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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第四章】百夜亡霊篇
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【第四章】百夜亡霊篇Ⅲーgod of fertilityー

 一夜と美浪は一宮大学に来ていた。今は授業中のようでキャンパス内は殆ど人がいなかった。


「好都合だ。人が少ない」

「そうですね」


 一夜と美浪はそのままキャンパスを走って行った。一夜はスマートフォンを見ながら走っていた。

 一夜のスマホは独自で改造しており、一夜のパソコンと共有している。勿論、スペックはパソコンの方が上だが、スマホの方が携帯しやすい。


「ここだ!」


 一夜がそう言うと一夜と美浪は足を止めた。


「な!?」


 美浪が声を上げた。何故なら周囲の景色が草木が生い茂っていたからだ。


「これは……人工的に作られているというのか……」


 一夜は驚きの声を上げた。不自然にまで広がる緑…これは人工的に作られているものであるとしか言いようがなかった。

 確かにこの場所は一宮大学の中でも緑が生い茂っている場所であったが、ここまで広大ではなかった筈だ。


「苗木さん…あれ……」


 美浪が指を指した。一夜は美浪が指さす方向を見た。すると、そこには小人がいた。緑の髪をした小さな小人であった。


「蒼たちが遭遇した小人と恐らく同じだね…という事は…≪四大神≫……!そして、この能力と性質からして…豊穣と実りの神「ロノ」か…」


 一夜は小人の正体をある程度類推する事が出来た。そう、目の前にいるのは豊穣と実りの神と言われている神、「ロノ」だ。

 「ロノ」がひとたび力を発揮すれば、周囲は更地であろうが、砂漠であろうが、荒れ果てた土地であろうが、問答無用で周囲を自然の緑に包んでしまうという。

 故に、「ロノ」は≪四大神≫の中でも特に多くの農民たちに信仰されている。

 蒼たちが戦った命の神「カネ」と今、一夜たちの目の前にいる豊穣と実りの神「ロノ」は≪四大神≫の中でも多くの者たちに信仰されている。


「倒した方がいいんでしょうか?」

「いや、今はまだ様子を見る段階だ。今のところ、この「ロノ」によって被害が出ている訳ではないしな。それに、「ロノ」に殺気がまるで感じない…敵意は無いように思える。とにかく、迂闊に手を出すべきではないだろう」


 一夜と美浪はそのまま様子を見る事にした。










「ふ…存外、聡明な事ね…苗木一夜」


 アザゼルはそう言った。アザゼルは現在、四宮舞の身体を乗っ取っている状態だ。身体は四宮舞のモノだが、精神はアザゼルが掌握している。

 アザゼルが今いる場所は一言で言うと黒い空間であった。正直、この世の世界であるのかどうか怪しい場所だ。


「この身体の精神は完全に乗っ取ったけど、力はまだ解除しきれていないわ。………けど、時神蒼たちが「舞の施した封印の一部を解除してくれた」おかげである程度、制御ができるようになったわ……さぁ、動きなさい!!【豊神ロノ】!!!」


 アザゼルがそう叫んだ。そして、アザゼルはケタケタと嗤い続けた。そして、舞はどこかに消えていってしまった。










 蒼と慧留、アルビレーヌとウルオッサは湊の部屋にいた。

 アルビレーヌが倒した命と生命の神「カネ」を模した式神を倒し、それを湊は自分の自宅で解析をしていたのだ。

 そして、湊は解析を終え、蒼たちを自分の部屋に呼び出した。

 しかし、蒼たちの空気は異様に重いものがあった。蒼を始め、湊も何となく事態を察していた為か、ちょっと気まずかった。


「ええっと…取り敢えず、解析の結果を報告するよ。いいね?」


 湊はそう言うと蒼たちは湊の方を見た。


「ああ、話してくれ」

「じゃあ、始めるよ。端的に言うとこれは大方みんなの予想通り≪四大神≫の一体、「カネ」の転写体だったよ………ただ…これはただの転写体じゃ無かったんだよ」


 湊はやや表情を曇らせながらそう言った。どうやら、あまりいい話ではなさそうだった。


「そのまま続けて」


 すると、アルビレーヌが話を続けるように促した。


「うん、これは四宮先生が施した封印なんだよ。四宮先生は≪四大神≫の力をこの式神の中に転写、封印してたんだよ……その封印の一つを僕たちは壊してしまったんだよ」

「ちょっと待て!て事は俺たちがそいつを倒したせいでアザゼルが強くなっちまったって事か!?」

「そういう事になるね。とは言っても力の大半を式神に封印してたってだけで四宮先生自身≪四大神≫の力を全く使えなかったという訳じゃなかったみたいだよ」


 そう、あの式神は舞が自ら施した「封」だったのだ。蒼たちはその封印を破壊してしまったのだ。それにより、アザゼルは恐らく「カネ」の力を取り戻しているだろう。


「待って、という事は他の神々も同じように封印されてるって事?」


 ウルオッサがそう呟くと湊は表情を曇らせた。


「………可能性は高いね。神を封印する手段はそこまで多くはない筈だ…だから同じようにどこかに式神として封印されてる可能性は高いね」

「そんな…じゃあ、速く封印されてる場所を突き止めなくちゃ!」


 湊がそう言うと慧留が焦りを見せた。


「そうだね~、封印の場所を見つけて、その後にアザゼルの場所を見つける方が堅実だね。まぁ、面倒ではあるけど」

「…厄介な事になったわね。一刻も早く残りの神々の封印場所を突き止めて、封印を解くのを止めないと面倒な事になるわ」

「そうと決まれば早速捜索だ!」

「俺はもうちょっとこの式神について調べたいからここにるよ」

「湊君、何か分かったら報告よろしくね!」


 蒼と慧留、アルビレーヌとウルオッサは外に出る準備を始めた。


「ねぇ、蒼…どこを調べる?」

「そうだな…まぁ、四宮さん…いや、アザゼルと始めて会った町外れを調べてみるか」

「いずれにしても、四人一緒の場所を捜索しては効率が悪いわ、四人別々で行動するか、二人一組ツーマンセルで行動した方がいいわね」

「う~ん、まぁ、二人一組ツーマンセルでいいんじゃない?一人だと危険だしね~」

「なら、どういう風に決めるかだな」

「言っとくけど、私、ウルオッサと一緒に行くのは嫌だから」

「まださっきの事気にしてるの!?子どもだな~」

「黙れ」

「すみませんでした」


 ウルオッサはアルビレーヌに頭が上がらない状態だ。というか、さっきの気まずい雰囲気がまた出てきてしまっていた。正直、蒼と慧留は速くここから逃げ出したかった。


「じゃ…じゃあ、グッパで決めよう!そうしよう!すぐにしよう!!」

「ああ、そうだな!!ははは!慧留ってば冴てる~!」


 慧留と蒼は訳の分からないテンションでそう言った。蒼も慧留もこの状況はマジで嫌がっていた。アルビレーヌ怖いし。


「ええ、そうしましょう。ただし、グッパするのは私とウルオッサ、蒼君とエルよ」

「分かった分かった!!速くやろう!!」


 アルビレーヌがそう言うと慧留がやけくそ気味に返事をし、蒼とグッパをした。アルビレーヌもウルオッサとグッパをした。


「私はグーだよ」

「俺はパーだ」

「私はパーね」

「僕はグーだ」


 慧留、蒼、アルビレーヌ、ウルオッサがそう言った。これでペアは決まった。蒼とアルビレーヌ、慧留とウルオッサの組み合わせで決まった。


「よし!じゃあ、とっとと行こうぜ!」

「そうね」


 蒼とアルビレーヌはさっさと外に出ていった。


「私たちも行こっか」

「そうだね」


 慧留とウルオッサも捜索を開始した。


「何というか…いつもあんな感じなの?」

「………どうだろうね」


 慧留がウルオッサに尋ねるとウルオッサは微妙そうな顔をした。二人とも周囲を探索しながら話していた。

 慧留はアルビレーヌやウルオッサを始め、『七魔王セブン・ドゥクス』の事をあまりよく知らない。だから、少し気になっていたのだ。


「曖昧な答えだね」

「いや、だって僕ら、仕事以外ではあまり話さないからね……まぁ、アルビレーヌはちょっと違うけど」

「どういう事?」

「彼女は『七魔王セブン・ドゥクス』の中でも変わり者でね~。仕事以外でもいろいろ話したりする奴なんだよね~」

「いや、私から言わせてもらえばアルビレーヌ以外の方が変なんですけど…」


 慧留がそう言うとウルオッサは「そうかな?」と言いたげな顔をした。

 どうも慧留は『七魔王セブン・ドゥクス』が個人主義者が多いと思っていた。まぁ、出自が特殊な者が多いから当然と言えば当然かもしれないが…

 その上、彼らは正確に癖のある者が多い。その中でもアルビレーヌは数少ない常識人の部類であったのだろう。少なくとも慧留はそう考えていた。


「不思議な事にね…彼女を面倒臭がる奴はいても、嫌いな奴はいないんだよね~。僕も別に彼女が嫌いって訳じゃないしね。あのスープレイガですらアルビレーヌとはまともに話せてるからね」


 スープレイガとは『七魔王セブン・ドゥクス』の一人であり、蒼にやたら因縁をつけていた男だ。好戦的な性格でその上、普段から血の気が多い為、『七魔王セブン・ドゥクス』の中でも特に危険視されていた。

 そんなスープレイガと普通に話せていたからこそ、アルビレーヌは『七魔王セブン・ドゥクス』の中でも変わり者扱いされてる要因の一つなのだろう。


「そうなんだ。ていうか、やっぱり『七魔王セブン・ドゥクス』の中でもそう言うのはあるんだ」

「うん、スープレイガとルッシュベルは嫌われてるね~、スープレイガは言わずもがなだけど、ルッシュベルはルッシュベルで何考えてるか分からないからね~」


 ルッシュベルも『七魔王セブン・ドゥクス』の一人だ。彼は底が見えない性格で何を考えているか分からない人物である。それ故、スープレイガとは別の意味で危険視されていたのだろう。


「はぁ~、全く面倒臭い…何で僕がこんな事を…僕は速く帰って寝たいよ…」

「じゃあ、何でこの組織に居続けてるのさ。抜け出す事くらい出来るんじゃないの?ウルオッサなら」

「そっちの方が面倒臭いからだよ。抜けたら抜けたで向こうは僕を探し続けるだろうさ。心が安らぎを得てこその睡眠だよ。怯えた状態の睡眠なんてストレス溜まるだけだし」


 ウルオッサはそう言ってはいるが、それだけではないのではないかと慧留は思っていた。しかし、余り詮索するのはよろしくないと慧留は考えていた。ウルオッサも露骨に嫌な顔してるし。

 さっきも言ったように『七魔王セブン・ドゥクス』は出自が特殊であるものが多い。というのも彼らは組織に入る前は不幸な境遇に置かれていた者が大半なのだ。そんな事を無暗に聞くのは良くないだろう。

 ……それに、誰にだって話したくない事や秘密にしておきたいことは一つや二つはある物だろう。


「そっか…」


 慧留は短くそう答えた。すると、今度はウルオッサが慧留に話しかけてきた。


「君は随分色々聞いて来るね。そういうところ、何かアルビレーヌっぽくて嫌だな。君、意外と図太いね」

「ははは…そうかもね」

「そんな君だからこそ…王の資格があったという訳か」


 ウルオッサは妙に納得した表情をしていた。慧留は彼の今の表情の意味が分からなかった。


「闇雲に探しても見つかりそうにないね」


 ウルオッサがそう言うが慧留は何やら見つけたようでそれをずっと見つめていた。


「あっちに巨大な植物の様なものが見える」

「どのくらいの距離だ?」

「多分、十キロくらい先」

「遠!?そんな先まで見渡せるの!?方角と距離的に…一宮大学っぽいね。急ごう!何かあるかも!」

「うん!」


 二人はそのまま一宮大学に向かった。








 一夜と美浪は「ロノ」の植物の攻撃を躱していた。あの後、いきなり「ロノ」が動き出し、地面から植物の蔓を出して一夜と美浪に攻撃を仕掛けたのだ。


「さっきまで大人しかったのに…何か興奮しているように見えるね」


 一夜はそう言った。そう、「ロノ」は何らかの理由で興奮状態になっている。その理由は不明だが、一つ言える事は-


「アザゼルが関係してる…」

「恐らくそれで間違いないだろうね。まったく…厄介な事だ」


 美浪の推測を一夜は正しいと考えていた。というか、この状況ではそうとでしか考えられなかった。いずれにせよ、このまま野放しにする訳にはいかない。

 「ロノ」がこのまま暴走すれば、この大学内だけでは済まない。下手をすれば町にまで被害が及んでしまうだろう。

 そうならない為にも何としてもここで「ロノ」を止める必要がある。


「苗木さん、下がっててください」


 美浪がそう言うと美浪は両手を空に上げた。すると、美浪の周囲に霊力の塊が現れた。これは【神掛かみかかり】だ。

 美浪は自身の身体に神を憑依させる能力がある。


「【身体強化フィジカルエンチャント】」


 さらに美浪はそこから【身体強化フィジカルエンチャント】を使用した。この能力はその名の通り自身の身体能力を強化する術だ。

 三年前の美浪はこの二つの力を同時に行う事が出来なかった。しかし、今ではこの二つの能力を同時に発動させることが出来る。

 そもそも、それこそが美浪の使用する【神掛かみかかり】の真骨頂なのだ。自身の本来持っている力の倍増。それが【神掛かみかかり】の真価と言える。


「はぁ!!」


 美浪はそのまま「ロノ」が発生させた蔓を殴り飛ばした。その殴り飛ばした蔓が「ロノ」の方に飛んでいき、「ロノ」はそのままふっ飛ばされた。


「………毎度毎度………味方ながら恐ろしい………」


 一夜は微妙な表情をしながらそう言った。なんせ美浪の怪力はとても凄まじいもので、一夜はその力を目の当たりにして非常に恐怖していた。

 何せ、一夜から美浪は鬼神そのものである。ジーザス!この世の終わりだ!と一夜は思った。………些か大げさすぎるとは思うが…


「一夜さん…何か失礼なこと考えてませんでしたか?」

「いや、断じてない」


 一夜は即答した。嘘をついてるのがバレバレである。まぁ、美浪は特には言及しなかったが。美浪は確かにものすごい怪力を持っているが、それに反して身体自体は非常に華奢だ。

 まぁ、美浪の馬鹿力は霊力によるものであるから当然と言えば当然なのだが…


「一夜さん…女の子に対する態度がなってないです。これだから友だちが出来ない上にもてないんですよ」

「友達は関係ないだろ!?いい加減にその話から離れろ!!」


 一夜は堪らず叫んだ。美浪はそんな一夜を見てクスリと笑った。まったく、意地の悪い娘だと一夜は思ったが、それを顔に出してしまうと面倒になる事は分かり切っているので(非常に非常に異議を唱えたいところだが)一夜はそのまま美浪を流した。


「どうなったかな…?」

「分かりません。手応えはあったんですけどね」


 一夜と美浪は「ロノ」が吹き飛ばされた方向を見ていた。そこは土煙がたっており、視界が遮られていた。これでは迂闊に接近する事も出来ない。


「ぶも~~~!!!!!」


 「ロノ」は叫びを上げ、地面から蔓を召還し、一夜と美浪に襲い掛かった。美浪は攻撃を避けたが、一夜は攻撃を躱しきれず、蔓に捕まってしまった。


「うわ!しまった!」

「苗木さん!!」


 蔓は鋭利な形となり、一夜を貫こうとした。しかし、美浪はその蔓が一夜を突き刺す前に自身の腕で蔓を鷲掴みし、再び、「ロノ」にぶつけた。しかし、さすがに同じ手を二度喰うほど「ロノ」も馬鹿ではない。美浪の攻撃を躱した。


「霊呪法第三六七番【雷刀千本花】」


 一夜が霊呪法を唱えた。すると、「ロノ」の頭上から無数の雷が時間差で発生した。その雷が「ロノ」を穿つ。一応、一夜は雷系の霊呪法なら一通り扱える。しかし、威力はそれなりにあるのだが、一夜の場合、発動に時間がかかり、即座に術を発動させることが困難である。よって、一夜は術の発動速度が重要となる対霊呪法使いとの戦いが非常に苦手である(まぁ、彼はそもそも戦闘自体が苦手だが…)。


「ぐぐぐぐぐ…」


 「ロノ」は苦悶の声を上げていたが一夜の一撃に耐えた。しかし、すぐに美浪が「ロノ」を殴り飛ばした。


「はあ!!!」


 美浪は「ロノ」に連続で拳を叩きこんだ。すると、「ロノ」の身体が光だした。


「!マズい!!美浪君!離れろ!!」


 一夜がそう言うと美浪はすぐに「ロノ」から離れた。すると、「ロノ」の身体は爆発した。その爆発は凄まじく、美浪は勿論、ある程度離れていた一夜も爆風に巻き込まれた。


「ぐわあ!!」

「きゃああ!」


 一夜と美浪はそのまま吹き飛ばされた。周囲は先ほどまでの緑が嘘のように枯れた土地となっていた。一夜と美浪は身体中に切り傷があった。しかし、何とか身体を動かす事は出来た。


「まさか…自爆するとは…」

「苗木さんが気付かなかったら私も危なかったですね…」


 一夜と美浪は爆心地を見た。すると、そこにあったのは紙切れだった。式神だ。蒼たちと遭遇した「カネ」同様、式神により転写された存在という事になる。


「取り敢えず…勝ったみたいだね」

「そうですね…」


 二人がそう言っていると、二人の後ろから二つの影が見えた。その影が徐々に近づいてくる。慧留とウルオッサだ。


「あ!倒しちゃったんですか!?」

「どうやらそうみたいだね」

「?どういう事だい?」


 慧留とウルオッサが苦虫をつぶしたような顔をした。そんな二人の様子に一夜は疑問符を浮かべた。


「あの式神は四大神の封印を解く「鍵」だったんだよ…湊君の調べで分かった事なんだけど…」

「そういう事か…どうやら「ロノ」を倒してしまったのは失敗だったようだね」

「「ロノ」…豊穣の神か…じゃあ、残ってるのは「クー」と「カナロア」か…」

「「クー」は見た事がありますけど…「カナロア」ってどんなのなんですか?」

「確か、海と冥界を司る神だとか…そうだね?ウルオッサ君」

「うん、そだよー。「カナロア」は四大神の中でも特に謎が多くてねー。というか、恐れられてるからあまり研究が進んでないって言った方が正しいかな。冥界を司る神だからね。その実態は僕たちも正直、把握しきれてない。四大神の中でも少なくとも僕らは「カナロア」を最も警戒してるよ」


 一夜はどうしたものかと言った表情をした。それは他の三人も同じだった。


「取り敢えず、蒼たちと合流した方がいいよね?」

「そうだね、蒼たちの元に向かおう」


 慧留が提案すると一夜がそれに賛同した。しかし、問題があった。ウルオッサとアルビレーヌが喧嘩をした、それもある。だがそれ以前にー


「えっと…悪いんだけど、蒼とアルビレーヌがどこにいるか分からないんですけど…」

「え?」


 ウルオッサがそう言うと美浪が声を上げた。


「だって僕、魔力や霊力を察知するのあまり得意じゃないし、この中でそれが得意な人っていないでしょ?」


 ウルオッサがそう言うと他の三人は苦い顔をした。そう、この中で霊感が鋭い者が一人もいないのだ。

 霊力や魔力を察知するのが苦手な者は人間、魔族共に意外と多いのだ。戦闘力が高い者であればあるほど、それが強い傾向にある。


「じゃあ、私の「野生」で探してみますよ」


 美浪はそう言った。「野生」というのは簡単に言うと第六感の事であり、直感の事でもある。「野生」というのは誰もが持っている力だが徐々に失われていく力でもある。

 失われる理由としては色々あるが、一番多いのは「使わなくなる」からだ。魔族や人間は知恵がある。知恵があればそちらを使うようになり、直感は使わなくなる。

 それにより、成長してから「野生」を使えるものは非常に限られている。美浪はそれを扱えるというのだ。


「出来るのかい?」

「まぁ、大丈夫ですよ。私、嗅覚も優れてるので」

「野生人だね」

「ウルオッサ…女の子にその言い方は失礼だよ…」


 美浪は感覚を研ぎ澄ませ、集中した。


「………こっち」


 美浪はそう言って走り出した。


「僕たちも行こう」


 一夜がそう言うと慧留とウルオッサが頷き、三人とも美浪を追っていった。








「さてと…どこから探せばいいのやら…」


 蒼は溜息交じりにそう言った。そんな蒼に見かねたのかアルビレーヌが話し始めた。


「まぁ、闇雲に探したところで見つけられないわね。霊力や魔力が強い場所を探し出すのが手っ取り早いわね」

「つっても俺、感知系統の術は一切使えねぇし、霊圧や魔力も巨大な奴しか探知できねぇぞ…湊あたりはその変得意なんだけどな…」

「まぁ、私も得意じゃないけど、少しなら出来るわよ」

「本当か!?なら任せた!」


 蒼がそう言うとアルビレーヌが目を瞑った。しばらくしてアルビレーヌが目を開けた。


「どうだ?」

「駄目ね、それらしき気配は感じないわ」

「そうか…」


 アルビレーヌがそう言うと蒼はがっくりと項垂れた。

 困った事になった。ろくに手掛かりがない状態では捜索のしようがない。二人とも、というか蒼たちはアザゼルの目的をロクに掴めていないのだ。

 その上、アザゼルがいそうな場所も分からないでいると来たものだ。そもそも「十二支連合帝国」にいるかすらも怪しい。


「取り敢えず、あなたの大学に行ってみましょうか」

「……何でそうなるんだよ」

「だって、アザゼルとあなたたちが初めて遭遇したのは大学の帰りだったんでしょ?じゃあ、もしかしたらそこらへんに手掛かりがあるかも…」

「そう上手くいくもんか?」

「こういうのは一見目につかない場所に祥子やら痕跡が隠されているものなのよ!さぁさ!行くわよ!!」

「あんた、大学行きたいだけなんじゃねーの?」

「まぁ、確かに「十二支連合帝国」の大学には興味あるわ。それは否定しない。でも、さっき言った事も本当よ。もしかしたら、そこに手掛かりがあるかもしれない」

「だといいがな…」


 蒼はどうもアルビレーヌが苦手だった。ほんわかしているようでよく喋るし、少々、いや、かなり強引な性格をしている。まるで傍若無人な王女の様であった。

 しかし、性格に癖の強い者が多い『七魔王セブン・ドゥクス』の中でも彼女は取っ付きやすい人物ではあった。


「さぁさぁ!出発よ!」

「どうでもいいけど…楽しそうだな…」

「こういう時こそ、明るくしないとね~」

「一理あるかもしれんがお前のは違う気がするぞ…」

「男の癖に細かいのね…あなた、意外と繊細なのね」

「……どうだかな…」


 蒼はどちらかというと…いや、言うまでもなくアルビレーヌが言う通り繊細な人物であることは間違いない。

 単純な戦闘力では蒼は恐らく、今いるメンバーの中で最も強いだろう。しかし、精神面では屍や慧留には劣るところがある。いや、もしかしたら一番弱いかもしれない。

 すぐに思い詰めるし、心も折れそうになる。細かい事は意外と気にする。

 それ故に、今の蒼があるともいえるが、精神的な脆さは蒼の最大の弱点とも言える。かつて、慧留と屍によって蒼は自身の精神を左右された事がある。

 彼らの存在は蒼にとっては無くてはならない存在なのだ。


「まぁ、あなたは色々複雑な事情を抱えてるっぽいしね~。余り詮索はしないわ」

「それはお互い様だろ?」


 蒼はアルビレーヌの事を少しだけ知っていた。彼女を始め、『七魔王セブン・ドゥクス』は特殊な事情を持っている者が多く、アルビレーヌも例外ではない。


「優しいのね」

「そんな事…ねぇよ」

「ううん、あなたは哀しみを知ってる。失う辛さを知ってる。そのせいで精神的に脆い部分もあるかもしれないけど…あなたはそれを知ってるからこそ、優しくいられる」


 アルビレーヌは蒼を慈しむ様にそう言った。蒼はアルビレーヌは不思議な奴だと感じた。何というか、相手と同じ目線で話すのが得意なように思えた。

 恐らく、打算とか計算とかそういう事は考えていない。彼女の性分なのだろう。今の彼女はまるで綺麗な水の中にいるような心地良さだった。

 まったく、アルビレーヌという女はかなりのお人好しらしい。こんな正確な彼女だからこそ、彼女の事を苦手意識をする者はいれど、決して嫌われはしないのだろう。

 アルビレーヌはその名の通り、女王としての才覚がある。蒼は少なくともそう思った。


「どうしたの?ぼーっとして」

「何でもねぇよ!行くぞ!」


 蒼とアルビレーヌは日比野大学に向かっていった。








「さてと…ここまで色々探してみたが…出て来いよ。そこにいるのは分かってるぜ」


 屍がそう言うと近くにあった木の陰から人影が出てきた。長い黒髪と小柄な体躯、そして、黒のゴスロリの服…間違いなく、四宮舞…いや、堕天使アザゼルだ。

 ここは日比野大学の中央広場である。辺りはいくつもの校舎が立ち並び、木々も多くある場所であった。


「意外と勘が鋭いのね。いつから気付いていたのかしら?」

「いや、正直驚いたぜ…気配はするのに魔力は全く感じなかった。けど、さぐれば探るほど違和感は強くなっていった」

「へぇ、勘が鋭いのね。知ってる?変に感が鋭い人って、早死にするものよ」

「そう言うのは創作フィクションだけだろが。俺には関係ねぇ」

「……果たしてそうかしらね?」


 アザゼルが茶化すようにそう告げた。

 屍はアザゼルに急接近し、殴りかかろうとした。


「【戦神クー】」


 アザゼルが神の名を呼ぶとそこには巨大な鶏の化け物が現れた。屍は前にも見た事があった。「USW」の≪四大神≫の一体、戦いの神「クー」だ。

 「クー」によって屍の一撃を防がれてしまった。


「な!?」

「その手…速くどけた方がいいわよ」


 屍の右手が爆発した。「クー」は爆発系の術を使う。「クー」が放つ砲撃や身体には爆発系統の力がある。触れるだけで爆発してしまうのだ。


「がぁ!」


 屍はうめき声を上げたが。地面から鉄を錬成し、その鉄をさらに義手に錬成した。その義手を右手にはめ込んだ。とてつもない激痛に襲われた。


「痛っっって!義手を埋め込んだ方が痛え!」


 屍は苦悶の表情をした。義手を填めただけでは意味が無い。填めて動かせるようにしなければならない。それには義手に神経を通す必要がありこの作業がめちゃくちゃ痛い。

 屍の感想はあながち間違っていなかったりする。

 屍はすぐさま、地中の鉱物を鉄の鎗に変え、それを「クー」目掛けて飛ばした。しかし、「クー」の左翼に穴が開いただけで大したダメージにはなっていなかった。


「くっそ!!この程度じゃ倒せねぇか!」

「ふふ…あなた程度じゃあ【戦神「クー」】は倒せないわ」


 「クー」は『砲撃ブレス』を放とうとしている。このまま『砲撃ブレス』が放たれれば、屍どころかこの大学そのものが吹き飛んでしまうだろう。


「ヤバ!このままじゃあ…」


 屍が何とか止めようとするがもう遅い。『砲撃ブレス』が放たれる。

 しかし、「クー」は何かにぶつかったかの様な衝撃に襲われた。「音」の振動だ。このような事が出来るのはー


「音峰!」

「間一髪だったわね。【サウンドアロー】!」


 遥は音の矢を放った。「クー」は【サウンドアロー】に貫かれ、悲鳴を上げた。

 さらに屍は地面の土から岩石の壁を錬成し、「クー」目掛けてぶつけた。「クー」は身体のあちこちに大穴が開き、地面に落下した。


「へぇ~、二度も「クー」が倒されるなんてね…しかもこんなにあっさりと…」


 アザゼルは余裕の表情を崩さなかった。まだ、本気を出していない…という事なのだろう。少なくとも屍と遥はそう思った。

 しかし、これ以上戦いが長続きすれば、大学だけでなく、周囲の町にも被害が出る恐れがある。それだけは何としても避けねばならなかった。

 幸いにもここにいる学生や教職員たちは事態に気が付くとすぐに非難していた。


「悪いがさっさと消えてもらうぜ!」

「屍…何かそれ、悪役の台詞みたいなんだけど…」


 遥は不満げにそう言った。彼女は正義感の強い性格をしている。屍の台詞が何か悪役みたいだったので遥は不満に思ったのかもしれない。

 尤も、屍はそんな事は気にしていない。というか、昔の屍はまごうことなく、悪人であったのだから今更気にする必要もないだろう。


「ふふふ…私が何の準備もせずにここに来るとでも?【命神カネ】!【豊神ロノ】!!」


 アザゼルがそう言うと二つの影が姿を現した。一体は小さい小人の姿をしていた。まるで要請のような姿であった。羽根もあるし、見た目もどことなく可憐な小人であった。

 もう一体は巨大な牛のような姿をしており、まるで巨大な大木を目にしているかのような威圧感を放っていた。


「まさか…≪四大神≫…!」

「ええ、この二体の封印をあなたの仲間たちが解いてくれたのよ。まぁ、解くように誘導したのは私だけどね。【戦神クー】の封印は「USW」の領地にある小さな列島に封印されててその封印は簡単に解除出来たわ。でも、【命神カネ】と【豊神ロノ】はそうはいかなくてね。特殊な霊力のせいで私はこの二体の神の封印を解除できなかったわ。けど、あなたたちが何も知らずに封印を解除してくれたという訳よ」


 話を聞いて屍と遥は彼女の言う事を大体理解した。昨日、蒼たちが「カネ」を模した式神を倒したという事を二人は知っている。恐らくそれが封印だったのだろう。

 さらに恐らく、それを知らずに誰かが「ロノ」の封印も解いてしまったのだろう。そのせいで結果的にアザゼルは【戦神クー】、【命神カネ】、【豊神ロノ】の四体のうち三体の≪四大神≫を掌握してしまっている。


「まずいわね…このままじゃ、ちょっと分が悪いわ…守り神が二体…正直手に余るわね」

「つってもやるしかねぇよ…」


 遥と屍は身構えた。確かに分が悪いがこのまま逃げても被害が拡大するだけだ。これだけ派手に暴れ回れば、蒼たちも気が付くだろう。

 援軍が来るまで持ち堪えるしかない。


「さぁ!死ぬ準備は出来たかしら!?」


 アザゼルがそう言うと二体の神が襲い掛かって来た。屍と遥は身構える。しかし、突如「カネ」と「ロノ」の頭上に鉄の雨が降って来た。

 「カネ」と「ロノ」が動きを止めた。流石に、アザゼルも驚いた様子であった。屍も遥も攻撃を仕掛けた様子もない。にも拘らず、何故か鉄の雨が降り注ぎ、「カネ」と「ロノ」の動きを封じた。

 これは、間違いなく新手だとアザゼルは理解した。


「何だ?」

「分からないわ」


 動揺しているのは屍と遥も同じ。この時点で彼らの仕業ではない事を物語っていた。何者かが攻撃を仕掛けたのだ。


「誰だ!?出て来い!!」


 しかし、相手は現れず、今度はアザゼルの頭上に鉄の雨が降り注いだ。アザゼルは攻撃を躱した。


「そこか!」


 アザゼルは【黒閃光オスキュラスレーゼル】を放った。そして、校舎の一つが崩落した。そこにいたのは少女だった。

 髪は銀髪ロングであり、瞳は血のように赤い。緑色の軍服を着ていた。どこか、冷たい目をしていた。


「あなたは一体何者かしら?」

「答える必要はない。あなたはここで死んでもらう」


 少女が平坦な口調でそう言った。彼女は喋り方が平坦だった。まるで感情が無いようだった。表情もそうだ。人形のように美しい容姿をしているが、その顔は一切表情を変えない。

 少女はすぐさま、アザゼルに接近した。


「【豊神ロノ】!」


 アザゼルが叫ぶと「ロノ」がアザゼルを守るように少女に突進した。しかし、少女は表情を全く崩さなかった。


「【鉄時雨ハディード・マタル】」


 「ロノ」の頭上から再び鉄の雨が降り注いだ。先ほどと同じ技だ。しかし、今回のは威力が凄まじく、一瞬で「ロノ」が倒されてしまった。


「な!?」


 アザゼルは驚愕の表情に染まった。いくら力を全開でない状態だったとはいえ、「ロノ」がたったの一撃でやられた。

 驚いているのはアザゼルだけではなかった。屍と遥も同様であった。


「あいつは…一体…」

「分からないわ…けど、あの子の使ってる術…かなり特殊なモノよ」


 少女は右手から鉄の剣を顕現させた。そして、そのままアザゼルに肉薄した。


「【鉄王剣ハディード・サイカ】」

「【黒閃光オスキュラスレーゼル】!」


 アザゼルは【黒閃光オスキュラスレーゼル】を放った。その黒い光に触れた者を問答無用で消す闇の光だ。しかし、少女は【黒閃光オスキュラスレーゼル】をあっさりと自身の顕現した鉄の剣でその闇の光を切り裂いた。

 そして、その斬撃がアザゼルまで届いており、アザゼルの身体がバッサリと切られた。

 アザゼルの肩から腹にかけて血が噴き出した。


「ぐぁ!!」

「これで…終わり」

「【命神カネ】!!」


 アザゼルが叫ぶと「カネ」が光を放った。恐らく目暗ましだ。目の前からアザゼルの姿が消えていた。

 少女は辺りを見回した。すると、屍や遥から少し離れた場所にアザゼルが倒れていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 アザゼルはかなり息が上がっていた。「カネ」がアザゼルを自身の作り出した結界に包み込んだ。すると、アザゼルの先ほどの傷が完全に消えていた。

 「カネ」は命を司る神だ。身体を治す事など造作もないだろう。

 アザゼルはそのまま立ち上がった。そして、表情も先ほどまでの冷静な表情に戻っていた。


「あなた…自然エネルギーを身体に直接取り込んでるわね…なるほど…あなた……「ヘレトーア」の…」

「………」


 アザゼルは得心が言ったような表情をした。道理でここまで強い筈だと、そう思ったのだろう。

 屍と遥はアザゼルの言葉の中で「ヘレトーア」という言葉に引っ掛かっていた。

 「ヘレトーア帝国」、誰もが知る『四大帝国』の一つである。しかし、他の三国に比べて、「ヘレトーア帝国」は影が薄い国である。というのも、常に彼らは水面下で活動しており、『四大帝国』の中でも特に謎が多い。

 しかし、兵力自体は全盛期の「USW」や「ローマ合衆国」には遥かに劣ると言われている。しかし、あくまでも言われているだけで、実際は定かでは無い。

 そもそも、彼らは『第三次世界大戦』や大きな世界戦争が起こっても、彼らは積極的に戦争には参加せず、自身の領土を守る事にだけ専念しており、「ヘレトーア帝国」の者と戦ったものは非常に少ない。

 「ヘレトーア帝国」は自身から積極的に動こうとはしない。『アザミの花』、『四大帝国会議』、『USW侵攻』…ここ最近はこのような世界的なデカい事件が相次いでいながらも彼らは諦観するだけであった。

 その筈なのに、何故「ヘレトーア帝国」の者がアザゼルを狙っているのか…


「言い残すことはそれだけ?力が完全でないうちに……消す」

「それは無理ね…」


 アザゼルはそう言って黒い煙を発生させた。少女はすぐさまその煙を振り払ったが、アザゼルはどこにもいなかった。「カネ」もだ。


「……ッチ!」


 少女はアザゼルを追おうとする。しかし、屍が少女を呼び止めた。


「待て!」

「……何?」

「お前は……何者だ?」


 少女は少し黙り込み、そして答えた。


「私の名は-プロテア。プロテア・イシュガルド」


 少女は相変わらずその平坦な声でそう名乗った。









To Be continued

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