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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第四章】百夜亡霊篇
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【第四章】百夜亡霊篇Ⅰーgod of warー

 USWの決戦から三年が経ち、蒼たちは新たな生活を送っていた。

 時神蒼は昼間だというのにずっと寝ていた。白黒交じりの髪と青と黒のオッドアイが特徴の青年、それが時神蒼だ。


「蒼!起きてよ!!」


 そんな声が聞こえた。蒼はしょうがなく、目を覚ました。目の前にいたのは月影慧留だった。黒く長い髪と黒目の釣り目が特徴の少女である。高圧的な印象があるが、彼女自身は穏やかな気質の少女である。


「ウルせーな。今日は俺授業ねーんだよ」


 蒼はそう言った。そう、蒼は今日は授業が無いのだ。


「だからってこんな昼間に寝るのは良くないよ。大学生は特に生活のリズムを崩しやすいんだから…」


 慧留はそんな事を言っていた。そう、蒼と慧留は大学生になっていた。

 「USW」との戦いから三年経っていた。その後の蒼たちは特に大きな問題はなく、高校生活を過ごした。そして、慧留と蒼は日比野大学に入学していた。しかし、大学は基本的に単位制であり、自分の都合で授業を受けたり休んだりできる為、蒼は授業が無い日は基本的に家でゴロゴロしている事が多い。蒼と慧留は大学の二年生になっており、特に蒼も慧留もサークルなどにも入ってはいなかった。慧留はどこかのサークルに入りたかったようだが、特にやりたいサークルも見つからなかった為、結局どこにも入らなかった。


「さっさと授業行けよ。何の様なんだよ?」


 蒼は何故、慧留がここに来ているかの理由を聞いていない。蒼は基本的には授業はサボらずに行っており、成績も好調である。それは慧留も同様である。慧留は高校の頃はあまり勉強が出来ていなかったが、あれから勉強し、蒼と肩を並べられる程の学力は身につけていた。慧留も天然なだけで決して頭が悪いわけではないのだ。


「今日はインターンに行くって言ったよね?速く行くよ!」

「あ~、そう言えばそうだったな…」


 蒼は今まで慧留との約束を忘れていた。慧留は今から一週間ほど前に蒼とインターンに行く約束をしていた。特に蒼もやる事が無かったのでオーケーしていた。

 因みにインターンとは簡単に言うと会社の説明会であり、就職活動をするにあたって必ず通る道である。


「お前確か、「USW」に戻るんじゃなかったのかよ?なのに「十二支」のインターンとか行ってどうすんだよ?」

「興味があるから行きたいの!」


 蒼の質問に慧留はそう答えた。慧留は好奇心が強い一面もある。そのせいで蒼もよく振り回されたものだ。


「まぁ、お前ともこうしてみると長い付き合いになって来たな」

「そうだね、もう会ってから三年も経つもんね」


 二人は感慨深くそう言った。


「速く行くよ!蒼!」


 慧留はすぐに蒼に声をかけ、蒼は無言で準備に取り掛かった。面倒臭いなと蒼は思った。









 蒼と慧留は大学のインターンに参加していた。場所は大学の教室。そこで説明を受けていた。大学内の教室はとんでもなく広い。初めて大学の教室に来た蒼は高校と教室の広さがまるで違ったため、驚愕したものだ。

 蒼は窓際の空を見上げながら退屈そうにしていた。「USW」との戦い以降、これと言って大きな事件には遭遇しなかった。平和そのものであった。蒼はというと一夜に大学に行く事を勧められ、考えた結果、大学に行く事にした。

 大学の生活は悪くなかったし、かつての生徒会の仲間とも定期的に会ったりしている。まぁ、一夜と屍、美浪とは同じ大学であるのだが。湊と遥と澪は三人とも蒼たちとは別の同じ大学に通っている。薊と狂は蒼たちや遥たちとは別の大学に通っている。因みに今、蒼の隣の席に右側に慧留、左に天草屍がいた。紺色の髪に片眼が隠れており、青色の瞳が特徴のどこか影がある雰囲気が漂う青年だ。たまたま遭遇したのだ。

 蒼は今までの事を少しだけ思い返していた。よくよく考えると慧留との出会いから蒼の物語は再び動き出したのだ。一夜や屍、美浪を始めとした一宮高校生徒会とはかなりの付き合いになっていた。


「まぁ…悪くなかったな」


 蒼はそう呟いた。初めは一夜に学校生活をしろと言われた時、蒼はかなり難色を示していた。だが、今となっては退屈と感じつつもそれなりに楽しく過ごせている。「神聖ローマ」にいた頃には得られなかった事だ。

 そう言えば「神聖ローマ」は「ローマ合衆国」と国の名を変えたらしい。何故変えたのか…蒼には分からない。今の「ローマ合衆国」の皇帝はルミナスだ。ルミナス・アークキエル・ローマカイザー。蒼の姉であり、蒼が最も憧れ、そして最も恐れている存在だ。彼女には何をやっても勝てる気がしないし、勝とうとも思えなかった。それほどまでのカリスマを持った人物であった。

 ルミナスと蒼には確かな因縁が存在した。そう、今からそれは五年前に起こった。その五年前に蒼の時間は停止してしまったのだ。まぁ、今から三年前には再び、蒼の止まっていた時間が動き出したのだが。慧留や一夜たちには感謝しなければならないなと蒼は思った。

 蒼はぼーっとしながら周囲を眺めた。慧留は真面目にメモを取りながら説明を聞いていた。勤勉な奴だなと蒼は思った。

 そう、慧留は努力家だ。そして、自分の事よりも他人の事ばかり考えてしまう困った奴でもある。慧留は蒼にとって運命を変えた存在だ。彼女との出会いが止まっていた蒼を動かした。「USW」の一件の時、蒼と慧留は大きなすれ違いが生じてしまった。しかし、お互いの全てをぶつけ合い、今はこの通り和解している。

 一方、屍は蒼と似たような感じであった。あくびをして退屈そうに聞いていた。かつては敵対していた二人だが、今は悪友とも呼べる関係を築いていた。屍とは学年が違えど、なんだかんだ一緒にいる事が多い。似た者同士なのである。かつて敵だった者が友となる。一見、奇妙な話のように思えるが、意外とごく普通の事であるのかもしれない。


「そろそろ終わりだな」


 屍が退屈そうにそう呟いた。すると、インターンは終了し、蒼たちは帰る準備を始めた。屍は「やっと終わった」と言い、蒼も眠たげな顔をしていた。慧留はそそくさと帰りの準備を始めていた。









「はぁ~、インターンって退屈だなおい…」


 屍がそう吐き捨てた。まったくだと蒼も思った。あの後、教室を出て大学の中を三人は歩いていた。


「いや、二人とも話をちゃんと聞こうよ…二人ともほとんど寝てたじゃん…」

「よく分からん話されても困るだけだろ?」


 慧留が二人に難色を示していると蒼が反論した。そもそも、蒼も屍も普通の企業に就職する事など現在は全く考えていない。まだ先の話だし考える必要はまだないと二人とも考えているのだ。


「二人とも…ちょっとは考えた方がいいよ?時間は有限。すぐに過ぎるんだから!」


 慧留がもっともらしい事を言った。いや、彼女の言う事は尤もだ。時間は有限、蒼はそれを痛いほど分かっている。過ぎた時間は二度と戻ってこない。やり直す事など出来ないのだ。取り返しがつかない事をしてもそれをやり直す方法などないのだ。だからこそ、時間に限りがあるからこそ、人は真っ直ぐに生きていけるとも言える。


「っつてもな~、働く事とか考えたことないしな~」


 屍はそう呟いた。屍は蒼たちと出会うまではテロ組織を率いていたのだ。そんな人物がいきなり学園生活を送り、就職の事を考える時期がやって来た。確かに屍にとって想像していなかったことかもしれない。蒼も屍に同調しているようであった。蒼も「神聖ローマ」…現在の「ローマ合衆国」の元第四王子であり、就職とは縁遠い存在であった。まぁ、それを言ってしまうと「神聖ローマ」に使われていた慧留にも言える事だが…


「慧留ちゃんに蒼、屍!」


 やって来たのは霧宮美浪であった。水色のセミロングと瞳を持った可憐な少女である。彼女も蒼たちと同じ大学に通っている。蒼たちより一年年下の少女である。美浪の隣には苗木一夜もいた。


「やあ、皆、インターンはどうだったかな?」


 苗木一夜、アッシュブロンドの髪と三白眼の瞳を持った眼鏡をかけた胡散臭さが漂う青年である。こんな怪しい雰囲気を持つ青年であるが、蒼の数少ない友人なのである。苗木日和と呼ばれる魔族が住むマン所の経営をしており、蒼や美浪、屍たちもそこに住んでいる。


「何でお前はインターン行ってないんだよ?」

「僕は既に就職決まってるから行く必要はないのさ」


 一夜は自慢げにそう言った。蒼と屍は一夜の爽やかな顔を重いっきるぶん殴ってやりたいと思った。とにかくウザい。


「苗木さんと美浪ちゃんは何で一緒に?」

「たまたま、食堂で会ってね」


 慧留が一夜に質問すると一夜が淡々と答えた。この二人はよく一緒にいる事が多い。本人たちいわくよく会うらしい。


「君たちはこれからどうするんだい?」

「ああ、このまま家に帰るよ。なんか疲れたし」

「蒼と屍は殆ど寝てたじゃん…」


 慧留がジト目を蒼と屍に向けた。


「そうかい、僕たちも帰るし、途中まで一緒に帰ろうか」


 一夜がそう言うと五人は一緒に帰った。そう言えば、この五人で帰るのは久しぶりだなと蒼は思った。まぁ、だから何だという話だが…













 蒼たち五人は歩いて帰っていた。大学は割と近場にあり、歩いても三十分ほどで行く事が出来る。普段は電車通学なのだが、今回は歩いて帰っていた。特に理由はない。


「それにしても、このメンバーで帰るのは久しぶりだね」


 一夜がそう言ってきた。ついさっきまで蒼が思っていた事だ。一夜に心を読まれた気がして蒼は一夜に対して気持ち悪いと感じた。


「そうだね、私たちって同じ大学の割には一緒に帰る事ってあんまりなかったし」


 慧留はそう言った。定期的に会う事はあったのだが、大学内で会う事は殆どなかったのだ。わざわざ大学内でも会おうとはしなかったのだ。


「まぁ、みんな忙しいしね」


 美浪がそう言った。美浪は周りの事に対して結構気を配る子なので性格は割と控えめだったりする。決して無口という訳ではない。普段は敬語や標準語で話すことが多いが実は結構な関西弁を使う。見た目にあまり合ってないのでギャップは凄いが…


「…またどこか遊びに行くか?」


 蒼がそんな事を言った。


「君も随分変わったね」

「悪いか?」

「いや、いい事だよ」


 一夜が感慨深そうに蒼に言った。蒼は複雑そうな顔をしたが一夜は気にしなかった。その二人のやりとりを見た瞬間、慧留と屍、美浪は少し笑っていた。


「何がおかしいんだよ?」

「いや、何でもねぇよ」


 蒼が訝し気に尋ねると屍がそう答え、慧留と美浪は顔を合わせて笑った。解せないといった顔をしていた蒼だが、このまま気にしても無駄だと判断し、話を切り上げた。


「時神蒼、月影慧留、苗木一夜、天草屍、霧宮美浪」


 蒼たちの目の前に人影が現れた。その人物は黒いゴスロリ衣装と黒い瞳と髪、そして中学生の様な見た目が特徴の女性だ。こんな少女のような姿をしている彼女だが二百年以上の時を生きている魔女であり、一宮高校の教師でもある。そんな彼女が何故こんなところに…


「四宮さん…なんでここに…」


 蒼が近づこうとしたが美浪が蒼の腕を掴み、止めた。


「美浪?」

「この人…四宮先生じゃない…」

「「「「な!?」」」」


 美浪がそう言うと他の四人は驚愕の表情を浮かべた。


「へぇ~、感がいいね~、動物の勘って奴かしら?」


 話し方もまるで違っていた。いつもの舞は古風な口調で話す。こんな話し方はしない。


「お前…誰だ…?」


 蒼が舞に問いかけた。


「私はアザゼル。堕天使であり、舞の契約悪魔よ」

「アザゼルだと!?アザゼルは百年前に討たれたと聞いたぞ!?」


 蒼は驚きを隠せずにいた。アザゼルは堕天使の中でも代表的な存在であり、熾天使並みの戦闘力を誇る堕天使だ。百年前に「USW」と「十二支連合帝国」の連合により討伐されたはずだ。アザゼルは「USW」と「十二支連合帝国」を中心に暴れ回っていた。そこで利害の一致から「USW」と「十二支」の連合を組み、打ち取ったと聞く。舞と契約していたとは初耳である。

 だが、思い返してみれば、舞は自身の力を使う事に渋っていたり、特殊な事情があるであろうことは口にしていた。しかし、まさかアザゼルと契約していたとは…


「で?俺たちに何の様だ?」

「私はこの世界を「ひっくり返したい」のよ…この身体…ようやく掌握出来たからね…」

「何だと…?」

「舞は私の力を百年間押さえつけていたのよ…でもそれにも限界が来て私がとうとう身体を掌握したという訳よ」


 舞…いや、アザゼルはそう言った。アザゼルは最強の堕天使と言われており、高い戦闘力を誇る怪物である。


「そういう事なら…俺たちで四宮さんを助けねぇとな」


 蒼はそう言ってアザゼルに突撃した。蒼の右手から水色の刀が出現した。蒼の【天使エンゲリアス】である。【天使エンゲリアス】とは蒼たち天使が使う事が出来る自身の霊力を具現化したものである。蒼はアザゼルに切りかかった。


「【戦神クー】」


 アザゼルの後ろから巨大な鶏が現れた。戦の神、「クー」である。


「何だと!?アザゼルの奴…神を操っているだと…どういう事だ…!?」


 蒼はかなり驚いていた。


「何だ?あれは…」

「あれは…まさか…戦の神…「クー」か!?」


 屍が疑問を浮かべていると一夜が答えた。


「「クー」?なんだそりゃ?」

「「USW」に伝わる四大神の一体だよ。鉄と爆発を操る神と言われていて好戦的で気分屋な神だよ」


一夜が屍の疑問に答えた。「クー」とは「USW」に伝わる四体の守り神の一体であり、気まぐれで気分屋としても有名な神である。四大神の中でも最も戦闘に特化した神と言われている。


「戦の神か…面白れぇ!」


 蒼は「クー」に突撃した。


「コケコッコー!!」


 「クー」が鳴き声を上げた。鶏だからか、鶏の鳴き声を上げていた。クーは身体に鉄を纏い蒼に突撃した。


「【氷水天皇ザドキエル】!!」


 蒼は右手の【天使エンゲリアス】を解放した。水と凍りを司る【天使エンゲリアス】、【氷水天皇ザドキエル】である。蒼はとある事情により、本来、一人につき一体しか持っていない筈の【天使エンゲリアス】を二体持っている。その内の一体が【氷水天皇ザドキエル】である。

 蒼は【氷水天皇ザドキエル】を両手で持ち、「クー」目掛けて振り上げた。すると、「クー」の身体が瞬く間に凍り付いた。


「よし!」

「甘いわ」


 蒼が安心するとアザゼルは笑みを浮かべた。すると、「クー」は氷を砕き、脱出した。さらに、「クー」の周囲に無数の魔方陣が現れ、その魔方陣が一気に爆発した。連鎖的に爆発を繰り返し、蒼を吹き飛ばした。


「ぐああああああああああ!!」


 蒼は近くにあったビルに激突した。そのビルは倒れてしまった。


「蒼!」

「時神!」

「なんて力だ…」

「これが…神の力…」


 慧留、屍、一夜、美浪がそう呟いた。


「さて、次はお前たちの番だ」


 アザゼルが慧留たちにそう言った。しかし-


「蒼があの程度でやられるとでも?」

「何だと?」


 一夜がそう言うとアザゼルは訝し気な顔をした。


「!!」


 アザゼルは周囲を見渡した。すると、周囲の建造物が凍り付いているのが分かった。


「何だこれは…?」


 すると、アザゼルの目の前に蒼が現れた。氷の巨大な翼と頭上には青色の輪っかがあり、全身白い衣で覆われていた。髪も白黒交じりの髪から完全に白髪のなっていた。さらに、瞳も水色と黒のオッドアイから両目とも水色になっていた。【天使エンゲリアス】の二段階目の解放。【第二解放エンゲルアルビオン】だ。


「【アルカディアの氷菓】」


 蒼は刀を掲げた。すると、アザゼルと「クー」に猛吹雪が襲い掛かった。


「く!?」

「コッケー!!」


 アザゼルと「クー」は蒼から離れようとした。だが、蒼は逃がさなかった。


「【氷魔天刀シュネーデーゲン】」


 蒼は刀をアザゼルと「クー」目掛けて放った。すると、アザゼルと「クー」は氷の刃により切り裂かれ、周囲が凍り付いた。


「やりすぎだ!蒼!!」

「やべっ…やり過ぎた…」


 一夜がそう言うと蒼は焦った顔をした。敵はアザゼルとはいえ、身体は舞のものだ。あまり傷つけ宇r訳にはいかなかった。それに今は夜で周囲に人がいないとはいえ、街を氷漬けにするのはよろしくなかった。

 しかし、氷漬けになっていたアザゼルと「クー」は氷から脱出した。


「はぁ…はぁ…これまでか…」

「さっさと身体を四宮さんに返せ」

「断る!私自身の願いを叶える為…今度こそ…!」


 そう言ってアザゼルは闇の中に姿を消した。


「クソ!逃がしたか!!」


 蒼は叫んだ。因みに蒼はあれだけの爆発を受けたのに無傷であった。


「それにしても…面倒な事になったね…」

「ああ、四宮がまさか悪魔に取り憑かれるなんてな…」


 一夜と屍はそう言った。実際、舞が悪魔に憑かれたとなると厄介な事になるのは目に見えていた。それに、アザゼルは何らかの目的があるようにも思えた。


「どうする?蒼?」


 慧留が蒼に問いかけるが蒼は手を首に当て、困った様子であった。


「あらら、逃がしちゃったか…残念」

「まったくだよ、あ~、面倒臭い」


 そんな声が聞こえた。蒼たちは後ろを振り返った。そこにいたのは白いフリルな衣装を着た黒がかった茶色のセミロングののほほんとした印象の女性と小柄な緑色の髪と目を持った気だるげな印象を持つ男性であった。彼らの事は蒼たちはよく知っていた。というより、蒼たちはかつて彼らと戦った事がある。


「アルビレーヌ!ウルオッサ!」


 そう、そこにいたのは「USW」の特殊戦闘部隊『アンタレス』の幹部である『七魔王セブン・ドゥクス』のメンバーである、アルビレーヌ・マジェルタスクとウルオッサ・テディベアであった。











 蒼たちがアルビレーヌとウルオッサと遭遇した後、一夜の自宅に全員集まっていた。因みに一夜は前の自宅から引っ越しており、大きな豪邸を買っていた。彼の財力は謎に包まれている。

 蒼たちは一夜の家の一室に集まっていた。かなり広く、割とスペースに余裕があった。


「聞かせてもらうぜ…何でお前らがここに来てるかを」


 蒼はそう言った。アルビレーヌとウルオッサは本来は「USW」にいる筈の者たちだ。その彼らがここ「十二支連合帝国」にいるのはおかしな話であった。


「そうねぇ…単刀直入に言うとアザゼルを処理しに来たのよ」


 アルビレーヌはスローペースにそう言った。


「どういう事だ?」

「そのままの意味だよ。僕たち「USW」は百年前に消えた四大神の調査を続けていたんだ。百年以上調べてたんだけどどうも見つからなくてね…それがびっくり、調査の結果、四宮舞の中にいる事が分かったんだ。そして、アザゼルがいた事もね」

「確かアザゼルって百年前に死んだ筈だろ?」

「私たちもそう聞いていたのだけれど…どうやら、死の直前で四宮舞に取り憑いていたみたいね」

「な!?」


 蒼を始め、他の四人も驚きを隠せずにいた。舞の身体には「USW」の四大神に最強の堕天使アザゼルが取り憑いていたというのだ。これを驚かさずにはいられなかった。


「何で四宮に「USW」の≪四大神≫とアザゼルの魂が取り憑いてんだよ?」


 屍は二人に尋ねた。


「それが…分からないのよねぇ~。分かっているのは現状、四宮舞には≪四大神≫とアザゼルがいるって事と、四宮舞本来の人格がアザゼルによって乗っ取られてるって事くらいね。そして、四宮舞の言霊の力も≪四大神≫の力によるものって事もそうね」


 蒼たちは黙り込んだ。話がデカすぎる。四宮舞には神と堕天使が取り憑いている…いや、魔女は悪魔と契約を結んでいる事が多い。別におかしい事ではない。だが、神と堕天使を同時に取り憑かせている魔女など聞いたことが無い。

 アルビレーヌとウルオッサの話が本当なら、四宮舞の戦闘力は一国家と相手が出来る程だろう。正直、蒼たちだけでは手に余る。


「つか、そんな奴を相手に「USW」から派遣されたのはお前ら二人だけかよ!?」

「仕方ないのよ…ドラコニキルは光明庁長官代理だし、他の『七魔王セブン・ドゥクス』も手が空いてないのよ」


 アルビレーヌは蒼の難癖に対してそう返した。「USW」の統治者はカーシス・ベルセルクから別の人物に変わったとの事だ。そして、ドラコニキルがその補佐をしているそうだ。新体制が始まって間もない為、「USW」内ではかなりごたごたしているようだ。


「でも、お前ら二人だけでどうにか出来んのかよ?」

「無理ね」「無理だよ」

「……おい…」


 蒼が尋ねると二人は即答し、蒼はジト目で二人を見た。


「当たり前でしょう?相手は太古の守り神たちと最強の堕天使よ?役者不足のも程があるわ…」

「だから、この件に関しては「十二支連合帝国」から協力を仰ごうと思ってたんだ。アザゼルが生きてて不都合が生じるのは「USW」だけじゃないからね」

「成程な…けど、この国の政府に協力を仰いだところであれを相手にするのはきついぞ…国の力だけなら「USW」の方がこの国よりはるかに上だ。どうすんだ?」

「え?君たちが協力してくれるんだろう?」


 屍がどうするか二人に尋ねるとウルオッサが当たり前のようにそう言った。


「は?」


 屍は素っ頓狂な声を上げた。蒼と慧留、美浪と一夜も驚いた様子だった。


「僕たちはいつ君たちに協力すると言ったんだい?」

「そうですよ…そんなこと言った覚えはないですよ…」


 一夜と美浪が抗議してきた。


「でも、君たちは学生ながらこの国の最高戦力だろう?君たちが協力してくれるとばかり思っていたよ…」


 ウルオッサがさも当然のように口走った。確かに「USW」に潜入し、互角の戦いを繰り広げたのは事実ではあるが、あくまでも蒼たちは一学生であり、国の犬ではない。協力する義理などはこれっぽっちもない。それに、「USW」に行く羽目になったのはそもそも、慧留を助け出す為であって、決して彼らは「USW」との抗争を望んでいたわけではない。


「でも、四宮先生が危ないんだよね…見捨てるわけには…」

「流石は我らが「女王クイーン」ね。話が分かるわね」


 慧留がそう言うとアルビレーヌがそう言った。


「おい、慧留がいつお前らの女王になったんだよ」

「なってたわよ」「なってたよ」

「…………」


 蒼がアルビレーヌに反抗しようとしたらアルビレーヌとウルオッサに即答され、押し黙った。確かに、ほんの一時ではあったが慧留は「USW」の戦女神、『ヴァルキリア』と名乗ったことがあった。しかし、これはノーカンじゃないかと蒼は思ったが、面倒臭い事になる事が目に見えていたので何も言わなかった。


「で?結局、君たちはどうするのさ?僕たちに協力してくれるのか、それとも尻尾を巻いて恩師を助けずに逃げるのか…どっちなんだい?正直、僕は早く終わらせたいんだよね~。面倒臭いし」

「何か逃げるのがめちゃくちゃかっこ悪いよみたいな感じで言うの止めてくれませんかね?」


 ウルオッサは面倒くさそうにそう言った。その言い草に蒼は若干難色を示していた。ウルオッサは面倒くさがりな性格である。だから、蒼たちの気持ちをさっさと聞いておきたかったのだろう。

 蒼は他の四人の様子を伺った。そして、四人の気持ちを察した。


「分かったよ…まぁ、俺らとしても一言じゃないしな。協力するよ。けど、常守総帥には連絡はするからな」

「ええ、感謝するわ」

「こちらから何かあればすぐに報告するよ。僕らも僕らなりに調べてみるさ」


 蒼が了承し、アルビレーヌがお礼を言うと、一夜が何かわかれば逐一報告すると伝えた。


「じゃあ、今日のところは僕たちは帰るよ」

「アテはあるのかい?」

「テキトーに探すよ」

「よければ、家に泊まってもいいが…」

「いいえ、いいわ。そこまでしてもらうつもりはないし」

「僕もいいや、この後常守総帥に会う予定だし」


 アルビレーヌとウルオッサは一夜の厚意を断り、一夜の家から出ていった。


「大丈夫か?あれ?」


 屍が不安そうにそう言った。


「まぁ、大丈夫じゃないかな?」


 美浪は何とも言えない表情でそう言った。


「まぁ、俺たちも人の心配をしてられねぇよ。さっさと四宮さんの行方を捜索しねぇとな」


 蒼がそう言うと皆はコクリと頷いた。


 その後、蒼たちは一夜の家を後にした。


「気を付けて帰りなよ」


 一夜がそう言うと他の四人はそのまま帰って行った。


「やれやれ、しばらくは平穏が続いていたが…やはり、何か起こるものだねぇ」


 一夜がやれやれといった感じで呟いた。情報収集は一夜の得意分野だ。早速、舞の行方を追わなければならない。


「さて、早速調べるかな」


 そう言って一夜は自分の家に戻って行った。











「さてと、確かここだね。常守総帥のいる所って…」


 ウルオッサはそう呟いた。彼らがいるのは『四神天城シシンテンジョウ』。常守厳陣つねもりげんじんがいる場所である。

 ここは「十二支連合帝国」の本拠地でもある。時間は予定通りの筈だ。


「結構遠かったわね。【神速ケレリタース】を使う羽目になるなんて」


 一夜の家は『四神天城シシンテンジョウ』からかなり離れていた。

 因みにアルビレーヌが言っていた【神速ケレリタース】とは悪魔が使う『魔歌マーニア』の一つであり、高速移動をする呪術である。


「さて、行こっか…」


 ウルオッサとアルビレーヌは『四神天城シシンテンジョウ』の正門の前に立った。すると、一人の男性がやって来た。

 全身黒に覆われた執事服に黒色の髪、瞳、そして、右側に片眼鏡モノクルをかけた男性あった。


「お待ちしてました。ウルオッサ様、アルビレーヌ様」

「あなたが黒宮大志ね」


 大志がウルオッサとアルビレーヌにお辞儀をするとアルビレーヌが確認を取った。

 黒宮大志、千年以上の時を生きる吸血鬼の「真祖」であり、厳陣の右腕でもある。経緯は不明だが、大志は厳陣に仕え、今もこうして二人を厳陣の元に招き入れようとしている。


「ええ、私が黒宮大志です。それではこちらへ」


 大志がウルオッサとアルビレーヌに道案内を始めた。










「厳陣、「USW」の使者をお連れしましたよ」

「ご苦労」


 大志が間の抜けた声でそう言った。すると、厳陣が淡々と返事をした。見た目は白髪のオールバックであり、初老の男性であった。軍服に身を包んでいた。大きな机に腰かけていた。


「この人が…常守厳陣…」


 ウルオッサは生唾を飲んだ。何といえばいいのだろう…見えない威圧感の様なものがあるように思えた。アルビレーヌもそれを感じ取っているようだ。


「まぁ、そう硬くならなくていい」


 厳陣は気さくにそう言った。


「?そっちにいる人は?」


 アルビレーヌが厳陣に尋ねた。厳陣の右側に鈍色の髪と目をした、すらっとした青年がいた。


「ああ、彼は董河湊君、私が雇っている使用人の一人だよ。時神蒼君たちの友人でもある」

「へぇ…」


 アルビレーヌは厳陣がそう言った後、湊を興味深そうに見た。


「時神蒼たちとは先ほど会いました。その時、彼らはアザゼルと戦闘をしていました」

「そうか…」


 厳陣は手を首に当ててそう呟いた。


「時神君たちも恐らく動くだろうね…私が言うまでもなく」


 厳陣はそう言った。厳陣は彼らがすぐに動くであろうというのはすぐに予想できた。「USW」の一件でも蒼たちは厳陣の命令を無視して攻め込んでいったのだ。


「…ところで…君たちは泊まる宿はあるのかね?」

「いいえ、ここで泊まる予定でしたので…」

「そうか…しかし困った…ここは誰かを泊められるような場所はない…」


 厳陣が困った顔をした。


「そうだ、ここは湊君の家に泊まればどうでしょう?」

「ああ、その方がいいだろう」

「え?」


 大志が提案し、厳陣がその提案に賛成し、湊が唖然とした声を上げた。


「ちょちょちょちょちょと!!!待ってくださいよぉぉぉぉ!!!俺の人権は無いんですか!?」


 堪らず湊は声を荒げた。無理もない、見ず知らずの者を勝手に家を泊めさせられては湊もそりゃあ難色を示すだろう。


「そう言わずに…頼むよ」


 厳陣が湊に頼み込んだ。湊は厳陣がここまで頼み込むことも珍しい為、根負けし、渋々了承した。


「分かりましたよ。俺の家なら二人分くらいは用意できますし…」

「助かるよ。ありがとう」


 厳陣が礼を言うとアルビレーヌとウルオッサもホッとした顔をした。


「感謝するわ」

「どうも~」

「あんたはもっとちゃんとお礼を言いなさい!」

「痛!」


 アルビレーヌはウルオッサの間の抜けたお礼に難色を示し、拳骨を喰らわせた。


「ははは…」


 湊は乾いた笑みを浮かべた。


「今日はもう遅い、君たちも今日は帰るといい」

「分かりました。それでは」


 厳陣がそう言うと湊は返事をし、部屋を出ていった。アルビレーヌとウルオッサも彼に続いて部屋を出ていった。


「アザゼルと四宮舞…二人には一体何があったのでしょうね…」


 大志は両手を振りながらそう言った。実際、厳陣も大志も何故、舞にアザゼルが取り憑いているのか全く分からなかったのだ。


「原因の究明もそうだが、まずはアザゼルをどうにかせねば…何をしでかすか分かったものではない」


 厳陣はそう言った。実際、アザゼルは百年前に「十二支連合帝国」と「USW」を中心に多大な被害をもたらしている。そのアザゼルが復活した。何としても始末しなければならなかった。


「私も「自身の力」を使わなければ…」

「厳陣、あなたは力を使えるような状態ではありません。カーシスとの戦いの時も力を使おうとして失敗している…」

「ああ、私の身体は限界に近付いている…だが、しかしこのまま何も出来ないとなると…」

「私がいる…それだけで十分でしょう」

「ああ、そうだな、済まない」


 厳陣と大志は窓から夜空を見上げた。













 湊とアルビレーヌとウルオッサは今、湊の自宅の前に立っていた。湊の家は『四神天城シシンテンジョウ』から電車で三十分程の場所にあった。

 湊の家はかなり大きい家であり、一夜の家には及ばないものの風格のある家であった。


「苗木君といい、あなたといい、結構皆高級志向なのかしら?」


 アルビレーヌが顔を引きつらせながらそう言った。アルビレーヌの自宅はマンションであり、ここまで巨大ではない。むしろ狭いのだ。それでもアルビレーヌは満足しているのだが…一夜と湊の思考が分からないなとアルビレーヌは思った。


「大きいね~、僕の家はこんなに大きくないから羨ましいや~」


 ウルオッサも間の抜けた声でそう言った。彼もアルビレーヌと同様、『アンタレス』が所有しているマンションに住んでいる。彼は十分に寝れる場所が欲しい為、湊の家を羨ましがっているようだ。


「さぁ、入って入って」


 湊がそう言って二人を家に入れた。

 家に入ると大きいスペースがあり、部屋が何室もあった。


「ほぇ~」

「………広いわね」


 ウルオッサとアルビレーヌは感想をそれぞれ述べた。


「部屋は自由に使っていいですよ。誰もいないですし」

「両親はいないのかしら?」

「両親はいません。僕は常守家の援助を受けているので…親に捨てられたんです」

「…悪いわね。なんか…」

「いえ、もう慣れてますし」


 アルビレーヌは申し訳なさそうな顔をした。一方で、湊は大して気にしている様子はなかった。

 湊は物心つく前に…もっというと生まれる前に両親に捨てられた。理由は恐らく、捨てた本人たちしか分からない。常守家が湊を拾い、湊は育てられた。


「この家は常守家の買った家って事か~。どおりで…」


 ウルオッサは納得が言ったようにそう言った。常守家は「十二支連合帝国」の代表的な命家の一つであり、閻魔家と並ぶほどの古い家だ。アザゼル討伐の際も閻魔家も常守家も参加していたと聞く。


「まぁ、そういう事です」

「両親の事…考えた事ないの?」

「う~ん、常守家が俺の家の様なものですし…今はそこまでですかね」


 アルビレーヌの質問に対して湊はそう言った。湊とて自分の本当の親の事を考えた時期はあった。しかし、常守家の人間はみんな優しかった。湊にとってそれだけで満足なのだ。


「まぁ、今の家族で満足してるならそれでいんじゃない?まぁ、僕は家族を自分で捨てたみだし?僕は特に未練はないけどね」

「あなたの事は聞いてないわよ」


 ウルオッサが気の抜けた感じで言うとアルビレーヌはどうでもよさそうにしていた。


「そうなんですか…アルビレーヌさんはどうなんです?」

「!」

「………」


 湊がアルビレーヌに質問するとウルオッサはビクッと反応した。アルビレーヌは黙り込んでいた。ウルオッサはアルビレーヌの過去を少しだけ知っている。それを知っているが故にそれを湊が効いて来たので若干焦ったのだ。


「私は…両親の重圧に耐えきれなかったの…それで村を一つ消した。両親は私に対して虐待していたことが原因だったことが発覚して両親は「USW」に捕まって今は刑務所よ。終身刑を受けてるわ」

「…そう…ですか……なんかすみません」

「いいえ、私もあなたの事を聞いたんだからお互い様よ」


 湊が謝るとアルビレーヌはそう言った。


「ていうか…どいつもこいつも他人の家族事情を気にしすぎなんだよ…そんなの気にする必要は無いのにね…」


 ウルオッサは素っ気なくそう言った。彼なりの気遣いだと湊とアルビレーヌも分かった。


「そうね…」


 アルビレーヌはそう呟いた。


「二人ともいい人で俺安心しましたよ…「USW」はかつて敵対してたんで最初はめちゃくちゃ不安だったんですが…安心しました」

「それはこっちもよ。私たちを快く受け入れてくれて感謝してるわ、湊」

「相変わらず馴れ馴れしいな~、アルビレーヌは」


 ウルオッサがそう言うがアルビレーヌは無視した。そんな二人のやりとりを見て湊は少し笑った。


「なにがおかしいんだい?」

「いや、仲がいいなと思っただけですよ」

「そう言えば、元生徒会ではあなただけ、「USW」に来てなかったわね。私たち、あなただけは知らなかったし」

「ああ、俺は他の六人と比べて非力で…だから、僕はお留守番だったんです」

「いや、それに関しては他の六人が強すぎるだけだと思うんだけど…」


 湊の発言にウルオッサは否定した。


「あなたは皆から信頼されてるのね」

「いや、何で今の話の流れでその結論に至るんですか?」


 アルビレーヌの発言に湊は突っ込みを入れた。


「待つ事…一見とても簡単に思えるけど、実はとても難しい事なのよ。それをあなたが任されたって事は信頼されてるって事が分かるわ」


 アルビレーヌはそう言った。ただ待つ事…口で言うと陳腐に思えるがアルビレーヌが言うようにそれはとても難しい事だ。

 仲間の帰りを待つ…それは仲間が無事かどうか分からず、とても苦痛を伴う時がある。帰る場所を守る事はそれだけ難しい事なのだ。


「そう…ですかね…」

「そうよ、だから自信を持ちなさいな。あなたは自分が思うほど弱くないわ…まぁ、会って間もない私にこんなこと言われても説得力無いかもしれないけど…」

「いえ、ありがとうございます。嬉しいです」


 湊は少し嬉しそうであった。


「ねぇ…僕そろそろ寝たいんだけど…」

「あなたは空気を読みなさいよ…ウル…」


 アルビレーヌは呆れたようにそう言った。ウルオッサは今の状況に耐えかねたのだ。


「分かりましたよ…寝室に案内しますね」


 そう言って湊は二人に部屋に案内した。












「ドラコニキル~!この書類はどこに置けばいい?」


 ラナエルはそうドラコニキルに尋ねてきた。

 ラナエル・ミュウ、水色の髪と瞳が特徴の少女である。一時は蒼と共に行動していたが今は「USW」でドラコニキルの補助をしている。


「ああ、あそこに置いておいてくれ」


 ドラコニキルはそう言った。ドゥームプロモ・ドラコニキル。黒髪のストレートヘアーと瞳が特徴の青年であり、ラナエル同様、黒を基調とした軍服を着ていた。

 ドラコニキルとラナエルは多くの書類と格闘していた。「USW」はカーシスが死んだ事により、あらゆる方面で打撃を受けていた。

 カーシスが死んでから三年ほど経つが未だに国は回復しきっていない。


「ウルオッサとアルビレーヌは蒼たちに会ってるのかな~?いいな~、わたしも蒼に会いたい…」

「ふー、そんなこと言ってないで手を動かして欲しいね」


 ラナエルが文句を垂れるとドラコニキルはそれに対して注意をした。ドラコニキルも現場に赴きたいと思っていた。

 アザゼル…そんな奴が「十二支連合帝国」で再び暗躍しているとなるとドラコニキルとて他人事では済まない。

 しかし、「USW」の回復が最優先だ。人員は最低限の人数で何とかするしかない。


「ドラコは蒼たちに会いたくないの?」

「別に…確かに時神蒼には少し興味があるが、会う必要まではないだろう…友人でもないしな」

「冷めてるね~」


 ドラコニキルはかつて蒼に敗北を期している。別にだからどうという訳ではない。結果的には蒼たちとは和解自体はしているし、特に気にする必要はないと考えているのだ。

 まぁ、ラナエルは蒼の事を痛く気に入っているようで、結構会いたがっているようだった。


「ん?何だこれは?」


 ドラコニキルが突然、真っ黒な本を手に取った。表紙には何も書かれておらず、魔力によって本の中身を開くことが出来ない作りになっていた。

 ドラコニキルは魔法のロックを強制的に呪解し、本の中身を見た。


「これは…」


 ドラコニキルは顔を歪ませた。本の中身の内容はドラコニキルにとって想像を絶する内容だったからだ。

 ドラコニキルは本を閉じ、四角い物を本の間に挟んだ。


「ラナエル…」

「何?ドラコ?」

「「十二支連合帝国」に行きたいって言ってたな」


 ドラコニキルがそう言うとラナエルは顔をしかめた。











「ふあ~、眠い…」


 蒼はあくびをしていた。今蒼は大学の講義を受けていた。蒼は講義を真面目に聞くタイプではなく、特に今受けている講義は蒼にとってあまり興味がそそられないものだった。

 あの後、蒼は家に帰り、その後外を出て自分の家の周囲の状況を確認していた。しかし、特にこれと言ったものは無かった。まぁ、当然かもしれないが。

 蒼は決して寝不足という訳ではなく、授業が退屈過ぎて眠たくなっているというだけだ。単位目的でこの講義を取っているに過ぎない。

 周囲を見渡すとスマホを弄っていたり、別の勉強をしている者もいた。挙句の果てには堂々と寝ている者や授業を途中退室する者さえいた。

 高校と違って大学は自由だなと蒼は思った。いや、大学も勿論、スマホを弄ったり、内職をしたり、寝たり、途中退室する事がいいという訳ではないが、仮にやっても咎められる事は少ない。大学生は最早大人だ。そういう事も全て自己責任になってくるのだ。

 高校のようにいちいち言ってくれない。自由ではあるがそれと同時に過酷な世界でもある。

 蒼の場合はちゃんと授業にも出ているし、結果もそれなりに残せているので問題無かったりする。特にサークルなどにも入っていない為、これまでの大学生活は比較的暇であった。

 だが、今はそういう訳ではない。なんせ、事件が発生してしまったのだから。「USW」の一件以降はこれと言って大きな事件は無かったが、昨日、蒼たちの高校の教職員であった四宮舞が伝説の堕天使アザゼルに身体を乗っ取られ、そのアザゼルが何かをしようとしているというのだ。

 下手をすれば「十二支連合帝国」だけでなく、世界中を巻き込む騒乱に発展しかねない。何としてもアザゼルを食い止め、舞を解放する必要がある。

 だが、いくつか分からない事がある。舞の事だ。何故、舞には「USW」の四大神とアザゼルの魂が宿っているのか…それがまず疑問である。

 そもそも、四宮舞は出自が謎である。魔女であること以外、蒼は舞の事を知らないのだ。だが、蒼が今その事を考えた所で答えが出る筈もなかった。

 自分なりに調査をするしかない。

 蒼が色々考えていると抗議終了のチャイムが鳴り響いた。











 屍は一人で一宮高校に来ていた。ここに来れば何か分かるかもしれないと考えたからだ。個々の教職員にも聞き込みをしたが誰も舞の事を知らないと言っていた。話によると三か月前から学校に来なくなり、さらに連絡手段を全て絶っていたとの事だ。つまり、一宮高校の教職員は誰も彼女の詳細を知らないのだ。彼女がアザゼルに身体を乗っ取られている事も知らないようだった。


「当てが外れたか?いや、まだ何かある筈だ」


 屍はそう言って学校の地下に向かった。かつて、蒼や屍たちを「USW」に向かった時、舞は彼らの手助けをした。具体的に言うと舞は蒼たちを「USW」に送ったのだ。その時、舞が所有していた学校の地下にある広場でそれを行なったのだ。

 だが、舞の創った地下の空間は夜にならないと入れないようになっているらしく、今は日中だ。夜になるのを待つしかない。


「ん?」


 屍は見た事のある人影を見つけた。三人だ。そこにいたのはアルビレーヌとウルオッサ、そして…


「董河…」

「天草さん!久しぶりですね!!」

「何でお前がここに…」

「ああ、それはですね…」

「湊君の家に私たちが泊まっていたのよ。で、今は協力もしてもらっているわ」


 アルビレーヌが淡々と説明をした。屍は少し意外に思った。まさか、湊とアルビレーヌたちがお互いに面識があったとは…


「てか、それだけじゃ分からないでしょ?僕が詳しく話すよ」


 そう言ってウルオッサが詳しく話した。


「そういう事か…で、四宮がこの学校の教職員だからここを調べようと思ったわけか…考える事は同じか…」

「そういう事ね…」

「何かそれっぽい情報は手に入ったか?」

「ううん、あらかた回ったけどそれらしい情報は手に入らなかったよ…後は地下の部屋だけだね…俺は言った事ないけど、屍さんはあるんだよね?」

「ああ、だが、あの部屋は夜にならないと入れない作りになってて今は日中だから入る事は出来ない」


 屍がそう言うと湊は「そうですか」とだけ答えた。


「いずれにしても夜まで待つしかないって事か~」


 ウルオッサはそう呟いた。


「そういう事だ。それまで各自、もう一度周囲を散開して情報収集した方がよさそうだな」


 屍がそう言うと三人はコクリと頷き、再び、情報収集を再開した。












 慧留は日比野大学の図書館に籠っていた。読んでいた本は「USW」についての書物とアザゼルに関する書物であった。

 本で文献を調べていたらたまたま一冊づつ見つける事が出来た。

 「USW」は四大帝国の中でも最も早くできた国であり、途中から光明庁が実権を握る事になった。光明庁が実権を握ったあたりからアザゼルが「USW」を中心に暴れまわっていたようだ。目的も一切不明であったようだ。

 そこで光明庁の長官、カーシスはアザゼルを討つことにしたようだ。

 しかし、アザゼルは突如として魔力消失した。そこでカーシスはアザゼルを死亡したと断定した。


「けど、アザゼルは四宮先生の中で生きていた…何年も…」


 慧留はそう呟いた。そう、アザゼルはどういった手段を使ったかは知らないが、舞の中で生きていた。そして、百年の時をかけて、舞の身体を乗っ取った。

 まぁ、この話が全て本当であったのならの話だが…何となくだが慧留はこの書物の内容が全てが真実だとは思えなかった。

 続いて、慧留はアザゼルについての書物を読みだした。

 アザゼルには特殊な力がある。それは、対象者に憑依し、身体を乗っ取る力だ。アザゼルの本体には器が無い「アストラル体」だ。なので、誰かに寄生しなければ、肉体が維持できずに消えてしまう。それを避ける為に、宿主に寄生する力がある。


「アザゼルには…肉体が無い…」


 アザゼルの身体は「アストラル体」…つまりは魂だけの存在という事になる。しかし、アザゼルがどのようにして相手に寄生するかは書かれていなかった。


「やっぱり、かゆいところに手が届かない情報だな~。もう少し見つけれたらいいんだけど…」


 慧留はそう独り言を言った。慧留なりに調べては見たもののこれ以上は出てきそうになかった。何しろ、アザゼルの情報は少なすぎる。元から謎の多い堕天使なのだろう…

 というより、堕天使自体謎が多い。堕天使は天使が堕天する事で偶発的に生まれる存在だ。要はこの世界において堕天使は希少種なのだ。

 希少種故に情報も少なく、謎も多いのだ。

 慧留は「USW」の一件で堕天使となっている。今も堕天によって得た力は失われておらず、その力を行使できる。しかし、以前ほど莫大な魔力は無い。というのもあの莫大な魔力は原初の悪魔である「アンタレス」の物であったからだ。そのアンタレスも「USW」の一件で完全に消え去った。


「四宮先生を元に戻す手掛かりはなさそうだし…困ったなぁ…」


 慧留はそう呟いた。


 その後、いくつか調べたが、手掛かりとなるものは出てこなかった。











「さてと、行くか…」


 蒼は自宅から出てきた。蒼はあの後家に帰り、夜になるのを待っていた。

 そう、舞の地下の部屋に向かう為だ。彼女の部屋は夜にならあなければ出現しない。だから蒼は夜になるのを待っていたのだ。


「あ!蒼…」

「慧留…お前もか?」

「うん」


 蒼が慧留に尋ねると慧留は頷いた。慧留は直接舞の地下の部屋に行ったことは無いが話は聞いている。どうやら、慧留は蒼と同じことを考えていたようだ。


「ねぇ…蒼…アザゼルは…何をしようとしてるのかな…?」

「さぁな、大昔の怪物の思考が簡単に読めてたまるか…」

「そうだよね…でも、このまま放っておけないよね」

「ああ、そうだな。何としても四宮さんを助けねえとな」


 蒼と慧留は一宮高校に向かいながら話していた。


「他の人たちも来てるのかな…」

「かもな、俺たちが考えつく事は向こうも考えつく筈だ」


 二人は一宮高校に辿り着いた。昔と変わらない景色がそこにはあった。


「三年ぶりか…」

「そうだね…大学に入ってから一度も行ってなかったね」

「別に行く必要もなかったからな」


 蒼と慧留はそのまま歩きだした。そして、歩いたその先には屍とアルビレーヌ、ウルオッサと湊がいた。


「屍も来てたのか…アルビレーヌにウルオッサ………って!?」

「湊君!?」

「やあ、久しぶりだね。二人とも」


 蒼と慧留は湊がいる事に驚いていた。それもそうだろう、彼は今回の件を知らない筈だから…


「まぁ、カクカクシカジカという訳だよ」


 湊は今までの事を二人に簡潔に説明した。 


「成程な…それで……」

「じゃあ、湊君も協力してくれるって事?」

「まぁ、四宮先生が大変な事になってるって聞いたからね…見過ごせないよ…」


 湊はそう言った。こういう時の湊はとても頼りになる。


「じゃあ、地下に行こう」


 蒼がそう言うと他の五人はコクリと頷いた。









 ここは薄暗い場所である。あるのは闇のみ。ここを冥界のようだと答える者すらいるだろう。それほど圧倒的に黒い場所であった。


「ふ…まだ不完全か…」

「貴様の好きなようにはさせん!」

「舞…まだ抗うか…あなたは本来であれば、とうの昔に死んでいたというのに!」

「貴様は妾の教え子たちに手を出した…それだけで十分な理由になる」

「教え子…ねぇ…時神蒼…彼は邪魔だわ…何としても始末するわ…」

「…どういう事じゃ?何故時神を執拗に狙う」

「あの男は「あの力」を…持っているからよ」

「あの力?」


 アザゼルは舞の精神世界で舞と対話していた。そう、ここは舞の精神世界である。アザゼルは完全に舞の精神を掌握したわけではない。

 まだ、舞はアザゼルに抵抗しているのだ。


「時神蒼は私の最大の障害になる…」

「そんなに時神が怖いか…」


 アザゼルと舞は向かい合って話していた。しかし、この時間は長くは続かない事はお互いに分かっていた。


「貴様の目的が未だに分からん…≪四大神≫を使って何を企んでおるのじゃ?」

「何度も言っているでしょう?この世界を「ひっくり返す」って」

「それは何度も聞いている。それはどういう事じゃと聞いておるのじゃ!」


 舞はアザゼルの目的がいまいち分からなかった。ただ暴れる事が目的ではない事は分かっている。しかし、アザゼルは何を考えているかいまいち分からない。

 百年前もアザゼルは「USW」の≪四大神≫を狙っていた。だが、何故狙っていたのかは未だに分かっていない。


「まさか…≪四大神≫があなたを選ぶとは予想外だったわ。でも、あなたを掌握する事であなたの魔力と≪四大神≫の力をまとめて奪える…」

「………」


 アザゼルと舞は向かい合ったまま黙り込んだ。

 二人は百年にも渡り戦い続けていた。百年…文字にすればたったの二文字だが、それは途方もなく長い年月である。

 その長い年月、二人は戦い続けていたのだ。

 舞が自身の力を使いたがらなかったのは力を使うとアザゼルの魂が抑えきれなくなるからである。だが、舞は力を使う事が増えていっていた。「USW」の一件を境にアザゼルの魂を抑えきれなくなっていった。そして、三か月前にアザゼルに主導権を奪われてしまった。

 アザゼルに一度主導権を奪われると奪い返すのは非常に困難である。しかし、このままでは完全に舞はアザゼルに支配されてしまう。それだけは何としても阻止しなければならない。


「貴様の思い通りにはさせん」

「いや、私がこの身体を頂くわ…私自身の願いの為にね」


 アザゼルはニヤリと嗤った…気がした。何しろ今のアザゼルは黒い靄のような姿をしていたからだ。彼女の表情が全く分からない。しかし、感情はあるようでそれは何となく舞も分かった。


「そろそろ時間のようね…精々足掻いなさい」


 アザゼルがそう言うと舞は意識が無くなって行くのを感じた。


「待……て………」


 舞はそのまま意識が闇へと消えていった。














 「USW」の≪四大神≫、彼らは「USW」を太古の昔に守護していた守り神である。

 戦いの神「クー」。

 命の神「カネ」。

 豊穣の神「ロノ」。

 そして、冥界と海を司る神「カナロア」。

 これらの神々は四体揃って初めて力を発揮する。しかし、彼らはかつては「USW」のそれぞれ別々の土地に住んでいた。

 別々の場所でそれぞれの土地を守っていた。それが彼らの使命であったからだ。

 彼らは何故それぞれ別の土地に住んでいるのか…それは彼らにしか分からない。

 彼らを怒らせる事は禁忌とされていた。

 「クー」が怒ればその土地は焼け野原と化す。

 「カネ」が怒ればその土地は生命を吸い尽くされる。

 「ロノ」が怒ればその土地は枯れ果ててしまう。

 「カナロア」が怒れば、海は荒れ果て、冥界へ連れていかれると言われている。

 よって、彼らを恐れ、近づこうとする者は誰一人としていなかった。

 しかし、禁忌を犯し、彼らを手に入れようとする者が現れた。







 -それが、堕天使、アザゼルだ。






 To be continued

 【第四章】百夜亡霊篇スタートしました!今回はそうそうにUSWの面々が再登場しました。本当はもっと再登場させたかったのですが…尺の都合上無理でした(笑)今回はそこまで長いお話にはならない予定です。少なくとも三章よりはマシ…な筈。あれより長くなる事はそうそうないと思います。

 今回は舞の事を掘り下げていく話となっております。彼女は今まで登場の頻度が多い割りには謎の多いキャラです。今回はその舞に関する伏線が張られたり回収されたりします。

 それでは、また次回にお会いしましょう!

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