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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第三章】USW進攻篇
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【第三章】USW侵攻編Ⅸー王の独言(ワルツ)ー

「お~い!蒼~~!速くするぞ~~~!!」


 ラナエルが蒼に向かって叫んだ。蒼は溜め息をついていた。蒼たちは慧留を救出する為に六つに手分けして城を散策していた。本来なら蒼一人のはずだが、ラナエルが蒼を気に入り、ついて来てしまったのだ。

 ラナエルは意外と足が速く(というより蒼より速い)蒼はラナエルに追いすがるのがやっとだった。ここで無駄な体力を消耗したくないというのに…と蒼は思ったのだが、ラナエルはそんなことお構いなしだった。


「ラナエル!もう少し、ゆっくりにしよう!疲れる…」


 蒼が言うと「しょうがないな~」と言ってラナエルは蒼にペースを合わせた。


「ついて来たのはお前なんだから、俺の言うことは聞け!」

「はぁ~い」


 ラナエルは蒼の要求に適当な感じで返事をした。今の二人はまるで一つの父親と娘のようだった。


「!」


 蒼は目を大きく見開いた。


「…?どうしたの、蒼?」

「誰かいる」


 蒼とラナエルはそのまま進んでいった。そこにいたのはスキンヘッドの男だった。さらにかなり派手な服装をしており、メタルな衣装だった。見るからに関わりたくない感じの人物だ。


「ようこそ、侵入者。歓迎するよ」

「結構です」


 蒼はラナエルを抱えてそのまま逃げ去ろうとしたが、相手は逃がしてくれなかった。


「おいおいおいおい、歓迎するといったじゃないか」

「知りません人違いですマジ勘弁してください先に行かせてくださいお願いしますから」

「いやいやいや!逃げるのに必死すぎだろ君!?」


 たまらず男は叫んだ。しかし、蒼はそれでも逃げ方を伺っていた。


「だってあんた変な格好してるし、見るからに色んな意味でヤバそうだし、そんな奴と関わりたくない」


 蒼は結構、服装とかそういうのは気にするタイプであり、自身が受け付けないファッションをしている者に対してはかなり辛辣な対応を取る。


「変な格好とはなんだ!これは吾輩のお気に入りだぞ!」

「しかも「吾輩」とか…うっわ~、マジで関わりたくないですごめんなさいマジ無理です」


 蒼は男の事を全否定していた。男は若干泣きそうな顔をしていた。


「き…貴様ぁ~、今に見てろ!」


 男はそう言った。発言がすでに子供っぽかった。


「はぁ~、まぁ、通してくれそうにもないし、さっさと済ますか!」


 蒼は「天使」を構えた。蒼の「天使」は刀の形をしている。


「……腰を抜かすなよ」

「!!」


 男はすぐに蒼の視界から消えた。蒼は辛うじて刀で防御した。


「吾輩は…『アンタレス』所属、シェパード・キルガ。元『七魔王セブン・ドゥクス』だ」

「その『七魔王セブン・ドゥクス』ってのがお前らの幹部か?」

「ああ、そうだ」

「お前…「元」ってことは幹部から落とされたって事か?」

「まぁ、そうなるね」

「随分とまぁ、競争が激しいんだな」


 蒼はそう呟いた。しかし、蒼は内心かなり驚いていた。今のやり取りで分かった。シェパードは相当な使い手だ。にも拘らず、幹部ではない。つまり、『七魔王セブン・ドゥクス』は全員が彼以上ということになる。

 蒼はかつてスープレイガやドラコニキルと交戦、接触したことがある。ドラコニキルは別格として、スープレイガも相当な使い手であった。それ以外にもグリトニオンとも蒼は接触していた。


 魔力だけならシェパードは彼らと同等かそれ以下だと蒼は思った。それでもシェパードは幹部落ちしている。つまり、魔力以外にあらゆる方面で『七魔王セブン・ドゥクス』とシェパードは差があるということになる。


「……どうやら、手を抜くわけにもいかねぇらしいな」

「そうした方がいい」

「ラナエル、下がってろ」


 蒼はそのまま、シェパードに突っ込んだ。シェパードは素手で蒼の刀を受け止めた。


「な!?」

「ふん!」


 シェパードはそのまま、蒼ごと刀を振り回し、投げ飛ばした。壁に穴が開き、蒼はそのまま吹き飛ばされた。さらにシェパードは追撃を続けた。シェパードは腰にあるサーベル刀を抜き、蒼に振り上げた。蒼はどうにかして刀で防いだ。


「く!」

「まだだ!」


 シェパードが体に体重を乗せ、蒼に身動きを取らせなかった。


「霊呪法第二四五番【氷魔連刃ひょうまれんじん】!」


 蒼が霊呪法を唱えると蒼の背後から氷の刃がシェパードを襲う。


「む!」


 シェパードは氷の刃に押されるがすぐに氷の刃を粉々に切り裂いた。


「やはりこの程度の霊呪法じゃ歯が立たねぇか」


 蒼は体勢を立て直し、再び、シェパードに突撃した。


「もう、終わらせよう。揺らせ【土壌魔天アガレス】!」


 シェパードは【悪魔解放ディアブル・アーテル】を使った。【悪魔解放ディアブル・アーテル】は悪魔たちが使う「本来の力の解放」である。天使と違い、悪魔は自身の力を武器の形に変形させている。つまり、「悪魔」の解放は自身の本来の力の解放を意味する。

 シェパードは体に土色の鎧をまとっていた。さらに、頭からは二本の角が生えていた。


「なんて魔力だ…」


 蒼は絶句した。蒼は一度だけ【悪魔解放ディアブル・アーテル】を見たことがあるがそれとは別次元の魔力であった。


「【大地テラ・レイジり】!」


 シェパードが地面に両手を突き立てると地面が揺れ、そこから巨大なエネルギー弾が蒼を襲った。


「【氷水天皇ザドキエル】!」


 蒼は「天使」を解放した。その瞬間、蒼の刀身は水色の変化し、エネルギー弾を凍らせた。しかし、エネルギー弾の余波で蒼は頬にかすり傷を負った。


「まだだ!!」


 シェパードはさらに【大地テラ・レイジり】を連続で放ち続けた。蒼は【氷水天皇ザドキエル】で凍らせるが、凍るスピードが【大地テラ・レイジり】に追い付かなくなっていった。


「くっ!」


 蒼は上へ跳躍し、【大地テラ・レイジり】を躱した。しかし、蒼の目の前にシェパードがいた。シェパードに動きを完全に読まれていたのだ。


「しま…」

「うおおおおおおおおおおお!!【大地テラクエイクれ】!」


 蒼はシェパードに思いっきり両手で殴りかかれたが【氷水天皇ザドキエル】でそれを防いだ。しかし、【氷水天皇ザドキエル】から振動が伝わって来た。蒼の手から力が抜けていく。


「くっ…」


 蒼は【氷水天皇ザドキエル】を手から離してしまった。その隙を狙ってシェパードは再び【大地テラ・クエイクれ】を蒼に放った。


「霊呪法第五二〇番【三重虚神さんじゅうきょじん】」


 蒼の目の前に巨大な盾が三重に展開された。【三重虚神さんじゅうきょじん】とは、【虚神きょじん】の強化版であり、三重に【虚神きょじん】が展開される高等防御呪法なのだ。

 しかし、【三重虚神さんじゅうきょじん】もほぼ一瞬で破られた。だが、蒼が【氷水天皇ザドキエル】を持ち直すには十分な時間稼ぎである。

 蒼は再び【氷水天皇ザドキエル】を持ち、反撃した。


「【聖雨ハイリッヒレーゲン】!」


 蒼の上空から雨の刃が降りかかり、シェパードを襲う。【聖雨ハイリッヒレーゲン】はその雨に触れたものを切り裂く裁きの雨だ。


「ぐはあ!!」


 シェパードは【聖雨ハイリッヒレーゲン】によりかなりダメージを受けた。それに加え、蒼はほとんど無傷だった。


-これほどまでに力の差があるとは…


 シェパードは蒼を称賛した。シェパードは全盛期と比べ、力が衰えている。今が全力であり、精一杯だった。もはや勝負は決していた。


「だが、まだだ!!貴様はまだ力を隠している。知っているぞ【第二解放エンゲルアルビオン】というのだろう?それを出したまえ!!」


 シェパードがそう言い放った。正直、【第一解放アインスエンゲル】だけでも勝てる。しかし、蒼はこの男に手を抜く気にはなれなかった。

 何故かは分からない。しかし、蒼はこの男には全力で挑むに足る何かがあると感じたのだ。


「分かった。だが、悪いな。すぐに終わる」

「果たしてそうかな?」


 蒼が宣言するがシェパードは怖気づかなかった。蒼はシェパード・キルガに敬意を表した。蒼は【氷水天皇ザドキエル】を刀に収め、もう一本の刀を出した。勿論、この刀も「天使」だ。


「【第二解放エンゲルアルビオン】」


 蒼の身体から黒いオーラが滲み出てきた。


「こ…これは…ははは!素晴らしい!!これが【第二解放エンゲルアルビオン】か!!!なら!お互い全力を持って…」


 シェパードは言いかけたがいつの間にか右手足が一刀両断されていた。


「な…!?」


 シェパードは絶句した。蒼は既に【第二解放エンゲルアルビオン】を解いていた。たった一撃でシェパードを一刀両断したのだ。

 シェパードはニヤリと笑った。


「…………残念だ…」


 シェパードはそう言って気を失った。





「シェパード・キルガ。君は『七魔王セブン・ドゥクス』落ちだ」


 カーシスにそう告げられた。シェパードは納得いかなかった。シェパードは『七魔王セブン・ドゥクス』の元リーダーであった。しかし、リーダーの座をドゥームプロモ・ドラコニキルに奪われたのだ。シェパードはドラコニキルに決闘を申し込んだ。


「お断りします。何故、俺がいちいちそんな面倒な事をしなければならないのですか?文句があるのであればカーシス様に言えばよろしいのでは?」


 ドラコニキルはそう言うがそんな事をしても意味が無い事はシェパードは分かったいた。だからこそ、納得がいくようにドラコニキルと戦いたいと思ったのだ。


「吾輩は…吾輩は引き下がらん!!」


 断り続ける方が面倒と判断したドラコニキルはやむを得ず了承した。


「分かりました。なら、一本勝負と行きましょう」

「分かった!」


 ドラコニキルとシェパードはお互いに「悪魔」を持ち、刃を交えた。しかしー



          ポキッ…



 一瞬でシェパードの刀が折られた。シェパードは驚愕の表情を浮かべた。


「では、これで」


 ドラコニキルが去って行った。文句のつけようがなかった。ドラコニキル、彼は別次元の強さを持っていた。


「ふ…完敗だ…」


 シェパードはそう呟いた。シェパードはここまであっさり惨敗した事は悔しかった。だが、納得してしまった。彼が真の『アンタレス』の…『七魔王セブン・ドゥクス』のリーダーにふさわしい男であると。








 シェパードはそのまま目を覚ました。


「生きているのか?吾輩は…確か、吾輩は右手足を切断されて…」


 シェパードはあの時の事を思い出していた。蒼と戦ったシェパードは【第二解放エンゲルアルビオン】を使った蒼の前に完敗した。正直、あれほどの傷を負いながら生きているのが信じられないくらいだ。

 その傷はというとすっかし完治しており、傷もほとんど塞がっていた。


「一体誰が…」


 シェパードは疑問を浮かべたが答えはすぐにたどり着いた。


「なるほど…あの侵入者たちが…」


 シェパードはそう呟いた。情けない話だ、敵に情けをかけられるとは。

 蒼とラナエルの姿はどこにもなかった。恐らく先に進んだのだろう。


「ふ…」


 シェパードは自嘲するように笑った。そう、シェパードがあそこまで蒼に勝つことをこだわった理由はただ一つだ。


「吾輩は…『七魔王セブン・ドゥクス』に戻りたかった。吾輩等は恐らく、カーシス様に利用されているだけなのは分かる…だが…それでも…」


 一度頂点に上り詰めた満足感、高揚感は計り知れないものがある。そして、逆に、栄光からの転落の恐怖もまたとてつもなく大きいのだ。

 シェパードはドラコニキルに王の座を取られ、絶望、恐怖した。そして、思い知らされた。「あの男には勝てない」と。


 そして、シェパードはずっと、燻っていたのだ。そんな時に蒼たちは現れた。ここで功績を上げれば、また、『七魔王セブン・ドゥクス』に帰り咲く事が出来るとシェパードは思ったのだ。しかし、結果は…


「まぁ、それも構わなかった訳だな…まったく…情けない…」


 シェパードがそう言っていると五人ほどの悪魔がやって来た。


「やぁ、『悪魔部隊アクリアムズ』諸君」


 シェパードは『悪魔部隊アクリアムズ』にそう言った。

 『悪魔部隊アクリアムズ』とは『アンタレス』の部隊の一つだ。『アンタレス』は最高幹部の『七魔王セブン・ドゥクス』、偵察隊の『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』、そして、遊撃隊のが『悪魔部隊アクリアムズ』だ。

 『悪魔部隊アクリアムズ』とは、構成人数は一〇〇名程であり、普段は看守が主な役目だ。戦闘面でもそこまで戦闘に特化した集団という訳ではなく、あくまでも現場の後始末が主な仕事だ。


「ここで、戦闘があった様子であるが敵はどうなりましたか?」

「………逃げられてしまったよ。吾輩はこの様だ」


 『悪魔部隊アクリアムズ』が尋ねるとシェパードはそう言った。


「敵を逃すのは言語道断ですよ。悪いですが、連行させてもらいます」


 シェパードは大人しく『悪魔部隊アクリアムズ』に連行された。シェパードは傷は治っているとはいえ、魔力がほぼ空だ。今の状態では彼らには勝てないだろう。借りに勝ったとしてもほかの者たちに追撃を受けて終わりだ。

 それに、敵に情けをかけてもらった命だ。もう、死ぬ覚悟はできていた。

 シェパードは身体を魔力で出来た縄に拘束され、『悪魔部隊アクリアムズ』に連れていかれた。






 蒼とラナエルは城を走り続けていた。その時ラナエルは少し前の事を思い出していた。


『ラナエル、お前、回復系の術使えるか?』

『え?つ…使えるけど…?』

『なら、あいつを治してやってくれ』


 蒼の申し出にラナエルは驚いた。


『え?何で?敵同士でしょ?』

『俺はあいつを倒すのが目的であって殺すことじゃねぇ。治してやってくれ』


 蒼がそう言うと「分かった」と言って治療を始めた。ラナエルが使う回復術は治療する者の魔力や霊力を増幅させ、増幅させた魔力や霊力を回復に使うという、治療系の術の最も一般的なものであった。

 蒼は慧留の時間の巻き戻しがいかに異質かが、ラナエルの回復術を見て改めて実感した。慧留の強大な力が「USW」に狙われるのもうなずけるものだ。

 ラナエルは走る蒼の後ろを見つめた。


「やっぱり蒼は変だよ。自分を殺そうとした奴を助けるなんて…」

「別に変でもないだろ?」

「変だよ」

「そうか?まぁ、いいや、先に進むぞ!」


 蒼はそう言うと速力を上げた。「さっきはもうちょっとゆっくりと言ったのに…」とラナエルは呟いた気がしたが蒼はスルーした。





 美浪は謎の気配を察知し、その敵と交えていた。


「あなたは?」

「僕は元『七魔王セブン・ドゥクス』のカルフェだよ」

「元?」

「うん、元だよ。まぁ、そんなことはどうでもいいよね。侵入者は殺せと命を受けてるんだよ。死んでもらうよ」


 カルフェが美浪に殴りかかった。しかし、美浪はその攻撃を躱した。その後、美浪はカルフェに追撃をした。


「やるね…」


 カルフェは自分の腰にある刀を取った。


「切り裂け、【切断王子ゼパル】」


 カルフェはいきなり【悪魔解放ディアブル・アーテル】を使用。両手が鎌のようになり、体中に黒い体毛で覆われていた。


「【悪魔解放ディアブル・アーテル】…」


 美浪は素手でそのままカルフェに突進したが、カルフェの鎌に触れた瞬間、体中が切り刻まれた。


「無駄だよ…僕の【切断王子ゼパル】は触れただけで対象を切り刻む」


 カルフェはそのまま美浪を切り刻んだ。美浪の全身からは血が噴き出していた。明らかに重症であった。


「うぅ…」


 美浪は地面に倒れこんだ。


「まだだ…」


 美浪は立ち上がった。そう、美浪はここで負けるわけにはいかなかった。慧留を…助けなければならない。


「その傷でまだ立てるのか…見かけによらずタフだな」


 カルフェが呆れたようにそう言った。


「私は…負けられへん…」


 美浪は慧留と過ごした日々を、それだけではない。蒼や一夜、屍、狂、薊、港、遥に澪の事も思い出していた。

 迫害されてきた毎日に光を灯してくれた仲間たちを思い出していた。そして、覚悟を決めた。

 美浪の身体が巨大化していく。「神獣化」だ。体毛が色白の巨大な狼の姿をしていた。


「「神獣化」か…変わった力を持ってるね…だが、その程度での霊圧では僕には勝てないよ!」


 カルフェは美浪に突撃した。美浪は巨大な爪でカルフェに攻撃を仕掛けた。力はほぼ互角であった。しかしー


ッ…」


 ダメージを受けていたのは美浪の方だった。相手は単純な膂力だけでなく、それ以上に切断力が非常に高い。

 「神獣化」した美浪は攻撃能力は非常に上がるが防御能力はそこまで上がっていない為、却って的がデカくなってしまうのだ。


「やはりこの程度か…」


 カルフェはそう呟きながら美浪の巨体を押し倒した。美浪の身体は傷だらけになっていた。


-このままじゃ、やっぱり駄目だ!


 美浪は胸中でそう呟いた。そして、美浪は「神獣化」を解いた。そしてー美浪は目を閉じた。


「何をするか分からんがその前に決めるまでだ」


 カルフェは美浪にとどめを刺そうとした。しかし、美浪の霊力の余波で吹き飛ばされた。


「何!?いったいどこからこんな…」


 カルフェはそう言ったがカルフェは違和感に気付いた。霊力の質が「変わって」いた。


「貴様…まさか…「憑かせた」のか!?」


 カルフェはそう言い放った。そう、美浪は自身の身体に霊を憑かせたのだ。【神掛かみかかり】。それが今美浪が使っている術の名称だ。

 【神掛かみかかり】とは自身の身体に霊を取りつかせ、爆発的な力を得る術だ。だが、美浪の【神掛かみかかり】は「神獣化」と組み合わせて初めて大きな力になる。しかし、美浪はこの二つの力を組み合わせることがまだ出来ていない為、別々で出すしかない。

 当然、【神掛かみかかり】だけでも相当強力な力である。美浪の身体に憑いているのは狼の神である。

 姿は「神獣化」と違いさほど変化はないものの、美浪の身体から狼の形をした霊力を纏っていた。そして、先ほどとは比べ物にならないほどの霊力を放出していた。


「はあ!!」


 美浪はカルフェに突進をした。あまりの速度にカルフェは目が追い付かず、モロに喰らった。


「がはっ!!」


 カルフェはそのまま吹き飛ばされた。だが、すぐに体勢を立て直し、美浪に向かっていった。しかし、美浪は霊力の膜のおかげでダメージを軽減していた。

 二人は激しい殴り合いをしていた。ほぼ互角であったが、分が悪いのはやはり美浪の方であった。いくら相手の攻撃を軽減出来てるからといっても攻撃性能はやはり向こうの方が上だ。

 しかし、殴り合いによりカルフェもかなりのダメージを受けていた。美浪の力も神の力だ。悪魔にも引けを取らない。


「だが、甘い!!」


 カルフェは美浪の一瞬の隙を突き、美浪の腹に右手をを突き刺した。しかし、美浪はカルフェの足を掴んだ。


「捕まえた…」

「しまっ…」


 美浪は左手で掴んだカルフェの腕を離さず、残った右手にありったけの霊力を込めた。


「【狼砲ろういづつ】!」


 美浪はカルフェの腹に思いっきり殴りつけた。


「がああ!!」


 カルフェはそのまま吹き飛ばされ、意識を失った。美浪の勝ちだ。


「死ぬかと思った…」


 美浪はそう呟いた。カルフェは元の姿の戻っていた。【悪魔解放ディアブル・アーテル】が完全に解けたのだ。


「いろいろ聞こうと思ったけど…無理そうだね…」


 美浪はそのまま座り込んだ。【狼砲ろういづつ】をまともに喰らえば三日は目を覚まさない。美浪は【神掛かみかかり】を解かず霊力の膜を自身の身体に留め続けた。すると、傷が徐々に治癒していった。【神掛かみかかり】は神を自身の身体に取りつかせる能力だ。神の力を持ってすれば傷を治癒する事も出来る。


「う~ん。服がボロボロ…どうしよう…というか、私戦うたんびに服ボロボロになってる気がすんねんけど…」


 美浪は「アザミの花」との戦いでも服をボロボロにされている。デジャブを覚えずにはいれなかった。

 とはいっても今回はかなりボロボロになっており、このまま動くのは少し…というか色々な意味で危ない気がした。

 どうしようか悩んでいるところ、いくつかの気配を感じた。三人ほどだった。

 美浪はそのまま隠れた。彼らは『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』だ。

 主に事件現場の捜索を担当する者たちだ。偵察が主な役目の為、一人一人の戦闘能力は高くない。どうやら、彼らはここを嗅ぎつけたらしい。


「これは…」


 『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』のうちの一人がそう呟いた。そこには気絶しているカルフェがいたからだ。


「まさか、例の侵入者の仕業か…」


 美浪はどうしたものかと岩陰に隠れながら考えた。そして右手を左の掌にポンと置いた。


「よし、一か八か…」


 美浪はそう言って『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』の前に立った。


「何だ!貴様は!?」


 相手は明らかに美浪の姿に狼狽していた。

 美浪は衣服が殆ど裂けていた状態だった。美浪はその事に気が付いたのか顔を赤らめたが、『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』のうちの一人を今までで一番速い速度で殴り飛ばした。速すぎて、ほかの二人は何が起こったのか気付いていなかった。


「「え?」」


 そして残りの二人も気が付かないうちに倒され、気絶していた。


「はぁ、はぁ、もう無理…二度とこんな目に合いたくない…」


 美浪は涙目になりながらそう言った。そして、美浪は三人の内一人の服を奪った。そしてそのまま着替えた。三人の内一人が女性だったようで、サイズは美浪とほぼ同じくらいであり、ピッタリであった。


「うん!これなら大丈夫!!まぁ、気絶させた人には気の毒だけど…」


 美浪はそう言った。美浪が着てる服は全身が黒で構成されている『アンタレス』共通の軍服だ。


「これで、ごまかせないかな…なんて…」


 美浪がそう言っていると他にも人が来た。美浪はこのままではまずいと思い、そのまま先に進んだ。






「な…これは…」


 来たのはまたもや『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』の者であった。彼らはいくつかの班に分かれ、少数で行動することが多い。


 『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』の総人数は1万人。『アンタレス』の三つの部隊で最も人数が多い。


「カルフェ様と残り三人を運べ!すぐに治療させるんだ!」


 『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』の男がそう言った。『悪魔部隊アクリアムズ』と違い、『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』は穏健派が多く、無暗に牢獄に入れたりしない。


「しかし…何故、服を取られている者がいるのだ?訳が分からんぞ」


 男はそう呟いた。






「なぁ、なぁ、蒼~。他の五人は大丈夫なのか~?」


 ラナエルが蒼に聞いてきた。


「大丈夫だ!あいつらならきっと」


 蒼はそう言い切ったがどこか自身なさげであった。ラナエルは蒼の心情を少し察した、蒼も不安はあるが信じるしかないのだと。


「そっか、じゃあ、質問!何で蒼たちはここに来たの?何か理由があるんでしょ?」


 ラナエルはずっと疑問に思っていた。蒼たちはなぜ危険を冒してまで「USW」の…しかも「USW」最強の戦闘部隊『アンタレス』たちがいるこの『夜魔殿オプスデラカストラ』に進入してるのかがラナエルは疑問に思っていた。


「………」


 蒼は黙り込んだ。


「話したくないなら…話さなくていいけど…」


 ラナエルがそう言ってしばらくしてから蒼は口を開いた。


「仲間を助けに来た。俺の仲間の一人がこの城にいる奴等に拉致されたんだ。だから、俺たちはそいつを助けに来た」


 蒼はそう言った。ラナエルは「それだけの為に?」と蒼に問いかけた。


「それだけだ。あいつは…慧留は仲間だ。助ける理由なんてそれだけで十分だ!」


 蒼は走りながらそう言った。


「蒼は…人が良すぎるよ…」


 ラナエルには理解できなかった。たった一人の者の為に助けに行く蒼が…


「俺だけじゃない。ここに来た俺の仲間たちも同じだ。助けに来た奴らだけじゃない。あいつを必要としてる奴らはたくさんいるんだよ」

 蒼はそう言った。そう、蒼は慧留と出会って確実に変わった。


-あいつは俺の世界を変えた奴だ。そんな奴を…見捨てるわけにはいかない!


「蒼が命を懸けてまで…そこまでするに足りる人なのか?」


 ラナエルは蒼に尋ねる。


「ああ」


 蒼は即答した。蒼の決意が今更揺らぐ筈もなかった。


「そっか…エル…だっけ。どんな人か、わたし、会ってみたいぞ!」


 ラナエルが笑顔でそう言うと蒼はニヤリと笑った。


「ああ、この戦いが終わって、慧留を助け出したら合わせてやるよ!」


 蒼はそのまま、進んでいった。








「報告です!シェパード・キルガ並びにカルフェ・オルーウが侵入者によって撃破されたとのことです!」


 ここはカーシスがいる執務室だ。カーシスは『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』の報告をのんびりと聞いていた。


「そうか、ご苦労、引き続き、報告を頼むよ。なぁに、心配いらないさ。まだ、どちらもそこまでは戦局は動いていない。まだ、ね…それに『七魔王セブン・ドゥクス』は誰一人としてやられてはいない。焦るのはその時になってからでもいい」


 カーシスがそう言うと「はっ」とだけ言い、『魔捜隊アビオン・デ・レコノシミエント』の男はそのまま去って行った。


「はは、彼らも元『七魔王セブン・ドゥクス』だ。『アンタレス』の中でも屈指の実力があるのだがね…それをこうも容易く倒されるとは…中々やるじゃあないか…」


 カーシスは嗤いながらそう言った。これほどの高揚はカーシスは久しぶりかもしれない。カーシスは王の一族として生まれた。

 そう、それはクリフォトの…


「クリフォトは不滅だ。我々の力は…絶対なのだ。私がこそがこの国の王!」


 彼が口にしてるクリフォトとはクリフォト・ユールスナールの一族の事である。

 クリフォトとは「USW」の初代総帥を務めていた男だ。彼の一族はとある事情により、滅ぼされた。

 カーシスはその生き残りである。今のカーシスは名前を変えており、カーシス・ベルセルクと名乗っている。


「ふ…ヘリオスには随分舐めた真似をさせられたものだ…」


 カーシスが口にしたヘリオスとは「USW」の二代目総帥の事である。二代目総帥は今から一九〇年前の総帥である。

 カーシスは何故その男の事を口にしているのか…


「まぁ、いい。これから我が宿願がかなう時が来るのだから」


 カーシスは待ち焦がれていた。この時を。


「しかし、まだその時ではない。なぁに、時間はある。楽しもうじゃあないか」


 カーシスは夜空を見上げていた。彼は少し、昔の事を思い出していた。

 ある戦いの事、交わした約束を思い出していた。


「ふっ…私も年を取ったものだな」


 今表向きに政治をしているタブラスは第二十代総帥である。随分と時間が経ったなとカーシスは思っていた。

 カーシスはそのまま書斎に合った本を読み始めた。「USW」の歴史についての本だ。


「歴史の一部…クリフォトの後は部下であったヘリオスが総帥を受け継いだとされている。そして、三代、四代と続いていったが問題があった。五代目のナマ・ケモノが総帥になってから政治の力が衰退し始めた」


 カーシスは独り言のように語り始めた。


「そして、それを皮切りに『アンタレス』が作られた。………と、されている。だが、『アンタレス』とはこの国を作り出した悪魔の名であり、またの名を『ヴァルキリア』とも呼ばれている」


 そう、「USW」は四大帝国で最初にできた国とされている。それには悪魔が深く関係していた。悪魔は人間と契約して力を発揮する者も多い。

 そう、一部の悪魔は人間と手を組んだのだ。その手を組んだ首謀者が『アンタレス』と呼ばれる悪魔だ。そして、アンタレスは二百年前、クリフォトと手を組み、『三大皇族』壊滅の一役を買った。


「少なくとも、「USW」の悪魔たちは人間たちと繋がりを深く持っている。天使もそうさ。他は知らないがね」


 カーシスはそう言った。


「歴史は常に虚像と捏造で語られるのだ…いや、そもそも、この世界に真実も嘘もないのかもしれないね」


 カーシスはそう呟いた。






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