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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第三章】USW進攻篇
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【第三章】USW侵攻篇ⅩⅣー怠惰(アケディア)ー

 常守澪はウルオッサ・テディベアと対峙していた。


「【流星神速スタードライブ】」


 澪は【流星神速スタードライブ】を使い、高速で接近した。しかし、ウルオッサはその巨大な羽で澪の接近を防いだ。


「【怠惰羽プルーマ・デル・アケイディア】」


 ウルオッサは羽根を飛ばした。澪の全身に傷付いたが、澪はそのまま突っ込み続けた。


「【星混沌旋風スターカオスストリーム】!」


 【星神ほしがみつえ】から【星混沌旋風スターカオスストリーム】を放った。

 巨大なエネルギー弾がウルオッサを襲う。【星神の杖】の力により【星混沌旋風スターカオスストリーム】の威力が倍増していた。しかし、ウルオッサは羽根の力で凌ぎ切った。


「大した力だね…」


 ウルオッサはそう言うと羽根で再び攻撃してきた。打つ度に威力が上がっている気がする。


-違う!あたしの力が落ちてる…


「気が付いているようだね。そう、君の体力、魔力、霊力、全てが低下している。このままでは後五分程度で君の力はゼロになる。要はエネルギーが完全にゼロになるという事だよ。この意味が分かるね…」

「つまり…五分以内にあなたを倒さないと…あたしが死ぬ…訳だ…」


 澪は淡々と答えた。澪はウルオッサの力で自身の能力を低下され続けている。徐々に澪の【天星魔法】も弱くなっていた。このままでは力が完全に抜け落ち、眠りについてしまう。澪はとんでもない睡魔に襲われていた。


「エネルギーが尽き出すと生物は眠って回復を図る。だが、僕の力の前では寝るという事は死を意味する。まぁ、精々眠らないようにする事だね」


 ウルオッサはそう言って羽根で攻撃をしてくる。ウルオッサはどうやら、破壊系の魔法は一切使えないようであった。

 ウルオッサの強みは相手の力を低下させる力とその範囲だ。彼はあらゆるエネルギーを減衰させる能力を持っている。

 霊力、魔力、体力、身体能力とにかくエネルギーに関する事であれば関係ないようだ。

 それらすべてを低下させ、最終的に眠るように相手を死なせるという、恐ろしい能力だ。

 さらに二つ目の効果範囲は恐らく、トウキョウ全体まで広がっている。

 一応、トウキョウ全体に避難はさせているが、もし一般人が通るとその瞬間、命を奪われるだろう。

 エネルギーの減衰速度は個人差があるようで、恐らく、霊力や魔力の大きさに比例して、減衰しつくす時間は長くなる。

 彼の能力の欠点という欠点は恐らくない。強いて上げると決め手に欠けるぐらいだ。

 彼は持久戦に比較的強い能力であるが、先ほど言ったように破壊系の魔術は一切使えないようだ。

 さらに、身体に、霊力や魔力の幕を張っていればある程度、減衰能力を防ぐ事が出来る。

 無論、完全に防ぐことは不可能である。実際、「真祖」として莫大な魔力を持っている黒宮大志ですら彼の【悪魔ソロモン】の影響を受けてしまっているのだ。


「まぁ、いずれにしても速めに決めないとね!」


 澪は【流星神速スタードライブ】でウルオッサに突撃した。

 しかし、ウルオッサは巨大な翼で攻撃を防ぐ。やがて、ウルオッサは翼をさらに巨大化させた。


「このまま確実に終わらせる【殻惰翼クラスタ・デル・アーラ】」


 ウルオッサの身体は巨大な羽で覆われた。全長七メール程の巨大な羽根ので出来た殻である。硬度も相当なものであろう。澪は困った顔をした。


「ここに来て防御力を上げてきたか…どうしよう…困ったな…」


 今のウルオッサはまるで巨大な樹木に冬眠をするクマのようであった。空に描かれている魔方陣も輝きが強くなっていた。


「う…まずいな…」


 澪は空中に跳躍し、ウルオッサが発生させた【世界堕落コループティオ・デル・ムンドゥス】に攻撃を仕掛けた。しかし、その魔方陣は特殊なバリアが張られており、壊せなかった。


「本体だけじゃなくて魔方陣まで…勘弁してよ…」


 澪は頭を抱えた。ここまで守りに徹せられたら手の打ちようがなかった。

 ウルオッサは攻めに非常に消極的なようだ。先ほどの羽根の攻撃も大したダメージは受けていない。

 自身の力でゆっくり息絶えるのを待つのがウルオッサの戦い方のようだ。

 澪は【星眼シュテルンアオゲ】を開眼。ウルオッサの力の解析を始めた。


「負けられないよ…解析時間は…一分くらいかな」


 澪は必至で勝つための活路を探していた。









「ふふふ…無駄だ…これでここにいる奴らは終わる。僕はここで待っていればいい」


 ウルオッサは翼の中でそう呟いていた。ウルオッサの最大防御魔術である【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】を敗れた者はウルオッサが知る限り、ドラコニキルのみだ。

 彼の力の前ではこの魔術は無意味であったが、それ以外の者に破られたことは…ない。







 ウルオッサはとにかく楽をして勝ちたかった。なるべく自身が手を汚さないように。

 その為であったら何でもする。ウルオッサはただ、休みが欲しいだけなのだ。

 ウルオッサは戦いが好きではない。戦いは心が休まらないからだ。話すことも好きではない。

 何故なら、それにより余計な争いを生むことになりかねないからだ。ウルオッサにとって唯一無二の幸福。

 それは寝る事だった。眠りは嫌な事、不安な事、辛い事、悲しい事、苦しい事、あらゆる負の感情を忘れ去ることができる唯一の安らぎであるからだ。

 彼は眠るときが一番幸せなのだ。その眠りを邪魔する者は誰であっても許さない。

 しかし、カーシスだけは別だ。ウルオッサはカーシスと戦った事があった。しかし、勝負は一瞬で終わった。

 ウルオッサが勝てないと判断し、始まって数分で降参した。一見、ウルオッサらしい負け方だが、彼は無暗に降伏したりしない。

 ウルオッサはカーシスの異質さに「絶対に勝てない」と判断したのだ。だからこそ、彼はカーシスと戦う前に諦めた。

 なので、カーシスの命令にはちゃんと従う。眠りを妨げられたとしても。

 カーシスに従順であるドラコニキルの命令も聞くようにしている。彼とも戦った事がある。

 結果はウルオッサがやられた。ウルオッサは自身より強い奴にはなるべく従うようにする。でないと眠りを邪魔されかねないから。

 ウルオッサは何故ここまで眠りに執着するのか…それは本人にも分からない。

 何か特別な過去があった訳でも、何かのきっかけがあった訳でもない。

 ウルオッサは本能的に理解していたのかもしれない。眠りが自身の心をいやす唯一のものだという事を。

 ウルオッサは「USW」の平凡な町で生まれた。当時から彼は無駄な争い事を避けていた。

 その見た目から弱いと思われ、喧嘩を吹っ掛けられることもあったが、ウルオッサは自身の力でそれを退けていた。

 ウルオッサは休める場所が欲しいと思った。元々彼は誰かと関わったり、何か行動を起こすことが好きではなかった。この頃から眠りを望む人物であった。

 彼は基本的にずっと一人であり、誰かと関わろうとすることはなかった。

 普通の小学校に通い、中学に通い、高校に通い、中の上の大学に行き、大学卒業後もロクに就職活動もせずにいた。

 親も、彼に対しては非常に無頓着であり、何も彼に期待していなかったのだ。

 ウルオッサは自身の家では気持ちのいい眠りに着く事が出来ないと判断し、そのまま家を出て行った。

 しかし、彼には何も当てがなかった。就活もせず、ただ何となく過ごし、一人で安らかに眠りにつきたいという事しか考えていない彼の気持ちを理解できる者はおらず、ただ一人、彷徨っていた。

 食事は無くても問題なかった。そこら辺にある草木だけで充分であった。

 そして、安らかな眠り場所を探し続け、やがて彼はネオワシントンを訪れた。

 ネオワシントンは「USW」の本拠地がある場所であるが、かなり殺風景な場所であった。

 何故なら、辺り一帯は砂漠であり、あるのは鉱物で出来た草木や鉱物だけであった。

 ここに本拠地を置いている理由としては敵が攻め込みずらいというのが一つの理由らしい。

 ここは辺り一帯砂漠である為、砂嵐が発生したり、蜃気楼が発生したりと、他にもあらゆる理由で攻め込みずらい為にここに本拠地を置いているとのことである。

 ウルオッサはここでしばらく生活することにした。案外、いい生活を過ごせた。

 敵は一切いない為、呼び止められることはないし、周囲には草木や鉱物がある為、ウルオッサの場合、食にはそこまで困らない。ここで生涯過ごせるのでは?とウルオッサは思った。

 このネオワシントンには小さな洞窟や空間がいくつか存在し、そこでウルオッサは寝泊まりしていた。ここでの生活をウルオッサは気に入っていたのだ。

 しかし、三ヶ月くらい誰にも見つからずに生活していたウルオッサだが、とうとう、見つかってしまった。しかも、見つかってしまった相手はカーシスであった。


「おや?こんなところで何をしているんだい?」


 ウルオッサは彼の顔を知っていた。というか、「USW」にいる者なら知らない者はいない。

 彼はこの「USW」の権力を実質掌握しているカーシス・ベルセルク。光明庁の長官でもある。

 表向きはタブラス・エント二オンが政治をしているがあれは傀儡政治というものだ。

 ウルオッサはどうするか考えた。逃げる?それとも戦うか?

「USW」の長を相手に?ウルオッサはどうするか決めかねていた。


「そう、怖い顔をしないでくれ。私は何もしないよ」


 カーシスは笑顔でそう言った。ウルオッサは睨んだ。カーシスの笑みには不気味さがあったからだ。


「…信用されてないな…私も…」


 カーシスは手を両手で振り、やれやれといった表情を作った。


「…僕を…どうするつもりですか?」


 ウルオッサはカーシスに尋ねた。


「うん…まぁ、私は君を捕縛するつもりだった…こんなところに見知らぬ者がいれば、そりゃあ、排除するだろう?」


 カーシスがそう言うと身構えた。


「まあまあ、落ち着き給えよ。何もしないと言っただろう。さっきまではそうするつもりだった。だが、気が変わった」

「気が変わった?」


 カーシスはウルオッサに手を伸ばした。


「私とともに来たまえ、さすれば、君の願いを叶えよう」

「断る」


 カーシスの申し出にウルオッサは即答した。


「何故?」

「あんたに仕えるって事は国を守れって事だろ?僕は楽したいんだ。眠っていたいんだ!そんな面倒な事、僕は御免だ」

「なるほど…」

「それに、何故あんたは僕を?」

「君を一目見た時から分かったよ…君の中の才能がね。だからさ」

「答えになってない」

「う~ん、困ったな。では、こうしよう。私が勝ったら、君はこれから私に仕える」

「ふざけるな!そんなの勝手に…」

「そうか…なら、我々の手で君を牢獄に送るしかないか…」


 カーシスはそう言うとウルオッサが青冷めた。


「ふざけんな!そんな…」

「君に与えられた選択は三つだ。大人しく私のいう事を聞いて、私の配下になる。それとも、私に背いて捕まるか…あるいは私を倒して逃げるか…好きなのを選ぶといい。まぁ、三つ目は選択不可能だがね」


 カーシスは笑顔でそう言った。ウルオッサは戦うしか道が無かった。

 安然の眠りに就く為にはここでカーシスに勝って逃げるしかなかった。


「分かった…勝負を受ける」

「そうこなくてはね」


 ウルオッサとカーシスは向かい合った。


「では、始めるよ」


 ウルオッサはカーシスに殴りかかろうとした。しかし-


「参りました」


 ウルオッサは膝を着き、あっさり降参した。カーシスの異質な力を前に敗北を確信。ウルオッサは降伏した。


「見事だ。自身の敗北を認める潔さ。自身の命を守る為に最善の選択をしたね。ますます気に入った」


 カーシスはそう言って跪いているウルオッサに手を伸ばした。


「ようこそ、『アンタレス』へ」


 カーシスの手をウルオッサは掴んだ。







 ウルオッサはこのまま過行く時間を待つつもりでいた。このままウルオッサが待機してるだけで戦いは終わる。ウルオッサの力を見出し、導いたのはカーシスである。

 ウルオッサは勝利を確信していた。戦いに勝つと。自身の力は無敵だ。倒せるはずがない。


「僕の…勝ちだ…」


 ウルオッサがそう言うと【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】にひびが入り始めた。いや、厳密には消え始めていた。


「な!?馬鹿な!?一体…どうやって…」


 ウルオッサは澪の魔力を大体把握していた。澪の力では絶対に壊せない高度だったはずなのに何故…ウルオッサは考えを巡らすがその余裕はなさそうである。


「一体…何が…」









「駄目だ~。解決策が見つからない…う~ん」


 少し前の事である。澪は一分程【星眼シュテルンアオゲ】で解析を行ったがこれといった打開策が思い浮かばなかった。

 彼の【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】は魔力が単純に強大というだけではなく、魔力自体が特殊であった。

 魔力指数がマイナスを示しているのである。通常の霊術や魔術は力を込めれば込めるだけ威力が上がる。

 しかし、ウルオッサの魔力は魔力を減衰させる特殊な魔力であった。それは裏を返すと攻撃能力がゼロという事だ。

 しかし、普通の攻撃では全く攻撃を通すことは不可能である。

 だが、もたもたもしていられなかった。澪だけならまだしも、ウルオッサの【悪魔ソロモン】の影響を受け、倒れてしまっている者が大勢いる。何とかしなければならなかった。


「どうすれば…」


 澪は志向を巡らせた。通常の攻撃はダメ、霊呪法の攻撃もダメ、ならどうすれば…澪は思いつく限りの手を考えた。そして、一つの方法を思い浮かべた。


「一か八か…」


 澪はそう言って、【星神の杖】を使い、自身の魔力をウルオッサの【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】に放った。

 すると、ウルオッサの【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】にヒビが入った。


「やった!」


 澪は声を出してそう言った。【星神の杖】は魔力を増幅させる力がある。

 その力をウルオッサに放ったのだ。ウルオッサの【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】は相手の魔力を減衰させる魔力を放っている。

 なら、逆に【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】の魔力を増幅させれば、自身の力によって、壊れる。澪の考えは的中したわけである。

 【殻堕翼クラスタ・デル・アーラ】は粉々になりウルオッサが顔を出した。


「信じられない…まさか、こんなにすぐに破られるとはね…」


 ウルオッサは平然を取り繕っていたがかなり動揺していた。自身の絶対の盾が壊されてしまったのだ。ウルオッサはすぐに攻撃に転じた。


「【流星神速スタードライブ】」


 しかし、澪の方が動き出しが速かった。ウルオッサはかなり心を乱していた。

 自身の絶対の盾を打ち破られた事への焦りが出てきている。澪はウルオッサが飛ばした羽根を全て躱し、攻撃を繰り出した。


「【星隕石雨メテオレイン】!」


 澪は無数の隕石をウルオッサに放った。全てがウルオッサに直撃した。


「くぅあ!」


 澪はウルオッサの力のせいで魔力が減衰していた為、本来の力は出せなかったが、それでもかなりのダメージを受けていた。


「次で終わり!」

「僕は負けない!」


 ウルオッサは守りに徹することを止め、翼に魔力を込め、澪に突進を仕掛けた。

 澪は虚空に魔方陣を描いた。ウルオッサは明らかに平静を保てていなかった。

 今までのウルオッサなら澪の攻撃を避ける事を考えた筈だ。そうする方がはるかに安全だ。

 ウルオッサの力は待つだけで自動的にウルオッサが勝てるからだ。

 しかし、ウルオッサは自身の切り札を破られた事で焦りを感じた。それは今までで無かった焦りであった。敵に切り札を破られたという焦りだ。


「……【星光輝スターレイ】」


 澪が描いた魔方陣から巨大な光が放たれた。その光がウルオッサに放たれた。ウルオッサはそのまま、地上に落ちていった。


-この僕が…負けた……


「はぁ、はぁ…やば…あたしも落ち…る…」


 澪もウルオッサ同様、地上に落ちていった。








 ウルオッサが戦闘不能になった事で【世界堕落コループティオ・デル・ムンドゥス】が解除された。

 それにより、どうにか十二支連合帝国側は体勢を立て直せた。しかし、ウルオッサの力によって出た被害は甚大であり、これ以上は予断を許さない状態であった。


「…ようやく、思うように動けますねぇ」


 大志は立ち上がり、カーシスを吹き飛ばした。


「おや、おや…ウルオッサはやられてしまったか…思った以上に敵がやるようだね。だとしたら困ったな…これ以上はもたもたしていられなくなったという事か。仕方ない。本来なら君を殺すつもりだったのだけど…通らせてもらうよ!」


 カーシスはそう言って大志に攻撃を仕掛けた。


「通す?そう簡単に…」


 カーシスの双剣が輝きだした。その瞬間、大志は怯んでしまった。

 ここに来て目暗ましで不意打ちをしてくるとは思わなかった為、油断してしまった。


「それでは…また…」


 カーシスは城内に入り込んだ。


「そうはさせ…」


 大志は結果に囚われてしまった。恐らく、先ほどの目暗ましの間に咄嗟に仕掛けたものだ。五分もあればすぐに解除できるが…


「くっ…厳陣!」


 本来の大志であれば五分より速く解除できる。しかし、ウルオッサの力で力を減衰させられ、そこをカーシスに手ひどくやられたせいで元の魔力を取り戻してもやはり五分はかかってしまう。

 大志は急いで決壊の解除に取り掛かった。









 カーシスは城内に入っていた。そして、『四神天城シシンテンジョウ』の最深部にまで辿り着いた。


「ここが…最深部か…」


 カーシスは辺りを見回した。辺りは彫刻が彫られており、色鮮やかな空間であった。

 そして、カーシスは目的の品を見つけた。それは鍵の形をしていた。


「来ると思ったよ…カーシス」

「これはこれは…ツネモリゲンジン殿。ここに来ることが分かっておいでで…」


 カーシスの元にやって来たのは常守厳陣である。見た目は五十台ほどの初老の男性である。


「ああ、君ならこれを狙うと思っていたよ。味方にすら自身の本当の目的を話していなかったとは…」

「話す必要が無いからね…部下は自分の都合のいいようにコントロールする力が、ある程度は必要だ」

「君は「それ」ばかりしているような気がするが?やはり、悪魔の王だけあって、嘘つきのようだね」

「悪魔の王…か…」


 カーシスは微笑みながらそう呟いた。


「一つ聞きたい。『ヴァルキリア』とは誰だ?」


 厳陣がそう言うとカーシスが嗤い出した。


「はははははははは!!そうか…それを聞く為に態々…」

「答えたまえ」

「分かったよ…教えてやろう。この…力で…」


 カーシスはそう言って悪魔の名を呼んだ。


「【悪魔女王アンタレス】」

「まさか…『ヴァルキリア』は…」


 厳陣は鍵を守る為、後ずさった。しかし、鍵は既に取られていた。


「迂闊だね…厳陣。その程度の包囲網簡単に敗れるよ」


 厳陣は鍵の周囲に結果を張っていたのだが、カーシスはさっきの問答の内に既に決壊を破っていた。


「……私を殺す気が無いと…」

「ああ、私は無意味に誰かを殺したりはしないさ。でないと、「彼女」に捧げる生贄が速くになくなってしまうじゃあないか」


 カーシスが恍惚とした顔でそう言った。


「【悪魔女王アンタレス】…君の望みを叶える時が来た…」


 カーシスはそのまま引こうとしたが、厳陣がそれを阻止した。


「死ぬよ…君」

「ここを通すわけにはいかん」


 厳陣はカーシスを睨みながらそう言った。









 董河湊とうかわみなとは敵と戦っていた。相手は「USW」の『悪魔部隊アクリアムズ』の首領だった。


「はぁ、はぁ…」


 湊は息を切らしていた。


「その程度かな?私はまだまだ余裕だが?」


 そう言って首領の男は背中に生えている木から種を飛ばした。すると、そこから兵隊が生まれた。


「厄介だね…その力」


 相手の能力は兵を無限増殖する能力だ。どうやら土壌から魔力を吸い上げ、そこから種を出し、増殖させているようだ。


「私の力は生命を生み出す力。故に【原罪人アダム】!」

 首領はそう言った。【原罪人「アダム」】とは彼の【悪魔ソロモン】の名称である。彼の名をギテア・ツリー。

 『悪魔部隊アクリアムズ』の首領である。彼は全身白いのが特徴である。

 頭髪も、目も服も何もかもが白かった。まるでセメント液のような色である。

 湊はかなり手傷を負っていた。だが、そこまで恐怖はしていなかった。それより、どうやって敵の能力を封じるかを考えていた。

 蒼たちは必ず、慧留を連れて帰る。その為の居場所を守らないといけないと湊は思った。

 彼を倒せば、戦局を持ち直す事だってできる。湊は彼の力を分析した。そして、打開策を思いついた。


「土壌から…なら!」


 湊は式神を呼び出した。氷の式神【楼枝ろうえ】だ。


「【楼枝ろうえ】!頼む!!」


 【楼枝ろうえ】周囲を凍り付かせた。そして、ギテアの身体も凍り付き、彼の身体にまとっていた木々も凍り付いた。


「な!?」

「凍った木は実を結ばないのが当然だよね」


 湊の作戦は上手くいったといえる。湊は彼の能力が植物と類似した能力だと判断し、地面を凍らせたのだ。

 耕太地面を伝って、氷はギテアの木々にまで達したのだ。


「己ぇ!」


 湊の勝ちだ。そう判断した瞬間、空から、黒い光が降って来た。その光は「USW」の兵士たちを包んだ。


「何だ?これは…」










「黒い…光?」


 地面に伏していた澪はそう呟いた。よく見ると澪の隣に気絶していたウルオッサも黒い光に包まれていた。


「任務…終了か…」


 目覚めたウルオッサがそう言った。


「どういう…事?」

「知らないよ。分かってるのは…カーシス様が今回の目的を達成させたって事だよ」


 ウルオッサは淡々と澪に告げた。実際、ウルオッサもカーシスの狙いが分からない。

 だが、ウルオッサにとってはどうでもいいことだった。ウルオッサはそのまま消えていった。


「アオチー…皆…」


 澪は曇り空を見ながらそう言った。







「「USW」敵が…引いていく…」


 湊はあの後、すぐに辺りを回った。周囲は完全にだれもいなかった。あの黒い光によって敵兵は撤退したようだ。


「…!もしかして…」


 湊はすぐに『四神天城シシンテンジョウ』へ向かった。十五分くらい走ると『四神天城シシンテンジョウ』に到着した。辺りは少し荒れ果てていた。


「やっぱり、ここも襲撃されて…」


 湊は城の中に入って行った。そして、敵が向かったとされる場所へ向かっていった。

 痕跡をたどりながら進んでいた。湊はこの城の全貌を把握しきれていない。

 故に、今、湊が向かっている場所は湊も知らない場所であった。

 湊は『四神天城シシンテンジョウ』の最深部に辿り着いた。

 そこにいたのは傷だらけで倒れている厳陣と、それを介抱しているボロボロの大志であった。


「常守総帥!黒宮さん!!」


 湊は二人に駆け寄った。


「湊君!?」


 大志は湊が来たことに驚いた。


「これは一体…」

「敵の首領がここを攻め込んできました…そして、『万物ばんぶつ古鍵ふるかぎ』を奪取されました」

「『万物の古鍵』って何ですか?」

「『万物の古鍵』とは古代に使われた道具を動かす鍵です。しかし…彼は…一体何を…あれで開ける事が出来るのは昔に使われていた古代道具を開ける事くらいしか…」

「いや…どうやら…カーシスは…太古の記憶を呼び覚ます為にあれを使うとのことだ」


 厳陣がそう言った。


「太古の記憶?」

「『万物の古鍵』は…千年前に作られたとされる鍵でそれを使って記憶を戻す事が出来るそうだ」

「それは…誰から?」

「カーシス本人から聞いた。まず間違いない。だが、奴は一体何をしようとしている鎌では聞き出せなかった」

「誰かの記憶を戻そうというんですか?」

「分からん…」


 三人はそのまま黙り込んだ。そして、しばらくすると四宮舞と澪がやって来た。

 舞は相も変わらず全身を黒のゴスロリを着ていた。黒髪黒目の釣り目が特徴の女性だ。


「何があったんじゃ?」

「『万物の古鍵』を取られました」

「何じゃと!?『鍵』を取られた!そうか…分かった。澪、傷の回復が終わり次第、妾と「USW」に向かうぞ。文句はないな?厳陣」

「ああ、こうなっては仕方ない。ただし、『鍵』を奪取する事を最優先とすること。それは守ってくれ」

「ああ、分かった」

「…なんか勝手に話し進んでるんですけど…まぁ、いっか」


 澪は微妙に難色を示していたが、蒼たちの事を気にしていたのも事実なので舞と一緒に「USW」に行く事にした。


「ただし、湊君は残ってくれ。見ての通り被害が甚大だ。立て直すには湊君の力が必要だ」

「…分かりました」

「大丈夫だよ!みっとん!絶対何とかするから!!」

「はい…会長…せめてその変なあだ名は…」

「マイマイ!どれくらいであたし大丈夫そう?」

「治療すれば明日までには大丈夫じゃろう…常守、教師をそういう風に呼ぶな」

「いいじゃん別に」


 舞は溜め息をついた。つくづく、面倒くさい奴が多いなと舞は思った。


「なら、明日には向かう。治療をするぞ」

「は~い」

「澪…気をつけてな」

「は~い」


 厳陣が澪に声をかけると澪はいつもの調子で返事を返した。














「はあああああ!!!」

「ふっ!!」


 蒼とスープレイガはお互いに刃を交えていた。力は完全に拮抗していた。


「へ…安心したぜ…随分歯ごたえがあるじゃねーかよ…」

「前の時と一緒にするな!」

「そうかよ…いいねぇ、そうこなくっちゃ………よォ!!!」

「!!」


 スープレイガは叫びながら蒼に突進してきた。蒼は黒刀で凌いだ。蒼の【天使エンゲリアス】だ。

 蒼は【天使エンゲリアス】を二種類持っている。水色で透明な刀が【氷水天皇ザドキエル】、今、スープレイガの攻撃のガードに使った黒刀が【黒時皇帝ザドキエル】だ。

 蒼はこの二本の【天使エンゲリアス】を使ってスープレイガと戦っていた。

 スープレイガ…『四大帝国会議』の一軒から接触し、幾度か戦ったが、勝敗はつかなかった。

 蒼もスープレイガほどではないがそれについては燻りを感じていた。

「ようやくだ!ようやく決着をつけられる!勝負だ!!天使!!!」


 【傲慢七魔王スプレビア・セブン・ドゥクス】スープレイガ・レオンジャックが高らかにそう宣言した。

 蒼は空に浮かぶスープレイガをずっと見つめていた。








 To Be continued

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