【第四章】百夜亡霊篇Ⅶーreminiscent of godsー
~カネの追憶~
カネはUSWの守り神として崇められていた。多くの者たちに安らぎを与えてくれた。
しかし、怒りを買ったものには容赦がなかった。カネに限らず四大神は二面性の持ち主たちだ。
必ずしも人間に友好的な訳ではない。それに、四大神全員に好かれるなど今まで、四宮舞が現れるまで前例がなかった。
カネは無邪気な性格であり、よく「ライフ島」を飛び回る事も多かった為、当時はかなり、色んな人から認知されていた。
まぁ、舞の身体に居着いてから百年以上経つため、今は四大神自体があまり、認知されなくなってきているが。
カネの望みはたった一つだけであった。たった…一つだけ…
友達が欲しかった…
「これは…やばそうだね」
一夜が冷や汗をかきながらそう言った。
慧留は港に行き、港より先にある海と空が反転いている事に気が付き、一夜たちを港に集めた。
さっき来た時よりひどくなっている気がする。
「アザゼルが何か始めたのは確かだね~。何としても食い止めないとヤバイよこれ」
「とは言ってもこれどうやって止めるの??」
ウルオッサが呑気そうに言っているとくるが困った様子であった。
今、ここにいるのは慧留、一夜、ウルオッサ、くる、薊、湊、遥である。
どうにかしてこの状態を止めなければならない。今のところは問題ないがいつマズイ事態に陥っても可笑しくはない。
「!? 何か来る!」
薊が海の方向に指を指した。慧留たちは薊が指を指した方向を見た。すると確かに何かがこちらに向かって来ていた。
大量の骸骨だ。それに骸骨たちは刀や槍、とにかく武器を持っていた。どう考えても無害…ということは無さそうだった。
案の定、この港に上陸すると慧留たちに襲い掛かって来た。
「うわ!やっぱ襲い掛かって来たよ!」
「マズイね。侵食もどんどん広がってる…」
徐々に空と地上が反転する範囲が広がっていた。港の一部もすでに侵食され始めていた。
「……私が…侵食を食い止めます」
慧留がそう言って刀を取り出した。その刀は紫の刃であり、不気味な雰囲気を醸し出していた。
そして、慧留は呼んだ。その刀の名を。
「【時黒王子】」
慧留の背中から骨と漆黒の羽根でできた翼が生えた。更に全身が黒い喪服に包まれていた。
更に瞳は黒から紫に変わっており、頭も黒いヴェールで包まれていた。
そして、慧留は黒紫の錫杖を顕現させた。
「【世界逆流】」
侵食が止まった。しかし、止まっただけで元に戻った訳ではない。
【世界逆流】は時間を巻き戻す力だ。その力で侵食する前の時間に巻き戻し、侵食を食い止めている。
しかし、侵食する力が強すぎて、慧留の力では食い止めるだけで精一杯だ。
「どれくらい持つんだい?」
「…半日が限界ですね…私の魔力が持ちません」
一夜の質問に対し、慧留は冷静に答えた。これだけの大規模な侵食だ。仕方ないだろう。
侵食が止まっても、骸骨兵は止まらない。慧留は侵食を止めるのに手一杯で戦える状態ではない。
慧留に骸骨兵が襲い掛かる。しかし、骸骨兵はそのまま砕け散った。
「私たちがお姫様を守らないとね!」
「遥さん!」
遥が音の力で骸骨兵を吹き飛ばしたのだ。
「起きろ、【怠惰人形】」
ウルオッサが悪魔解放を使用した。ウルオッサの身体は全身が包帯に包まれており、頭には二本の角が生えていた。
瞳は右目だけ露出しており、水色に変化していた。髪も包帯に巻かれているものの一部は露出しており、水色に変化していた。
そして、背中には巨大でしかし、ボロボロの黒い翼が生えていた。
「【世界堕落】」
ウルオッサは宙を舞い、翼を広げた。すると空に巨大な魔方陣が出現した。すると、骸骨兵がばたばた倒れていった。そして、そのまま骸骨兵はバラバラに消え去った。
ウルオッサの能力は『減衰』。相手の力を弱めるデバフに特化した悪魔だ。
しかし、効果範囲はそれなりにあるものの効果範囲外に出られると打つ手が無くなる。それ以前に効果範囲をある程度狭めないと見方まで巻き込むという欠点も存在する。
それに効果が現れるのに個体差はあるものの多少時間が掛かるため、ウルオッサはその間無防備になる。
それを補う為に、防御系の能力も扱えるがあれは味方も巻き込む為、無闇に使えない。
「ここは僕とお姫様で何とかするから君たちは他の所に行って」
ウルオッサがそう言った。確かに骸骨兵はここ以外にも侵入を始めていた。このままでは町にまで被害が及ぶだろう。
「分かったわ。皆行きましょう!」
遥がそう言うと、他の皆も首を縦に振り、そのままウルオッサと慧留の元から去り、侵入した骸骨兵の掃討に当たった。
「どうも、僕たちは縁があるみたいだね、お姫様」
「うん、そうだね…」
「雑くない!?」
ウルオッサの言葉を慧留はどうでもよさそうに流した。それに対してウルオッサは堪らず声を荒げた。
慧留は何を考えてるかよく分からないなとウルオッサは思った。まぁ、慧留も同じことをウルオッサに対して思っているだろうが。
ここはウルオッサと慧留の二人で何とかすることになった。
「ここは…」
蒼はそう呟いた。蒼はアザゼルが造り出した搭「ネルヘルカの塔」の頂上を目指していた。
この手の塔は頂上に敵のボスがいるというのがお約束の展開である。
だがこの塔はとてつもなく長く、蒼は先程見たことがあるような場所に辿り着いていた。
この塔は大きな広場がいくつかあった。そして、その広場には必ず敵が現れる。
一番最初に現れたのは四大神の一体である、カネだ。それ以降は骸骨兵が現れる様になっていた。
「ここも何か出そうだな…」
蒼がウンザリした口調でそう言うと案の定、蒼の目の前に光が発生した。
現れたのは巨大な牛の化物であった。四大神の一体、「ロノ」だ。
「ロノ」は豊穣と実りを司る神であり、「ロノ」がいたからこそ作物が育つようになったと言われている。
「お出ましか…今度はロノか…」
蒼は水色の刀を右手に持った。蒼の「天使」だ。
「ぶもおおおおお!!!」
「ロノ」が叫びを上げると地面から巨大な樹木が出現し、蒼に襲い掛かって来た。
「【氷水天皇】」
蒼は刀を振り上げた。すると、辺りの樹木は一瞬で凍り付いた。
蒼の天使である【氷水天皇】の能力は氷と水の力だ。
ロノは植物を使って攻撃してくる。蒼との相性は最悪であり、蒼が圧倒的に有利だ。
「植物と氷では勝負は見えてるぜ」
蒼はそのまま、【氷水天皇】を振り上げた。すると、氷が発生し、ロノを一瞬で凍り付かせた。
「ぶもおおおおお!!!」
しかし、ロノは氷を一瞬で砕いた。そして、身体に植物を纏い、蒼に突進してきた。
蒼は氷を発生させたがロノは蒼の作った氷をものともせず、蒼に肉薄した。
「くっ!」
蒼は【氷水天皇】でロノの突進をガードした。しかし、ロノの力は凄まじく、蒼は押し負け、吹き飛ばされた。
「【虚神】」
蒼は背中に防壁を作り、ダメージを受けなかった。
だが、うかうかしていられない。相手は蒼の氷を粉砕してくる。ただ単に凍り付かせるだけではこちらがジリ貧になってしまうだろう。
「ぶもおおおおお!!!」
ロノは再び突進してきた。蒼はロノの突進を紙一重で回避した。
速度も段々速くなっていた。このままでは蒼はロノにスクラップにされてしまう。
「様子見はここまでだな。【氷零双翼刃】」
ロノの足元に氷の刃翼が出現し、ロノを捉えた。ロノの身体中に氷の刃翼が突き刺さっていた。
「【氷神業火】」
【氷水天皇】の刀身が赤く染まった。【氷神業火】は氷属性に炎の力を加えた一撃だ。
炎と氷がロノに襲い掛かる。
「ぶもおおおおおあああああ!!!」
ロノは絶叫を上げ、凍り付いた後、炎に焼かれて粉々に消え去った。
「ふぅ…」
蒼は一息ついた。思ったより倒すのに時間が掛かった。まぁ、それでも蒼は最後まで余裕の表情を崩さなかったが。
この戦いも蒼の圧勝であった。
蒼は頂上を目指して再び登り始めた。
~ロノの追憶~
ロノは平和を願った。争いは嫌いであった。だからこそ、豊穣の神として尽くしていた。
だが、そんなロノにも好き嫌いはある。平和や秩序を乱す者は嫌いだ。
ロノは…四宮舞に惹かれていた。それは他の神々たちも同じであったようだ。
彼女は穏やかな心を持っていた。困っている人を見捨てられないお人好しでもあった。
ロノはそんな舞に可能性を感じたのかもしれない。生活が豊かになっても争いは消えない。消えることはない。
それはこの世界で生きている以上当然なのかもしれない。だが、それでもロノはこの世界の安寧と平和を望んだ。
そう、ロノの願いはー
この世界の平和…ただそれだけだった。
アルビレーヌは兵隊たちとずっと戦い続けていた。しかし、流石に体力が尽き始めた。
何せ、何時間も戦い続けていたのだ。疲労はかなり溜まっていた。
アルビレーヌは既に『悪魔解放』を使用していた。
一気に敵を殲滅しようと考えたが、いくら戦っても敵が減る気配がなかった。
このままではアルビレーヌの体力が先にそこを尽きてしまう。この兵隊を造り出している本体を倒さなければ収まりそうになかった。
アルビレーヌはこの戦いの最中に幾度も本体を探したがそれらしき者は見つからなかった。
「はぁ…はぁ……!」
兵隊がまた襲い掛かって来た。アルビレーヌは水で出来た鎌で兵隊を切り裂いた。
だが、敵はぞろぞろ地中から顔を出してくる。
ーはぁ…面倒な事引き受けてしまったわね…
アルビレーヌはくたびれた顔をした。地面から敵が出てくる度にアルビレーヌは戦意を削がれていった。
しかし、そうも言ってられない。蒼たちが戦っている状態で自分がやられるわけにはいかなかった。
もし、アルビレーヌがやられればこの兵隊たちは蒼たちのところに向かっていくだろう。それは避けねばならない。
「!不味いわね~」
アルビレーヌの周りに千を越える兵隊が襲い掛かって来た。逃げ場がない。アルビレーヌは兵隊を狩って行くが数が多すぎる。
アルビレーヌの身体が兵隊の武器により身体が切り刻まれた。
アルビレーヌの脇腹、両肩から血が吹き出した。もはや、先を見越しての加減なとしてる場合ではない。
「【銀崩水覇】!」
アルビレーヌの鎌から銀色の水が出現し、兵隊たちを切り刻み、そして飲み込まれた。
射程距離はかなりあり、五十メートル先にいる兵隊まで飲み込んだ。
アルビレーヌの奥の手の一つだ。この水に飲み込まれた者は身体が分子レベルまで溶かす。
「はぁ、はぁ…」
しかし、先程の【銀崩水覇】により、魔力をほぼ使い果たしてしまった。
地中から再び兵隊が出現した。相変わらず、身体は樹木で出来ていた。
しかし、先程アルビレーヌが放った【銀崩水覇】が地面を満たしている為、兵隊の身体が溶けていた。しかし、この水が無くなるのも時間の問題だ。
いよいよ、万策尽きた。
「くっ…ここ…まで……ね…」
アルビレーヌはもう動ける力も残っていない、このまま兵隊にやられるのを待つだけだ。
「え?」
アルビレーヌはそんなすっとんきょうな声を上げた。何故なら兵隊がいきなり塵となって消え始めたからだ。
アルビレーヌが発生させた水によるものではない。それは明白であった。
やがて、全ての兵隊が消え去った。
「…誰かが……術者を倒した…の?」
アルビレーヌはそう呟いた。
アルビレーヌは立ち上がろうとしたがもう彼女には歩くだけの力が残されていなかった。
「後は…頼んだわ…蒼…」
「さてと…またでかい部屋に着いちまったな」
蒼はもう何度目だと言わんばかりにそう呟いた。蒼はもう何回同じような部屋に来たかもう数えていなかった。
恐らくここも敵がいるのだろう。蒼はいい加減うんざりしていた。
かなり上まで登っている筈なのだが一向に頂上が見えない。正直、ダルい。
ーとそんな事を考えていると目の前に光が灯った。すると、光は鶏の姿となって現れた。
戦いの神、「クー」だ。蒼は以前、このクーと戦ったことがあるが、蒼の圧勝で終わった。
今回も楽に行けるだろうと蒼は踏んでいた。
「【黒時皇帝】」
蒼は黒刀を取り出した。そして、そのまま、クーに斬りかかった。
「コケコー!!!」
「【虚神】」
クーが絶叫を上げると辺りが爆発した。蒼は即座に霊呪法【虚神】を展開し、攻撃を防いだ。
しかし、クーは更に口から爆発する『砲撃』を放った。
「【氷水天皇】」
蒼はもう一刀の『天使』を使用した。しかし、【氷水天皇】が発生させた氷を軽々と爆発させた。
このままでは埒が開かない。蒼は【氷水天皇】をしまい、【黒時皇帝】の真の力を解放した。
「【第二解放】」
蒼は【黒時皇帝】の【第二解放】を発動した。
蒼は全身に黒い衣を纏っていた。背中には巨大な黒い翼が生えており、周囲には歯車のようなものが浮かんでいた。歯車と歯車は黒い線により繋がれていた。
そして、瞳は両目とも水晶体の部分は真っ黒であり、頭上には歪な形をした輪っかが存在していた。
蒼のもう一つの『天使』、【黒時皇帝】の【第二解放】だ。
「【ワルプルギスの夜】」
蒼は黒刀をクーに向けた。
クーは蒼を睨み付けた。蒼の力を警戒しているようであった。
「コケコー!!!」
クーは絶叫を上げ、『砲撃』を放った。しかし、蒼の姿がかき消えた。
「!?」
クーは何が起こったのか訳が分からず動揺し、辺りを見回した。
すると、蒼はいつの間にかクーの後ろに回り込んでいた。
「こっちだ」
クーが距離を取った。しかし、またしても蒼の姿が忽然と消え去った。
クーはまたしても混乱した。一体、蒼が何をしているのか全く判らなかった。
蒼はまるで瞬間移動するかの様にクーの後ろを取っていた。
「【時空覇王剣】」
蒼が【黒時皇帝】をクー目掛けて振り上げた。すると、空間がねじ曲がる程の黒い衝撃波が発生し、クーを切り裂いた。
「コケコー!!!!」
クーは絶叫を上げた。しかし、すぐに態勢を建て直し、辺りを見回した。またしても蒼がいなかった。
しかし、クーは蒼の今いる場所に気が付いた。
「以外と感がいいな、もう気が付いたか」
蒼はクーの背中に乗っていた。クーはもう訳が分からなくなっていた。
瞬間移動なんてものではない。まるで「時間が飛んだ」かのようであった。
しかし、クーの考えはあながち間違ってはいなかった。
蒼の【黒時皇帝】の【第二解放】、【ワルプルギスの夜】の能力は時間操作だ。
時間を止める事も加速させる事も時空を歪ませる事も可能だ。
蒼の最大の能力とも言えるチート能力である。
蒼は【時間停止】で時間を止め、クーに回り込んでいたのだ。しかし、【時間停止】で止められる時間は数秒程度だ。とてもクーを惑わせる事は出来ない。
蒼は更に自身の時間を加速させる【時間加速】を使い、止まってる時間の中加速し、クーを混乱させていたのだ。
これだけ強大な力であるが、勿論、弱点や制約は存在する。時間操作の力は蒼の周囲に浮かんでいる歯車によって発動しており、この歯車が動いている時のみ時間操作の力が使える。この歯車が動かない状態だと時間操作は使えない。
ただし、【時空覇王剣】と言った時間系統の物理攻撃技は使う事は出来る。
更に言うと時間操作は使う時間操作にもよるが何れも莫大な霊力を必要とする。
あまり乱発すると一瞬で霊力を全て持っていかれる、非常にリスクの高い能力でもある。
「クー!!!」
クーは自分の周囲を爆発させた。しかし、蒼の技の発動が一歩速かった。
「【時間停止】」
世界が白黒に変わる。【時間停止】が発動する時は世界が白黒に変わる。
この力が発動すると如何なるものの時間を止めてしまう。クーの爆発能力の時間さえも止めてしまっていた。
「【時空覇王剣】」
蒼はクーに極大の一撃を与えた。そして、時は動き出す。
「ぎゃあああああああ!!!!」
クーの身体は両断されていた。クーは激しい絶叫を上げ、消滅した。
蒼は先に進んでいった。
「まさか…ここまでやるとはね」
アザゼルは蒼の事を逐一把握していた。四大神以外にもあらゆる策や罠を仕掛けたが蒼はそれを軽々と回避していた。
このままではすぐにアザゼルのいる頂上に辿り着くだろう。四大神を相手に余裕の蒼はやはり、規格外の力を持っているのはたしかであろう。
それに、カネとロノの能力で造り出し、ファントム島中に張り巡らしていた樹木の兵隊もこの二体が蒼に倒された事によって消滅してしまった。
本来ならあの樹木の兵隊を使い、蒼を消耗させたかったのだが、あのアルビレーヌという女が想像以上の手練れであった為、思うような戦果は得られなかった。
完全に蒼以外はノーマークであった為に生じてしまった隙だ。これは完全にアザゼルの失態である。
しかも、その蒼にもいいようにやられてしまっている。このままでは不味い…だが、アザゼルも無策というわけではない。まだ、奥の手がある。
「私は絶対に負けない。負ける事はない」
アザゼルはそう確信していた。アザゼルの本体は実態のない幽体の存在だ。
勝てなくとも負ける事などないのだ。また、新たな宿主を探せばいいだけだ。
計画も何度でもやり直せる。何としても自身の野望を達成させる。
アザゼルの今回の計画を絶対に成功させねばならないという強い思いがあった。
それは執念に近い。それだけ、アザゼルは必死でもあるのだ。
アザゼルは再び蒼を補足した。既に蒼は頂上前まで辿り着こうとしていた。
そこには最後の門番、カナロアが座している。そこを突発されれば、恐らく、蒼とアザゼルの戦いになるだろう。
今のところ計画は順調、邪魔をされるわけにはいかなかった。
世界が反転している為、世界の冥界化が進んでいる。冥界の骸骨兵も出現している。
世界が冥界化すれば世界は混沌に包まれるだろう。力ある者しか生き残れないだろう。
だが、それでいいのだ。それがこの世界のあるべき姿なのだから。
『世界宮殿』に運命を支配されず、強き者が生き残る弱肉強食の世界、それがこの世界のあらなければならない姿であり、アザゼルの宿願だ。
「絶対に…絶対に…この世界を変えて見せる」
アザゼルはまるで祈るかのようにそう呟いた。
~クーの追憶~
悪戯が好きだった。競うのが好きだった。戦いはお互いに高みを目指す為には必要不可欠なものだ。
戦う事でお互いを知る事が出来る。時としてぶつかり合わなければ理解できない事もある。
戦いとは命を奪い合うばかりではないのだ。戦いの中で全ての生物は発展してきた。
戦いとは本来、お互いを知る為の一つの手段であった筈だ。しかし、全ての生物は戦いは自身が生き残る為、守りたいものを守る為、と言った血生臭い理由で争いを始め、お互いの命を奪い合う。
自分の居場所を守る為、大事なものを守る為、その為ならどんな事でもしてしまう。
それが人間だ。そして、それは人間と同等の知能を持つ魔族たちも同じだ。
大切なものを守る、居場所を守る、それは紛れもなく正しい心である。だが、皮肉にもそのせいで命の奪い合いは起こる。
クーはそれをよく理解していた。戦の神であるのだから当然なのかもしれない。
だが、この事実を理解している者は果たしてどれだけいるのだろうか。
クーはそんな時、四宮舞と接触した。彼女にクーは期待していたのかもしれない。
彼女が知性、優しさ、強さを兼ね備えている事はクーには分かっていた。
四大神の中で最初に彼女に目をつけたのはクーなのだ。
そう、クーは舞に期待していたのだ。そして、願った。
クーの願いは…
ー己を、世界を、戦いにより良くすることー
「う~ん。どうしたものか…」
屍は困ったように胡座をかき、考えていた。屍は巧妙な(笑)罠に引っ掛かり、塔の最下層まで落とされていた。
非常に面倒な事になった。蒼と屍の二人でアザゼルを倒す算段を立てていただけにこの状況はよろしくない。
「よし!なら、こいつの製作を続けるか!後ちょっとで完成だし」
そう言って屍は四角い石のような物を取り出した。僅かだが霊力を帯びている。
これは屍が三年前から造っている道具であり、後ちょっとで完成するところまで来ていたのだ。
屍は地面に両手を置いた。すると、石から電流が走った。すると、塔の周囲から魔力が石に目掛けて流れてきた。
ここは魔力の密度が濃い。その為、この石に魔力を与えられるという事だ。
この石に足りていないものは莫大なエネルギーだ。エネルギーを大量に供給出来る場所が十二支連合帝国にはなかった。
その為、製作が難航していたのだが、この塔の魔力により、それは叶いそうだ。
そして、石から光が灯り、スマートフォンに姿を変えた。完成だ。
「よし!アルダメリクリーの完成だ」
喜んでいるのも束の間、屍の周囲に大量の骸骨兵が出現した。明らかに屍の命を狙っている。
「ちっ、面倒癖ぇな!」
屍はアルダメルクリーをかざした。すると、アルダメルクリーから小型の爆弾が錬成された。
そう、アルダメルクリーは屍の霊力を媒体にあらゆるものを錬成する道具だ。物理法則を無視して錬成できるチートアイテムだ。それ故に、屍はこれを造るのに三年の月日を費やした。
この道具の性質は賢者の石とほぼ同格であり、屍は神の領域に足を踏み入れたと言っていい。
しかし、今の屍の力では小型の爆弾や鎗、小道具を錬成するのが精々だ。そこまで多様に錬成できるわけではないがこれは後の訓練次第でどうにでもなる。
「【焔弾薬】」
屍は小型の爆弾を錬成し、骸骨兵に放り投げた。小型とはいえ、威力はそれなりにあり、数十体の骸骨兵を粉々に吹き飛ばした。
屍は鉤付きの長いロープを錬成し、塔の壁に引っ掛けた。そしてそのまま、屍は塔の上に登り始めた。
「うおおおおおおりゃあああああ!!!」
屍はロープを使い登っていった。しかし、上には天井があった。しかも、下には大量の骸骨兵で埋まっていた。もし落ちたら屍は骸骨兵の餌食だろう。降りるわけにはいかなかった。
屍は天井目掛けて跳躍し、両手を天井に置いた。その瞬間、天井に穴が開いた。
屍は再びアルケムフォンで鉤付きのロープを錬成し、穴が開いた天井に引っ掛け、そのまま、上に登った。
何とか最下層から元のスタート位置に戻る事が出来た。一段落である。
「さてと…さっさと頂上に行かねぇとな」
屍はそう言って走り出した。
美浪と澪はファントム島の祠で休んでいた。辺りには水が流れており、神秘的な雰囲気のある場所であった。
ここは祠の地下である。澪とアザゼルの戦いにより、祠の地面に大穴が開き、ここに澪は落とされた。そこを蒼たちが発見し、美浪が祠に残る事となったのだ。
「ところで何で澪さんはここに?」
「アザゼルの事を独自で調べてたのよ。それでアザゼルの目的を知ってここまで来た」
「アザゼルの目的を知ってるですか?ならなんでこっちに伝えてくれなかったんですか?」
「事は一刻を争う事態だっから伝える余裕がなかったんだよ」
澪は苦い表情でそう言った。元々澪は普段はだらしないが感が鋭く、誰よりも速く信実を見通す力がある。それ故に一人で勝手に行動してしまうことも多い。
澪はそのまま話を続けた。
「アザゼルの目的はこの世界を死の世界…つまり、冥界に変える事…四大神の力を使ってね」
「な!?」
美浪は澪から告げられた事実に驚愕した。それもそうだろう、いきなりこの世界を冥界に変えるなんて、突飛な話を聞かされれば誰でも美浪の様な反応をするだろう。
しかし、分からない、腑に落ちない事がある。
「四大神と冥界になんの関係があるんですか?」
「四大神が関係してる…というより、その内の一体が深く関係してるって言い方が適切かな。冥界を司る神が四大神にはいるだろう?」
「あっ…」
美浪は澪の説明で納得したようだ。そう、四大神の中に冥界を司る神がいる。カナロアだ。
ウルオッサやアルビレーヌはカナロアを四大神の中で最も警戒していた。なんでも、伝承が四大神の中で特に少なく謎の多い神だからだ。
「なら、何でアザゼルは四大神を全て捕まえるなんて面倒な事をしたんですか?カナロア一体捕まえればいいだけじゃないですか?そうすれば、少なくとも騒ぎもここまで大きくもならなかっただろうし」
「四大神は四体揃って始めてお互いの力をフルに使うことが出来るのよ。一体の戦闘力も相当なものだけど、それだけじゃあ、神の領域に踏み入るには少し足りない」
四大神は四体揃う事で始めて自身の力の全てを使える。逆に言えば四体揃わなければ、全力を出す事が出来ないのだ。
つまり、カナロア単体ではこの世界を全て冥界に変える力はないのだ。だが、四体揃う事でそれが可能になってしまう事を意味するのだ。
「四大神について調べる為にUSWの図書館に行ってとある童話を見つけたの。「ネルヘルカの塔と四人の小人」っていう童話。この童話。この童話に全てこの事が書かれていたわ」
「『ネルヘルカの塔』?」
「外に行くと分かるよ。今頃、この島の中心部に巨大な塔がある筈よ。それが『ネルヘルカの塔』。この世界と冥界を繋ぐ塔だよ。『ネルヘルカの塔』と四大神、この二つの要素が揃う事でこの世界と冥界を「ひっくり返せる」」
「そんな…後、どのくらい猶予があるんですか?」
「分からないよ…でも、恐らく一日もあればこの世界を冥界に変えれると思うよ」
「な!?」
美浪は驚愕した。思った以上に時間がないようであった。後一日で世界が混沌に包まれる。それはただ事ではなかった。
しかし、分からない。何故、アザゼルはこの世界を冥界に変えようとしているのか。アザゼルの目的は分かったが、意図が未だに不明である。
「何で…アザゼルはそんな事を?」
「あたしは予言者じゃない。そこまでは分からないわ」
澪はそう言った。まぁ、当然だろう。何かをするには必ず理由が付き物ではあるが、他人の目的や意図をそう簡単に読み取れるものではない。
もし、そんな事が簡単に出来るようであれば、言い争いや戦争は起きないだろう。
「とにかく、アオチーがアザゼルを倒すしかないんだよ。でないと、この世界は冥界になる。冥界は邪気が充満してて、普通の人間や弱い魔族は生きられない」
美浪は話が大きすぎて自分ではついていけないと思った。しかし、アザゼルの目的は絶対に達成させてはいけない、それだけは理解した。
ここで考えた所で美浪と澪に出来る事はなかった。ここで待っている事しか出来ないのだ。
「蒼…必ず勝って…!」
美浪は祈る様にそう呟いた。
冥界と現実世界が入れ替わろうとしている。これは異常事態だ。なんとしても収束させねばなるまい。
ここは冥界、冥界は現在、現実世界に変わろうとしていた。その証拠にあらゆる場所にこの冥界にはない筈の建造物や綺麗な青空があちこちにあった。
まだ完全でないにしてもこのままではこの冥界は現実世界に変わってしまう。
この様な世界の改変は世界のバランスを崩し、崩壊を招く。何としても止めねばならない。
冥界の主は冥界にある巨大な塔の最下層にいた。この塔の名は…『ネルヘルカの塔』。冥界に存在する唯一の建造物であり、この冥界を支えるバランサーでもあった。
「まったく、罰当たりな事をする輩がいたものだな」
冥界の主は椅子に座っていたがそのまま立ち上がった。冥界の主は気だるげな表情をしていた。
外見は全身に黒い宗教服で身を包んでおり、髪は黒髪で背中までかかっていた。
瞳は三白眼でかなり目付きが悪い男性であった。身体の色素も異常に白く不健康そうであった。
普段彼はこの冥界を統治している。まぁ、普段はこの塔の地下にいるだけだが。
冥界の主がいる事でこの世界は安定している。この冥界にはなにもない。空は常に薄暗く、辺りは廃墟や荒廃した土地ばかりだ。
これは地獄と言ってもいいかもしれない。地獄と冥界は別物で地獄の方が惨いと聞くがここも大概である。
この冥界には魂が世界からこぼれ落ちた者がやってくる地だ。現実世界以外に様々な世界があると言われており、冥界はその一つである。
地獄や魔界も存在する。USWにあるネオワシントンは魔界の一部が切り取られている土地だ。
あの土地のみは魔界と同じだ。かつてカーシス・ベルセルクがネオワシントンに大規模な術式を施し、魔界へと変えた。
今回の様に現実世界と入れ換えたのではなく、土地そのものを魔界へと変えたのだ。
何故彼がそうしたのかはもう、知る術はない。彼しか知らないのだから。
彼は今頃、地獄で裁きを受けているであろう。地獄は世界を改変するという禁忌を犯したした者のみ落とされる。
それ以外の者は『世界宮殿』へと送られる。この『世界宮殿』こそが皆が言う天国、天界と言われる場所だ。
現実世界以外に様々な異世界がある、しかし、希にどの世界にも送られず、魂がこぼれ落ちる事がある。
そのこぼれ落ちた魂の集う場所がこの冥界だ。冥界の主はこぼれ落ちた魂を別の世界に送る役割がある。しかし、この冥界にくる魂は極々希であり、そこまで多いというわけではない。
なので、基本、冥界の主は暇だ。しかし、ここから冥界の主が離れる訳にもいかなかった。
何故ならこぼれ落ちた魂はいつここに来るか分からないのだ。その魂を野放しにするのは絶対にあってはならない。
ここも地獄程ではないが邪気が漂っている。ここで死ぬ者が出てしまえば、その死んだ魂は救われる事も裁かれる事も無く、この世界に救う骸骨兵になってしまう。
骸骨兵になってしまえば、永遠に朽ちる事無く動き続けなければならない。所謂、生き地獄を味わう事になる。
この世界にいる骸骨兵たちは冥界の主がここを統治する前からいた、「救われなかった魂」なのだ。
冥界の主がここを統治してからは骸骨兵は増えていない。しかし、冥界の主がここを統治した頃には億を越える骸骨兵がいた。
骸骨兵を救う方法は無い。それは冥界の主であっても出来ないのだ。
骸骨兵は仮に粉々にしても時間が経てば再び再生してしまうのだ。
そう、この冥界が現実世界と入れ替わるなどあってはならない。
もしそうなれば、現実世界にいる大半の人間や魔族は死に絶え、骸骨兵となってしまう。
冥界の主は歩き出した。この一件を起こした元凶の元に向かう為に。
「アザゼル、奴を赦してはならない。必ず裁きを受けてもらおう」
冥界の主はそう呟いた。彼の尊大な口調は存在感があり、あらゆる生物を戦かせる程の威圧感があった。
それはまるで、鬼神のようであった。
To be continued




