【第三章】USW侵攻編Ⅳー魔王の嘲笑ー
蒼が失踪してから一週間が経っていた。慧留は蒼の部屋に毎日寄っていたが一向に帰ってくる気配がまったく無い。
屍たちも周囲を探すことはあるが見つからないようだ。
待つとは決めたものの、ここまで音信不通になるのは流石に全く不安がないという訳では無かった。
「蒼ちゃん…帰ってくるかな?」
狂が薊に聞いてくる。薊と二人で学校から帰っていたのだ。
「正直、分からないわ…けど、私たちは待つしかないの。心配なのは分かるけど…」
そう、薊も蒼が心配なのである。勿論、生徒会の皆もそうである。
そして、何より、一番心配しているのは恐らく、慧留と一夜であろう。聞く話によると、あの二人は蒼と非常に関係が深く、一夜に関しては付き合いも長いという。
心配でないはずが無い。薊はそう思っていた。
薊は蒼の事を変わった奴だと思っていた。敵であるにもかかわらず、薊たちを助けたのだから。
そんな蒼を大事に思うようにいつの間にかなっていたのだ。
それは狂も同様であった。
「あなたの変える場所は…ちゃんとあるから…戻ってきなさいよ…」
薊はそう呟いた。狂はそんな薊を見つめていた。
「全く…自身の無力さに嫌気が指したのは何年ぶりだろうね…」
一夜がそう呟いていた。一夜は病院を退院し、家に籠っていた。
蒼の居場所を調べていたのである。しかし、一夜は自身の蟠りを振りほどけずにおり、作業に集中しきれていなかった。
一夜は蒼を助けに慧留と共に蒼の元に駆け付けた。しかし、そこにはスープレイガが待ち構えており、一瞬で、一夜と慧留を屠ったのだ。
一夜はその時の事を鮮明に覚えている。一夜は蒼を助けるどころか、慧留に危険な目に合わせた挙句、蒼の足を引っ張ってしまった。
一夜は自身の無力さに頭が痛くなっていた。
そもそも、蒼と一夜が初めてであったのは五年前の事だ。一夜と蒼はいがみ合いつつも次第に打ち解けていった。
そして、蒼にとっても一夜にとっても親友同士になって行った。せめて、失踪した青の行方を探そうとするも、今、難航している。
蒼がいそうな場所を手当たり次第探してはいるものの、全てが外れであった。
「蒼…一体どこへ…」
一夜は顔を沈めながらそう言った。
一夜は退屈していた。うんざりなくらい…頭脳明晰で達観した性格の持ち主であった為か、ろくに友達も出来ずにいた。
しかし、そんな時、蒼に出会った。蒼と行動を共にするうちに仲間意識が芽生えた。
蒼に出会うまでの一夜は「かつての蒼」と似たような性格であった。そう、五年前の蒼との出会いが、一夜の世界を変えたのだ。
それからの一夜は蒼がいない時でも楽しいとまではいかずとも退屈と思うことは亡くなっていた。
一夜が二年前、蒼からの連絡を貰い、「匿って欲しい」と言ってきた時は一夜は不謹慎ながら、嬉しいと思ったのだ。
蒼と学園生活を送ることが出来ると、その時の一夜は確信したからだ。
蒼といる生活は退屈しない。一夜はそう思っていたのだ。
実際、蒼が来て、そして、予想外の客人である慧留が来て、一夜の高校生活は三年目にして、ようやく回りだしたのだ。
そう、蒼と慧留、そして、生徒会たちと過ごしたこの一学期間は一夜にとって楽しかったのだ。
一夜はようやく、「楽しい」と思えるようになったのだ。
「蒼…早く戻ってきてくれ…頼む…」
一夜はそう…呟いた。
屍は授業中に窓を眺めていた。
蒼がいなくなったことで周りに少なからず影響を与えていた。
屍は一週間前の事を思い出していた。あの時、屍は敵を倒した。だが、それだけだ。
何一つ、守れなかった。それが屍の心に刺さっていた。
屍はかつて、「アザミの花」のリーダーであった。仲間を守る、それが、屍の行動理念であった。それは、今になっても変わらない。
しかし、蒼は失踪、仲間もそれに影響を受けている。そして、屍自身も。
屍はそれでも、前を向く決意を固めようとしていた。後ろを向いても何も始まらない。屍はそれを嫌と言うほど分かっている。
「止まれないんだ…俺は…」
屍はそう呟いた。この学校は昔からの仲間である、薊や狂も通っている。いつまでも負けを気にしていられなかった。
蒼はあの時、自らの負けを認めた。認めるしかなかったのだ。仮に屍が青と同じ立場なら、屍も蒼と同じ事を言っただろう。
屍はあの時、蒼に「お前の勝ちだろ?」と言ったが、蒼には屍の考えていることを見抜いていた。
蒼と屍はどこか似たところがある。それはお互いに自覚している。だからこそ、蒼の今の状況を思うと、屍は頭を抱えずにはいられなかった。
蒼の寿命はこのままだと、三週間ほどで尽きる。疾走する前から、蒼の霊力が日に日に弱まっているのが分かった。
屍は蒼からその事実を聞かされた時は悲しいとかそういう感情は無かったが、やりきれない気持ちに泣ていた。
屍にとって蒼は命の恩人であり、ある意味、心の友ともいえる存在だ。その蒼が今、最大の危機に直面している。
何とかしてやりたい気持ちはあった。しかし、屍の力ではどうしようもなく、慧留をはじめとした仲間たちですらどうしようもなかったのだ。
屍よりも慧留や一夜の方がさらに深く悩んでいるだろうと蒼は思った。何故なら、あの二人が一番蒼と付き合いが長いからだ。
特に一夜とは昔からの付き合いだと聞く。
屍は窓を眺め、外の景色を見つめ、深く考え込んでいた。どうすれば、今の状況を打破することが出来るのかを。
しかし、少し考えたくらいで思いつく訳もなく、チャイムがそのまま鳴り響いた。
澪と遥は一週間前に戦闘があった五か所の場所をしらみつぶしに調べていた。
あの後、戦闘がおこった場所は全て工事中のため立ち入り禁止になっていたが、二人はそんなことお構いなしに、入り込んだ。
「う~ん、「USW」は何でこの国を襲ったのかな~」
澪が疑問を呟いた。確かに妙であることは確かだ。
「そうね…四大帝国会議の時はちょっと一悶着あったけど、その後の「USW」は十二支連合帝国を庇護した。なのに何故…」
遥も疑問に思っていたことである。しかし、全く因縁が無いのかと言われればそういう訳でもない。
四大帝国会議の時、スープレイガと名乗る「USW」の者が蒼に襲い掛かって戦っている所話みおと遥は目撃しているのだ。
さらに、一週間前の「USW」の侵攻の前もドラコニキルとグリト二オンと名乗る青年二人も蒼に襲い掛かっている。
しかし、ドラコニキルとグリト二オンに関しては、無暗に被害を拡大しようとはしなかった。
今回の侵攻は明らかに、霊力のあるに人間を皆殺しにしようとしていた。
「単独行動…てのもあり得るよね~」
澪がそう口にした。単独行動、それが妥当だろう。そして、こんな事をする者は澪と遥は一人しか考えられなかった。
「スープレイガ…恐らくアイツが主犯ね」
遥がそう言った。実は蒼は敵を取り逃がしたことしか報告せず、それ以外は全く言わないまま失踪した。
「な~んか、アオチーとあのスープレイガって人と変な因縁が出来ちゃったね~」
「そうね…いずれにしても「USW」がこのまま何もしないとは思えないわね。これだけの事をしでかしてる以上…ね」
澪と遥はまた再び、「USW」がこの国に攻め込んでくるであろうことを予測していた。
正直、「USW」の狙いは分からない。だが、一つ言えることは-
「奴らは蒼に興味を持ってる…あるいは、天使の力に関心を抱いているかのどちらかね。まぁ、天使は希少な魔族だから珍しがるのも分かるけどね」
そう、天使はこの世界において珍しい魔族の部類に入る。天使は非常に長寿でありながら、生殖能力が非常に低く、個体数自体が余り多くない。
さらに、『第三次世界大戦』を始め、これまでの多くの戦争により、天使は更に数を減らしていた。
「神聖ローマ連邦大帝国」以外の国では天使は滅多にお目にかかれない。「神聖ローマ連邦大帝国」は天使が最初に生まれた国とされており、個体数がそれなりにいる。しかし、そこまで多いという訳では無い。
もっとも、悪魔も「USW」以外の国では滅多にお目にかかれない。そもそも、『三大皇族』はいずれも個体数が少ないのである。
神も「十二支連合帝国」に多く住んでいるがそれ以外の国ではあまり個体数が多くない。
しかし、『三大皇族』は人間が魔族を支配できる世の中になっても、依然として最強の名に恥じぬ強さを持っており、四大帝国の兵力においても非常に重要なのである。
「USW」は特に悪魔との交流が盛んな国である。この国の中枢は人間だけでなく、悪魔も多くいるという。
特に名高いのは「USW」の光明庁が率いる、悪魔で構成された特殊暗殺部隊『アンタレス』だ。
『アンタレス』はその圧倒的力で「USW」の政治に大きく貢献している。
更に、光明庁は「USW」の事実上のトップである。一応、「USW」にはタブラス・エント二オンという国の総帥がいるが、お飾りの長である。
「USW」の総帥はナマ・ケモノの代から政治を一切まともに行わなくなり、光明庁が行うようになり、それにより、権力の大半が光明庁が牛耳るようになった。
所謂、傀儡政治をこの頃から「USW」は行っているのだ。
『アンタレス』の基盤もこの頃からでき始めたという。組織として本格的に発足したのはこれよりずっと後の話であるらしい。
いずれにせよ、「USW」の兵力は「十二支連合帝国」と同じ四大帝国であるが、兵力の差は天地程にもある。
まともにやりあえば、「十二支連合帝国」は「USW」に成す術もなく蹂躙されるだろう。「USW」の兵力はそれほど強大なのだ。
それだけでは無い、政治経済の面でも「十二支連合帝国」を遥かに凌駕している。
四大帝国といえど、国によって兵力の差は歴然であり、ピンキリだ。
はっきり言って、兵力の強さで言えば、「神聖ローマ連邦大帝国」と「USW」の二強と言っていい。
「十二支連合帝国」と「ヘレトーア帝国」は国の特殊性から四大帝国として含まれているに過ぎないのだ。
無論、この二国も他の国を凌駕するほどの力はある。だが、「神聖ローマ連邦大帝国」と「USW」の兵力が圧倒的過ぎて、他の二国が霞んでしまうのだ。
「神聖ローマ連邦大帝国」と「USW」は所謂、かつてのアメリカとロシアの冷戦と同じような状態であると言える。
特に「USW」は領土を増やそうと活発に活動している国の一つで四大帝国の中でも、武力行使を厭わない国である。
今にも「USW」は「神聖ローマ」に喧嘩を吹っかけてもおかしくない状態である。
まぁ、魔族条約により、迂闊には「USW」も迂闊には手を出そうとはしないが。
「まぁ、用心はした方がいいね」
澪がそう言うと遥も首を縦に振った。
「そうね…恐らくまた襲ってくるだろうし…ね…」
澪も遥もかなり緊迫した表情をしていた。
何せ相手はあの「USW」である。世界最強の国の一角を相手に焦るなと言うのが無理な話である。
「また…色々起こりそうだね~。面倒臭い」
「そういうこと言わないの」
「痛!」
澪が文句を垂れると遥は澪の頭をはたきながらそう言った。
「ふー、さて…今回の作戦は今までの作戦の中でもかなり重要なものになる。気を引き締めてかかるようにし給え」
ドラコニキルがそう言うと、一同は頷いた。
ドラコニキルは「十二支連合帝国」へ再び攻め入ろうとしていた。ある目的を達成させるために。
この目的の達成はカーシス曰く、この「USW」の未来を左右するとの事である。非常に重要な任務なのだ。
ドラコニキルはカーシスの計画の全貌は分かっていない。いや、もっと言うと興味がない探りを入れようとはしないのだ。
ドラコニキルは自身の平穏が保たれれば後はどうでもいい。カーシスの計画にも興味はない。
ただ、ドラコニキルは命令をこなすだけだ。
ドラコニキル以外の『アンタレス』の構成員はカーシスを疑問に感じている者もいる。ただし、カーシスは情報を漏らすようなヘマはしないため、結局、カーシスの目的を知るものは、本人しかいないのである。
特に今回耐えられた任務は特に『アンタレス』メンバーに疑問を抱かせた。
流石に、今回の件に関してはど楽に切るも疑問を持ったがまぁ、おらこに切るにとっては些細な事である。
ドラコニキルは自身の心に平穏をもたらす存在であるカーシスの命令に従うのみだ。
そもそも、カーシスは前述したとおり、非常に掴み所がない人物である為、探りを入れたところでほぼ無意味だ。
さらに言うと-
-カーシス様は『アンタレス』を誰一人信用していない。リーダーである私すらも…
ドラコニキルはそう呟いた。カーシスの真意は分からない。だが、彼がだれも信用…いや、もっと深く言うと、『アンタレス』を「信用」しているのかもしれないが、「信頼」はしていないように思えるのだ。
これはあくまでドラコニキルの考えである為、本当の所は本人に聞いてみないことには分からないが。
だが、今のドラコにいるにとってそんなことは些細な事であり、どうでもいい。
ドラコニキルは自身の平穏が保たれればそれでいい。そして、カーシスがドラコニキルを導き続けるのなら、ドラコニキルはカーシスに対する忠義を尽くし続ける。
二人はそういう関係なのだ。だからこそ、ドラコニキルは今回の任務を遂行する。
「今回の作戦は恐らく疑問を抱くものも多いだろう。だが、我々の使命は光明庁の命令を遂行する事!異論は認めぬ!さぁ、行くぞ!」
ドラコニキルがそう言うと他の者たちが「イエッサー」と答えた。
ドラコニキルは『アンタレス』のリーダーなだけあり、リーダーとしての資質、カリスマ性も持ち合わせている。
そのドラコニキルが一度命令すると他の者たちは首を縦に振る。
そして、ドラコニキルたちは「十二支連合帝国」へ向かっていった。
慧留は学校の帰り道で空を眺めていた。あの時の事を思い出していた。
あの時、慧留は何も出来なかった。それどころか、蒼の足を引っ張ってしまったのだ。
あの時以来、慧留は蒼と会っていない。探してもどこにも見つからないのだ。
信じて待つとは決めた。しかし、それでも、蒼が無事なのかを心配していたのだ。
慧留はスープレイガに貫かれた腹を少しさすった。あの時の傷は完全に完治しているが、あの時の痛みは鮮明に覚えている。
その時の慧留は確かに恐怖していた。そう、死の恐怖だ。
あの時慧留は意識が絶え絶えになり、死を感じた。幸いにも、すぐに助けが来たためなんとか助かったが、あの時の恐怖を忘れたわけではない。
そして、それによって蒼の足を引っ張ってしまった。慧留にとってそれが何よりの苦痛であったのだ。
慧留はこれから自分はどうするべきかを考えた。葛藤をした。しかし、何も思い浮かばない。
いや、思考が回らない。慧留はかつてない程の恐怖を感じていたのだ。
慧留は幼少の頃は、皆に愛され育った。しかし、ある時、ある事件がきっかけで、慧留は自国から逃亡した。
それからというもの、色々な魔族人間から迫害、差別を受け、今までにない恐怖に襲われていた。この時の慧留も間違いなく恐怖していた。
しかし、今回の恐怖は慧留が感じたそれまでの恐怖とはまるで違った。もっと原始的な恐怖なのだ。
慧留はかつての恐怖は蒼たちの協力により、ある程度解消された。しかし、スープレイガの時に感じた恐怖は未だに克服できないでいる。
自身の恐怖だけではない。慧留は力によって自分だけでなく、仲間まで殺されることを何より恐れていた。
慧留は少なくともそう感じていた。もしかしたら、蒼も同じことを考えているかもしれないと慧留は思っていた。
だからこそ、蒼は一人でどこかに行ってしまったのではないか。そう感じていた。
しかし、慧留がそう考えたところで、結局蒼の真意ははっきりしないままだ。
それでも、慧留は蒼の帰りを待っている。いや、それだけでは無い。
「みんな…みんな待ってるんだよ?蒼…早く戻ってきて」
慧留はそう呟いた。
慧留はあれから学校に顔を出してはいるが、やはりどこか元気が無い様子であった。慧留にとって蒼は大きな存在となっていた。
一人だった慧留に手を伸ばしてくれたあの日から、慧留にとって蒼は憧れなのだ。
強くて、不器用だが仲間思いで、強い信念を持っていて、何度も慧留を助けてくれた。手を伸ばし続けてくれた。
慧留はそんな蒼にたまらなく憧れていたのだ。
慧留は今までの蒼を思い出しながらそう思ったのだ。たった、四ヶ月程の付き合いだけれど、蒼の「強さ」は慧留に十分すぎるほど届いていた。
慧留の言う蒼の「強さ」と言うのは単純な力だけではない。それ以外の強さを含めてそう感じているのだ。
慧留は蒼をなんとしてでも助けたいと思っていた。しかし、慧留にできることなどたかが知れている。慧留はそう自覚していた。
慧留はそう考えていると、美浪とすれ違った。
「美浪ちゃん」
「慧留ちゃん」
「久しぶりだね…」
「そうやね…」
二人は沈黙が続いたが、美浪がそれを破った。
「近くに公園があるんやけど、そこで話さへん?」
美浪がそう言うと慧留はコクリと頷き、近くの公園に行った。
公園は一宮公園で滑り台や鉄棒と言った最低限の遊具と動物の石像がある、どこにでもある普通の公園であった。
放課後から大分時間が経っている為、今は日が沈み始めていた。
「話すの…久しぶりだね」
「そうやね…話せる状況や無かったしな…」
「最近どうなの?美浪ちゃん」
「う~ん。蒼君がいなくなってから、皆沈んでるな~って思ってる。まぁ、私もなんやけど…蒼君ってさ、ちょっと変わっとるよな」
「変わってる?」
「うん、まぁ、苗木さんと仲がいいって時点で変わっとるよ、私も苗木さんとは話すけど、友達と言うよりは協力関係っていう方が近かったし、まぁ、蒼君もそうなんやろけど、蒼君の場合はお互いをなんやかんや言って信頼し合ってる感じがするんよなー。後、豪快だったり繊細だったりして、その癖、自分の事より他人の事ばっかり考えて…正直、良くも悪くも目が離せんのよね、彼は」
「うん、分かるよ…美浪ちゃんの言いたいこと…私もそうだから」
美浪が話すと慧留も納得したように頷いた。美浪も蒼の事が心配の様だ。
「屍君にやられかけた時ね…蒼君が助けてくれたんだ。その時の蒼君が凄く逞しく見えて…誰にも負けないんじゃないかって思えたんよ。それなのに、蒼君はあんな状態になった上に敵にやられて、行方を眩ませた。正直、信じられないって思った」
美浪は自分の思っていることを口にした。美浪は初めの頃は蒼の事は変わった変な人だと思っていた、しかし、屍から助けてもらってから、美浪は時神蒼と言う人物像が大きく変わった。
強くて、そして、優しい。そんな蒼から目が離せなくなっていた。
だからこそ、蒼の敗北が信じられなかった。認めたくなかった。
「私も思ったよ。蒼は今まで負けなしだったもん。蒼がいれば何とかなるって思ってた。けど、甘かった。私ね、自分にできることを探してるんだけど…やっぱりたかが知れてて…」
「そんなことないよ…慧留ちゃん…確かに慧留ちゃん一人では大したことないかもしれん。けど、そんなん当たり前や、一人でできる事なんか誰でも知れてるんや。しょうがないよ…でもね、一つ言えるのは慧留ちゃんは絶対に必要って事や」
美浪がそう言うと慧留は驚いた顔をした。
「慧留ちゃんには慧留ちゃんにしかできひん事がある。それは私もや、自分の出来ることをやればいいんや。それ以上は…必要ないんや」
「でも、それじゃあ」
「慧留ちゃんのいいとこ、私はいっぱい知ってるで」
そう、美浪は知っていた。慧留は人の心を良い方向に傾ける力がある。それは、慧留にしか出来ない事なのだ。
あの蒼ですら、慧留に大きく影響されているのだ。
それが、慧留の強さなのだ。
「せやから、慧留ちゃんは自分の出来ることをやればええよ。私には私にしかできへんこともあるから、それをするだけや…」
美浪がそう言うと慧留は微妙に顔をしかめた。
「そろそろ、帰らなな、日も暮れてきたし、じゃあね、慧留ちゃん」
「うん、さよなら…」
美浪はそのまま一人で帰って行った。
「私にできる事…か…」
結局、美浪は慧留の具体的な事は教えてくれなかった。
「いつまでも悩んでてもしょうがないか…私も帰ろう」
慧留はそのまま帰って行った。
ドラコニキルは『門』を使用していた。
『門』とは「USW」が所有する空間移動道具だ。「USW」は機械や化学兵器も盛んに開発されているのも特徴で機械兵器も多く存在する。
『門』はその兵器の一つである。この道具は見た目は巨大な四角い門だ。場所指定を手動ですることでその場所を一瞬で移動できる。
『第三次世界大戦』でも「USW」はこの兵器を使用し、敵のいる場所に転送し、他の国に圧倒的被害をもたらした。
それほどに『門』の効果は絶大なのだ。
ここにいるのはドラコニキルだけである。他の者たちは別の『門』を使って、「十二支連合帝国」へ向かっていた。
「USW」がこの『門』を所有してる数は全てで三つである。厳密には全て、光明庁が所有している。
この『門』は大量の金属、魔法石に特殊合金、さらに、悪魔の死骸を使う為、三つまでしか作れていない。
それ故に、「USW」ではこれ以上の『門』の生産は出来ないのだ。
戦争の時は一つしかなかったがそれでも圧倒的被害をこの兵器はもたらした。
「悪魔の死骸で出来た兵器を悪魔が通るか…皮肉だな…」
ドラコニキルはそう呟いた。勿論、悪魔の死骸と言うのは自然に死んだ悪魔の死骸を使っている。
少なくとも「USW」国家の人間は悪魔を故意で殺してはいない。魔族条約に違反するのもそうであるが、この国の人間は悪魔とは特に共生関係を築いている。
そもそも、魔族を生物兵器として利用しているのは「十二支連合帝国」くらいであり、その「十二支連合帝国」も今や、魔族による生物兵器は作らなくなった。
ドラコニキルは静かに『門』を見つめた。特に何がある訳でもない。ただ、ドラコニキルはその『門』を何となく見つめていた。
そして、すぐに視線を上から正面を向き、これから戦場になる場所へ向かう為、『門』をくぐった。
そして、ドラコニキルとほぼ同時に他の『門』にいた『アンタレス』のメンバーたちも『門』をくぐって行った。
ある目的を-果たす為に。
「さて、始まるのか…」
カーシス・ベルセルクはそう呟いた。
彼は「USW」の光明庁の長官であり、事実上、この「USW」の頂点に君臨する男である。
「さて、楽しみだ」
カーシスはニヤリと嗤った。
カーシスは野望があった。いや、宿願と呼ぶべきか。
「『ヴァルキリア』…」
カーシスはそう呟いた。『ヴァルキリア』とはこの「USW」の英雄の名として語り継がれている。
光明庁が代々受け継いでいる名でもある。そう、カーシスは世間では『ヴァルキリア』と呼ばれているのだ。
「『ヴァルキリア』はこの国を治めるための名…私はそれを手に入れる!「私」が真の『ヴァルキリア』だ!」
カーシスは眼を輝かせながらそう言った。
今のカーシスははた目から見たら支離滅裂な事を言っているようにしか見えない。しかし、カーシスのこの発言にはどうやら、意図があるようだ。
「ドラコニキル…期待しているよ。君なら…必ず成し遂げてくれるだろう」
カーシスはドラコニキルを高く買っていた。
『アンタレス』のリーダーだから…というだけではない。それ以上に彼は自らの平穏の為ならどんなことでもする。
「変に私に執心している奴より、ドラコニキルの方が私には使い易い…」
カーシスはドラコニキルの事を「信用」しているのだ。逆に言えば、それ以外の『アンタレス』のメンバーはあまり信用していない。特に…
「スープレイガ…彼には困ったものだ…まぁ、その気になれば私自身が叩き潰すことも出来るが…まぁ、いいだろう。今は泳がせておこう…謹慎もこの作戦が終わったら解くとするか…彼の力はまだ必要だしね」
カーシスはやれやれと言った様子でそう言った。
実際、『七魔王』は『アンタレス』のメンバーの中でも最高戦力である。一人一人が一組織を破壊できる力を持っている。
これからの戦いの為に一人でも『七魔王』は一人でも欠く訳にはいかなかったのだ。
「ふ…思えばここまで長かったような短かったような…」
カーシスはそう呟いた。
カーシスはこれまで、幾度もこの時を待っていた。
この瞬間を-待っていたのだ。
「私を止めることは出来ないよ…私は-「選ばれし者」なのだから。はははははははははははははははははははははははははははは!!」
カーシスは高笑いを続けた。
そう、この戦いはただの序章に過ぎない。
カーシスは予感していた。さらなる戦いがこれから先に起こることを…
カーシスは空を眺めながら嗤い続けた。
【王の玉座へ座る者へ】
カーシスはそれを見据えていた…のかもしれない。
To Be continued




