはとても信じられなかった。
「そして、ルッシュベルはその時、ピエロの化粧をしていたようだ。どうやら奴は自由自在に変身する能力があるようだ」
スープレイガが遭遇したピエロの男、恐らく、あいつがルッシュベルだ。
しかし、姿がまったくの別人であった為、スープレイガはまったく気が付かなかった。
「こうなると…ルッシュベルという名前すら、偽りの可能性がある」
ルッシュベル、彼の目的はまったく分からない。しかし、このまま手をこまねいてるわけにはいかない。
「どうする?ドラコ?」
「取り敢えず、何人かは十二支連合帝国に行って貰う事になるね。情報が入った。イシュガルドたちが十二支連合帝国にいるようだ」
「またあの国か…」
ここ最近ずっと、十二支連合帝国を中心にゴタゴタが起こっている。
スープレイガはうんざりしたかのようにそう言った。
「今回は私とスープレイガで向かう」
「長官代理が他国に行って大丈夫かよ?」
「それは問題ない。アルビレーヌ、ウルオッサ、グリトニオン、グリーフアルト、お前たちに光明庁を任せる」
「げっ!?メンドクサー」
「分かりました」
「ちっ、しゃーねーか」
「ドラコニキル、スープレイガ、気を付けてね」
「何だよ?アルビレーヌ、気持ち悪いぞ」
「人が心配してるのにその態度はないんじゃない?あ、後、蒼たちにもよろしくね」
「遊びに行く訳じゃないんだぞ…」
スープレイガとドラコニキルはアルビレーヌの呑気さに呆れつつ感心していた。
「さて、行こうか」
ドラコニキルとスープレイガは十二支連合帝国に向かった。
黒宮は暫くの間、蒼たちの捜索を続けたが、これ以上は無意味を悟り、捜索を打ち切った。
黒宮は真夜中の道を歩いていた。人はおらず、黒宮一人だ。そう、こういう時に敵は襲い掛かって来る者だ。
「誰かいますね…出てきたらどうです?」
黒宮がそう言うと電柱から人が出てきた。銀髪と銀色の瞳が特徴のローブを着た青年である。間違いない、イシュガルドだ。
「やれやれ、イシュガルド…ですか…他にも生き残りがいたとは…」
「死んでもらうぞ、黒宮大志」
「それは、無理ですね。厳陣が死ぬまで私は死ねません」
「その心配はいらない。何故なら常森厳陣も我々が殺すからだ」
「復讐に取り付かれた哀れな人形よ…今ここで私が…」
「【隠者】」
男は姿を消した。黒宮は辺りを見渡すが姿が見えなかった。
「【二十二式精霊術】か…」
【私はデイジー。闇に隠れし者だ】
「これは面白い能力だね。さて、どうしたものか…」
黒宮が呑気そうにそう言うと、黒宮の足にいつの間にか尖った棒が突き刺さっていた。
「!?…これは…暗具…ですね…成る程…自身は隠れ、暗具ですかさず攻撃…暗殺術に長けているようですね。ひたすらに姿を隠す事に特化した能力…蛇姫君の比じゃないね。隠れる力に関しては」
そう、デイジーの【隠者】は精霊の力を使い、自身の気配、殺気、姿を完全に隠し、完全に見えなくする能力だ。
黒宮は特に狼狽する様子も無かったが、このままでは少々面倒だと感じていた。
この手の相手は長引けば長引くほど面倒になる。速く相手の居場所を把握しなければならない。
黒宮は足に刺さった棒を抜き取った。すると、傷口があっという間に塞がった。
吸血鬼は不死の身体を持つ。故に再生能力も図抜けており、この程度の傷なら一瞬で回復する。
【人の形をした化け物が…】
「言ってくれますねぇ……言っておきますがこの程度の力じゃ私を殺す事は出来ませんよ」
黒宮がそう言うと、周囲から暗具が飛び出してきた。黒宮は影を展開し、暗具を弾いた。
しかし、数が余りにも多すぎた。全ての暗具を捌ききるのは黒宮でも無理であった。
身体のあちこちに暗具が刺さった。この程度の傷は大した事はないが、これが続くのはあまりよろしくない。
吸血鬼は不死とはいえ、限界自体は存在する。血が足らなくなると動けなくなる、勿論苦痛はあるし、裏を返せば、死にたくても死ねない身体なのだ。
【不老不死とはいえ、不死身ではない。その肉体もいずれは限界が来る】
「…………」
黒宮は黙りこんだ。
彼の言っている事は紛れも無い事実である。黒宮は不老不死ではあるがだからといって、身体が不死身という訳ではない。
死ねないだけで、身体の方はガタが来れば動かなくもなる。まったく、不老不死なら身体の方も際限無く動かせればいいものを…
「面倒だ…終わらせよう…」
黒宮がそう言うと黒宮の足元から黒い影が膨張した。
【何をしようが無駄だ!】
暗具を再び飛ばしてきた。この暗具は今までの暗具とは違った。何やら刻印が書かれていた。
いや、よく見ると他の暗具にも謎の刻印が刻まれていた。
「封印術…成る程…ハナから私を殺す気は無かったというわけですか……」
【終わりだ!】
「【影領域】」
黒宮の影が四方八方に散らばり、蜘蛛の糸の様に周囲に影を張り巡らせた。
「な…何い!?」
デイジーは影に囚われていた。黒宮が周囲に張り巡らせた影によって隠れていた場所が捕捉されてしまったのだ。
デイジーの【隠者神】は隠れる力に特化した能力だ。平たく言えば、透明人間になる能力だ。しかし、実体があり、かつ暗具で攻撃しなくてはならないため、黒宮の近くにいなければならない。
黒宮はそれを理解していた。だからこそ影を広範囲に展開し、デイジーを捕らえたのだ。
「終わりは君の方だね」
デイジーは黒宮の影に捕まってしまった。もはや、この影から逃げるのは不可能だ。
「くそ…だが…俺以外にも仲間はいる…必ず…貴様らを殺しに…」
黒宮はデイジーがいい終える前にデイジーを捕らえている影を刃状に変形させ、デイジーの身体を貫いた。
「がはっ…」
「安心なさい…殺しはしませんよ…あなたには…色々聞かなければならない事があるからね」
黒宮はそう呟いた。
「デイジーがやられたか…」
セルリアがそう呟いた。デイジーがやられたのを察知した。黒宮を殺すのは失敗してしまったようだ。
「これで後、五人か…だが、我々は負けない」
セルリアはそう呟いた。ここは廃墟のビル。ここには人はいない。
潜伏するには丁度いいというわけだ。
「我々は復讐を果たす。必ずな」
月影慧留は繁華街を歩いていた。蒼を探しているのだ。慧留はあの後、家に戻ったが蒼はいなかった。
何かあったのは明白だ。それだけではない。美浪もいなくなっていた。
一夜とも連絡が取れない。もし、今日中に見つからなければ、遙と澪にも協力してもらうつもりだ。
屍も慧留とは別ルートで蒼たちを捜索している。
慧留は舞の話を思い出していた。
「イシュガルド内乱…これが私が…私たちが犯した罪じゃ」
「「………」」
舞の話を終えた後、屍も慧留も黙りこんだ。舞たちがどんな気持ちで戦争に参加したのか、戦争を経験した事がない屍や慧留では想像できよう筈もない。
彼らの今までの戦いは舞たちが経験した戦争に比べれば喧嘩の範疇だ。
「それから常森と黒宮の計らいで一宮高校を創設し、私は正式に教師になり、そして…お前たちに出会った」
「これから、先生はどうするんですか?」
「戦うしかないじゃろうな…特にプロテアとは決着をつけねばならん。奴は必ず妾を殺しに来る」
「あんたはプロテアを助けたんだろ?それなのに…」
「プロテアにとってそれが問題ではない。妾が奴の彼女を殺したのは事実じゃ」
「………」
屍だって分かっている。プロテアの家族は舞によって殺された。それが許せないのだ。
それだけではない、舞たちがイシュガルドを殲滅したのは紛れも無い事実だ。
屍も両親を国側の理不尽な理由で殺されている。プロテアの気持ちだって本当は分かっている。
だが、舞の話を聞くとやはり、何かやりきれない気持ちになっていた。
「ふっ…天草…元テロリストとは思えんほど、お主もお人好しになったものじゃの…歳月は人を変えるか?いや、時間だけでは変えられない…か…」
プロテアはかつての屍と同じだ。復讐に取り付かれた鬼だ。あのままではプロテアは壊れてしまう。屍はそう思っていた。
だから、イシュガルドの話を聞いて、屍はプロテアを止めなければならないと思ったのだ。
「プロテアは…必ず私が止めます」
「お前たちには…助けられてばかりだな…」
「そんな事は無いですよ。あなたがいたからこそ、私たちは出会った…繋がってるんですよ…時間は…出会いは…プロテアにも見せてあげましょう。私たちの繋がりを」
慧留はそう言った。そう、過去があるからこそ、今がある。プロテアは必ず止めなければならない。でなければ、プロテアは戻れなくなる。
慧留と屍はしばらくして、舞の前から出ていった。
慧留は繁華街を見回ったがどうやらここには蒼はいなさそうであった。まぁ、蒼が普段繁華街にいる事は殆どない為、当然と言えば当然かもしれない。
とはいえ、困った事になった。他に蒼がいそうな場所を既に探していた。しかし、何れの場所にも蒼はいなかった。
もう、当てが無い。今日中に蒼を見つける事はほぼ不可能であろう。
慧留はどうしようか考える。しかし、考えた所で何も出てこない。
「ここにいたのね…月影慧留」
「!?」
目の前から声が聞こえた。繁華街の為、人が多く声の主がしばらく誰か分からなかったが、目の前に銀髪赤目とゴスロリ衣装の少女がいた。間違いない、プロテアだ。
「どうして…君がここに…」
「少し…話さない?月影慧留」
To be continued




