【第四章】百夜亡霊篇Ⅴーgod contratistaー
舞は三つ目の島に足を踏み入れていた。今度は砂漠が広がっていた。道が分からず、蜃気楼まで発生していた。辿り着くだけで困難だ。
舞以外の挑戦者は既に全員脱落していた。残るは舞のみであった。
どうやら例年より、イベントの難易度が高いようだった。守り神たちはさぞ、愉快そうな顔をしている事が容易に想像できた。
「何これ?どこに行けばいいのかさっぱり分からないわ」
舞もとうとう、詰み始めた。まぁ、それでも今までの舞はサクサクと進みすぎていたぐらいだ。それにしても、まずどうにかしなくてはならないのはこの蜃気楼だろう。
蜃気楼とは密度の異なる大気中の光が屈折する事で発生するいわゆる目の錯覚だ。砂漠で発生する事は言うほど珍しくない。
しかし、ここまでの蜃気楼はそうはないだろう。今、舞が目の当たりにしている蜃気楼はかなり密度の濃いものであり、ろくに場所が掴めない。このままではクリアどころか遭難してしまう可能性すらある。
「霊呪法第一五〇番【全体捜索】」
舞は霊呪法を唱えた。【全体捜索】とは周囲の霊波反応を探知する事が出来る。祠自体が巨大な霊力の塊のようなものだ。【全体捜索】に引っ掛かる可能性は十分にあった。
舞の予想通り、祠の場所を補足した。ここから割と近くにあったようだ。
「見つけた。さてと、行くわよ~」
舞は気合を入れて祠に向かった。しばらく歩くと祠に到着した。祠は今まで見てきたものと全く同じ構造であった。
舞はそのまま中に入った。すると、今度の祠は巨大な天秤の様なものが沢山あり、さらに、大きな四角い鉄も沢山あった。
「成程ね、今度はそういう仕掛けか」
舞はそう言うと四角い鉄に近づいた。改めて間近で見ると非常に巨大な鉄であった。
「霊呪法第十番【磁石誘導】」
舞は霊呪法を唱え、巨大な四角い鉄に手をかざし、そして、手を上に上げた。すると、巨大な四角い鉄が宙に浮いた。
【磁石誘導】は自身の手を磁石と同じ性質に変える霊呪法だ。それにより、四角い鉄を持ち上げたのだ。
舞はそのまま天秤の右側の笠に四角い鉄を置いた。すると、片方の笠が上に上がり、それにより、上に上がる道が出来た。
舞はそのまま進んでいった。その後も似たような構造だった為、舞は同じようにして進み、やがて、巨大な牛の彫刻とトーテムポールのある場所まで辿り着いた。
「祠自体は楽勝だったわね。行くまでが大変だったけど…」
舞は若干くたびれた感じでそう呟いた。無理もない。一日で三つの島の祠を回ったのだ。疲れもする。
このイベントは期限が三日間なのでそこまで焦る必要もないだろう。
今日はこの「グリーン島」の宿に泊まる事にした。
「ちょっと休憩しましようか」
アルビレーヌがそう言うと皆が頷き少し休憩をした。
「これ…四宮先生が昔書いた日記みたいだね」
「ああ、今から百年前…か…昔の「USW」の「フォース」にこんな風習があったなんてね。今はこんな風習はない筈だ」
一夜の言う通り、今の「フォース」にその様な風習はなかった。
何故なくなってしまったのかは分からない。だが、この先の内容がそれに関わっているのではないかと皆は考えていた。
「さてと、じゃあ次行きますか」
屍がそう言うと皆は本の内容を聞き始めた。
舞は「グリーン島」の旅館に泊まっていた。旅館の作りは非常に独特であり、かなり和風な作りになっており、先程の祠のようにインディアンの様な雰囲気はなかった。
どうやらこの「フォース」という島々は観光客がそのまま移住して外国の技術をこの島に広めた事により、様々な異文化が取り入れられている島でもあるようだ。
「なんか海外の旅館って感じしないわね。まぁ、こっちの方が落ち着くけどね」
舞は緑色の浴衣を来ていた。元の美しい容姿と相まって非常に様になっていた。
舞はすぐさまベッドに直行した。そして、そのまますぐに眠りについた。
ここは夢の中、舞は暗闇に一人立っていた。だが、舞の目の前に四つの影がやってきて、それら全てが小さな小人の姿に変化した。小人たちは宙に浮いていた。
舞はこの小人たちに心当たりがあった。
「まさか…四大神!?」
舞がそう言うと小人たちがクスクスと笑いだした。とても愉快そうであった。
「赤色なのが「クー」、ピンク色が「カネ」、緑色が「ロノ」、そして、紫色のあなたは恐らく「カナロア」ね」
守り神たちは舞の回りをクルクル回っていた。まるで彼女を気に入っているようであった。
「何であなたたちは私の夢の中に?」
舞がそう言うと守り神たちが動きを止め、その小さな手を動かした。
ハタから見たら何をしているのか分からないが舞は彼らの考えが理解出来る気がした。
「え?遊びたかった?」
舞がそう言うと小人たちがクルクル楽しそうに宙を回った。とても楽しそうにしていた。
どうやら、四大神は舞を気に入ったようだ。
「それにしてもこれは一体…」
舞はこの奇妙な現象を不思議に感じた。今までこのような事になった事がないのもそうだが、神々が舞の夢の中に現れるという事自体、舞にとって不思議で仕方なかった。
四大神はとても楽しそうにしていたが一体だけ静かな神がいた。恐らく「カナロア」だろう。何故この「カナロア」だけが静かにしているのだろうと舞は疑問に思った。
舞がボーッと考え事をしているともう一つ黒い巨大な影が現れ、四大神を飲み込んでしまった。
「何!?これ!?」
舞もそのまま影に飲み込まれ、意識が暗転した。
舞は四つ目の島、「ファントム島」に足を踏み入れた。この島はかなり過疎化しており、人は殆どいない。
辺りは常に霧に包まれており非常に不気味だ。しかし、他の島と比べて開発はあまりされていないため、自然がそのまま残されている土地が多い島でもある。
「さてと、行きましょうか」
舞は祠のある場所に向かっていった。
祠を見つけるにはそこまで時間が掛からなかった。すぐに見つけることが出来た。
舞はその祠の中に入っていった。
中は今までと同じ一度入るとリタイアするかクリアするまで出れない仕組みだ。
しかし、今回は少し妙であった。中はなにも仕掛けはなく、目の前に海の彫刻とトーテムポールが置かれていた。
明らかに様子がおかしかった。
舞はトーテムポールに近づき目の前にたった。
「これでクリア?最後にしては随分呆気なかったわね」
舞がそう言うとトーテムポールから小さな小人が現れた。間違いない、昨日、夢で見た小人だ。そして、この小人の名はー
「「カナロア」?どうして私の目の前に…」
舞は疑問に思い「カナロア」に訪ねた。「カナロア」はどうにも助けを求めているようであった。
何となくだが舞はそんな気がした。しかし、何故自分に助けを求めているか、舞には分からなかった。
「やはり、君は四大神に選ばれていた様だね」
舞の後ろから声が聞こえた。男性の声だ。男性は黒ずくめの格好をしており、顔はよく見えなかった。
「あなたは?」
「私は…この世界を変える、神の使いさ」
「胡散臭いわね」
「大人しく「カナロア」を渡すんだ。そうすればそのまま見逃してやる」
「成る程ね…「カナロア」はこいつが来るのを分かってて私に助けを求めたのね」
「四大神は「カナロア」以外は捕獲済みだ。後はそいつだけだ。そいつさえ、捕らえる事が出来れば、世界を「ひっくり返す」事が出来る…」
舞は男の言っている意味が分からなかった。しかし、「USW」神聖な存在である四大神を捕獲しようとしている以上、野放しにするわけにはいかなかった。
「あなたの言ってること…意味が分からないけど、ロクな事を考えていないって事だけは分かるわ。「カナロア」は渡せないわね」
「なら…力づくで奪うまでだ!」
男は舞に襲いかかった。男は黒い雷の魔術を使用した。黒い雷が舞を襲う。
「霊呪法第二一〇番【虚神】」
舞の周囲に霊力の盾が出現した。その盾が黒い雷を防いだ。
「ほう…中々高度な霊呪法だな、四大神が気に入るわけだ。だが…」
男は舞が攻撃を防いだ隙を狙って次の魔法に移っていた。今度は水の魔術だ。
「【水海原】」
大量の水が流れてきた。これでは【虚神】で防ぎようがなかった。
「な!?」
舞は水に飲み込まれた。しかし、何とか体勢をたてなおした。しかしー
「ふっ…相手が悪かったな。これで終わりだ【黒雷】」
男は黒い雷を水に流し込んだ。水は電気を通す。
水はあっという間に黒雷で覆われた。
「きゃああああ!!」
舞は身体が濡れていたし水におもいっきり浸っていた。黒雷は容赦なく舞を襲った。
舞身体を痙攣させながら倒れた。しかし、辛うじて意識は残っていた。
「ふおおおおん!!」
「カナロア」が雄叫びを上げると男の足下に黒い空間が現れた。その空間の穴は男を飲み込もうとしていた。
「「カナロア」の冥界を繋ぐ力か…私を冥界に引きずり込むか…」
男は余裕な表情を崩さなかった。
「仕方ない…早速力を試してみるとするか…出でよ!【戦神】!【命神】!【豊神】!」
男は神の名を呼んだ。すると男の身体から三体の獣が召喚された。
それぞれ、鶏、小人、牛の姿をしていた。舞はその姿を見て気がついた。彼らは「カナロア」以外の四大神だ。
「……!」
「カナロア」は明らかに動揺していた。しかし、三体の神は完全に男に操られているようで、「カナロア」の事を気にも止めなかった。
三体の神は「カナロア」が作り出した冥界の穴を消し飛ばした。
「そんな…」
舞が力なくそう呟いた。「カナロア」一体だけで残りの三体の神を止めるなと出来る筈もない。このままでは「カナロア」まで奪われてしまうだろう。
「【黒雷】」
男は「カナロア」に黒雷をぶつけた。「カナロア」は意識絶え絶えの状態であった。
ーくそ!このままじゃあ…
舞は必死に思案を巡らせた。このままではあの男に「カナロア」が連れ去られてしまう。そして、あの男の何らかの計画に利用されてしまうだろう。それは何としても避けねばならなかった。
ーそう、どうにかしてあの男に捕まらないように…………!
舞は一つの考えが浮かんだ。しかし、この方法を使えば…舞は………人間ではなくなる。
だが、今の舞はそんなことどうでもよかった。今、「カナロア」が舞に助けを求めてる。他の三体の神も苦しんでいる。きっと、彼らも舞に助けを求めてる。
あの男の元に守り神を全て揃えてしまえば大きな災いが起こるだろう。
それだけは避けねばならない。
だから舞は決めた。「四大神と自身の魂を強制的に契約をさせる」事を…
「確か…契約魔方陣は…」
舞は自分の血を使い、魔方陣を作成し始めた。舞は昔読んだ資料を元に魔方陣を作っている。成功する保証はない。だがやるしかない。
「さて…頂くよ、「カナロア」」
男が「カナロア」手を伸ばす。「カナロア」を捕獲する気だ。しかし、「カナロア」は後ずさる事しか出来なかった。
「来い!「カナロア」!」
舞が叫ぶと「カナロア」は舞の方を向き、舞の所に飛んでいった。そして、舞が作った契約魔方陣の中に入った。
「何をしようと……!貴様まさか…魔女になるつもりか!?」
男は舞の意図に気がついた。男は一気に焦りの表情へと変わった。
「四宮舞が命ずる!私と契約し、力となれ!【冥海神】!」
舞が契約を完了させた。すると舞と「カナロア」の身体が光り出し、「カナロア」の身体は消滅した。
「貴様…人間を止めたな…!」
男は忌々しげにそう言った。舞はすぐに立ち上がった。
「ふん…あなたさえいなければこんな事にはならなかったでしょうね」
舞はそう言ってホルスターから銃を取り出した。舞は昔から銃の扱いに長けていた。
「【冥海神】!」
舞が神の名を呼ぶと舞の後ろから巨大な鮫の化け物が出現した。海と冥界の神、「カナロア」の真の姿だ。
「カナロア」が舞の銃と一体化した。銃には莫大な霊力が込められていた。
「ちぃ!【黒雷】!」
男が黒い雷を放った。しかし、舞は動じることはなかった。
「【冥界の激鉄】」
舞は銃弾を放った。その銃弾は黒く禍々しさがあった。弾道が男に向かっていった。黒雷はその一発の弾により、消え去り、男の腹を貫いた。
「がっ…」
男が短い声を出し、倒れた。一撃であった。
「はぁ…はぁ…」
舞も息をかなり切らしていた。身体中には先程の黒雷のダメージが残っている。あまり、長くは戦えない。
舞は神と契約し、魔女となった。本来魔女は悪魔と契約してなる事が多い。神と契約して魔女になるなど異例な事だ。
しかも、契約は簡単に成功するものではない。失敗するリスクは勿論ある。というか、失敗すれば確実に死ぬ。
舞が「カナロア」との契約が成功したのは舞と「カナロア」の魔力の適性度が高かったからである。
舞は男に近づいた。残りの三体の神も取り返さなければならない。
「まさか…このアザゼルがここまでやられようとはな…全く、まさか「カナロア」と契約するなど予想外だったわ」
男が…アザゼルがそう言って立ち上がった。
「身体に穴を開けたのに立ってるなんて…あなた不死身!?」
「まぁ、似たようなものかもしれないね。私は死なない。例え身体がなくなろうともな!」
アザゼルが舞に襲い掛かってきた。しかし、舞は先程の「カナロア」の力を乗せた銃弾を五、六発アザゼルにぶち込み、アザゼルは倒れた。
アザゼルの身体は至る所に風穴が空いおり、彼の周りには血の海が広がっていた。もはや、生きてはいまい。
舞は至近距離から銃弾を打ち込んだ為、アザゼルの帰り血を浴びており、至る所に彼の血がついていた。
「ふふふ…私の帰り血を浴びたな…これで!貴様の身体を乗っ取れる!!」
「!!」
「もう遅い!【転生】!」
アザゼルの肉体が消え、魂が現れた。黒く禍々しい姿をしていた。その魂が舞に取り憑いた。
「ぐ…わ…」
【はははははは!!これで貴様の肉体の中にある「カナロア」は私のものだ!】
舞は意識が遠退いて行くのを感じた。
ークソ…ここまで…か……
舞が諦めかけたその時、アザゼルは悲鳴を上げた。
【ぎゃあああああああ!!!何だ!?これはああ!?私の魂が…押し潰されるううううう!!!!】
舞はすぐに気がついた、四大神だ。アザゼルが魂だけの存在になったことで他の三体の神たちの洗脳が解けたのだ。その三体の神々が舞を助けたのだ。
「皆…」
「娘…我々ト契約ヲ結べ」
「クー」が片言でそう言った。既に契約を結んだ「カナロア」は簡単に舞から離れられなくなったがそれ以外の神は別だ。もう自由の身の筈だ。その神々が舞を助けようとしていた。
「あなたたちはもう、自由の筈…なんで私を?」
「ワタシタチハアナタヲ気ニ入ッタノヨ。ダカラアナタヲ助ケル」
「カネ」がそう言うが舞は躊躇していた。しかし、次に「ロノ」が舞に語りかけてきた。
「娘…我々ハ貴様ト共二歩ム事ヲ決メタ」
短い言葉であったが「ロノ」は自身の言葉でそう言った。そしてー
「舞…私たちはあなたが気に入ったの。だから…私はあなたと契約を結んだ事であなたを恨んでいない。彼らも同じ。さぁ…」
最後に「カナロア」がそう舞に語りかけた。
何れにせよ、舞が身体を乗っ取られれば四大神は呆気なく捕まってしまうだろう。
舞には選択肢が一つしかなかった。
「【戦神】、【命神】、【豊神】!私に従え!!」
舞は瞬時に三体分の契約魔方陣を作り出した。そして、「クー」、「カネ」、「ロノ」の三体の神々と契約した。
それにより、四大神はアザゼルの魂を封印した。
【く…失敗したか…だが、いずれ甦る。四大神の力で私をいつまで閉じ込めておけるか…見物だな…】
アザゼルの声はそのまま消えていった。舞は意識を失い、そのまま倒れた。
舞はその後、「ファントム島」にたまたま立ち寄っていた常森厳陣と黒宮大志によって保護された。
当時の彼らは軍人であり、厳陣も当時は非常に若々しい姿をしていた。髪は黒髪の短髪であった。
大志は姿が全く変わっていなかった。黒髪と片眼鏡をこの時からかけていた。
舞と厳陣、大志はこの時初めて対談した。彼らは「十二支連合帝国」のトウキョウ裁判所の中にある一室で話をしていた。
「これは興味深いですね…神を宿した少女…ですか…」
大志は舞を珍しいものでも見るような目をしていた。まぁ、実際に四大神と契約している者など非常にイレギュラーな事態な為、大志が興味深そうにしているのは当然であったのかもしれない。
「ご家族は?」
「私は施設出身です。家族はいません」
「そうか…しかし、困った事になった…今の君を普通の生活を送らせる事は出来ない」
「…覚悟はしています」
「…そうか。君はこれから軍に身を置いてもらうことになる。勿論、君の事は極一部の人間以外は黙秘しなければならない」
厳陣は冷たい口調でそう言った。舞の覚悟は四大神を契約した時点で決まっていた。
力のあるものはそれを行使する義務がある。正義のために、平和のために。
舞はアザゼルを見て、この世界には恐ろしい悪人は多くいるという事実を改めて思い知った。
舞は幼少の頃から正義感が強く、多くの魔道犯罪者を倒してきた。
しかし、舞一人では全ての悪を裁けない。なら、軍に身を置いた方が都合がいいと舞は思っていた。
本当は研究者の仕事にも興味があった。しかし、今は正義のために戦わなければならない。
四宮舞は軍人として戦うことを決意した。
慧留と屍が本の内容の説明を終えた。他の者たちは暫く何も話せなかった。
無理もない。話がデカすぎる。舞はどんな気持ちで守り神たちを従えたのか…それは蒼たちには想像もつかない。
「それにしても…こんな過去があったなんて」
「常森総帥と黒宮さんと接点があったなんてな。まぁ、以外でもなんでもねぇのかもしんねぇけど」
何れにしても、この事態を何とかしなければならない。
このまま野放しにしてしまえば、舞が百年前に行った覚悟と行動が無駄になってしまう。
「けど、分かったのは四宮舞が四大神を宿した理由だけだよ。肝心な倒し方や今あいつがいる場所までは分からない」
辛辣な事をウルオッサは言い放った。だが、ウルオッサが言うことも尤もであった。
今肝心である、アザゼルの倒し方と彼がいる場所が分からない。だが、
「手掛かりはある」
そう言ったのは一夜であった。すると、辺りが一夜をみた。一夜は気にぜず、話を続けた。
「「ファントム島」だ。そこに行けば何か分かるかもしれない。確か、ファントム島に「カナロア」が封印されていたと書かれていた。もしかしたら…」
「可能性は低い…だが、行ってみる価値はある」
蒼がそう言うと皆は辺りを見て頷いた。
「よし!ファントム島に行こう!」
「話は纏まったみたいだけど…アザゼルはどうやって倒すのかしら?」
アルビレーヌがそう言った。確かに探せて見つけ出しても倒せなかったら意味がない。アザゼルは魂の存在だ。倒すことは容易ではない。
「それなら心配ねぇよ、今倒す方法を思い付いた」
そう発言したのは屍であった。
「聴こうかしら?」
「ラナエルは上手く合流できたか?」
ドラコニキルは不安そうにそう言った。彼は今、執務室で一人座っていた。いや、彼女にお使いを頼んだのは他でもないドラコニキルなのだが、些か不安ではあった。
無鉄砲な所が彼女にはある。ラナエルは蒼に対して友好的であったので、ドラコニキルが直接出向くより、ラナエルに行かせた方がいいと考えたのだが、今頃になって不安になってきた。
「過保護か…俺は…」
ドラコニキルはそう呟いた。今のドラコニキルはまるで初めての自分の子どものお使いを見守る母親の様であった。
二人はそこまで歳の差はない筈なのだが、ラナエルはどうも子どもっぽく、目が離せない。
…ドラコニキルが過剰に反応し過ぎともとれるが。
「アザゼル…こいつはかつて、「USW」の暗殺者だった。そんな奴が何故、「USW」の守り神を襲い、「USW」で暴れ回っていたのか…謎は深まるばかりだな」
ドラコニキルは「アザゼル」の経歴を調べていた。そして、彼が「USW」…というより、アンタレスの一人であった。
つまり、アザゼルはドラコニキルたちの先輩に当たる。そんな人物が何故この様な凶行を行ったのか…理由が分からない。
そもそも、アザゼルは昔から何を考えているのかよく分からない人物であったようだ。
だが、一つ分かる事があった。彼とカーシスは何らかの繋がりがあった事は確実だろう。
カーシス・ベルセルク。いや、本名はクリフォト・ユールスナール。「USW」の創設者でもあり、光明庁長官でもあった男だ。
全てを騙した、偽りの王。それがクリフォト・ユールスナールだ。
「何れにしても奴は必ず何らかの動きを見せる。その前に…」
「大変です!ドラコニキル様!」
突然、扉から一人の男性が現れた。「USW」の軍人だ。
「どうした?何かあったのか!?」
男の焦りようが尋常ではなかったので、ドラコニキルも少し動揺していた。
どうも、他人が動揺すると焦ってしまうなとドラコニキルは自嘲気味に思った。
自分の危機的状況の時は言うほど動揺しないというのに。
「外の様子を見てください!「全てがひっくり返ってます」!」
「はぁ?」
ドラコニキルは男が訳の分からない事を言っていたのでそんなすっとんきょうな声を上げた。
ドラコニキルは急いで外に出た。すると、男の言っている意味が分かった。
「な!?これは…どういう事だ!?」
ドラコニキルの目に写っていたのは空と大地がひっくり返っていた「USW」の大地であった。
澪とアザゼルは祠の中で攻防戦を繰り広げていた。お互いの力は現在のところは互角であった。しかし、懸念事項が多くあった。
まず、アザゼルは今、四大神の力を殆ど使っていない。先ほどの「カネ」の力を使って以降、四大神の力を使っていなかったのだ。
「その程度かしら?」
「【星反転】!」
澪は【星神の杖】を地面に叩きつけた。すると、アザゼルの地面から巨大な魔力砲が放たれた。これは流石に避けれない。
「【戦神】!」
アザゼルは「クー」を呼び出した。そして、「クー」の背中に飛び乗り、澪の攻撃を躱した。
「それが、四大神の一体…戦の神「クー」…」
「そうよ、私は神の力を得た。あなたが私を倒すのは無理な事なのよ!」
「それはどうかな?【流星神速】」
澪は光速で「クー」に乗っているアザゼルに肉薄した。しかし、アザゼルも簡単には澪を近づけさせなかった。
「クー」が『砲撃』を放った。その『砲撃』は触れた物を爆発させる殺傷能力が極めて高い危険な技だ。
澪は「クー」の爆撃を喰らってしまった。
「ぐはぁ!」
「まだまだよ!【戦神】!」
「コケコッコー!!」
「クー」は叫び声を上げ、翼を羽ばたかせた。鶏の神でもある「クー」は鳴き声も鶏のようであった。はたから見たら非常にシュールな光景であっただろう。だが、今は状況が状況の為、そうも言ってられない。
「クー」が羽ばたかせた場所が次々と爆発していく。このままでは澪はただでは済まない。
「【星混沌旋風】!」
澪は【星神の杖】から巨大な魔力砲を放った。彼女の使う杖【星神の杖】は彼女の魔力を上昇させるための魔法アイテムであり、舞はその杖を愛用している。
巨大な魔力砲は「クー」を穿ち、アザゼルの心臓を貫いた。
「ぐぅ!」
「コケコー!!」
アザゼルと「クー」はそのまま落下した。澪は何とか態勢を立て直し、上手い事着地できた。しかし、右半身がかなりダメージを受けており、余り余裕はなかった。
「やるわね。【命神】!」
アザゼルが叫ぶとピンク色の小人が現れた。「カネ」はまたもや、アザゼルの身体を回復させた。さらに、「クー」も体力が回復していた。
「く…」
「安心しなさい。これ以上回復すると私の身は持たないわ。まぁ…あなたはもう負けるけどね」
「随分自信があるんだね。四大神を使っときながら私相手に苦戦するなんてさ」
「あなたはとても強いわ。それは誇ってもいい。けど、私は負けないわ」
アザゼルはこの戦いは自分が勝つ事を確信している。澪はそれがどうにも気に喰わなかった。確かに澪も相当なダメージを負ってはいるが、今押しているのはどう考えても澪の方だ。
「【豊神】!」
アザゼルは「ロノ」を呼び出した。巨大な牛の化け物である。
「確か、豊穣の神…」
澪は身構えた。相手は神だ。何をしてくるか分からない。警戒しすぎ、なんて事はないだろう。
「ふ…油断も隙も無いか…けどまぁ、終わりだけどね」
「!!」
澪はアザゼルの狙いに気が付いた。しかし、気付いた時には既に遅かった。「ロノ」は一瞬で辺りを花畑に変えた。そして、その花畑を「クー」の力により爆発させた。
「ロノ」の草木は爆発を通しやすい植物だった。爆発は今までとは比較にならない程の威力を誇っていた。
「が…は……」
「まだ、人の形が残っているのね。今の爆発量からすると木端微塵になってもおかしくなかった筈だけど…」
アザゼルは勝ち誇ったようにそう言った。澪は全身が焼け爛れていた。身体全身から血が噴き出し、立つ事さえ、ままならない。
「ふ…思ったより苦戦しちゃったわね。まさか、守り神を三体とも召還する羽目になるなんてね」
アザゼルはもっと早くに戦闘を終わらせる筈であった。しかし、澪が想像以上に出来る魔導士であった為、アザゼルは守り神を使わざるを得なかった。
とは言え、力は六割ほどしか使っていなかったが。しかも、今のアザゼルは守り神の力をフルに出せていないのが現状だ。
つまり、今のアザゼルは仕留める絶好のチャンスであったと言えた。しかし、澪はそれを逃してしまったと言っていいだろう。それほどまでにアザゼルの力は想像より上を言っていたという事になる。
「ま……だ……よ……」
「嘘…!?驚いたわね。その傷でまだ立てるなんて。まるで「身体を強制的に繋ぎ止めてるみたい」ね」
澪は【星接続】を使用していた。この魔術は魔力を身体中に糸のように張り巡らせ、強制的に動かす魔術だ。
しかし、動けない筈の身体を動かすという事は身体に相当な負担が掛かる。骨が砕けようが動き続けるが最悪の場合後遺症が残る危険性すらある禁術でもあるのだ。
「このアザゼル…あなたに敬意を表するわ。心が折れぬ限り立ち上がり続けるその気概、尊敬に値する」
アザゼルが澪に激励の言葉を贈った。アザゼルは間違いなく、彼女を認めた。単純な強さだけでなく、折れない心も持ち合わせている。
彼女の強さにアザゼルは感服したのだ。
「あなたに敬意を表し、あなたが完全に息絶えるまで戦ってあげるわ!」
アザゼルがそう言うと「ロノ」が巨大な蔦を発生させ、澪を拘束した。そして、「クー」の力でその蔦を爆発させた。
その爆発は凄まじいもので祠の下に大穴が開き、澪はその穴の中に落ちていってしまった。
巨大な大穴は底が見えない。澪はもう、助かる筈もないだろう。アザゼルはそう確信した。
「これでようやく邪魔者は居なくなったわ…【冥海神】…あなたは私のものよ」
アザゼルはそう言ってトーテムポールに佇んでいた「カナロア」に手を伸ばした。
To Be continued




