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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第五章】イシュガルド殲滅篇
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【第五章】イシュガルド殲滅篇ⅠーEvil berserkerー

 時神蒼は気怠げに目を覚まし、大学に行く準備をした。青と黒のオッドアイはとても眠たげであった。

 髪は相変わらず、白黒混じりで異質であった。

 蒼は準備を済ませ、大学に行った。いつもなら慧留が家に来るのだが、今回は慧留は講義の都合上、蒼より先に大学に行っている。

 蒼にとっては好都合であった。別に慧留の事が嫌いというわけではないが、毎日毎日、家に押し掛けられて起こされては蒼も落ち着かないのだ。


 蒼は外に出た。その時、蒼は自分の住んでいるマンションを眺めた。

 このマンションは苗木日和(なえきびより)というマンションであり、魔族が住んでいるマンションだ。

 蒼が来たばかりの時のこの国は魔族に対する迫害が凄まじく、ここに棲むしかなかった。

 今でこそ、魔族に対する偏見は払拭されているものの、まだ根強く差別自体は残っている。

 一度ついた習慣は簡単には払拭しきれないのだ。しかし、この国は確実に変わり始めている。

 いや、この国だけしゃない。世界は常に変化を続けているのだ。


 蒼はこのマンションを見て、懐かしんでいた。蒼がここに住み始めてから三年以上経っているのだ。

 時が過ぎるのが速いと感じるのも勿論そうだが、蒼自身も随分ここの暮らしに慣れたものだと思った。

 当時の蒼では今の蒼など想像もつかなかっただろう。


 少し懐かしんでいると蒼はマンションを見ている人間がもう一人いる事に気がついた。

 銀色の髪と赤い瞳が特徴の少女であった。肌は色白く美しかった。蒼はその姿に見惚れていた。


「そこで、何をしてるんだ?」


 蒼は少女に声をかけた。蒼は後から「これじゃあ、ナンパじゃないか!」と思ったが、今は取り敢えずその事は考えない様にした。


「道に迷ってて…」

「どこ探してるの?」

「一宮高校…」

「ああ、そういやそれ、一宮の制服だったな」


 蒼は今まで自分の通っていた高校の制服を忘れていた。まぁ、あれこれ一年以上制服を着ていなかったら忘れるから仕方がないような気がしなくもないが…


「よかったら案内するよ」

「…本当ですか?」

「ああ、俺も昔その学校に通ってたし。転校生か?こんな時期に珍しいな」

「…家の都合で」


 蒼はそれ以上聞かないようにした。人それぞれ事情というものがある。あまりつつくのもよくないだろう。

 それより蒼はこの時期に転校生がいる事の方が珍しいと感じていた。

 六月ももう少しで終わるという時に転校生が来る、かなり半端な時期に転校してくるものだなと思った。

 蒼の知る限り、この時期に転校してくる事は殆ど無い筈だ。まぁ、有り得なくは無いので、そこまで疑問に持つ事でも無いのかもしれない。


「じゃあ、行こうか」

「…はい」


 蒼は少女と一緒に歩き出した。蒼は少女を見て非常に目立つ少女だなと思った。

 銀髪赤目、目立たない方がおかしい。しかし、派手な見た目とは裏腹に彼女は非常に感情表現が乏しかった。

 とにかく無表情なのだ。何を考えているか分からない、ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。


「そう言えば、名前は?」

「ごめんなさい、あまり名乗りたくは無いんです」

「そうか、じゃあ、お互いあだ名で呼ぶのはどうだ?」


 蒼はそう提案した。なんというか、何か呼び名がなければ話をし辛いと蒼は感じた。

 蒼は誰かといる時に沈黙する時間が極端に少なくなり、そのせいで誰かといる時に黙りしているのが落ち着かなくなってしまっていた。これは確実に慧留や屍たちのせいだ。

 少女は少し、考え込み、そして頷いた。


「分かりました、そうしましょう。私はティラ。あなたは?」

「あっ…えっと…」


 蒼は失念していた。自分にはあだ名が無い。ここで本名を言うのも有りだが、それでは芸がないと思った。

 時神蒼は偽名ではあるが、今は本名のようなものだ。どうするか…


ートッキー?アオチー?いや、アオチーは無いわ。う~ん…


 蒼は何も思い付かなかった。しかし、このままにしておく訳にはいかない。何か…何か…


「フローフル」

「フローフル…ですね?」


-何本名言っちゃってんだ俺はー!?


 しかし、名乗ってしまった以上仕方ない。このまま押し通すしかない。


「ああ、フローフルだ」

「変わったあだ名ですね?」

「ああ、お菓子でフロフルーツタルトってあるだろ?それをもじってるんだ。ネトゲとかで使ってるんだ…はは…」

「へぇ~ネトゲやってるんですね。実は私も少しやってますよ。会う事もあるかもしれないですね」


 蒼は適当に誤魔化した。因みに蒼はネトゲなどしない。それどころか普通のゲームやスマホゲーすらしない。

 どうも、蒼はゲームがあまり好きでは無かった。まぁ、一夜が大のゲーム好きでありそれに付き合わされる事も多かった為、知識はあるが、それだけだ。

 蒼はティラの名前の由来が気になった。


「じゃあ、ティラのあだ名の由来は?」

「それは……秘密です」


 妙に愛らしい仕草でそう言った。蒼は少しドキッとした。蒼が異性に対してドキッとするのは結構珍しかったりする。

 ……まぁ、蒼の周りにいる女子は癖のある人物ばかりなので当然と言えば当然なのかもしれない。


「何で、マンションなんか見てたんだ?」

「特に理由は無いですよ。私の昔いた国ではマンションは珍しかったので」

「国外から来たのか?」

「はい、まぁ…」

「そうか、俺も国外から来たんだよ。三年前にな」

「そうなんですか?ふふ…私たち、案外似た者同士なのかもしれないですね」


 まるでデートしてるみたいだなと蒼は思った。まぁ、実際は道案内してるだけだが。

 このティラという少女、なんというか、本当に表情が変わらないなと蒼は思った。

 声はそれなりに感情が籠っているのに表情が明らかにそれにあっていない。

 奇妙な子だなと感じた


「着いたぞ、あれが一宮高校だ」

「ありがとうございます」


 蒼がそう言うとティラは頭を下げて礼を言った。こうも素直に礼を言われると少し照れるものだ。


「それでは、またお会いする事があれば」

「ああ、じゃあな」


 ティラはそのまま校内に入っていった。蒼は少し懐かしい気持ちになった。

 つい最近、ここに来たが、あの時は舞について調べる為という目的があったので落ち着いてここに来るのは久しぶりな気がする。

 校内に入りたいという気持ちがない訳ではないが、今は授業中だろうし、用も無いのにわざわざ高校に行く理由もないだろう。

 蒼はそのまま日比野大学に向かった。








「お茶ですよ~、厳陣」

「ああ、ありがとう」


 常森厳陣と黒宮大志は執務室にいた。

 常森厳陣はこの国、「十二支連合帝国」の総帥である。白髪のオールバックと黒い瞳が特徴の初老の男性である。

 黒宮大志は黒い執事服と黒い髪、瞳と片眼鏡(モノクル)が特徴の妖しい雰囲気を醸し出している男性だ。


「いや~、舞さんが無事で良かったですよ。かつての友に死なれる…というのも余りいい気分では無いですからね」

「ああ、だが…全てがめでたしめでたしとも言えまい」

「ええ、イシュガルドの末裔…生き残りたちがとうとう動き出しましたね。こうなる事は分かっていた筈です。何故、放逐していたのです?」

「お前なら私の心情も理解出来るだろう?」

「まぁ、気持ちは分かるんですがね。あなたが手を出せば総帥としての地位が危ぶまれる。それになによりー」

「彼らを殺す資格は…私には無いよ」

「そして、それは私も同じ…イシュガルドの内乱…時が経ってなお、多くの爪痕が残っています。戦争とは、そういうものです」

「ああ、戦争は悲惨なものだ。必ず、得る物より失う物の方が多い」

「それでも勝者は得た物で慰める事が出来ますが…負けた側は死んだ者の数を数えるしか出来ない」


 そう、厳陣と大志は…特に大志は多くの戦争を経験している。二人は知っているのだ。戦争の悲惨さを悲しさを…

 そして、それは四宮舞も同じだ。


「あなたは分かっていたのでしょう?閻魔を暗殺したのが、イシュガルドの人間である事を」

「……」


 厳陣と大志は三年前に起こった四代帝国会議の事件の後、かつての総帥であった閻魔弦地を殺した犯人がイシュガルドの人間である事は分かっていた。

 表向きではまだ犯人は特定出来ていないという事になっている。

 しかし、証拠が無い以上、イシュガルドが犯人という証明も出来ない。

 どちらにしてもどうしようもない事なのだ。


「閻魔は裁かれるべき相手に裁かれた……」

「それは違いますよ、厳陣。誰かを裁く資格のある者なんていませんよ。私たちは皆、何かしらを奪い合いながら生きている。それは紛れもない事実です。誰かを裁く資格のある者がいるとすれば…それこそ、人間たちが造った空想の神々だけでしょうね。少なくとも私はこの世界に存在する神々も誰かを裁く資格は無いと思いますよ」


 大志は千年以上の時を生きている真祖だ。それ故、ヒューマニックリベリオン、第三次世界対戦、イシュガルドの内乱といった悲惨な戦争を全て経験している。

 だからこそ、言える言葉なのだ。厳陣も普通の人間の倍以上生きているが大志には遠く及ばない。


「同族に情が湧いたのかもしれない」

「厳陣もイシュガルドの民の末裔…ですからね」

「とは言ってもクォーターだがな」


 厳陣はイシュガルドの一族の人間だ。イシュガルドの人間は通常の人間より遥かに長寿…というより、成長速度が普通の人間より遅いのだ。

 それ故に厳陣は普通の人間より長寿なのだ。それでも厳陣はクォーターの為、通常のイシュガルドより成長速度は速く、今はかなり老化している。

 イシュガルドは長い者で三百年は生きると言われており、平均死亡年齢は250年ほどだと言われている。

 厳陣は120歳ほどだ。これでも普通の人間と比べて若作りだが、イシュガルドの一族にしては寿命は相当短いと言える。


「まぁ、閻魔はイシュガルドの人間を利用した。そう考えるとしかるべき裁きを受けた…といえなくは無いのかも知れませんね」


「どうします?」

「どの道決着は着けねばならん。けじめを…着けなければな」


 厳陣は覚悟を決めようとしている。イシュガルドがもし、自身に牙を剥けば殺す…という覚悟だ。

 しかし、厳陣は甘い人物だ。誰よりも平和を望むが故に、非情に徹しきれない。


「私が、あなたの刃になりますよ。あなたの甘い部分は私が補いましょう」

「ああ、済まないな」

「何を今更、戦友…でしょう?」

「ああ、そうだな」









 蒼は一人でキャンパス内をウロウロしていた。蒼はキャンパス内では一人でいる事も多い。

 慧留や屍、一夜や美浪と一緒にいる事もあるが然程多くなかったりする。


「蒼じゃないか」


 という声が聞こえて蒼は後ろを振り返った。そこにいたのは苗木一夜だった。

 アッシュブロンドの髪と眼鏡が特徴の青年だ。


「こんなところで何をやってるんだ?」

「いや、ちょっとね。あっ!そうだ、最近、面白いゲームがあるんだけど…」

「いや、いい」


 蒼はそのまま去ろうとした。一夜がゲームの話をしだすと大概、話に付き合わされるか無理矢理ゲームをさせられるかのどちらかなのだ。


「まぁまぁ、どうせ君はこれから暇だろう?」

「いやまぁ、そうだが…」


 今回の一夜はかなり押しが強い。一夜は押しが強かったり弱かったりするのだが、今回はかなり押しが強い。

 断る方が面倒そうだった。


「分かったよ。付き合うよ」

「本当かい?話が分かるね、蒼は」


 蒼が溜め息混じりに仕方なく了承した。一夜はとても嬉しそうだった。


「じゃあ、早速、パソコンルームに行こう」

「ネトゲか?」

「ああ、その通りだ」

「…そうか」


 蒼はネトゲという単語を聞いてある事を思い出した。ティアだ。今日はやけにネトゲに縁がある気がした。

 この大学内なはパソコンルームがある、まぁ、今時パソコンルームが無い大学など存在しないが。

 蒼と一夜はパソコンルームに向かった。







 ティラは一宮高校の校舎を回っていた。ある人物を探し出す為に。

 しかし、探す事は然程難しくなかった。そう、その人物はここの高校の教師をしていたのだから。


「…見つけた」


 ティラ…いや、プロテア・イシュガルドはそう呟いた。そう、彼女が探していたのは四宮舞だ。

 プロテアはつい最近、舞を殺そうとしたが失敗に終わっている。

 あの時の舞は三賢人(グリゴリ)の最後の一人、アザゼルに取り憑かれていた。

 三賢人(グリゴリ)は既に没落しており、今、存在する三賢人(グリゴリ)は形だけの存在だ。

 だが、今の三賢人(グリゴリ)も潰す意味はある。USWを潰す為には。

 アザゼルと舞を同時に殺す機会を逃してしまった。アザゼルは時神蒼によって倒され、舞は今、教師として授業を行っている。


「………」


 舞は暫く様子を見る事にした。復讐が目的ではあるが、騒ぎを大きくする気はない。

 暗殺が出来ればそれが一番いいのだ。

 プロテアは舞の様子を見ていた。幸せそうな表情をしていた。自分は表情を奪われたというのに。

 プロテアは舞に憎悪を抱いた。自分の全てを奪っておきながらノウノウと生きている舞を。

 プロテアは自信が物凄い殺気を放っている事に気が付き、すぐに平常心を取り戻し、舞の前に去っていった。




「!?」


 舞は廊下側の窓際を見つめた。何か…殺気の様なモノを感じた。まぁ、気のせいであったようだ。









「さて、早速始めようか」


 一夜と蒼は大学内のコンピュータ室にいた。人はそれなりにいたが、二つ分の空きがあった。


「パソコンとかレポートする時くらいしか使わねぇな…」

「まぁ、君の場合はそうだよね」


 蒼と一夜はパソコンの電源にスイッチを入れた。すると、IDとパスワードの入力する欄が出てきた。蒼はこの作業が面倒臭くて仕方がない。

 情報漏洩を防ぐ為というのも分かるのだが、それにしてももっと他にやり方が無いものかといつも蒼は思う。

 一夜はそれについて果たして気にしていない様子である。まぁ、元から機械強いしな、一夜は。蒼とて特別機械音痴と言う訳ではないが、パソコンに触る機会はそこまで多くない為、そこまで色々出来るという訳ではない。


「で?こっからどうするんだ?」

「ああ、インターネットを開いて、「ファンタジー・ワールド」で検索してくれ」


 蒼は一夜の指示通り、検索をした。すると、ホームページがあったのでそこをクリックした。クリックすると、ダウンロードの項目が出てきた。


「そこでダウンロードしてくれ」


 蒼はダウンロードをした。やがて、ダウンロードは完了し、ゲームが起動した。画面には「ファンタジー・ワールド」と書かれていた。

 蒼はそのまま画面をクリックした。すると、キャラメイキングに入った。


「自分の好きなようにメイキング出来るんだ」

「へぇ~、あ、確かに芸が細かいな。人間以外も出来るのか…」


 蒼はこの手のゲームはあまりやらない為、こういうものを見るとすぐにびっくりしたり何かしらの反応を示すことが多い。

 電子の世界だというのにここまで現実と近い状態で再現する…これって実は物凄い事なのかもしれないと蒼は思った。

 まぁ、蒼はメイキングの仕方がよく分からなかったので、適当に選択した。

 メイキングは一通り完了した。見た目は耳が少しとんがっているだけで、後は蒼の顔そのものであった。蒼は素直にこのメイキングの完成度の高さに感心する。


「次は…職業選択か」


 職業は様々あったが、蒼は騎士にした。攻守共に優れるバランスタイプだ。そして、最後にキャラクター名だ。

 これはどうしたものかと蒼は思った。だから一夜に聞いてみる事にした。


「一夜はどういう名前つけてるんだ?流石に本名じゃ無ぇーだろ?」

「そうだね、ネトゲで本名をつける人は殆どいないね。デメリットしか無いし。大体自分のあだ名か、自分の名前をもじってつけてる人が多いね。例えば僕はワンナイト」

「……まんまかよ」


 蒼は一夜のナンセンスな名前に少しあきれていた。一=ワン、夜=ナイトという意味だろう。蒼は少し考えて結局、コバルトにした。


「…君もまんまじゃないか」

「うるさい」


 蒼はそのままゲームスタートし、拠点についた。すると眼鏡を掛けたアッシュブロンドの髪をした男が隣に立っていた。

 一夜こと【ワンナイト】だ。これが一夜の分身であるキャラのようだ。


「さて、始めようか、コバルト」

「それはいいけどこれはどういうゲームなんだ?」

「ああ、その説明をしなくちゃならないね。このゲームはよくあるクエストを受けて自身を強くしていくゲームだよ」

「所謂、ギルドってやつか?」

「まぁ、そんな所だ。早速、クエストを受注しに行こう、「三人」もいれば大丈夫だろう」

「三人?」


 ここには蒼を含めて二人しかいない筈だ。三人目が来るという事だろうか?


「ワンナイト~!お待たせしました」

「ああ、僕たちも今来た所だから気にしなくていいよ、ウルブ」

「お前…もしかして美浪か!?」

「リアルネームは余り使っちゃ駄目ですよ、コバルト」


 どうやら三人目の参加者は美浪こと【ウルブ】のようだ。この三人でクエストを受注しに行く。

 そう言えば、忘れられ勝ちではあるが一夜だけでなく、美浪も大のゲーム好きだ。

 …まさか、その設定が生きていたとは……正直忘れていた。


「それにしてもスゲーな、リアルの町と殆ど変わらねぇ」


 【コバルト】はそう呟いた。町は西洋風の町であり、とても趣のある場所である。

 ここが電子の世界だなんて蒼は本当に信じられなかった。


「コバルトは良いリアクションをしてくれるね。でもね蒼、世界はゼロと一で出来てるんだ。それを再現するのは不可能ではないのさ」

「すまん、何言ってるのか全然分からん」


 【ワンナイト】の意味不明な発言に【コバルト】は問答無用に突っ込みを入れた。【ウルブ】はそんな二人を見てクスクス笑っていた。


「何がおかしいんだよ?」

「ゲームの中でも二人は変わりませんねって思っただけですよ」


 【コバルト】は釈然としない感じであったが【ワンナイト】と【ウルブ】はギルドに向かっていった。


 ギルドの中は広く、皆酒を飲んだり雑談をしていたりと賑やかであった。


「さて、早速、クエストを…どうしたんだい?蒼?」


 【ワンナイト】と【ウルブ】がクエストを受注しに行こうとすると【コバルト】はある一人の人物に目が入った。

 髪と瞳は瑠璃色の少女であった。別にこのゲーム内ではそこまで珍しいとは思わなかった。

 だが、蒼が目についたのはその少女の姿ではなく名前であった。

 その少女の名前は【ティラ】と書かれていた。容姿こそまったく違うが何となく蒼が今日の朝に会ったティラに似ている気がしたのだ。

 もしかしたら単なる偶然の可能性もある。だが、蒼は確かめずにはいられなかった。

 蒼は【ティラ】の元に向かった。


「あの…お前、ティラか?」

「誰ですか?」

「俺だよ、フローフル」

「!? フローフル!?」


 どうやら蒼が朝に会ったティラその人のようだ。ティラは少し驚いていた。


「でも、何で【コバルト】って名前なの?ネトゲとかではフローフルって名前を使ってるッテキイタけど…?」

「あっ、いや、それは別のゲームなんだ」

「へぇ~」


 【ティラ】は余り【コバルト】の言葉を信用していないようであった。

 まぁ、今の蒼はかなりテンパってるし説得力がないのは当然と言えば当然か。


「蒼、その子は知り合いかい?」

「ああ、ちょっとな」

「ってこの子、めっちゃランク高いですよ!?【ワンナイト】!」

「本当だね、僕らより上だ」


 【ティラ】という名前の隣にランク90の文字が乗っていた。因みに【ワンナイト】はランク80、【ウルブ】はランク65、【コバルト】は…言うまでもないが、始めたばかりなのでランク1だ。

 このゲームは一夜の話によると三年前にスタートしたゲームであり、作品のレベルの高さから瞬く間に人気ゲームになったそうだ。


 どうやら【ティラ】は今回はソロのようだ。このゲームは最初の内は一人でクリア出来るが、難易度が高くなると一人でクリア、というのが難しくなってくる。

 その為、協力プレイをしてクエストをこなすというのが基本的なやり方になってくる。


「君は今回はソロなのかい?」

「今回だけじゃない。私はソロプレイヤー」

「へぇ~大したものだね。このゲームでソロプレイヤーだなんて」

「…そうでも無いですよ」


 【ティラ】は謙遜するようにそう言った。

 そこで【コバルト】は一つ提案を思い付いた。


「そうだ、俺たちと一緒にクエスト受けねぇか?」

「…遠慮しておくわ。ごめんなさい」


 【コバルト】の提案をあっさり【ティラ】は断った。どういうわけか、ソロプレイに拘っているようだ。

 無理に誘うのも申し訳ないし、【コバルト】は無理強いはしなかって。


「【コバルト】、速くクエストを受けるよ」

「ああ…」

「ちょっと、【コバルト】だけ残ってくれない?少しで終わるから」

「ああ、いいけど。悪い、ワンナイト、ウルブ、先行っといてくれ」

「分かったよ、君が僕ら以外の友達がいる事はひっじょ~に珍しい。邪魔をする気はないよ」

「さらっと喧嘩売るの止めてくれませんかね?ワンナイト?」

「じゃあ、私とワンナイトは先に行っときますね」


 【ワンナイト】と【ウルブ】はクエストを受注しにいった。

 【コバルト】と【ティラ】は二人きりになった。


「何か俺に用か?」

「特に用があるわけじゃないわ。けど、無下に断ったのも少し悪いと思って…フレンド申請くらいはしておこうと思って」

「フレンド申請?ああ…」


 蒼は一瞬、意味が分からなかったが、ネトゲやソーシャルゲームはフレンド申請をして友達と交流する事が出来るというのを聞いた事がある。

 蒼はすぐに了承し、フレンド申請を受け、【ティラ】をフレンド登録した。


「じゃあ、ここで会ったのも何かの縁だし、また会う事があれば、その時はよろしくね」

「ああ、じゃあな」


 【コバルト】と【ティラ】はそのまま別れた。



 蒼はあれから一夜と美浪とでクエストをこなし、夜遅くまで大学に残っていた。

 夜の十時になり、蒼と一夜はパソコンルームから出ていき、家に帰宅している最中であった。


「それにしても、蒼が僕ら以外で友達とはね~」

「友達って言える程親しい関係でもねぇよ。今日、朝にちょっと、会ってたまたまゲームで再開しただけだ」

「彼女の事…気になるのかい?」

「………そうかもな」

「ほう、珍しく素直だね」

「ああ、なんつーか、異質な感じがするんだよな~」


 そう、蒼はティラが不思議な雰囲気を醸し出している気がしたのだ。まぁ、特に根拠があるわけではないのだが。


「蒼が言うのであれば、そうなのかもしれないね」

「何だよ、それ」

「僕も彼女は不思議な人だなとは思ったよ。まぁ、ミステリアスな女性は皆、あんな感じかもしれないがね」


 一夜はおどける様にそう言った。相変わらず真意が読み辛い男だとつくづく蒼は思った。

 まぁ、読み辛いというだけで、全く読めないのかと言われたらそうでもなく、蒼はある程度、一夜の考えている事は分かる。

 何だかんだ言って、一夜は誠実で義理堅い人物なのだ。相手を引っ掻き回す様な発言をよくするが、肝心な時はいつも、蒼たちの味方であった。


「そろそろ、蒼の家だね」

「ああ、そうだな。じゃあな」


 蒼はそのまま自宅に帰っていき、一夜も自身の自宅に帰っていった。








 蒼は夢を見た。恐ろしい夢だった。昔の夢であった。血まみれで横たわる一人の少女とその少女を見てケタケタ嗤う少女。

 そして、それを眺めている蒼。


 次の瞬間、景色は暗転する。そして、別の景色が現れた。

 少女が手足を縛られていて動けなくなっていた。

 蒼はそれを眺めていた。いや、蒼はその少女を助けようとしていた。

 しかし、動きを拘束され、動けなかった。蒼は叫んでいた。しかし、何と言っていたのかは蒼本人も覚えていない。


ーああ、まただ、暫く見てなかったのにな、この夢。


 蒼はこれが夢だという自覚はあった。何故なら、この夢は何度も見た。

 蒼が昔、大切な物を失った時の事だ。蒼はこの出来事以来、この夢を毎日の様に見ていた。

 しかし、慧留たちと出会ってから、この夢は見なくなっていたのだ。

 何故、今になって再びこの夢を見るようになったのだろう。蒼には分からなかった。


「ーーーーーーー」

「ーーー!!ーーーーーーー!!!!!」


 少女が蒼の方を振り返って、何かを言っていた。蒼も何かを叫んでいた。

 しかし、今の蒼にはこの二人が何を言っているのか分からなかった。

 これは夢だ。そのせいで色々と朧気になっているのかもしれない。

 その証拠に少女の顔もよく見えなかった。顔自体は覚えている。

 それでもよく見えないのはこれが夢で蒼の意識がはっきりしていないからだ。


 蒼は何度もこの夢を見る度に思った。なんとか出来たんじゃないかと。

 しかし、過ぎ去ってしまった今となってはそんな事を考えても後の祭りだ。

 だが、考えずにはいられなかった。そうしなければ、蒼自身の心が壊れてしまいそうだった。

 だが、蒼が大切にしていたあの少女は、もういない。蒼は守りたかったものを一度失っている。


 蒼は自身の意識が暗転するのを感じた。夢が終わる、蒼はそう思った。

 実際、景色が暗転すると蒼は夢から覚める事が多い。恐らく今回もそうだろう。

 蒼は薄れ行く意識の中で考え続けた。考える事を止められなかった。

 そして、蒼はやがて、完全に意識を失った。





To be continued

【第五章】始まりました。今回はさらっと蒼の本当の名前であるフローフルの名前の由来が明かされました。まぁ、だからなんだという話ですが。

 蒼とプロテアの出会いもネトゲで知り合うという今までと少し違う出会い方もしました。この二人の関係は今回の物語の主軸でもあるのでそこを楽しんで頂けたらなと思います。

 それではまたお会いしましょう!

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