【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅡーShadow and ironー
月影慧留は最近、一人で大学に行っていた。蒼と通学時間が異なっている事が多いというのもあるが、課題の発表がある為、蒼より速く大学に行き、色々と調べているのだ。
まぁ、大学生なのでレポートや発表はよくある事だ。慧留は今日も一人で大学に通学していた。
慧留は黒髪黒目が特徴の凛とした雰囲気を醸し出している少女であるが、別にツンデレというわけでもなく、だからといって、クールな性格でもない、むしろ明るい性格であり、外見と性格にかなりギャップのある少女だ。
慧留は図書館に行った。いつも図書館で調べ物をする。大学の図書館を利用する事もあるが、今日は市内の図書館で調べる事にした。
本を探していると見覚えのある人物がいた。その人物はー
「四宮先生?」
「ああ、月影か」
「どうしてここに?」
「ああ、少し調べ物をな」
どうやら、慧留と同じであるようだ。
四宮舞、ゴスロリと長い黒髪と水色の瞳が特徴の女性だ。昔は黒目であったが、四大神の一件から瞳が青色に戻ったのだ。
「どんな事を調べてたんですか?」
「ああ…イシュガルドについて、少しな」
「イシュガルド…ですか?」
「ああ、私は50年前からイシュガルドの文献や本を読む事にしていてな」
「でも、何でイシュガルドの事を?」
慧留はイシュガルドという単語に聞き覚えがあった。イシュガルド、ヘレトーアの三大宗教の一つだ。
イシュガルドは特殊な人間が集まっており、それ故、他の宗教との小競り合いも絶えなかったという。
そして、50年前にイシュガルドの内乱が勃発し、イシュガルドはその数を減らしたという。
「イシュガルドは今でも生き残りがいるらしい。ヘレトーアでは差別の対象らしいがの。私がイシュガルドの事を調べているのは……まぁ、自分の犯した罪を忘れない為じゃ」
舞はしんみりとした表情でそう言った。何故だろう、この時の舞はとても悲しそうであった。
慧留はそんな舞に違和感を持った。普段、そのような表情をしないから余計にそう思ったのかもしれない。
それに、犯した罪とはどういう事だろうか?舞とは出会ってからそれなりに経っているが自分は舞の事を本当に分かっていないんだなと慧留は思った。
「犯した…罪?」
「ああ…それ以上話す気はない」
舞はそう言って、この話を無理矢理切り上げた。どうやらあまり話したい内容では無いようだ。
これ以上話すのは良くないと考え、慧留も別の話をした。
「学校はどうです?」
「ああ、いつも通りじゃ。こうしていられるのも主らのお陰じゃな」
「いえいえ、そんな…」
舞はつい最近まで、堕天使のアザゼルに身体を乗っ取られていた。
蒼たちが尽力して何とか助け出したのだ。舞は恐らく、その事を言っているのだろう。
「月影は何をしに?」
「大学の課題で…」
「…なら、妾と話しておる暇は無いのでは無いか?」
「そうですね、ではもう行きますね」
慧留はそのまま去っていった。元気な奴だと舞は思った。
舞は自身の教え子たちが育っていく事を嬉しく感じている。だからこそ、教師をやっているわけだが。
だが、未だに舞は分からない。「自分が誰かに何かを与える資格があるのか」が。
「私も…アザゼルと同じなのかも知れんな。罪に囚われた咎人」
舞は取り返しのない罪を犯した。舞はそんな自分が誰かを教える資格があるのか、それが分からない。
しかし、気が付いた事がもう一つある。自分は与えているのではなく、逆に与えられていたのだと。
最近になってそれが漸く分かった気がする。
舞はそのまま、図書館から出ていった。
慧留は調べ物を終えた後、大学に向かった。纏めた資料を大学にある資料と照らし合わせる為だ。
慧留は大学の図書館に行った。すると、見覚えのある人影がいた。
「屍?」
「ああ、月影…」
「屍も課題?」
「まぁな、お前もか?」
「うん、お互い大変だね~」
「まったくだ、時神はすぐに課題を終わらせるらいしからあんまり苦労してないみたいだが」
屍は溜め息混じりにそう言った。天草屍、紺色の髪と片目が隠れているのが特徴の青年だ。
蒼が勉強や課題で苦労している所など見た事がない。
蒼は基本的に何でもそつなくこなすのであまりこういう事では苦労しないようだ。
「まったく、羨ましい限りだな」
「そうだね~。そう言えば、蒼とは最近会った?」
「いや、最近会ってないな」
「そうか~私もなんだ。何してるんだろ?」
「そう言えば、最近、苗木や霧宮たちとネトゲ始めたらしいぞ。前、霧宮に会った時にそんな話をしてた」
「蒼がネトゲ!?」
「俺も意外に思った。あいつ、あんまゲーム好きじゃなさそうだし」
「因みに屍はゲームする?」
「人並みにはするな。だが、ネトゲはした事ねーわ。月影は?」
「私は全然やってないよ。よく分からないし」
慧留はあまり、趣味は持っていなかった。強いて言うならお酒を飲むのが好きなくらいだ。
しかし、どうも慧留は酒癖が悪いようだ。蒼と一夜に「お前はあまり酒を飲むな」と言われてしまった事がある。
「じゃあ私、課題をやるから」
「ああ、じゃあな」
慧留は屍と別れた。
慧留は暫く、資料を調べた後、大学から出ていった。
課題が予定より速く終わりそうなのでどこかに寄り道をする事にした。
こういう散歩もたまにはいいだろう。だが、どこに行けばいいか分からなかった。
いや、こういうのは適当にフラフラしておけばいいものなのだろうが、それでは何となく味気ない気がしたのだ。
慧留は暫く考えた後、決心を固めたように呟いた。
「よし、久しぶりに一宮高校に行ってみるか」
慧留は一宮高校に行く事にした。特にこれといった理由は無かったが、何となく、行ってみたいと思ったのだ。
久しぶりに一宮高校をゆっくり見て回りたいと思ったのだ。たまにはいいだろう。
慧留は一宮高校に向かい、歩き出した。
舞は学校の中庭にいた。一人で中庭を眺めたい気分になったのだ。
イシュガルド…舞が初めて殺した人間の一族…あの時はそれが正義だと考えていた。
自分の行いが正しい事だと思っていた。しかし、それは間違いだった。
そもそも正義など人の考え方や価値観で無限にも変わるもので常に変化するものなのだ。
舞はそれに気が付かなかった。
あの時の舞はどこか驕り高ぶっていたのかもしれない。大切な物は失った後に気が付くと言うが、まったくもってその通りだ。
「妾は…罪を償えているのだろうか?」
「いいえ、あなたは何も変わってなどいない。そしてここで死ぬ」
「!?」
舞は後ろを振り返った。そこにいたのは少女であった。服装は灰色を貴重とした独特な紋様を描いた服を着ていた。
髪は銀髪で瞳は血の様に赤い瞳であった。
「貴様は…?」
「私の事…覚えてない?「舞先生」」
「!? あなた…まさか……プロテア……!」
「覚えていたのね…実は前に会ったんだけど…まぁ、その時はアザゼルがあなたを乗っ取ってたからあなた自身は知らなかったでしょうけどね」
プロテアが淡々と話していた。それに対して舞はひどく動揺していた。
「生きて…いたのか?」
「ええ、あなたを殺す為にね!」
プロテアは怒りを露にしていた。しかし、表情には変化があまりなかった。
それはまるで氷のようであった。プロテアは原因は分からないが、感情表現があまり出来ないようだ。
舞は最初こそ動揺していたが、すぐに平常心を取り戻した。
「……悪いが…妾は貴様に殺される訳には行かんのう」
「いいえ、あなたはここで死ぬわ。私が殺す」
「妾を殺して、本当に貴様は救われるのか?」
「私は救いなど求めていない…私は全てをめちゃくちゃに壊したい…それだけよ」
「なら、尚更貴様に殺される訳には行かないのう」
プロテアは右手から鉄の剣を顕現させた。そして、プロテアは舞に襲い掛かってきた。
「【鉄王剣】!」
舞は攻撃を回避し、古式銃を取り出した。舞は銃口をプロテアに向けて発砲した。
しかし、プロテアは攻撃を回避し、鉄の剣から無数の鉄の刺を飛ばした。
「【鉄棘】!」
「【戦神】!」
舞は四大神の一体であるクーを顕現させた。鶏の姿をしており、非常に好戦的な神である。
クーは舞の古式銃の中に入っていった。舞は四大神の力を銃に宿し、強力な銃弾を放つ事が出来る。
「【爆炎之銃弾】!」
舞が銃弾を放ち、鉄の刺に着弾した瞬間、周囲が連鎖的に爆発し、鉄の刺を全て打ち緒とした。
「…一筋縄では行かない…か…」
「その力…成程、それが【二十二式精霊術】…か…」
「その通りよ。あなたを殺す為に、この力を身に付けた」
舞が冷や汗をかきながらそう言うと、プロテアは怒りを露にしながら答えた。
【二十二式精霊術】とはイシュガルドの人間が扱える霊呪法の上位霊術だ。
霊呪法は言霊に霊力を乗せる事で術を発動させるのに対して、【二十二式精霊術】は世界にいる精霊の霊力を使役して術を放つ霊術だ。
この世界における精霊とは情報の塊であり意思はなく、世界中に存在する。
つまり、この力は自然エネルギーを取り込んで、自身の力を倍加させる霊術なのだ。
「私のこの能力の名は【鉄征神】。戦車のアルカナよ」
「わざわざ、能力を解説して、どういうつもりじゃ?」
「あなたならこの力の意味を分かるでしょ?それを貴様に知らしめる為よ!」
戦車のアルカナ…【二十二式精霊術】はその名の通り、タロットのアルカナに因んだ名称が多い。
戦車のアルカナは援軍、摂理、勝利を意味するカードだ。しかし、他にも…というより、全てのアルカナには、プラスの意味とマイナスの意味がそれぞれある。
先程の戦車のプラスの意味はさっきの通りだ。そして、戦車のマイナスの意味は…
「「復讐」……それが、今の貴様の存在意義か」
舞の目の前からプロテアの姿が消えた。しかし、舞はプロテアの位置が何となく分かった。
「甘い!」
「!?」
舞は銃口をプロテアに向け、発砲した。すると、プロテアの周囲が爆発した。
舞は少し、プロテアから距離をとった。爆風からプロテアの姿が見えるようになった。
プロテアの身体は鉄で覆われていた。どうやら、咄嗟に攻撃を防いだようだ。
しかし、プロテアは攻撃を防いだとはいえ、かなりダメージを負っていた。
「……」
舞はプロテアに銃口を向けた。そして、そのまま、発砲しようとしたが―
「油断したわね、四宮舞。【鉄連鎖針】」
地面から無数の鉄の針が出現し、舞の身体を切り裂いた。身体全身から血で溢れていた。
完全に不意を突かれた。いや、厳密にはそうではない。舞はプロテアを倒す事を躊躇ってしまった。
舞はまだ、非情に徹しきれていなかった。その隙をお構い無しにプロテアは突いた。
「くっ…」
「終わりよ…【鉄…」
「【世界逆流】」
舞の身体に刺さっていた無数の鉄の針が消えた。まるで「時間が巻き戻った」かのようだ。
流石のプロテアもこれには驚いたようだ。何が起こっているか理解できていなかった。
「月…影…」
「良かった、間に合った!」
舞の前にいたのは月影慧留であった。慧留の【世界逆流】によって、舞の身体に刺さっていた針を舞の身体に刺さる前の時間に戻したのだ。
「どうして、ここに…」
「たまたま、ここに来たら強い霊力を感じたので…間一髪でしたね」
「次から次へと…」
プロテアは憎々しげに慧留を見た。無理もない、後、少しの所で邪魔をされてしまったのだ。
プロテアは獰猛に慧留に襲い掛かってきた。慧留は錫杖でプロテアの一撃を防いだ。
「御出で、【時黒王子】」
慧留は【悪魔解放】を発動させた。全身が黒い喪服に包まれており、顔にはヴェールが掛かっていた。更に瞳は黒から黒紫に変わっていた。
錫杖は影のように黒く染まっていた。
「【鉄王剣】!!」
鉄の剣を再び顕現させ、慧留に襲い掛かった。しかし、慧留は攻撃を錫杖で防御し、【黒閃光】を放った。
プロテアは【黒閃光】を鉄の剣で切り裂いた。
しかし、そこには慧留はいなかった。慧留は後ろに回り込んでいた。
「がら空きだよ!」
「ちぃ!」
プロテアは慧留の気配を察知し、慧留の錫杖による攻撃を防いだ。
しかし、プロテアに再び銃弾が襲い掛かってきた。舞が慧留の援護に回っていたのだ。
このままでは分が悪い。
ーそれに、まだ、「審判」を使う場面ではない。
プロテアはそのまま、逃亡をした。慧留も舞の事がある為、無理に追うことはしなかった。
慧留は【悪魔解放】を解除し、舞に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない、すまんのう」
「そんな…それより速く治療を………話はその後、ゆっくり聞きます」
慧留はそう言って舞を担いで近くの病院に運んでいった。
プロテアはビルの屋上に逃げていた。プロテアはよく、ビルの屋上に行く事が多かった。
別にビルの屋上が好きだからという訳ではない。ビルの屋上にいた方が辺りを見渡しやすい、というのが理由だ。
プロテアは周囲の精霊を吸収していた。先程、精霊の力をかなり使ったのでその補給をしているのだ。
まぁ、無理に補給をしなければならないほどでもないのだが、念のためだ。
後少しの所で邪魔が入ってしまった。以前は自身の油断で倒し損ねた。
まさか、舞を殺すのにここまで手間取るとは思わなかった。理由は分かっている。
あの月影とかいう女だ。やはり、単独で目的を達するのは少々難しいようだ。
出来れば、単独で殺したかった。暗殺が自身の存在を悟られずに殺す事が出来る一番の方法であるからだ。
しかし、プロテアは慧留に顔が完全に割れてしまっている。もはや、暗殺は不可能だ。
そして、単独で動けるのもここまでだ。ここからは、仲間を使うしかない。
そう、プロテアには仲間がいる。今のイシュガルド教には首領はいない。
いや、正確にはプロテアを含めた六人のイシュガルド教徒がイシュガルド教を指導者として、君臨している。
「手こずっているようだな、プロテア。珍しいな貴様がここまで手間取るとは」
声が聞こえた。声からして男性だ。男は黒いローブを被っていた。そして、フードを取り、顔を出した。
男は琥珀色の短髪であり、目元に隈のような模様がある青年であった。
彼の名はセルリア・イシュガルド。イシュガルド教はヘレトーアの三大宗教の一つであるが、今となってはイシュガルドの人間しか存在しない。
イシュガルドの内乱でイシュガルド以外の教徒たちは皆、殺されてしまった。
「セルリア、USWの様子は?」
「ああ、問題ない、三賢人は全員暗殺した。これでUSWは混乱状態だろうな」
「所詮、今の三賢人は寄せ集めの集団、大した事無かったというわけね」
「ああ、しかし、『七魔王』の指揮を下げるには十分な効果がある」
「そうだといいわね。逆に焚き付けかねないかもしれないわよ?」
「そうかもしれんな、だが、USWに関しては目的は達した。三賢人と先代の七魔王を壊滅させた。次は…この、十二支連合帝国だ」
「ええ、ここの国はUSWのようには行かないわ。イシュガルド全員で総攻撃を仕掛けるわ」
「分かった、すぐに召集をかける、この国には我らと同じイシュガルドの血を引く常森厳陣、千年の時を生きる吸血鬼の真祖である黒宮大志、四大神の力を宿す四宮舞、四大帝国会議やUSWの軍隊と互角以上に渡り合った、時神蒼を初めとした仲間たち…いずれも厄介だ。総攻撃を仕掛けた方がいいだろう」
プロテアたちは実は蒼たちの顔を知らない。だが、プロテアは一人、蒼の仲間を特定した。
先程交戦した月影という女、あの女は間違いなく、時神蒼の仲間なのは間違いないとプロテアは考えていた。
あの女の力は少し察しがついている。彼女の能力は時間の巻き戻しだ。
にわかに信じられないが、時間を操る能力を持っているようだ。
プロテアは高い洞察力を持っている。恐らく、間違いないだろう。
「じゃ、俺はここから離れる。お前は?」
「精霊を補給し終えたら、私もあなたたちのいる場所に向かうわ。連絡は精霊を通じて行えばいいしね」
「分かった」
セルリアは短くそう言い、プロテアから離れて行った。
プロテアは深呼吸をしながら、心を落ち着かせていた。精霊の力を取り込む為には心を落ち着かせるのが一番最適なのだ。
プロテアは精霊の補給を終えるとビルから飛び降りた。とてつもない風がプロテアを襲いかかるが、プロテアは特に気にした様子も無く、普通に地面に着地した。
プロテアはちゃんと人目に着かない場所に着地したので誰にも驚かれなかった(そもそも、驚く人がいない)。
プロテアは少し歩いてある場所に向かっていた。まぁ、特に大した場所でもないが。
プロテアは夜の町を眺めた。ヘレトーアとは随分と雰囲気が違うなと感じた。
プロテアは三年前からこの国に住んでいた。当時からヘレトーアとの違いに少し戸惑ったが今は大分慣れたものだ。
この国の色々な文化にも触れた。特に彼女がはまったのはネットゲームだ。
それまで、プロテアは娯楽にあまり触れた事が無かったので、ネトゲはとても新鮮なものだった。
閻魔を殺してからはプロテアは機会を伺い、潜伏していたのだ。
プロテアたちは舞がアザゼルに取り憑かれていた事を知っていた。
そして、いずれ、アザゼルが動き出す事をその混乱に乗じて舞とアザゼルを殺し、そこから厳陣と黒宮を殺すというのが、プロテアの算段であった。
しかし、それは失敗に終わり、プロテアはイシュガルド全軍を率いて総攻撃を仕掛ける事にした。
プロテアはネットカフェに到着し、中に入っていった。プロテアはネットカフェに入り、パソコンを開いた。
プロテアあるネトゲにはまっていた。そのネットゲームの名はー『ファンタジー・ワールド』であった。
舞は病院に搬送され、今は病室にいた。そこには屍もいた。蒼と一夜、美浪は来ていなかった。
連絡はしたのだが、繋がらなかったのだ。
「…詳しく、話して貰いますよ、四宮先生」
「ああ、そのつもりじゃ。時神と苗木と霧宮はいないのか?」
「ああ…繋がらないんだ。ったく、何やってんだこんな時に」
屍は少しイラつきながらそう行った。ちなみに薊とくるは十二支大学で訓練があるので来れず、遥と澪、湊は厳陣の手伝いをしているため、来れないのだ。
「そうか、では話そう…ところで、貴様らはイシュガルドの事をどこまで知っているのじゃ?」
「ヘレトーアの三大宗教でイシュガルドの内乱でほぼ壊滅したという事しか」
「そうか、まぁ、そんなもんじゃろな。イシュガルドが何故狙われたのかは…知っているか?」
「ああ…時神から少しは」
「イシュガルドには【二十二式精霊術】と言われる、特殊な力を扱える人類でも最強クラスの部族であったのじゃ。更にはとてつもなく、タフ且つ相当な生命力を持っておってな、それ故、他の宗教との小競り合いも絶えなかったのじゃよ」
舞はそのまま話を続けた。他の『セイント教』、『セクラム教』、そして、『イシュガルド教』の三つの宗教により、形成された宗教大国、それがヘレトーア帝国だ。
しかし、この三つの宗教はヘレトーア設立当初は仲が良くなく、宗教間の小競り合いが非常に多かった。
中でも『イシュガルド教』はその特異な力故に特に小競り合いが激しかった。
この三つの宗教は同盟というより、お互いに干渉をしない不可侵条約の側面の方が強かった。
長い間硬直状態が続いており、治安が安定している国とは言い難かった。
今のヘレトーアでは想像もつかないかもしらない。現在のヘレトーアは四大帝国の中でも治安が安定している。
ローマ合衆国もつい最近までは内乱が収まらないでいた。ローマ合衆国が安定し出したのは最近の事なのだ。
USWはカーシスの事実上の独裁政治であった為、こちらも国民からの反感も多かった。
十二支連合帝国は魔族に対する迫害が酷かった為に、小競り合いも多かった。
まぁ、いずれも、かなり変わってきてはいるのだが、それでも根強く傷が残っているのは事実だ。
ヘレトーアはそう言った話を余り聞かない。慧留や屍も蒼に『イシュガルドの内乱』の話を聞くまでヘレトーアの大きな戦争を知らなかった。
「イシュガルドの内乱…多くの人間や罪の無い人間が死んだ…」
舞は精気の無い声でそう言った。その声はどこか虚ろで、どこか悲しそうであった。
「妾と常森と黒宮はイシュガルドの内乱に駆り出された兵隊じゃった」
「「!?」」
「あやつが妾を恨んでいるのも…それが理由じゃ」
慧留と屍は絶句した。厳陣と黒宮と舞が元軍人だあった事は知っていたが、まさか、一教師である舞までもが軍人だったという事を本人の口から聞かされるとやはり、驚くものがある。
「ヘレトーアの軍人が、厳密にはセクラム教徒の者がイシュガルドの子供を射殺してしまった事から、イシュガルドは業を煮やした」
そして、イシュガルドの者は暴動を起こした。更に、ヘレトーアの中にいるイシュガルド教徒も暴動を起こし始めた。
暴動はやがて内乱へと変わり、そして、大規模な戦争へと発展していった。
この時にヘレトーアは他の四大帝国の力を借り、イシュガルドを殲滅した。
これが、ヘレトーア史上最悪の戦争、イシュガルドの内乱だ。
「貴様らには話す必要があるのう、妾たちの、過去を」
舞はそのまま、自分の過去を話し始めた。
道化師、物語には必ず狂言回しがいるものだ。道化師はそれを担うには最適なのではないか?
ピエロの化粧をしていた男がそう思った。ここは暗い洞窟だある。
男はケタケタと嗤っていた。この世界は実に面白い。男は楽しい事が大好きなのだ。
面白くない世界に価値など無い。楽しい事をしたい、面白い事に出会いたい、この世界を面白くしたい。
この世界は混沌に染まっているからこそ、面白く、価値があり、そして、美しいのだ。
男はそんな事を思いながらケタケタ嗤っていた。男が何故、ピエロの化粧と服装をしているのかと言うと、至極単純で、しっくり来るからだ。
皆は道化師の事をどう思っているだろうか?楽しい感じの存在?胡散臭い存在?舞台を盛り上げる存在?それとも不気味な存在?
男が思う道化師は世界を楽しく愉快にする存在であると考えている。
胡散臭さや不気味さがある、それが道化師、ピエロであり、それこそが世界を楽しくする為の一つの要素だ。
だがしかし、当然ながらピエロだけでは世界は面白くならない。役者がいる。
この世界を盛り上げてくれる役者を。男は何人か、その人物に目をつけている。
この世界の楽しみ方は人それぞれだろう。恋愛を楽しむ者、娯楽を楽しむ者、研究を楽しむ者、発見を楽しむ者など、それぞれだろう。
しかし、男はこの世界が混沌になる事を望んでいる。それがこの世界を楽しくする為に必要不可欠だと男は考えているからだ。
せっかく生まれて来たんだもの、楽しまなければ損というものだ。
この世界は最近、愉快な事が沢山起こっている。十二支連合帝国のアザミの花のテロ事件、四大帝国会議のクーデター事件、カーシスが引き起こしたUSWと十二支連合帝国との抗争。
そして、その後に起こった、神聖ローマからローマ合衆国へと名前を変える内乱となったローマ革命。
ローマ革命の一件以降は三年程大きい事件は起きなかったが、最近、アザゼルが引き起こした四大神を巡る事件も起こった。世界が冥界に変わるかもしれなかった、大事件だ。まぁ、失敗に終わっているが。
男はそれをとても残念に思った。世界が冥界に変われば混沌に包まれたというのに。
まぁ、今は今で楽しめているので然程問題がなかったりする。事件など簡単に引き起こせるのだ。戦争など、簡単に起こせるのだ。
そして、今イシュガルドの生き残りがUSWの三賢人
と先代の七魔王の暗殺。
十二支連合帝国にイシュガルドの生き残り全員で総攻撃を仕掛けるつもりなのだ。これ程愉快な事はそうはないだろう。
今のイシュガルドの生き残りは六名程しかいない筈だ。しかし、一人一人の戦闘力は図抜けており、三賢人と先代の七魔王の暗殺、元十二支連合帝国総帥の閻魔弦地暗殺がそれを物語っている。
今回もさぞ、愉快で賑やかになるだろうと思い、男は非常に楽しみにしていた。
男は傍観者に徹していた。遠くから眺めて、玩具が動く様を見るのは非常に愉快である。
これ程楽しい玩具箱はそうはあるまい。
「おっと、誰か来たようだ、誰だい?君は?」
「ネオワシントンの数ある洞窟内に妙な気配を感じたから来てみれば…何か不気味な奴が隠れてやがったな」
洞窟内に入ってきた男は金髪リーゼントも金色と目をしており、黒い軍服をきていた。
男はこの男に見覚えがある。この男の名はー
「スープレイガ…七魔王の一人にして時神蒼に負けた男が何のようかな~」
「イラつく奴だな、てめぇ…」
男がおどけるようにスープレイガに訊ねた瞬間、スープレイガは男の眼前に迫り、剣で男に切りかかった。
しかし、男は意図も簡単に攻撃を回避した。
「やれやれ、血の気の多い人だね、あ、いや、人じゃなくて悪魔だったか」
「てめぇ、何者だ!」
先程のスープレイガは本気で斬りかかった。しかし、それを難なく回避したピエロの男は只者ではないとスープレイガは感じたのだ。
男は真面目に答えた。
「この世界を混沌へと導く者さ」
「………中二病か?」
「違うわい!」
先程までのシリアスな雰囲気が一気に崩れ去った。男の突っ込み方がかなり軽い乗りであった。
スープレイガは男の中二っぽい台詞が可笑しく思った。まぁ、やる事は決まっているが…
「さっさと、死ね!」
「い~や~ですぅ~、死にましぇ~ん」
スープレイガが斬りかかるが、煙幕が発生した。スープレイガはそれを吹き飛ばしたが、そこにはピエロの男は姿を消していた。
「…ふざけた野郎だ……だが…面倒な奴がいたもんだな…」
スープレイガはあの手の相手は苦手だ。ふざけた感じの男であるがああいう奴が一番厄介で面倒なのだ。
スープレイガはそのまま洞窟から出ていった。
To be continued




