EXTRA ー放課後パーティナイトー
蒼たちの知らないところで苗木一夜は一人で夜の街に出かけていた。苗木一夜、蒼の仲間であり、どこか怪しく、胡散臭い人物。彼の秘密の一つが紐解かれる。
苗木一夜は一人で夜道を歩いていた。この頃、蒼たちは学校の七不思議の探索に行っている筈だ。まぁ、一夜にとってはどうでもいいことだが…一夜はアッシュブロンドの髪とメガネが特徴の胡散臭さが漂う青年である。一夜はとある要件を済ませる為に夜の渋谷を歩いていた。
「あれ?苗木さん?」
後ろから声が聞こえた。一夜は声のする方向に振り向いた。そこにいたのは董河湊だった。鈍色の髪と黒目が特徴の少年であった。一夜と同じ、生徒会のメンバーであり、蒼たちと同い年である。一夜は面倒な事になったなと思った。
「ああ、湊君か。生憎、僕はこれから用事があるんだ。では、ここで失礼するよ」
一夜はさっさと湊から離れようとするが湊は一夜について行った。
「…何故ついてくるんだい?」
「そこまで避けられたら気になるじゃないですか?何をしようとしてるんですか?」
湊は一夜の明らかな不審な行動を見て、今の一夜に興味を持ったらしい。好奇心旺盛で面倒だなと一夜は思った。そもそも、一夜は蒼と慧留と美浪以外の生徒会メンバーとはあまり積極的には会話しなかった。一夜本人が人付き合いを面倒臭がる性分の為、あまり積極的に話そうとはしない。そして、今回がそのせいで裏目に出てしまっている。
「はは…別に大したことではないよ…」
「う~ん」
湊は中々折れてくれなかった。これは面倒だなと一夜は思った。どうやら、湊は見た目や普段の感じとは裏腹に意外と根負けしない性格のようだ。一夜はこの手の相手と会話するのは非常に苦手なのである。
「苗木さんと湊さんじゃないですか?こんなところで何をしてるんですか?」
現れたのは霧宮美浪であった。水色のセミロングと瞳を持つ、可憐な少女である。彼女も一夜と同じ生徒会に所属しており、学年は湊より一つ下の一年生である。
「や…やあ、美浪君。奇遇だね」
一夜は冷や汗をかきながらそう言った。美浪が来た事によりさらにこの場を凌ぎ辛くなってしまった。
「霧宮さん、実は今日の一夜さんが挙動不審なんだよ。何か知らない?」
-余計な事を!?
一夜は頭に手を置いた。この手の話題になるとすぐに食いついてしまうのが美浪である。
「へぇ…興味ありますね。苗木さんがそんな挙動不審になる事なんてあまりありませんし…まぁ、普段から胡散臭さはありますけど…興味ありますね」
「……美浪君…それなんて言うか知ってるかね?「粗相」って言うんだよ」
さらっと失礼な事を言った美浪に一夜は美浪に注意した。
「でも、一夜さん、確かに冷や汗かいてますね。怪しいですね…」
一夜は眼を見開いた。
「え?冷や汗かいてる?」
「かいてるよ。直感で分かりますよ」
-野生の感というやつか!?面倒だな…というか、逃げるのはほぼ無理だなこりゃあ…
一夜は額に手を置き、半ば諦めたような顔をした。
「ついて来るなら勝手についてくるといい」
一夜は溜め息を吐きながら言った。
「しかし、僕が今からやる事は他の者に公言しない事、それだけは守ってくれ!」
「「分かりました」」
一夜がお願いすると美浪と湊は了承した。
「では、行こうか」
一夜と美浪、湊は近くにあった黒いビルに入って行った。
「またやって来たか…」
ビルの最上階に一夜と湊、美浪はいた。最上階には受付員と思わしき老人がいた。
「ああ、今回も賭けをするよ。相手は来てるかい?」
-か…賭け!?
湊と美浪は絶句した。そう、一夜がやろうとしていたのは金を賭けたゲームだ。一夜が湊と美浪がついて来るのを渋っていた理由がこれだ。学生が賭けをしていたとなると問題である。苗木日和を経営している一夜からすればこの事はあまりバレたくない事であろう。
「ああ、来てるよ。中に入りな」
老人が扉を開ける。すると、そこにいたのは眼帯をつけた黒スーツの男であった。後ろには美女が二人並んで立っていた。
「あ?てめぇが今回の相手か?意外と弱そうな奴が来たもんだな」
男はそう言った。しかし、一夜は気にすることは無かった。
「まぁ、お手柔らかに」
一夜はソファに座った。右側に湊が、左側に美浪が座った。
「面白い…」
男はそう言った。そして、台座に置かれていたのはチェスの駒と盤であった。
「いくら賭ける?」
男が聞いて来た。一夜はすぐさま答えた。
「三億円…」
「な!?」
一夜がそう答えると美浪と湊が絶句した。学生が持っている額を遥かに超えている。一体どこからそんな資金源があるのかと男は疑問に思ったがあまり深く考えないようにした。男は特に表情を動かさなかった。
「不服かい?」
「いや、面白い…いいだろう…なら俺は四倍の十二億賭けよう」
「いいのかい?そんなに賭けても?」
「問題ない、始めようか」
美浪と湊は二人の会話にかなりの圧力を感じ、息を飲んだ。そもそも、彼らは賭けの現場を見るのも初めてなのだ。息が詰まってしまうのも無理はない。
しかし、一夜はかなり手慣れていた。恐らく初めてではなく、かなり場数をこなしてきたのだろう。相手もそれは同じなのだろうと湊は思った。
一方、美浪は二人は金を賭ける段階から駆け引きが始まっていると感じていた。それは間違いではなく、かける金額などによって相手の精神に揺さ振りをかける。この時点から戦いは始まっているのだ。
二人はチェスの駒を並べ始めた。一夜は白、男は黒だった。
チェスは海外版の将棋と言えるもので、先にどちらかの王将を取った方が勝ちという、非常に将棋と似通ったゲームである。将棋と同様に駒によって動く動きも決まっており、その駒をどう動かすかで戦局を左右する。しかし、勿論違いはある。それは、将棋の場合は倒した駒を自分の駒として扱う事が出来るが、チェスはそれが出来ない。
基本的にチェスは白が先攻であり、黒が後攻である。この手のゲームは先攻の方が圧倒的に有利である。しかし、先攻にばかりメリットがあるという訳ではなく、先攻の場合は最初から相手の駒を攻撃する事は出来ない。因みに後攻の場合は初めから相手の駒を取る事が可能である。まぁ、チェスの場合、最初からとれる駒は非常に限られるのであるが。
先攻は一夜から。一夜はポーンを前に動かした。ポーンは将棋でいう歩兵であり、基本的に前にしか動かせない。しかし、相手の陣の三マス目迄に行くとクイーンと同じ動きが出来るようになる唯一の駒である。このポーンも戦況を動かす重要な要素となる。因みに、駒を強化させられるのはポーンだけであり、他の駒は出来ない(将棋の場合は王将と金将以外は成り金という、駒を強化できる。成り金した駒は全て、金将と同じ動きが出来る)。
次は男が動かした。男もポーンを動かした。一ターンたったが戦況は動かなかった。動き出すとすればもうしばらく後だ。
-いや~、結構ヤバいかもね…
一夜は表情には出さなかったもののそう思った。相手はかなりのやり手だった。一夜は先ほどまでのやり取りでなんとなく分かってしまった。
「筋がいいな」
男はそう呟いた。男も一夜が只者ではないという事を見抜いたのだろう。
「それはどうも…」
一夜は強がるようにそう言った。ゲームはそのまま続行された。
一夜と男のチェスの戦いの戦況は一言で言うと五分五分であった。あれから一時間。二人の勝負は未だに続いていた。
美浪と湊はあまりの緊張感にかなり汗をかいていた。見ているだけでもこれだ。本人たちは更なる重圧がかかっているに違いなかった。
「……」
一夜はルークを動かし始めた。ルークは右端と左端に配置されており、基本的には十字方向で移動できる駒であり、将棋の飛車と似通った性質を持っている。しかし、まっすぐであれば、どこまでも動けるので突破力が高い駒でもある。しかし、使い方を誤れば、死にも直面する諸刃の剣でもある。
「…ここだ」
男はビショップを動かした。ビショップはキングの隣とクイーンの隣にある駒であり、斜めに動かすことが出来る。性質としては将棋の角行に近い。斜めならどこでも動けるという、かなり癖が強く、トリッキーに立ち回れる駒である。相手の戦略を崩すのに重要な駒と言える。
「く…!」
一夜が押され始めた。ビショップが一夜の陣に侵入してしまった事により、一気に詰められてしまった。一夜はナイトを使い、ビショップを撃退。どうにか持ちこたえる。ナイトは進行方向が桂馬と似ているが桂馬と違い八方向に移動できる。一マス飛ばして移動出来る為、相手を飛び越える事が出来る唯一の駒であるが、ビショップ以上に癖の強い駒であり、相手を攪乱させる事に非常に優れているがその代わり、ビショップより扱いの難しい駒でもあり、使いこなすのはかなり難しい駒でもある。
湊は一応、チェスのルール自体は知っているがここまで息の詰まるチェスを見るのは初めてであった。二人のゲームを見てるだけで息が張り詰めそうになる。
美浪はルールは知らないものの二人の駆け引きが高度なレベルである事を理解しており、ハイレベルなゲームをしている事は理解できた。
「正直ここまでやるとは思っていなかったぞ、青年。この俺がここまで追い詰められるとは何年ぶりだ…」
男は一夜に称賛の言葉を贈った。男は素直に一夜の実力に関心をしているようであった。
「お褒めに預かり光栄ですね。僕もここまで追い詰められたのは久しぶりですよ…いい気になってましたね。これは…反省しないといけないですね」
「ふ…そんなチャンスを与えると思っているのか?」
男はクイーンを動かした。クイーンはビショップとルークを組み合わせた動きが出来る駒であり、事実上最強の駒である。これにより、戦局は完全に男が支配してしまっていた。
-ヤバッ…
一夜は動揺の表情をした。かなり焦っていた。その焦りが湊や美浪にも伝わるほどであった。
「これで終わりだ」
男は勝利宣言をする。このままでは確かに勝ち目がない。後一歩、詰め寄られたら一夜の負けである。
「苗木さん!?」
「苗木さん!!」
美浪と湊が思わず、一夜の名前を呼ぶ。一夜はその間に思考を巡らせていた。どの手で攻めるのがいいか?動かした後の相手の手は?相手はどう攻めるか?今のターンの後のターンは?後の後は?一夜はあらゆる思考で相手の戦術を崩す方法を模索していた。
-!?
一夜は戦術が閃いた。早速、駒を動かした。ポーンの駒だ。
「!?」
男は眼を見開いた。一夜が先ほど動かしたポーンは相手の敵陣に入っていた。つまり、その駒はクイーンとなる。しかも、一夜のクイーンは男のキングを捉えていた。もし、このままにしておくと、次のターンで仕留められてしまう。
「チェックメイト…さぁ、どうする?」
一夜が男に指を指して言ってくる。男は完全に冷静さを失っていた。この手のゲームで冷静さを失うのはあってはならない事だ。一気に負けに繋がる。
「く!」
男はキングを動かし、横にずらした。キングは王将、玉将と同じで、全方向を一マスずつ動かせる。このキングが取られた方が負けになるので逃げに特化した駒であるといえる。逃げるが勝ちという言葉があるが、まさにその通りで逃げる事も大事な場面では戦ではよくある事だ。
「甘いね」
一夜はナイトを使い、さらに逃げ道を防いだ。そして最終的に囲まれてしまった。これは…男の方が完全に「詰み」だった。
「な!?」
男の顔を真っ青に染まっていた。この勝負、一夜の勝ちである。
「「やった!!!」」
美浪と湊はガッツポーズで喜んだ。
「ふぅ~」
一夜も勝負がつき、一段落と言った感じであった。
「………負けだ…十二億だ…持っていけ」
男は大量の賭金を一夜に手渡した。
「ありがとうございます」
一夜は笑顔でそう言った。
「貴様…名前は?」
男は名前を尋ねたがー
「名乗るほどでもありません。お互い内緒で…ね?」
一夜はそう言ってそのまま金を持っていき、湊と美浪と共に外に出た。
「ふはは…まったく…喰えない男だ」
男は嗤いながらそう言った。負けはしたが久しぶりにスリリングな戦いを楽しめた。男はそれだけで満足であった。彼の名を聞けなかったのは残念だが…まぁ、彼の事は心に刻んでおこうと決めた。
こうして、一夜と黒服の男との賭けは終了した。
「いや~、スリリングな戦いでしたね。あれ、一歩間違ってたら負けてましたよね?」
「ああ、まさかあれほどとは…僕もまだまだだなぁ…」
湊が言うと一夜が納得したようにそう言った。実際、価値はしたが、正直、運が良かっただけと言わざる負えない。それほど、緊迫した状況であった。
「苗木さん…毎回あんなことしてるんですか?」
美浪がジト目でこちらを見てくる。賭け…ギャンブルはあまり褒められたものではない。美浪のような反応をするのは当然と思えた。
「まあ、苗木日和を経営する為にはあれをしないといけない事もあってね…今は昔ほどはやっていないんだ…今日も賭けをしたのは三年振りくらいだったし。まぁ、これだけ資金があればしばらくは困らない。僕もなるべく賭けはしたくないんだよね~。負けたらデカいからね~。一度コテンパンにされて逆に一億以上の借金を負わされた事もあったし…」
一夜がそんなブラックな発言をすると美浪だけでなく、湊まで顔を引きつった。
「次はどこに行くんですか?一夜さんの家に向かってる訳じゃないみたいですけど…」
「ああ、あそこだよ」
一夜と湊と美浪はあれこれ一時間以上歩いていた。一夜たちの目の前にあったのは大きい城だった。
「ここは…?」
「ここは式場だよ。今日はここでダンスパーティーをやるのさ。ここで、ある人と会う約束をしていてね」
湊の質問に一夜は淡々と答えた。
「ところで…君たち、スーツとドレスは持っているかい?」
「持ってないです」
「俺も…」
「分かった。ここにはドレスとスーツのレンタルも出来る。そこで借りよう」
「苗木さんは持ってるんですか?」
「ああ、勿論、さぁ、行こうか」
一夜と湊と美浪は式場に入って行った。
湊と一夜は城内にあった男子更衣室に入り、美浪は女子更衣室に入って、それぞれスーツとドレスに着替えた。
「美浪君は…」
一夜がそう言うと美浪が女子更衣室から出てきた。
「へぇ、似合ってるね」
湊が率直な感想を言った。美浪のドレスは白を基調としており、胸元に青いリボンが付いていた。湊の可憐さが良く出ていた。
一方、一夜と湊は黒を基調としたごく普通のスーツであった。
「苗木さんも湊さんもよく似合ってますよ」
美浪は笑顔でそう言った。
「さてと…行こうか」
一夜がそう言うと湊と美浪は一夜について行き式場に向かった。
歩いて五分ほどで式場に到着した。スーツやタキシード、ドレスを着た男女が集っていた。
「うわ~、こういう場所来たの初めて…」
湊がそんな声を漏らした。普通の高校生ならこんなところに来ることはそうはないだろう。美浪も周りをキョロキョロ見ていたので、恐らく、美浪もこのような場所に来るのは初めてなのだろう。
「二人とも、そんなに緊張しなくていいよ?ああ、踊り方が分からないのか…大丈夫、美浪ちゃんは僕と踊れば問題無い」
「俺は!?」
一夜がフォローするも湊に対して全くフォロー出来ていなかった。
「いや、男同士で踊るとかありえないだろう?君は自力で何とかしてくれ」
一夜が湊に対してかなりぞんざいであった。
「ここでも俺はこんな扱いなの!?」
湊は泣きそうな顔でそう言った。湊は特別ウザいキャラではない筈だが…強いて言うならナルシストでたまにウザいくらいでそれ以外は普通の筈なのだが、何故か、生徒会内での彼の扱いは異様に悪い。彼をぞんざいに扱わない者の方が珍しいくらいだ。何故。
「湊さん!頑張ってくださいね~」
美浪は湊に激励?の言葉を贈った(どこか他人事のように聞こえたのは恐らく湊の気のせい)。
「……分かったよ」
湊はそう言ってフラフラと歩いて行った。湊の後姿はかなり悲しい感じで一夜と美浪もそんな港を少し可哀そうに思ったのか湊に敬礼をした(しかしやはりどこか他人事だった)。
「……わっ!っと…」
「ああ~、焦らなくていいよ、リズムに合わせて」
一夜と美浪は二人で踊っていた。一夜の見立てでは運動能力が高い美浪なら、すぐに踊りは出来るだろうと思っていたのだが…リズム感があまり無いようでかなり苦戦していた。
「難しいですね…」
「慣れだよ。僕も最初は全然だったし」
美浪の言葉に一夜はさりげなくフォローを入れた。
「一夜さんっていつからこういう事してるんですか?」
「こういう事って?」
「賭け事やこういう…夜の遊び…とか?」
「夜の遊びって…なんかいかがわしいからそう言い方は止めてくれないかい?」
美浪の言い草に一夜は文句をつけた。
「まぁ、五年ほど前からかな?僕の家は僕に対して徹底的に放任主義だからね…自分で何とかするしかなかったのさ」
一夜はそう答えた。一夜の家は苗木家である。苗木家と言えば「十二支連合帝国」有数の金持ちの家であり、一夜はその子供だ。しかし、彼は五男坊であり、跡取りがすでに決まっている上に一夜は末っ子だった為か親にあまり相手にされなかった。さらに、一夜は勝手に一人で何でも出来る人間であった為、一夜の両親はそんな一夜を不気味がってさらに距離を置くようになった。そして、一夜は五年前に一人で一人暮らしの手続きをし、一人暮らしを始めたのだ。賭け事などはその時に始めた。
始めは負けまくりだったが、色々場数を踏み、どうにかやりくりは出来ている。現在は主にバイトで収入を得ている。一夜はパソコンに強い為、その手のバイトについており、バイトだけで生活には困らないほどまでには儲けられるようになっていた。
一夜が今日、賭けをしたのも自身の生活の為ではなく、別の理由なのである。
「そう…ですか…まぁ、苗木さんって色々謎ですしね」
美浪はそう呟いた。美浪は一夜の事情はあまり把握できていない。一夜の経営している苗木日和に住んではいるが、蒼たちと会うまではそこまで多く会話する事もなかったので猶更だ。
「そうかい?」
一夜があたりをキョロキョロしながらそう言った。
「それにしても…湊君は大丈夫かな?」
「…そう言えば…」
一夜は今更ながら湊の心配をした。美浪に至っては完全に忘れていたようだ。湊…悲しい奴。
「はぁ~、相手探さねーとな。けど、殆どの人は男女で来るよな~、普通。気まずい…」
湊はそう言いながら辺りをフラフラしていた。湊は踊る相手が見つからず、途方に暮れていた。一夜や美浪には放置され、見捨てられるし…一体いつから湊の扱いがここまで悪くなってしまったのか…湊は自問自答した。
蒼たちが来る以前から湊は弄られ役だった。皆、悪意がある訳ではないとは湊自身分かってはいるのだが、このような扱いをされ続けるのは港的には不服だった。まぁ、相手にされないよりはよっぽどましかもしれないが…
蒼たちが来てから湊弄りがエスカレートしていっている気がした。というか、後輩にまで弄られるとは湊もなんだか悲しくなってくる。
まぁ、死ぬほど今の立場が嫌という訳ではない。それなりに楽しめてもいる。だが…複雑な気持ちデアある事には変わりなかった。
「はは…俺ってもしかしたら結構面倒臭い性格なのかもな」
湊は自嘲気味にそう言った。相手が見つからないまま歩き続けていると後ろから声が聞こえた。
「ちょっと、君、私と踊ってくれないかしら?」
湊はすぐさま振り向いた。相手は白髪の女性だった。すらっとした体躯に緑のドレスを着ており、長いまつげが特徴の美女であった。
「ええ、いいですよ…俺もちょうど相手がいなかったので」
湊はすぐに了承し、二人で踊り始めた。女性はかなり踊りに手慣れていた。一方、湊はかなりぎこちなかった。
「あら?あなた初めて?」
「え、ええ…まぁ…」
「ふふ…かわいい子。私がエスコートしてあげるわ!」
女性はそう言ってノリノリに踊り始めた。湊は見事に振り回された。
-かわいいって…俺一応、男なんですけど…
湊は胸中で文句を言った。こういう扱いをされるのもあまり好きではない。湊は湊で面倒臭い性格である。
「あら?一夜君?一緒に踊ってるあの子は誰?めちゃめちゃかわいいじゃない!」
女性が一夜を見かけた瞬間、そう言った。すると、湊は目を丸くした。女性が言うあの子とは一夜と踊っている美浪の事だろう。
「苗木さんの事、知ってるんですか?」
「あら?あなた一夜の友達?」
二人は目を合わせ、すぐに一夜と美浪の元へ向かった。
「いや~、驚いたよ。まさか湊君が僕の探していた相手を見つけてくれるとはね」
一夜は愉快そうな顔をしてそう言った。一夜と女性が一夜に声をかけた後、ダンスパーティーは終了し、控室で話していた。勿論、美浪と湊もそこにいた。
「一夜さん、この人は?」
「この人は音峰茜さん。簡単に言うと、苗木日和のスポンサーだよ。そして、遥君の母親でもある」
「「え!?」」
湊と美浪は驚愕の表情をした。この大人っぽい人があの遥の母親だというのか…似てない、似て無さすぎる。遥はピンクのツインテールで童顔が特徴の少女だ。茜とは正反対の見た目と言える。しかも、母親とは思えないくらい若々しい容姿だった。
「遥がお世話になってます。音峰茜と言います。今後とも、娘をよろしくお願いするわね」
茜が三人に対してお辞儀をした。そのお辞儀も優雅で華麗だった。とても、あの傍若無人ぶりが目立つ遥の母親とは思えなかった。
「因みに、遥さんは二人の関係を知ってるんですか?」
「多分、知らないだろうね」
「知らないと思うわ。話す程の事でもないしね」
美浪の質問に一夜と茜はあっさりと答えた。かなり他人事だった。
「てか、遥さんって苗木さんの事明らかに苦手意識してますよ?何かあったんですか?」
湊は一夜に問いかけた。
「そうなのかい?」
どうやら一夜は自身が遥に苦手意識を抱かれている事に気付いてなかったらしい。一夜以外の生徒会メンバーは薄々感づいているというのに…
「へぇ~、まぁ、あの子は確かに一夜君みたいなタイプは苦手そうね…」
茜は軽い感じでそう言った。茜はどうやら、結構サバサバしている女性のようだ。
「というか、何でこんなところにいるんですか?」
「まぁ、家の用事でね…こういうとこに行かされたりするのよ。夫は仕事が忙しくて殆ど家に帰れないしね」
「茜さんの夫は音峰家の御曹司なんだよ。まぁ、財閥ってやつだね」
「財閥…ですか…」
音峰家は「十二支連合帝国」内にあるエネルギー資源を牛耳っている財閥であり、遥はその一人娘だ。しかし、二人の様子を見る限り、湊と美浪はその事を知らなかったらしい。
「あの子…あまり自分の事を話したがらないから…所で一夜君…」
「ええ…」
一夜はそう言ってさっきの賭けのゲームで手に入れた十二億円を茜に手渡した。
「ありがとう。いつもご苦労様ね」
「いいえ、あなたのお陰で苗木日和が経営出来てる訳ですから…」
「魔族でも安心して住めるようにする為よ。このくらいはしないとね…あなたには悪いと思ってるわ…」
どうやら一夜は苗木日和を存続させる為に、お金を稼いでいたらしい。
「どうしてそこまでするんですか?苗木さん?」
美浪は疑問に思った。一夜は人間だ。魔族ではない。この国の人間は魔族に対する差別がかなりすさまじい国であった。今は払拭されつつあるが、それもつい最近の事だ。にも拘らず、何故、この二人はここまでするのか、美浪は気になっていた。
「まぁ、僕にも色々あるという事さ」
一夜は適当にごまかした。
「私はお金貰ってるしね」
「よく言いますよ。僕の稼いだお金は全て、苗木日和に回してる癖に」
一夜がそう言うと茜は気まずそうな顔をした。
「本当は私の家で苗木日和を経営したいとこだけど、それをしている余裕はないのよね。ある程度は補助してるけど、私だけじゃどうしても限界あるしね…」
茜はそう言った。あくまで苗木日和のスポンサーは茜個人でしている事であり、音峰家は直接関与していない。しかし、茜は経営の手腕に優れており、茜のお陰で苗木日和が経営できているといっても過言ではなかった。
「茜さんは何でそこまで協力するんですか?」
湊は茜に問いかけた。
「まぁ、私は友達が魔族でね…その人が安全に過ごせる場所を作りたいって思ってたのよ。そんな時に会ったのが一夜君」
茜は学生時代、友達の何人かが魔族でその者たちが迫害を受けていた事を知っていた。どうにかして助けたいと思ったが茜だけではどうしようもなかった。
その友達は全員、現在は苗木日和に住んでいる。
「だから、一夜君には感謝してるわ」
茜はそう言った。一夜の人間関係は謎が深まるばかりだと湊と美浪は思った。実際、一夜は知り合いに警察官がいたり、茜という、財閥に知り合いがいたりと彼の人間関係は本当に謎だ。
「さて、長居するのは危険だ。そろそろ行きますね」
「そうね、本当は娘の話をもう少し聞きたかったんだけど…そう言えば、あなたたち、名前聞いてなかったわね。名前は?」
「董河湊です」
「霧宮美浪です」
「湊君、美浪ちゃん、娘をよろしくね!」
茜は元気な声でそう言って、部屋から出ていった。
「今日はありがとうございました!」
美浪は一夜にお礼を言った。
「いやいや…まぁ、特に問題は起きなかったし…」
一夜はそう言った。
「苗木さん、今日の事はぜっっったいに、忘れませんからね!俺を放置した事!!」
「…君、意外とネチッコイね」
一夜は港の言い分にケチをつけた。因みに一夜たちは茜と別れ、今は苗木日和の前にいる。
「苗木さん…私にい場所を作ってくれてありがとうございます」
「…何だい?改まって」
美浪が再度お礼を言うと一夜は驚いた表情をしていた。
美浪は一夜がなぜ、あそこまでしてこんなマンションを経営してるかは分からない。けど、美浪がここにあるのは間違いなく、このマンションを作った一夜のお陰なのだ。美浪はそんな一夜に感謝の気持ちがあった。
「私が言いたいから言ったんです!では、帰りますね」
「ああ、っと、今日の事はくれぐれも公言しないでくれよ」
「はーい!」
一夜が釘を刺すと美浪はそのまま帰って行った。
「湊君もね」
「分かってますよ…事情が事情ですし…」
湊も一夜に釘を刺されたが、湊も美浪と同様、一夜の事情をある程度理解している為、この事は詮索する気も誰かに言う気もない。
「そうか…今日は色々済まなかったね。悪いとは…思ってるんだよ?……一応」
「……ソウデスカ」
一夜がそう言うと湊は片言で返した。どうも、一夜は悪いと思ってるように聞こえなかった(多分湊の気のせい……ではない)
湊はそのまま帰って行った。
「ふ…たまには他の人とこういう事するのも悪くないね」
一夜はそう呟いた。最初は港と美浪を連れていくのには抵抗があったが、一夜はそれなりに楽しめた。
「さて、僕も帰るかな…」
そう言って、一夜も自分の家に帰って行った。
THE END
またまた番外編です。今回は蒼は出てきませんでした。一夜が主役の話です。何気に蒼がいない短編は初の様な気がします。一夜は苗木日和を存続させるために色々蒼たちが知らないところで動いていたのです。何故、一夜がここまでしているかの経緯はまたいずれ書こうと思ってます。
さて、次も短編ですが、短編は次ので一旦終わります。次の短編が終わったら、新しい長編に突入します。お楽しみに!それでは!




