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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第五章】イシュガルド殲滅篇
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【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅢーRevengerー

 時は慧留たちがプロテアと交戦する前の時間に遡る。


 蒼は一夜と美浪とネットゲームに興じていた。思った以上に面白い。

 蒼は一夜たちとクエストを終えた後、ソロプレイをした。一夜と美浪は別でクエストを受けていたようだ。

 蒼の今のネトゲのデフォルトネームは【コバルト】となっており、一夜は【ワンナイト】、美浪は【ウルブ】である。


 【コバルト】は今、森の中にいた。【コバルト】が受けたクエストは採取クエストであり、そこまで難しいものでも…というか、失敗しようがないクエストを受けていた。

 【コバルト】は討伐クエストより採取クエストの方にはまっており、かなりの植物やアイテムを採取していた。


 【コバルト】がここまではまるとは【ワンナイト】と【ウルブ】も予想していなかったようで、かなり驚いていた。

 しかも、はまっているのが採取というのが余計に二人の驚きに拍車をかけていた。

 【ワンナイト】と【ウルブ】はバリバリに討伐クエストをやっていた。そして、その実力はかなりのものであった。

 一方、【コバルト】はやはり、この手のゲームは苦手のようで大して戦力になっていなかった。

 しかし、【コバルト】に関してはレベル差も大きいので、滅茶苦茶ゲームが下手というわけでもない。…………二人が強すぎるのだ。


「さてと、今日はこの辺に…」


 蒼がそう言いかけた時、蒼は目にあるものが映った、湖だ。その湖は仄かに霧がかかっており、とても神秘的であり、蒼の心を奪った。

 蒼は湖に向かった。そして、間近で湖を眺めた。とても綺麗な景色で蒼は見惚れていた。

 湖を見ていると人影が見えた。全裸であるどうやら水浴びをしているようだ。


「え?」


 そんな素頓狂な声が聞こえた。そこにいたのは水浴びをしていた【ティラ】であった。

 勿論、服は来ておらず、白い素肌が露出していた。蒼は一瞬、驚きを見せたがすぐに平常心を取り戻した。


「落ち着け、俺は幼女体型には興味な…」

「!?」


 【ティラ】は鉄の魔法を使い、鉄の棒を生成し、【コバルト】を即死させた。



「いや、わざとじゃないんだ。湖が綺麗だなと思ってここまで来たらお前が水浴びをしててそんで…」

「私、言うほど幼女体型じゃないわ」

「怒るとこそこ!?」


 【コバルト】はあの後、【ティラ】に即死させられてから採取していた生命の粉塵を使って蘇生した。

 その時には【ティラ】は魔女の服装をしていた(ただし帽子は被ってない)。前から思ったが、【ティラ】の職業は魔法使いのようだ。

 しかし、このゲームにいる【ティラ】は現実とは随分、違うデザインをしていた。

 リアルの彼女は銀髪赤目をしているがここにいる彼女は緑色の髪と目をしていた。

 まぁ、ゲームだから容姿を自由に変えれるのでそこまでおかしい事でもないが。

 因みにリアルでも現実でも言える事だが、【ティラ】は決して幼女体型などではない。

 身長も平均の女子より少し高いくらいだしスレンダーな感じの少女だ。


「何でここにいたのよ…」

「ああ、採取クエストやってて…にしてもすげぇな、脱衣も水浴びも出来るなんて…自由度高過ぎ…でもさ、ゲームの中だし、自分自身って訳でもねぇんだから激昂して殺す事無かったじゃねーか」

「私が怒ったのは幼女体型って言ったからよ。大丈夫よ、身長は160センチあるし、胸もこれから大きくなるから」

「お、おう…」


 こういう時、蒼はマジで反応に困る。そもそも、他の奴とこんな話しないしなぁ。


「そう言うお前も何でこんな所にいたんだよ」

「この場所、好きなの。私が昔お気に入りだった場所と似てるから」


 【ティラ】はまるで昔を懐かしむようにそう言った。


「今はもうないのか?」

「ええ、無いわ。無くなっちゃった」


 【ティラ】は心ここにあらず、といった感じでそう答えた。【コバルト】はそんな【ティラ】を見て、無神経な質問をしてしまったなと感じた。


「悪い」

「別にいいわよ」

「なんかさ、ちょくちょく会うな、俺たち」

「そうね、腐れ縁なのかしら」


 そう、このゲーム内で二人が会うのは二回や三回では無い。ゲームをしている時間帯が同じな為かよく会うのだ。【コバルト】と出会ってからかれこれ一ヶ月以上経っていた。

 二人は会う度に少しだけ話をしたりもしていた。【ティラ】と【コバルト】はそれなりに仲良くなっていた。

 【ティラ】はゲーム内で誰かと仲良くなった事など無かった為、少しだけ嬉しく感じていた。

 【ティラ】は【コバルト】と会う事がゲームをする楽しみの一つになっていた。


「ねぇ、【コバルト】が…フローフルのリアルってどんな感じなの?」


 【ティラ】はそんな事を【コバルト】に聞いてきた。フローフルというのは【ティラ】とリアルで初めて会った時に蒼が名乗った名前である(フローフルは蒼がローマにいた頃の本名)。

 【ティラ】は蒼がどんな生活をしているのか、少しきになったのだ。


「悪くない…てとこかな。俺さ、三年前からこの国に住んでるんだけど、最初は馴染めなくてさ。けど、今はそれなりに楽しい。色々あったけど、今が楽しいよ」

「フローフルも海外から来たのね。私も三年前からこの国に住んでるのよ。奇遇ね」


 【コバルト】と【ティラ】の会話は続く。二人とも楽しく会話していた。

 そして、【コバルト】も少し、【ティラ】の事を聞いてみた。


「ティラの故郷はどんな感じなんだ」

「そうやって軽い感じで女の子のプライベート聞くのはどうかと思うわ、フローフル。マナー違反よ」

「あんた俺には色々聞いてきたよね!?」

「そうやって、相手がやってたからとか言って同じ事をしていいとは限らないわよ。なら聞くけどあなたは隣が痴漢をしたからといって、あなたは痴漢するの?出来るの?捕まってあなたの人生終わりよ」

「例が極端すぎませんかね!?何でそうなるんだよ!?」

「同じよ…私から言わせればね。加害者も傍観者もね…」

「ティラ?」


 【ティラ】は少し影がかかったような表情をしていた。そして、何かを決意したかのように【ティラ】は【コバルト】…いや、蒼に問いかけた。


「フローフル…あなたは大事な目の前で人が殺された時、あなたはどうする?全部忘れて新しい人生を生きる?それとも、例え地獄に堕ちても復讐をする?」

「何だよ?突然…」

「いいから答えて」


 蒼は何故、ティラがこんな質問をしたのか分からなかった。しかし、ここは正直に答えた方がいいだろうと蒼は思った。嘘を吐いてもバレるだろうし。


「俺は……大切な人を失って殺した奴の事や大切な人を忘れる事なんて出来ない…」


 蒼は昔の事を思い出しながらそう言った。すると、ティラはどこか満足げであった。


「そう、あなたもそうなのね。私もよ私も復讐する事を選ぶわ」


 蒼は更に続けようとしたが、ティラは蒼が自分と同じ答えだと思ったようだ。

 蒼はわざわざ、自分の話を続ける必要は無いと考え、それ以上は言わなかった。


「分かったわ…私の話…聞いてくれる?」

「ああ」


 ティラは真剣な表情で蒼に訪ねてきた。蒼は真剣な表情で返した。

 相手が真剣ならそれに応えるのが蒼の流儀だ。


「なら、話すわね」














 今から51年前まではプロテアは平穏に暮らしていた。プロテアは60年前にイシュガルドの長の娘として生まれた。

 当時から他宗教との小競り合いが絶えなかったが、この時のイシュガルドはかなり穏健であり、長もなるべく無駄な争いが無くなるよう、尽力していた。

 プロテアは特にイシュガルド教に対して関心が無かった。プロテアのこの頃の夢は素敵な人のお嫁さんになる事という、幼い女の子が誰もが持ちそうなありふれた夢であった。


 プロテアはイシュガルドの次期長を継ぐ気はまったく無かった。

 それどころか、プロテアはヘレトーアから出ようとも考えていた。

 この国は他宗教との小競り合いが絶えなかった。プロテアはそれが理由で宗教に対して嫌気が差していたのだ。


 両親はプロテアの行動に反対をしているのかというと、そうでもなく、両親もプロテアが自由に生きて欲しいと思っている為、特に反対はしていなかった。

 気持ちとしては自分の跡を継いで欲しいという気持ちは無くはないが、養子でも何でも取れば跡継ぎには問題ない。

 自由に生きる事こそイシュガルド教の教えなのだ。宗教の長などやりたい人がやればいいのだ。


「プロテアはイシュガルドの次の長になるの?」

「私はイシュガルドの長になる気はないわ。大人になったらこの国から出ていくし」

「やっぱり、面倒臭いから?」

「そうね、いざこざとかね」


 プロテアは学校の友達とそんな話をしていた。プロテアは優等生であり、クールな性格な為か、彼女に近づく者はいなかったが、彼女だけはプロテアの友達になってくれた。


「シャルルはどうなの?宗教間の小競り合い…邪魔臭くないの?」


 プロテアはシャルルに問い掛ける。彼女の名はシャルル・フラワーベール。セイント教の人間だ。


「まぁ、確かに小競り合いは面倒よね。だから、小競り合いが起こらないように頑張りたいなって思うよ」

「勇敢ね。あなたは」


 プロテアはそのまま、シャルルと別れ、そのまま、家に帰った。

 プロテアの家はごく普通の一軒家であった。家族中も良好でプロテア自身、なに不自由なく過ごしていた。

 プロテアはイシュガルド教を始めとした宗教を嫌ってはいるが、家族は嫌っていない。


「お帰り!おねーちゃん!」

「ただいま、イデス」


 プロテアはイデスの頭を撫でながら、返事を返した。イデスはプロテアの弟で年は二つ離れている。


 プロテアは自分の部屋に行った。そして、いつもやっている事をやり始めた。

 プロテアは鉄の花を作っていた。両親と弟にプレゼントをするためだ。

 プロテアは【二十二式精霊術(アルカナ)】の才覚があったようで、幼い時からこの力が使えた。

 プロテアは鉄を砕いて磨きながら鉄の花を作っていたのだ。作り初めてからもう一月程経っている。


 家族はプロテアがこの力を使える事を知っており、あまり人前では使わないように言われていた。

 どうも、【二十二式精霊術(アルカナ)】の力はイシュガルドの人間にしか使えない力のようでその力を忌み嫌う者も多いそうだ。

 だから、プロテアは人前でこの力を使う事は無かった。無駄な争いはしたくないからだ。


 プロテアは小道具を使いながらゆっくりとていねいに工程を進めていた。

 昔から物をデザインしたり、作ったりするのが好きなので、将来デザイナーになるのも悪くないなと思っていた。

 プロテアは黙々と作業に集中する。するとイデスがプロテアの部屋に入ってきた。

 プロテアは慌てて、鉄の花を隠した。この事は勿論、家族には秘密だ。いくら幼い弟といえど、バレる訳にはいかない。


「おねーちゃん、一緒に外でよー」

「しょうがないな~。少しだけよ」


 プロテアはイデスと一緒に部屋を出ていった。




 プロテアとイデスは隣街まで散歩していた。この町はレンガの建物が多く立っており、辺りは砂漠になっている。

 イデスは外に出て散歩をするのが好きなので、プロテアはよく付き合わされるのだ。

 イデスはプロテアに非常になついており、プロテアもイデスとは仲が良い。


 イシュガルドの人間は白い肌がに赤い瞳をしているという特徴がある。

 その為、一発でイシュガルドの人間であると分かる。ここはセイント教の者が多くいる町だ。

 周囲の人間の視線はどこか冷たい。これだから宗教は面倒臭いんだとプロテアは思った。


「おねーちゃん、あれ欲しい」


 イデスは指を指した。その先にあったのは、おもちゃのモデルガンであった。

 プロテアは少し考えた。お金は持ってきていない。買うだけのお金は勿論無い。


「そうだ、イデス、ちょっと来て」


 プロテアはイデスの手を取って誰もいない場所に移動した。そこで、プロテアは両手を重ねた。

 そして、その手を離すとプロテアの手元には先程と同じモデルガンが出てきた。

 細かい所は作れないが大雑把な感じのものであれば、この様に簡単に作り出せる。

 綺麗に作ろうと思ったら先程、プロテアがやっていたように、小道具を使って細かく作る必要があるが。


「ありがとう!おねーちゃん!!」

「いいよ、別に」


 プロテアは照れ臭くしながらそう言った。イデスは顔を輝かせながら嬉しそうにしていた。

 人前ではこの力を使えないので、人目のつかない場所で力を使った。


「今の、珍しい力だな?何もんだ?てめぇは?」

「!?」


 プロテアは後ろを振り返った。すると、柄の悪そうな男たちが三人程いた。

 どうやら、プロテアの力を見られてしまったようだ。


「赤い瞳に白い肌…こいつ、イシュガルドですよ?」

「イシュガルドか…確か、イシュガルドの人間は特殊な力を使えるという…売れば金になるかもな…」


 プロテアはイデスを庇うようにしながら、逃げようとした。迂闊であった。まさかこんな所に人がいるとは。


「嬢ちゃん、抵抗はしねぇ方が実のためだぜ?」


 そんな三下っぽい台詞を口にしながら、ゴロツキたちはプロテアに近付いてきた。

 プロテアはイデスを背中におぶって、ダッシュで逃げて行った。


「待て!」


 ゴロツキたちはプロテアを追いかけた。やはり、おぶりながら逃げるのには無理があるか、ゴロツキたちの方が足が速い。

 プロテアは動きを止め、鉄の階段を作り出した。予備動作をせずに術を発動する事も可能である。

 プロテアは階段を作ってそれを伝って町の屋根にまで辿り着いたと同時に?鉄の階段を消し、鉄の階段を伝って渡っていたゴロツキたちは地上に自然落下した。


「「「うあああああああああ!!!」」」


 ゴロツキたちは落下して頭をぶつけ、気絶した。どうやら命に別状はなさそうであった。


「ふぅ…」

「おねーちゃん…」


 プロテアは一息付き、屋根の上から飛び降りた。その後、おぶっていたイデスを下ろした。


「帰ろっか」

「…うん」


 プロテアとイデスはそのまま家に帰って行った。






「何を言っている!?正気か!」

「ああ、正気だ。このまま何もしない」

「仲間が一人怪我をさせられたんだぞ!?それでいいのか!」


 プロテアとイデスが戻ってきた時だ。集会場で何やら声が聞こえた。どうやらまた揉め事のようだ。


「イデスは家に戻ってなさい」

「うん、ありがとう。おねーちゃん……ねぇ、さっき襲われたのって僕のせいなの?」


 イデスは申し訳なさそうにしてプロテアを見ていた。そもそも、イデスがモデルガンを欲しがらなければあんな事にはならなかったのではと考えていたようだ。

 プロテアはイデスの考えを察したのか、ポンと頭に手を置いた。


「あなたのせいじゃないわ。速く帰りなさい、お母さんも心配してるでしょうしね」

「うん、ごめんなさい。おねーちゃん」

「謝らなくていいわ、速く帰りなさい」


 イデスはそのまま家に帰って行った。プロテアは集会場に向かった。

 プロテアは集会場の中に入ってきた。他の者たちが驚いた表情をしていた。どうやら、今は会議中のようであった。

 イシュガルド教は月に一度会議があるのだが、今回はその会議がある日ではない。

 どうやら、臨時で拓かれた会議のようだ。


「プロテア!何故、お前がここに…」

「そりゃ、あんなに大声で揉めてたら気にもなるわ。何があったの?」

「どうもこうもねぇよ!セイント教の奴らがトニーをリンチにしてやがったんだよ!」


 トニーとはイシュガルドの子供であり、プロテアも何度か会った事がある。

 話によると町に買い物に行っていた時にセイント教徒たちと遭遇し、暴行を受けたようだ。

 このような事例は何度かあり、その度に揉めていた。しかし、イシュガルド教の長である、ジャイア・イシュガルドは事を大きくしないよう、静閑していたのだ。

 しかし、他の者たちがかなり業を煮やしていた。不満は募るばかりだ。


「また…起きたのね。ねぇ、父さん。何で何もしないの?このままじゃ…あいつらの好き勝手にやられるだけよ」

「分かってる、だが、無闇に突っ込んだ所で返り討ちにされるだけだ。ここは耐えるしかないんだ」

「耐えてるだけじゃこっちが持たないわよ!話し合いとか争いだけじゃなくてもっと出来る事があるでしょ!?」

「それが出来ないからこうなっているのだろ!子供が口を挟むな!!」


 プロテアとジャイアの口論はこれが初めての事ではない。このような事が起これば、毎回このように言い合いになる。


「こうなったらあいつらを叩き潰すしかねぇ!戦争だ、戦争!」

「ああ、このままコケにされるなんて黙ってられるか!」


 他の者たちが同調をし始める。このままでは本当に戦争になってしまう。しかしー


「それは駄目だ!」「それはダメよ!」


 ジャイアとプロテアがほぼ同時にそう言った。そう、殺し合いには何の意味もない。

 それはジャイアはよく分かっていた。そして、プロテアは争いの悲惨さを父と母に教えられてきたし、何の意味もない事を知っている。


 かつてのプロテアも自分に仇なす者たちを腕っぷしで叩き潰してきた。

 しかし、そのせいで、被害が大きくなり、報復に来た者たちにイデスが大ケガを追わされてしまった事があった。

 この事件は何とかジャイアたちの尽力で事なきを得たのだが、プロテアはこれ以降、無駄な喧嘩はしなくなった。


「気持ちは分かる、だが、頼む!今は、今は堪えてくれ!」


 ジャイアが頭を下げる。プロテアも頭を下げた。

 どうやら、他の者たちは気持ちを落ち着かせてくれたようで冷静さを取り戻していた。


「必ず何とかする、それまでは…」

「…分かったよ、あんたとプロテアに免じて今回は俺たちも刃を収めるよ」


 それから暫く、これからの方針を話し合った後、会議は終了し、ジャイアとプロテアも家に帰って行った。


「済まぬな、プロテア。お前がいて助かった。後、済まなかった」

「いいわよ、私もその…言い過ぎたし」


 二人は基本的に仲が悪いというわけではない。むしろ良い方であろう。

 プロテアにだって分かっていた。ジャイアは何度も話し合いの場を設けようとしていたし、彼なりに尽力している事も知っていた。

 ジャイアは多くの問題を平和的に解決してきたのもまた、事実だ。

 ジャイアにだって怒りはある筈だ。しかし、それを振りかざすだけでは何の意味もない事も知っている。

 ジャイアは長として怒りを必死で圧し殺しているのだ。プロテアにだってそれくらい分かっていた。

 そして、プロテアはそんな父を尊敬していた。イシュガルド教は好きになれないが、イシュガルド教の人間たちは皆優しい人たちで溢れている。


「ただいま」

「ただいま」


 プロテアとジャイアは家に帰ってきた。そこにはイデスと母であるリリーが待っていた。


「今日も大変だったようね、ご飯は出来てるから、皆で食べましょう」

「ああ、ありがとう」


 四人は食卓につき、皆でご飯を食べ始めた。基本的に夜は四人で食事をする。

 プロテアはこの四人で食事をする時間が好きであった。優しい家族に囲まれて、優しい空気で一日が過ぎて行く。

 この時間がとても愛しく感じ、そして、終わっていく事を悲しく感じるが、悲しむこの気持ちがあるからこそ、この時間を大切に思える。


 今のプロテアのように、優しい家族に囲まれて幸せに暮らせている者は果たしてどれくらいいるのだろう。

 決して裕福とは言えなかったが、プロテアは今の生活がそれなりに気に入っていた。

 このような日々が当たり前のように過ぎていくような、優しい世界であれば、世界は平和になるだろう。


 誰しもがプロテアと同じ考えでは無いかもしれない。だが、プロテアはこの時は信じていた。例え、争う事があっても最後には必ず分かり合えると、そう……信じていたのだ。

 そして、いつか、誰もが幸せになれるような世界になれるといいなとこの時、プロテアは思った。


 今回の件を経て、プロテアはそう、感じるようになっていた。この時のプロテアは平和を望んでいた。きっと……誰よりも、そう望んでいただろう。


「プロテアがイシュガルドの長になってくれれば、安心なのだがな」

「おねーちゃん、頭良いもんね!」

「でも、プロテアは跡を継ぎたくないんでしょう?」

「うん、イシュガルドの人たちは皆優しいから好きよ。けど、イシュガルド教は…好きになれないし」


 プロテアは宗教が好きではない。何故なら、プロテアは宗教の悪い側面しか知らないからだ。

 価値観の違いによる争い、過激な勧誘、胡散臭さとプロテアは宗教の負の側面ばかり見て来た。

 これでは宗教を好きになれという方が、無理というものだ。むしろ、嫌々ながら、会議に度々参加するプロテアはよくやっている方であろう。


 無論、宗教で救われている人間が多くいる事もプロテアは知っている。

 しかし、人間というのは良い部分より悪い部分の方が覚えやすいものだ。

 プロテアは特にイシュガルド教関連で面倒事に巻き込まれていたので尚更だ。


「おねーちゃんがね、玩具を作ってくれたんだ!」

「へぇ~そうなの、それは凄いわね」

「プロテアは【二十二式精霊術(アルカナ)】の才能があるようだならな。だがな、プロテアよ、分かってはいると思うが、人前でその力を無闇に使ってはならんぞ。強い力は時として大きな災いを生むものだ」

「分かってるわ。だから、人のいないところで術を使ったし」


 とは言っても、結局見つかって酷い目にあったのだが、それを言うと面倒な事になると分かっているので、プロテアはこの話をこれ以上広めなかった。


 プロテアは物心ついた時から【二十二式精霊術(アルカナ)】が使えた。【二十二式精霊術(アルカナ)】を使うには三つの要素が必要とされている。

 一つ目は霊力、二つ目は高い霊力の演算能力、そして、自然との調和能力である。

 プロテアは生まれつきこれらの能力が非常に高く、特に霊力の演算能力が図抜けていた。

 演算能力が高い者は二つのパターンがあり、一つ目のパターンは単純に身体の霊力の処理能力が元から高いパターン。二つ目が霊力の処理能力自体は普通、あるいはそれより低いが、高い知力でそれを補っているパターンの二つがある。

 プロテアは後者だ。プロテアは高い知力を持っており、頭脳明晰である。


 一方、弟のイデスであるが、まだ【二十二式精霊術(アルカナ)】は使えない。

 というより、プロテアが異常なのだ。物心ついた時から力を使える人間はそうはいない。

 いくらイシュガルド教の長の娘とはいえ、相当なさいのうである。


 そもそも、ジャイアもイシュガルド教の長ではあるが、そこまで【二十二式精霊術(アルカナ)】の才能があるわけではない。むしろ、平凡である。

 リリーに至っては【二十二式精霊術(アルカナ)】をろくに扱えない。

 プロテアがここまで【二十二式精霊術(アルカナ)】を扱えるとは当時は誰も想像していなかっただろう。


 四人の食事は最後まで楽しい雰囲気で終えて、プロテアはさっさと部屋に戻って行った。

 イデスも自分の部屋に戻っていき、ジャイアとリリーは後片付けを始めた。




 プロテアは再び、作業を始めた。鉄の花を作っていた。順調に完成に近づいていた。

 後、二週間もあれば、完成に漕ぎ着けるだろう。既に一つ目は完成している。

 家族全員に作る予定なので、後三っつだ。自分の分もプロテアは作っていた。


 今のプロテアはまるで職人のようであった。9歳児とは思えないほどの集中力と手使いであった。

 プロテアは色々な思いを込めてこの花を作っている。どの花を作るかを決める為に花言葉も調べたりもした。

 喜んでくれると良いなとプロテアは思った。プロテアは毎日が幸せであった。

 嫌な事もたくさんあった。しかし、家族がいてくれた。それだけで幸せであった。

 細やかな事なのかもしれない。しかし、プロテアはそれだけで幸せであった。


 こんな日が永遠に続けばいいとすら感じていた。しかし、現実とは時として非情で無情である。

 今のプロテアはこれから起こるであろう事を知る筈もない。そして、どのような結末を待っているかも。

 幸せに感じていたこの感情が全て溢れでる憤怒に変わってしまう事もこの時のプロテアは知る由も無かった。


 プロテアは優しかった。家族は優しかった。その優しさに囲まれてプロテアは育ってきた。

 しかし、その優しさが憎しみにとって変わるとその人の人格は驚くべき程まで変わってしまうものだ。

 プロテアも例外では無かったのかもしれない。













「何?これ…」


 辺りは焼け野原になっていた。辺りの建物は燃え盛り、そして、死体の山がプロテアの視界を奪う。

 プロテアは吐き気と頭痛、そして、悲しみに襲われた。これは夢だと何度も何度も何度も思った。

 しかし、この悪夢は覚めてはくれない。何故ならこの悪夢こそが現実そのものであるのだから。


 軍隊が辺りを彷徨く。そして、生きている人間を片っ端から殺していた。

 ここにいる者たちは皆、イシュガルドの人間だ。イシュガルドの人間たちが悉く虐殺されていた。

 ここは地獄なんて生温い場所なんかじゃない。嘘だ、こんなの嘘だ。

 プロテアは何度もそう思った、願った、すがった、祈った、しかし、現実は変わらない。変わってくれない。


「え?何…で……?」


 プロテアはそんな事を呟いていた。プロテアが見た先には一人のイシュガルド人がいた。そして、もう一人いた。軍服を着ており、長い黒髪と水色の瞳が特徴の女性であった。

 その女性はそのまま、銃の引き金を引き、イシュガルド人を打ち殺した。

 女性の目はどこか虚ろであった。しかし、プロテアはそんな事はどうでもよかった。


「殺す…殺してやる………!」


 プロテアは目を血走らせながら、呪うように、そう呟いた。






To be continued

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