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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第三章】USW進攻篇
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【第三章】USW侵攻編Ⅵ-双極の決戦-

 月影慧留つきかげえるは今、公園でドゥームプロモ・ドラコニキルと遭遇していた。白と黒のオッドアイに黒髪にストレートヘアーが特徴の黒ずくめの青年であった。その瞳は不気味なものがあった。


「俺と来い、ツキカゲエル」


 慧留は動揺していた。いきなり、因縁の相手に「自分の元に来い」と言っているのだ。動揺もすると言うものだろう。

 無理もない、慧留は一度、彼の仲間であるスープレイガに殺されかけたのだ。動揺するなと言った方が無理な話だ。

 しかし、今現在、生殺与奪の権利があるのは慧留ではなく、ドラコニキルの方であった。それは誰が見ても明らかであった。


「………」


 慧留は黙り込んでいた。どうすればいいか分からなくなっていた。今の慧留はライオンを前にした弱い草食動物と同じだった。


「さもなければ殺す。お前をじゃない。「お前の仲間」をだ」


 ドラコニキルはそう宣言した。慧留は驚きの表情をした。何故なら、慧留ではなく、その仲間を殺すと言い出したのだ。ますます、ドラコニキルの目的が分からない。

 しかし、一つ言える音はドラコニキルは慧留を狙っている。理由は分からないが、それは間違いなかった。


「お前に選択権は無い。これは交渉じゃあないんだ。命令だ」

「ふざけないでよ、なんでそんな…」

「そうか、なら、お前の仲間を殺すとするか」

「…!」


 慧留は明らかに動揺していた。思考が上手く回らない。正常な考えが出来なくなっていた。まったく、自分の臆病さに嫌気が指すと慧留は思った。


「冗談だ、お前が俺の命令に従いさえすればいいんだ。そうすれば、今いる兵たちを引き上げるよ」


 ドラコニキルはそう言った。慧留はそれに従う他なかった。ドラコニキルは見たところ、あまり面倒なことを起こしたがらないタイプだ。

 ドラコニキルの要求を呑めば、ドラコニキルはすぐに兵を引き上げるだろう。



「もう一度言う、俺と来い、ツキカゲエル」








 時神蒼ときがみあお兎咬審矢とかみしんやは『機械魔兵アガティ』と交戦していた。

 あれから、数十体の『機械魔兵アガティ』を倒したが、まだまだ『機械魔兵アガティ』は町中を暴れ回っていた。

 魔道警察官たちは民間人たちを避難させていた。蒼たちも『機械魔兵アガティ』と戦いつつ民間人の避難を促していた。


「時神君、兎咬くん、住民の避難は既に済んだ。君たちはもう引き返したまえ!」

「いや、まだだ!民間人の避難は済ましたが、魔道警察官たちは戦っている。俺たちも行く!」

「そうだな、ここまで来てはもう引き返す気にはなれんな」


 常守厳陣つねもりげんじんが蒼と兎咬に撤退を促すが二人は聞き入れなかった。

 蒼は誰かが戦っているというのに引き返す気にはなれなかった。無駄な犠牲を出したくないというのが蒼の考えだ。

 一方、兎咬はまた別の考えだ。魔道警察は兎咬にとって身内の様なものだ。魔道警察は四大帝国会議を機に一新した。

 その時に兎咬の仲間も多くが魔道警察に所属する事となったのだ。仲間を見過ごすという選択肢は今の兎咬には無かった。

 そして、厳陣ははぁと息を吐き、二人の意思を尊重した。


「分かった。だが、くれぐれも無理はするな」

「「分かりました」」


 二人はそのまま戦場を駆け抜けた。

 二人が走っていると目の前に四宮舞しのみやまいが三体の『機械魔兵アガティ』と交戦中であった。


「く…こいつは厄介じゃの」


 舞が追い詰められているのは誰から見ても明白であった。


「【魔装爪マソウソウ】!」


 兎咬は霊力で作った巨大な爪を出現させ、『機械魔兵アガティ』の動きを止めた。


「今だ!時神蒼!!」

「霊呪法第八八八番【白城五芒星ホーリーペンタグラム】!!」


 兎咬の叫び声と共に蒼は霊呪法を放った。『機械魔兵アガティ』の下から五芒星の陣形が発生し、そこから白い光が現れ、三体の『機械魔兵アガティ』を木端微塵に消し飛ばした。


「はぁ、はあ、はぁ…」


 蒼は膝を付き、かなり息を切らしていた。既に限界を迎えていたんだ。しかし、蒼は負けじと再び立ち上がった。


「すまんな、助かった」


 舞はそう言った。舞は蒼たちの通う一宮高校の教師であり、一宮高校の創設者の一人である。一宮高校の教職員の中でも最年長の妖怪だ。

 しかし、彼女の身体は非常に小柄であり、見た目も中学生の様な幼い顔立ちをしている。黒髪黒目のゴスロリが印象的な少女の姿をしている。とても、一宮高校最年長者には見えない。


「無事で何よりだ。さぁ、ここから速く離れるぞ」

「ああ、そうじゃな」


 兎咬が避難を促し、舞がそれに答えるが、再び『機械魔兵アガティ』が出現した。今度は五体もいた。


「逃げるぞ!!」


 兎咬がそう言うと、蒼と舞もそれに従い、逃げた。青とて馬鹿ではない。勝ち目のない戦いにわざわざ挑むようなことはしない。命を懸ける場面である時はなおさらだ。

 逃げることは決して恥ではない。逃げることは時として、戦うことより重要となる時もある。戦いはあらゆるシチュエーションで行われる。

 その中で、自分にとって有利な状況もあれば、その逆もある。有利な状況であればそれを生かして戦い、勝てばいいが、後者である場合は逃げるのが賢い選択だ。

 いったん身を引いて、態勢を立て直し、有利な戦況に持ち込む。それも立派な戦術であり、戦いにおける重要な戦術だ。

 無策で挑んで勝てるほど戦いは甘くはない。それが戦争となれば尚更だ。

 今、蒼も兎咬も相当消耗している。そもそも、二人は修行を中断した時点で体力と霊力がかなり消耗しており、そもそものコンディションが最悪であり、そんな中、「USW」の兵器である、『機械魔兵アガティ』に挑んでおり、それらを数体倒すのに蒼は八百番台の霊呪法を連発で使用しており、兎咬も蒼のサポートをしていた為に二人ともジリ貧になっていた。

 八百番台の霊呪法は強力無比であるが発動に時間が掛かる上に霊力の消耗が激しい為、乱発は自身の首を絞めるのと同じだ。

 兎咬は蒼がスムーズに霊呪法を発動させる為に「霊凝術レイギョウジュツ」を使っており、蒼程では無いにしろ、着実に疲れは出ていた。

 兎咬が使う術は「霊凝術レイギョウジュツ」はその名の通り、自身の霊力を固めて有機物に変え、自由に操ることが出来る、汎用性の高い術だ。

 馬力も相当あり、兎咬の実力はあの赤島英明と同等と言っていい。兎咬もかなりの実力を持った手練れなのだ。


「ここまでくればひとまずは安心だ」


 兎咬は息を切らしながらそう言った。まぁ、ひとまずはというだけで十分に安心できる状態ではなかったが。


「四宮さん以外の先生は?」

「四宮「先生」だろ?時神。まぁ、よい、儂以外は既に退避しておる。儂以外、まともに戦えんからのぉ」

「そうか…あんたも逃げた方がいい」

「儂を子ども扱いするな!それにしても貴様、随分と元気がよいの?前の戦いでコテンパンにされてへこんでいて姿をくらませたと聞いたが?」


 舞が蒼に尋ねると蒼はバツが悪そうな顔をした。そう、蒼は前の戦いで自身の力を制御しきれず、スープレイガにやられた。だからこそ今まで厳陣の元で鍛えていたのだ。


「そのことはもういいだろ?んな事よりあんたは逃げた方がいいですよ?」

「…儂も舐められたもんじゃの。「本来の力」を使えば、あんなものすぐに倒せるわ」


 蒼がそう言うと舞が啖呵を切った。舞は言霊を使う妖怪だと聞いていた。その彼女がまだ力を隠しているというのか、蒼は些か疑問に思った。


「本当かよ?」


 蒼は信用できないと言った顔をしていたが、舞はスルーした。どうやら、この件に関しては触れたくないようだった。


「行くぞ!」


 舞は言霊を唱えた。そして、後ろから黒い猫の様なものが出て来た。


「何だ?それは!?」


 兎咬が聞くと舞はすぐさま答えた。


「これは使い魔と言って魔女が使役することが出来る術じゃ」

「あんた魔女だったのか?妖怪じゃないのかよ!?」


 蒼はそう言うと舞は蒼の疑問にすぐ答えた。しかし、妙だ。使い魔は通常、契約者と魔力が直結リンクしてる筈だ。しかし、見たところ舞と使い魔は魔力が直結リンクしてる様子が無い。どちらかというと舞自身が「無から有を生み出した」ように蒼は思えた。

 いずれにせよ、舞のこの発言が嘘である事は蒼は容易に分かった。兎咬はこの手の事にあまり詳しくないのですぐに納得したようだが。


「儂はある事情があって今までこの力は使わずにいたのじゃ」

「ある事?」

「今話すことではない」

 舞はそう言って使い魔を操作した。すると、猫が『機械魔兵アガティ』の上に乗り爆発した。そして、『機械魔兵アガティ』は粉々になった。


「何をした?」


 兎咬が舞に尋ねるが舞は答えなかった。舞は頭を押さえた。何やら苦しそうにしていた。


 -そこまで今の技は消耗が激しいというのか?


 蒼は訝し気な顔をした。舞には恐らく何か秘密がある。しかし、今はそんな千作をしている場合ではなかった。蒼たちは一刻も早く、この『機械魔兵アガティ』を撃退せねばならない。


「先を急ぐぞ!」


 舞がそう言うと三人は走り出した。そして、そのまま戦いを続けようとするが、突如、光の柱が発生した。そして、光の柱は『機械魔兵アガティ』たちが光に包まれ、消えていった。


「これは…」








 その光はグリト二オンたちも包まれていた。


「任務完了か…」


 グリト二オンがそう呟いた。任務完了という事は彼らの目的は達せられたという事になる。


「そうみたいだねー」


 ウルオッサがそう呟いた。どことなくホッとしてるように見えた。


 -まさか…


 大志が後ろを振り返る。

 すると、ロムとエムも光に包まれており、すぐさま消えていった。


「一体…何が…」


 湊はそう呟いた。状況が全く読めない。ウルオッサたちが白い光に包まれたかと思うといきなり消えていったのだ。


「あの光は何だ?」


 屍が質問し、答えたのは大志であった。


「あれは『ゲート』の光ですね。『ゲート』は「USW」の化学兵器の一つで自身の生きたい場所を座標指定で移動できるのですよ。あれはその光です。『ゲート』のから放たれた光を浴びると自動的に指定された場所へ移動されます。恐らく彼らは「USW」に戻っているでしょう」

「あなたは一体何者なんですか?」


 遥が質問をしてきた。


「これは申し遅れました。私は常守厳陣の側近の黒宮大志と申します。千年前から生きている「真祖」でもあります」


 大志がそう言うと皆動揺していたが特に動揺していたのは澪だった。


「あの人にこんな側近がいたなんて…」

「あなたとお会いするのも初めてですね。あなたの叔父には世話になっております、澪さん」


 大志が深々と礼をする。随分礼儀が正しく、紳士的な人物であるなと皆は大志を見て思った事だろう。実際はちょっと作ってる部分はある。


「取り敢えず、ここから離れよう」

「それがいいでしょう、皆さん、手負いの様ですし」


 湊がそう言うと大志が賛成した。

 そして、そのままビルの屋上を降りて行った。








「トキガミアオ…どうやら新しい力を手に入れたようだが…そんなものか…終わりだ…「鍵」は俺たちがいただいた」


 ドラコニキルは空から蒼を見つめそう呟いた。

 ドラコニキルはここに来た瞬間から蒼の変化に気付いていた。ドラコニキルは蒼の事を少しだけ見ていたのだ。

 しかし、目的を達成した今、ここにいる理由はもうない。ドラコニキルは早々に引き返すことにした。そう、ドラコニキルたちが今回与えられていた任務は「月影慧留の奪取」だ。

 そして、その目的は達成された。ドラコニキルはカーシスの真意が分からなかったがドラコニキルにとってはそんなものはどうでもよかった。


「十二支連合帝国がどう動くかな?やっぱ助けに行くんだろうな…特にトキガミアオは…」


 ドラコニキルは溜め息を吐きながらそう言った。

 勘弁して欲しいとドラコニキルは思った。

 慧留は一足先に『ゲート』で移動させた。目的地に送るまでが任務だ。手は抜けない。

 ドラコニキルは任務に対しては決して手を抜かない。それが自身の平穏を乱す要因になってしまうと考えているからだ。

 ドラコニキルはそのまま光から消え去った。







「取り敢えず助かった…のか?」


 そう言って蒼は尻餅をついた。兎咬も片膝を付いていた。激しい戦闘だったのだ。倒れるのも無理からぬ事であった。


「どうやらそのようじゃな…敵の気配が完全に消えておる」


 舞がそう答えた。その瞬間、蒼は意識を失った。


「おい!時神蒼!!」


 兎咬が叫ぶが蒼は何も聞えなかった。








 蒼は夢を見ていた。夢の中は奇妙な空間であった。白か黒か分からない、曖昧な空間。蒼はその空間の中心に立っていた。

 しばらくすると、一人の人影が現れた。その人物は蒼がよく知る人物であった。そう、月影慧留だった。


「慧留!!」


 蒼は走り出して慧留に近づくがその前に慧留の身体が散って行った。


「これは…」


 蒼は次の瞬間、辺りがおかしくなっていることに気が付いた。周りの景色が真っ黒になり、自身の身体が地面に吸い寄せられていた。


「うああああああああああああああああああああ!!!!!」


 蒼は叫びながら脱出しようともがくが結局抵抗虚しく完全に地面に沈んでいった。



「うああああああああああああああああああああ!!!!!」


 蒼は目を覚ました。目を開ければそこは自分がよく知る場所だった。そう、自分の自宅だった。


「ようやくお目覚めですか」


 近くにいたのは大志であった。近くには一夜もいたが一夜は眠っていた。どうやら今は真夜中の様だ。


「一夜…」

「彼はあなたがここに来てからすぐにここに来て、一日中あなたを見ていたのですよ」


 大志がそう言うと蒼は「そうか」とだけ答えた。


「今はもう遅いですし、寝てください。あなたが寝れば私はここから去ります」

「他の奴らは?ほら…四宮先生や兎咬…後、他の奴らは?」

「兎咬さんは厳陣の元へ戻りました。四宮さんは学校に、生徒会の皆さんはそれぞれ自宅に戻っていますよ」

「そうか」

「ささっ、速く寝てください」


 大志が急かすようにそう言うと蒼は再び眠りについた。不吉な夢を見た。慧留がいなくなる夢だ。しかし、今考えてもしょうがなかった。

 今の蒼には考えるだけの力すら残されていないのだから。

 しかし、蒼は今の自分の考えを後悔する事になる。











 朝になり、蒼は目を覚ました。それとほぼ同時に一夜は目を覚ました。


「一夜、おはよう…」


 次の瞬間、一夜は自分の顔を蒼の顔に近づけた。


 -近い近い近い近い近い!!


 蒼はそう胸中で叫ぶが一夜はひどく焦った顔をしていた。これだけ焦った顔の彼も珍しい、余程の事があったのだろうと蒼は他人事のように考えていた。


「緊急事態だ!蒼!」

「緊急事態?」

「取り敢えず、生徒会のメンバーを全員集める。話はそれからだ」


 一夜がそう言うと蒼はすぐに一夜と共に一夜の部屋へと向かった。



 それからしばらくして生徒会のメンバーが全員そろった。…ある一人を除いて…


「あれ?慧留が来てないな?」


 蒼がそう言うと一夜が「だろうね」と答えた。一夜はどうやらすべてを把握しているようだった。しかし、蒼を始め、一夜以外の生徒会メンバーは状況が全く分からなかった。


「どういうことだ?」

「簡潔に言おう。慧留ちゃんは「USW」に拉致された可能性が極めて高い」

「「「「「「「「!!」」」」」」」」


 一同はとても驚いていた様子であった。慧留が攫われた、それだけで彼らが動揺するには十分な材料であっただろう。


「それってどういうことですか?苗木さん」


 美浪が問いかけると一夜はパソコンを出し、中身を一同に見せた。


「それは今回の「USW」の作戦内容が記されていた。内容は「月影慧留を奪取せよ」という内容だった」

「何で月影を?」


 屍が質問するが一夜は「そこまでは分からない」と答えた。どうやら肝心な事は分かっていないらしい。しかし、ここで一夜を責めるのもお門違いだろう。


「とにかく!こうなってしまった以上、何としても慧留ちゃんを助けに行かないと…」

「ああ、そうだな…すぐにでも…」


 一夜と蒼がそう言い、皆も頷いたその瞬間ー


「そうはさせませんよ」


 後ろから声が聞こえ、空間が裂けた。その裂け目から現れたのは黒宮大志と常守厳陣だった。どうやら彼らの行動を彼らは見越していたようだ。


「叔父様…」

「やあやあ、久しぶりだね、澪。元気にしていたかね?」


 厳陣がそう言うと大志が話してきた。

 澪は厳陣に対してロコ地に嫌そうな顔をしていた。


「「USW」は世界最大級の軍事力を持った国です。我々では歯が立ちません。犬死ですよ。それにあなたたちが助けに行けばそれこそ敵の思うつぼです。行かせるわけにはいきませんねぇ」


 大志がそう言うと更に厳陣が続けた。

 大志が言うのも尤もだった。「USW」は圧倒的な軍事力を持っている。蒼たちだけで言っても全滅するだけだろう。


「そういうことだ、悪いが賛同は出来ん。後、澪、遥君、湊君、君たちは私の元に来てもらう。今、街は混乱している。君たちの助力が必要だ」

「そんなの納得できると思ってんですか?」

「そうですよ!友達を見捨てるなんてそんな事…」

「あたしも従えません!」


 澪と湊、遥が抗議するが、厳陣は聞かなかった。厳陣はあまり驚いた様子はなかった。まぁ、彼の事だ。全て予想済みだったのだろう。


「手を打っておいてよかった」


 厳陣がそう言うと裂け目からさらに二人の人影が現れた。赤島英明と兎咬審矢だ。


「そう言う訳だ。てめぇら戻れ」

「力尽くでも連れ戻せとの命を受けている」


 赤島と兎咬がそう言うと澪たちは諦めたようだ。このまま戦っても勝てない事は無いが事を荒立てるだけだ。それだけは何としても避けねばならなかった。


「では、行くぞ」


 厳陣がそう言うとそれに続いて大志、澪、湊、遥が裂けめに入って行き、最後に赤島と兎咬が入って行った。


「アオチー、ごめん」


 澪はそう言い残して裂け目が閉じられた。

 蒼は俯きながらも目を力強く輝かせた。








 その後、残された六人はそれぞれ何も言わずに解散した。蒼は家のベッドで仰向けになっていた。そう、蒼はもう決めていた。これからどうするのかを。

 そう、蒼は慧留を助けに行く準備をしていた。

 蒼は最初からこうすると決めていた。蒼は一人で行こうとしていたのだ。


「慧留…必ず助けに行く」


 蒼はそう言って一人で外に出て行った。

 蒼は一人である場所へと向かった。




 屍は考えていた、これからどうするべきかを。否、もう決めていた。屍は慧留を助けに行くと。

 だが、このまま黙って行かせてくれるだろうか。

 厳陣たちは必ず止めに来るだろう。簡単に行かせてくれるとは思わなかった。


「時神も必ず「USW」に行こうとするだろう」


 屍はそう呟いた。

 屍は慧留に借りがあると感じていた。慧留は「四大帝国会議」で屍たちを助けてくれた。『混獣ダイダラボッチ』になり果ててしまった魔族たちを助けてくれた。

 それだけでは無い。蒼や慧留たちと共に過ごす内に屍も心情に変化があり、屍にとって学校に仲間たちはとても大切な存在になっていたのだ。

 屍は皆同じ気持ちであると感じていた。


「ふ…俺もお人好しになったもんだな」


 屍は自嘲するようにそう呟いた。だが、屍は自身の今の選択は決して後悔しないと断言できる。

 確かに「USW」の力は強大である。わざわざ自分たちが行く必要もない。自分が死ぬかもしれない場所へわざわざ自分で攻め込む必要は無い。

 だがしかし、屍はもう覚悟は決めていた。

 屍は外に出る。そして、ある場所へ向かった。





 霧宮美浪は一人で学校に向かっていた。

 美浪は既に結論は出ていた。慧留を助けに行く。その覚悟はできていた。しかし、厳陣を搔い潜りながら「USW」に行く方法が思いつかない。なので、外を歩きながら学校に向かっていた。

 特に理由があった訳では無い。だが、何となく学校に向かっていた。

 美浪は人間ではない。それが故に友達が出来ないでいた。この「十二支連合帝国」はかつては魔族に対する迫害が激しかったからだ。他の魔族との交流もあまり出来なかった為、魔族にも友人はあまりいなかった。

 とある事情で出会った一夜が色々協力してくれ、生活は出来たが、それでも友人が出来る事は無かった。

 そんな時、慧留は現れた。美浪にとって慧留は初めてできた同性の友達だったのだ。

 美浪は慧留を助けることが出来なかった。それが悔しくて仕方なかったのだ。美浪は友を…慧留を助けたい。そう強く思った。

 厳陣の言葉にはやはり納得いかなかった。理解はしている、「USW」は危険な国だ。わざわざ死にに行かせることを厳陣が望まないことも分かっている。

 だがしかし、だからと言って助けない理由にはならなかった。美浪は納得できなかった。頭では理解しているがそれでも美浪は慧留を助けに行きたいのだ。

 美浪にとって慧留は最初の友達で助けたいと強く思ったのだ。


「絶対にこのままにはさせない」


 美浪はそのまま学校へと向かっていった。










 舞は一人で校門の前にいた。そろそろ客が来る頃だと思っていたからだ。そして、察しの通り客はやって来た。


「来る頃じゃと思っとったぞ」

「おみとおしか…」


 蒼はそう呟いた。


「なら分かんだろ?俺がここに来た目的を」

「まぁ、察しはつく。しかし、何故妾なんじゃ?」

「あんたは魔女だろ?魔女っつったら悪魔と深い関係がある魔族だ。あんたなら常守総帥を出し抜きつつ「USW」に行けると思ったんだよ」


 魔女とは悪魔と契約を交わすことでなることが出来る種族だ。しかし、契約をするには大きな代償が伴う。

 蒼は舞が一体どのような代償を支払って魔女になったのか興味があったが今はどうでもよかった。


「…はぁ~、まぁ、貴様には恩もあるからのぉ…無下にはせん。ついて来い」


 舞はそう言って歩き出した。蒼はそのまま舞について行った。

 蒼は舞の後ろについて行った。そしてやがて、陰で出来た回廊に辿り着いた。その回廊をそのまま二人は進んでいった。


「ここじゃ」


 舞と蒼が今いる場所は学校の地下だった。


「学校の地下にこんな広場があったなんてな…」


 蒼は驚いていた。かつて蒼は屍と慧留と薊と狂の五人で学校の散策をしたことがあるのだが、こんな場所は無かった。

 それにこの場所は地下にしてはかなり特殊な構造になっていた。

 地下だというのに周りは星空が広がっているし、特殊な鉱物の岩が周りにいくつもあった。


「これは…」

「ふふん。驚いておるか?ここは妾が作った場所じゃ。魔力の力で星空を作り出し、周囲の鉱物も妾の魔術によるものじゃ。まぁ、夜にしか入れないようになっておるんじゃがな」

「アンタ、言霊以外にもこんな事が…」

「いや、妾は本来は言霊以外にも多くの魔術や魔法を扱えるのじゃ。……今は訳あって使えんのじゃがな……」


 舞は複雑な表情をしていた。蒼はそんな舞に少し違和感があったが目の前の光景を見て蒼は足を止めた。何故ならそこには美浪、屍、一夜、薊、狂がいたからだ。


「お前ら…」

「考えることは皆同じってことだよ、蒼」


 一夜がそう言うと蒼は視線を落とした。


「…駄目だ、お前らじゃあ」


 蒼がそう言うと屍が拳を蒼に突き立てた。


「時神」


 すると蒼は咄嗟に「天使」で受け止めた。しかし、周りの岩が一瞬で粉々になった。


 -力が上がってる!?


 蒼も修行を積んだ。前より格段に強くなっている。しかし、その蒼ですら圧倒される力が今の屍にはあった。


「これでも…力が足りないか?」


 屍がそう言うと舞が手を叩いた。


「ほれほれ、もう確認は良いじゃろ?さっさと済ませるぞ」


 舞がそう言って呪文を唱えた。


「我が指に宿りし混濁の鍵よ、全てを閉ざし、全てを開け」


 舞が呪文を唱えると虚空に空間の裂け目が現れた。


「この裂け目の名を『黒門(ニゲルゲート)』と言う。悪魔が作り出す空間の一つで「USW(奴等)」が使う『ゲート』もこの空間を使って移動しておる。この空間を真っ直ぐ進めは「USW」につくはずじゃ。足場が無く、魔力が常に渦巻いておる。霊力や魔力で足場を作って進め」

「分かった。じゃあ、行くか!」


 蒼がそう言うと皆、眼を「黒門ニゲルゲート」に向けていた。

 そして、狂以外の蒼、屍、美浪、薊、一夜、狂の六人は「黒門ニゲルゲート」に飛び込んでいった。

 「黒門ニゲルゲート」は五人が入った瞬間、完全に閉じてしまった。


「行ったか…こうなることは分かって負ったのじゃろう?常守総帥」


 舞が言うとそこに現れたのは常守厳陣だった。蒼がここに来ることはあらかじめ予想はついていた。しかし、厳陣は彼らを止めようとはせずに行かせた。


「まぁ、行っても聞かないだろうとは思ったよ。行ってしまったのでは仕方ない。月影君の救出は彼らに任せるとしよう」


 厳陣はそう言うと更に続けた。


「さて、ここからが本番だ。「USW」の力は未知数だ。……カーシス・ベルセルク。貴様の目的は…何だ?」


 カーシス・ベルセルク、その男は「USW」の光明庁長官であり、「USW」の実権を事実上掌握している、「魔王」である。

 彼については謎が多く、厳陣が考えたところで彼の目的を知る由もなかった。








 「黒門ニゲルゲート」は真っ暗で何もない空間であった。足場もない為、霊力や魔力などで足場を作るしか方法がない。それは舞から聞かされていたがまさかここまで魔力の乱気流が渦巻いているとは思わなかった。蒼は問題なかったが、美浪などはかなり苦戦していた。


「きゃ!」

「大丈夫かい?」


 美浪が足場を崩してしまい、下に落ちそうになるが、何とか片手で一夜の霊力の足場を掴んだ。


「大丈夫です。すいません、先を急ぎましょう!」


 再び進み始めた。

 順調に進んでいるようでこのままだとすぐに出口に辿り着くだろう。

 そんな時、薊は考えていた。


 -まさか、慧留を助けに行くことになるなんて。


 薊と慧留は殆ど話したことが無い。薊は美浪とならそれなりに話していたが、慧留と話したことが無いのだ。

 何となく、薊は慧留を苦手意識していた。何故かは分からない、だが、薊は慧留の事をあまり好きになれなかった。

 別に嫌っている訳では無かった。「四大帝国会議」の時は世話になった、感謝もしてる。だが、どうしても薊は慧留の事が苦手であった。

 しかし、慧留は薊に積極的に話しかけてきていた。薊もその時は会話するものの自分から慧留に話しかけることは無かった。

 薊も普段は無表情だし、感情を表に出すタイプではないため分かりずらいが、本当は皆と仲良くなりたいと思っており、慧留とも仲良くなりたいと思っているのだ。とは言っても慧留以外とはそこそこ話す中にはなっていた。

 そんな中、慧留は敵に攫われてしまった。薊は何としても慧留を助けると心に決めていた。

 薊がいつの間にか蒼より前に先行していた。


「薊?」


 蒼は疑問の声を漏らすが薊は答えない。


「なんつーかさ、不思議なもんだな。かつては殺し合っていた俺たちがまさか手を取り合って仲間を助けに行くなんてな」


 屍が突然そんな声を漏らした。


「確かにそうだね。かつての僕たちだったら在り得なかっただろう」

「…あいつの…慧留のお陰かもな」


 一夜がそう言うと蒼が続けて言った。

 蒼は慧留と出会ってから少しづつ、しかし確実に変わってきている。


「そうやね、慧留ちゃんがきっかけやったもんね、蒼君と一夜君が生徒会に来たのも」


 美浪がそう言う。蒼はそんな事もあったなと思った。


「どうやら、俺たちの気持ちは同じみたいだな」

「馬鹿かお前は、そんなもんここにみんな集まった時点で分かれ」


 蒼が話をまとめると屍が文句を言ってきた。


「うるせーよ!確認だ確認!そんな事も分からないのかよ?馬鹿はどっちだ?」

「んだと?」

「まぁまぁ、落ち着きなよ、蒼、屍、いがみ合っている場合では無いだろう?」


 蒼と屍の口論を一夜が諫める。


「まったく、あの二人は仲がいいのか悪いのか…」


 薊がそう呟くと美浪も「そうですね」と答えた。

 薊は蒼と屍を見て、少し嬉しそうに笑っていた。


「あ、薊さん今ちょっと笑いましたね」


 美浪がそう言うと薊は顔を赤らめた。


「……!」

「笑顔も素敵ですよ、でもなんでまた…」


 美浪は薊の笑顔に疑問を持ったようで聞いてきた。


「屍があんな風に話してる姿が新鮮で…時神蒼…あの人は少し不思議。屍とあんな風に話した人はいなかった」


 薊はそう答えた。そして薊は思った。「屍はいい友達が出来たな」と。


「そっか、薊さんが今まで見てきたのは「アザミの花」のリーダーとしての屍さんだったもんね」

「多分、あれが本当の屍…」


 薊が複雑そうにそう言うと美浪はすぐに否定した。


「ううん、きっとどっちも本当の屍さんですよ。確かに、「アザミの花」の時の彼はリーダーとしてまとめないといけないから気丈にしていた所もあったんだろうけど、どっちも屍さんですよ」


 美浪がそう言うと薊は少し笑った。


「そっか…」

「珍しく、くるは無口だな…大丈夫か?」

「ああ、うん、話すような気分じゃないだけだよ…」


 狂は普段からベラベラ喋るようなキャラでも無いが無口と言うほどではない。なので、ここまで無口なのは意外と珍しかったりする。

 狂はガラにもなく考え事をしていた。慧留の事だ。実は屍と薊、狂の三人の中で一番慧留と仲が良かったのは狂である。と言うか、この二人より、狂の方が生徒会に打ち解けるのは速かった。狂は意外と人懐っこい性格をしており、生徒会にもすぐに馴染めていたのだ。

 それ故、慧留が「USW」に拉致されたと知った狂はかなり動揺したものだった。


「慧留ちゃん、必ず助けるからね」


 狂はそう呟いた。


「出口が見えて来たな」


 屍がそう言うと皆反応した。


「どうやらそのようだね」


 一夜が淡々と答える。


「ついに、「USW」に着くのね」


 薊が重苦しい表情でそう呟いた。


「大丈夫、私たちならやれる」


 美浪はそう言った。


「よし!行くぜ!!!」


 蒼がそう言うとそのまま出口である白い裂け目に飛び込んでいった。



 遂に蒼たちと「USW」との激闘が始まるのであった。



 To Be Continued

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