【第一章】十二支連合帝国篇Ⅰ-学校ー
時神蒼と月影慧留は苗木一夜の手引きにより、学園生活を送ることになった。
慧留は期待に胸を膨らませるも蒼は憂鬱な顔をしていた。
そんな二人にとある少年が現れるー!
ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!
そんな音がした。
「朝か…」
気だるげに時神蒼は目を覚ました。蒼は朝に非常に弱い。本来、天使も人間も比較的朝に強い種族であるはずなのに…妙な話である。
蒼が今いるのは都内にあるマンション、「苗木日和」の五階の部屋の五〇三号室である。蒼はここでしばらく一人暮らしをすることになった。
このマンションは苗木一夜が管理しているマンションでもある。
「一高校生がマンションを牛耳るって、何者なんだよ…」
蒼が独り言のように呟いた。
因みにもう一人このマンションに住むことになった人物がいる。その少女の名は月影慧留。彼女は隣の号室に住んでいる。所謂お隣さんだ。
「はぁ、何だ?このラノベ展開は俺はこんなの望んでないぞ…」
蒼が一人で駄々をこねているとピンポンの音が聞こえた。
「はーい」
蒼が扉を開ける。するとそこにいたのは慧留だった。
「おはよう、蒼」
「おはよう、慧留」
慧留が挨拶すると蒼も挨拶をした。
「一日目からしんどそうだね。大丈夫?」
慧留が心配そうに聞いてくる。
「ウルせーなぁ。俺ぁ、朝に弱いんだよ」
蒼が気だるげにそう言った。
「天使も人間も比較的朝に強いはずだけど?」
慧留がジト目になりながらそう言った。
「弱いもんは弱いんだからしょうがないだろ!?」
蒼が怒鳴り気味に言い放った。
「私、蒼の準備ができるまで待ってるよ」
慧留が仕方なさそうにそう言った。
「先行っといてもいいぞ。どうせ俺たち歳が違うから同じクラスになるとか在り得ないし」
蒼がそう言うと慧留が「聞いてないの?」と言ってきた。蒼は何が何だか分からなかった。
「どゆこと?」
蒼はそう聞いた。
「私たち国籍上は同い年ってことになってて私も蒼と同じ学年なんだよ?一夜さんから聞いてない?」
慧留が淡々と答えた。
「はあああああ!?今知ったわ!おいおいおいおい!何だよこの展開!?何かのマンガ!?アニメ!?ラノベ!?しかも何でアイツ俺には伝えてないんだよ!?」
蒼は取り乱し気味でそう言い放っていた。
「さ…さぁ…それは私にも分からないかな~」
慧留がそう言うと蒼ははぁ~とため息をついた。
「どうせあいつは、「答える理由は無いし」って言うんだろうな、アイツのことだし。覚えてろよ~、あのインテリクソ眼鏡!」
蒼がそう吐き捨てると慧留が蒼の発言に対して異議を唱えた。
「仮にも匿ってくれてる人にそういうこと言うのはどうかと思うよ?というか、蒼はその口の悪さ直した方がいいよ」
「ウルせーよ!待つなり先に行くなり好きにしろ!」
蒼はそう言うとドアを閉めた。
蒼と慧留は二人で登校した。二人が向かっているのは一宮高等学校。都内屈指のエリート校である。二人は今日からこの学校に転校することになったのだ。
「家から学校近くて良かったね」
慧留がそう言うと蒼も同意した。
「まったくだ。これで学校からも遠いですとかぬかしやがったらあのインテリクソ眼鏡をぶっ殺してる所だ」
「だから、恩人に向かってそんな汚い言葉使うもんじゃないよ。こんな人が一国の王子なんて…正直信じられない…」
慧留が独り言のように呟く。
「残念だが俺は神聖ローマ連邦大帝国の第四王子なんだよなぁ。こう見えて!「信じられない」かもだけどなぁ」
蒼が拗ねた子どものような発言をした。子どもっぽい人だなぁと慧留は思った。
「あ、そろそろ着くよ」
慧留が言うと蒼は微妙な顔をした。
「うっげ~~。暫くはこの学校に通わないといけねーのかよ。メンドくせー、ダリー。帰りたい」
「よくもまぁ、学校の前でそんな罵詈雑言の毒舌を吐けるね」
蒼が陰鬱そうに言ってると慧留もまた、微妙そうな顔をした。
ーまったく、普段の蒼はなんかだらしない。
慧留はそう思いながら歩いて行った。蒼も慧留について行くように歩いて行った。
この一宮高校は平地にある学校で「苗木日和」から徒歩十分で行ける。かなり近い。高校生でこれは中々贅沢である。
「俺とお前は同じクラスなのか?」
蒼が慧留に問い詰める。
「うん、そのはずだよ。二年三組だよ」
慧留が蒼にそう答えた。
「俺も二年三組だ。あいつ、俺のクラスしか教えなかった…何考えてんだ?あいつは?」
蒼は一夜にかなりご不満なようだ。
「蒼は学校生活楽しみじゃないの?」
慧留は蒼に聞いてくる。
「楽しみな訳ねーだろ。いきなり訳の分からん世界に放り込まれるんだぞ。憂鬱で仕方ねーよ」
蒼は憂鬱そうな顔でそう言ってくる。
「私は楽しみだけどなぁ。知らない世界に行くってことは新しい発見があるってことじゃない。それを見つけることってとても楽しいことだと思う!だから私は今がとても楽しみだし、これからの学園生活もすごく楽しみ!」
慧留が目をキラキラさせながらそう答えた。蒼はそんな慧留を見て複雑な気持ちになった。何だろう、慧留のような考え方がとても羨ましく思えたのだ。
「怖いもん知らずだな、お前は。呆れる」
蒼は慧留にそう言い放った。
「行こう、蒼」
慧留がそう言うと蒼は「ああ…」と返事をして教室に向かった。
「今日からこのクラスに転校生が二人来ます。皆、仲良くしてあげてくださいね」
二年三組の担任教諭である、東山がそう生徒たちに伝えた。この教諭は女性の先生であった。
「それでは入ってきてください」
最初に入ってきたのは黒いロングヘアーの少女だった。
「初めまして、埼玉から転校してきました、月影慧留です。よろしくお願いします」
笑顔で慧留は自己紹介をした。生徒たちの小声が聞こえる。
「うわっ、めっちゃ美人」とか「彼氏とかいんのかな?」などの声が聞えてくる。
「月影さんはあちらの席に座ってください」
東山がそう言うと慧留は「はい」と返事をし、窓際の一番後ろの一個前の席に座った。
ーき、緊張した~。上手くできたかな?
慧留は胸中でそんな事を考えていた。すると、もう一人の転校生が入ってきた。入ってきた転校生はもちろん、慧留のよく知っている、蒼である。
「え~っと…隣町から引っ越してきました、時神蒼で~す。まぁ、適当によろしく~」
蒼はやる気が無さそうな自己紹介をした。
「なにあれ?」「暗い…」「何か怖い」なんて声が聞えたが蒼は気にしない。
ーいちいちウッセーンだよ!一々私語しねーと気が済まねぇのかよゴミ共が!!
蒼は胸中にそう呟いた。蒼はこういうことは大の苦手なのである。
「時神君は窓際の一番後ろの席に座ってください」
東山がそう言うと蒼は無言で席に着いた。
蒼はやりずらそうにジト目を慧留に向けた。
「はぁ、憂鬱」
蒼がそう呟く。
蒼と慧留の高校生活が幕を開けたのである。
「一夜…お前…絶対後で覚えてろよ…」
「「後で覚えてろ」と言って、言った本人が覚えていたためしはないよ」
蒼が一夜に対して切れていたが、一夜はそれを軽くあしらった。
「ねぇ~。蒼もいい加減しつこいよ」
慧留が蒼に一言言った。今三人がいる場所は屋上である。昼休みに入り、蒼と慧留は一夜に呼び出されていたのだ。
「で?二人とも…学園生活は楽しめているかな?」
一夜は楽し気に聞いてくる。
「私は結構楽しいですよ。生徒の約九割が人間って聞いて少し戸惑いましたけど…皆良い人でした」
「俺はもう最悪だ。色々悪い方向に注目されるし、目が合っただけでビビられるしもううんざりだ。もう明日から絶対ぇー学校なんか行かねぇ」
慧留は楽しげなのに対して、蒼は文句ばかり言っていた。
「皆、慧留ちゃんのこと人間だって思ってるからね~。そこまで酷い目には合わないと思うよ。でも、君が天使ってバレたらどうなるかは正直分からないから注意してね。後、蒼、君は文句が多い。我儘なのは相変わらずだね。そんなんじゃあ彼女出来ないよ?」
「ウルせーよ!彼女とかどうでもいいんだよ!!俺は学校に行きたくねーんだよ!!身を隠しつつも目的を果たすための情報収集が出来ればいいんだよ!!!」
一夜が淡々と話していると、蒼が一夜に怒鳴り散らした。
「蒼…それだけ聞くとニート発言だよ…全く…君は学生の本分を全うできないのかい?第四王子と聞いて呆れる」
一夜が呆れたように蒼に言った。
「俺は英才教育を散々受けて来たからこの国の勉強なんて余裕なんだよ!それに今俺は王子じゃねぇ!そもそも学校は勉強しに行くとこだろうが!!学ぶことも何もねぇのに何でいかなきゃならねーんだよ!人と関わるのメンドくせーんだよ!!ふざけんな!!」
蒼が一夜に怒鳴り散らした。
「蒼、君がここで「お勉強」に関しては学ぶことが無いのは重々分かってるよ。けどね、君はもっと大事なことを学ばないといけないよ。そう、「協力する」ということをね。君は何でもかんでも一人でやろうとする。それで大概なんとかなっていたからね。けど、何とかならない時が必ず来る。それを回避するためには君が「協力する」ことを覚えてもらわなければ困る。僕が君に学園生活を送ってもらっているのはそれも一つの理由なんだ」
一夜が蒼に諭す様にそう告げると蒼はさらに熱くなってしまったようだ。
「ウルせーよ!!俺はお前さえいれば十分なんだよ!他の奴らは使えねぇ無能ばかりだ!そんな奴と協力して、何になるんだよ!!ふざけんな!!俺が他人に合わせる?ふざけろ!無能共に合わせてると俺が弱くなっちまうんだよ!!」
「落ち着いて、蒼!」
蒼が一夜に怒鳴り散らしていた所を慧留が止めた。
「無能というのは君が勝手に決めつけてる価値観に過ぎないよ。本当に無能か有能かなんて一個人では測りきれない。それが理解できないようじゃあ君は「クソガキ」のままだ。それに君にとってこの学園生活はとても大事なものになってくる。それを全うできないようじゃあこの先君は耐えられない。驕るなよ、蒼」
一夜が厳しい口調で蒼に告げる。
「一夜さんもその辺にして下さい。蒼も初めての学校で緊張してるんですよ」
慧留が蒼をフォローする。
「まぁ、ここでこんなこと言っても始まらないか…本題に入るよ。君たちをここに呼んだのは他でもない、ちょっと情報を共有したくてね」
一夜が二人に本題を話し始める。
「情報共有…ですか?」
「うん、君たちここに来る途中、神器使いに襲われたね?そのことが早速魔道警察の中でも問題になってるんだよ」
慧留が一夜に問うと一夜が詳細を話し始めた。
「流石に情報の入手が速いな…一夜は。俺がお前に伝え忘れてた情報をもう手に入れてんのかよ。耳ざといな」
「それが僕の特技だからね。っと話が脱線したね。現場の辺り一面が氷で覆われてたと聞いたから君がやったんだろうなと思ったがやはりそうか」
蒼が一夜に感心していると、一夜が自慢げに話してきた。
「奴はこの国で流通が制限されてるはずの神器を持ってやがった。神器はこの国の中枢を担う者たちにしか使用は許可されてないはずだ。あんなチンピラ共が持ってるのはどう考えてもおかしい。不正に何者かが神器を流通させてる可能性がある」
一夜の話に一区切りがつくと蒼は饒舌に話し出した。
「その線が濃厚だね…僕もそっちの方向で調べているよ。だがね、これは僕の勘なんだけどそれだけじゃあない気がするんだよね。何か…何か違和感があるんだよ」
一夜が蒼の話に納得している反面、違和感を持っているようであった。
「お前の勘はよく当たる。お前が違和感あるってことは多分あるんだろうぜ」
蒼が一夜の意見に納得しているようだった。
「でも、神器は国が厳重に管理してるはずですよね?それが不正に流通されることなんてあり得るんですか?」
慧留が二人に自身の疑問を投げかけた。
「国の管理も完璧じゃねぇ。どこかには必ず穴はある。そこを突くこと事体、不可能じゃねぇよ」
蒼が淡々と慧留に説明した。
「そうだね、この世に完璧など存在しない。どのシステムにも欠点は存在する。この世界は君が思っているほど「優しい世界」ではないよ、慧留ちゃん」
続いて、一夜もそう慧留に告げた。
「そんな…でも、何とかしないといけないですよね?」
慧留がそう言うと二人は同意した。
「そうだな、どうにかして流通のルートを掴んで対処しないといけない」
「でも、情報があまりに無さすぎる。今、迂闊に動くのは得策とは言えない。情報収集が最優先だよ」
蒼と一夜が順に言っていった。
「まぁ、今はおとなしく地道に情報収集するしかないってことだよ」
蒼が冷静な口調でそう言った。
「そっか。って蒼、一夜さん!もう、お昼終わっちゃいますよ!」
慧留がそう言うと一夜が「そうだね。じゃあ、続きは放課後」と言って屋上を後にした。蒼は「めんどくせぇ」と言ったが慧留は蒼を無理矢理屋上から連れ出した。
蒼は授業中思いっきり爆睡していた。教師に起こされて黒板の問題を解くように言われても、その問題を軽々と解いてまた眠るの繰り返しだった。
一方慧留の方は問題がさっぱり分からないようで頭を抱えていた。
ー何これ?全然わからない。蒼は普通に解いてたけどさっぱり分からない…どうしよう。
慧留は胸中でそう呟いていた。
「次、月影。この問題を解いてみろ」
慧留が指名された。されて…しまった。
「えっ?は、はい!」
「ん?」
慧留の声で蒼が再び目を覚まし、今の状況を瞬時に把握した。
ーなるほどな~。慧留が当てられたのか。てか、慧留の奴、顔真っ青だな。まぁ、多分問題が分かんないんだろうな。あいつ頭悪そうだし。
蒼はそう推理した。そして、蒼の推理は見事当たっていたようだ。
ーしかたねぇな。
蒼は胸中でそう言うと、ノートの一部を破り黒板の問題の答えを瞬時に書き記し、慧留の服を手で摘まんだ。
「ん?蒼?」
慧留が反応する。
「答えだ。これ見て書け」
蒼は小声でそう言って紙切れを慧留にこっそり渡した。
「あ、ありがとう」
慧留は礼を言った後、黒板の前に立ち答えを書いた。
「正解だ」
教師はそう言った後、慧留は席に戻った。その後、チャイムが鳴り、授業は終了した。
「さっきはありがとう」
慧留が蒼に礼を言った。
「…別に」
蒼は照れたようにそう言った。
「さっきさりげなく月影さんフォローしたよね?かっこいいねぇ~」
後ろから声が聞こえた。声の主は男子生徒だった。見た目は鈍色の髪で平均的な男子の髪の長さであり、前髪は右寄りに寄せていた。瞳は黒色で、身長は蒼より高いぐらいだろうか。制服も若干着崩している。まぁ、見た目は総合的に見るとイケメンの部類に入るのではないだろうかと蒼は思った。
「それが何だ?」
蒼が機嫌が悪そうにそう言った。
「いやぁ~、君、第一印象最悪だったから正直話しかけづらかったんだけど…さっきのを見て君、悪い人じゃないと確信したのだよ。だから、話しかけて仲良くなろうかな~って」
男子生徒はそう言った。
「あっそ。俺に近づくな」
「あれ!?話が噛み合ってないよ!?」
蒼が一蹴すると男子生徒が突っ込みを入れた。
「もう、蒼!そんな言い方ないでしょ?せっかく向こうから来てくれてるのに。あの、その、ごめんなさい」
慧留が蒼に注意した後、男子生徒に頭を下げた。
「いやいや、いいよ。気にしてない。月影さんは優しいね」
男子生徒が機嫌よさげに慧留にそう言った。
「ところで、あなた、名前なんて言うの?」
慧留が男子生徒に質問した。
「俺は董河湊。よろしく、月影さん、時神君」
湊は笑顔で自己紹介をした。
「うん、よろしくね。湊君」
慧留も笑顔で答えた。
「さっさと消えろ」
蒼は毒を吐いた。
「こら!そーゆうこと言わない!」
慧留は蒼の頭に軽くチョップした。
「って!何すんだよ!?慧留!?」
「いつまでもそんな態度取るからでしょ!?」
蒼が慧留に苦言を呈すると慧留はすぐに反論した。
「はははっ。仲良いね」
湊は愉快そうに言った。正直この手の人間は蒼の苦手なタイプだった。
「帰りたい。マジ帰りたい」
蒼はそんな事を呟いていた。するとー
「大変だ!蒼、慧留ちゃん!とりあえず来てくれ」
教室からやって来たのは一夜だった。一夜は教室に来た瞬間、蒼と慧留を連れてどこかに行った。湊はそれを訝しげに眺めていた。
蒼と慧留は一夜に誰もいない教室に連れて行かれていた。
「どうしたんですか?一夜さん?」
慧留が一夜に問いただした。
「どうもこうもない。この学校で飼っている玉兎が逃げ出した。玉兎は基本臆病な妖怪だが、それ故に捕まえるのが一苦労なんだ。霊力もそれなりに高いから放置しておくと危険だ。学校中に結界を張って校内から逃げられないようになってるから君たちで捕まえて欲しい」
「何で俺らが?メンドくせー」
一夜が蒼たちに応援を要請すると蒼は微妙な顔をした。
「学校の生徒を混乱させるわけにはいかないんだ。頼む」
一夜が懇願すると蒼は「仕方ねぇ」と言って同意した。
「助かるよ。なんだかんだ言ってお人好しだからね、君は」
「ウルせー。で?どこにいんだよ?その玉兎は」
一夜が言うと蒼は要件をさっさと済ませるために話を進めた。
「なにせ、気配を消すのが上手くてね。僕も正確な位置を把握してないんだよ」
一夜が申し訳なさそうに言った。
「なんだよそれ…使えねぇな」
蒼は吐き捨てるようにそう言った。
「仕方ないだろ。僕は情報収集、改竄、隠蔽が得意分野なんだよ。探知は専門外だ。探知系の霊呪法も使えないし…」
一夜がそう言った。
「俺も探知系の霊呪法は使えねぇぞ。そもそも、そっち方面は苦手なんだよ…慧留は探知系の術使えるか?」
蒼は慧留に駄目元で尋ねた。
「ごめんなさい。私、回復系の霊術しか使えないの」
慧留は申し訳なさそうに言った。
「う~ん。ならどうすれば…」
蒼がそう言った瞬間、物音が微かに聞こえた。
「!いた!玉兎だ!」
一夜が声を上げた。
「よし!見つけちまえばこっちのもんだ!霊呪法第一六四番【縛十光輪】!」
蒼はすぐさま霊呪法を唱えた。その瞬間、光の光輪が出現し、玉兎を縛った…はずだった。
「なっ!?」
蒼は驚愕の表情を浮かべた。何故なら、【縛十光輪】が縛り付ける前に玉兎は躱したのだ。そして、とんでもないスピードで逃げていった。
「くそ!速力系の霊術を使えんのかよ!危機回避能力も高ぇ…こいつぁ面倒だな…しかも今ので警戒心を強めちまった。捕まえるのが難しくなっちまった!」
蒼は苦悶の表情を浮かべていた。慧留や一夜も同様であった。
「確かに僕たちでは捕まえるのが難しくなってしまったね。う~ん、どうしたものか…」
一夜が悩んでいると「あの~」という声が聞こえた。声の主は董河湊だった。
「何だよ?今取り込み中なんだよ。近寄んな、あっちいけ、消えろ」
蒼が毒舌を吐いた。
「いきなりそれひどくない!?」
湊は溜まらず声を上げた。
「どうしたの?湊君」
慧留が港に問い掛けた。
「いや、気になって君たちの後を付けていたんだ。それで、玉兎が逃げ出したって話を聞いて、俺なら探知系統の霊呪法が使えるから手伝おうと思ったんだ」
湊が丁寧に説明をした。
「本当かい?」
一夜が聞いてくる。すると、港はすぐに頷いた。
「はい、可能です」
「なら、協力してくれ」
「ふざけんな!何でこんな奴に…」
一夜が港に協力を要請するが蒼はそれに文句を言った。
「探知系の霊呪法を使えるのは彼だけだ。彼に任せるのが適任だろう。このままでは何もできないよ?」
一夜は反論する蒼を論破した。
「…分かったよ」
「よろしい。っと、そう言えば、君に自己紹介しないとね。僕は苗木一夜、三年生だ。君は?」
一夜が頷いた後、すぐに港に自己紹介した。
「俺は時神君と月影さんのクラスメートの董河湊です」
湊も自己紹介を一夜にした。
「では、早速頼む、湊君」
一夜は港にお願いした。
「分かりました。でも、俺は相手を探知することしかできないから捕まえるのは時神君たちに任せるね」
湊は一夜のお願いに了承し、蒼にそう言った。
「…分かったよ」
蒼も渋々了承した。
「じゃあ、行くよ。霊呪法第一五〇番【全体捜索】」
湊が霊呪法を唱えた瞬間地面から地図が表示された。【全体捜索】は自分の探したい対象を見つけだすことができる霊呪法だ。
「この表示された地図の黒い点の所にいるはずだよ。行こう!」
湊が言うと三人は頷き、黒い点が表示されてる場所に向かった。
「いた…あそこだよ」
湊が告げた。確かにそこには玉兎がいた。今、四人がいる場所は北校舎付近の中庭だった。その中庭の草の茂みに玉兎は隠れていた。蒼たちも木に隠れていた。玉兎との距離はおよそ一五〇メートルと言ったところか。
「迂闊に霊呪法を使ったらさっきと二の舞になる可能性が高いね」
一夜が告げた。確かにその通りだ。玉兎は今、かなり警戒心が強い状態だ。真っ向から挑んでも望み薄である。
「なら、俺に任せて。考えがあるんだ」
湊がそう言うと三人は港の考えを聞いた。
「じゃあ、行くよ」
湊が言うと、四人が頷き、行動を開始した。
「さぁ、出番だよ、【銀蘭】」
湊が式神を取り出し、呼び出した。蝶の姿をした小さな式神だった。
「銀蘭、頼むよ」
湊がそう言うと銀蘭は空を舞い辺りに粉をまき散らした。その粉によって玉兎の動きが鈍っていた。
「今だ!霊呪法第二〇一番【酌明珠】!」
蒼が霊呪法を唱えると数珠のような形をした霊力の塊が玉兎に向かっていった。しかし、玉兎はまたも霊呪法を躱した。しかし、玉兎が躱した先にはブービートラップが仕掛けられていた。一夜がさっき仕掛けた簡単なものだ。簡易型のトラップなので足を少しの間止める程度だが今はそれで充分。
ー今だよ!月影さん!
湊がアイコンタクトを取った瞬間玉兎の目の前に慧留が現れ、慧留が玉兎を捕まえた。
「上手く行ったね」
湊が嬉しそうに言う。
「お前、式神使えるんだな。今時珍しいな」
蒼がそう言うと、港が式神について語り始めた。
「式神は古典的な術だから魔力効率も悪いし、使い勝手が悪いって言いたいんだろ?まぁ、確かにそうだけど、式神はトラップに使用出来たり、さっきみたいに動物として使役できるから汎用性が高いんだよ」
「ふ~ん。いや、式神使うやつ初めて見たから珍しいと思っただけだよ。そっか」
蒼は港に随分興味を持ったようだ。
「蒼がここまで興味を持つのって珍しくないですか?」
玉兎を撫でながら慧留は一夜にそう言った。玉兎は撫でられて気持ち良さそうだ。どうやら慧留に懐いたらしい。
「いや、そうでもないよ。珍しいものを見たら蒼は割りとああだよ。場合にもよるけどね」
一夜は慧留に対してそう答えた。
「まぁ、その…手伝ってくれてありがとう…」
蒼は照れながらそう言った。
「もしかして、…デレた?」
湊は目を冗談交じりに言ってきた。
「んな訳あるか殺すぞ」
蒼はそう言い返した。
「ひどくない!?」
湊は叫び交じりでそう言った。その光景を見ていた慧留と一夜は微笑ましく見ていた。
「まぁ、これで少しは蒼も考えを改めてくれたかな?まぁ、完全に打ち解けるにはまだまだ時間はかかりそうだけど」
一夜がそう呟く。
「大丈夫ですよ。きっと蒼は素直になれないだけなんですよ。きっと、上手くやれますよ」
慧留が一夜にそう言う。
「そうだね。まぁ、とは言え問題は山済みだ。これからどうしていこうかな?」
一夜はなんだか楽しそうだった。事実、一夜は楽しみなのだ。これから先の蒼と慧留の行く末を見るのことが…そして、これからの学園生活を。
「一夜さん…楽しそうですね」
「そう見えるかい?」
慧留が指摘すると一夜は愉快そうにそう言った。
「じゃあ、またね。何かあったら、また協力するよ~。俺、こう見えてもクラス委員長だから」
「ああ、またな」
「また明日ね~」
湊が別れの挨拶をすると、蒼と慧留も返事を返した。
「友達が出来て良かったね、蒼、慧留。」
一夜が茶化す様にそう言った。
「うるさい」
「はい!嬉しいです!」
蒼が照れくさそうに言葉を返したのに対し、慧留はとても嬉しそうだった。
「蒼、僕の言うこと…少しは理解してくれたかい?」
一夜が蒼に問いかける。
「ああ、確かに俺一人の価値観でそいつが有能か無能かは判断できないことは分かった。アイツは…港はスゲー奴だった」
蒼は素直にそう言った。
「これで、少しはやる気になったかな?」
一夜が再び問いかける。
「ああ、少しはな。取り敢えず明日はちゃんと学校に行ってやるよ」
蒼は一夜にそう答えた。
「良かった。また明日も一緒に学校に行こうね、蒼」
慧留が安心したように蒼に言った。
「ああ。ええっと…その…悪かったな。お前に心配かけて…」
蒼が慧留にそう伝えた。
「ううん、いいよ。蒼がやる気になってくれただけで私、今日は満足だよ」
慧留が笑顔でそう言う。すると、蒼は顔が少し赤くなっていた。
「おやおや?蒼君?何顔を赤くしているのかな?」
一夜が茶化す様に蒼に聞いてきた。
「うるせぇよ!バカ!」
そう言って一夜の顔面を一発殴った。
「痛った!手ぇ出したよこの人!」
一夜は叫び交じりでそう言った。
「もう、殴るのは駄目だよ?蒼」
慧留が二人の間に割って入り蒼を諫めた。そして、三人はそれぞれの自宅に帰って行った。
蒼は自分の自宅に戻っていた。
「今日は色々大変だったな~。転校初日で周りから変な目で見られるわ、兎捕まえるのに大騒ぎしたり…」
蒼は自室で一人呟いていた。しかし、蒼は口ではこう言っているが、本当は悪くない気分だと思っていたのだ。確かに最初は憂鬱で仕方なかったが、今日一日通して、悪くなかった。そう思えたのだ。なぜ、そう思えたのかは蒼本人はよく分かっていなかった。
「まぁ、暇潰しくらいにはなるか…明日も早いしもう寝ようかな」
そう言って蒼は眠りについた。
「ぷは~~。今日は色々緊張して疲れたよ~」
慧留はそう呟いていた。慧留は今、自宅で入浴中であり、現在は浴槽に浸かっていた。
「でも、今日は友達も出来たし、蒼のことも少しだけ分かったし、充実してたな~。明日も頑張ろう!………後、勉強も頑張らないと…」
慧留はどんよりしながらそう呟いた。今日は確かに充実していたと思う。湊という友達も出来た。兎を捕まえる時も役に立った。後、兎のモフモフも良かった、とても楽しかった…そう思っているがやはり慧留の頭に引っかかっていたのは勉強である。因みに玉兎はあの後、飼育小屋に戻した。
「まぁ、ごちゃごちゃ考えても仕方ないよね!明日から頑張ろう!」
そう言って浴槽を後にした。
「また、神器による被害か?」
佐藤はそう呟いた。
「そうみたいですね。このままだとマズいですね。こちらはこちらで調べますが…佐藤刑事も用心してください」
一夜はそう佐藤に告げた。佐藤と一夜が今いる場所はとある児童公園である。地面には神器で切られたらしき傷跡がたくさんあったのである。このことを突き止めたのは一夜であり、一夜はここに佐藤を呼び出したのである。
「苗木も用心しろよ。お前はあくまで一般市民なんだからな」
佐藤がそう言うと一夜が含み笑いを浮かべた。
「警察の捜査に現在進行形で突っかかってる挙句、情報共有までしてる俺が一般市民なんて…そんなことよく言えますね。佐藤刑事」
「それについては…申し訳ない」
佐藤が謝罪する。
「いえいえ、こっちも色々あなたにはお世話になってますからこのくらいはね。また何かあったら連絡しますね」
「こっちも何か分かったら連絡するよ無理はするな」
「お互いにね」
二人の会話は終わり、二人は引き返した。
佐藤と別れた一夜は頭を掻きながら呟きだした。
「やれやれ、どうやら、僕の平穏もここで一旦お別れのようだ。我ながら面倒なことに巻き込まれた。でもまぁ、これが人生。日常も非日常も両方楽しもうじゃあないか」
一夜はそう言って自宅に戻ったのであった。
To Be continued
はい、フェアレーターノアールの【第一章】十二支連合帝国篇が始まりました。
実はこの話だけで前作のエデンの鳥かごと同じくらい長いのです。勿論、この話が終わってもまだまだ展開を用意しています。
因みに例によって始まりと終わりだけを決めて後は行き当たりばったりです。なので、結末はうっすら考えているのですが、それまでの話をあまり考えていません。強いて言うなら書きながら考えてます。
この十二支連合帝国篇にはテーマがあるのですがまぁ、いずれ分かると思います。
てか、蒼君不愛想だな~って書いてて思いました。その点慧留ちゃんは愛想がいいので羨ましいです。 後、僕的には一夜が結構好きです。やっぱ、こういうキャラはかっこいいですよね!
これから先、展開が動き出します。後、キャラめっちゃ増えます。覚えきれるかな…
蒼たちの戦いを見守って下さい!それではまた!




