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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第四章】百夜亡霊篇
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【第四章】百夜亡霊篇ⅥーOrga killー

「この船はどれくらいで着くんだ?」

「まぁ、半日ってところね」

「『黒門ニゲル・ゲート』は使えねぇのかよ」

「「ファントム島」は座標の補足が難しいのよ。船で行くしかないわ」

「仕方ねぇか」

「焦っても仕方ないですよ」


 今、船にいるのは蒼、アルビレーヌ、屍、美浪の四人だ。彼らが「ファントム島」の突撃部隊なのだ。

 彼らはアザゼルを倒す為、ファントム島に向かっていた。

 まるで鬼退治に行く桃太郎の気分に蒼はなっていた。……どうでもいいことだが…

 他のメンバーは「十二支連合帝国」に待機させている。アザゼルがまた不意に襲撃することも考えられたので「ファントム島」に行くのは最低限のメンバーにしようという風に話は纏まった。

 そこで一対一(タイマン)に強いこの四人が選ばれた。


「にしても、幾つか島が見えるな。どれか分かんのかよ」

「ファントム島は常に霧に包まれているわ。大体の場所は分かるわ。まぁ、霧に飲まれて迷う可能性はあるけどね」

「マジかよ…勘弁してくれよ、迷うのは」


 話している内に辺りが霧に包まれていた。そして、霧は段々濃くなっていった。そして、屍が疑問を浮かべた。


「これは?」

「おかしいわね。まだ霧が出るような場所でもない筈よ」

「何かありそうですね」

「まぁ、地図で現在地を細くしてるから迷う事はないでしょうね。今の所は」

「だが、何かが起ころうとしてる。それは間違いねぇ」


 今、蒼たちがいる場所は霧がかからない筈だ。それにも関わらず霧が発生している。しかも、それが徐々に濃くなっているときた。これは何かある。


「上等だ」


 蒼はそう呟いた。







 ファントム島の中央に存在する祭壇。ここの中央に立つ者がいた。見た目は黒ずくめで黒い髪と目が特徴の女性であった。その女性は美しく全てを飲み込みそうな…そんな気品に溢れていた。

 彼女は四宮舞…ではなくその身体を乗っ取っているアザゼルだ。この祭壇に立っているのは自身の願いを叶える為だ。


「遂に…遂にこの時が来た。百年以上待った…ようやく、私の願いが達成される。この世界を「冥界へと変えれる」!」


 そう、それこそがアザゼルの目的であり、生きる理由だ。アザゼルはこの世界を冥界へと…厳密にはこの世界と冥界を「入れ替える」事が目的だ。

 冥界はこの世界と断絶された世界。運命に縛られる事がない。そう、アザゼルは運命から解脱する為、この願いを持ち続けていた。

 全てを終わらせる時が来たのだ。


「さあ、月光の祭壇よ!その真の姿を現せ!」


 アザゼルがそう言うと祭壇に四つの小人が出現した。アザゼルは四大神を全て掌握していた。小人がそれぞれ光だした。



 すると、異変は起こった。祭壇の周囲が壁に覆われた。そして、祭壇は上に上がっていった。

 否、厳密には地下から何かが隆起し、祭壇が持ち上げられていたのだ。

 気がつくと祭壇はどこにも存在せず祭壇だったその場所は巨大な塔になっていた。

 塔には独特な模様が刻まれており、インディアンを彷彿とさせる模様であった。


 この塔の名を「ネルヘルカの塔」。四大神の集う場所であり、この世界と冥界を繋ぐ塔でもある。

 この塔はとてつもなく巨大であり天まで続いている。だが、この塔はどこか暗く、不気味さも尋常ではないほどにあった。

 今のこの塔はさしずめ、「魔王の巣くう塔」であろう。そして、この表現はあながち間違いではないのかもしれない。

 何故ならこの塔の頂上に立っているのは間違いなく「魔王」であるからだ。


 アザゼルは今まで多くの者たちに取り憑いた。しかし、その多くが人間であった。

 そう、アザゼルは人間に憧れを抱いていたのかもしれない。いや、あるいはそれ以上の感情かもしれない。


 今宵は月が綺麗であった。今はすっかり夜であり、この塔を妖しく照らしていた。

 とても神秘的であったが、逆に不気味さにも拍車がかかっていた。

 この塔はこの世界を終わらせる塔だ。それだけは間違いなかった。

 アザゼルは今日をもって世界を終わらせる気だ。


「この世界はようやく、運命という名の呪縛から解放される。さぁ、激しく踊りましょう」


 アザゼルは踊り始めた。身体を回転させ、足の動きも流麗であった。

 アザゼルは踊った。孤独のワルツを…それはまるで闇夜を妖しく照らす月光のようであった。









「蒼…」


 慧留は一人で夜空を眺めていた。慧留は今、自宅にいた。そう、ファントム島に向かった四人以外はそれぞれ自身の自宅に待機していたのだ。

 慧留たちはその事に若干負い目を感じたが(約一名以外の怠け者以外は)、何が起こるか分からない以上、自宅に待機しているのが最もいいと言える。

 慧留は昨日の事を思い出していた。


「このまま全員でファントム島に乗り込むんだね」


 慧留がそう言うと、ウルオッサが首を横に振った。


「いや、それは危険だね。もし、ファントム島にアザゼルがいなかったらどうなるんだい?奴は最悪この国に攻め込む可能性があるよ。何の確証もないのに全員で突撃は危険だね」


 ウルオッサの意見は尤もであった。確かにアザゼルがファントム島にいる可能性があるだけで確信はない。

 迂闊に全員で攻め込むのは危険極まりない。最悪、蒼たちがいないところでこの国を襲撃する可能性だってある。

 それにファントム島は霧が濃い事で有名であり、天然の要塞だ。大人数で行くのも好ましくないだろう。


「そうね、あくまで最低限の人数で攻め込むのが吉ね」

「なら、編成をどうするかだな」

「人数は四人が無難だね。それ以上増やすと危険だし、少なすぎると対応しきれない」


 チームは基本的に四人一組(フォーマンセル)がいいと言われている。

 多すぎず少なすぎずで割りと自由が利く上に役割を分担しやすいからだ。

 状況にもよるので必ずしもそうであるとは限らないものの、ファントム島の特性を鑑みてもやはり四人一組(フォーマンセル)の方がいいだろう。


「まずは時神君は行った方がいいと思うよ」

「ファントム島にいる可能性は高いからね。僕もその方がいいと思うよ」


 湊の意見に一夜は同意した。


「他はどうするか…」

「俺が行く。俺もいた方がいいだろう」


 屍が名乗りを上げた。そして、誰も反対しなかった為、そのまま決定した。


「美浪、あなたが行きなさい」


 突然にそう言ったのは遥であった。美浪は少し驚いた様子であったが、すぐに首を縦に振った。


「分かりました」

「四人目は私が行くわ。USWに詳しい奴は一人いた方がいいでしょ?それにウルオッサは戦闘向きの能力ではないから私の方がいいわ」

「僕的にもそっちの方が助かるよ」


 こうして、四人目は決まった。次はいつに出発するかだ。


「今すぐ行った方がいいだろ!準備を済ませたら出発だ!」


 蒼が勢いよくそう言うと他の者たちも首を縦に振った。確かに一刻も速く行かなければ、手遅れになる可能性がある。

 そうでなくともアザゼルの目的は謎のままなのだ。速く行くに越したことはないだろう。


「じゃあ、行こうぜ!悪魔退治だ!」


 蒼がそう言うと皆は覚悟を決めたようだった。………約二名は微妙そうな顔をしていたが…


「僕たち悪魔なんですけど」「私たち悪魔なんですけど」



 トウキョウにある港町に蒼たちは移動していた。そこで、厳陣のつてで船を用意してもらっていた。

 薊とくるもその事を聞き、屍たちを見送りに来ていた。


「じゃあ、気を付けるんだよ。蒼、屍、美浪君、ついでにアルビレーヌも」

「ついでにって何よ…」


 一夜の言葉にアルビレーヌは微妙そうな顔をした。確かに蒼たちと比べるとアルビレーヌは一夜とあまり仲が良いとは言えなかったが、妙に釈然としない。


「屍ちゃん、気を付けてね!」

「ああ、わざわざ来て貰って悪いな」

「本当よ。まぁ、こっちは任せなさい」

「ああ、ありがとな、くる、薊」

「なんか、死亡フラグみたいだよ」

「うるせぇな!ウルオッサ!てめぇのせいで雰囲気台無しじゃねぇか!」


 屍が堪らず叫んだ。どうも、ウルオッサは場の雰囲気を濁すのが好きなようだ。まったく、いい迷惑である。


「蒼、やっぱり私もいた方がいいんじゃない?」

「こっちに戦力割きすぎるのも駄目だって言ってただろ?こっちは大丈夫だ、心配すんな、慧留」

「蒼、気を付けるんだぞ!」

「ああ、ラナエルもわざわざUSWから来てくれて済まないな」

「時神君モテモテだね~」

「湊てめぇはさっさと帰れ、そして死ね」

「相変わらず辛辣だね!?」


 湊は蒼に久し振りに辛辣な言葉を吐かれた。湊は相手をやたら茶化す癖に辛辣な言葉を吐かれるのは非常に嫌いなのだ。正直面倒臭い。


「じゃあ、行ってくる!」


 蒼がそう言うと船が動き出した。そして、蒼、屍、美浪、アルビレーヌの四人はファントム島に向かった。


「あれから一日…連絡は無し、大丈夫かな?」


 慧留は普段ここまで心配性ではない筈なのだが、やはり、それぞれ別行動を取っている為か多少の不安はあるようだ。

 慧留がそんな事を考えていると慧留は異変に気がついた。


「何?この気配…」


 慧留は外に飛び出した。そして、昨日、蒼たちを見送った場所に行った。

 すると、慧留は驚愕の表情を浮かべた。


「何!?これ…」


 慧留は自分の視界を疑った。何故なら、本来ある海と空の場所が「逆転していた」のだ。

 本来海がある場所に空が、本来空がある筈の場所に海があった。そう、景色が反転していたのだ。

 昨日はこんな事はなかった。恐らくこれは徐々に広がって行くだろう。

 慧留はすぐにこの事を一夜に知らせに行った。









「それにしても霧が濃い…本当にこの道で合ってんのか?」

「座標的には間違いないわね、もうそろそろ到着する筈よ」

「けど、全然見えないな」

「こうも霧が濃いと全く分からないですね」


 蒼たちは未だに霧に悩まされていた。まさか、ここまで霧が濃いとはアルビレーヌも予想外であったのだろう。


「時神、この霧なんとか出来ねぇか?」

「そうだな、霧払いはした方がいいな、霊呪法第六三九番【摩天祓(まてんはらえ)】」


 蒼が霊呪法を唱えると蒼たちの周囲から突風が発生し、霧を吹き飛ばした。

 これで、景色がはっきり見えるようになった。暫く経てばまた霧は発生するだろうが当分は大丈夫だ。


「なんだ!?ありゃ…」


 そう呟いたのは屍であった。蒼たちも異常に気がつき、表情を歪めた。

 そう、ファントム島は目の前にあった。しかし、島が逆さまになっていた。ファントム島が上空に浮遊していたのだ。しかも、逆向きで。


「え?ちょ…皆!下を見てください!」


 美浪がそう言って蒼たちは下を見た。これまた奇妙な事が起こっていた。下を見ると底には青空があった。

 もしかしてと考え蒼たちは空を見上げた。すると、底には空ではなく、海があった。


「これは…」

「本来ある場所とは逆になってる?」

「いよいよ、ヤバそうね…」

「てか、これどうやって島に行くんだよ」


 取り合えず、蒼たちはファントム島に近づいて行った。すると、突然景色が反転し、目の前に島があった。


「どうやら、ここはあらゆる物理法則を無視出来るみたいだな。へっ…笑えるぜ」


 屍が冷静にそう言った。しかし、この状況はちっとも笑えない。

 蒼たちは島に上陸した。やはり、空に海がある状態であった。しかし、地面はそのままであった。


「ここがファントム島か」

「随分、不気味なとこだな。その名の通り幻影の島ってわけか」

「取り合えず、祠に行きましょう」

「そうですね」


 蒼たちは祠を目指す。祠はファントム島の森の中にある。というより、ファントム島は大半が森だ。その森は非常に視界が悪く、おまけに霧も濃い。この二つの要素があるからこそこのファントム島は天然の要塞と言われているのだ。


「おい、なんか来るぞ」


 屍がそう言うと大量の兵隊が現れた。身体は植物で出来ており、数が相当多い。軽く百体以上いるだろう。


「はぁ~、ここは私に任せて。あなたたちは先に行きなさい。祠は森の奥にあるわ。かなりでかいからすぐに分かる筈よ」


 アルビレーヌが溜め息混じりにそう言った。アルビレーヌは一人でこの数の兵隊を相手すると言っているのだ。


「…分かった……行くぞ!屍、美浪!」

「…ああ!」

「分かりました!」


 蒼たちは森に入っていった。しかし、兵隊は蒼たちの行く手を阻もうとする。


「行かせないわ」


 アルビレーヌは蒼たちに向かっていった兵隊を鎌で切り裂いた。アルビレーヌが持っている鎌はアルビレーヌの【悪魔(ソロモン)】だ。


「あなたたちの相手は私よ」


 アルビレーヌは兵隊を鎌で切り裂きまくった。しかし、兵隊は減るどころか数が増していた。


「キリがないわね」


 アルビレーヌは少し冷や汗を浮かべた。

 兵隊の一体一体の戦闘力は大したことはない。しかし、数が多すぎる。このままでは先にアルビレーヌの体力が尽きてしまうだろう。

 だが、アルビレーヌがこのままやられてしまえば、兵隊たちはすぐにでも蒼たちの元に向かうだろう。それだけは絶対にさせてはならない。

 蒼でなければアザゼルは倒せない。アルビレーヌはそれを理解していた。だからこそこいつらを蒼に近付ける訳にはいかなかった。

 アルビレーヌは【悪魔(ソロモン)】を構え、兵隊たちに向かっていった。








 蒼、屍、美浪はそのまま森に進んでいった。


「あれだけの数の兵隊…絶対になにかありますよ、ここ」

「ああ、そうだな。アザゼルがいるとはまだ断言出来ねぇが、何かあるのは間違いねぇ」

「…急ごう。なんか、ヤバい気がする」


 美浪、屍、蒼はそのまままっすぐ進んでいった。すると、巨大な祠があった。


「これか…」

「そうみたいですね」


 蒼たちは祠の前に立った。しかし、扉は開かない。


「殴って無理矢理開きますね」


 美浪は思いっきり扉を殴った。しかし、祠の扉はビクともしない。


「俺がやる」


 屍はそう言って扉に両手を置いた。そして、扉はシャッターに変化し、そのまま扉が開いた。

 屍お得意の錬金術だ。錬金術は物質を変化させる術だ。これくらいの事は屍にとって造作もないことだ。


 蒼たちはそのまま祠に入っていった。しかし、祠の中はあっちこっち傷がついており、奥の地面にはでかい大穴が空いていた。


「何だ…これは?」


 蒼はそう呟いた。この祠がここまでボロボロになったのは傷の形跡からしてそこまで時間は経っていない。最近のもので間違いないだろう。

 つまり、最近ここで戦っていた…という事になる。


「人の気配がします」

「「!」」


 美浪がそう言うと蒼と屍は驚いた。ここで戦っていた者がいる可能性が高い事を意味しているからだ。


「どこからだ?」

「この穴の下です」

「行ってみよう」


 三人は大穴の下に降りて行った。穴には水が流れていた。そこまで大量というわけではないが、足が浸かるくらいまでは水が流れていた。


「こんなとこに水が流れてんのか…時神、この水どう思う?」

「この水は…ただの水じゃねーな。だが、危険な水じゃねぇ。別に問題はないな。それより、美浪の言ってた人の気配がする所に行ってみよう」


 蒼がそう言うとそのまま三人は進んでいった。すると、すぐに人影が見つかった。

 その人影はよく見ると横たわっていた。蒼たちはその人影を見た瞬間、走り出した。

 女性であった。身体全身血塗れであり、かなり危険な状態なのは明らかであった。

 蒼たちはこの女性を見てすぐに誰か気が付いた。


「常森さん!?」

「何で常森がここに?」


 そう、倒れていたのは常森澪であった。三年前は蒼たちの高校の生徒会長であり、蒼たちの先輩に当たる人物だ。


「うん?何で君たちがここに…?()っ…」

「それはこっちの台詞だ。つかその傷でよく生きてたな。死んでてもおかしくなかったぞ」

「…アザゼルにコテンパンにされてね~…」

「アザゼルがここにいたのか!?」

「うん、まぁ、「カナロア」は盗られちゃったからもうここにはいないだろうけどね」


 どうやら一足遅かったようだ。いよいよ、アザゼルの居場所が分からなくなってしまった。


「それにしてもよくその傷で意識を取り戻せましたね」

「う~ん、あたしも不思議に思うよ~。何で助かったんだろ…ぶっちゃけ、死んだかと思ったし」

「この水のお陰だろうな、恐らくこの水は「カナロア」が生み出したものだ。「カナロア」の水はあらゆる汚れを浄化すると言われてる」


 どうやら、澪は運良くこの水場に落下して一命をとりとめていたのだろう。そうでなければ、恐らく澪は死んでいた。


「そうだ、アザゼルはこの島にいるわ」

「!? 本当か!?」

「うん、ここから先に祭壇がある筈よ。そこに多分アザゼルはいるよ」


 澪はそう言った。どうやら澪はアザゼルの足取りを把握していたようだ。


「美浪、澪さん頼めるか?流石に一命をとりとめてるとはいえ、その傷はマズい。敵がいつ来るかも分からねぇしな」

「分かりました。気を付けて下さいね、蒼、屍」


 澪は手負いの状態だ。このまま放置は出来ない。アザゼルの居場所が分かっただけでもここに来た意味はある。

 ここから先は屍と蒼で向かうしかなさそうだ。


「よし、行くぞ!屍!」

「ああ!」


 蒼と屍はそのまま祭壇に向かっていった。







「常森の話によるとここら辺に祭壇がある筈だが…」


 屍と蒼は辺りを見回していたが祭壇らしきものはなかった。近くにあるのは奇妙な搭だけであった。


「あの搭…怪しいな…」

「…だな、恐らくあの搭の頂上に祭壇がある」


 蒼と屍はそのまま搭の入り口まで進んだ。扉は無く、民族風の彫刻が刻まれているのみであった。

 屍は両手を搭に置いた。すると、蒼と屍のいる部分のみ搭に穴が空き、中に入れるようになった。


「なんか…お前との付き合いも長くなったな」

「全くだ、さっさと行くぞ」


 蒼と屍はそのまま、搭の中に入っていった。








「「ネルヘルカの搭」に侵入したのね、けど、たったの二人だけ…まぁ、好都合ねここで時神蒼を始末出来るのだから」


 アザゼルはそう呟いた。アザゼルはこの搭を隅々まで見渡すことが出来る。

 それにより、蒼と屍の居場所を捕捉したのだ。

 アザゼルは蒼の力を非常に警戒していた。何故なら彼は【天使(エンゲリアス)】を二つ扱うことが出来るハーフエンジェルなのだ。

 更に能力もチートで氷と水の力を際限なく引き出すだけでなく、時を操る力も持っている。


 この二つの力はアザゼルが手中に収めている四大神と相性が非常に悪い。

 なんとしても時神蒼を倒さねばならない。まずはあの二人を分断するのが先決であろう。

 戦力を分断して追い詰めるのは戦術として有効な手段だ。二人で連携されると厄介だ。

 天草屍も油断出来ない相手である事は間違いなかった。あの時神蒼と対等に渡り合える力を持っているのだから。


「登れるものなら登ってきなさい、時神蒼。だけど、あなたは私がなんとしても始末する」








 どこまで登ったのだろう。思えばこの搭は色々とおかしかった。

 搭は天まで続いており、頂が見えなかった。形も歪で斜めっていたのだ。

 そんな搭がまともな搭な訳がない。だが、今の所、これといった罠も仕掛けもない。


「おっかしいな~。こんな如何にもな場所にトラップがねぇなんてな~」

「ああ、確かにな。けど、この搭、終わりが見えねぇ」

「ふっ…終わりがない終わり…か…それが罠か…それもまた一興」

「いや、なにどや顔で言ってんだよ、屍。この状況で馬鹿かお前は」

「何でお前にそんな事言われなきゃならねぇんだよ!?」

「ったく…この状況で子供かお前は…」

「未知の出会いに遭遇したらワクワクするもんだろ!?」

「いや、しねぇよ!少なくとも今のこの状況じゃあな!!」


 走りながら二人は口論を始めた。普段はこの二人、仲が良い方なのだが、どうも、こういう場面では噛み合わない。

 いや、戦いになると二人は非常に噛み合うのだが、屍は不可思議な事に遭遇すると場の空気を読まない子供っぽい所がある。蒼はその時の屍の対応に非常に困るのだ。


「そもそもお前は真面目過ぎるんだよ!老けるぞ!」

「うるせぇええよ!!誰が老けるじゃあ!!俺はどっちかっつーと若作りだ!!」


 蒼は堪らず大声で叫んだ。敵の腹の中にいるというのにこの二人はいつもと殆ど変わらない状態であった。

 気を抜き過ぎるのも考えようではあるが、自然体でいた方がいつも通りに動けるというものだ。

 気が付くと二人は大きな部屋に辿り着いた。あらゆる場所に古代文字が書かれており、非常に不気味な場所であった。周囲には動物の銅像がたくさんあった。


「どのくらいまで登ったんだ。なんか、如何にもな場所だが…」

「ああ、なんかある。気を付けろ屍!」

「あっ!なんかスイッチがあるな」


 屍は部屋の中央にあったスイッチを押した。すると屍のいる場所に穴が空き、屍は自由落下した。


「うわああああああ!!!!」

「言ってる側からマジでアホか、あいつはああああ!!!!」


 蒼は堪らず大声で叫んだ。言った側からやらかしやがった。今度あったらぶん殴ってやろうと蒼は誓った。


「くっそ!どうすんだこれ!?」


 蒼は頭を抱えてそう言った。しかし、考えても仕方ない。このまま進むしかないだろう。

 蒼は先に進もうとしたが、異変に気が付いた。目の前にピンク色の光が灯り、小人が姿を現した。


「早速、潰しに来た訳か…いいぜ!来いよ!!」


 蒼は左手に黒刀を持ち、小人に斬りかかった。あの小人は間違いなく、命の神「カネ」だ。

 しかし、「カネ」の周囲から無数の動物が出てきた。犬、猫、虫までもいた。ライオンやコアラなどあらゆる動物が出現した。


 「カネ」の力は生命を与える力だ。ここには動物の銅像が多く飾られている。その銅像が動き出したのだ。

 しかし、中には魂だけの存在もいる。舞が使っていた使い魔もこの「カネ」の力によるものだろうと蒼は推測した。


「【黒時皇帝(ザフキエル)】!」


 蒼の【天使(エンゲリアス)】の一体。【黒時皇帝(ザフキエル)】だ。能力は闇属性の力を使う。

 蒼の天使(エンゲリアス)黒時皇帝(ザフキエル)】が黒く黒くその刀の色が染まっていた。それはまるで星をも飲み込む夜のようであった。


「【黒刀葬破(シュバルツ・シュベート)】!」


 蒼は【黒時皇帝(ザフキエル)】から黒い衝撃波を放った。その衝撃波は辺りの動物の銅像たちを意図も簡単に凪ぎ払った。

 しかし、数が多く、まだまだ「カネ」の兵隊は多くいた。中には魂だけの兵隊も存在していた。その兵隊は先程の攻撃を避けて、蒼の目の前に大量に「カネ」が発生させた魂が襲ってきた。

 そして、魂たちは蒼の前で一斉に爆発した。


「【三重虚神(さんじゅうきょじん)】」


 蒼は霊呪法の一つである【三重虚神(さんじゅうきょじん)】で爆発を完全に爆発を防ぎ、無傷であった。【三重虚神(さんじゅうきょじん)】は防御の霊呪法である【虚神(きょじん)】の強化系であり、霊呪法の中でもかなりの防御力を誇る霊呪法だ。

 「カネ」は少し動揺しているように見えた。しかし、蒼はそんな事お構い無しに「カネ」に突っ込んでいった。


「【瞬天歩(しゅんてんぽ)】」


 蒼は光速で「カネ」に肉薄した。【瞬天歩(しゅんてんぽ)】は霊呪法唯一の光速歩法だ。

 蒼は一瞬で「カネ」の眼前に出現した。


「終わりだ、【黒刀葬破(シュバルツ・シュベート)】」


 蒼は「カネ」を【黒時皇帝(ザフキエル)】で切り裂いた。黒い衝撃波が発生し、「カネ」の五体は跡形もなく消えていた。

 蒼の完全勝利である。終始、蒼は守り神を相手に圧倒していた。

 蒼はそのまま、搭の頂上を目指し、進んでいった。







「まさか…「カネ」がこうもあっさりやられてしまうとは…」


 アザゼルは少し動揺した。「カネ」で蒼を倒せるとまでは行かなくともそれなりに時間を稼げると踏んでいたアザゼルにとって蒼が「カネ」を瞬殺してしまったのは予想外であったのだろう。

 このままではすぐに頂上に着くだろう。


「…しかし、次はそうは行かないわ」


 アザゼルがそう言った。本来であれば守り神を四体一気に蒼にけしかけたかったのだが今は大事な儀式の最中であるが故に一匹づつしか守り神を呼び出せないのだ。せめて、この儀式が終わるまでは蒼をここに入れる訳には行かなかった。

 守り神はまだ三体いる。アザゼルが完全に戦えるようになるまでは守り神たち単体で時間を稼ぐしかない。


 屍に関しては搭の一番下まで落とし、閉じ込めたので問題はないだろう。

 本来なら別の罠を仕掛ける予定だったのだが、あんな単純な罠に引っ掛かるとはアザゼル自身も予想外だったのだ。まぁ、嬉しい誤算だが。

 屍が以外と間抜けで助かった。彼は蒼を始末した後、ゆっくりと始末する事にしようとアザゼルは考えていた。

 最優先はこの儀式の完遂。そして、時神蒼の始末だ。この二つさえこなせばアザゼルの目的は達成されると言ってよいだろう。


「この世界を冥界へと変える。その時まで…」


 この世界を変える。そして、運命の呪縛から解放し、自身が完全な存在となる。

 それがアザゼルの願いであり、目的であり、生きる理由である。

 この世界は運命という呪縛に操作されている。それはアザゼルにとっては耐え難いものなのだ。

 自由になりたい。アザゼルはそんな細やかな願いの為だけに百年以上前から暗躍していた。


 『世界宮殿(パルテノス)』、この世界とは別空間にある世界であり、この世界に生きる全ての運命を管理する世界だ。

 かつて、月影慧留もUSWの女王『ヴァルキリア』として、『世界宮殿(パルテノス)』を破壊しようとした事があった。

 しかし、『世界宮殿(パルテノス)』を破壊するだけでは意味がない。あの世界は破壊した所ですぐに再構成され、復活する。

 つまり、『世界宮殿(パルテノス)』を壊すのは少なくとも今のアザゼルでは不可能だ。

 だからこそ、この世界を冥界に変え、この世界から『世界宮殿(パルテノス)』の呪縛から解放する。

 アザゼルはこの耐え難い支配から抜け出したい、それが今のアザゼルの行動理念だ。


「この世界に平和と混沌を…」


 アザゼルは一人、嗤っていた。




To be continued

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