【第四章】百夜亡霊篇ⅨーInvisible goddess 2ー
「何だよ!?これは!」
蒼が動揺するとアザゼルはニヤリと嗤っていた。蒼は周囲の水を凍らせようとした。しかしー
「俺の【氷水天皇】の力を使って凍らないだと!?」
水は蒼にとっては有利に働く。しかし、この水は蒼の氷を受けても凍り付かない。
いや、まるで蒼の氷が「すり抜けている」ようであった。
「もう、終わりよ。あなたの攻撃はもう効かない。準備は整った」
「準備…だと…」
蒼はアザゼルに氷をぶつけた。しかしー
「何!?」
「言ったでしょ??あなたの攻撃は効かないって??」
アザゼルは首をかしげ、そして、おどけながらそう言った。アザゼルは蒼の攻撃が全く効いていなかった。いや、まるで幽霊の様に攻撃がすり抜けていた。
「百の夜を過ごした亡霊…それが私。私こそが冥界の王?それとも女王??まぁ、どっちでもいいか(俺俺私過ぎる)…」
「ふざけんな!攻撃が全く受け付けないなんてあるか!【氷魔天刀】!」
蒼は氷の斬撃を放った。しかし、アザゼルには攻撃が全く通用せず、すり抜けていた。
それはまるで、百夜の亡霊だ。この例えは今のアザゼルを的確に現しているのかもしれない。
「嘘…だろ!?」
「だから、効かないって言ったでしょ?私の【百夜亡霊】の前では全て無力よ」
アザゼルはそう言って右手を上げて、黒い棒を形成した。そして、アザゼルが手を下げると蒼に黒い棒が向かっていった。
蒼は【氷水天皇】で攻撃を防ごうとしたが、攻撃が黒い棒が【氷水天皇】からすり抜けて、蒼の脇腹に突き刺さった。
「な!?」
「【幻影結晶】」
蒼は吐血し、地面に落下した。
アザゼルは更に、黒い結晶を大量に形成し、蒼に放った。蒼は攻撃を回避しようとしたが、いつまでも付いてくる。
アザゼルの手の動きによって、追尾する技のようだ。
「【三重虚神】!」
蒼は霊呪法で防壁を張るが、無情にも黒い結晶は全て悉くすり抜け、蒼だけにダメージを受ける。
蒼は全身から血が流れていた。しかし、どうにか、体勢を建て直し、【黒時皇帝】の【第二解放】、【ワルプルギスの夜】を発動した。
蒼の【ワルプルギスの夜】には【時空眼】という、相手の時間の流れや霊力、魔力の流れを視る事が出来る。
ーな!?これは…物質というより…現象に近い!?これでは手が出せない!まさしく亡霊!
この世界は質量があり、それに触れる事が出来る。分子が濃いからだ。
しかし、現象は触れる事が出来ない。
一昔前は地球温暖化現象が騒がれていた。今となっては霊力や魔力を使った魔術が普及した事でその問題は解消されたが、地球温暖化という現象に触れる事は出来ないでいた。
そう、現象は触れる事が出来ないのだ。アザゼルは今、その現象に近い状態になっている。
要するに、こちらの攻撃は当たらないが、アザゼルの攻撃は当たるという、理不尽極まりない能力なのだ。
「自分を幽霊にする力か…とんだチート能力だな…」
「時間操作を使う君には絶対に言われたくないね」
アザゼルが蒼を皮肉る様にそう言った。
蒼は確かに時間を操るという、理不尽な能力を持っている。しかし、それでも相手の攻撃を全て防げる訳ではない。
穴や制約もそれなりに多いし、攻撃も当たらなければ意味がない。
だが、アザゼルのこの力はそれらの事を全て無視した能力だ。蒼の時間操作よりもよっぽど理不尽と言える。
「そらそら、どんどん行くよ。【幻影結晶】」
アザゼルは黒い結晶を蒼目掛けて飛ばした。蒼は【時間停止】で時間を止めて攻撃を回避する。
しかし、それは気休めに過ぎなかった。時間が動き出した瞬間にアザゼルが手掌で操作し、蒼に狙いを定め直した。
「【時間加速】!」
蒼は時間を加速させてアザゼルに肉薄した。そして、アザゼルに攻撃をした。
「【時空覇王剣】」
蒼は黒い衝撃波をアザゼルに放った。しかし、無駄であった。攻撃は相変わらずすり抜ける。
「無駄よ」
「それはどうかな?」
蒼は【時間加速】を使い、アザゼルから即座に離れた。
すると、アザゼル目掛けて黒い結晶が襲い掛かる。流石にこれを回避するのは無理だ。
これこそが蒼の真の狙いであった。もしかしたら自身の攻撃であれば当たるのではないかと考えた。
「この程度の小細工が効くか」
しかし、当てが外れたようだ。黒い結晶はそのままアザゼルを通り過ぎていった。
蒼は驚愕の表情をした。今までにない絶望感が容赦無く、蒼に襲いかかった。
打つ手が完全に無くなってしまった。もはや状況は蒼の方は絶望的であった。
「…マジかよ……」
しかし、蒼は戦う事を放棄しなかった。ここで諦める訳にはいかなかった。
どんなに力がかけ離れていても、どんなに絶望的な状況でも蒼にとって諦める理由にはならない。
最後の最後まで…
「足掻くだけだ!」
蒼は悪足掻きをするかの如く、【時空覇王剣】を放った。
アザゼルは呆れ果てた顔をしていた。
「はぁ~、無駄だと言うのがまだ分からないのね…」
アザゼルは攻撃を回避しなかった。回避出来ない訳ではない。攻撃が効かないと分かっているから避けないのだ。
当たらない攻撃をわざわざ避けた所で意味などないのだ。
【時空覇王剣】は無情にもアザゼルを通り過ぎた。
「だから無駄だといったろ?」
「くそ…駄目……!?」
蒼はそこで言葉を止めた。アザゼルの肩の黒服が僅かに裂けていた。あれは間違いなく【時空覇王剣】によるものだ。
仕組みは分からない。だが、蒼は僅かな希望を見た気がした。
アザゼルの能力にも間違いなく何らかの制約がある。
蒼はアザゼルを【時空眼】でアザゼルを視た。
すると、アザゼルの霊力の流れが微妙に変わっている事に蒼は気が付いた。
しかし、すぐにアザゼルの霊力の流れが元に戻った。
まだ、情報が足りない。しかし、蒼は僅かな希望にすがるしかない。
「【氷魔連刃】!」
アザゼルの足元から氷の刃が出現し、襲い掛かる。しかし、アザゼルは攻撃を受け付けていない。
アザゼルは再び黒い結晶を発生させた。【幻影結晶】だ。
アザゼルが手掌で操るため、半永久に追尾してくる為、回避は至難の業だ。
しかし、蒼は攻撃を回避しようとした。【時間停止】で時間を止め、黒い結晶を回避した。
「逃がさない(死ね死ね)!」
アザゼルは自身の手を操り蒼に狙いを定めた。蒼は【時間加速】で自身の時間を加速させ、黒い結晶から逃げ続けた。
勿論、蒼はアザゼルから目を離さなかった。アザゼルの能力の全貌が判るまで。
しかしー
「時間…」
蒼が【時間停止】を使おうとしたが、蒼の周囲にあった歯車が止まっていた。
蒼の時間操作の能力は蒼の周囲にある歯車の力で発動している。勿論、力を使い過ぎれば、歯車は停止する。そして、停止している間はこの世界の時間を操作できないという制約が存在する。
「しまっ…」
「終わりよ(勝った!死ね!)!」
しかし、結晶は蒼からすり抜けただけで蒼にはダメージがなかった。
「くそ!こんな時に!」
アザゼルが舌打ちをしながらそう言った。やはり、何らかの制約があるようだ。
蒼は今がチャンスだと感じた。アザゼルの霊力の流れが変わっていた。
「【時空覇王剣】!」
蒼は【時空覇王剣】を放った。アザゼルは今まで蒼の攻撃を回避しようとしなかったにも関わらず、何故か今回は攻撃を回避しようとした。
しかし、攻撃が回避しきれず、アザゼルの右肩に直撃した。すると、アザゼルの右肩から血が吹き出した。
「よし!」
「くぅ!」
しかし、アザゼルの傷がすぐに消えた。更に、霊力の流れが再び元に戻った。
蒼はアザゼルに近づいて斬りかかったが、今のアザゼルには攻撃は当たらなかった。
「遅かったか!」
「何をしようと無駄よ(マズイ!)!」
アザゼルは黒い結晶を蒼に放った。蒼は【瞬天歩】で回避した。
アザゼルは動揺して手元が狂ったのか初めて、攻撃を外した。
「少しだけ分かったぜ…お前の能力は…「一分間だけ自身を無敵にし、尚且つ自分の攻撃は必ず当たる」能力だ」
「………」
蒼がそう言うとアザゼルは少し眉を動かしていた。そう、それこそがアザゼルの能力だ。
アザゼルは一分間だけ、自身の身体を反物質に変える能力だ。反物質とはこの世界に存在しない物質の事であり、普段は触れる事すら出来ない。
そう、現実の物質では反物質に触れる事が出来ない。
【幻影結晶】も同様だ。アザゼルは反物質と物質の境界を操る事が出来る。
蒼に攻撃を当てる時のみに黒い結晶を通常の物質に戻す事で蒼に攻撃をしていた。
さっき、蒼に攻撃が当たらなかったのはちょうど一分経過した為、コントロールが効かなくなり、蒼の身体をすり抜けたのだ。
【百夜亡霊】と発動から一分間経過した場合、コントロールが効かなくなる。
その為、一時的に解除する必要がある。そして、解除から再展開されるまでの時間は…
「五秒か…」
蒼がそう呟いた。五秒経てば再び【百夜亡霊】が再展開され、更に、【幻影結晶】が使用できる。
更に、それまでに負った傷も回復してしまうようだ。その証拠に蒼が付けた右肩の傷が消えていた。
五秒であのアザゼルを倒すのは至難の業だ。五秒の隙を突くより、発動条件を把握し、それを絶つしかない。
さっき、アザゼルは「準備は整った」と言っていた。恐らく、この能力にはいくつかの発動条件がある。
ーそう言えば…四大神はどこだ?さっきから見ていない………
蒼は少し考えた。
ーそういう事か…
アザゼルは再び【幻影結晶】を蒼に放った。
【ワルプルギスの夜】の歯車が動き出した。蒼は再び【時間停止】で時を止め、黒い結晶を回避した。
アザゼルは間違いなく、ここで決着をつけるつもりだ。今までとは段違いに攻撃速度が速かった。
時が動き出した。アザゼルは蒼を逃さなかった。黒い結晶が蒼に近づいていく。
蒼は走ったり、跳躍をしながら回避していた。本当ならもっと【ワルプルギスの夜】の力を使いたかったのだが、無闇に乱発するとまた能力がしばらく使えなくなってしまう。
「がっ!」
蒼の背中に黒い結晶が直撃した。その瞬間、蒼は【時間加速】で自身の時間を加速させた。
常にギリギリでアザゼルの攻撃を回避していた。一分間がとてつもなく長く感じた。
それくらいに今の蒼は緊迫した状態であった。
ー後、十秒…
焦っているのはアザゼルも同じだ。能力の制約を蒼に把握されてしまっている。
速く始末しないとこっちがやられてしまう恐れがある。いや、そんな事がある筈がないとアザゼルは言い聞かせているが、不安要素は消し去っておきたかった。
ー5、4、3、2、1…
「終わりだ(速く死ね死ね)!」
ー0…今だ!【時間停止】!
世界が白黒に変わる。蒼は地面思いっきり黒刀を突き刺した。
「【時空覇王剣】!!」
地面に黒い波動が襲い掛かる。そして、時は動き出す。
「な!?」
地面から四大神が顔を出した。そう、アザゼルの力は四大神が造り出した結界によるものだった。
アザゼルが【百夜亡霊】を発動した時、四大神がいなかったのは地面で造り出した結界を維持する為だ。
四大神も【百夜亡霊】の影響を受けている為、一分間は攻撃を無効にする。しかし、アザゼルと同様、一分経つと五秒間だけ実体化する。その瞬間を蒼は狙ったのだ。
「くっそおおおおおおおお!!!!」
アザゼルは黒い雷を放った。しかし、遅い。蒼はアザゼルの攻撃を鮮やかに回避した。
「終わりだ!【時空覇王剣】!」
蒼はアザゼルの身体を切り裂いた。血が飛び散り、蒼の身体に少しかかった。
「ばがな(嘘だ嘘だ)…」
アザゼルはフラフラになりながらも何とか立っていた。だが、四大神の力も尽き、アザゼルも満身創痍だ。
もはや、勝負はついている。
「まだだ!私は死ぬ事がない!この身体が有る限り!何時でも機会はある!」
アザゼルはそう言って、僅かに残っていた【百夜亡霊】の力で空間に穴を開けた。間違いない、逃亡する気だ。
蒼は叫んだ、仲間の名を。
「屍!」
すると、屍はアザゼルの足元から出現し、アザゼルの身体に触れた。そしてー宿主である四宮舞の身体を「錬金した」。
「があああああああ!!」
アザゼルはそのまま意識を失ったかのように倒れた。空間の穴も消滅していた。
「上手くいった」
「そうか…」
屍は舞の身体を金属に錬金したのだ。アザゼルは生物にしか取り憑けない。舞の身体を金属に変えればアザゼルを追い出せる事が可能だと踏んだ。
どうやらそれは上手くいったようだ。
「全く…お前があんなアホな罠に引っ掛かってなかったらもっと楽に行けただろうが!」
「悪気はないんだ。許してくれ」
「「悪気はないんだ。許してくれ」…じゃねーよバカ!ふざけんなよ!てめぇ!あんな小学生でも引っ掛からねぇような罠に引っ掛かりやがって!」
「んだとてめぇ!それが命の恩人に対して言う言葉か!?あ!?」
「はぁ…はぁ…」
蒼と屍が口論していると誰かが息を切らしている声が聞こえた。一瞬舞かと思ったが違う。蒼と屍は後ろを振り返った。
「「!?」」
そこにいたのは不気味なくらい長い髪をした男か女かよく分からない姿をした人の姿をした化け物だ。
恐らく、アザゼルの本体だ。身体の至る所にラグが走っている。
元が幽体の為、今にも消えそうになっている。
「嫌だぁ…消えたくない(あんよが上手)…なんで(ブランコブランコ)…それ、僕のだぁ、ぁえして…ぇぇあ…」
何を言ってるのかさっぱり分からなかった。内容は支離滅裂で蒼と屍はアザゼルを気味悪がった。
「身体身体身体撲朴撲僕のおおおおおお!!!!」
アザゼルが何をしようとしているか分かった。帰り血を浴びている蒼を乗っ取ろうとしていたのだ。
「時神!」
屍が蒼の名を呼ぶがもう遅い。アザゼルが蒼の身体の中に入り込んで………こなかった。
「あえ?あんえ?」
「俺の身体…よく見ろよ…」
蒼は既に【第二解放】を発動していた。【アルカディアの氷菓】だ。
帰り血をは全て凍り付いていた。
「!?」
「氷は全ての機能を停止させる。これが俺の【氷水天皇】の力だ」
蒼たちはアザゼルの帰り血を浴びる事でアザゼルに憑依されることを知っていた。
舞が残した日記で既に知っていたのだ。蒼は最初から対策をしていた。
アザゼルはとうとう打つ手が無くなった。しかし、まだ諦めていなかった。
「嫌だああああ!!」
アザゼルは空間に再び穴を開けた。ここから再びここから逃げる気だ。
幽体であるアザゼルの身体は不安定な状態だ。空間の穴に飛び込めば命が消えてなくなる可能性がある。
しかし、アザゼルは危険を犯してまでこの状況を打破しようとしている。
アザゼルの凄まじい執念は蒼と屍すら圧倒されるものであった。
「私は生きる!!」
【いや、貴様に待っているのは生も死もない。永劫の絶望だ】
「「「!?」」」
蒼と屍、アザゼルは突如聞こえた謎の声に反応した。地面から黒い渦が発生した。
そして、そこから人影が現れた。黒い宗教服と黒く長い髪と黒目の三白眼が特徴の青年であった。
「三賢人の一人にして最後の生き残り、アザゼルよ。貴様には永遠の絶望を味わってもらう」
「…な…ぁにを…」
アザゼルは霊体になってから言葉をまともに話せていない。恐らく、宿主がいないとろくに発声が出来ないのだろう。
蒼は少し、アザゼルに同情した。今のアザゼルは怯えていた。生きようと必死なのだ。
敵であろうと生きている事には変わりないのだ。それに、今のアザゼルは非常に惨めな状態であった。敵とはいえ、蒼はアザゼルに対して冷徹に徹しきれなかった。
「死ね」
男がアザゼルを一閃する。するとアザゼルの後ろから骸骨が出現し、アザゼルを黒い空間に飲み込もうとした。
「ぎゃあああああああ!!!!逝きたくない!行きたくないいいい!!!!!!」
「これが世界のルールを犯した報いだ。……これがお前が望んだ結末だ」
屍も蒼と同様、アザゼルに対して同情していた。
アザゼルはみすぼらしく、足掻いていた。その光景がどこか滑稽で哀れで惨めだった。
「冥界の主、ガルデア・ハーデス・パルテミシアが命ずる!アザゼル・アウストロ!地獄で自身の罪を償ってこい!」
「ああああああああああ!!!!!!」
アザゼルは黒い空間に完全に飲み込まれた。
アザゼルの断末魔は完全に消えていた。蒼と屍はどこか複雑な気持ちになっていた。
慧留は世界の冥界化を食い止めていたが、そろそろ限界だ。もう、持たない。
「え?」
慧留はそんな声を上げた。何故なら骸骨兵が消滅し始めていたからだ。
それにともない、世界も元に戻り始めていた。
「どうやら、アルビレーヌたちが上手くやったみたいだね」
「蒼…」
慧留とウルオッサは【悪魔解放】を解除し、元の姿に戻った。
「おーい!皆~!」
声の主は遥であった。そこには一夜、薊、くるもいた。赤島や兎神たちは現場の収束に当たっていた。
「終わったようだな」
「ああ、蒼たちが上手くやったようだ」
「後は戻ってくるのを待つだけだね!」
いつの間にかラナエルがやって来ていた。一夜たちはやや、驚いた様子であったが、すぐに平常心を取り戻した。
「いきなり、やって来るなんて、びっくりするじゃないか」
「ごめん、ごめん。あ、そうだ!ドラコニキルから通信があったんだ!」
ラナエルは小さな通信機を取り出し、ドラコニキルの立体映像が出現した。
『そっちも大変な事になっていたようだな』
「本当だよ~。感謝してよね~、ドラコニキル」
『はいはい…ツキカゲエル、会うのは久しぶりだな。どうやら君が侵食を止めてくれていたようだな、礼を言う』
「いえ…そっちも…同じ事が起きてたんだね」
『ああ、今は収まっているがな』
『蒼が止めてくれたんだよ」
『トキガミアオ…か…』
どうやら、ドラコニキルには蒼に対して思う所があるようだ。しかし、蒼は今、ここにはいない。話す事は出来ない。
『では、俺はこれで。ウルオッサ、アルビレーヌはすぐに戻ってくるように。アルビレーヌはそこにはいないようだからウルオッサ、頼んだぞ』
「分かりました…あ~、面倒臭い」
ウルオッサはとても面倒臭そうにしていた。そして、ドラコニキルはそのまま通信を切った。
「君たちが奴を弱らせてくれたのだな。礼を言うよ。実に狩りやすかった」
「あんたは?さっき、パルテミシアって…」
蒼がそう言うとガルデアは眉を少し動かした。
「貴様…パルテミシアを知っているのか?」
「少しな…あんたらの仲間と一度交信した事があるんでね」
「! そうか、貴様がアスディアの…」
「?」
ガルデアが得心が言ったような反応をし、蒼もガルデアに対して先程みたいに驚いている様子はなかったが、屍はさっぱり、意味が分からなかった。
「あんたは何者だ?アスディアの仲間か?」
「俺は冥界の主、ガルデア・ハーデス・パルテミシア。貴様が交信したという、アスディア・ゼウス・パルテミシアの三つ子の兄だ」
「!?」
「??」
蒼はガルデアから聞いた事実に驚愕していたが、屍はマジで意味不と言った顔をしていた。
「あんたが…アスディアの兄だと?」
「ああ」
「……絶対嘘だ!あいつの兄がこんな賢そうな訳ねぇ!」
「この状況で嘘を言ってどうする!?……まったく、アスディアは相変わらずのようだな」
「ああ、奇人変人だったぞ。後……ものすごく変態」
「………今度会ったらお灸を据えてやろう」
「お、おう」
ガルデアは眼を鋭くしてそう言った。どうやら非常に真面目な人物であるようだ。
「タンマ!話がついていけん!黒服のあんたは何者なんだよ?蒼は何か知ってんのか?」
屍は二人の会話に全くついてこれなかった。まるで屍がいないかのように二人は会話をしていたので仲間外れにされてる感じが嫌だったし、何より、ガルデアが何者か、屍個人も気にはなっている。
まぁ、仲間外れにされてる感じのこの状況が嫌、という理由の方が大きいのだが。……ボッチ気まずいし。
「そうだな、説明はしといた方がいいかもな。この人はパルテミシア十二神の一人だ」
「タンマ」
「いや、なんだよ」
「パルテミシア十二神って伝説上の存在…都市伝説みたいなもんだろ?存在すんのかよ?」
「今、貴様らの目の前にいるわけだが?」
「……本当なのか?」
屍は信じられないと言った様子であったがガルデアの言葉からすると真実のようだ。
『パルテミシア十二神』…伝説上や神話に存在する神であり、この世界を創り出したと言われる神々たちだ。
「まぁ、俺も交信した事があるとはいえ、実際に会ったのは初めてだがな」
「パルテミシア十二神は俺以外に後、五人いる。昔は十三人いたんだが、色々あって数が半数にまで減ってしまった」
「あなたもその神の一人…て事か?」
「ああ、俺は冥界の神。冥界を守護する事が目的だ。後、何らかの理由で冥界に迷い混んだ者を別の世界に連れていくのも俺の役目だな」
ガルデアは淡々と説明をした。蒼はガルデアが思ったより常識的な人物で少し安心していた。
蒼がかつて交信したアスディアはかなりの変わり者かつ変態であった為、他の神々も似たような者たちではないだろうなと蒼は内心ヒヤヒヤしていたのだ。
「で?時神が交信してたっていう、アスディアは何者なんだ?」
「アスディアは俺の三つ子の末っ子の弟であり、パルテミシア十二神の最高神だ」
「な!?時神!お前そんな奴と話したことがあるのかよ!?何で話したことがあるんだよ?」
「………色々あんだよ」
蒼がバツが悪そうにそう言った。屍はそんな蒼の心情を察してそれ以上は聞かなかった。
「アスディアは…というか、俺たちオリュンポス十二神の使命は『世界宮殿』を守護する事だ。アザゼルはこの世界と冥界を入れ換える事で自分自身を『世界宮殿』から抜け出そうとしたのだろう」
「やっぱり、本当なんだな。アザゼルが言ってた事…」
「…ああ、本当だ。『世界宮殿』によって、アザゼルはあの身体になった」
「『世界宮殿』は必要なものなのか?世界中の人々の運命を縛るなんて…」
「この世界を安定させるにはこの世界の全てを管理しなければならない。そうでなければ、世界は容易く崩れ去る。『世界宮殿』は楔なんだ」
蒼と屍は理解していた。世界を安定させるには『世界宮殿』が必要不可欠である事を。
だが、納得は出来ない。かつて、慧留は『世界宮殿』の事を知って、『世界宮殿』を破壊しようとした事がある。
あの時は蒼たちの説得でどうにか慧留は刃を納めたが、蒼自身、『世界宮殿』の事を受け入れている訳ではない。
世界を全て管理する。確かに合理的だ。しかし、人は…魔族には…感情がある。得体の知れないものに支配される事を何より恐れ、嫌うのだ。
『世界宮殿』により、コントロールされてるこの世界に生きて、それは生きていると言えるのだろうか?それは死んでいるのと同じではないのか?
蒼はそういう風に考えるようになっていた。しかし、『世界宮殿』は必要だ。それは間違いない。壊すわけには…いかないのだ。
『世界宮殿』の消滅は…世界の崩壊にも繋がるのだから。
「アザゼルが消滅した事で世界も元に戻っている筈だ。お前たちも速くこの塔から出ろ。この塔は俺が閉じる。ああ、あとそれから…」
ガルデアはそのまま続けた。非常に意味深な感じであった。
「いや、やはり何でもない。俺の気のせいだ」
「そうか、じゃあな、もしアスディアに会う事があったらよろしく言っといてくれ」
蒼がそう言うとガルデアの顔が青冷めた。
「…二度と会いたくないがな、あんな変態と」
「あ、ああ…そう…かもな……」
蒼とガルデアはとても気まずそうにしていた。しかし、屍は二人の会話の意味があまり分かっていなかった為、そこまで気にしてはいなかった。
「じゃ、帰るか」
「ああ…そうだな…」
「どうしたんだよ、屍?」
「俺、今回割と放置されてた気がすんだけど」
「あんな幼稚な罠に引っ掛かるからだ」
「そのネタもういい!いい加減にしろ!てか、それ関係ねぇだろ!!」
「やれやれ、賑やかな奴等だ。さっさと…おい、そこの女をそのままにしておいて大丈夫なのか?」
ガルデアが指摘するまで完全に蒼と屍は舞の事を忘れていた。
「いっけね!速く起こさねぇと!」
屍が舞を起こしにいった。蒼も舞に近づいていった。
屍は錬金術で舞の身体を再び元に戻した。すると、舞はすぐに目が覚めた。
「時神、天草」
「無事だったか…四宮さん」
「いい加減に先生と呼べ馬鹿者」
「いや~無事で良かったな~、四宮」
「ねぇ?話聞いてた天草。先生と呼べ。はっ倒すぞ」
舞は蒼と屍の態度に御立腹のようだ。しかし、それ以上言及するような事はしなかった。
蒼と屍は舞を助け出してくれたのだ。今はそこまで蒼と屍を説教する気はなかった。
「貴様が四大神を全て従えた魔女。四宮舞か」
「ああ、そうじゃ。お主は?」
「俺はガルデア・ハーデス・パルテミシア。パルテミシア十二神だ」
「そんな御方がここに何のようじゃ?」
「用件はもう済んだ。アザゼルを地獄に堕としたしな。後は貴様らが塔から出て、この塔を「閉じれば」俺は冥界に帰る」
「…そうか、時神、天草、さっさとここから出るぞ」
舞がそう言うと、蒼と屍は舞の後ろを付いて行き、去っていった。
「やれやれ、俺もようやく帰れる」
蒼たちの姿が見えなくなってガルデアはそう呟いた。
ガルデアは塔を元に戻そうと中心部に手を置いた。この塔は冥界から伸びている塔だ。
この塔を縮小すれば、万事解決だ。
「やけに手こずったようだな、ガルデア」
後ろから白金の宗教服を来た男がやって来た。髪は金髪であり、三つ網で長く、瞳は白かった。しかし、瞳のハイライトはきちんとあった。
目はつり目であり、美青年であった。
「別に手こずってねぇ…それに…」
「ああ、分かっている。みなまで言うな、僕に会いたかったんだろ?まったく、しょうがないお兄ちゃんだ。僕の事がそんなに恋しかったんだね」
「今の流れで何でそうなんだよ、バカかお前は!出来ればお前とは二度と会いたくなかったよ!」
「分かっている、分かっている。ツンデレ…だね!もう~、可愛いな~、ガルデアは」
「どうしよう、マジでぶっ殺したい」
ガルデアは殺意丸出しであった。しかし、金髪の男は全く怯んでいなかった。
むしろ喜んでいるようにすら思えた。
「ああ!ガルデアお兄ちゃんが暑い視線で僕を見つめてる(;´д`)!その冷たいとも暑いとも取れる視線が堪らない!!(*≧∀≦*)」
「………」
ガルデアは速く帰りたかった。いや、マジで。相変わらずこの男はキモい、キモすぎるとガルデアは思った。
こんなキ○ガイが自分の弟なんて思いたくなかった。
「何で来たんだよ、「アスディア」」
「今回は『世界宮殿』が関わっていたからね。後、君の事も心配だった…」
アスディアはそう言いながらガルデアに顎クイをした。ガルデアはイラッときて、アスディアに殴り掛かった。しかし、アスディアはそれを華麗に避けた。
マジでこんな奴が最高神とかあり得ないとガルデアは思った。実力は申し分ない。
だが、それを差し引きマイナスになるほど、アスディアは性格面で酷かった。
とてつもなく女好きであり、男もいけてしまうバイセクシャルであり、美男美女が大好きな変態である。
更にとてつもなく自由人の為、度々、『世界宮殿』を抜け出しては美男美女をお持ち帰りしている為、ガルデアにとっては悩みの種であった。
「そう言えば、お前が言っていたハーフエンジェルに会った」
「フローフルに会ったのかい?」
「今は時神蒼と名乗っているがな」
「へぇ~、可愛い顔してるだろ?欲しいな~フローフル…いや、今は蒼か…」
「いや、そっちかよ」
アスディアは恍惚とした表情をしていた。どうやら、相当蒼の事が気に入っているようだ。ガルデアはそんなアスディアに呆れ果てていた。
「この塔も冥界に戻した。俺はもう帰るぞ」
「兄弟のせっかくの再開なのに…釣れないな~」
「イシュガルがいるだろ?」
「イシュガルは…毎日現世を見てて僕にかまってくれないんだもん!」
「まぁ、イシュガルは現世を守護する事が役目だしな。お前は『世界宮殿』を守るだけだもんな。そりゃ、普段は暇だな。『世界宮殿』に来る奴はそうはいないしな。だが、だからといって現世の人間を持ち帰るな!イシュガルも迷惑してんだろ!」
「え~、それは仕方ないよ~。僕は一度昂ぶると抑えが効かないし」
「少しは自重しろバカが!」
「(´・ω・`)」
ガルデアは今までの冷静さと静けさを感じさせなかった。普段は寡黙な人物である為、余計に違和感が感じる。
アスディアはしょんぼりとしていた。まぁ、自業自得だが。
「……ローマの様子はどうだ?アスディア?」
「………近い内に動き出すかもしれないね。けど、僕たちは現世に深く干渉出来ない。『世界宮殿』が定めたルールによって」
「システムってのはお堅いものだな」
「仕方ないよ、仮にそんな制約が無かったとしても今のローマは相当ヤバイ。僕たちも心して挑まないといけない」
今までおちゃらけたアスディアとは思えないほど真面目な話し方をしていた。
流石は最高神といったところか。
「? 何処へ行く?ガルデア?」
「………」
「待て!話は終わっていないぞ!」
「俺は忙しいんだ。帰らせてもらう。今、お前と話すのは正直疲れる」
ガルデアはそのまま姿を消した。
「………僕も………帰ろかな」
To be continued
【第四章】百夜亡霊篇、いかがでしたでしょうか?
今回は舞について色々語られましたね。そして、次回から今回出てきたイシュガルドについて書いていきたいと思います。今回は短めだったんですが、次の章は少し長くなりそうです。
この百夜亡霊篇でまたまた新キャラを出してしまった。ぶっちゃけ、キャラの総数把握しきれてません。忘れてるキャラも結構います(笑)話に矛盾が生じてるかもしれませんがそれは…もう…多目に見てください。
次回の話は色々謎だった事が明らかになります。そして、蒼たちの転換期でもあります。物語の転換期がUSW侵攻篇なら今回は蒼たち自身の転換期となります。
それではまた次回お会いしましょう!




