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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第四章】百夜亡霊篇
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【第四章】百夜亡霊篇ⅣーNewcomerー

 少女…プロテアはそう言った。そして、銀色の長い髪をなびかせてアザゼルを追っていった。屍と遥の目の前にアザゼルの姿もプロテアの姿もなかった。


「取り敢えず助かった…のか?」

「そのようね」


 屍と遥は一息ついた。どうやら脅威は去ったようだ。


「これは…」


 後ろから声が聞こえた。蒼たちがここにやってきていた。大学内にあちこちにあった破壊痕があった為、驚いていたのろう。


「時神か…遅かったな。そっちにいるのはアルビレーヌか…」

「ああ、まぁな」

「言ったでしょ?何かあるって」

「………」


 蒼は黙り込んだ。アルビレーヌにいいようにされているようで気にくわなかった。まぁ、今の蒼の心情を知る者はこの中には恐らくいないだろう。それがせめてもの蒼の救いであった。


「何があった?」

「見ての通りよ。アザゼルがこの大学に攻め込んできた。目的は一切不明。正直、ヤバかったわね。謎の銀髪少女が助けに来なかったら私たちはやられていたわ」

「謎の銀髪少女?何だそりゃ?」

「アザゼルはそいつの事を知ってるようだったな。確か、「ヘレトーア帝国」の奴って。名前はプロテアって言ってたな」

「「ヘレトーア帝国」だと!?あいつらは基本的にどこの国に対しても一切干渉しない奴らだぞ!?そんな奴らが何故…」

「分からねぇよ。こっちが聞きてぇくらいだ」


 蒼は訳が分からなくなっていた。「USW」だけではない。今回の件は「ヘレトーア」まで絡んでると来た。彼らが絡む事など蒼は今まで事例が無かった為、少し混乱していたのかもしれない。それはアルビレーヌも同じようだ。


「で?どんな奴だった?「ヘレトーア」つったら大半の奴らは何かしらの宗教に所属してるはずだ。あそこは宗教大国でもあるからな」

「博識ね、私、あまりそう言う事詳しくなくてね」

「まぁ、「ヘレトーア」の事を知ってる奴は少ねえからな。特に「USW」なんかは歴史の授業で「ヘレトーア」の授業内容をバッサリ抜いてるらしいしな。「十二支連合帝国」はそうでもねぇみたいだけど」

「ええ、でもあたしが知ってるのは「ヘレトーア」が宗教大国って事とその中で代表的な宗教が三つあるって事だけよ」

「代表的な宗教?」

「ああ、「ヘレトーア」には代表的な宗教が三つある。一つは『セイント教』で「ヘレトーア」の中でも最も有名な宗教だ。宗教神は【グノウェー】、『ヘレトーア』の太陽神だ。まぁ、この国で言う『アマテラス』みたいな感じの神だ。二つ目が『セクラム教』だ。宗教神は【ケルビエル】だ」

「ちょっと待ちなさいよ。【ケルビエル】って天使よね?天使は確か「神聖ローマ」とその周辺にしかいない筈じゃ…いえ、今は数を減らして「ローマ合衆国」にいる者と逃亡してきたあなたしかいない筈よ」


 そう、アルビレーヌが言うのも尤もであった。天使は元々が希少種であるがゆえに『第三次大戦』以前でも「神聖ローマ」とその周辺の国々にしかいなかった。今となっては「ローマ合衆国」にいる者と逃亡してきた蒼しか天使はいない筈なのだ。

 「ヘレトーア」は「ローマ合衆国」からかなり離れていた。にも拘らず、何故、『セクラム教』は【ケルビエル】を宗教神としているのか、アルビレーヌには分からなかった。他の者たちもそう思っていたのだろう。


「ああ…俺もそこまで詳しいわけじゃねぇんだ…何で【ケルビエル】を信仰してるとまでは分からん。だが、確かに【ケルビエル】は「神聖ローマ」にいた天使だ。そんな奴が何で「ヘレトーア」の代表的な宗教神なのかは俺も疑問に思っちゃいるんだが…如何せん「ヘレトーア」の物件は少なくてな」

「まぁ、一先ずはその話は後回しでいいだろう。時神、三つ目の宗教は?」

「ああ、三つ目の宗教は『イシュガルド教』。宗教神は【ダーラマラン】、ヘレトーアの部族の神とされてるそうだ。それ以上は分からん」

「イシュガルド…そう言えばあいつはイシュガルドを名乗ってた」

「『イシュガルド教』の者か…厄介だな…」

「?どういう事だ?時神?」

「イシュガルド…それなら私も聞いた事があるわ。「ヘレトーア」の戦闘部族、イシュガルドの事ね。確か、特殊な力を使える人間の集団の事よね?『イシュガルドの内乱』が有名だわ」

「ああ、『イシュガルドの内乱』…「ヘレトーア」史上最低最悪の戦争を起こすきっかけになった部族だ。お前らもそれくらいは聞いた事があるだろ?「ヘレトーア」の事をよく知らない奴でもこれは知ってる奴多いからな」


 『イシュガルドの内乱』…「ヘレトーア帝国」が五十年前に巻き起こした最悪の内乱だ。イシュガルドは昔から特殊な力を持っていた部族であった。故に、他の者たちから価値観などの違いで煙たがられていた。さらに宗教的な価値観に違いから子競り合いも少なくなかった。

 しかし、煙たがれこそしていたが、決して扱いがぞんざいな扱いばかりされていた訳ではなかった。しかし、一部の者は不満に思っていたようでその不満がふつふつと溜まってきていたのだ。


 そんな時に「ヘレトーア帝国」の軍人が誤って「イシュガルド教』の子どもを射殺してしまった事件が発生。これを機に国がイシュガルドを潰す気だと感じ、暴動を引き起こした。その暴動は大きくなりやがて、『イシュガルドの内乱』に発展する事となった。

 この時、『セイント教』と『セクラム教』は協力体制を取っただけでなく、「USW」や「神聖ローマ」、「十二支連合帝国」からも兵力の一部を投入。イシュガルドを殲滅した。その殲滅は凄惨なもので、イシュガルドを叩きのめした。

 その状況はまるで地獄絵図だった。罪のない一般市民の死体の山、辺りは血の海、耳をつんざく悲鳴、虐殺以外の何物でもなかったと言う。


「…恐らく、そいつはイシュガルドの生き残りだな。まぁ、そんな奴が何故、アザゼルを倒そうとしてるのかは疑問だがな」

「取り敢えず、屍君と遥ちゃんの治療が先決ね」


 アルビレーヌがそう言うと蒼は屍の方を見た。何か言いたげな顔をしていた。


「どうでもいいけど、お前ってよく腕失くすよな…」

「そんな事どうでもいいだろ!?」


 蒼の手痛い指摘に屍は苦い表情を作った。確かに屍は蒼と戦った時や『七魔王セブン・ドゥクス』の一人、グリトニオンと戦った時、そして、今回の戦い、というか、屍が強敵と戦う時、必ずと言っていいほど、腕が消し飛んでる。

 まぁ、自身の錬金術である程度、欠損した身体は補えるし、今の医学の技術的に失った身体を元に戻すこと自体は容易ではあるので屍にとってそこまで手痛いという訳ではないのだが、地味に屍本人も気にしていた事だったので、ぶっちゃけあまり触れて欲しくなかったというのが屍の本音だった。


「まぁ、取り合えず戻った方がいいか」

「おーい!蒼~」


 声が聞こえた。その声は美浪だった。慧留とウルオッサ一夜も一緒だった。


「やっと合流出来たよ」

「ここにいたんですね」

「ああ」

「ただ事では無さそうだね。詳しく聞かせてもらおうかな」


 ウルオッサがそう言うと蒼たちは事の顛末を話し出した。








 アザゼルは上空でひたすらプロテアから逃亡していた。しかし、プロテアは物凄い速さでアザゼルに迫っていた。追い付かれるのも時間の問題であった。

 しかし、アザゼルはここでやられる気は毛頭なかった。


「しつこいわね」

「あなたを殺すまで止まる気はないわ」

「そんなに私に怨みがあるのかしら?まぁ、イシュガルド…か…よくよく考えてみれば私を怨んで当然か…復讐かしら?」

「……!」


 プロテアは目付きを鋭くし、さらに速力を上げた。そしてとうとう、彼女に追い付いた。


「【鉄王剣(ハディード・サイカ)】!」


 プロテアは鉄の剣をアザゼルに振りかざした。しかし、アザゼルはその一撃をどうにか回避した。


「復讐鬼…か…やはりあなた、イシュガルドの生き残りね。けど、あなたの殺意…尋常なものじゃ無いわね」

「私は忘れない…あの時の事を…」

「あの時ってあなた…もう五十前の…ああ、そう言えばイシュガルドの人間は通常の人間より成長する速度が遅いんだったわね。あなた、外見年齢は二十歳位だけど実際はもっと年を取ってるわね?」

「それを知ったから何?あなたはもうここで死ぬ」

「そうね、このまま、やりあっても勝てないわ…けど、勘違いしないでね?私が使える力は四大神だけじゃあないのよ!」


 アザゼルがそう言うとプロテアの頭上から黒い雷が無数に落ちてきた。

 その瞬間、プロテアは自身が顕現した鉄の剣をアザゼルに放り投げた。すると、雷は鉄に引き寄せられ、アザゼルを襲った。

 鉄が避雷針変わりになったのだ。


「ギャー!!!」

「私に雷の魔術を使ったのは愚作。これで終わりよ!」

「甘いわ!」


 アザゼルは既に次の手を打っていたようだ。プロテアの足元から魔方陣が出現していた。そこから炎が発生した。


「【鉄鎧冑(ハディード・ディルア)】!」


 プロテアの身体から鉄の鎧が出現し、プロテアの身を守った。そして、強引に炎の結界を突き破った。

 余りの力業なやり方にアザゼルは多少動揺した。


「とんだ脳筋女ね。まぁ、時間は十分に稼げたわ!」

「…しまっ…」


 プロテアはアザゼルの意図に気がついたがもう遅い。アザゼルの足元には『瞬間移動(テレポート)』の魔方陣が組み込まれていた。

 アザゼルは最初から逃亡することしか考えていなかったようだ。


『ご機嫌よう。小さな復讐鬼さん』


 アザゼルは余裕綽々と言った表情でプロテアに手を振った。

 それがプロテアの堪に障ったのだろう。プロテアは怒りの形相を露にした。

 プロテアは鉄の剣でアザゼルを切り裂こうとしたが彼女が切り裂いたのは虚空の空であった。

 …逃がした。アザゼルの機転にプロテアは負けたのだ。


「……」


 プロテアは歯を食い縛ったがすぐに冷静さを取り戻し、どこかに去っていった。









「さてと…いよいよ手掛かりがなくなってしまったね」


 一夜は困ったようにそう言った。舞が造り出した地下空間、日比野大学を初めそれらしき場所を一通り調べてみたが何も手掛かりが掴めず終いだった。


「さて…どうしたものかしらね…」


 アルビレーヌが溜め息をついた。蒼たちは今、湊の自宅に全員集まっていた。

 アザゼルとの戦いから既に三日経っていた。にも拘らず、一向に状況は進まない。

 「クー」の封印はアザゼルが自力で解いたと言っていた。つまり、残る四大神は海と冥界の神「カナロア」のみという事になる。

 いや、もしかしたら既に「カナロア」も手中に収めてるかもしれない。


「まぁ、「カナロア」が掌握されてる可能性は低いわね。もし、四大神全てを掌握してるのならアザゼルは何らかの動作(アクション)を起こしてる筈よ」

「まぁ、そうだな。けど、モタモタしてると「カナロア」が盗られるのも時間の問題だぞ」


 蒼たちは考え込む。しかし、このままでは何も進まないのは明白であった。何か…何か無いものか…?



「やっと見つけた!ここにいたんだね!蒼!」



 そんな声が聞こえた。その声は聞き覚えがある声のような気がした。

 突然、蒼たちが使っていた机から穴が開き、そこから何者かが現れた。

 小さな少女であった。水色のショートヘアーが特徴の少女だった。


「ラナエル!?」

「久しぶりだぞ!蒼!」

「何でここに?」

「ドラコに頼まれたんだぞ。この本を渡して来て欲しいって」

「何だ?この本?」

「内容は分からないぞ。わたしもちょっと見てみたけど書いてる内容が意味不明だったぞ」


 ラナエルは蒼に黒い本を手渡した。何やら不気味な雰囲気が漂う本であった。

 蒼は本の中身を見た。確かに難しい文面であった。


「ウルオッサ、アルビレーヌ、読めるか?」

「うっわ!何これ?見たことないよこんな文字」

「……私も読めないわ…」

「お前らの国の本だよね!?」

「そんな事言われてもねー」

「私達…古代文字読んだことないし」


 蒼ははぁ~と溜め息をついた。蒼は文字を一通り見てみた。成る程これは古代の英単語で書かれている。

 蒼も多少は読めるが分からない単語が多すぎて完全に読めそうにない。

 しかも、内容も暗号化されており、ただ解読するだけでは意味が分からない内容になっている。


「はぁ…私、一応読めるよ」

「え!?マジかよ慧留!?」

「え!?何でそんなに驚いてるの?」

「だってお前、頭悪いんじゃ…」

「それ高二の話だから!今はそれなりに学力あるから!」


 慧留は堪らず叫んだ。そう、慧留は蒼や屍と同じ大学に通っているのだ。

 少なくとも今の慧留は高二の頃より大分学力はついている。そんな慧留を小馬鹿にした感じの蒼の態度が気に入らなかったのだ。


「けど、これ読めても暗号化されてて解読しても意味不明だぞ」

「それは心配要らねぇ。俺が解読する。こう見えて暗号を解くのは得意だ」


 屍はそう言い放った。そう言えば屍は謎解き系のゲームや解読が得意だった。


「じゃあ、暫く二人が解読するまで待つか」

「そうね、私達がいても邪魔だしね」


 そう言って、屍と慧留以外、部屋から出ていった。

 慧留と屍は早速本の解読を開始した。


「うわー、確かに書いてる内容が意味不明だよこれ」

「解読したやつこっちに持ってきてくれ」


 慧留は解読した文を屍に手渡した。屍は集中していた。それは慧留も同様だった。


 それから丸一日過ぎていった。










「舞台はもう少しで整うわ…」


 アザゼルはそう呟いた。アザゼルは今、異空間にいた。

 アザゼルが今いる場所は「USW」の島々にあるとある祠にいた。


「「カナロア」を見つけ出す事は困難だけれど…守り神が三体揃った…誘き出す事など造作もないわ」


 「カナロア」は海と冥界の神だ。この神は舞の守り神の中でも特殊で封印はされていない。

 というのも封印する意味がないからだ。カナロアは自分自身で造り出した異空間で普段は暮らしている。舞の呼び出しがある時以外は基本的に動かない。

 故に変に封印するより放置しておいた方が都合がいいのだ。現にアザゼルは未だに「カナロア」を見つけられていない。


「でも、三体の守り神を掌握していれば無理矢理呼び出す事も出来る…」


 アザゼルはそう言って守り神を三体召喚した。【戦神(クー)】、【命神(カネ)】、【豊神(ロノ)】の三体を呼び出した。

 すると、三体は共鳴するかのように身体が光出した。


「さぁ、来なさい!海と冥界の神!【冥海神(カナロア)】!」


 アザゼルの目の前に薄紫の光が新たに出現した。

 あれこそ、太古の昔から海と冥界を司る神、「カナロア」だ。


「あなたは私のものよ…これで…私の計画が完成されるわ!」


 アザゼルはケタケタと嗤った。


「う~ん。余裕こいてるけど、そんなに隙だらけで大丈夫?」

「!」


 アザゼルは後ろを見た。そこにいたのは黒髪赤目のロングヘアーで髪を一つに括っていた。


「貴様は確か…常森澪(つねもりみお)!」

「当ったり~♪」

「何故ここが分かった」

「いや、だって元々はここで祭られてたんでしょ?「カナロア」」

「……」

「まぁ、こっちはこっちでアオチーとは別に独自で色々調べてたんだよー」


 澪は既にアザゼルの事を聞いていた。だが、蒼たちとは別軸で動いていたのだ。


「さてと、「カナロア」は渡さないよ」

「そうは行かないわね。私の願いの為にも【冥海神(カナロア)】が必要なのよ」


 アザゼルは雷の魔術を使った。無数の黒い雷が澪を襲う。この雷は一発一発が相当な威力である。


「霊呪法第八九六【天地之剣(テンチノツルギ)】」


 澪は霊呪法を唱えた。すると巨大な霊力で形成された剣がアザゼル目掛けて飛んでいった。

 雷はその巨大な剣によって切断され、アザゼルに直撃した。


「がはっ!…これが八百番台の霊呪法…中々…やるわね」


 アザゼルは脇腹を押さえた。澪のさっきの攻撃で脇腹を抉られたのだ。

 口からも血を吐いており、とても戦える状態ではない。


「【命神(カネ)】!」


 アザゼルが叫ぶとピンク色の小さな小人が現れた。その小人が光を放つとアザゼルは瞬く間に傷が治っていた。


「命の神「カネ」の力ね…チートもいいところね、けどその力、あまり多用は出来ないわ。「カネ」は確かに命の神と言われるように傷を癒す力がある。けど、使いすぎると身体が活性化し過ぎて自身の身体が自壊するわ」

「…よく調べてるわね。その通りよ」


 「カネ」は命の神として祭られていた。しかし、その反面でその強すぎる癒しの力は人を殺す事も出来た。

 つまり、「カネ」は守り神の中でも二面性が強く出ている神と言える。


「ここからよ。《四大神》の真の力…見せてあげるわ」



 








「黒い本の内容が分かったのか?」

「うん、この本は百年前のアザゼル討伐戦の事が書かれた内容だった」

「で?どんな内容だったの?」

「うん、それをこれから話していくよ」


 慧留が説明を始める。ちなみに先程まで式神の解析をしていた湊もちゃっかりここにいた。


「湊お前、いつの間にいたんだよ」

「今、ここに来たよ。何やら重要そうな話をしてたみたいだからね」


 湊は笑いながらそう言った。以外としたたかなのかもしれない。


「話を始めるよ」


慧留は本の内容を読み始めた。








 どれだけの時が経ったのだろう。それは分からない。だけど、一つだけ言える事がある。

 四宮舞は普通の人間として過ごし普通の人間として生涯を終える筈だった。

 しかし、彼女は魔女となり、その身に四体の神を宿す事となった。

 それだけではない。彼女の身体には四体の神以外に悪魔も宿っていたのだ。

 だが、舞の身体にアザゼルが取り憑いたのは今から百年前だ。

 アザゼルは死んだ筈だった。だが、生きていた。誰かがアザゼルを生かしていたのだ。








 四宮舞は百年前までは施設に住んでいるというだけの普通の人間であった。普通の環境、四宮舞は平凡な生活をしていた。

 とは言っても高校に入学した時に施設からも出ていき、独り暮らしをしていたのだが。

 当時高校生であった舞は「USW」に観光に来ていた。この時の舞は自分が人間でなくなってしまうとは全く予想していなかった。

 舞は「USW」のとある列島にいた。その島々の名前は総称して「フォース」と呼ばれていた。かつては「ハワイ」と呼ばれており、今と同様に観光地として親しまれていた。


「暑い…」


 舞は短くそう言った。この地は年中暖かい常夏の島々だと言う。舞は暑いのが苦手だったので正直参っていた。

 舞がこの地に来た目的はただの観光だ。色々回りたかったが特に興味があったのはこの「フォース」に奉られている四つのトーテムポールだった。

 「USW」の守り神が宿っていると言われているらしい。それぞれ違う島々に奉られているようでこの四つの島を巡るイベントが非常に観光客の間で人気のようだ。

 舞もそのイベントに挑戦することにした。このイベントは神聖なイベントであるようでそれなりに難しいらしい。

 まあ、簡単なゲームより難しい方が燃えるタイプなので舞は気合いを入れていた。


 四つの島々に奉られているトーテムポールに行き、スタンプを四つ集めたらクリアというスタンプラリー形式のイベントだが、簡単にはたどり着けないよう、謎解きや仕掛けが多くあるという。

 舞は謎解きや仕掛けを解くのが昔から好きなためより一層興味が湧いた。

 まぁ、とはいえクリアするのが難しいと言えば難しいのだが、クリア不可能というわけではなく、観光客の何人かは毎年クリアしている人がいるようだ。

 因みに仕掛けや謎解きはイベントが終わるたびに変わるため、余計に難しさに拍車が掛かっていた。


 舞は早速、一つ目の島に辿り着いた。地図は貰っていたので、目的地まで向かった。

 そして、大きな祠に到着した。


「ここね。確か祠の中にスタンプがあるんだったわね」


 舞はそう言ってそのまま祠の中に入っていった。


「雰囲気あるわね~。ちょっと本気出しすぎじゃない?」


 舞はそう呟いた。当たりは青い光が灯っている。当たりはかなり古い造りとなっており、雰囲気があった。

 入口の扉は完全に閉ざされた。リタイアするかクリアするまで出れないようだ。


「さて、始めるわよ」


 この頃の舞は年相応の少女であった。早速、祠の中を進み始めた。

 しばらく進むと巨大なパズルが現れた。道は鉄格子で塞がれている。成る程パズルを解かなければ先に進めないようだ。


「ってこれ、何ピースあるのよこれ!?しかも制限時間は一時間しかないとか…」


 舞はいきなり難問を突き付けられて声を上げた。だが、ここで引く訳にもいかなかった。舞はパズルを解き始めた。

 最初は意味不明であったが舞は何となくこのパズルが解ける気がしたのだ。

 舞は流れるようにパズルを組み立てていく。自分でも不思議に思った。見たこともない筈なのに知っているかのようだった。

 それから十分後、舞はパズルを完成させた。


「出来た…」


 すると、鉄格子がなくなり、道が開いた。舞はそのまま先に進んだ。

 すると鶏の彫刻とトーテムポールが置かれていた。間違いない。ここが《四大神》の一体が奉られている場所だ。


「あ、スタンプ」


 舞はすぐにスタンプを押した。すると、出口の扉が現れた。どういう作りになっているのか非常に舞は気になったが取り合えず祠から出ることにした。


「あの鶏の彫刻が恐らく戦いの神「クー」。迫力のある彫刻だったわね」


 舞は次の島に行く準備を始めた。

 その時、トーテムポールが仄かに光だした。





 舞は次の島に行く為、船に乗っていた。舞は戦いの神「クー」が奉られている島、「バード島」を後にした。


「嬢ちゃん、一つ目の島をクリアしたのかい?」

「ええ、まぁ」


 突然、船長が話しかけてきた。舞は少し、オトオドしていた。いきなり、知らない人にましてや外国人にいきなり話しかけられると一度はそうなるものだろう。


「やるねぇ、その年で。最初の島で脱落するやつも多いんだぜ。見ての通り残ってるのは三十人くらいだ。今年は…例年より少ねぇな…今回のスタンプラリーはかなりハードルが高いと見た!」


 年によってこのイベントに参加する人数は変動するが、今年は大体百五十人ほど参加していた。まぁ、例年通りだ。

 しかし、今回「バード島」を通過したのは三十人。これは例年より少ない。こちらも年によって変動はするのだが五十人前後は通過していた。

 例年よりハードルが高いという船長の言葉は間違いではないのかもしれない。


「でも、そんなに難しくなかったですけど…」

「ほぉう、そいつぁ、大したもんだ。もしかしたら君は物凄く頭脳明晰なのかもしれんな!学者でもこの島のスタンプラリーを全てクリアするのは難しいというのに…」


 そうかなぁ、と舞は思った。確かにパッと見は難しそうであったが、そこまで難しいとは思えなかった。

 一つ目の島だから二つ目以降はもっと難易度が高いのかもしれないが、少なくとも舞は「バード島」がそこまで難しいとは感じなかった。


「お!そろそろ見えたぞ!二つ目の島「ライフ島」だ!」


 舞はその島を見て、目を輝かせた。未知なる出会いとの遭遇、それは非常にロマンが溢れるものだ。

 舞もそれは例外ではないのだろう。もしかしたら、舞には冒険家の気質があるのかもしれない。

 舞は期待に胸を膨らませ、次の島、「ライフ島」に向かった。









 舞は二つ目の島「ライフ島」の大地を歩いていた。この地にある祠はジャングルに存在しており、舞は地図の通りに歩いた。


「ここね」


 舞は二つ目の祠に辿り着いた。すぐさま中に入っていった。今度は弓矢とたいまつが置かれていた。


「今度はこういう仕掛けね。随分凝ってるわね」


 舞は矢にたいまつの炎を灯した。そして、その矢を鉄格子の隙間目掛けて放った。すると、向こう側のたいまつに火が灯り、その瞬間、鉄格子が消え、通れるようになった。


「まだまだ先がありそうね」


 舞はさらに奥に進んでいった。すると今度は大きな部屋に辿り着いた。その部屋は水が流れており、扉は水の中にあった。

 どうやらこれをどうにかしないと奥には進めなさそうだった。

 取り合えず、舞は水の中に潜り、扉を開けようとした。しかし、この扉は押したり引いたりして開けるのではなく、上に持ち上げないと開かない仕組みで、扉自体も非常に重く、舞の力ではとても持ち上げられそうになかった。


「参ったわね…じゃあ、ちょっとズルかもだけど、…霊呪法第七三番【氷角柱(ひょうかくちゅう)】」


 扉の下から氷の柱が発生し、扉が開いた。こうでもしないと先に進むのが困難であった。

 舞はそのまま水の中に潜り、扉を潜り抜けた。するとその先に小人の彫刻とトーテムポールがあり、その隣にはスタンプがあった。


「二つ目突破~♪」


 舞はノリノリでスタンプを押した。すると、出口の扉が現れた。ここも、さっきの祠と同様、入った瞬間、リタイアするかクリアするまで出れない仕組みだったのだ。


「これが命と生命の神「カネ」ね。多くの人や魔族の命を救ってきたと同時に多くの人や魔族を殺したと言われる二面性を持っている神」


 舞は「カネ」の彫刻を見た。先程の「クー」と違いなんだか可愛らしい姿をしているような気がする。

 それにしてもこのイベントは随分と内容が凝っているような気がした。というか、今回の島の仕掛けは霊呪法といった特殊な力を使わなければ突破が苦しい内容であった。

 これでは全てクリア出来る者が限られてしまうのも頷けるだろう。


「これで半分。折り返しね~。さてと、次に行きますか!」


 舞はそそくさと祠から出た。そしてまたしてもトーテムポートが仄かに光だした。







「さて…四大神を掌握するとするか…」


 アザゼルがそう言った。しかし、このアザゼルは今とは別の姿をしていた。

 髪は短く、そもそも性別が違う。今の彼の姿は黒ずくめの男性だった。

 四大神が奉られている島を巡るイベント。このイベントが行われるのは四大神の信仰心をつける為のものであると言われている(それにしてはスタンプラリーの難易度が高すぎる気がするが…)。


 神は信仰心が強ければ強いほど霊力が安定すると言われており、それは四大神も例外ではない。

 故にこのようなイベントを行い、信仰心を集めようというのが「フォース」たちの目的であった。

 まぁ、スタンプラリーの難易度が滅茶苦茶難しいのはまぁ、四大神の遊び心であろう。

 彼らは全員、イタズラ好きで遊び好きであり、ゲームの内容も四大神が作っていると言われている。


 アザゼルは四大神を掌握する為に暗躍しており、このイベント中に狙おうとしていたのだ。

 アザゼルは今回が絶好のチャンスと踏んでいる。しかし、一つ気がかりがあった。

 祠のゲームをいとも簡単に解いている少女がいた。あんな簡単に四大神が作ったゲームをクリアする者を見るのは少なくともアザゼルは初めてであった。


「ふふふ…四大神が我が手中に収まるのもあと少しだ」


 アザゼルはそう言って嗤っていた。






 To be continued

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