【第三章】USW侵攻篇ⅩⅨーヴァルキリアー
「あれは…ラナエルとドラコニキル!?どうして…」
美浪はラナエルを発見した。
「ドラコニキルは知ってるけど…あの子は?ミンミンの知り合い?」
「蒼が助けた少女です。城に入る前に別れた筈なんですが…」
美浪と澪は蒼と合流する為、蒼の行方を追っていた。その途中でドラコニキルとラナエルに遭遇した。
「あ…蒼の友達…」
「ふー、久しいな…霧宮美浪、常守澪」
ラナエルとドラコニキルがそう言った。
「うん、久しぶり。なるべく戦いたくないんだけどなぁ…」
「慌てるな…今の俺はお前たちと戦う気はない。貴様等の仲間にやられたばかりだしな…」
澪がドラコニキルを警戒するとドラコニキルはそう言った。
「そっか、なら良かった。アオチーはどこに行ったの?」
「この先にある地下牢だ…そこに月影慧留は幽閉されているからな…」
「本当なんですね?」
「信じるか信じないかは貴様らの自由だ。時神蒼は俺の言葉を信じた様だが…」
「なら、そうなんだね」
澪は一人で納得した。
「行くんですか?」
「うん、行こう…とその前に君にいくつか聞きたいことがあるんだ。いいかな?」
澪がドラコニキルに尋ねるとドラコニキルは無言であった。
「君たちの親玉の目的は何だい?」
「カーシス様の目的は俺にも分からん。あの人は誰にも大事な事は話さない。そう言う人だ」
「そっか…ならこれ以上聞いてもしょうがないなぁ…行こうか!ミンミン!」
「分かりました」
澪と美浪はすぐに向かっていった。
「やれやれ…何かが起こる…そんな気がするね…」
ドラコニキルはそう呟いた。
クリフォトは蒼に突っ込んでいった。蒼はすぐに【第二解放】を発動した。
クリフォトは異常な魔力を発していた。
ドラコニキルやスープレイガとは比べ物にならない程のおぞましさであった。
「【ワルプルギスの夜】」
蒼の周囲には歯車が浮かんでいた。
さらに、蒼は黒い衣を身に纏っていた。瞳と髪も黒真珠のように両目とも黒くなっていた。
そして、背中に黒い双翼と頭の上にいびつな形をした輪っかがあった。
時間を操る力を持つ【黒時皇帝】の【第二解放】、【ワルプルギスの夜】だ。
「ふ…その程度では勝てないよ…」
クリフォトは刀を振り上げた。
「【時間停止】」
蒼は周囲の時間を止めた。クリフォトの身体は時間が止まった。
しかし、振り上げた衝撃波は時間が止まることなく、蒼の背中にある歯車を砕いた。
「何!?」
時間が再び動き出した。
「戦いは魔力と霊力のぶつけ合い。私の莫大な魔力で君の力を捩じ伏せてやろう」
クリフォトはそう言った。
そう、霊力や魔力を伴う戦いは霊力や魔力が高い者が有利に働くことが多い。
クリフォトはその圧倒的魔力で蒼の【時間停止】を強引に突破したのだ。
「…【アルカディアの氷菓】!」
蒼は【ワルプルギスの夜】を解除し、【氷水天皇】の【第二解放】である、【アルカディアの氷菓】を発動させた。
全身白い衣に覆われ、背中には水色の翼が生えていた。瞳はサファイアのように蒼く、美しい瞳であった。頭上には五芒星の形をした輪っかがあった。
「【聖水刃】!」
蒼は【聖水刃】を放った。
しかし、クリフォトはまたしても強引に切り裂き、突破した。
「無駄だよ…」
クリフォトは蒼に接近する。
-くそ…!駄目か…!
蒼はかなり焦っていた。
ここまで蒼の攻撃が全く通じないとなると流石に手を追えなかった。
-【このままでは駄目ね】-
蒼は声が聞こえてきた。すると、蒼は別の世界に引き込まれた。
「ここは?」
蒼は自身の精神世界にいた。
蒼の目の前に二人の人影があった。
【氷水天皇】と【黒時皇帝】だ。
「今のアンタじゃ、あの男には勝てないわ」
【黒時皇帝】がそう言った。
「じゃあ、どーすりゃあいいんだよ…」
「私たちの力を同時に使うのよ、今のあなたになら可能な筈…」
【氷水天皇】が蒼にそう告げた。
「同時に…ってどういう…」
蒼は言葉の意味が分からなかった。
「無駄話はここまでの様ね…後はあんたが何とかしなさい!」
【黒時皇帝】がそう言うと世界は白く染まった。
クリフォトは蒼に切りかかろうとしていた。
蒼はその一撃を何とか躱した。
「今のは…?」
蒼は自身の精神世界の出来事に若干困惑していた。
-あの二人が言ってた意味…もしかして…
蒼は何となく、あの二人が言っていた言葉の意味が分かった気がした。
「さて…どうする?トキガミアオ?」
蒼は右手に【氷水天皇】、左手に【黒時皇帝】を構えた。
「【第二解放】…」
蒼は【第二解放】を二刀同時に行った。
すると、霊圧の柱が蒼を包む。
今まで蒼はどちらかの【第二解放】しか使わなかった。
そもそも、複数の【天使】を所持するという話自体が例が無く、蒼だけだ。
【天使】を同時に【第二解放】をするというのも勿論普通ではありえない。
だが、蒼はそれを使った。
「ほう…これも…≪特異点≫だからこそなせる業…か…」
クリフォトは興味深そうに蒼を眺めていた。
やがて、蒼の姿が現れた。
右側が【氷水天皇】、左側が【黒時皇帝】の【第二解放】の特徴が見られた。
歪な【第二解放】であった。
纏っていた衣服と瞳は右側が白く、左側が黒かった。
翼も、右側は水色、左側は黒い翼であった。
髪の色は灰色になっていた。頭上にあった輪っかは消えていた。
「【メシア】」
蒼は二刀の刀をクリフォトに向けた。
「……素晴らしい力だ…!【天使】を複数扱うだけでなく…それら二つの力と一体化するとは…ははは…ここまでとは…正直……誤算だったな…だが、これではっきりした…その力を携えているという事は…君は我らの最大の障害だ…!ここで始末してくれる…」
クリフォトは蒼に接近した。
そして、クリフォトは蒼に切りかかった。
しかし、蒼は【氷水天皇】で一撃を防ぐ。やがて、クリフォトの刀が凍り付き、砕け散った。
「な…!?」
「【黒葬刃破】」
蒼は【黒時皇帝】を振り上げた。
すると、クリフォトのもう一刀の刀が砕け散った。
-バカな…この私が…こうもあっさり…やはり…
「ふ…やはり、あの女の弟……か……」
クリフォトは倒れた。だが、意識は失っていない。
蒼はクリフォトの前に近づいた。
【悪魔】を完全に破壊した。にも拘らず、彼の不気味な魔力は消えていなかった。
「どうなってる?」
蒼はそう呟いた。
「私は…『アンタレス』と契約を交わした事で不死になっている…殺す術はないのさ…」
クリフォトがそう呟いた。
「何でそこまでして…悪魔と契約したんだよ…」
「生きた意味…それを見つけたかった…ただそれだけだ…」
蒼がクリフォトに質問するとクリフォトはそのように答えた。
「生きた意味を見つけるまでは…私と『アンタレス』の契約は切れない。私の願いが叶うまで…私は死ねないのさ…」
「……」
蒼はそれ以上クリフォトに質問しなかった。
澪と美浪は『闇魔殿』本城に到着した。その頃、ちょうど、遥と屍もそこにいた。
「屍に遥さん…もう来てたんですか?」
「お前らがチンタラしてるからだ」
美浪が驚いた様子でいると屍がそう言った。
「マイマイは?」
「四宮先生は薊の治療に当たっているわ…てか、マイマイって…」
澪が尋ねると遥は呆れたように答えた。
「この先に時神と月影がいるんだよな?」
「多分ね…」
屍が聞くと遥がそう答えた。
今までいくつか宮殿があったがここはそれらとは比べ物にならない広さであった。
「巨大な霊力と魔力の衝突がこの城から感じたから多分間違いないよ」
澪がそう言った。
先ほど、とてつもない霊力と魔力の衝突を確認した。恐らく、蒼が戦っているのだろう。
「急ぐぞ…」
屍がそう言うと三人はコクリと頷いた。
クリフォトは「USW」を創った。
そして、アンタレスがクリフォトと自身の精神世界で対話をしていた。
クリフォトの精神世界はそれはもう、真っ白だった。
まるで何もない…空っぽの様だった。
「分かるぞ…貴様は国を創り出したというのに今を満足していない」
アンタレスがそう言った。まさにその通りであった。
「ああ、私は…まだ自身の生きた証が掴めない。私は…」
クリフォトは分からなくなっていた。
いや、最初から分かっていなかった。
だが、「USW」を創り出してから更に分からなくなった。
自身の生きる意味を…アンタレスはそれを見抜いていた。
「ふふ…私の願い…そう言えば言っていなかったな…」
アンタレスはそう言った。
「貴様は世界を征服する事だと言っていただろう…まだ何かあるのか?」
クリフォトは呆れたようにそう言った。
なんとも欲深き悪魔だとクリフォトは思った。
「結果的にはそうなる…だが、私の願いはそこではない」
アンタレスが語りだしたのはこの世界の始まりの事であった。
「はは…この世界は偽りという訳だ…」
クリフォトは嘲笑うかのようにそう呟いた。
アンタレスが言ったことが本当であればこの世界は偽りそのものだ。
だが、クリフォトは絶望したわけでも、悲しんでもいなかった。
「ふ…貴様は…おかしな男だ。この事を話した人間は皆、この世界を滅ぼそうとしたぞ?私はそうやって、人間たちをコントロールしてきた」
アンタレスは契約を交わした人間はクリフォトが初めてだが、それ以前から人間を利用していた。
人間の化け、知識を与えていた。人間だけでない。天使と神以外のあらゆる魔族を利用していた。知識を与えた。
そして、この世界を壊すよう促してきた。
すべて失敗に終わっているが…アンタレスのその姿はまるで、創世記に出てくるアダムとイブを誑かした『蛇』そのものだ。
「かもしれないな…俺はこの世界を滅ぼそうとも変えようとも思わない…俺は自身の生きる意味を見つけられればそれでいい」
「その思考すら「支配されてるとしても」?」
「ああ、そうだ。人の知識欲は誰かに押さえつけられるものでない」
アンタレスはニヤリと嗤った。
「やはり、あなたを選んで正解だったわ…」
クリフォトはこのまま、アンタレスと共に悠久の時を過ごすのだろうと思った。
悠久の時を過ごせるのならば自分は何が出来るのだろうか?
世界を旅する?
この世界の事を全て知る?
あらゆる生物と繋がる?
兵器や新しい道具の開発?
出来る事は山ほどある…クリフォトはぼんやりと考えた。
そして、思いついたことがある。
「なぁ…お前はこの世界を壊したいんだよな?」
「ええ…そうよ…」
「なら…『創ればいい』…この世界を滅ぼせる力を…私と君で…」
「創る?」
クリフォトの提案にアンタレスはやや困惑していた。
「その為にお前の知識を全てよこせ!俺がこの世界を壊す力を創り出す!」
クリフォトはそう言った。すると、アンタレスはクリフォトの考えを理解した。
すると彼女は今までに無いほどに嗤った。
「はははははははははははははははは!!面白い!!あなたは神にでもなるつもり?ふふふ…面白い…乗ってやろうじゃあない…あなたのその面白い計画に!いいでしょう!あなたに私の叡智を全て授けましょう!!」
アンタレスはクリフォトにあらゆる叡智を授けた。
それにより、「USW」は圧倒的な軍事力を手に入れた。
クリフォトは「USW」に『ヴァルキリア』を広めた。
「USW」の王の名だと。この者が「USW」に革命を起こすと。『ヴァルキリア』とはクリフォトが作った作り話だ。
そう、クリフォトがやろうとしていた事は…
しかし、クリフォトは失脚することとなった。
「USW」には『三賢人』と呼ばれる。
三人の神官が存在している。クリフォトが組織を形成して行く上で作り上げたものだ。
その神官の一人であったヘリオスが『三賢人』の一人、タルカスと手を組み、クリフォトに反旗を翻した。
それにより、クリフォトは表舞台から姿を消すことになった。
『三賢人』はクリフォトを殺害した。…と思っていた。
しかし、クリフォトはアンタレスとの契約により、不死の状態になっていた。死ぬはずもなかった。
しかし、クリフォトは歴史上から姿を消した。
そして、百年後…クリフォトはカーシス・ベルセルクと名乗り、ヘリオスとタルカスを殺害し、光明庁を創設。
そして、光明庁は権力が大きくなっていき、五代目総帥である、ナマ・ケモノの代には完全に権力を取り戻していた。
カーシスは悪魔と人の間に生まれた者だと偽っていた。
それにより、人間であり、権力を百年以上保持し続けかつ、他の者たちにも違和感を持たれずに過ごせた。
クリフォトは探し続けた。自身の目的を達成させるための器を。
その為、古代に造られた兵器を手に入れたりもした。
それが、かつて、クリフォトが慧留に見せたものだ。
クリフォトは見つけた。長い間探し続けた。
≪特異点≫を…今まで数世代に一人いるかいないか…≪特異点≫が現れるのはそんな確率であった。
クリフォトは慧留を見つけるまで数名≪特異点≫を見つけ出したが、クリフォトが望むような成果は出なかった。
しかし、慧留には…彼女にはクリフォトは可能性を感じていた。何故かは分からない…だが…そう感じたのだ…
「慧留はどこにいる?」
蒼は再びクリフォトに質問をした。
「いずれ戻ってくるさ…」
「?」
蒼はクリフォトの言葉の意味が分からなかった。
「どういう事だ?」
「そのまま…の…意味……さ………さぁ…仕上げの時間だ」
クリフォトはそう言って、意識を失った。
「アンタレス…」
クリフォトは自身の精神世界にいた。真っ黒な空間であった。
「あなたともお別れね…」
アンタレスが名残惜しそうにそう言った。
「そうか、なら…」
「ええ、成功したわ…あなたは…「神」を生み出せた。私は…その「神」の力となるわ。入れ物のあなたとはおさらばよ」
クリフォトがそう言うとアンタレスは皮肉を言いながらカーシスに経過を報告した。
「ふ…出来れば…最後まで見届けたかったな…」
クリフォトは悲しそうにそう言った。
自身が創りあげた「神」がどのような世界を創るのか…カーシスは見たかった。
そうすれば、クリフォトの長年抱き続けていた疑問の答えを示してくれると思ったからだ。
だが、それはもう叶わないようだ。
「ふふ…あなたでも、そんな悲しそうな顔をするのね…以外…初めて見たわ…あなたのそんな顔…三百年くらいの付き合いなのにね…」
アンタレスは笑いながらそう言った。
アンタレスは自身の黒い髪をなびかせた。
アンタレスの宝石のような黒い瞳が悲しそうな眼をしていた。
「おやおや?そういう君こそ珍しくないかい?破壊の限りを尽くし、誰かの不幸を誰よりも好む君が、そんな悲しそうな顔をするなんて…」
「ふふ…私も焼きが回っちゃったのかねぇ…あなたといた時間…悪くなかったわ…」
クリフォトがアンタレスに皮肉を言うとアンタレスが内に秘めていた想いを漏らした。
「そうか…なら、良かった…」
クリフォトは目を瞑り、そう言った。
「え?」
「君がそう思えたのなら、私と君が過ごした時間は…無駄ではなかった……私は……無意味な存在じゃ…なかった」
クリフォトは今までの事を走馬灯のように思い浮かべていた。アンタレスとの出会ったあの時から…本当の時間が動き出したのだとクリフォトは思った。
-嗚呼…これが死ぬ前の気分なのだろうか?
クリフォトはアンタレスを見ながらそう思った。
「ふ…悪魔は…一つの希望を売る代わりに億の絶望を与える存在…そう……思ってた。そう……あるべき…っ…なのに…」
アンタレスは涙ぐんでいた。
「あなたは…そんな私と出会って…本当に救われたっていうの?」
「ああ、私は君に多くの可能性を貰った。生きる意味をくれた。感謝してる。だから…今まで一度も行ったことが無かったけど…最後の時が来たら言おうと決めていたんだ…だから…最後に、君にこの言葉を贈るよ…」
クリフォトはアンタレスの眼を見て、言葉を贈った。
「ありがとう、私に生きる意味をくれて…ありがとう、私を選んでくれて…」
アンタレスは涙を零した。アンタレスは多くの人間を利用し、誑かし、騙し、嘲笑い、支配してきた。
感謝される事なんかない筈だ。クリフォトを選んだのも気まぐれで…クリフォトを自身の目的のために利用する為の駒とでしか当初は見ていなかった。
しかし、クリフォトはアンタレスが今まで利用して来た人間とはまるで違っていた。
共にする内にクリフォトを大切に思うようになっていた。共に戦いたいと思った。
「ふ…バカね…私は悪魔よ…人を騙して、利用して…っ……あなたに…感謝される事なんか無いのに…さい…しょはあなたを利用して…駒として…」
アンタレスは泣きながらそう言った。
「でも、今は違うだろう?現に…君は私の為に泣いてくれている…ふ…今の君は…とても悪魔には見えないね」
クリフォトは笑顔を作りながらそう言った。
「余計な……お世話…よ……」
アンタレスはそう言った。
「今の君は…悪魔というより、聖女の様だ」
クリフォトはそう思った。
彼女は黒い髪、瞳を持つにも拘らず、白い装束を身に纏っている。
それもあるのだろうとクリフォトは思った。
「……何で…あなたじゃないの?私は…あなたともっと一緒にいたい…!」
「君は…新たな王に引き継がれる。私の代わりに…『ヴァルキリア』の創る世界を私の代わりに見てくれ…」
アンタレスがクリフォトに自分の想いを伝えた。
しかし、クリフォトの意思は変わらなかった。そんなクリフォトを見て、アンタレスは納得するしかなかった。
「………お別れだ、こういう時、さよならを言うのだな」
クリフォトは満たされた心でそう言った。
……どこか、寂しそうでもあった。
「ええ、………さよなら、クリフォト」
「………さよなら…アンタレス…」
そうして、精神世界から、二人は消え去った。
「来る…」
クリフォトがそう言った。
自分の精神世界からクリフォトは戻って来た。
「?」
蒼がクリフォトの言葉の意味が分からなかった。
すると、祭壇から空間の穴が開いた。
「『黒門』!?」
そう、その空間は『黒門』であった。
「私とアンタレスが創りっておいた王の玉座…どのように使うかは…君次第だ…『ヴァルキリア』…」
「『ヴァルキリア』!?」
『ヴァルキリア』…一夜から少し話を聞いたことがある。
「USW」の王の名だと。
しかし、蒼だけでなく、生徒会一行はカーシス…つまり、クリフォトがその『ヴァルキリア』だと思っていた。
しかし、今のクリフォトの言葉通りだとクリフォトは『ヴァルキリア』ではない。
『黒門』から誰かが来る。その人物は…
「慧………留………?」
『黒門』からやって来たのは蒼たちが探していた。月影慧留だった。
「蒼……」
慧留は蒼の名を呼んだ。蒼は今の慧留を見て、絶句した。
見た目だけでなく、雰囲気も異なっていた。
服装はアンタレスの着ている軍服と酷似している黒を基調とした軍服、黒いスカートを着ていた。
雰囲気も変わっており、見た目はいつも通り、黒髪ロングの黒い釣り目をした少女であったが、いつもの気さくな雰囲気が消えていた。
目の前にいるのが本当に慧留なのか疑いたくなるレベルであった。
「……」
慧留は倒れてるクリフォトに目を向けた。
「お目覚めに気分はどうだい?『ヴァルキリア』」
「!!!!」
蒼はクリフォトの言葉を聞いた瞬間、驚いた。
-慧留が…『ヴァルキリア』!?
『ヴァルキリア』は……「戦女神」を意味する。
クリフォトが欲しがっていたのは王ではなく、女王だった。
慧留は腰に指していた剣を取り出した。そして、クリフォトの元に行った。
「ご苦労様、クリフォト。ゆっくり、お休み」
そう言って、慧留はクリフォトの首を切り裂いた。
「!?」
蒼は驚愕の表情を浮かべた。
「それでいい…エル・マクガウェイン…」
-私の求めていた答え…やっと、見つけられた気がする-
クリフォトはそのまま昇天した。
悪魔との契約が完全に切れ、クリフォトの身体は灰となって消え去った。
更にそこから魔力の塊が現れ、慧留を包み込む。
クリフォトから離れたアンタレスの全魔力が慧留に注がれていた。
悪魔との契約が切れ、この世に未練が完全になくなると昇天する場合がある。
「慧留……」
蒼は慧留の名を呼ぶ。すると、慧留は蒼の方に目を向けた。
「蒼…何しに来たの?」
「俺は…お前を助けに来た。帰ろう…」
蒼がそう言って慧留に手を伸ばす。
「私がいつ頼んだの?そんな事…」
慧留が蒼にそう吐き捨てた。
「え?」
蒼は慧留の言葉に驚いた。慧留の言葉の意味が分からなかった。
「天使が…」
慧留は蒼を睨みつけた。その眼は蒼に対する憎悪すら感じられた。
ここは「神聖ローマ」のとある宮殿。
そこにいた、ローグヴェルトは宮殿から夜空を見上げていた。ローグヴェルト・マクガウェイン。
「神聖ローマ」の最高戦力、『セラフィム騎士団』団長を務める若き使徒である。
中世風ローマ衣装を着ており、長い黒髪と水色の瞳が特徴の男性であった。
「エル…」
ローグヴェルトはそう呟いた。
「どうかしましたか?ローグヴェルト」
「陛下…」
ローグヴェルトはそう言った。
陛下と呼ばれているその人物は女性であった。
髪は透き通るくらいの白色であり、服装も白いドレスを着ていた。
しかし、圧倒的に白い彼女だが、瞳だけは黒色であった。
彼女の名はルミナス・アークキエル・ローマカイザー。
「神聖ローマ」の皇帝である。
しかし、皇帝陛下とは思えぬような上品さと気品に満ち溢れており、全体的に柔和な感じである。
「大きな堕天の気配があったので…」
ローグヴェルトはそう言った。
「堕天?珍しいわね…天使が堕天するなんて…早々起きない筈なのだけど…」
ルミナスはそう言った。
堕天とはその名の通り天使が悪魔の力に堕ちる事を意味する。
天使はこの世界をあるがままの姿を肯定する存在なのだ。
堕天は天使がこの世界に激しい憎悪を抱くと偶発的に発生する。
しかし、発生する確率は極めて低く、現在、堕天使はこの世にほぼ、存在していない。
その堕天使が生まれたとローグヴェルトは言っているのだ。
「考えられる事はいくつかあるけど…もしかしたら、カーシス…いえ、クリフォトの仕業かもしれないわね…」
ルミナスはそう言った。
「クリフォト…あの男が…エルを…」
ルミナスもローグヴェルトもクリフォトの事を知っているようであった。
「ふふふ…もしかしたら、先に彼が…私たちのやりたかったことを達成してくれるかもしれないわね…」
ルミナスは愉快そうに嗤った。ローグヴェルトは対照的に複雑そうな顔をしていた。
「そんなに心配なの?堕天したその子の事…」
ルミナスはローグヴェルトに尋ねた。
「いえ…」
「まぁ、いいわ、私は少し…やることがあるので」
ルミナスはそう言ってローグヴェルトの元を去って行った。
「厄介な事になりそうだな…」
ローグヴェルトはそう呟いた。
蒼は慧留を見ていた。
「慧留?何を言ってんだよ?」
蒼は慧留の豹変に驚いていた。
「私は…帰る気は無いよ、蒼。私は…」
慧留がそう言うと屍、美浪、遥、澪がやって来た。
「慧留ちゃん?」
「月影?」
「慧留!」
「えるるん!」
屍たちは慧留の名を呼んだ。
しかし、澪はすぐに違和感に気付いた。
「…えるるんの霊力の質が変わってる…?」
「え?」
美浪は疑問を浮かべた。
しかし、屍と遥は慧留の様子がおかしい事に気付いた。
「…屍…美浪ちゃん、遥さん、澪さんも…」
慧留は忌々し気に屍たちを見つめていた。
「どうなってる?時神!」
「…俺にも分かんねぇ…何が何だか…」
屍たちだけでなく蒼も思考が追い付いていない。
慧留は右手に持っていた剣を地面に突き刺した。紫色の刀身が特徴の剣であった。
「「USW」の者たちよ!私は「USW」の女王、『ヴァルキリア』!これより、私が「USW」を率いていく!!この世界を…変える!!!皆の者!!!私に従え!!!!」
慧留は高らかにそう宣言した。慧留は自身の声を「USW」中に飛ばしたのだ。
「「「「「な!?!?」」」」」
他の五人は驚愕の声を上げた。
一夜と狂は先ほど慧留の声が聞こえた。
「カーシスの目的…それは自身が広めた『ヴァルキリア』の誕生。それが…慧留ちゃんだったとはね…」
一夜はカーシス…いや、クリフォトの目的を理解した。
慧留はクリフォトに洗脳でもされてしまったのだろうか?
「くる君はどう思う?慧留ちゃんは洗脳されていると思うかい?」
一夜は狂に尋ねた。
幻覚系の力を使う狂なら、慧留が洗脳されているかどうかを判断出来ると一夜は思ったのだ。
「今の状況だけじゃ分からないよ…けど、これはくるの勘だけど、洗脳とかの類はされてないと思う。あくまで慧留ちゃん自身の意思で動いてるっぽい」
狂がそう言うと一夜は右手を顎に置いた。
「なら、分からない。何故、慧留ちゃんは…」
一夜が考えた所で分かる訳もなかった。どうやら状況は予想以上に悪いようであった。
「どっちにしても、くるたちはシンちゃんとヒデちゃんが目を覚ますまでは動けないし…」
「そうだね…頼んだよ…みんな…」
一夜はそう言うと狂は赤島と兎咬の看病に戻った。
「慧留…どうして…」
薊はそう呟いた。
薊はあの後、舞の治療を受け、何とか意識が回復していた。
「そんなもん私が聞きたいわ…」
アルビレーヌがそう言った。
どうやら目が覚めたようだ。しかし、いまだに動けないようであったが。
「…洗いざらい話してくれるのであれば治してやらんこともないぞ?」
舞がそう言うとアルビレーヌはそっぽを向いた。
「ふ…」
舞はそう言ってアルビレーヌに近づいた。そして、治療を始めた。
どうやら、舞の治癒の力は特殊な粉によるもののようだ…何故だろう…
アルビレーヌは舞のこの力を何故か知っている気がしたのだ。
しかし、今のアルビレーヌにとってそんな事を考えている場合ではない。
「ちょ…何で治してんのよ!?」
「妾の勝手じゃ…」
舞は呆れたようにそう言った。
「………」
アルビレーヌは黙っていた。
「ふー、王…いや、女王か…この「USW」に新たな女王が生まれた…」
ドラコニキルはそう呟いた。
「それが、蒼たちが助けに行ったっていう…慧留って人?」
ラナエルはドラコニキルに尋ねた。
「そうだね…どうやら、これがカーシス様の狙いだったようだ…この世界を壊す程の力を持った新たな「USW」の王の誕生…それが、カーシス様の願いだった…」
ドラコニキルはクリフォトの狙いを当てて見せた。
ドラコニキルはカーシスがクリフォトであるという事は知らない。
だが、彼の狙いは何となく今までの流れで察しはついていた。そして、先ほどの慧留の号令で疑念から確信へと変わった。
「蒼たちは…どうなるの?」
「俺に分かる訳ないだろう?どうするかは彼ら次第さ。まぁ、さっきの話を聞いている限り、彼女は本気のようだが…」
「その…カーシスって奴に洗脳されている可能性は?」
ラナエルはドラコニキルに尋ねた。
蒼があそこまで助けようとした者がいきなりこのような事を言うとはラナエルはとても思えなかった。
「カーシス様は…相手の心を…本質を見抜く力に長けている…洗脳されている可能性は無くはない…だが、カーシス様は「相手を操るようなことはしない」。あくまでも導くだけだ。選択権を相手に必ず与える。まぁ、それでも、カーシス様の掌に踊る事にはなるだろうがな…」
ドラコニキルはそう言った。
そう、クリフォトは仲間に勧誘をしたりする際は力尽くで連れて行く事こそあれど、相手の心を捻じ曲げるような事はしてこなかった。
あくまでも、向こうにも選択権を彼は与えていた。
「じゃあ、これは…あの人の意思って事?」
「…俺はそう思っている」
ラナエルが深刻そうな顔で言うとドラコニキルは冷静に答えた。
「私は…蒼を信じるよ」
「今まで疑問だったんだが…何故貴様はそこまで時神蒼を信じられる?会って間もないんだろ?」
今度はドラコニキルがラナエルに尋ねた。
「蒼は…わたしを助けてくれた…わたしは無理矢理蒼に付いて行った時も蒼は嫌そうな顔をしてたけど、見捨てないでくれた。今までわたしは色んな人たちに見捨てられてきた。けど、蒼は見捨てなかった」
ラナエルはそう言った。ドラコニキルは「そうか」と答えた。
-時神蒼…君は不思議な奴だ…
ドラコニキルはラナエルと共に『闇魔殿』の本城を見ていた。
慧留は蒼と美浪、屍と遥、澪を見据えていた。
「慧留ちゃん…戻ろ?」
美浪は慧留にこっちに来るように呼び掛ける。
「お前の帰る場所は…ここだろ…早く来い…」
屍も呼びかける。
「慧留…」
遥は慧留の名を呼ぶだけだった。
「何があったの?」
澪は慧留に尋ねた。
「『世界聖宮』…蒼は知ってるよね?『世界聖宮』の秘密を…」
「!!!」
慧留は蒼に尋ねた。すると、蒼は驚愕の表情をした。
「…やっぱり…『世界聖宮』は天使の中でもローマカイザーを始めとしたごく一部の天使しか知り得ない。蒼は…やっぱり知ってたんだね…」
慧留はとても悲しそうな顔をした。
「慧留…お前…一体何でその事を…」
蒼はそう言った。蒼と慧留の話の内容が他の四人は理解できなかった。
「蒼…蒼のあの言葉は…嘘だったの?私はいつだって…差別や迫害がない、争いのない世界を望んでる…蒼はそんな私に協力するって助けるって言ったよね?友達だからって…嘘だったの?」
「違う!!嘘なんかじゃない!!!俺は…!」
「じゃあ、何で動かないの!?こんな世界間違ってるよ!!!!こんなの……酷いよ……!」
蒼が否定すると慧留は叫んだ。
「じゃあ、蒼!私と協力してくれる?」
慧留は蒼に尋ねた。蒼は慧留がやろうとしていることが何となくだが分かった。
「慧留…俺は…お前が今やろうとしてる事には従えない…お前は……間違ってる!」
「間違ってるのはこの世界だよ!!こんなのおかしいよ!!!」
「世界は歪なバランスで保たれてる!そのバランスがあるからこそ、この世界は存在し得るんだ!!お前がやろうとしてることはそれを破壊してこの世界を文字通り壊すことなんだぞ!!!」
「それは排斥者側の観点でしょ!?あなたが誰かを虐げる立場だから言える事だよ!!私はこの世界が許せない!!許容できない!!!」
蒼と慧留は論争を続けた。
この二人がここまで衝突するところは生徒会一行は見た事が無かった。
「さっきから二人は何の話をしてんだよ!?俺らにも分かるように説明しろよ!?『世界聖宮』が何だよ!?あれって確か、存在しないんだろ!?」
屍がそう言った。
『世界聖宮』とは神話に語り継がれるただの作り話のはずだ。
少なくともほとんどの者たちはそう認識している。
「『世界聖宮』は存在するよ…この世界とは別の空間にね…」
慧留が断言した。
「アオチー、えるるん、『世界聖宮』って何なのさ?」
「『世界聖宮』は…この世界を創った場所だ…この世界の中心であり、生命の源であり、全ての始まりの場所だ」
澪の質問に蒼は答えた。
「そう…この世界をこんな風にした元凶…それが、『世界聖宮』だよ…」
慧留がそう答えた。
そして、慧留は右手から古い鍵を取り出した。
「それは…『万物の古鍵』!?」
蒼は慧留の右手に持っていたものを見て驚いた。
「蒼…あれを知ってるの!?」
美浪は蒼に尋ねた。
「あれは…人間が悪魔の羽根、天使の骨、神々の眼から創った古代の道具だ。『三大皇族』の力が混じりあった事でこの世界の記憶を断片的に見る事が出来る偶発的に造られた叡智の鍵だ。何故、慧留がそれを…」
蒼は疑問を口にした。
「あれは…『四神天城』にすっと保管されていたものだよ。カーシスがいきなり、アオチーたちがえるるんを助けに行ってる最中に「十二支連合帝国」に攻めてきて、その時に取られたんだ」
澪がそう答えた。
「!?それが…慧留に渡った?」
蒼はそう言った。
「『万物の古鍵』は全てで三つある。その内の一つが「十二支連合帝国」にあった?」
蒼はさらに続けた。そう、『鍵』は全てで三つ存在する。
「残る『鍵』は「神聖ローマ」と「ヘレトーア」にある。『世界聖宮』に行く為には『鍵』を全て集める必要がある。私はこれから、「神聖ローマ」と「ヘレトーア」に侵攻して『鍵』を手に入れ、『世界聖宮』へ行く。そして、『世界聖宮』を破壊し、この世界を〈リセット〉する。あるべき世界に戻すんだよ」
慧留がそう言った。そう、それこそが慧留の目的だ。
全てを破壊し、やり直す。だが、蒼は納得できなかった。
「お前は…今までの事を無かったことにするってのかよ!?」
「そうだよ。その位、私がやろうとしていることには価値がある!!犠牲に足るものだよ」
蒼が慧留に問いかけるが慧留はあっさり、答えた。世界を滅ぼすと、あっさり答えた。
「一体…何がお前をそこまで変えた!?」
蒼はそこが疑問であった。
『世界聖宮』の真実を慧留が知ったとしても慧留は争う事を好まない温厚な性格である。
『世界聖宮』の事だけでここまでなるとは思えなかった。
クリフォトに操られている可能性も考えたがとてもそうは見えなかった。
あくまでも、慧留自身の意思で動いているようだ。
「蒼は…どうして、どうしてこの世界に納得してるの?」
慧留は蒼に問いかけてきた。蒼は答えた。
「俺は…この世界に納得してる訳じゃない。けど、この世界を愛し、守ろうとした奴がいた。俺は…そいつの為にも…いや、それだけじゃない!お前と!一夜!仲間たちも大切だ!!だから!無かった事になんてしたくねぇんだよ!!」
蒼は今まで積み重ねてきたこの世界の時間を大切にしたいのだ。無かった事に…したくないのだ。
「蒼は……つくづく…甘いなぁ~…」
慧留は呆れたようにそう言った。だが、少しだけ、嬉しそうでもあって…だが…
「やっぱり蒼は……………私の…「敵」なんだね」
慧留はそう断言した。
「どうしてもやらないといけないのかよ…」
蒼は拳を握りながらそう言った。
「蒼が私の邪魔をすればそうなる」
慧留は剣を構えた。
「皆…慧留を止めるぞ!!」
蒼がそう言うと他の四人は戦闘態勢に入った。
「よく分かんねぇけど…月影が俺たちに対して殺意ビンビンなのは分かるわ…止めるしかないな…」
屍はそう言って構えた。
「慧留ちゃん…絶対に連れ戻す…!」
動揺していた美浪だが、すぐに切り替えた。
「慧留…あなたはあたしたちの仲間よ…嫌だっと言っても絶対連れ戻す!」
遥はそう言った。
「えるるん、あたしの気持ちも皆と同じだよ…今の君は…見ていられない」
澪がそう言った瞬間、慧留は蒼に剣を振るった。蒼はそれをガードした。
「……!」
蒼が押されていた。
いくら、【天使】を解放していないとはいえ、蒼はかなりの膂力がある。
その蒼を慧留は押していた。
「な!?月影の奴…めちゃくちゃ強くなってねぇか!?」
屍はそう言って、蒼に加勢しに行った。
しかし、慧留は蒼の刀を弾き、屍を蹴り飛ばした。
「ぐ!」
屍は蹴り飛ばされたがすぐに体勢を立て直した。
「屍!?」
蒼は屍に声をかけた。
「大丈夫だ」
屍は返事をした。慧留は再び蒼に攻撃を仕掛けた。
しかし、慧留の後ろにはすでに遥と美浪は後ろを取っていた。
「【サウンドミサイル】!」
「はぁ!!」
遥と美浪は攻撃を仕掛けた。
しかし、慧留は【サウンドミサイル】を躱し、美浪の蹴りを右手で受け止め、左手で持っていた剣で二人を切り裂いた。
「ぎゅ!?」
「きゃあ!?」
遥と美浪は慧留の剣圧によって吹き飛ばされてしまった。
その隙に澪は【星混沌旋風】を放った。だが、慧留はその攻撃も剣で切り裂いた。
「うっそ~」
澪は流石に驚いていた。今のは一切加減無しの本気の攻撃だった。
それを剣を一振りしただけで消し去ってしまった。
蒼は慧留に二刀の刀を振るった。
しかし、慧留には太刀筋が完全に読まれており、全て防がれ、剣圧で吹き飛ばされてしまった。
「っ…」
蒼たちは一度、慧留から距離を取った。
慧留が想定をはるかに超えた強さを見せていた。
蒼、美浪、屍、遥、澪の五人がかりでも容易に動きを止める事すら出来ない。
「これから大事な事があるんだ…すぐに決着をつけるよ。この私の…【天使】で…」
慧留は剣を構えた。そして、呼んだ。
自分の【天使】の名を…
「【拒絶王女】」
慧留の【天使】は紫色の錫杖の形に変化した。
蒼は慧留の【天使】に違和感があった。
通常の【天使】は霊力の上位エネルギーである神力を放っている。
しかし、彼女の【天使】は神力ではなく、魔力を放っていた。しかも、かなり邪悪な魔力であった。
「まさか…お前……≪堕天≫したのか!?」
蒼はそう言った。
≪堕天≫とはその名の通り天使の心が汚れ、闇に堕ちる事を意味する。
「何でだよ…何で…」
蒼がそう言うと慧留は【拒絶王女】を前に突き出した。
すると、蒼の後ろに慧留がいた。目の前にいた慧留は消えていた。
-いつの間に!?
蒼たちは慧留に目を離さなかった。
にも拘らず、慧留は蒼の後ろを取っていた。誰にも気付かれずに…
「「「「「!」」」」」
皆、反応が遅れた。
蒼は【氷水天皇】と【黒時皇帝】を解放し、慧留に向けえ撃った。
蒼がクリフォトと戦っている時、慧留は別の世界にいた。
そこで、一人の少年に出会った。
「あなたは?」
慧留が少年に問いかけた。
髪は紫色で瞳は黒色だった。
背丈も慧留よりかなり小さかった。
服はボロボロに白い服を着ていた。
「僕の事は何れ分かるよ。それより…行くよ…」
少年は慧留の手を掴み、暗闇の先に連れて行った。
「ちょっと…どこに行くの!?」
「すぐに分かるよ…君の知りたい事がね」
少年は指をさした。そこに写っていたのは巨大な宮殿であった。
「あれは『世界聖宮』、この世界を創り出した。ここには【クロノス】と呼ばれる世界の楔がある。この【クロノス】は運命を操る力がある。あらゆる生物の生死を全て管理している。それが、この『世界聖宮』だ」
「世界の運命を全て管理?そんな事が…嘘だよ…」
「君の今まで体感した事も全て、運命によって決まっていた事だったんだよ」
慧留はそれを知って驚愕の表情を浮かべた。
「嘘…」
「君は…怖かったんだよね…誰かが死んでいくのが…だから…」
少年はそう言った。慧留は過去の事を思い出していた。
慧留は【黒時皇帝】の眷属として生まれた。【黒時皇帝】の力である、時を司る力を持っていた慧留は早々に、戦いに参加させられた。
「神聖ローマ」はこの時からも内乱が多く、慧留は衛生兵として、戦いに駆り出されていた。
直接、誰かと殺し合う事こそ無かったが、傷ついた者たちを治し続ける事、それが、戦いを大きくしている事に繋がってしまっている事が慧留にとっては苦痛であった。
誰かの悲痛な叫び、慧留の元に辿り着くまで手遅れになり、死んでいった者たちも大勢いた。
その姿を幾度も見てきた慧留は心が荒んでいった。
そんな慧留を支えてくれたのは優しい一人の友達の存在であった。
彼の名はローグヴェルト・スヴェール。
慧留と同世代の人間であった。
「神聖ローマ」は人間と天使は共存関係にあるのだが、それ以外の魔族や一部の天使が国に内乱を起こしており、その内乱が収束しない状態が続いていた。
ローグヴェルトは人間の中でも優秀な人間であった。
彼は慧留に優しかった。慧留はローグヴェルトを支えに戦いに耐えてきた。心の痛みに耐えてきた。
「ローグはさ、戦いが終わったらどうするの?」
慧留はローグヴェルトにそう聞いて来た。
「さぁ…な…まぁ、学校ってやつには行ってみたいな。いろいろ勉強できるみたいだし」
「ローグは勉強好きなの?」
「ああ、好きだよ。覚えたりするの得意だし、まぁ、俺は戦いに駆り出されることになっちまったけどな…」
「戦いが終わったら…一緒に行けるといいね」
「お前は無理じゃね?だってバカだし」
「バ…バカじゃないよ!!」
「嘘つけ!!お前、前に渡された報告書の漢字ロクに読めて無かったじゃねーかよ!?」
「あれは…難しかったから…」
「…まぁ、平和になったらいいな」
ローグが優しい声でそう言った。
「うん」
慧留は笑顔でそう言った。
慧留は時間を巻き戻す力を持っていると発覚したのが五歳の時だった。その時から、戦争の衛生兵だった。
慧留は【黒時皇帝】の眷属ではあるが、天使の眷属の力に目覚めるのは稀である。
実際、慧留の両親は普通の天使であり、時を操る力は持っていなかった。
慧留の両親は慧留が五歳の頃内乱に巻き込まれて死んだ。そう、慧留は両親の顔を知らない。
ローグヴェルトに合うまでは孤独の日々を過ごしてきた。
ローグヴェルトとは八歳の頃に知り合った。
初当時は今以上に荒んでいた為、そこまで仲良くは無かったが次第に打ち解けていき今に至る。
「そもそも、何で戦争なんて起きるんだろうね…」
慧留はそう呟いた。戦争は終わらなかった。
「神聖ローマ」は小さな内乱が幾度となく起こっている。
理由は色々ある。「神聖ローマ」は陛下によって全てを支配されている。
所謂、絶対王政の国である。その為、それに反発する者も多く、今は大分マシな方らしい。
「絶対王政…この制度をとっとと止めればこの内乱は収まるんだろうけどな…国は今の方針を変える気は無いんだと。…代々、ローマカイザーの一族は絶対的な力を持っている。もはや独裁政治だ」
ローグヴェルトはそう言った。
そう、「神聖ローマ」の統治者は代々、ローマカイザー家が勤めている。
圧倒的権力と力を誇っており、軍事力は「USW」と並ぶ。
しかし、絶対王政故に反発も多く、国が出来たばかりの時は今以上に内乱が起こっていた。
それをローマカイザーは圧倒的軍事力で鎮静させ、今の様な小さな内乱だけで治まっている。
今、この国を統治しているのは初の女性の皇帝であった。
「ルミナス・アークキエル・ローマカイザー…だったよね…あの人はなんか今、この国を完全に統一するとかなんとか言ってたよね…」
ルミナスは皇帝になった時、「神聖ローマ」を完全に統一すると宣った。近いうちに何らかの計画を立てているようだ。
「まぁ、あの女は前皇帝とはまた違った得体の知れなさがあるからな…」
ローグヴェルトはそう言った。
「そうかな?前の皇帝より、柔和な感じだけど…優しそうだったし…」
慧留はそう言った。
ルミナスは平和的解決を望んでおり、なるべく、被害が出ないように内乱にも対処しているのだ。
前の皇帝は逆らう者を皆殺しにする悪逆皇帝だった。
それに比べれば、ルミナスはかなりの穏健派であり、前皇帝より、よっぽど、支持があった。
「まあ、前の皇帝がヤバかったってのはあるな。前皇帝は歴代の皇帝で最も悪逆非道だったという。その逆で今のルミナスは最も平和を愛する皇帝って言われてるしな…」
そう、前皇帝、ヤハベラ・デラ・ローマカイザーは歴代皇帝の中でも最も残虐と言われ、自身に逆らう者たちを問答無用で殺していた。
それだけでなく、自身に逆らう可能性のあるものまで殺し続けていた。
しかし、数年前、ヤハベラは何者かに殺され、その後にルミナスが皇帝に即位した。
ヤハベラが皇帝になってから、内乱はこれまで鎮静化していたのに大きくなり始めていた。
しかし、ルミナスが皇帝になってから再び、内乱は沈静化していっており、ルミナスが宣言した通りこの国は完全に統一する日が来るかもしれない。
「集合時間だ!皆、集まれ!!」
慧留とローグヴェルトは声のする方へ向かっていった。
これがー慧留とローグヴェルトの最後の平穏なやり取りであった。
慧留はいつものようにキャンプで負傷者の治療をしていた。
戦場は酷い有様であった。
こちらが圧倒しているものの慧留はこの光景が好きではなかった。いや、大嫌いだった。
吐きそうになるほどの血の香り、ぐちゃぐちゃになっている死体、全てを焼き尽くす業火、煙の臭い、戦っている者たちの叫び声、悲鳴、命乞い、断末魔、何度も聞いて来た。
嫌になるほどこの光景を見てきた。
「負傷者だ!」
声が聞こえた。慧留は負傷者の治療をした。
負傷者は左手足を抉られており、右目も潰されていた。そこから血が溢れ出ていた。
この光景が、血の香りが、慧留の心を深く抉って来た。
慧留は黙って治療をした。感情を押し殺して…しかし、慧留は治療を終えると毎回、虚しい気持ちになる。
何故なら、治しても、また、戦わされる。
さっきの負傷者の顔を見るのはもう何度目だ…慧留はそう思った。慧留は治療した人の顔をある程度覚えている。
何度も治療に来る者がいるからだ。
慧留の元に着いた時には時既に遅く、間に合わずに死んでいった者たちもいる。
慧留は治療が成功しようが失敗しようが同じくらい虚しい気持ちになっていた。
「治しても救われないなら……どうして、治さなきゃならないの?」
慧留は独白した。するとー
「大変だ!?A地点が壊滅状態だ!!」
「!?」
慧留はすぐに走り出した。だって…そこにいるのは…
「おい、マクガウェイン衛生兵!どこに行く!?」
慧留は男の制止を気にせずに走って行った。
「はぁ…はぁ…」
ローグヴェルトは息を上げていた。ローグヴェルト以外の兵士は全滅していた。
ローグヴェルトもまた、瀕死の重傷であった。全身は焼け爛れており、背中に剣が三本ほど刺さっていた。
さらに、足にも、刃物が刺さっていた。
「へ~、人間の割にやるわね?」
女はそう言った。女は真紅の瞳を持っており、銀髪ロングが特徴な中性的な女性であった。
この女は吸血鬼である。吸血鬼は『三大皇族』と引けを取らない強さを持っており、彼女は相当な実力の持ち主である。
彼女の名はクラッカー・アルサー。真祖クラスの力を持った上位吸血鬼である。
「ぐ…」
ローグヴェルトは片膝を着いた。もう限界であった。
「あなたの血…貰うわね…」
クラッカーはそう言って、ローグヴェルトの目の前にやって来た。そして、ローグヴェルトの首筋に噛みついた。
「が…」
ローグヴェルトは血を吸われているこの瞬間をとても快感に感じていた。
吸血鬼が吸血する時、されたものは性的快感を味わう事になる。吸血鬼は相手を快楽死させることが可能だ。
吸血鬼の中には吸血をするとその者を血の従者に出来る者もいるが、にクラッカーはそんな能力は無い。
なら、クラッカーのやる事は一つ。ローグヴェルトが死ぬまで血を吸い続ける。
「ローグ!!!」
声が聞こえた。そこにいたのは慧留だった。
「エ……ル…………」
ローグヴェルトは火照った顔で慧留の名を呼んだ。慧留はルザミエルに近づいた。
「ローグを……離せえええええええええええ!!!!」
慧留がそう言うと慧留の身体から、霊力が放たれた。ルザミエルはその霊力の波に吹き飛ばされた。
「つ…」
慧留はローグヴェルトに駆け寄った。
「その子はもう駄目よ…もう手遅れよ…ふふ…久々に美味しかったわ」
クラッカーはそのまま消えていった。
「ローグ!!!」
慧留はローグヴェルトの治療を始めた。しかし、治らなかった。
「くそ!!治れ!直れ!治れ!直れ!治れ!直れ!治れ!直れ…治れええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
慧留は叫んだ。声が枯れるほどに…
「エル…俺は…もう駄目だ…。キャンプに帰れ…」
ローグヴェルトはそう言った。
「嫌だ!!ローグ!!死なないでよ!!!ローグ!!!」
慧留は叫ぶ。しかし、ローグヴェルトの意識が遠のいていく。
「俺は…………せめて…お前…だ…け…で…」
ローグヴェルトの眼の光が無くなって行くのを慧留は感じていた。
「ローグ!!」
ローグヴェルトの身体が冷えていく、景色が暗くなる。身体に力が抜けていく。
-嗚呼、これが…死……
ローグヴェルトは死んだ。
「……………」
慧留はローグヴェルトを見た。
死ぬ姿は何度も見てきた。だから分かる。
ローグヴェルトは死んだのだ。涙は出なかった。
溢れてきたのはただただ…虚しさだけだった。
慧留は今まで目の前で死んでいった者たちの顔を皆覚えていた。
慧留は立ち上がり、ノロノロと歩いて行った。
慧留はキャンプには戻らなかった。
そのまま…「神聖ローマ」から逃亡した。
「さぁ、ここからが見ものだよ」
少年はそう言った。
忘れていた事…いや、忘れようとしていた事を今、慧留は突き付けられた。
慧留は「神聖ローマ」から逃亡した後、「十二支連合帝国」に逃亡した。
そこは「神聖ローマ」に比べて、争いは無かった。
最初は慧留はそう思っていた。
しかし、蓋を開けると人間が魔族を差別していたあという実情であった。
慧留はローグの死を無駄にしたくなかった。
自分なりにまっすぐ生きようと思っていた。だからこそ、明るく振舞い続けていた。
人間たちに襲われ、蒼と出会ったのはその時であった。
蒼に導かれ、一夜から学校に行けと言われた時、慧留はローグヴェルトの事を思い出してた。
ローグヴェルトは学校に行く事を望んでいた。
慧留は表向きでは動揺を悟られぬよう、明るく振舞っていた。最初は蒼と同様、下手をすれば蒼以上に学校に対して複雑な気持ちがあった。
しかし、慧留は蒼や学校を通じて変わっていった。
生徒会の皆もいい人たちばかりで…「アザミの花」とも色々あったけど、屍、狂、薊は生徒会の仲間になっていた。
慧留はとても楽しかった。心にぽっかり空いた穴が埋まって行く気がしたのだ。
-だからこそ、慧留はこの世界の創り出したシナリオが許せなかったのかもしれない。
「今の君はローグヴェルトと同じくらい…蒼たちを大切に思っている…」
「随分私に詳しいね…」
「そりゃあそうさ、ずっと僕は君を見ていたわけだしね。ローグヴェルトの魂、どこに行くか分かるかい?」
少年が聞いて来た。
「?」
慧留は疑問符を浮かべた。
「答えはこの先にある」
少年はそう言った。
To Be continued




