【第三章】USW侵攻編Ⅲー氷王の激昂ー
「こんなもんかよ…てめぇの力は…」
スープレイガはがっかりしたようにそう言った。
今、蒼はスープレイガと交戦中である。しかし、蒼は先ほど戦った彼の部下と思われる悪魔に苦戦を強いられ、そのダメージが残っているまま戦闘を行っていた。
しかし、スープレイガはそんなことはお構いなしに戦闘を開始した。素手で戦っており、魔力を固めた光弾を飛ばして攻撃していた。
見た目の割に威力が高く、蒼も捌き切るのがやっとであった。
更に戦闘が激化していったが、終始スープレイガが圧倒していた。
「はぁ…はぁ…」
蒼はかなり息を切らしていた。さっきの戦闘だけではない。蒼はこれまで「天使」の力を酷使しすぎた。 そのせいで力がかなり衰えている上にこのままでは一か月もしないうちに死ぬと来たもんだ。
蒼はもう、これ以上の力は出せない。蒼は既に【第二解放】を発動させていた。 しかし、それでも、彼は手に握っている剣である「悪魔」の本来の力を使っていない。
「前より力が衰えてねぇか?てめぇ…前ほどの霊力と覇気が感じられねぇ…」
スープレイガも蒼の事は薄々感ずいているようだ。しかし、そんなことは知った事かと言いたげな顔をした。
スープレイガにとって、戦いと強さが全てだ。蒼の力が仮に劣り得てしまったとしたら、それが蒼の限界だということだ。
なら、一思いに殺してくれると言うのがスープレイガの考えであった。
スープレイガは攻撃を続けた。剣が光だし、そこから光の衝撃波を飛ばした。
すると、蒼は翼でそれをガード。しかし、翼は砕けてしまった。
「翼は天使や悪魔にとって力の象徴でもある。それをあっさり砕かれるとは…情けねぇ!」
スープレイガは吐き捨てるようにそう言い、蒼に突っ込んだ。蒼は更に劣勢を強いられることになる。
「くそ!」
蒼とてスープレイガにこれだけ言われて何も思っていないはずが無い。力を出せなくて一番歯がゆい気持ちになっているのは蒼の方なのである。
もっとも、昔の蒼ならいつ死んでもかまわないと思った。
しかし、今の蒼は違う。仲間が…友が出来た。
蒼にとってそれはかけがえのないものになっていっているのだ。
しかし、今の蒼は力が出ない。どうしようもないくらいにスープレイガに手も足も出ない。押され続けていた。
蒼は辛うじてスープレイガの剣を薙ぎ払い、スープレイガの身体を凍らせた。しかし、薄皮一枚凍らせた程度ではすぐに抜け出してしまう。
-この程度では駄目だ!
蒼は焦るがスープレイガは終始余裕の表情を崩さなかった。
蒼は今使用している【氷水天皇】以外にもう一つの「天使」がある。その名も時間を操る「天使」、【黒時皇帝】。黒い刀の形状をしている。
蒼にとって【黒時皇帝】は最大の切り札だ。しかし、代償も大きい。
蒼は【氷水天皇】の【白天世界】を発動させることが出来るが、制御しきれていない分、消耗が激しい上に、未完成な状態で使用を続けている為、寿命を縮めることにもつながっている。
そもそも、蒼は半分が人間である為、通常の天使では使えない術を使用できる。霊呪法などがそうである。
しかし、その代わり、「天使」を完全に使いこなすのは通常の天使より難しかった。
蒼は半分人間であるがゆえに「天使」の神力に耐えきれないのだ。
それでも、「天使」を完全にコントロールできた半人間は存在するものの、それはごく少数であり、大概のものは使いこなす前に息絶えている。
さらに蒼の最大の問題はもう一つの「天使」である、【黒時皇帝】である。【黒時皇帝】はその能力の都合上、能力を使えば所持者の時間を奪っていく。
通常の天使は寿命がとてつもなく長い為、【黒時皇帝】の能力を使う分には問題ない。しかし、蒼は半分人間の為、寿命は通常の天使よりずっと短い。
そのせいで、蒼の寿命をさらに知事める結果になってしまっているのだ。
【黒時皇帝】の使用者は代々短命と言われているがそれは天使の中での短命と言う話である。
通常の天使は千年以上生きる。【黒時皇帝】を使った天使は二百年は生きれると言われている。
しかし、蒼は二つの天使のせいで寿命を縮めてしまって今の状態になっているのである。
しかも、蒼は【黒時皇帝】に関しては【第二解放】を使用できない。
使用できないのは蒼の持つ【黒時皇帝】は本来蒼のものでは無く、「譲り受けた物」であるからだ。
通常、他人の天使は使えないのだが、蒼だけが他人の「天使」を使用出来た。
-過ぎた力を使った結果がこれか…笑えねぇ…
蒼は自嘲するようにそう胸中に呟いた。
「どうやら本当にこれで終わりらしいな…」
スープレイガは蒼の胸倉を掴んでいた。
蒼は一方的にスープレイガに圧倒され、虫の息であった。
「弱い奴をいたぶる趣味はねぇ…死ね」
スープレイガは剣を蒼の頭に突き刺そうとする。
蒼は死ぬわけにはいかなかった。
蒼がこのまま殺されれば、仲間が皆殺しにされる可能性が極めて高いからだ。
-死なせねぇ!絶対に!
蒼は覚悟を決め、【黒時皇帝】を呼び出した。
そして、蒼は【黒時皇帝】の力を使った。
「【時間停止】!」
周囲の時間が完全に停止した。停止した世界は白と黒のモノクロで構成されており、スープレイガの剣も蒼の頭を貫く一歩手前の所で止まっていた。
蒼は身体を捻ってスープレイガの刀を躱し、一時的に【氷水天皇】の【第二解放】を発動させた。子の一撃に蒼は全てを懸けた。
「【霰時空華絶】!!!」
蒼は氷の華を発生させ、それをスープレイガにぶつけた。さらに、【黒時皇帝】の力で時間を加速させ、無数にある氷の華を放ち続け、更に、蒼の二刀の「天使」でスープレイガの身体を切り刻んだ。
そして、時は動き出した。
スープレイガはいつの間にか蒼の攻撃を受けていて驚愕の表情を浮かべた。
「な!?一体どうな…ぐあああああああああああ!!!」
蒼は攻撃を止めなかった。限界が訪れるまで氷の華と斬撃を浴びせ続けた。
【霰時空華絶】は無数の氷と斬撃を時間操作の力を使い、浴びせ続ける、蒼の最高火力の技である。
これでも死なないようでは蒼に勝ち目はもはやない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
蒼は祈る様に攻撃を続けた。蒼の命はもはや、蒼だけの物ではなくなっていた。
蒼はそんな事を考えながら攻撃を続けた。そして、やがて限界が訪れた。
スープレイガはふっ飛ばされ、その先に煙と冷気で身を包まれていた。
「はぁ…はぁ…」
蒼は片膝を付いた。これで勝ちだ…そう思った瞬間-
「何だぁ?今の…こんな技があるんだったら最初から使っとけよ…」
「!?」
蒼は顔面蒼白になっていた。全てを懸けた一撃を受けてもスープレイガは生きていた。どころか、まだ戦える状態だったのだ。
身体は傷だらけで血まみれであるものの、致命傷までには至っていない。
今の蒼ではスープレイガを倒すことはもはや不可能であった。
「クソ…!クソが!!!」
蒼は叫んだ。どうしようもないくらいに今の蒼とスープレイガには力の差があった。
「蒼!」
現れたのは一夜と慧留であった。
「駄目だ…来るな!」
しかし、スープレイガは蒼の元に向かう一夜と慧留を容赦なく叩き潰した。
一夜は両足を光弾で消し飛ばし、右片も吹き飛ばし、慧留は腹に風穴を開けた。
「あ…お……」
慧留は血を吐き倒れた。一夜も一瞬でやられ、気絶していた。
「せっかくの戦いだ…邪魔を増やす訳にはいかねぇからな…さぁ、続きをやろうぜ…」
スープレイガは二人を倒した後、再び蒼の元に現れた。
「今度は…こっちの番だぜ…」
スープレイガはそう言って剣を構えた。
「あ…あ…ああ……」
蒼はスープレイガなど視界に入っていなかった。蒼の眼に入っていたのは両足と右肩をもがれ、血を流している一夜と、腹に大穴を開けられ、血の大洪水を起こしていた慧留だった。
蒼は守れなかった。大事な人たちを。傷つけさせてしまった。
蒼は絶望した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
蒼は絶叫と共に霊力を暴発させていた。
「何だ!?こいつは!」
スープレイガも驚いている様子だった。
「面白れぇ!もっと楽しませろ!」
スープレイガはそう言い放った。
時は少し遡る。
屍は美浪同様、蒼がいきなり外に出たことに気付きさらに、妙な魔力を感知したので様子を見に街に出た。
辺りを見回すが気配が感じるだけで人影は無かった。
すると、屍の後ろからナイフが飛んできた。
屍は攻撃を躱し、瞬時にナイフが飛んできた場所を屍がポシェットに入れていたナイフを飛ばした。
そして、相手もその攻撃を躱し、屍の前に姿を現した。
「出やがったか…妙な霊力…いや、魔力か…お前…悪魔だな」
屍がそう言うと男はニヤリと嗤った。
「俺はルーマニアだ、主から殲滅命令が来ている。悪いが貴様を倒させてもらうぞ」
ルーマニアがそう言い、槍を構えた。
「突き刺せ【槍情欲】」
ルーマニアは【悪魔解放】を解放。体格はそのままだが、耳が猫耳委であり、猿の様な尻尾が生えており、虎の様な牙が生えている。そして、やはり悪魔である故か、黒い翼が生えていた。
あらゆる生物が混ざったような形状をしており、まるでキメラだ。
「それが…悪魔の力か…」
屍は地面に両手の掌を置いた。そして、槍を錬成した。
錬金術、屍の得意技である。屍は物質を別の物に変換する錬金術を使用できる。
「行くぞ!」
ルーマニアはものすごい速さで突撃した。しかし、屍は攻撃を最小限の動きで躱していた。
屍は相手の隙を伺いつつ攻撃を躱し、隙が出来たら槍で一突きするという戦闘方法を取っていた。
ルーマニアの攻撃はまるで当たらず、屍の攻撃は確実に命中している。
しかし、ルーマニアの身体はかなり硬い為、屍の今の武器ではあまり決定打にはならなかった。
ルーマニアが右手で屍の武器を捕らえた。その瞬間、屍は槍を手放し、距離を取った。
「厄介だな。あの体の硬さ…あれが「鋼鉄皮膚」か」
「鋼鉄皮膚」とは悪魔が持っている鋼鉄の皮膚の事である。
この皮膚は生半可な攻撃では傷一つつかず、悪魔の身体自体が強力な盾である。
硬さには個人差があるもののいずれの悪魔もかなりの硬さを誇るという。
「そう言うことだ。貴様がいくら速かろうと決定的な一撃を我に与えなければ意味がない!」
ルーマニアがそう言って再び攻撃を仕掛けた。そして、屍の肩がルーマニアの右腕に貫かれた。
「くっ!」
苦悶の声を上げる屍を見てルーマニアは嗤った。
「これで終わりだ…」
「ああ、お前がな」
屍は両手を合わせて、錬金術を使い、拘束具を錬金し、ルーマニアの四肢を縛り付けた。
「な!?」
狼狽するルーマニアにお構いなしに屍はルーマニアを殴りつけた。
更に、自身の血を使い、錬金術を使用。そして、赤い槍を作った。屍の霊力が大量に含まれている槍だ。 それをルーマニアの心臓に突き刺した。
「がああああ!!」
ルーマニアは絶叫し、苦しみ、悶えた。
屍はそれでも手を抜かなかった。地面の土を鎗に錬成し、ルーマニアの身体に攻撃した。
至る所に槍が刺さり、もはや戦闘は不可能である。
「が…は…」
ルーマニアは既に気絶しており、【悪魔解放】も解けていた。だが、死んではいない。
「こいつの身柄を魔道警察に明け渡すか…」
屍はそう言って、魔道警察に電話を掛けた。電話に出たのは雛澤だった。
『もしもし、って、ボス!』
「その呼び方はもういい、今は俺ボスじゃねーし、今となっては身分はお前の方が上だし、すぐに来てくれ、ちょっと厄介ごとがあってな」
『分かりました。すぐ行きます』
屍はその豆電話を切った。
その十五分後、雛澤はやって来た。魔道警察の服を纏っていた。今までの雛澤とは違うんだなと屍は思った。
「天草さん!その怪我…」
「俺はいい、それよりこいつだ。見たところ、「USW」の奴だ。いきなり俺に襲い掛かってきやがった。捕まえて取り調べをしてくれ」
「でも、何で「USW」の魔族が…」
雛澤は疑問を浮かべた。「USW」は四大帝国会議で「十二支連合帝国」を保護したはずだ。それなのに何故…
雛澤は思考を巡らすがすぐに考えるのを止め、ルーマニアを拘束し、パトカーに乗せた。
「そう言えば…学校生活楽しんでます?」
雛澤が悪戯っぽく聞いてきた。
「まぁ、それなりに」
屍はそう答えた。
「そうですか…安心しました。では!」
雛澤はそう言って、パトカーに乗り、屍の元を去って行った。
「上手くやれてるようだな…良かった」
屍は安堵した。実際、屍は薊と狂以外の昔の仲間とは会う機会が今はほぼ無いと言っていい。他の仲間たちは魔道警察官として働いている為、屍は殺気雛澤と会うまではほぼ昔の仲間と会えていなかった。
ちゃんとやれているかどうか心配だったが、どうやら杞憂の様だったようだ。
「どっちかっつーと、俺たちの方がヤバい…か…」
屍はそう呟いた。屍は確かに今が楽しいと思っている。だが、すぐに問題が生まれてしまった。
蒼だ。蒼は力を使いすぎたせいで寿命が後一月もないという。この問題を解決するには考える時間が圧倒的に足りない。
屍は蒼に助けられた。借りを多く作っている。そんな奴にすぐに死なれたら屍とて寝覚めが悪い。
屍は蒼を助けたいと思っていた。仲間として、友達として。
それは恐らく、薊や狂も同じであろう。
そんな思考を巡らせていると、突然、莫大な霊圧を屍は感知した。
「…!何だ!?この霊圧は!?」
屍は霊圧の感じる方向を向いた。すると、そこには霊圧の柱が出来ていた。
「この感じ…時神!」
尋常じゃない霊圧の量であった。この力を長時間使い続けるとただでさえ少ない寿命をさらに縮めてしまうだろう。
「そんな事…させるかよ!」
しかし、蒼がこれほどまでに力を使うとは…相手はそれほどの相手なのだろう。屍が前に蒼と戦った時より明らかに霊圧が強かった。
「……間に合え!」
屍はそう言って走り出した。
「面白れぇ!行くぜ…」
スープレイガは剣を構える。恐らく、【悪魔解放】を使用する気だ。
「ああああああああああああああああああ!!!!」
蒼は絶叫と共にスープレイガに突撃をしようとした、しかしー
「そこまでだ」
魔力を乗せた声が響いた。二人の動くが止まった。
「ふー、やれやれ…何をやっている?スープレイガ」
そこにいたのはドラコニキルはだった。黒髪のストレートヘアーに白と黒の釣り目のオッドアイが特徴的な青年だった。
「別に…敵を殲滅しようとしただけですが?」
「そんな命令を出した覚えはないぞ?それとも…ここで死ぬか?後、貴様の部下は全員やられたぞ。その始末もまとめてここで着けるか?」
ドラコニキルが長剣を抜いた。
「……分かりましたよ」
「待て!どこに行くんだよ!?」
「ウルせーな、帰るんだよ!「USW」にな!」
「ふざけんな!この戦いを仕掛けたのはてめぇだろ!降りて来いよ!まだ勝負はついてねぇ!」
「勝負がついてねぇだぁ?ぬかせ!命拾いしたのはてめぇの方だぞ!そのまま戦ってたらお前は俺に勝てなかっただろうぜ…俺の本気によ…」
「何だと…?」
「もし次お前と戦う事があったら今度こそ決着を着けてやる。ま、あったらの話だけどな」
スープレイガは蒼の異常に気付いていた。
「……」
「まぁ、俺は出来る事なら戦いたいけどな…決着を着けてぇしな。まぁ、期待してるぜ」
そう言ってドラコニキルとスープレイガは虚空へと消えていった。
「アオチー!」
澪と湊が駆け付けてきた。
「えるるん!なえきん!」
澪はすぐに慧留と一夜の所に駆け付けた。二人とも重傷であった。
「速く病院に!」
澪はすぐに病院に電話した。
蒼は立ち尽くしていた。
その後、屍が駆け付けた。
「時神…勝ったのか?」
「……負けた」
「いや、相手は引き返した。お前の勝ちじゃねーのかよ」
「お前が俺ならそんなこと絶対言わねぇ」
蒼がそう言うと屍は顔を俯かせた。
「俺は…敵を倒せていねぇ…俺は…負けたんだ…!」
蒼は空を見上げていた。
ここは「USW」の『アンタレス』の会議室。スープレイガの単独行動が問題となり、『アンタレス』の幹部が集まっていた。
「で?これは一体どういう了見だ?スープレイガ」
カーシスが問いかける。
「これからあいつらは確実に敵になる。それらを殲滅した方がいいだろ」
スープレイガはそう言った。
「言葉使いも相変わらずだな」
スープレイガは力のあると判断した目上の者にしか敬語は使わない。スープレイガはカーシスを自分より下に見ているのだ。
「申し訳ございません」
ドラコニキルが謝罪をするがカーシスは「まあいい」と言った。
「確かに私は君たちと違い、悪魔でなく、人間だ。君たち程は強くない。だが、あくまでも、私の方が権力が上であることを忘れないでくれ給えよ、スープレイガ」
カーシスがそう言うとスープレイガは黙り込んだ。
「ふー、スープレイガ…お前が単独行動を起こしたのは許すまじ事だぞ」
ドラコニキルがそう言うとスープレイガは知った琴子と言いたげな顔をしていた。
「まったく…君のその傍若無人ぶりは頭が痛くなるね」
カーシスは自身の紺色の髪を弄りながらそう言った。
「それに、部下が全滅とは…少々、敵を舐めすぎたのではないかね」
「……」
スープレイガは無言であった。スープレイガからしてみれば、自分以外全滅するなど、考えていなかった。完全に予想外の事態であった。
相手を舐めていたとしか言いようがない、スープレイガの落ち度である。
「長官、彼の処罰は…」
「ああ、そうだね。スープレイガ・レオンジャックは…私の許可が下りるまでは牢獄に閉じ込めようか。彼の力は必要だしね。勿論、「悪魔」も没収だ」
「ふざけんな!!そんなの納得…」
「黙れ…スープレイガ・レオンジャック」
カーシスがそう言うとスープレイガは黙り込んだ。カーシスは何か異質な力を感じる。スープレイガはそう感じたのだ。
「さてと…こちらも次の話をしようか。ドラコニキル」
「はっ、では、『七魔王』を二人送り込みましょう。そして、一般構成員を二人ほど…」
「それで足りるかい?」
「十分です。何しろ私以外「囮」ですので」
ドラコニキルが邪悪を含んだ笑みでそう言った。
「分かった、任せるよ。私の願いが成就するのも時間の問題だ」
「必ずや期待に応えて見せましょう」
ドラコニキルはカーシスに一礼をし、そう言った。
スープレイガはそのまま牢に入れられ、「悪魔」をドラコニキルに取られてしまった。
「クソ…!牢に閉じ込められただけならまだしも…まさか、「悪魔」まで取られるとはな…」
スープレイガは愚痴るようにそう言った。
「まぁ、いずれ謹慎は解かれるし…待ってやるよ…大人しくな」
スープレイガはしょうがないという感じで寝転び、眠りについた。
ドラコニキルは一人で道を歩いていた。そして、考えていた。
カーシスの目的の詳しい内容をドラコニキルでさえ聞かされていなかった。
『ヴァルキリア』、カーシスはそう口にしていた。『ヴァルキリア』はこの「USW」を統治する王の名だとそうカーシスは言っていた。
ドラコニキルは考えたが、仕方がないと思ったのか、考えることを止めた。
「まぁ、いい。命令をオレは遂行するだけだ」
ドラコニキルはそう呟いた。
彼はカーシスの命令に従っていればいい。そうすれば、ドラコニキルは平穏でいられる。
ドラコニキルは安全に生きることが出来ればそれでよかった。
そう、それ以上は何も望んでいない。
ドラコニキルはそう言って歩き去って行った。
あの後、負傷した慧留、一夜、美浪、遥、湊、薊は市内の病院に搬送された。蒼と屍はどうにか動けた為、応急処置だけで済んだ。
しかし、他の五人は重傷を負っており、特に慧留と一夜がかなりひどい状態であった。
狂と澪、屍は五人の見舞いに行っていた。幸い、五人共命に別状は無く、全員意識を取り戻していた。
「皆無事でよかった~」
狂はそう言うと澪が「そうだね」と言った。
「今回、皆、「USW」の軍隊相手によくやったと思うわ。けど、あいつらはまた攻めてくるかもしれない。いつまでも落ち込まないように」
澪が続けてそう言うと皆、暗い顔をしていた。
「そう言えば…蒼は?」
慧留がそう言うと屍がバツが悪そうに答えた。
「ああ…あいつは…」
『一人にしてくれ』
『何言って…』
『頼む』
『………』
屍はあの後、蒼と一緒にいた。だが、蒼はそう言い残してどこかに行ってしまったのだ。
「ま、そっとしといた方がいいかもしれないね」
一夜がそう言うと慧留が下を向いた。
「蒼は…戻ってくるよね?」
「今は…信じて待つしいかないわ。簡単に折れる奴じゃないと思うけどね、私は」
薊が窓を見ながらそう言った。
「ああ、あいつは簡単に諦めねぇよ。待とうぜ、信じて」
屍がそう言うと皆が頷いた。
蒼が本気で行方を眩ませているのならば、慧留たちが探したところで恐らく見つからない。時間の無駄である。
ならば彼らの選択は一つ。信じて待つことである。
蒼は草原にいた。そして、近くにある川の前に立っていた。
そして、蒼は思い出した。あの時の事を。
蒼は守れなかった。何も、何も。
自身と仲間を襲い掛かった者を倒すことが出来なかった。
幸い、誰も死ななかったものの、蒼は途方も無い敗北感に襲われていた。そう、蒼はあの時、何もできなかったのだ。
蒼は自身の力の限界を感じていた。いや、今のままでは仲間の足を引っ張ってしまう。
蒼はここから立ち去ろうと考えた。しかし、それを決行するほど蒼は馬鹿では無かった。それをすれば自身の死期を速めるだけであり、最悪、仲間にも影響を与えてしまうこともあり得た。
しかし、今の蒼はどうすればいいか分からなかった。
どうにかして、寿命を延ばさないといけない。出ないと皆「USW」に皆殺しにされる。
力も取り戻さなければならない。今のままでは奴らに返り討ちは必至である。
蒼はこの絶望的な状況を打破する手段を考えるが何も思いつかない。思考が働かない。
蒼は自身の寿命を感じていた。あの時の戦いで寿命はさらに縮まった。力も衰えているのが分かる。
ここまで自身の無力を呪ったことは蒼にとって何年ぶりだろうか。蒼はこのような感情を抱きたくないが為に人と関わることを避けてきた。
失うのが怖い、大事な仲間が傷つくのが怖い、それによって自分が壊れてしまうのが怖い。そう、恐怖だ。
蒼にとって、誰かを失う恐怖はそんじゃそこらの恐怖よりも途方も無く恐ろしいものなのだ。
慧留、一夜、湊、遥、美浪、澪、屍、薊、狂…今となっては蒼にとってかけがえのない存在になっていた。
蒼は強く思った。「あんな思い」は…二度としたくないと。
蒼はある一つの決心を固めた。
ここは「十二支連合帝国」の本部である。トウキョウのちょうど中心部に位置する場所であり、魔道刑務所とトウキョウ裁判所の中間あたりに位置する場所である。
「常守総帥。この件についてはいかがなさいますか?」
「その件については話はついておる」
「左様でございますか…では、失礼します」
そう言って男は出て行った。
「ふぅ~、やれやれ、この国は我々が変えてゆかぬとな」
常守厳陣がそう呟いた。白髪のオールバックであり、見た目は五十代くらいの初老の老人である。
この「十二支連合帝国」は閻魔家により、魔族に対する過剰な迫害、そして、不正な政治が行われていた。
四大帝国会議により、閻魔家は悪事が全て露呈、刑務所に監修されている。
厳陣はこの国の政治に深くかかわってきたことから急遽、総帥に選ばれた。そして、政治が安定してきた頃に「USW」が進行してきたと報告が入った。
「奴らは一体何を…」
厳陣は疑問を口にした。「USW」は四大帝国会議の後、「十二支連合帝国」を庇護したはずだ。なのに何故…
「まぁ、今はそこまで大ごとになっていないからいいが…これ以上何かあれば見過ごせない…」
厳陣がそう言っていると、厳陣は周囲に妙な霊圧を感じた。
「これは…」
厳陣は外に出て行った。
厳陣が外に出て、少し歩いていると、一人の少年がいた。時神蒼である。
「君は確か…澪の友人だね」
厳陣がそう言うと蒼が反応した。
「あなたは?」
「私は常守厳陣だ」
「そうか…あなたが…」
蒼は厳陣の事を知っていたようだ。
「君の事は澪から聞いているよ。まぁ、用が無ければ連絡をよこすことはあまり無いがね」
「話があります」
「……聞こうか」
厳陣は蒼の真っ直ぐな瞳を見て、そう言った。
「成程…それで私の所に来たと…」
「はい、あなたは魔族の研究…特に天使の研究をしていたと聞いています。まぁ、その事を知ってる人は殆どいないですけどね。澪さんも知らなかったみたいですし」
「まぁ、今となっては私は研究が本職ではないからね」
厳陣はそう言った。そう、彼は魔族の元研究家であり、天使の事をかなり精通していた。
「しかしだね…私も天使と人間のハーフなど初めて見た。出来ることは限られておるぞ」
厳陣がそう言った。実際、厳陣はそのような者と出会うのは初めてなのだ。しかし、天使と人間のハーフについての研究はしたことがある。
「それでも構いません…お願いします」
「分かった。それでは、特訓開始じゃな。覚悟はいいの?」
「お願いします」
蒼はそう言った。厳陣は彼の真っ直ぐな眼を見て、何かを感じたようだ。
-彼なら…もしかすると…
厳陣はそう…思ったのであった。
To Be continued




