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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【最終章】天界叛逆篇
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【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅩⅨーVerräter noir 2ー

 慧留は城の中に入っていた。

 慧留は最奥部である王の間へと向かっていた。

 ローグヴェルトに話には聞いていた。

 王の間がルミナスが『世界宮殿(パルテノス)』を制御する為の場所であると。

 慧留はそのまま王の間へと直行していた。


「やっぱり…ここまで来てた」

「!?」


 慧留の目の前に現れたのはアポロであった。


「アポロ…!」

「悪いけどここから咲は通せないわ。ルミナスの命令だからね」

「やっぱり…アポロもルミナスに…!」

「ルミナスに私達はあなたを処刑する様に命じられたのよ。つまり、あなたはここで死ぬのよ」

「!?」


 まさか、ルミナスが慧留を殺す命令をしていたとは思わなかった。

 ルミナスは確かに、前に会った時は慧留を殺すつもりは無かった。

 だが、今は慧留を殺す様に命令した。

 どうやら、ルミナスは『世界宮殿(パルテノス)』の制御が効かなくなっている原因が『世界宮殿(パルテノス)』に支配されていない慧留にあると考えているのだろう。

 どうやら、想像よりも遥かに面倒な事になっている様であった。


「慧留…あなたが相手である以上、手加減は出来ないわね」

「インベルはどこ?」

「インベルは『天使城(セラフィム・ヴァール)』から少し離れた場所にいるわ。けど、この騒ぎを聞き付けてすぐに来るでしょうね」

「そう…ならば速い内に倒さないとね!」


 慧留はそう言って錫杖をアポロに向けて振るった。

 しかし、アポロは銃を撃ち、慧留の動きを牽制した。


「やっぱり…戦うしか無いのね」

「君が私をルミナスの元に行くのを邪魔をするのならね」


 アポロもルミナスにより洗脳されている。

 アポロはルミナスの事が本来は嫌いなのだ。

 こんな従順にルミナスに従っているアポロなど有り得ない。


「フローフルが死んで…あなたまで殺す事になるのは心が痛むけど…これも平和の為…」

「私は…何としてでもルミナスを止める!」


 アポロは銃を構えた。

 慧留も錫杖を構えた。


「【第二解放(エンゲルアルビオン)】!!!」

「御出で!【時黒王子(ルキフゲ・ロフォンカレ)】!!!」


 アポロは【第二解放(エンゲルアルビオン)】を、慧留は【悪魔解放(ディアブル・アーテル)】を発動した。

 アポロの背中に紫色の霊力の翼が生えており、更に額に第三の眼が開眼していた。

 また、右手には巨大な銃剣が握られており、全身に紫色の羽衣が纏われていた。


「【死滅天使の空間(サリエル・グエム)】」


 慧留は全身に黒い喪服が纏われており、骨と漆黒の羽根でできた翼に瞳が紫色に変色していた。

 頭には黒いヴェールが纏われており、瞳が紫色に変色していた。

 錫杖は黒紫色に変化していた。


「あなたを相手に手加減はやっぱり出来そうに無いわね」

「アポロ!私は君を必ず倒して、ルミナスの元に行く!」


 慧留はそう言って左手に黒い剣を顕現させた。


「【死滅銃弾(サリエル・バレット)】!」


 アポロは銃剣から無数の紫の弾丸を発射した。

 慧留は全てのアポロの全ての攻撃を回避した。


「【黒魔剣(グラディウス)】!」


 慧留はアポロの背中をバッサリと切り裂いた。


「くっ!?」


 アポロは慧留に反撃をしようとするが、慧留はアポロの銃剣を回避した。


「【死滅拘束(サリエル・バインド)】!」


 アポロは銃剣から特殊光弾を放った。

 流石の慧留め特殊光弾は回避しきれず直撃した。


「くっ!?」

「【死滅天使神剣(グエム・デーゲン)】!!!」


 アポロは慧留に斬りかかろうとした。

 アポロの【死滅天使神剣(グエム・デーゲン)】は空間を飛び越えて相手を切り裂く、回避不可能の一撃だ。


「【千本黒魔劍(グラディオス・デル・ミールレ)】!」


 アポロが空間を飛び越える前に上空から無数の黒い剣が落下してきた。


「!?」


 アポロは一歩間に合わず無数の黒い剣の下敷きとなった。

 アポロの【死滅天使神剣(グエム・デーゲン)】は発動まで一瞬のタイムラグがあり、慧留はそこを利用したのだ。

 慧留はこの隙に【死滅拘束(サリエル・バインド)】を振りほどいた。

 今の慧留ですら、アポロの拘束から逃れるのは容易では無かった。


「うっ…」


 アポロは無数の黒い剣に切り裂かれ、傷だらけになっていた。

 しかし、アポロは再び立ち上がる。


「もう…無理だよ。君の負けだよ、アポロ」

「まだ…まだ終わってない…あなたを…行かせる訳には…行かないわ…私は…あなたを止める…!」


 アポロもう…二度と誰かを失いたく無いのだ。

 アポロは…友である蒼を救う事が出来なかった。

 だから…今度は必ず、犠牲を作らないと決めたのだ。


「アポロ…」

「行か…せ…ない…」


 アポロは足を震わせていた。

 最早、立っていることすらやっとの状態であった。


「………ごめん」


 慧留はアポロの後ろに回り込んだ。


「!?」


 しかし、その時にはもう遅かった。

 慧留はアポロの首筋に軽く一撃を入れた。


「う…」


 アポロの意識がどんどん遠退いていく。


ーダメ…行っては…


 アポロは完全に意識を失った。


「約束するよ…必ず…生きて戻る」


 アポロはそう言ってアポロの元から去っていった。





 慧留は歩き続けた。

 前へ前へ…ずっと…やがて、真っ白い扉に辿り着いた。

 慧留は何となく…この先にルミナスがいることを察知していた。

 慧留は扉を開いた。


「ようこそ…王の間へ」


 慧留の目の前には白い玉座があり、そこにルミナスが座っていた。

 ルミナスはかなり疲弊しているような表情をしていた。


「ルミナス…」

「貴女と直接こうやって語らうのは初めてかしらね?」

「随分…顔色が悪いみたいだけど?」

「ふ…少々計算外のことがあってね…でも、その心配はもう亡くなる。貴女を…殺すことでね…」

「私を殺した所で無駄だと思うよ。それに…一応言っておくけど『世界宮殿(パルテノス)』を手放して」

「それは出来ない…ようやく掴み取った平和よ」

「その平和は…今崩れようとしているのに?」

「崩れちゃいないわ…言ったでしょ?元に戻るって」


 ルミナスはどうやらまだ、『世界宮殿(パルテノス)』を制御するつもりでいるらしい。

 ルミナスは慧留を殺すことですべてが解決すると思い込んでいる。


「神ですら…アスディア達ですら制御しきれなかった『世界宮殿(パルテノス)』を制御するなんて…無理だよ」

「いいえ!私なら…私なら出来る!私は…あらゆることで負けることなど有り得ない!いいえ…あってはならない!私は…全てを掴み、全てを手に入れる!」

「けど…蒼は手に入らなかったよ」

「………」


 そう、ルミナスはあらゆる者を従えてきた。

 何事にも負けたことはなく、そんなルミナスが敗北するなど…誰も思わなかった。

 だが、違う。ルミナスは決して手に入らないモノがいた。

 それがフローフル…蒼だ。彼は絶対にルミナスに対して負けを認めなかった。

 ルミナスの元から去ってから蒼は仲間を増やし、どんどん強くなっていった。

 ルミナスはそんな蒼に驚異を感じると共に何故蒼はそこまで急速に成長したのか…そう考えるようになった。

 ルミナスと共に歩む蒼より慧留達と共に歩む蒼の方がずっと強くなっていた。

 そう、蒼の世界を変えたのは、今ルミナスの目の前にいる、月影慧留だ。

 ルミナスは慧留に対して嫉妬していたのかもしれない。

 ルミナスに無いモノを持っていてそしてそれが…蒼を動かしてきたのだ。

 まるで…かつてのエリシアのような…


「それで?貴女はどうするつもり?まあ、貴女の選択肢は二つよ。私に負けて死ぬか、私を倒して貴女が変わりにこの世界を収めるかのどちらかよ」

「私は…君に殺されるつもりもないし、君を殺してこの世界の支配者になるつもりもないよ」


 そう、慧留の目的はルミナスを殺すことではない。

 慧留はもう、自分のやるべきことを分かっている。


「私は…君を助ける」

「助ける?この私を??私に…私に助けなど必要ないわ!貴女を殺して!それで終わりよ!」


 ルミナスはそう言って剣を抜いた。


「【天白翼神乃終焉(メタニオン・デウスケルシオン)】!!!」


 ルミナスは白い翼が出現し、更に身体全身が白色に変わっていた。

 ルミナスは本気で慧留を潰しに掛かっている。

 だが、慧留に不安は無かった。

 今のルミナスは確かに強大な力を感じる。しかし、それ以上に感じるのは恐れだ。

 ルミナスは今、恐怖している。強大な力を持ってしても恐怖が勝っているのならば、目の前に写るのはただの怯えだけだ。


「【黒薔薇拒絶魔女(ルキフゲ・ネガロッサモルテ)】」


 骨と黒い羽根でできた翼が左右に展開され、黒い喪服が纏われていた。

 更に黒い羽衣も纏っていた。まるで全てを飲み込む魔女の様であった。


「【黒薔薇の錫杖(ソンロッサ・レガリア)】」


 慧留は黒い錫杖を顕現させた。その錫杖の上の部分に黒薔薇の意匠が施されていた。

 白い神と黒い魔神…二人の霊力と魔力がぶつかり合う。


「フローフル以上の禍々しい魔力…やはり…貴女が…」


 ルミナスは慧留がこの世界の崩壊の原因であると確信した。


「ルミナス…君の白い…ううん、白過ぎるその心を…私が切り裂く!」

「この世界は白が正義よ!黒は絶対に白によって染め上げる!」


 この世界は色で言えば間違いなく、灰色だろう。

 そして、この世界に生きる者達もまた、灰色だろう。

 完全に白い者など存在せず、逆に完全に黒と言える者も存在しない。

 いや、存在する筈が無いのだ。この世界に生きる者は必ず善と悪、二つを抱えているからだ。

 完全な黒はこの世界の害でしか無く、いずれは淘汰される。

 そして、完全な白…それは純粋無垢であり、黒と何ら変わらない。

 光と闇、相反する二つの事象が存在するからこそ、生きていけるのだ。

 ルミナスは白、慧留は黒、相反する二つの事象がぶつかることでこの世界に何をもたらすのか…それは分からない。

 だが、全てが白へと変わる…それはつまり、何もかもが無くなってしまうのと同じだ。

 今のままでは白が世界を覆い尽くし、世界は破滅する。

 ならば、それを止めるには…闇がいる。完全な白をも打ち消すような…強い闇が。

 蒼は灰色だった。光と闇…二つの事象を持った、灰色の極致点。そう、蒼は大多数いる灰色の中でも極致の域に達していた。

 だが、灰色では白を打ち消すことは出来ない。

 ならば、完全なる黒を…慧留ならば、それが出来るかもしれない。

 ルミナスが慧留を警戒していたのは…それが理由だったのかもしれない…だが、そうでは無いのかも知れない。

 どちらにせよ、今のルミナスを止める可能性があるのは慧留だけだ。

 世界の命運は、慧留に託された。


ー蒼…見てる?私、今君が勝てなかったヒトと闘うよ…だから、見ててね


 慧留は蒼に助けれてばかりであった。

 初めて蒼に会って、ゴロツキに助けられ、そこからも幾多の戦いに蒼は身を投じてきた。

 慧留はかつて、そんな蒼を一度は裏切った。だが、蒼は諦めずに慧留に手を伸ばしてくれた。

 一度裏切られても尚、蒼は慧留を赦した。

 いや、繋がりとは…そういうモノなのだろう。

 人は…魔族は…必ず裏切る。そのせいで理不尽な目に遭うことだってある。

 だが、それでも赦すことが出来るかどうか…そこに繋がりの真価が問われる。

 蒼と慧留が和解して以降も、二人は共に戦い続けた。

 そして二年前、慧留は蒼を失ってしまった。

 慧留は蒼を失ってからの二年間、そのことをずっと考えていた。

 もしかしたら、何か良い手があったのかもしれない。

 だが、考えた所で答えは出なくて…だから、慧留はこれまで通り、救いを求める人達に手を伸ばし続けることを決めたのだ。蒼が今までそうしてきた様に。

 敵とか味方とか、慧留にとってそんなことはどうでもいい。誰かが助けを求めているのなら、慧留は必ず助ける。

 ルミナスは今、助けを求めてる。慧留はそう感じるのだ。

 誰かに裏切られても赦すことが出来る強さ…慧留は蒼からそれを学んだ気がした。

 誰かを受け入れ、赦すこと…それはとても難しく、強さが要る。

 だがもう、慧留は助けられてばかりいる子供じゃない。

 もう、一人で歩いていける。

 自分の道は、自分で決める。答えは自分で見つけるモノだ。


「ルミナス…私は…ルミナスが蒼を殺したこと…正直、今でも許せない…けど…私は…君の心を赦す…それだけは決めたんだよ」


 実際、誰かを赦すことは簡単なことではない。

 すぐに全てを赦す必要は無い。少しづつ、一歩一歩赦せるようになればいい。

 少なくとも、慧留はそう思うのだ。


「赦す?バカなことを言うわね!貴女は神にでもなったつもり!?神は二人もいらない!ましてや魔神など!【消滅乃白神剣(メタノイア・クシフォス)】!」


 ルミナスは真っ白い長剣を顕現させた。

 そして、その瞬間、慧留の黒い錫杖とルミナスの白い長剣がぶつかり合う。






ーここは?


 慧留は真っ白い空間にいた。

 そして、目の前にいたのは子供の姿をしたルミナスであった。


ーこれは…ルミナスの心の中?


 慧留はルミナスの心の中にいた。

 ルミナスの剣に触れた瞬間、慧留はここにいた。

 共鳴ーそれにより、慧留はルミナスの心の中に無意識に入ってきてしまったのだ。

 慧留はルミナスの心の中を見ていた。

 ルミナスは…独りだった。大人達からも別のモノと扱われ、その圧倒的な才能により、周囲から孤立していった。

 周りからの課題を…大人でも根を上げる様な課題の数々をルミナスは玄関を潜るかの如くクリアしていった。

 だがそれは、更なるノルマを課させるという事だ。

 しかも、ルミナスはそれらを全てこなせてしまう技量を持って生まれてしまっていた。

 圧倒的な力と才能から生まれる孤独…それはルミナスにとってとてつもなく辛いことであった。

 ルミナスは何でも出来る、こなせる、周りの者達はそう目に写る。

 そしてらルミナスに恐れなど何も無いと周囲の者達は思い込む。

 むしろ、逆だと言うのに。ルミナスは誰よりも恐れていたモノがある。

 そう、孤独だ。ルミナスは今までずっと、孤独に怯え続けていた。

 どんなに強くなろうがどんな力を持っていようが、ルミナスが独りである事には変わりない。

 むしろ、強くなっていくことで更なる孤独を生むこととなった。

 しかし、厄介なことにルミナスは後に退くことが出来なかった。

 そう、ルミナスはずっと、ずっと、孤独を恐れていた、一人の人間だった。

 そんな時、ルミナスの目の前に希望が現れた。

 ルミナスは大人と共に城内を歩いていた。

 だが、ルミナスは独りと変わらなかった。

 だって、大人達は誰もルミナスを理解していない、いや、しようとしていない。

 ルミナスは下を向きながら歩いていた。


「コラ!フローフル!ここは歩いては行けないとあれ程…」

「知らないよ!僕は好きなようにする!」


 桜色の髪をした女性が一人の水色の髪した少年を止めていたがその少年は歩いてるルミナスの目の前に通り掛かった。

 その少年はフローフルと呼ばれていたつまりは、慧留達が知る蒼その人だ。

 フローフルとルミナスは眼が合う。

 そして、フローフルがルミナスを見て、ある言葉を口にした。


「お前も…独りなのか?」

「!」


 ルミナスはその言葉を聞き、フローフルの方を見た。

 そして、ルミナスは涙を浮かべた。


「ほら!フローフル!行くわよ!申し訳ありません、ルミナス様」

「おい!離せ!エリシア!」


 フローフルとエリシアはそのままルミナスの前から去っていった。

 初めて…初めてだった。

 ルミナスにとって、自分のことを初めて理解してくれたヒトに出会った。それが蒼だった。


「ルミナス様、大丈夫ですか?それにしてもあの忌み子が…」


 ルミナスの隣にいた人物がフローフルのことを忌々しげに語っていた。

 どうやら、フローフルは周りからのあまり良い印象を持たれていなかった様だ。

 慧留は蒼本人から話は聞いている。

 この頃の蒼は遊女の息子ということで周囲から迫害されていた。

 ルミナスはフローフルに興味を持つようになった。

 そう、ルミナスが蒼に対してあそこまで執着するようになったのは初めて自分を理解してくれたヒトが蒼だったからだ。

 そう、ルミナスは…ずっと…ずっと…蒼のことを…


「………」


 慧留は黙ってルミナスの過去を見ていた。

 慧留はルミナスの思いが…流れ込んで来るような気がした。


ー『世界宮殿(パルテノス)』を支配するのだ…そうすれば…


 ルミナスは頭の中から声が聞こえた。

 そして、ルミナスの目の前に黒いモヤが現れた。


「あなたは?」


ー私はヤハヴェ…お前の先祖…と言えば良いか。


 ヤハヴェ…ローマカイザーの初代皇帝であり、天使の始祖。

 ヤハヴェは『世界宮殿(パルテノス)』を支配する為に画策しており、それにルミナスを利用しようとしていたのだ。

 ヤハヴェは『世界宮殿(パルテノス)』について説明した。

 『世界宮殿(パルテノス)』を支配すれば全てを思いのままに出来るということを話した。


「本当に…本当に『世界宮殿(パルテノス)』を支配すれば…フローフルとずっと一緒にいられる?」


ー勿論だ。だが、それが出来るかどうか…それはお前自身だ。


 ルミナスは必ず『世界宮殿(パルテノス)』を征服することを誓った。


ーだが、その前に継承の儀を行う必要がある。私の今の力ではお前と話すことしか出来ない。


「どうすればいいの?」


ーお前が皇帝になった時、この城の王の間へと行け。


 ヤハヴェはそう言い残してルミナスの前から消えていった。


ー私は…必ず…


 ルミナスは『世界宮殿(パルテノス)』を支配する…それだけの為にずっと修練を続けた。

 蒼とずっと一緒にいれる様に…そうなる為に。

 やがて、ルミナスは力を手にした。しかし、蒼には…フローフルには多くの仲間に囲まれていた。

 ルミナスはずっと独りだった…なのに…なのに…蒼には多くの仲間がいた。

 だから、ルミナスは蒼を自身と同じにしようとした。

 それが…ローマ聖戦へと繋がっていく。

 蒼は神聖ローマから逃亡し、十二支連合帝国へと辿り着いた。

 ルミナスは全てが終わった後、蒼を迎えに行くつもりだった。

 だが、それでも蒼は再び仲間に囲まれていた。

 ルミナスと同じ独りとなった…その筈なのに蒼はまた、仲間に囲まれていたのだ。

 そして、ルミナスが葬った筈のエリシアと似た人物が常に蒼の隣にいた。

 それがー


「私…」


 そう、慧留である。

 やがて、蒼は再びルミナスと対立する様になっていた。

 ルミナスはその度に自身の気持ちが揺らいでいった。

 そんな中、蒼とその仲間の最後の戦いを今から二年前に挑むこととなった。

 結果は、ルミナスにとっても、慧留にとっても、最悪の結末となった。

 蒼はルミナスの一撃により死に、それにより神聖ローマの勝利が確定した。

 ルミナスはこの時、激しく後悔した。

 だが、ルミナスはその時、自身の気持ちが歩んだ道をなぞっていた。

 そう、ルミナスは最早、後に退く退く訳には行かなかった。

 多くの犠牲を強いてきたのに、ここで降りる訳には行かなかった。

 だから、ルミナスは蒼がいなくても自身の手で世界の安寧と秩序を守ることを決めたのだ。

 全てのきっかけであったヤハヴェの精神体はルミナス自身の精神力で完全に消し去った。

 ルミナスは世界を守る覚悟を決めていた。

 決めていたのに…世界はとうとう、崩壊を始めた。

 ルミナスはもう、どうすればいいのか分からなかった。

 本当は…ルミナスも心のどこかで気付いているのだ。

 慧留を殺しても何の意味も無いことを。だが、どうすれば良いのか、もう、ルミナスには分からないのだ。


「………」


 慧留と小さいルミナスは向かい合っていた。

 慧留は黙って小さいルミナスを見据えていた。

 だが、ルミナスは下を向いていて今にも逃げ出しそうであった。


「ルミナスは…ずっと…恐れていたんだ…孤独に…」


 慧留はルミナスの心に初めて触れた気がした。

 ルミナスは慧留と眼を合わせた瞬間、走って逃げていった。


「蒼の隣に様には行かないな…」


 慧留は自分に呆れる様にそう言った。

 だが、慧留に出来ることはたった一つ、たった一つだけだ。


「それでも…私はルミナスにぶつかって、力尽くで助け出すしかないよね!今までだってそうして来た!これからも…そうして行く!」


 真っ直ぐにぶつからなければ伝わらないことだってある。

 慧留はそう思う。自分の思いをぶつけ合うことで初めて心というモノは生まれ、繋がっていくのだと、慧留はそう思う。

 だからもう、迷わない。







「!?」


 慧留とルミナスはお互い吹き飛ばされた。


「くっ!」


 ルミナスと慧留は体勢を立て直し、すぐに剣を構えた。


「大した力ね…私の事象の上書きの力を弾き飛ばすなんて」

「それはどうも」


 ルミナスの力は事象の上書きであり、あらゆる事象をルミナスの思いのままに出来る。

 しかし、慧留はそのルミナスの力に対抗している。

 ルミナスの力の能力は過去改変…それは変わっていないが今の慧留の過去改変は事象にまで影響を与えるようになっている。

 かつての慧留は過去を改変するのに制限があったが、今の慧留は不可能な過去改変も可能となっている。

 しかし、慧留の過去改変は改変する事象が大きければ大きい程、魔力とは別に寿命が削られるというデメリットも存在する。


「けど…それもそんなに長くは出来そうに無いわね」

「それは…どうかな…」


 いずれにしても、慧留はこの力でルミナスと戦うしか無い。

 確かに今のままでは間違いなく慧留の方が分が悪いし、じり貧になるだろう。

 だが、この世界に完全無敵、最強無欠など存在しない。

 必ず、ルミナスにも弱点があり、その突破口がある筈だ。

 少なくとも、慧留はそれを信じて戦うしか無い。

 慧留は真っ直ぐとルミナスを見据えていた。


「何よ…貴女のその眼は…貴女は…貴女はいつも…私にそんな眼をしてくる…私のことを…知ったような眼で見てくる……!」


 ルミナスは慧留の眼が気に入らなかった。

 慧留の眼は真っ直ぐで、いつだって揺らがない。

 ルミナスに対しても、それは例外では無いのだ。


「気に入らないわ!!!」


 ルミナスは一瞬で慧留に間合いを詰め、慧留に攻撃してきた。

 しかし、慧留はルミナスの剣を錫杖で受け止め、流した。


「何が気に入らないんだよ!私なんかが君と対等の目線だから気に入らないの!?」

「関係無いわ!」


 ルミナスの剣と慧留の錫杖がぶつかり合う。


「私は…私は一人で全てを掴める!貴女のその恩着せがましい所が気に入らないのよ!」

「私は…!」

「黙れえええええ!!!」

「くっ!?」


 ルミナスは慧留を吹き飛ばした。

 幸い、慧留にダメージは無かった。


「貴女が何をしようが何も変わらない!貴女に出来ることは平和の為に私に殺されて死ぬことよ!!」

「私が死ぬ…それで本当に全てが丸く収まるならそれでもいいよ…けど、私一人が死んだ所で全てが丸く収まるとはどうしても思えない…私は見てきた…この世界に抗う者、夢に破れた者、そして…必死に今日を生きてきた者達を!」


 そう、慧留はこれまでの戦いの中で色んなモノを見てきた。

 皆、形は違えど、やり方は間違っていても必死に抗っていた。

 必死にこの世界を生きてきた。

 それなのに、慧留だけ何も抗わずに死ぬなど慧留には出来なかった。

 慧留は可能性が少しでも有る限り、絶対に諦めない。

 可能性がゼロになるとすれば、それは諦めた時だ。

 慧留は残された可能性を自分からゼロにするのだけは…それだけは絶対に嫌なのだ。だからー


「私一人が何も悪足掻きせずに死ぬのは…嫌だ!」

「ほんっとうに…諦めが悪いわね…分かったわ…それだけ言うのなら…私はもう、本気で戦うしか無いわね」


 ルミナスの霊圧が増大した。

 間違いなく、ルミナスは本気だ。

 慧留に恐怖が無いと言えば嘘になる。

 いや、恐怖が無い者などいない。

 この世界に生きる者達は皆、恐怖と戦っている。

 誰かを失う恐怖、努力しても報われないかもしれないという恐怖、戦争や争いに対する恐怖、死の恐怖、そして何より…自分を信じれるかどうかの恐怖。

 この世界はその恐怖との戦いなのだ。

 生きている限り、この恐怖と戦い続けなければならない。

 だからこそ、人は…この世界に生きる者達は恐怖に抗う力にこう名付けた。


「蒼…ローグ…一夜さん…皆…私に『勇気』を下さい」


 慧留はそう言って力強く錫杖を握り締めた。

 そう、勇気とは、恐怖に抗うことが出来る力だ。

 慧留の魔力は増大した。

 勇気とは、自身を犠牲にする心ではない。

 自身の命を投げ出す、それは勇気とは言わない。ただの蛮勇だ。

 勇気とは、恐怖を乗り越える誰しもが持っている力なのだ。

 自分を信じ、そして進み続ける、勇気とはそういうモノだ。

 勇気とは誰もが持つ力であるが、故に振り絞ることがとても難しい。

 自分を信じるには自分だけでなく、自分以外の存在を信じなければならないからだ。

 だが、不安はない。だって慧留は、自分だけ信じている訳では無いから。

 慧留はいつだってどこでだって、仲間を信じている。

 その心が有る限り、慧留は絶対に負けることなんて無いのだ。

 ルミナスは自分以外の…いや、もしかしたら自分すらも信じられなくなっているのかもしれない。

 慧留はルミナスが助けを求めて叫んでいる様に聞こえるのだ。

 だから…慧留はここに来たのだ。

 ルミナスの心を救い出す為に。


「さぁ、最後の戦いを始めましょう」


 ルミナスがそう呟いた。





To be continued

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