【第三章】USW侵攻編Ⅴ-漆黒の使徒-
今現在、正午の時間。
一宮町のビルの虚空から人影が現れた。
四人おり、その内の一人がグリト二オンであった。
グリト二オンは『七魔王』の一人である。黒人の長身が特徴の青年である。
そして、グリト二オン以外にもう一人の『七魔王』がこの中にいる。
「は~、メンドクサイ…」
そう呟いていたのはグリト二オンと同じ『七魔王』である、ウルオッサ・テディベアだ。
低身長の白人の少年で緑色の髪と垂れ眼が特徴である。
ウルオッサはかなりの面倒臭がりで有名であり、滅多に任務にも同行しようとしない。
しかし、彼の戦闘能力は『七魔王』の中でも上位に位置する。今回、同行することになったのは、まぁ、彼の気まぐれである。
「それにしても珍しいな。お前自ら進んで同行するなんて…」
「まぁ、僕にだって気晴らしをしたい時もあるさ」
「…言っておくが…これは任務なんだぞ…それを気晴らしなどと…」
「僕にとっては全ての戦いは気晴らしなのさ」
「…そうかもしれないな」
グリト二オンがそう言った。グリト二オンは知っているのだ。ウルオッサの恐ろしさを。
だが、ウルオッサは基本的には穏やかな性格の為、あまり、相手の挑発には乗らないし、穏便に済ませようとする。
好戦的な悪魔が多い『アンタレス』のメンバーの中では数少ない穏健派なのだ。まぁ、穏便に済ませようとする理由が「事が荒れると面倒臭いから」だそうだが。
「今回俺たちは陽動だ」
「てか、グリト二オン、腕切り落とされてるじゃん。大丈夫なのかい?」
グリト二オンは最初に「十二支連合帝国」に訪れた際に時神蒼と交戦し、腕を切り落とされてしまったのだ。
切り落とされた腕は未だに治っていない。
「ああ、俺の油断が招いた結果だ。気にするな」
「うん、じゃあ気にしないでおくね」
「今回は基本的に俺たちは共に行動する。散開すると戦力が落ちるからな。奴らは強い…決して侮るな」
「グリト二オンが言うんだからそうなんだろうね。うん、分かったよ。お前たちもいいね?」
他の『アンタレス』のメンバーも首を縦に振り首肯した。
他の『アンタレス』のメンバーは黒装束の服を着ており、フードで顔が隠れているため判別できなかった。
「さて…と、久々の戦だ」
気怠そうとも積極的とも取れそうな感じでウルオッサはそう呟いた。
そして、グリト二オンたちは大量の魔力を放出した。
「奴ら」をおびき出すためだ。
「さぁ、開戦だ!」
グリト二オンはそう宣言した。
大気が揺れるような振動を感じた。一宮高校生徒会一行はその凄まじい魔力を感知し、その場所へと向かっていた。
そして、湊と美浪が合流した。
「どうやら、始まったみたいだね」
「そうやね…」
さらに、澪と遥も合流した。
「みっとん、なっちゃん、準備は出来てる?」
「「はい!」」
二人が答えると遥が安心したような表情を見せた。
「良かった、心配なさそうね。後は…」
屍と薊、狂が合流した。
「屍君、薊ちゃん、狂ちゃん」
「敵はすぐそこにいるな」
「何とかしないとね」
「くるも頑張るもん!」
美浪がそう言うと三人はそう答えた。
「後はなえきんとえるるんとアオチーだけど…」
「蒼は来るか分からないわね、慧留と苗木は戦闘向けじゃないからここにいるべきじゃないわ」
「ああ、そうだな…」
遥がそう言うと屍が首肯した。
街のはずれにあるビルの屋上に気配が集中していた。
「恐らくあそこね」
薊がそう言うと皆、ビルに上って行った。
そして、最上階まで辿り着き、敵と遭遇した。
「お前は…グリト二オン!」
屍がそう言うとグリト二オンは感心したような顔をした。
「ほおう、名乗った覚えは無いが…俺の事を覚えていたのか…まぁ、いい」
「今度は何の用かな~?」
「言う必要は無い」
澪が問い詰めるも相手は答えようとしない。
相手は四人、対してこちらは七人、数的有利は取れている。
「う~ん、確かに強そうだ。グリト二オンやスープレイガが手こずったのも分かる気がするよ。驚いたな、「十二支連合帝国」にこれほどの者がいるとは…」
ウルオッサがそう呟いた。
「グリト二オン様、ウルオッサ様、ここは我々が…」
「そうだね、まずは相手の出方を見るか…」
ウルオッサがそう言うと黒ずくめの二人はフードを外した。双子の少女であった。
「双子?」
湊がそう言うと他の者たちも驚いていた。
双子の二人はかなり容姿が似ていた。違いがあるとすれば髪の色が水色と薄黄色であるくらいだ。
二人とも長い髪と釣り目が特徴的であり、不気味な雰囲気を出していた。
「私はロム・テルナ」
「私はエム・テルナ」
二人はそう名乗り同時に「悪魔」を取り出した。ロムもレムも弦の「悪魔」であった。
「「開け!【大霊魔】!」」」
二人は身体が一つとなり、一体化した。さらに、背中から触手の様なものが無数に生えていた。
見た目はあまり変わっておらず、服装の変化もない。髪の色が黄緑色になっているくらいしか変化が無かった。
「来る!」
狂がそう言うと皆戦闘態勢に入った。
苗木一夜は一人で調べ事をしていた。『アンタレス』たちの魔力を感知したが、自分が行った所で足手まといになるだけだと分かっていたので、敢えて、行かなかった。
それよりも自分に出来ることと言えば、情報の収集である。
一夜は最近、現場で戦うことが多かった為、自分の本来の役割を見失いかけていた。
「敵にボロカスにされたのは…いい薬だったって事かな」
一夜は自嘲するようにそう言った。一夜は蒼の事が気になっているし、落ち込んでいないかと言えば嘘になる。
だがしかし、いつまでも落ち込んでるようでは先に進めない。一夜はその事を分かっている。
だからこそ、自分に出来る事をしなくてはならない。
「「USW」の起源、目的、それを暴く!それが今の僕に出来る事だ!」
一夜は【電子人の眼】を使い、パソコンから情報を調べていた。
因みに一夜が使っているこのパソコンは常守厳陣が一夜に送って来たものであり、神器を造る技術を応用して造られている特殊なパソコンであり、一夜専用のアイテムなのだ。
このパソコンの名称は【アラメイ】。一夜の力を発揮するには十分すぎるほどのスペックであった。
「なぜ、あの人がこれを僕に寄越したのか知らないが…やるしか無い」
一夜は「USW」のセキュリティーを打ち破って行った。一夜の能力と【アラメイ】の力が合わされば、「USW」のセキュリティーの敵では無かった。
そして、一夜は気になる単語を見つけた。
「…『ヴァルキリア』…何だ…これは…」
一夜がそう呟くと『ヴァルキリア』の事を調べ始めた。
「『ヴァルキリア』…光明庁長官が受け継ぐ二つ名…『ヴァルキリア』は「USW」を建国した長であり、「USW」の象徴…こんな話が…」
一夜はそのまま調べ続けたがめぼしい情報は無かった。
「まだだ…まだ何か…」
一夜はそう呟いていた。
「さて、苗木君は私のプレゼントを使えているかな?」
常守厳陣はそう呟いた。
厳陣は今の「十二支連合帝国」の総帥である。つまりこの国のトップである。
彼はかつて、あらゆる魔族を研究する研究家であり、そして、魔法道具などを多く開発した発明家でもある。
彼の功績は数知れず、この国に多大な貢献をすることとなった。
しかし、彼は今現在、研究家の業界から身を引いており、現在は「十二支連合帝国」の総帥として活躍している。
更に彼は一宮高校生徒会長の常守澪の叔父でもある。
厳陣は今の「USW」の行動に危機感を感じていた。彼は澪のいる生徒会一行たちの事を把握していた。その中で情報収集に優れている一夜にはかなり注目していた。
一夜に「USW」の事を調べてもらうために彼は【アラメイ】を開発し、一夜に送ったのだ。
研究家から手を引いたとは言え、彼は優秀な発明家でもあった為、今でも魔道道具を作っている。
遥の使う魔道道具、【ハンニバル】もその一つである。
「さてと…こっちはどうかな?」
そう言って庭を見渡した。
ここは「十二支連合帝国」の本部であり、巨大な城である。そこには大庭園があり、二人の人影があった。
その内、厳陣から見て右側が時神蒼、左側が兎咬審矢である。
蒼は自身の力を制御する為、ここに来たという。そして、今修行をしていた。兎咬はその修行相手である。
蒼はどうにか自身の天使の力をコントロール出来るようになっていた。しかし、長いこと持続しない為、今こうして兎咬を修行相手として修業を続けていた。
蒼は自身の二刀の「天使」の本質を掴んだ。いや、正確には厳陣が「天使」の本質を蒼に伝えた。ただそれだけである。
「天使」にはそれぞれその存在の意味が存在する。厳陣は蒼にその事を教えたのみであり、後は蒼自身がその意味を見つけ出した。
とは言え見つけ出したのは三日前だが。本来「天使」の【第二解放】はその天使の本質と意味を見つけ出さないと使えない。
しかし、蒼はそれをせずに【第二解放】を使えていた。これは恐らく、蒼が天使と人間のハーフであったが故に使えたのだろう。そして、寿命を縮めてしまった原因でもある。
本来のやり方で「天使」を使えば、「普通の天使たちと同じように制御」出来る。
蒼は見事それをやってのけた。そして、自身の「天使」でない【黒時皇帝】の力も完全な制御下に置いていた。
本来、自身の「天使」では無い天使をコントロールすることは出来ないのだが、蒼はそれをやってのけている。
これも恐らく人間と天使のハーフであるが故だと厳陣は考えている。しかし、それと同時に何か違和感を厳陣は感じていた。しかし、その違和感が何かは分かっていない。
とは言え、今の蒼は順調に成果を上げている。このままなら戦線をすぐに復帰できるだろう。
「さてと…こちらはこちらで進めるとするか」
厳陣はデスクトップを動かし始めた。
「ぐ!」
「どうした?時神蒼!そんなものか?」
蒼が膝を付くと兎咬が挑発するように言ってきた。
「まだ…まだぁ!」
蒼がそう言うと二刀の「天使」を振り上げた。蒼は既に天使の力を使いこなせており、【第一解放】の力は問題なく引き出している。
「く!」
兎咬が苦悶の声を上げた。
「そろそろ上がりましょうか」
二人の間に一人の執事がやって来た。執事服を身に纏い、片眼鏡をかけている黒髪の青年であった。
「黒宮さん、分かりました」
兎咬は青年の名を呼んだ。彼は黒宮大志。厳陣直属の執事であり、右腕でもある。
「分かりました」
蒼も頷いた。
大志は吸血鬼と呼ばれる魔族だ。吸血鬼はその名の通り血を吸う魔族であり、人間の女性を主な餌としている。
しかし、伝承とは違い、吸血鬼は太陽を浴びると死んだりはしない。まぁ、苦手ではあるが。しかし、吸血鬼は魔族の中でもかなり長寿として知られており、戦闘能力も悪魔に準ずる力を持っている。
中でも、大志は「真祖」と呼ばれる吸血鬼の最高位であり、原初の吸血鬼でもある。「真祖」の戦闘能力は『三大皇族』に引けを取らないほどの強大な力を有している。
蒼と兎咬は庭の地面に座って休憩をしていた。蒼の隣に大志もいた。
「それにしても…不思議だよな…吸血鬼の…しかも真祖が執事をやってるなんてな。あんた一体何者なんだ?」
「おい、時神蒼!口を慎め!」
「まあまあ、審矢さん、別にいいですよ。言葉使いなんて…私にとっては取るに足らないことです」
大志はそう言い放った。確かに何百年も生きている吸血鬼だ。そんなことはどうでもいいのだろう。
「っと…蒼君の質問に答えていなかったね。う~ん、そうだね~、しいて言うなら…彼に魅力を感じたんだよ」
「魅力?」
「ええ、吸血鬼は不死に近い生命力を持っている。それだけ長いこと生きていると退屈で退屈で…そんな時に厳陣に魅入られてしまったんですよ」
大志はそう答えた。大志はこの世界が誕生した黎明期、つまり千年前からずっと生き続けている。それだけ生きていれば退屈も退屈だろう。
しかし、その大志をここまで入れ込ませるとは厳陣はただ者ではないと蒼は思った。
「さて…と、さぁ、やるか!」
蒼が修行を再開しようとするが、その時、悪魔の気配を感じた。
「これは…」
兎咬がそう言うと蒼は走り出そうとしたが、兎咬が止めた。
「馬鹿か!貴様は!貴様は体力を消耗しきっているんだぞ!足手まといになるだけだ!」
「だからって!このままじゃあ!」
蒼がそう言うと大志がふぅと息を吐いた。
「確かにあなたたちに行かせるわけにはいきませんね」
大志がそのまま立ち上がり、宣言した。
「私が行きます」
「これは…」
澪たち生徒会一行はかなり消耗していた。
「うん、まぁ、こんなものかな」
ウルオッサがそう呟いた。
ロムとエムが「悪魔」を解放してから数分立っていた。初めは生徒会一行が優勢であったが、ウルオッサが「悪魔」を使用した瞬間、途端に劣勢になった。
ウルオッサの「悪魔」はナイフ形であり、それを地面に突き刺した瞬間、澪たちの動きが鈍くなったのだ。
そこからロムとエムが攻撃を仕掛け、彼女らの触手に捕らわれてしまった。
「この力は…一体…」
湊がそう呟くが能力が分からなかった。
「僕は面倒臭がりでね…悪いがさっさと終わらせるよ」
ウルオッサがそう言うとロムとエムが止めを刺そうとした瞬間ー
「何?」
ウルオッサが驚きの声を漏らした。それはそうだろう、いつの間にか触手が切られていたのだから。
「これは…?」
美浪がそう呟くと美浪たちの目線の先に一人の人影があった。
「どうもどうも」
その人影は黒い執事服と片眼鏡かけていた青年であった。
「私は…黒宮大志と言う者です」
「黒宮…常守厳陣の右腕か」
グリト二オンがそう言うと大志は驚いた顔をした。
「私の事を知っているんですか?」
「「真祖」の事を知らないはずが無いだろう」
「私も有名になったものですね…そこまで目立ったことをした覚えは無いのですが…」
「我々の情報網を舐めないでもらいたい」
「そうですね、これは予想外でした…が、まぁ、私があなたたちを仕留めればいい話です」
大志がそう言うとグリト二オンが眼を鋭くしたのに対し、ウルオッサはクスリと笑った。
「面白いことを言うね…「真祖」とは言え、所詮は吸血鬼だ。僕たちに勝てるとでも?」
「そこはご安心ください、これでもあなたたちを撃退することは出来ますよ」
「なら、やって見給え」
ウルオッサがそう言うとロムとエムが大志に攻撃を仕掛けた。
しかし、大志はそれらの攻撃を無駄なく躱した。さらに、ロムとエムに急接近し、思いっきり殴りつけた。
「「きゃ!」」
「悲鳴を上げている暇はないですよ!」
大志がそう言うと空が曇り始めた。そして、黒い波動がロムとエムに襲い掛かった。大志の能力は「この世界の影」を支配する能力である。
影を変幻自在に操り、様々な使い方が出来る汎用性の高い能力だ。
今のは影を霊力に変換させて物理攻撃力を高めたのだ。更に大志は自身の影を鎗に変え、ロムとエムを貫いた。
「「が…は…」」
ロムとエムは逃げようとするもなぜか動けない。
「「どうして?」」
「答えは一つですよ。あなた方の影を私が縛ってるからです」
大志はそう答えた。大志は二人の「影」を完全に支配していた。
「これで終わりです」
大志は二人の「影」を切り裂いた。その瞬間、「影」と同じダメージがロムとエムに与えられた。
大志は「影」を自在に操る、それは他人の影であってもだ。その影を自身の支配下に置くことで影の形を自由に変質させることが出来、それは影の主にも反映される。つまり、「影」に攻撃すれば、その影を持っている本人にもダメージを受けるのだ。
しかも、ダメージは内部まで与える。一発一発が並みの人間では即死レベルのダメージだ。
「「ああああああああああああああああああ!!!!」」
ロムとエムが絶叫を上げた。そして、身体全身が血まみれになっていた。そして、【悪魔解放】は完全に解けていた。
「限界ですね…本人の意思に関係の無い【悪魔解放】の解除は持ち主の限界を意味します。ああ、後その程度の力では私を弱体化させることは出来ないよ」
「……そのようですね、あなたの「影」が僕の力を全く受け付けない」
「私は先ほどまで自身の身体に影を纏っていた。そのおかげであなたの攻撃を防げたんですよ」
「どうやら、あなたの力と僕の能力では相性が最悪のようだね…」
ウルオッサが憎々しげに呟いた。
そう、ウルオッサが先ほどまで使っていた能力は「敵の身体能力、霊力及び魔力を低下させる能力」である。
それにより、澪たちは力を出せずに一方的にやられていたのだ。
しかし、大志はそれを瞬時に理解し、自身の影で目視できない程、自身の影を薄め、身体に纏い、ウルオッサの力を防いでいた。
「はぁ、めんどくさいけど…僕も本気でやるしかないようだね。グリト二オン」
「分かっている」
グリト二オンとウルオッサは「悪魔」を構えた。グリト二オンの「悪魔」は大きな戦斧だった。ウルオッサは短い短剣だった。
「さてと…ここからですね」
大志はそう呟いた。
ウルオッサは大志の実力を見て警戒態勢を取っていた。普段の彼ならこんなことはあり得ない。大志はそれほどの強さを持っているということだ。
グリト二オンもそれを感じ取っており、大志を警戒していた。
「貴様の能力は影の支配だ。なら、影に気を付ければ問題ない」
「果たして…そうですかね?」
グリト二オンがそう言うと大志は余裕ぶっていた。
「!グリト二オン!」
ウルオッサがグリト二オンの名を呼んだ。すると、グリト二オンがいつの間にか吹き飛ばされていた。
「がはっ!」
「私の影は目視出来ないようにすることも出来ます。あなたのそれは浅知恵と言うものです」
グリト二オンが再び、元の位置に戻った。
「さて…王手と行きましょうか」
「舐めるな!」
「ん?これは…『アンタレス』の最近の作戦の報告書か…」
一夜は【アラメイ】の力で「USW」の情報を調べていた。そして、遂に「USW」の組織、『アンタレス』の報告書を見つけることが出来た。
「ようやくか…」
一夜は報告書に目を通した。まず初めに出た情報は「四大帝国会議」の資料であった。「四大帝国会議」の騒動を事細かく記されていた。
「この報告書を書いたのは…ドゥームプロモ・ドラコニキル…『アンタレス』のリーダー…あいつが書いたものか…てっきりあの会議に参加していたスープレイガかと思ったが…そうでは無いのか…」
一夜は更に情報を調べ上げた。次に出て来たのはグリト二オンとドラコニキルが二人でこの国に来た時の報告書だった。
「な…あいつら…閻魔が殺された現場の第一発見者だったのか…」
無論、一夜は閻魔弦地が何者かに殺されたということは知っていた。しかし、第一発見者が彼らであったとは知らなかったのだ。
「報告書で嘘を書くとは思えない…それにドラコニキルとグリト二オンは見たところ国に対する忠誠心もあるように思えた…ならこれは事実か…」
一夜は閻魔弦地を殺したのは『アンタレス』だと思っていたが、この報告書を見る限りではどうやら違うようだ。
「まぁ、この報告書もどこまで本当か分からないがな…」
一夜はそう呟いた。確かにこの報告書を全て信用するには些か情報が足りない。信じられないのも無理はない。
しかし、一夜はこの報告書に書かれていることが真実であるような気がしていた。根拠はない。だが、確信はある。何故か走らないがそう感じたのだ。
報告書には続きがあった。蒼と慧留について書かれていた。恐らく、生徒会一行で依頼をこなした後に奴らは現れたその時の事をここに記していていたのだろう。
「この報告書を書いたのはグリト二オン・ニヒル。必ずしもリーダーが書く訳では無いのか…」
一夜は更に情報を探る。そして、スープレイガがこの国にいきなり攻め込んで来た時の一件の報告書を見つけた。
「あの時はスープレイガの独断行動だったのか…だとしたら迷惑な話だ。あの一件で面倒なことになったんだからな。だが、あのスープレイガと言う男…相当蒼に関心があるようだな。この報告書を見る限り、スープレイガは蒼と戦う為に攻め込んで来たようだしな」
あの時の事は一夜としてはあまり思い出したくないことであった。何故なら、一夜はあの時、蒼を助けようとしたが、一瞬でスープレイガにやられてしまったのだ。そして、一緒にいた慧留まで巻き沿いになった。
「スープレイガはあの後、独断でこの国に攻め込んだ事を咎められて今は謹慎中か。まぁ、当たり前か…これを書いたのはドラコニキルか…見てる限り報告書のほとんどがこいつが書いてるな」
一夜は更に報告書に目を通した。そして、あることに気付いた。
「ここ最近の報告書…やけに蒼と慧留ちゃんについて書かれているな。いや、慧留ちゃんの方が多い…これは一体…」
一夜はさらに情報を調べた。そして、ある資料を見つけた。
「これは…日付が今日になってる。これは今日に行われてる作戦の内容か?」
一夜はかなり嫌な予感がしていた。しかし、だからと言ってみない訳にはいかなかった。一夜はその資料を開き目を通した。
「なっ!?」
一夜は絶句した。その作戦内容は一夜にとって予想外の事が書かれていたからだ。
「このままでは…マズい!」
一夜はそう言って急いで外に出て行った。
この計画を止めるために。
「ふー、どうやら予想以上に手間取っているようだ…念には念を置いて正解だったようだ」
ドラコニキルはそう呟いた。ドラコニキルは先程、カーシスと連絡を取っていた。
ドラコニキルは黒宮大志の魔力を感じ取った。彼は千年の時を生きる吸血鬼の「真祖」だ。彼がこの戦場に来たのは明らかに予想外の事態であった。
「真祖」は『三大皇族』と引けを取らない力がある。今の兵力で作戦を成功させるには十分だと思っていたが、「真祖」が戦闘に加勢したとなれば話は別である。
それにより、ドラコニキルはカーシスと通信を取り、増援を要請していた。『機械魔兵』を百体程要請した。
「後、数分で到着する。この街どころかトウキョウは火の海だな。派手にはしたく無かったが仕方ない」
ドラコニキルは本来この作戦をなるべく穏便に済ませたかったのだ。しかし、「真祖」の介入によってそれが出来なくなってしまった。
「まぁ、多少の犠牲は仕方ないか…」
ドラコニキルは淡々とそう呟いた。
蒼と兎咬は厳陣のいる部屋の椅子に座っていた。大志が生徒会を助けに言った後、修行は中断し、厳陣の部屋で待機をしていたのだ。
兎咬は冷静である一方、蒼はひどく暗い様子であった。
「心配しなくてもいい。黒宮が向かったのであれば死者が出ることは無い」
厳陣がそう言うが蒼は依然として変わらない様子であった。
「こういう時こそ冷静にならねばならんぞ、時神蒼。生徒会には屍さんや薊さんもいる、ついでに御登もな。心配することは無いだろう」
兎咬もそう言うが蒼が暗い表情をしていたのはそこではない。
蒼は皆を護る為に強くなったはずだ。なのに助けに行かねばならないこの状況に中で助けに行けないことが蒼にとって非常に歯痒い気持ちにさせていた。
「まぁ、気を張る気持ちも分かるが、君は今、霊力がかなり消耗している。今向かった所で足手まといになるだろう」
厳陣がそう言うと蒼は下を向いた。
突然、ドアが開いた。入って来たのは厳陣の部下だった。その部下はかなり焦っているような表情をしていた。
「どうした?」
「この街に突如、魔道兵器と思われる兵器が出現!町中に攻撃を仕掛けています!」
「「!?」」
報告を聞き、驚きの表情を浮かべた蒼と兎咬であったが、厳陣は冷静であった。
「避難勧告は?」
「今、行っておりますが、対応しきれていません!このままでは…」
部下がそう言うと蒼は走り去っていった。
「まて!時神蒼!!」
「こうなっては仕方ない。兎咬は蒼をサポートしつつ、街を守れ。他の増援たちも送る!」
厳陣がそう言うと兎咬は首肯し、蒼を追っていった。そして、厳陣は魔道警察官を出動させた。
「「USW」…貴様らの狙いは何だ?」
厳陣は厳しい表情をしながらそう呟いた。
蒼は厳陣の部屋から飛び出し、「十二支連合帝国本部」から抜け出した。蒼は魔力を複数探知した。今回の修行で蒼は最低限の探知能力を身に付けていた。
「近くにも気配がするな…まずはそこから…」
「時神蒼!」
後ろから兎咬がついてきていた。
「止めんな!俺は…」
「分かってる!総帥からお前をサポートしろと頼まれた、だからついてきてるだけだ」
「足引っ張んなよ!」
「それはこちらの台詞だ!」
二人はそう言って敵のいる場所へ走り出した。
「あれは…何だ!?」
兎咬は驚愕の声を漏らした。何故なら、兎咬と蒼の目の前にあったのは見たことのない魔道兵器であったからだ。
「実物を見たのは初めてだな…あれが…」
「知っているのか?時神蒼?」
「ああ、あれは「USW」の誇る魔道兵器『機械魔兵』だ」
『機械魔兵』は「USW」の主力の魔道兵器であり、ゴーレムの様な形をしている。体長は十メートル程もある巨大兵器だ。
更に、攻撃を受けると受けた攻撃を学習して同じ攻撃を受け失くする機能を持っているだけでなく、再生能力も持っている。
「「USW」の魔道兵器のほとんどが金属や機械で出来てる奴がほとんどだ。その分、高性能な自立機能を持ち合わせているが、それと同時にエネルギーの消費量が激しく、燃費も悪い。無敵って訳じゃない。まぁ、それでも丸一日は持つんだけどな、あの兵器は」
蒼は淡々と説明を終えると「天使」を抜き、『機械魔兵』に挑みかかった。
「【氷水天皇】!」
蒼は『機械魔兵』の全身を凍らせた。そして、その後は粉々に砕けた。
しかし、『機械魔兵』の残骸は瞬く間に一つに集まり、再生した。
「粉々にしてもこの再生力…マジかよ…」
蒼は驚愕の表情を浮かべた。さらに、蒼は【氷水天皇】で凍らせようとするが、『機械魔兵』は全身から熱を放出し、氷が解けた。
「さっきの攻撃で時神蒼の氷の力を学習したのか!?」
兎咬は自身の霊力を有機物に変え、霊力の腕を作った。兎咬の能力は自身の霊力を有機物に変え、形を自在に変えることが出来、あらゆる形に変えることが出来る。
そして、霊力の腕が『機械魔兵』を掴み、動きを止めた。
「ぐぐぐぐぐ…」
兎咬はかなり力を入れていたがそれでも『機械魔兵』を完全に止めきれてはいなかった。
「霊呪法第八八八番【白光五芒星】!」
蒼は八百番台の霊呪法を放った。【白光五芒星】は五芒星の陣形を地面に発生させ、そこから「神の光」により全てを粉々にする。
流石の『機械魔兵』も形も残らずに粉々にされては再生は不可能である。
八百番台の霊呪法は【第二解放】と同等以下の力がある。しかし、霊力の消耗がかなり激しく、あまり多用は出来ない術である。
「霊呪法にはそんな強力な術があるのか…」
「何なら、今より強力な術もあるぜ?」
蒼はそう言うがかなり息が上がっていた。ただでさえ八百番台の霊呪法は消耗が激しい上に蒼は修行による疲労が蓄積されている。かなり分が悪いことには変わりない。
「今の術は…あまり多用出来んな」
「ああ、悪いがそうみたいだ…はぁ、はぁ…」
蒼が息を切らしながらそう言った。
「どうする?」
「決まってんだろ!行くぞ!」
「…分かった」
蒼が先に向かうと兎咬もそれについて行った。無理矢理引き止める事も出来た。しかし、兎咬は蒼を止める気にはなれなかった。
兎咬は蒼に奇妙な物を感じていた。しかし、それが何なのかは分からない。引き留める気になれなかったのはそれが関係しているのかもしれないと兎咬は思ったのだ。
-まったく…よくわからん奴だな、時神蒼は…
蒼と兎咬はそのまま『機械魔兵』のいる場所へと向かっていった。
月影慧留は公園で一人立っていた。何がある訳でもない。敵の気配を感じていた。しかし、どうすればいいか慧留には分からなかった。
慧留は戦うことが怖くなっていた。スープレイガが攻め込んで来たあの時から…
そして、慧留は思い出していた。「あの時」の事を…慧留が「神聖ローマ連邦大帝国」を抜け出すきっかけになった「あの時」の事を。
そう、慧留は戦いが嫌いであった。しかし、どれだけ戦いから遠ざけようとしても結局戦いは起こってしまう。
どんなに逃げようとしても慧留の周りから戦いが消える事は無かった。蒼と出会い、ようやく普通の生活ができると思ったら、「アザミの花」の一件が起こり、その後も「四大帝国会議」の事でも戦いは起き、今回の「USW」の件でもそうだ。
慧留が差別や迫害を失くしたいと思っている最大の理由はそれらが「争い」に繋がってしまうからだ。
戦いは…戦争は得るものより失うものの方が遥かに多い。慧留はそれを理解しているだからこそ「戦争」は嫌いであった。
しかし、仲間を失うのはもっと嫌だった。だからこそ、慧留は蒼たちに力を貸していた。仲間を守る為に戦う。それは仕方のないことだと思った。
そして、そうしている内に蒼と過ごす内に戦いの恐怖が忘れ去りかけていた。それがスープレイガの一件で大きな隙となってしまった。
慧留はスープレイガとの戦いで今まで忘れていた事…いや、自分が目を背けていた事実を再び思い出した。
そう、それは忘れてはいけないものであったのだ。
慧留はそれを自覚した。だからこそ、もう、慧留は戦いたくなかった。
「私は…一体どうすれば…」
考えても考えても何も思い浮かばない。
これからどうするべきなのかも今の慧留には分からなかった。
戦うのが怖い、死ぬのが怖い、死なれるのが怖い、傷つくのが怖い、負けるのが怖い、死を見るのが怖い…………
-〈死の悲鳴を上げられるのが……何より怖かった〉-
慧留は完全に恐怖に支配されていた。「あの時」の事が鮮明にフラッシュバックされた。死体の山、殺し合う人間と魔族、破壊されていく自然、そして、悲鳴…
それらの記憶が慧留の身体を拘束していた。
「嫌だよ…こんなの…」
「もう少し、単純な奴だと思っていたが…存外、繊細な女だな」
後ろから声が聞こえた。そして、慧留は後ろを振り向いた。
そこにいたのはドゥームプロモ・ドラコニキルだった。
慧留は驚きの表情をしていた。しかし、ドラコニキルはまっすぐと慧留を見据えていた。
「何であなたが?」
慧留がそうドラコニキルに尋ねた。そして、ドラコニキルは答えた。
「俺と来い、ツキカゲエル」
To Be Continued




