【第四章】百夜亡霊篇ⅧーInvisible goddessー
蒼は頂上の一歩手前まで来ていた。蒼本人はいつになれば頂上につけるんだと嫌気が指していたが。
この塔は相当の高さがあり、蒼はいい加減にうんざりしていた。
「………」
蒼はくたびれた表情から一転。警戒態勢に入った。何故なら、この部屋は今までの部屋とは雰囲気が違っていた。
辺りは霧に包まれ、視界が遮られているからだ。敵がいる、それはまず間違いないだろう。蒼は慎重に歩き出した。
それにしてもこの霧は非常に濃い。まるで、あの世に向かっているようであった。まぁ、蒼はあの世なんて当然行った事などないのでそんな気がする…というだけだが。
あの世と言えば、蒼はこの塔で三体の守り神と戦い、勝利したが後一体残っている。カナロアだ。カナロアと言えば、海と冥界を司る神だ。
今までの傾向からして、恐らくこれはカナロアの仕業であろう。という事は頂上までは案外近いのかもしれないと蒼は思った。
「…【第二解放】」
蒼は【氷水天皇】の【第二解放】を発動した。
蒼の瞳はサファイアの様に蒼い瞳になっていた。さらに髪は白く染まっており、全身に白い衣を纏っていた。
背中には水色の翼が左右に生えており、頭上には五芒星の形をした輪っかが出現していた。
「【アルカディアの氷菓】」
次の瞬間、霧が一瞬で凍り付いた。蒼が【アルカディアの氷菓】の力で周囲の霧を凍らせたのだ。
これだけの範囲の霧を一瞬で凍らせたがカナロアは特に動揺はしていなかった。
「そこか」
蒼は【氷水天皇】を虚空に振り上げた。すると、巨大な鮫の化け物が出現した。
間違いない、奴がこの霧を発生させていた。
そして、奴がー
「カナロアだな。とっとと倒させて貰うぜ」
蒼はそのままカナロア目掛けて刀を振り上げた。しかし、そこにカナロアの姿はなかった。
「消えた!?」
カナロアは蒼の後ろをとっており、突進してきた。しかし、蒼は咄嗟にカナロアの位置を察知し、攻撃を回避した。
いつの間にか蒼が凍らせた氷は解除されており、再び水と霧が発生していた。
カナロアは水と霧の乱反射で幻覚を作り出し蒼を惑わしているのだ。
惑わせながら戦うことがカナロアの戦術と言える。
蒼が凍らせた水と霧は既に復活していた。これでは蒼は直にカナロアにやられてしまうだろう。
更に、蒼の周りには大量のカナロアの幻影が出現していた。これは非常に邪魔くさい。
「トリックが分かればこっちのもんだ」
蒼はそう言って、氷の翼を広げた。すると、カナロアの幻影は全て消え去った。
「!?」
カナロアは呆気に取られたかの様な顔をしていた。自身が仕掛けた幻影を全て消し去った蒼に驚愕していたのだ。
蒼は『氷翼』を展開し、辺りの水を凍らせ、辺りを氷の世界に変えた。
今は『氷翼』が展開されているため、カナロアの力では再び氷と水を発生させることが出来ない。
仮に発生させてもその瞬間に凍らされる。
「終わりだ。【氷魔天刀】」
蒼はカナロアに接近し、その氷の刃でカナロアを切り裂いた。
カナロアは声を出さずに消滅した。まるで、消滅する事を望んでいたようであった。
「これで四大神は全て撃破した…が、まだ何かあるかもしれねぇ」
蒼はそのまま、塔の上を昇っていった。頂上まで後少しだ。
~カナロアの追憶~
カナロアは特に何も望んでなかった。強いて言うなら誰にも触れられずに生きていきたかった。
カナロアは冥界と海を司る神。誰にも語られず、静に生きれる筈であった。
四宮舞の事も当時はまったく興味が無かった。四大神の中でもカナロアは舞に対してはどうでもよく思っていた。
しかし、アザゼルが四大神の力を、いや、厳密にはカナロアの力を狙ってきた。
カナロアは舞に協力する事にした。当時はそうするしかなかった。
しかし、舞と共に過ごす内にカナロア自身も心境の変化があった。
舞を大事な友と思うようになっていた。そして、今はその友を助けたいそう考えるようになっていた。
四宮舞はどうやら特別な存在であったようだ。
カナロアの願い、それは至極単純なものであった。
ー舞を助けて…ー
とうとうカナロアまで呆気なく倒されてしまった。残すは頂上だけだ。
アザゼルは祭壇の中心に立った。
「終焉の時は近い。ここで全てを終わらせる!」
アザゼルは敵を…時神蒼を迎える準備は既に整っていた。後は蒼を倒すだけ。それで全ては終わる。
「最終段階まで来ている。どんなに抵抗しようとも無駄よ!」
アザゼルは自分の前に映像を映し出していた。
世界の冥界化によって出現した骸骨兵と戦い続けているドゥームプロモ・ドラコニキルを始めとしたUSW。
冥界化を止めている月影慧留、そして、同様に骸骨兵と戦っている十二支連合帝国の者たち。
ヘレトーアとローマ合衆国はまだ静観しているようだが、いずれはUSWや十二支連合帝国と同じような状況になるだろう。
まぁ、アザゼルの最終目的はこの世界を『世界宮殿』の呪縛から自身が解放される事、そして、魂に生も死も無くす事だ。
後はどうなろうが知った事ではない。アザゼルは自分が解放されればそれでいい。
自由になりたかった。それだけだ。何かに縛られて生きるのはたくさんだ。
アザゼルは自身が霊体である為、誰かに取り憑かなければ生きて行けない。縛られる事が嫌だった。
アザゼルは元から霊体だけの存在であった。誰かに取り憑く事で生き永らえていた。
そうしていく内に『世界宮殿』の存在に知り、アザゼルは絶望した。
只でさえ、誰かに取り憑かなければ生きていけない、その理由が『世界宮殿』によって、運命によって自身は霊体になっていたという理不尽な理由であった事、それを知りアザゼルは世界を…『世界宮殿』を恨んだ。呪った。
そう、自分がこんな身体になったのは『世界宮殿』のせいであり、それは非常に理不尽であった。
こんな事が赦される筈がない。アザゼルはかつて、『世界宮殿』を潰そうと考えた。しかし、それは出来ないと悟った。
何故なら『世界宮殿』には絶大な力を持った守護神たちがいるからだ。
彼らの総力はさる事ながら、一体一体も化け物クラスの力を持っており、アザゼルでは勝負にもならない。
大人に勝てる赤子なと存在しない。守護神一体倒す事すら、アザゼルは出来ないのだ。
それだけ、『世界宮殿』の守護神たちは強大な力を持っているのだ。
だからこそ、アザゼルは『世界宮殿』の力がこの世界から解放する手立てを考えることにした。
それが四大神を使った、現実世界と冥界を入れ替わる計画だ。
この計画は少なくともアザゼルは百年前から暗躍しており、カーシスもアザゼルに協力していた。
厳密にはお互いの事を協力しつつ、干渉しないという、ギブアンドテイクだった。
アザゼルは自身で手に入れた光を必ずものにする。『世界宮殿』から脱却する。
例え全てを犠牲にしても自分自身の身体を…誰かに依存する必要の無い身体を手に入れる。
そう、アザゼルは間違っていない。
「私は間違っていない。世界が間違ってる!私をこんの身体に…許さない赦さないゆるさないユルサナイ、この世界を変える、例え全てを犠牲にしても!こんな現実世界いらない!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろキエロ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろキエロ消えろ消えろ消えろ消えろキエロ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろキエロ!!!!」
アザゼルはまるで光を求めるゾンビのようであった。目は血走り、まともじゃなかった。
アザゼルはとっくに狂っていた。それは分かりきっていた。この世界が…許せないのだ。
慧留は世界の冥界化を自身の【時黒王子】の力で止めていた。
ウルオッサを始めとした、遥や一夜、薊やくる、湊たちは冥界化によって出現した骸骨兵たちと戦っていた。
「敵の数も多くなってきたわね」
「このままじゃ、ジリ貧ですよ」
遥と湊は敵とかなり長い時間戦っており、かなり、ヤバイ状態だ。特に湊は霊力が尽き始めていた。
他の者たちも徐々に体力が尽き始めていた。
逆に敵の力はどんどん強くなっていっている気がしていた。
「厄介だね」
「減らず口叩いている暇があるんなら手を動かしなさい」
「きっつい事言うね、蛇姫くん…」
一夜はくたびれた様子だった。それは恐らく薊も同じだ。敵が全く減らないどころか更に強くなっている気すらする。
そして、恐らくそれは気のせいではない。世界の冥界化がかなり進んでいる事によって骸骨兵の力が上がっているのだ。
戦意が削がれていっても仕方がないというものだ。
終わりのないゲームを延々とやり続けられる者はそうはいないのだ。
「う~、ヤバイよ~」
「ボキャ貧か!君は!?」
「うるさい!」
くるのあまりにもアバウトな発言に一夜は突っ込みを入れずにはいられなかった。
くるは相変わらずのようだ。いや、人間…(くるや薊や屍などは人間じゃないが)根本的な所はそう簡単には変わるものでもない。
時の流れで心境が変化する事はあるかもしれないが、その人自身の根本的な所はそうそう変わらない。
くるに限った事ではないかもしれないと一夜は思った。
「ごちゃごちゃ喋ってないで集中しなさい!」
遠くにいた遥に大声で言われ、皆戦いに集中し始めた。
しかし、異変は起こった。骸骨兵が今までと比べるとかなり頑強になっていた。
「ぐっ!?これは…」
「これだけの数を相手にしてるだけでも面倒なのに、更に強くなるっていうの!?」
「心折れそう…」
今までとは明らかに違っていた。今までは緩やかな力の上昇であったが、今は急速に骸骨兵の力が上がっていた。
「諦めるな!まだ終わっていない!ここで負ければ全てが無意味になる!最後まで抗え!」
「仕方ないね、もう少し粘るか」
「どちらにしても戦うしかないしね」
「まだまだやるぞー!」
「こういう時遥さんは頼りになるな~」
遥が叫ぶと士気が上がった。
だが、遥は不意を突かれ、骸骨兵に刃を向けられた。
「!?」
「遥さん!」
しかし、骸骨兵は粉々に消えていった。まるで炎に焼かれたようであった。
「ふっ…ここまでよくやったな、後は任せろ」
「あなたは…赤島英明」
やって来たのは赤島、兎神を始めとした魔道警察官たちであった。
どうやら、事態に気がつき、向かったのだろう。
「敵は骸骨兵たちだ!かかれ!」
兎神が警察官たちを指揮していた。兎神が命令を下すと他の警察官たちが骸骨兵に立ち向かっていった。
数はまだまだ骸骨兵の方が多いが、なんとか持ちこたえる事が出来た。
遥たちも再び骸骨兵と戦った。
「…思った以上にヤバイね…このままじゃ、後、一時間も持たないかも」
慧留はそう呟いた。突然、冥界化の侵食が大きくなっていっていた。
本来なら半日は持たせる事が出来る筈であったが、今のこの状況では一時間も持たない。
「どうやら、この侵食はファントム島から広まっているみたいだね」
ウルオッサは遠くを見渡しながらそう言った。ウルオッサは霊力の探知能力と遠くを見渡せる視力を持ち合わせている。
それを踏まえてウルオッサは答えている。どうやら、ファントム島は当たりであったようだ。
だが、このままでは蒼がアザゼルを倒すより先に十二支連合帝国を含めた世界そのものが侵食されるかもしれない。
慧留もどうにか食い止めようとしているが、魔力の力が膨大で中々上手くいかない。
慧留の【時黒王子】の能力は「過去の改変」だ。
侵食されていないという過去に改変させる事でどうにか侵食を止めていた。
しかし、呪術や魔術の戦いは言い換えれば霊力や魔力の戦いだ。どんなに能力がチートでもそれを上回る霊力や魔力で力を押し潰す事も理論的には可能だ。
まぁ、相手の魔術や呪術を押し潰すだけの魔力や霊力を持っている者はそうはいないが。
つまり、この侵食の魔力は慧留の魔力を遥かに凌駕しているのだ。
慧留の過去改変の力を押し潰す程の大魔力。それだけの魔力がこの侵食の力にはあるのだ。
どうやら、アザゼルはこの時の為に相当な下準備をしていたようだ。
はっきり言って、USWを始め、アザゼルを見くびっていたとしか言いようがない。
慧留はこの侵食を通じてアザゼルの思いを感じ取っていたのかもしれない。
いや、思いなんて生易しいものじゃあない。これは、怨念に近い感情だと、慧留は察した。
実際、その通りなのかもしれない。徐々に邪気が強くなっていた。
更には障気までも発生していた。障気はある程度、耐性のある者であれば耐える事が出来る。
しかし、障気に耐性のある者の方が少ない。もし、侵食が完了してしまえば、この世界の大半の人間や魔族は生き絶えてしまうだろう。
「蒼…お願い…四宮先生を助けて…!お願い…止まって!」
慧留は祈る様にそう呟いた。しかし、慧留の思いは無情にも届く事は無く、侵食は強くなる一方だ。
慧留は侵食を食い止め続けるしかない。ここで止めなければ、この世界は滅びを迎える。
「速く勝ってくれよ。時神蒼…面倒なのは御免なんだ」
ウルオッサはそう言って、慧留の周りに群がっていた骸骨兵を弱体化させ、倒した。
ウルオッサは別に慧留に対して、特別な感情を抱いているわけでも、守りたいとうわけでもない。
ただ、この世界が侵食されてしまえば、ウルオッサの望む静かで平穏な暮らしが遅れなくなってしまう。それは間違いなかった。
だからこそ、ウルオッサは慧留を助けている。この世界を守ろうとしている。己の平穏を守る為に。
「ウルオッサ…ありがとう…」
「君の為じゃないよ。勘違いしないでよ」
「それでもだよ…ありがとう…」
「…す…素直に礼を言われると気持ち悪いよ」
「そこ、照れなくてもいいよ」
ー…まぁ、礼を言われるのも悪くないか…
慧留は引き続き侵食を止め、ウルオッサも慧留を守りながら戦い続けた。
ここはUSWの海岸だ。ネオワシントンからかなり離れており、ドラコニキルたちはここで様子を眺めていた。
ここからだとファントム島がよく見える。ドラコニキルたちはこの反転現象はファントム島を中心に起こっている事が分かった。
その為、ドラコニキルと数名の『アンタレス』の部下を連れて、海岸まで向かったのだ。
先程まで侵食が広まっていたのだが、今はピタリと止まっていた。
恐らく誰かがこの侵食を食い止めているのだろう。
「今は様子を見る。それまでは待機だ」
ドラコニキルはそう言った。すると、横に赤髪の大男の黒人がドラコニキルの隣にやって来た。
グリトニオン・ニヒルだ。ドラコニキルと同じアンタレスの幹部である『七魔王』の一人だ。
「ドラコニキル、ウルオッサとアルビレーヌ…後、ラナエルは上手くやれているのだろうか?」
「心配ない、あれでもやる時はやる。それはお前も分かっているだろう?」
「……そうだな。…しかし、こんな時にスープレイガもグリーフもいないとは…」
「……奴等は勝手にフラフラどっかに行くからな…肝心な時にいないのは困り者だな…」
スープレイガとグリーフアルトは彼らと同様、『七魔王』だ。
彼らは暇な時はネオワシントンにいる事が殆ど無く、勝手にどこかに行ってしまう。
最後の『七魔王』にルッシュベルがいるが、彼はネオワシントンに残している。流石に『七魔王』が全て出陣するわけにもいかなかったので、彼だけ残してきたのだ。
「…ドラコニキル」
「ああ、来たな…各員、戦闘準備を始めろ」
骸骨兵が姿を現した。ドラコニキルは部下たちに命令を下した。
蒼は巨大な扉の前に立っていた。この扉の先に恐らく、アザゼルがいる。
蒼はそう直感した。蒼は両手に刀を持ち、扉を切り裂いた。
「とうとう、来たのだな。時神蒼。久しぶりね」
「ああ、あったのはついこの前だったのに、随分久しぶりな気がするぜ」
「私はこの時を待っていたのよ。お前を消すこの時をな」
「?」
蒼はアザゼルの口調に違和感を覚えた。男口調と女口調が混じった様になっており、蒼はそんなアザゼルを不気味に思った。
まるで、彼女は自分が男か女かすら分かっていないようであった。
「僕は色んな人間を乗っ取ってきた。そうしなければ、私は生きていけなかったからな。男か女かによって口調を変えてきたわ。その他、憑依した者の性格に合わせていた。そうしていく内に自分が何者か分からなくなっていった…」
「……」
蒼は黙って聴いていた。アザゼルは実体を持たない幽体の存在だ。
実体を最初から持たないということは誰かに取り憑くしか生きる術はない。
だからこそ、アザゼルは誰かに取り憑きながら生きてきた。
「誰かに取り憑いて生きる事が苦痛だった…そう言いてぇのか?」
「どうだろうね…だが、俺は自分の事が分からなくなった…それがどうしても、耐えられなかった。私は何故、こんな身体なのか…そして、真実に辿り着いたわ、百年前にね」
「『世界宮殿』…か…」
「…知ってたのね、まぁ、あなたは「選ばれた」者だからね、『世界宮殿』に!僕は『世界宮殿』によってこんな身体にされたのに!」
蒼はアザゼルの目的を大体理解した。蒼はアザゼルに少しだけ同情していた。
アザゼルは『世界宮殿』に踊らされた犠牲者だった。
だが、だからと言って、アザゼルをこのままにするわけには行かない。
「そいつは災難だったな。だが、だからってこの世界をお前の好きなようにするわけには行かねぇ!」
「世界に否定された私の事を知らずに!この世界は腐っている!間違ってる!間違ってるのは正すしかない!消すしかないのよ!」
「違う!間違いはやり直せる!」
「それはただの綺麗事だ!傲慢な者の考えだ!僕はこの世界を壊す!」
アザゼルは眼を血走らせながらそう言った。それはまるで、悪魔のような形相であった。
蒼は両手に刀を握った。アザゼルも四大神を四体全て召喚した。
彼らはアザゼルに洗脳されているのか、眼が虚ろであった。
四大神は本来の姿で召還されていた。クーは鶏、カネは小人、ロノは牛、カナロアは魚の姿をしていた。
「ふっ…ここであなたを倒せば全てが終わる!」
「いや、仮にお前が俺に勝っても変わらねぇよ」
「わたしは支配から逃れる!誰にも支配されない世界に!一人で自由になる!」
「…誰かに依存せずに一人で生きるなんて無理だ。仮にお前が自分の身体を手に入れたとしてもそれは変わらねぇよ」
「うるさい!うるさい!黙れ黙れええ!!貴様をここで殺す!」
アザゼルが叫ぶとクーとロノが動き出した。ロノが地面を踏みつけると地面から大量の樹木が発生した。
まるで、森そのものが蒼に襲い掛かってきているようであった。
「【第二解放】」
蒼は【氷水天皇】の【第二解放】を発動。
瞳は蒼く、白い衣を纏っており、後ろには氷で出来た翼が両翼に生えており、図上には五芒星の輪っかがあった。
その姿はまるで、氷の天使のようであった。
「【アルカディアの氷菓】」
「【第二解放】か…」
ロノが発生させた樹木はいつの間にか凍り付いていた。凍り付いた樹木は粉々に砕け散った。
しかし、蒼の足元に樹木が大量に出現した。その樹木に蒼は身体を拘束されてしまった。その瞬間、クーが大声で叫んだ。
「クー!!!」
すると、蒼を縛り付けていた樹木が爆発した。ロノの出現させる植物は可燃物であり、非常に燃えやすい。
それにより、クーの爆発の威力が上がっているのだ。
しかし、蒼は【アルカディアの氷菓】の力で爆発ごと凍らせ、攻撃を防いだ。
しかし、爆発を凍らせるという無茶な荒業をした為、氷が砕け散った瞬間、氷から霧が発生した。
蒼は視界を奪われた。辺りは何も見えなかった。
「霊呪法第三九番【神風乱滅】」
蒼の周囲に突風が発生し、氷の霧を吹き飛ばした。しかし、アザゼルと四大神はどこにもいなかった。
蒼は上を見た。しかし、上にもいなかった。なら、考えられるとしたら…
「下か!」
蒼が言うと、蒼の足元からカネが出現し、鱗分で攻撃を仕掛けた。
カネの放つ鱗分は傷を癒す力があるが、逆に浴びすぎると命を落としてしまうという。
この鱗分の量はどう考えてもヤバかった。
「【ワルプルギスの夜!】」
蒼は【氷水天皇】を納刀し、【アルカディアの氷菓】を一旦解除し、【黒時皇帝】の【第二解放】を発動。
蒼の神は白から黒へと変わり、黒い衣を纏っていた。更に、翼も黒く、瞳も黒くなっていた。
さらに、図上には歪な形をした輪っかがあった。
「【時間停止】」
蒼以外の世界が白黒になった。【時間停止】は蒼以外の時間を数秒間止める。
蒼はカネの後ろに回り込み一撃を入れた。そして、その後、カネから離れた。
「!?」
カネは地面に叩きつけられた。何が起こったのか理解していないようだ。
無理もない。時間を止める能力など簡単には気付けないだろう。
時間が止まっている間は意識もないのだから。
「【黒雷】」
アザゼルが蒼の後ろに表れ、黒い雷を放った。蒼は攻撃を【黒時皇帝】で黒雷を切り裂き、更に、【時間加速】で自分の時を加速させ、アザゼルに接近し、アザゼルの右肩を切り裂いた。
「くぅ…」
アザゼルは蒼から距離を取った。その後、カネの鱗分によって、身体の傷を癒した。
アザゼルは忌々しげに蒼を見ていたが、落ち着きを取り戻したのか、すぐに表情を戻した。
そして、カネはいつの間にか姿を消していた。
「カネの回復能力か…面倒だな…」
「心配しなくても、この力は何度でも使えるわけじゃないわ」
「だろうな、カネの鱗分は薬であり毒。使い続けるとお前の身体が壊れる」
「……」
アザゼルは人指し指を上に突き上げた。すると、地面から間欠泉が発生した。
蒼はアザゼルの意図が分からなかった。
蒼は氷を操る。水は蒼にとって武器にしかならない。無論、蒼が一方的に有利というわけではないが、それでもこのタイミングで水を発生させたのは謎としか言いようがない。
「なんのつもりだ?」
「すぐに解るよ」
アザゼルはニヤリと嗤った。蒼は今までで一番ヤバイ気がした。
根拠は無い、だが、蒼はアザゼルが今、何かとんでもないことをしたような気がした。
「あなたの力は時間と氷、水を操る。君ののその力はいずれも恐ろしい力だ。だけどね、どんなに強い力でも「使い物にならなければ意味がないのよ」」
「?」
蒼はアザゼルの言葉の意味が分からなかった。だが、しかしアザゼルが何かをしたことは明らかだ。
いつの間にか蒼はアザゼルにしてやられていた。それだけは確かだ。
蒼は一瞬考えを巡らせるが駄目だ。分からない、アザゼルが何をしたのか。
そもそも、蒼はアザゼル所か舞の事もなにも知らない。そんな蒼がアザゼルの考えを読むなど出来る筈もなかった。
「言ってる意味が分からないって顔だね。けど、君は僕が何かしたという事には気が付いたみたいだね。それに関しては素晴らしい。あなたは勘がいいね」
「……」
蒼は寒気がしていた。今回の事件でここまで寒気がした事などなかった。
今までの蒼はそこまで苦戦する事無く、この塔の頂上までやって来た。
アザゼルはそれすらも計算に入れていたのかもしれない。
「…準備は整ったわ」
「何…だと…」
アザゼルは蒼に攻撃を仕掛けた。【黒雷】だ。蒼は攻撃を回避した。
攻め方が些か単調であった。なので、避ける事はさほど難しくなかった。
蒼はなんなく攻撃を回避した。
ー妙だ…攻め方が単調すぎる。
蒼はアザゼルに突進を仕掛けた。しかし、アザゼルに攻撃を回避されてしまった。
速力が上がっている…にしては違和感があると蒼は感じた。
ー違う!これは速力が上がってるんじゃない!どうなってる!?
「どうしたの?攻撃が当たってないよ?」
アザゼルはおどけながらそう言った。アザゼルは空中を舞い、攻撃を仕掛けた。
またしても黒い雷が蒼を襲う。蒼は攻撃を回避しては当たりそうになる雷は黒刀で叩き落とした。
「【氷水天皇】!」
蒼は右手に水色の刀を取り出した。蒼は二つの『天使』を同時に【第二解放】を使用する事を避けていた。
理由は単純で消耗が非常に激しく、長時間使用できないからだ。
相手の能力の全貌が分からない以上、奥の手を簡単に使うわけには行かなかった。
蒼はまず、足元の水を凍らせる事にした。足元を凍らせた方が蒼にとって有利に戦いを進める事が出来るからだ。
しかし、蒼は異常に気が付いた。
「な!?何だよ…これは!?」
アザゼルは漸く気が付いたかと言った顔をした。そして、不適な顔をして嗤っていた。
To be continue




