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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【外伝】ローマ統一篇
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【外伝】ローマ統一篇前編ー王の凱旋ー

 神聖ローマの統一を実行するべくルミナスは『セラフィム騎士団』を呼び出し、進行を開始しようとしていた。

「時は来たわ。この不毛な内乱にようやく終止符を打つ時が来たわ」


 ルミナス・アークキエル・ローマカイザーがそう呟いた。

 現在、ルミナスは巨大な宮殿、『天使城セラフィム・ヴァール』にいた。この城は二百年前に造られた。

 二百年前と言えば、人間が魔族を完全に制圧した時期であり、神聖ローマが出来、そして、ローマカイザー家がローマの頂点に立った時期でもある。

 『第三次世界大戦』…二百年前に起こった大きな戦争。その戦争を総大将がヤハヴェ・アークキエル・ローマカイザー。

 ルミナスの祖父だ。彼については謎が多く、ローマカイザー家内でも、彼の事は把握しきれていない。

 ルミナスは城の最深部にある『王の間』にある、巨大な台座に座っていた。

 そして、長い白い髪を掻き分け、台座からたった。ルミナスは白い肌、白い中世ヨーロッパ風の服、白い髪が特徴の絶世の美女であった。ただし、目だけは黒い。

 柔和な雰囲気も醸し出しており、その姿はまるで天使のようであった。

 もしかしたら、この例えはあながち間違いではないのかもしれなかった。

 なぜなら、彼女は天使と人間の間に生まれたハーフなのだから。

 そして、彼女は歴代唯一の女性の皇帝ながら歴代最強の皇帝と名高い。

 非常に優れた武力とカリスマ、知性に優れた人物であった。


「ルミナス様」


 ルミナスの目の前に現れたのはローグヴェルト・マクガヴェイン。

 長い黒髪と黒い中世風の服を着ているのが特徴の男性である。十字架のネックレスを首につけている。

 彼は「神聖ローマ」の最高戦力、『セラフィム騎士団』の団長を務めており、強大な力を持っている。

 彼が団長になったのはおよそ、三年前である。


「『セラフィム騎士団』を集められるだけ集めなさい。戦争よ」


 ルミナスはローグヴェルトにそう言った。


「……畏まりました」


 ローグヴェルトはルミナスに頭を下げ、『王の間』から出ていった。


「この戦いでまず一つ目の目的が果たされるわ。待っていなさい…」


 ルミナスは『王の間』の中央に向かった。そこの地面には円の模様があり、その模様に手を置いた。

 すると、二つの「鍵」が出現した。どちらも『万物の古鍵』と呼ばれている代物だ。だが、『万物の古鍵』とは本来の名称ではない。本来の名は…


「『シュトラール』…この鍵の本来の名…」


 『シュトラール』は悪魔の羽根、天使の骨、神々の眼から創られた鍵であり、千年前に人間が創ったものだ。

 全てで三つ存在し、シュトラールは全てで三つあり、それぞれに固有の力がある。

 そもそも、シュトラールは元々、一つであった。しかし、神々がこの鍵を三つに分散させた。

 三つに分散させれば本来の力が使われることが無いからだ。

 そして、『シュトラール』は封印された。一つは「十二支連合帝国」に、二つ目は「神聖ローマ」に、そして、三つ目は「ヘレトーア」に封印された。

 「神聖ローマ」にあった『シュトラール』はルミナスが既に探し当てていた。

 二つ目は先日、月影慧留が持っていたものを奪った。何故かはルミナス自身分からなかったが、二つ目の『シュトラール』は慧留が持っていた。

 これにより、ルミナスの手元に三つの内二つの『シュトラール』を揃えている事になる。


「後、一つ…けど、その前にやる事があるわ」


 そう、今ルミナスがすべき事、それは今までの皇帝が誰もなす事が出来なかった事、ローマ統一だ。


「ローマ統一…これは…私にとって大きな意味があるわ。私が全てを一つにする。そう、それが私の使命」


 ルミナスはそう呟いた。








 ルミナスはローマカイザー家の長女として生まれた。

 類稀なる天使としての資質、高レベルな霊呪法までも扱い、多くの者から期待が寄せられていた。

 多くの者に愛され、祝福された。それはまるで大天使、「メタトロン」のようであった。

 ルミナスはそれを理解していた。多くの者が自分に期待を寄せている事を。

 しかし、その期待は徐々に自分にとって煩わしいものになっていった。

 期待とは諦めから来る言葉だという事をルミナスは理解していた。

 誰かに期待するという事はその期待する者が出来ないから、誰かを期待するのだ。

 ルミナスはそれを理解していた。要は自分に出来ない事を他人に押し付けるという事…それが誰かに期待するという事だ。

 ルミナスはやがて、全てにうんざりするようになっていた。誰も、自身を対等な目で見てくれない。

 ちやほやされるだけ…あからさまなご機嫌取り、加速していく教育、そして、それが全てこなせてしまう自分自身に…ルミナスは全てにおいて天才であった。

 十歳の頃に、内乱を収める為の戦争の参謀役を務める程、知能も高かった。

 彼女は幼くして、戦争を経験した。多くの死者を見てきた。

 しかし、何故か、ルミナスは何も感じなかった。人が死んでも何も思わなかった。

 身内が死んでも何も感じなかった。これは、ルミナスが精神的におかしい…という訳ではないのかもしれない。

 白い、彼女の心は圧倒的に白いのだ。感情もないわけではない。

 悲しい事、楽しい事、恨み、妬み、憎しみ、喜び、全ての感情を理解している。

 しかし、それをあっさり受け入れてしまう心の白さを持っていた。

 光や輝きは善、闇や黒は悪、そう捉える者が大多数だ。しかし、果たしてそうだろうか?

 圧倒的な心の白さは却って周囲の者を消し去ってしまうだろう。完璧なまでの光を持つ者はそうはいない。

 魔族もそれは同じだ。光も闇もあるからこそ、いざこざは怒るし争いも起こる。

 どちらかはっきりしていれば争いなど起きないのだ。それが、普通なのだ。

 しかし、ルミナスはそう言った感情を全て受け入れてしまっている。

 うんざりはする、しかし、そう言った事も全て、そう言うモノだと理解してしまう。

 だからこそ、戦争に対してもそこまで悲しい気持ちにはならなかった。

 ルミナスは決して、今を恨んでいる訳でも、世界を平和にしようとも、そんな大それたことは考えていない。

 だが、ルミナスでも大事にしている者がいる。それは異母姉弟である、フローフル・エルド・ローマカイザー。

 彼だけはルミナスにとっては特別な存在であった。それ以外にも兄弟はたくさんいるが、ルミナスにとってフローフル以外はどうでもよかった。

 彼さえいれば、何もいらなかった。そう、幼かったルミナスはそう思っていた。

 しかし、ルミナスとフローフルが会える日は徐々に減っていった。フローフルにエリスがいたからだ。

 彼女はローマカイザーに養子として迎えられた少女であり、フローフルは彼女といる事が多くなっていた。

 何故なら、フローフルは遊女の息子であった為、才能がルミナスに次ぐものであるにも関わらず、周囲に煙たがれており、上層部がルミナスとフローフルが一緒にいさせることを良しとしなかったのだ。

 それにより、フローフルとエリスが一緒にいる事が多くなっていた。

 この時初めて、ルミナスは憎悪、嫉妬という感情を知った。そして、エリスを激しく羨んだ。

 ルミナスは真っ白だった心に一点の穢れが生まれた。この時のルミナスは普通の存在であるといえる。

 逆にこれまで、穢れが全くなく育ったのがおかしかったのだ。ルミナスはこの時だけ、普通だった。そう、この時だけは…








「いきなりの招集でよくこれだけ集まったわね」

「申し訳ございません。後の者がどうしても来れなく…」

「「神聖ローマ」は広いのよ。急に全員集まれという方が無理な話よ。よくやってくれたわ。ローグヴェルト」


 ルミナスがローグヴェルトに労いの言葉を贈った。『セラフィム騎士団』は現時点では12人いる。

 この数は数ある「神聖ローマ」の騎士団の中でも一番規模が小さい、にも拘らず、世界最強クラスの騎士団として名高い。

 一人一人が一国を滅ぼせるほどの戦闘能力があり、一対一で彼らに勝てる者は恐らく、現時点では五人もいない。個々の力が圧倒的に高いのだ。

 現在、ルミナスとローグヴェルトがいるのは城内にある巨大な円卓会議室だ。

 『セラフィム騎士団』が集まる時は基本的にここで会議が行われる。

 集まったのはルミナスとローグヴェルトを抜いて四人だ。


「ルミナス様、何故、いきなりこのような召集を?」


 白い軍服を身に纏っている金色の長い髪の女性がそう言った。因みに白い軍服の肩や手に金色の鎧がついていた。

 彼女はフラン・ヴェルニケル。『セラフィム騎士団』の中でも現在の『セラフィム騎士団』の中で最も古株の人物だ。

 ローグヴェルトが団長になる前は彼女が団長を務めていた。若々しい容姿であるが彼女の年齢は400歳以上であり、騎士団内でもあの第三次世界大戦を経験している唯一の団員である。


「ああ、今回の戦いを持って「神聖ローマ」を完全に一つにしようと思っているのよ。まぁ、このメンツなら問題ないでしょう…」


 ルミナスはそう答えた。すると、薄紫の髪のセミロングの少女がルミナスに質問をした。


「しかし、今まで悉く統一に失敗しているというのに騎士団の半数以下でどうするおつもりですか?」


 彼女の名はエクレア・パイルペンドラー。見た目は童顔で可憐な感じであり、紫のセミロングの髪が特徴である。

 年齢は300を超えている。だが、彼女が『セラフィム騎士団』に入隊したのは十年前である。

 そう言った経緯から、彼女は第三次世界大戦には参加しておらず、安全な場所に身を潜めていた。

 他の騎士団同様、白い軍服を纏っているが、下には薄紫の短いスカートを履いていた。


「ええ、問題無いわ。今回は私が直接戦場に赴くから」


 ルミナスがそう言うとローグヴェルト以外の騎士団員が騒めいた。

「正気ですか?まぁ、それはそれで面白そうではありますが…」


 オレンジ色の髪をしたミディアムパーマの少女がそう言った。彼女はミルフィーユ・ペテルギウス。

 先ほどの二人に比べれば若いが、それでも100歳以上である。

 見た目は二人同様、かなり若々しく、見た目は女子高生にしか見えなかった。

 白い軍服の周りにオレンジ色の意匠が付いていた。


「…女王が戦線に参加するなど…愚の骨頂です」


 灰色の髪の眼鏡をかけた男性がそう言った。彼はアルダール・マーブル。

 白い軍服の後ろに灰色の本のマークがついていた。彼は『セラフィム騎士団』内の参謀を務める人物である。


「ルミナス様の判断は絶対だ、厳守しろ」


 ローグヴェルトがそう言い放った。すると、他の団員は黙り込んだ。


「……分かりました。護衛はつけるのですか?」


 アルダールが質問した。


「それは、ローグヴェルトに任せるわ。彼一人で充分よ。私一人守る為に戦力を割くのは避けたいもの。あなたたちは自身が率いてる騎士団を統率し、いつも通りに攻め込めばいいわ」


 『セラフィム騎士団』には一人一人、最低、一つの騎士団の団長を務めており、「神聖ローマ」のすべての騎士団を従えている。

 『セラフィム騎士団』一人一人が別の騎士団を従えている。ローグヴェルトはそれらの騎士団員を統率している、という事になる。

 『セラフィム騎士団』団長とはすなわち、「神聖ローマ」すべての騎士団を従えているのと同義なのだ。


「それでは、始めましょうか…」


 ルミナスがそう言うと会議は終わりを迎え、他の者たちは戦争の準備を始めた。














 ここは、「神聖ローマ」のどこかにある洞窟であり、『オリヴィア』と呼ばれる、「神聖ローマ」の反勢力組織の隠れ家であった。


「ジェジェ様、「神聖ローマ」が本格的に動くとの事です」


 甲冑を着た男がそう言った。彼は、『オリヴィア』の構成員の一人である。


「ああ、それについては問題ない。『ギシン』、『ミネルヴァ』、『エギル』と連合を組む事にした。明日、会議を開く予定だったしな」


 銀髪のツンツン頭に無精髭を生やした中年の男性がそう言った。彼は、ジェジェ・ジェルルティーガ。

 五百年以上生きている天使であり、かつては「神聖ローマ」最強の天使と呼ばれていた。

 しかし、ローマカイザーが台頭してからは影を潜めていた。

 自身の地位を転落させたローマカイザーに恨みを持っており、『オリヴィア』を率いて反勢力として今まで活動しており、ローマカイザーを潰す機会を伺っていた。


「それで?奴らはいつになったら攻め込んでくる?」

「偵察部隊によると明後日には…との事です」

「そうか、なら問題ないな…下がれ」

「はっ!」


 ジェジェがそう言うと男はジェジェの前を去って行った。

 ジェジェが先ほど言っていた『ギシン』、『ミネルヴァ』、『エギル』とは、「神聖ローマ」の反勢力組織の事である。

 「神聖ローマ」の反勢力組織はいくつも存在するが、その中でも『オリヴィア』、『ギシン』、『ミネルヴァ』、『エギル』は反勢力組織の中でも勢力の規模がトップクラスである。

 その中でも、ジェジェが率いている『オリヴィア』は反勢力組織の筆頭であり、ローマカイザーが最も手を焼いている組織である。


「二百年待った。この機会を逃せば、恐らく次は無い。決着をつけよう…ローマカイザー…」


 ジェジェはそう言い、嗤った。















 ローグヴェルトは宮殿を一人で歩いていた。


「ローグヴェルト…」


 ローグヴェルトの後ろから声が聞こえた。アルダールだ。


「アルダール…」

「貴様…陛下のあの御判断に何も疑問を持たないのか?」


 アルダールはローグヴェルトにそう言ってきた。アルダールはルミナスのあの傍若無人振りな命令に納得しかねていたのだ。


「陛下の御命令は絶対だ。俺ごときが口を挟める事じゃない」

「はっ…貴様は陛下の忠実な犬という訳か」

「そういう貴様は、陛下に何かよからぬ事を企てているのではあるまいな?」

「まさか…私もそこまで馬鹿ではない。「神聖ローマ」は最強だ。だが、私は陛下の御判断が納得いかないだけだ。長が戦場に出るとは…正気の沙汰じゃない」


 アルダールはルミナスを裏切る気はさらさらない。

 アルダールはあくまで、ルミナスの今の判断に難色を示しているだけであり、ルミナス自身の力は認めているのだ。

 アルダールが不服なのはどちらかというとローグヴェルトがルミナスに何も言わずにいる事である。


「陛下には陛下の御考えがある。彼女の頭脳は貴様が一目を置くほどだろう?」

「………」


 アルダールは黙り込んだ。アルダールは「神聖ローマ」の参謀役である。

 彼は「神聖ローマ」で最も多くの知識を持ち、「智神」という異名で呼ばれている。

 その彼ですら、ルミナスの頭脳には注目していた。


「なら、こうしよう。もし、陛下に何かあれば、俺は騎士団長を降り、君に全権を与えよう。それでどうだ?」

「な!?」


 ローグヴェルトがそう言うとアルダールは驚愕の表情をした。ローグヴェルトはルミナスに何かあれば、自身の権利をアルダールに与えるというのだ。そこまで、ルミナスの事を信用しているというのか…


「いいだろう…正直、私は騎士団長に興味は無いが乗ってやろう。なら、その賭け、貴様が勝ったら…」

「ああ、それはいい。俺は貴様から何かを取ろうという気は無い。それに…勝ちの決まっている賭けほどつまらないものはないだろう?」


 アルダールが言葉を言い切る前にローグヴェルトは断言した。ルミナスは何事もなく、この戦いに勝つという事を…


「面白い…見せてもらおうか…」

「ああ、期待していてくれ」


 アルダールが忌々し気にローグヴェルトを見るとローグヴェルトは一言だけ残し、アルダールをから去って行こうとした。


「陛下の事を余程信頼しているようだな。やはり、「生き返らせてもらった事」に対して御恩があるのか…」

「!?」


 アルダールの言葉にローグヴェルトは驚愕の表情をした。


「ふ…その顔が見れただけでも良しとするか」

「貴様…何故その事を知っている?貴様の【天使エンゲリアス】の力か?」

「どうかな?」


 アルダールはそのままローグヴェルトの元を去って行った。


「まさか…アルダールがここまで調べていたとはな…まぁ、奴の力を考えれば当然…か…全く…大した奴だ…」


 ローグヴェルトはすぐに冷静さを取り戻した。

 ローグヴェルトはアルダールの情報網を素直に称賛した。

 彼は知識欲の塊のような男であり、さらに、多くの知識を持っている故、あらゆる事を懐疑的にとらえる節がある。

 どうやら相当、アルダールはルミナスに対して懐疑的だったのだろう。


「ああいう者も時としては必要になる時もある」


 ローグヴェルトはそう言った。

 因みに彼は今の『セラフィム騎士団』の中で最も年齢が若い。まだ、二十歳もいっていないのだ。

 他の騎士団員にもローグヴェルトと同世代の者は何人かいるが、アルダールは年齢自体は100を超えている。

 アルダールがローグヴェルトに対して対等に接していたのはそのような理由がある。

 因みに、騎士団員内でローグヴェルトに敬語を使う者はいなかったりする。

 ローグヴェルトはそれに対しては特に気にしていない様子である。というより、騎士団内は全員立場が対等な為、団員同士で話す時は基本的に敬語は使わない。

 彼にとってそんな事はどうでもいいのだ。

 ただ、騎士団が上手く動いていればそれでいい。実際、ローグヴェルトはアルダールの手腕を買っており、作戦立案は基本的に彼に任せている事が多い。

 ローグヴェルトは基本的には動かない。いや、動く必要が無いのだ。

 ローグヴェルトはそのまま歩いてどこかに行った。











「さて、今日皆に集まってもらった事…感謝する」


 ジェジェはそう言った。ジェジェは自身の隠れ家の円卓に腰かけていた。彼以外に三人の人影があった。


「ローマカイザーを消す為であれば、どこにでも駆けつける」


 黒色の髪と隻眼が特徴の男性がそう言った。彼はノヴェルト・デルル。二百年以上生きる天使だ。

 彼はかつて、「神聖ローマ」の奴隷として生きていた。それが理由でローマに恨みを抱いている。

 彼はどうにかして「神聖ローマ」から逃亡したのだ。そこから組織、『ギシン』を結成し、今に至る。

 二百年前のローマカイザーは≪聖選出アウスヴェレン≫と呼ばれる儀式をしていた。

 不要と判断された魔族や人間を奴隷として扱う、それが、≪聖選出アウスヴェレン≫だ。ノヴェルトはその被害者の一人だ。


「それで?何時、奴らは攻め込んでくるの?」


 銀髪ロングと赤い瞳が特徴の女性がジェジェに尋ねてきた。

 彼女はクラッカー・アルサー。真祖クラスの実力を持つ上位吸血鬼であり、『ミネルヴァ』の統率者である。

 彼女は戦闘狂として有名であり、戦いの為にこのような争いを続けており、戦う事のみが目的なのである。

 他の三人と違い、何かの目的がある訳ではなく、ただひたすら暴れたいだけなのだ。

 彼女は速く戦いたくてうずうずしているのだ。


「明日だ。なので、手短に済ませるぞ」


 ジェジェは淡々と答えた。


「この戦いで全てが決まるのか?」


 褐色の肌と白い髪が特徴の男性がそう言った。

 彼はジェリー・トムソン。『エギル』のリーダーである。彼もまた、≪聖選出アウスヴェレン≫の被害者であり、「神聖ローマ」というより、ローマカイザーに恨みを抱いている。

 他の三人より、落ち着いた雰囲気を持っており、穏やかな気質である。


「ああ、恐らくな。この戦いでローマ内の内乱の決着が着くと俺は思っている」


 ジェジェはそう断言した。

 この戦いは双方にとって大きな意味を持っていた。まさに聖戦と呼ぶに相応しいだろう。


「我々四つの反乱軍が一つとなり、「神聖ローマ」を…いや、ローマカイザーを根絶やしにし、我らで新しい国を創ろう…それが、我が願いだ!」


 ジェジェがそう言うと他の三人はコクリと頷いた。戦いの火蓋は落とされようとしていた。














 聖戦の時はやって来た。


「さてと…私は本陣に攻め込むわ。行くわよ、ローグヴェルト」

「畏まりました」


 ルミナスはそう言うとローグヴェルトと共に走り出した。二人は敵のアジトに向かっていた。

 アジトの場所はアルダールによって把握済みであった。そこに向かえば…

 こちらは反乱軍のアジトにミルフィーユとの軍隊を向かわせていた。

 要はエクレア、ミルフィーユ、ルミナスたちは攻めの部隊。フランとアルダールは『天使城セラフィムヴァール』を守る部隊である。

 ルミナスとローグヴェルトはそのままアジトに接近した。しかし、行く手を阻む者が早速現れた。


「ここは通行止めよ」


 やって来たのはクラッカー・アルサーだった。銀髪ロングと赤い瞳が特徴であった。


「ルミナス様はお先に」

「ええ、五分後に来て頂戴」


 ルミナスはそのまま去って行った。


「待ちなさい!」


 クラッカーはルミナスを追おうとするとローグヴェルトがそれを止めた。


「待て、ここは通さん。なに…すぐに終わる…」

「舐められたものね…私が何者か分からないわけ?」

「いや、知っているよ…よぉくな」


 ローグヴェルトはクラッカーを睨みつけた。


「何?そんなに睨んじゃって…てか、あなた何者よ…「神聖ローマ」にあなたの様な人がいたなんて知らないけど?」

「ああ、俺は『セラフィム騎士団』団長、ローグヴェルト・マクガヴェインだ。最近、団長になったばかりでね」

「何ですって?フランが団長じゃない?どういう事よ!?」


 クラッカーが叫ぶとローグヴェルトは姿を消した。いつの間にかクラッカーの後ろに回っていた。


「は!」


 ローグヴェルトは肩にある剣を取り出し、クラッカーに振り上げた。虹色の刃を持つ剣であった。

 クラッカーは攻撃を躱した。クラッカーは魔獣をを呼び出した。獅子の姿をしていた。

 クラッカーは魔獣を呼び出す能力がある。魔獣がローグヴェルトに攻撃を仕掛ける。しかし-


「終わりだ」


 ローグヴェルトは一撃でクラッカーが呼び出した魔獣を切り倒した。


「な!?」


 クラッカーが距離を取ろうとしたが、すでに目の前にローグヴェルトがいた。

 そして、ローグヴェルトはクラッカーの身体を切り伏せた。


「がっ…」


 たった一撃でクラッカーは倒れてしまった。

 クラッカーは大きな四つの反乱軍の組織の一つ、『ミネルヴァ』を収めている。弱い筈がない。

 だが、ローグヴェルトは一撃で、しかも、【第一解放アインスエンゲル】を使わずに勝利を収めた。


「……」


 ローグヴェルトはそのままルミナスを追っていった。











「さてっと…ここかな~?」


 ミルフィーユはそう呟いた。

 アルダールが作戦の指揮をしており、ミルフィーユの軍隊は現在、森にいた。

 「神聖ローマ」の森はかなり広大であり、それだけで敵を侵入を妨げる事が出来る。

 ミルフィーユは天真爛漫な性格であり、『セラフィム騎士団』の中でも子供っぽい性格をしている。また、戦闘狂でもある。

 故に細かい事も苦手である。この森は視界が非常に悪く、ミルフィーユは煩わしく思った。


「う~ん…この森は視界が悪いな~。この森を吹き飛ばそう」

「お止めください!ここの森を破壊するなど…」


 ミルフィーユが腰に下げていたサーベル刀を出すと、部下の一人がそれを止めた。


「え~、でもここに敵がいるとなると、ちょっと面倒だよ?ここは敵陣なわけだし…向こうの方が地形を利用できるよ?確かにこの森は侵入を防ぐのに最適な場所だから残しておいた方が後々便利なんだろうけどその前にやられたらお終いだよ?」


 ミルフィーユがいう事は尤もであった。森を残しておくのは後々、この森は役に立つ。

 しかし、この森は敵陣、敵の領域なのだ。壊した方が手っ取り早くはあった。


「しかし…」

「この部隊の大将は私だよ?私の命令は絶対!分かった?」


 ミルフィーユがそう言うと部下たちは根負けし、首を縦に振った。


「さぁて、行くよ!【風騎士皇ラファエル】!」


 ミルフィーユは自身の【天使エンゲリアス】を解放した。サーベル刀から風が発生した。

 【風騎士皇ラファエル】は風の【天使エンゲリアス】であり、そらをも操る事が出来る。


「【風聖剣ヴイント・デーゲン】!」


 ミルフィーユは自身の身体を回転させた。

 するとミルフィーユの周囲からとてつもない風が発生し、辺りの木々どころか森そのものを吹き飛ばしただけでなく、周囲の部下まで吹き飛ばしてしまった。


「「「「「「うああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」」」


 辺りは完全に野原のみになっており、森だった頃の面影はなかった。


「あらら…やりすぎちった…まぁ、いっか」


 ミルフィーユは呑気そうにそう言った。そもそも、部下など必要なかった。

 ミルフィーユは単独行動をした方が力を発揮しやすいタイプなのだ。


「く…」


 黒髪と隻眼が特徴の男が吹き飛ばされた木々から姿を現した。ノヴェルトだ。

 彼は森に潜み、攻撃を行なおうとしたところ、ミルフィーユの【天使エンゲリアス】により、森ごと吹き飛ばされてしまったのだ。

 彼は森の地形を利用した戦い方が得意なのだが、それを完全に封殺されてしまった。


「あっ…いた」


 ミルフィーユは呑気そうにそう言った。実際、彼女はかなり落ち着いていた。


「たった一撃で森を破壊するとは…ふざけた力だ…」


 ノヴェルトはそう言った。この森は半径50キロ程あり、ミルフィーユはそれを一撃で吹き飛ばしたのだ。


「どうする?降参する?『ギシン』の親玉さん?」


 ミルフィーユは余裕の表情でそう言った。


「…ただの脳筋だと思っていたが…俺の事知ってやがるのか?」

「当然、敵の把握をするのも重要だしね。あなたが地形を利用した戦法が得意なのも知ってるんだよん♪」


 ミルフィーユは軽いノリでそう言った。彼女は相手の得意戦術を把握した上で森を破壊したのだ。

 …まぁ、彼女の場合、面倒臭いから、という理由で森を壊した可能性も無くはないが…


「く…【座天主キュリオス】!」


 ノヴェルトはコンバットナイフを出した。彼の【天使エンゲリアス】だ。

 気配を消し、ミルフィーユに攻撃を仕掛けようとするが…


「無・駄♪」


 ミルフィーユがサーベル刀をあらゆる方向に振り回した。

 すると、無数の風がミルフィーユの周囲に発生し、空や大地を裂いた。

 ノヴェルトはその風の嵐を躱しきれるはずもなく、全身を切り刻まれた。


「がは…」


 ノヴェルトはそのまま白目を向けて倒れた。


「ふぅ~、制圧完了っと。どうやらお仲間も森を破壊した時に巻き込まれてたみたいね~」


 ミルフィーユがそう呟いた。

 そう、ノヴェルトは部下たちを森に忍び込ませていたがそれが仇となり、ミルフィーユの【天使エンゲリアス】にやられてしまっていた。


「これなら私一人でもよかったじゃん…」


 ミルフィーユはたった一人で反勢力組織の一つを潰した。

 しかも、全く本気を出さずに…彼女は【第一解放アインスエンゲル】を使っただけだ。

 【第二解放エンゲルアルビオン】を使っていない。『セラフィム騎士団』は全員が【第二解放エンゲルアルビオン】を使用できる。


「アルダール?こっちの制圧は完了したわ」


 ミルフィーユは襟につけていた無線を使い、アルダールに通信をした。








 アルダールは『天使城セラフィム・ヴァール』の指令室で指示を出していた。

 そして、先ほど、ミルフィーユから『ギシン』を完全に制圧したとの連絡が入った。

 アルダールの思惑通りに事が進んでいる。ローグヴェルトからも『ミネルヴァ』の親玉を倒したと連絡が入っていた。


「…予定通りだ。さて、ここからどうする?ジェジェ?」


 アルダールはそう呟いた。アルダールは敵の情報を完全に掌握していた。

 ジェジェがこの戦争の主犯格である事も気が付いていた。

 アルダールはあらゆる情報に詳しく、情報戦において彼の右に出る者はいないだろう。

 アルダールからすれば今回の戦争などどうでもよかった。

 何故なら、この戦いは必ずこちらが勝つ事を確信しているからだ。

 今のところアルダールの予定通りに進んでいる。勝つのは時間の問題であった。

 それよりもアルダールが気になっていたのは、ルミナスである。

 彼女は何を考えているかさっぱり分からない。

 アルダールですらルミナスの考えが読めなかった。彼女の狙いが読めない。

 何故、今なのか?彼女は何故、このタイミングで何故、反乱軍の鎮圧を試みたのか?何故、ルミナスが前線に出たのか?アルダールはそれが疑問で仕方なかった。

 ルミナスは内乱については基本的に自身から動かず、傍観するだけであった。

 ルミナスは今まで、反乱軍を放逐していた。

 なのに何故、今になって、ましてや前線にでて内乱の鎮圧を開始したのか?

 これはアルダールの勘だが、彼女は今まで何らかの準備をしており、それが整った事により、何らかの計画を進めようとしているのではないかとアルダールは考えていた。

 しかし、アルダールにとってルミナスの目的には興味があるがそれを邪魔しようとは考えていなかった。

 何故なら、アルダールは「神聖ローマ」の人間であり、この国が世界で最強だと確信しているからだ。

 最強の軍事力、組織力、そして、自身を含め、多くの情報と知識をこの国は有していた。

 それにより、アルダールはこの国に絶対的な忠誠を誓っていた。

 アルダールはルミナスの先を見てみたいのだ。彼女はアルダールが唯一「読み取れない」人物だ。

 他の者たちは調べればいくらでも情報が手に入るが、彼女のみは調べても何も出てこない。

 まさに、アルダールにとってルミナスは未知の存在なのだ。そんなルミナスが恐ろしいという感情が最初はあった。

 しかし、アルダールはそんなルミナスの行く先を知りたくなったのだ。

 分からない事があれば知りたくなる、それがアルダールの性だった。アルダールは研究者気質の人物であるといえる。

 アルダールはルミナスがどのような世界を創るか…それが知りたいのだ。


「アルダール様、『ギシン』、『ミネルヴァ』は完全に制圧したとの事です。後は『エギル』と『オリヴィア』のみですが…『エギル』と『オリヴィア』の部隊がここに向かっております」

「そうか…分かった…『ギシン』はエクレアが何とかするだろう…『オリヴィア』の軍隊は我々で対処するか…ジェジェはどうやらここには向かっていないらしいからな」


 アルダールがそう言った。まぁ、総大将が無暗に前線に出るわけがない、普通の事だ。ルミナスがおかしいのだ。


「アルダール、どうする?『エギル』と『オリヴィア』の部隊が向かってきてるわ」


 フランが指令室に入って来た。アルダールに指示を仰ぎに来たのだろう。


「一々ここに来なくていいだろう…何のための無線だ!」

「私は直接指示を仰がないと落ち着かないたちなの。で?どうするのよ?」

「お前が戦え」

「分かったわ。で?何でエクレアは『エギル』を止められなかったの?『エギル』までここに向かってるみたいだけど?」

「ああ、エクレアはのんびり屋だからな。大方、放置したんだろう」

「大丈夫なの?」

「問題ない。あいつも馬鹿じゃない。すぐにこっちに向かうさ」

 アルダールはそう言った。

「分かったわ」


 そう言ってフランは指令室を出ていった。










「あ、またやっちゃったわ。はぁ~、アルダールに怒られちゃうかな?」


 エクレアがそう呟いた。彼女がいるの場所は高原であった。『エギル』の部隊がここから侵攻するとの事だったので、ここに来たが、来るのが遅すぎてすでにもぬけの殻だった。

 エクレアは遊撃の役割も担っていた為、今回は部下を引き連れていない。

 取り敢えずこのままではまずいと思ったのか、エクレアは無線機でアルダールに連絡を取った。


「もしも~し、アルダール?敵がいないわ。どうすればいい?」

『ああ、お前がのんびりしすぎたせいですでに『エギル』は城に向かっている。速く戻って来い!!』

「あっ、やっぱりそうなのね、じゃあ、すぐに行くわ」

『速くしろ!』


 エクレアは無線を切るとすぐさま走って行った。『天使城セラフィムヴァール』に向かっていったのだ。


-はぁ…戦うの嫌。私に安寧をください。


 エクレアは戦いが好きではなかった。戦争が嫌いだった。

 何故なら戦争は得る物より失う物の方がはるかに多いからだ。エクレアは300年間生きてきたが戦争ほど、悲しく、惨いものはないと感じていた。

 エクレアが『セラフィム騎士団』に入ったのは10年前…それまでは平穏に暮らすようにしていた。

 『第三次世界大戦』も戦争には参加せず、貧しい人々に援助をしていた。

 エクレアはそんな時、ルミナスと出会った。当時のルミナスは幼い子どもであった。

 エクレアはルミナスを始めて会った時、底知れないモノを感じた。あの時の事は未だに覚えている。

 そして、エクレアの感じた感覚はある意味正しかったのかもしれない。

 ルミナスはローマカイザーの歴代最強の皇帝と言われており、歴代最年少で皇帝になっており、さらに今、内乱を収めようとしている。


「さて、本当の平和は訪れるのでしょうか?」


 エクレアはそう呟いた。ルミナスは平和へと導いてくれる…そんな気がした。









「城はすぐそこだ」


 ジェリーは城のすぐ近くに来ていた。『エギル』だけでなく、『オリヴィア』の部隊も率いていた。

 このまま城に潜入し、叩き潰すのがジェリーたちの算段であった。


「全軍、突撃!!」


 ジェリーがそう言うと城に大量の軍隊が攻めてきた。城の前に立っていたのはフランであった。


「来たか…」


 フランはそう言って腰に下げている剣を取り出した。そしてその剣を振り上げた。

 すると、大地が裂け、敵があっという間に吹き飛ばされた。

 しかし、今の一撃だけで全ての敵を倒せるわけもなく、フランを突っ切って城に攻め込む者もいた。

 その時、空から何者かが降って来た。


「ふぅ~、間に合ったわね」


 やって来たのはエクレアだった。


「遅い!」

「ごめんなさい、ぼ~っとしててね~」

「いや、ぼ~っとしてるっていう領域超えてるわよ!馬鹿なの?あなたは?」


 フランは呆れた様子であったがエクレアはあまり気にしていなかった。


「じゃあ、私は『エギル』の頭を叩きに行くわね」


 エクレアはそう言って高速で走り去っていった。


「……全く…何を考えてるんだか…」


 フランは再び、戦闘態勢に入った。残りの敵も一瞬で蹴散らし、一人として城内に潜入する事は叶わなかった。


「ここまで手応えが無いと拍子抜けね…敵さんは一体何を…」


 フランは突然空を見上げた。すると、謎の魔方陣が描かれていた。


「何よ…あれは…」










「空に謎の魔方陣?」


 指令室にいたアルダールはフランから情報を聞いていた。

 そして、映像を映し出し、その魔方陣をアルダールは見た。


「これは…エーテルグラジオンか!?」


 エーテルグラジオンとは人工衛星サテライト・スクエアから放たれる超時空砲弾の事だ。

 一撃で一国を消せるほどの破壊力を誇る最高クラスの魔法だ。


「ジェジェの奴…こんなものまで用意していたとは…しかし…こんなものが発動すれば、敵味方関係なくお陀仏だ…他の者たちはこの事を知っていたのか…?」


 アルダールは考えたがすぐに結論に至った。知られている筈がない。

 ジェジェは自分一人だけで「神聖ローマ」を支配するつもりでいたのだ。要は他の者たちは捨て駒である。


「ふ…ここまで来ると敵には同情するよ…所詮は下賤な反乱軍か…」


 アルダールは吐き捨てるようにそう言った。

 しかし、エーテルグラジオンは一人の魔力で扱えるような代物ではない。

 だが、ジェジェは何らかの方法でエーテルグラジオンを生成している。発動するまでに恐らくあと一時間ほどだ。


「それまでにジェジェを叩かなければ負け…か…」


 アルダールはそう呟いた。あれほどの濃密な魔力を伴った魔方陣だ。

 直接破壊するのは不可能だ。無駄な犠牲を出すのは得策とは言えなかった。


「フラン、あの魔方陣は恐らく破壊不可能だ。無駄な犠牲は出したくない、そのまま待機だ。指示が出るまで待て」

『どう対処するつもり?』

「この魔方陣を出しているのは敵の親玉だ。ローグヴェルトと陛下が敵の親玉を叩きに行っている。彼らに任せる』

『……分かったわ』


 アルダールはフランにそう言うと次はローグヴェルトとルミナスに連絡を取り始めた。


「聞こえるか?ローグヴェルト」


 アルダールはローグヴェルトに通信を入れた。


『何だ?』

「まずい事になった。あと一時間でエーテルグラジオンが発動する」

『エーテルグラジオンだと!?』


 どうやら、ローグヴェルトはエーテルグラジオンの事を知っていたらしい。


「ああ、強力な魔方陣だ。恐らく、敵は相当な下準備をしてきる。こちらからの破壊は不可能だ。早急にジェジェを叩け」

『…了解した』


 ローグヴェルトからの通信が切れた。


「さて、時間との勝負か…まぁ、これくらいやってもらわないと面白くない…」


 アルダールは真顔でそう呟いた。











「成程…事は一刻も争う…という訳ね」


 ルミナスはローグヴェルトにエーテルグラジオンの事を聞いた。

 だが、余り焦っている様子はなかった。ローグヴェルトでさえ、少し動揺したというのに。


「ええ、急がないと」

「そうね、まぁ、敵のアジトももうすぐだし、問題無いわ」


 ルミナスはローグヴェルトは敵のアジトのすぐそこまでたどり着いでいた。

 ここまで何人か敵に遭遇したが特に手こずることは無かった。


「さて、着いたわね。っと…かなり守りが固いわね。まぁ、当然といえば当然ね…」


 ルミナスは落ち着いた様子でそう言った。


「ローグヴェルト、頼める?」

「御意」


 ローグヴェルトは敵のアジトに堂々と向かっていった。そして、敵を次々となぎ倒していった。

 その隙にルミナスはアジトの中に入って行った。















 ルミナスはアジトの中に入って行った。

 中は蝋燭が少しついている程度で辺りが暗かった。

 さらに迷路のように内部は入り組んでおり、中々迷いやすい地形をしている。

 ルミナスの力があれば、このアジトごと吹き飛ばせるが、それはあまり得策とは言えなかった。


「なら…せっかくだし、ちょっとした細工をしておきましょうか」


 ルミナスはそう言いながら壁に触れた。そして、そのまま進んでいった。








「…ルミナス…まさか、大将が単独で攻め込んでくるとはな…愚かにも程がある」


 ジェジェはそう呟いた。ジェジェはアジトの中を随時把握していた。ルミナスが着々と近づいているのが分かった。


「まぁ、関係ないがな。後一時間で全てが終わる。ルミナスがここに来ようが来まいが結果は変わらん」


 ジェジェはそう呟いた。ジェジェの後ろには黒い大きな箱があった。

 この箱の中身にはジェジェが今まで殺してきた者たちの死体が溜まっている。

 この死体の魔力によってエーテルグラジオンを生成していたのだ。

 ジェジェはこの為に殺した者の死体を回収していたのだ。人間、魔族、多くの者たちをジェジェは殺してきた。自身が世界の王となる為に。


「俺は…俺が王となる世界を創る。それ以外の者は邪魔でしかない。全て壊してやろう」


 ジェジェは自分が王になれれば後はどうでもよかった。

 彼は元かれ敵味方問わず、皆殺しにする予定であったのだ。彼を天使と言って誰が信じるだろう…

 ジェジェはローマカイザーが台頭する前まではまごうごとなき支配者であった。

 だが、ローマカイザーにより、全てを奪われた。ジェジェはそれが我慢ならなかった。

 彼は「神聖ローマ」を支配した後は世界すらも支配する事も考えている。

 そう、支配する事こそがジェジェの生きる意味であった。


「ルミナス…せっかく来てくれたんだ…貴様は私の手で始末してやる、速く来い、尤も間に合えば…だが」


 ジェジェはルミナスを叩き潰そうとは考えていたが、わざわざ自分から出向くような真似はしない。

 そんな事をするより、エーテルグラジオンが発動するのを待った方がジェジェにとっては都合がいいからだ。

 ジェジェはルミナスの事をある程度は知っていた。歴代最強の皇帝と言われている事も…だからこそ、慎重に動かなければならないとジェジェは感じていた。

 戦況が自身にとって有利な状況ほど、冷静にならなければならないという事をジェジェは理解していた。

 自身の感情に任せて行動する事は戦争においては致命的な事である。

 臆病な者ほど戦争では生き残る…とはよく言ったものである。まさしくその通りなのだから。

 戦争は終わりに近づいている。だが、関係ない。

 全て捨て駒なのだから。エーテルグラジオンが発動すればジェジェの勝ち、しなければ負けだ。

 だが、関係ない。エーテルグラジオンの発動が止まることは無い。例え、ジェジェを殺したとしても。

 エーテルグラジオンを発動させているのはジェジェだが、動力源はジェジェが殺した死体たちだ。

 これらをどうにかしなければどうしようもないのだ。

 しかも、死体が保管されている箱は特殊な作りになっており、あらゆる攻撃を無効化してしまう。

 エーテルグラジオンの発動を止めるのは不可能だ。


「私の勝ちは最初から決まっていた…ふふふ…」


 ジェジェは嗤い出した。発動までの時間は後、五分足らずであった。勝利まで、後五分だ。

 ジェジェがそう確信したその時、扉が壊れる音がした。

 ジェジェの前にやって来たのは、純白の衣装に純白の長い髪、黒い瞳を持った少女であった。

 そう、ルミナス・アークキエル・ローマカイザーだ。


「来たか…ルミナス」

「ええ、来てやったわ、殺人鬼さん」


 ルミナスは余裕の表情でそう答えた。


「殺人鬼…とは人聞きが悪いな」

「事実でしょう?その箱の中に大量の死体があるでしょう?」

「ああ、エーテルグラジオンを発動する為の動力源としてな」

「趣味が悪いわね」


 ルミナスは呆れたようにそう言った。ジェジェも余裕の表情を崩さなかった。


「エーテルグラジオンを発動まで後三分だ。どうするつもりだ?」

「三分か…それだけあれば十分か…ねぇ?あなたは何が目的なの?自分一人だけ王になって何がしたいの?」


 ルミナスはそうジェジェに尋ねた。ルミナスはジェジェがここまですることに少し興味があったのだ。


「それを聞いてどうする?死ぬというのに」

「単純に興味があるのよ、いいでしょう?別に、減るものじゃないし」


 ルミナスが言うとジェジェは語りだした。


「まぁ、いいだろう。俺は王になりたいのさ。かつてこの国を支配していたあの頃のようにな。勝利して支配する、それが俺の思想だ。シンプルだろ?俺が今まで持ち続けている唯一の思想だ。いや、全ての生物がそうなのだろうな。俺たちは喰らい合うように出来てる。殺し合うように出来てるんだよ…俺はその生物の欲求に忠実に従っているだけだ」

「要は、本能の赴くままに生きてる…という事ね」

「ああ、そうだ…」

「それって、虚しくないかしら?」

「何だと?」

「本能に赴くままに生きるだけ…それって自分が何もないって事の証明じゃないかしら?」


 ルミナスはそう吐き捨てた。

 そう、ルミナスが言った事はある意味、ジェジェの核心を突いた言葉だった。

 ジェジェは誰かを支配する事でしか自身の存在価値を見出せなかった。


「ふ…そうかもしれないな」


 ジェジェは若干、感情を押し殺したようにそう言った。ルミナスの言葉にジェジェは少し動揺していたのだ。


「なら、貴様は何を望む?貴様の狙いは何だ!?」


 ジェジェはルミナスに訴えかけるようにそう尋ねてきた。


「私はたった一つの願いの為に動いているわ。たった一つの願いの為にね…その為に私は手始めに「神聖ローマ」を統一するわ。そしてゆくゆくはこの世界を一つにする。その先に…私の願いがあるわ」


 ジェジェはルミナスの突拍子の無い言葉にあまり動揺しなかった。


「貴様も支配しようとしているではないか!俺と何一つ変わらん!」

「いいえ、違うわ。あなたのはただの自己陶酔に浸ってるだけでしょう?私は願いを叶えたいのよ。その為に全てを一つにする!そこに答えはある!あなたはただの独りよがりな哀れな王よ!」

「…そうか……だが、残念だな。お前はその一人よがりな王に殺されるのだ。エーテルグラジオンを発動まであと三十秒だ!」


 箱に書かれている魔方陣が光り輝いていた。

 そして、『天使城セラフィムヴァール』の上空にある魔方陣も光り輝いていた。


「いいえ、発動はしないわ」


 ルミナスはそう言って腰につけていた剣を取り出した。

 すると、剣が伸び、ルミナスより頭一つ大きくなった。

 ルミナスの【天使エンゲリアス】は伸縮自在の剣なのだ。そして、ルミナスは剣を地面に突き立てた。


「【無絶結界アピロ・ディアウス】」


 ルミナスの周囲に結界の様なものが張られた。すると、黒箱の魔方陣が消滅した。















「魔方陣が…消えていく」


 アルダールがそう呟いた。エーテルグラジオンの魔方陣が突然消滅したのだ。


「どうやら、陛下がやったみたいね」


 アルダールの後ろにはフランの姿があった。


「フラン…」

「ああ、敵は全滅させたわ。だからそんなに怒らないでね」

「…そうか………戦いはもう、終わるだろうな」

「そうね…本当にルミナス陛下が「神聖ローマ」を統一するのかしら?」

「さぁな、俺にも分からん。さっさと立ち去れ」


 アルダールはフランに対して辛辣な言葉を言い放った。フランは黙って指令室から立ち去った。














「どういう事だ!?何故、エーテルグラジオンが発動しない!?」


 ジェジェはかなり動揺していた。今頃、全てが吹き飛んでいる筈なのだ。

 だが、エーテルグラジオンは作動していなかった。


「【無絶結界アピロ・ディアウス】、魔法名くらい知ってるでしょう?」

「な!?」

 ジェジェはルミナスの発言に驚きの表情を浮かべていた。

 【無絶結界アピロ・ディアウス】とは古代魔法の一つであり、太古の者たちが研究していた術だ。

 結界内にいる者の魔法、霊術、一切を封じる禁術だ。

 しかし、この術を使えた者は今まで一人としていなかった。

 何故なら、この結界は使用すれば結界内にいる者全員、つまり、自分自身も魔法や霊術が使えなくなるのと、そもそも、結界を作る為の演算と情報量が膨大の為、そもそも、結界を作る事すら出来た者がいない。

 しかし、ルミナスは類稀なる神力と情報の演算能力、及び処理能力を有していた、それによりこの結界を完成させることに成功している。


「【絶縁結界アピロ・ディアウス】…そんなものを完成させていたとは…」

「とは言っても試したことが無くて、ぶっつけ本番だったけどね。成功してなかったら皆まとめておじゃんだったわ」


 ルミナスはやれやれといった感じでそう言った。ジェジェは驚愕の表情をした。


「私の計画が…こんな簡単に…」

「どうする?降参する?」


 ルミナスがジェジェに尋ねてきた。先ほど、ルミナスはここに来るまでに魔方陣を描いていた。

 【無絶結界アピロ・ディアウス】は四か所の魔方陣のブースターを取り付けてやっと発動する。

 かなり手間のかかる結界なのだ。さらに、ジェジェに気付かれないように魔方陣に透化の魔法も使用していた。


「降参?笑わせるな!私はこの程度で屈したりはしない!確かに【天使エンゲリアス】はこの結界のせいで使用できないが…それは貴様も同じこと!なら、力で貴様を倒してくれる!」


 どうやら、ジェジェは【絶縁結界アピロ・ディアウス】の特性をある程度把握していたようだ。


「確かにこの結界内は私にも影響が出るわ。【天使エンゲリアス】はもちろん私も使えないわ。でも、それでもあなたは私には勝てないわ」

「何だと?」


 ルミナスは余裕の表情を全く崩さなかった。それに対し、ジェジェはかなり焦っていた。【無絶結界アピロ・ディアウス】によりエーテルグラジオンを無効化されるとは予想外だったのだろう。


「いいだろう…決着をつけよう」


 ジェジェがそう言うとルミナスはニヤリと嗤った。


「そうでなくてはね」


 ルミナスとジェジェは刃を交えた。














「さて、ここは片付いたか…」


 ローグヴェルトはアジトの前にいた。先ほどまで千を超える兵隊と戦っていたが、危なげなく全滅させていた。


「陛下は…【無絶結界アピロ・ディアウス】を使われたか。まぁ、あれを使わなければこの国は焼け野原になっていただろう」


 ローグヴェルトはルミナスの【無絶結界アピロ・ディアウス】については知っていたようだ。

 ローグヴェルトは騎士団長というだけあり、ルミナスの事も他の騎士団員より知っているようだ。

 前騎士団長であるフランでさえ、ルミナスの事は殆ど把握してはいない。

 ローグヴェルトとルミナスはそれほど特別な関係であるといえる。だが…

 ローグヴェルトもルミナスの望みまでは分からない。

 彼女が何故、ローグヴェルトを見出したのかもローグヴェルト自身分からなかった。

 一つ言えるのはルミナスは何らかの計画を実行しようとしている事は分かっていた。それが何なのかは分からないが…

 ローグヴェルトのやる事は一つである。

 ルミナスを守る事である。ローグヴェルトはルミナスに大きな借りを作っているのだ。

 ローグヴェルトは一度「死んでいる」。

 方法は分からないがルミナスは何らかの方法でローグヴェルトを生き返らせている。

 ローグヴェルトでも、ルミナスのすべてを知っている訳ではない。

 だが、ルミナスは何か「異質」な力があるようにローグヴェルトは思えたのだ。

 それが何なのかは分からない。だが、それはこの世界を揺るがす程の者であるという事は想像に難くなかった。


「ルミナス陛下…あなたは一体何者なんですか?」


 ローグヴェルトは独り言のようにそう言った。

 ルミナスはあのアルダールですら情報が読み取れない。それだけでも「異質」と言える。

 さらに、彼女の行動理念も謎である。

 ローグヴェルトはルミナスと共にしている事が多いがどうも彼女の意図が掴みづらい。

 しかし、彼女はあらゆる者たちを惹きつけるカリスマもあった。

 ルミナスは皇帝になるべくしてなったのだ。

 少なくともローグヴェルトはそのように思えた。

 彼女は未知の力がある、その力に惹かれた者がいる。ルダールはそれに分類される。

 さらに彼女は英雄的、預言者的資質も兼ね備えている。

 それに惹かれてルミナスを支持している者が大半なのである。

 ローグヴェルトもルミナスのこういった所に惹かれているといえる。

 彼女はこのままさらに高みに昇る事になるだろう。

 まぁ、ローグヴェルトにとって彼女が高みに昇る事などどうでもよい事なのだが。


「さて、俺はここで待つとするか…【無絶結界アピロ・ディアウス】が張られている以上、俺がアジトに入ったところで出来ることは無いしな」


 ローグヴェルトはそう言ってアジトの前でルミナスを待つことにした。








 To Be continued

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