【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅩⅧーVerräter noirー
「さてと…行こうかな」
慧留はそう言って苗木日和から出た。
今は夜の十二時を回っていた。
「あれから二年か…」
そう、ルミナスより世界を征服されてから約二年の月日が流れていた。
世界宮殿が支配され、パルテミシア十二神が死んでから既に二年が経っていたのだ。
この二年で世界情勢はかなり変化していた。
四大帝国という概念は消え去り、神聖ローマ合衆国に全ての国が領土となりUSW、ヘレトーア、ここ十二支連合帝国も神聖ローマに吸収され、神聖ローマ合衆国は超大国へと変わっていた。
全ての国が一つとなり、戦争も無くなった。
世界は間違いなく、平和になったのだ。
だが、違和感があった。
そう、確かに平和になったのだ。
慧留は何となく感じていた。何か大きな事が起きるのでは無いかと。
慧留はルミナスを倒す為にこの二年間、ローグヴェルトと共に秘密裏で接触し、鍛えていた。
今のままではルミナスに勝てない。
勝てない勝負をする程、慧留は無謀では無かった。
ローグヴェルトも今のこの世界に違和感を感じている様で慧留を鍛える事に了承したのもその為であった。
そして、慧留は今日、神聖ローマへと行き、ルミナスを倒しに行こうとしていた。
慧留が知る限り、慧留とローグヴェルト以外の人間や魔族は世界宮殿の影響でルミナスの言いなりになっている。
慧留は一人で行くしか無くなってしまったのだ。
「待っててね、皆。必ず生きて帰るからね」
慧留はそう言って苗木日和から去っていった。
ここは、神聖ローマ。
天使城の最奥に一人の女性が座っていた。
彼女はルミナス・アークキエル・ローマカイザー。
神聖ローマ合衆国の皇帝であり、この世界を支配した女だ。
そんなルミナスは頭を抱えていた。
「どう…なってるの??こんな…事が…」
ルミナスはそう呟いた。
ルミナスは世界宮殿を制御しきれなくなっていた。
数日前、神聖ローマの高野で大爆発が起こり、その高野は完全に消し飛んでいた。
こうなったのはルミナスが世界宮殿の制御を誤ってしまったからだ。
それだけではない、ここ数日で同じ様な現象が世界各地で起こっていた。
そして、ルミナスは世界宮殿を制御しようとするも制御出来なくなっていった。
このままではこの世界そのものが消滅してしまう。
「一体…どうしてこんな…」
ルミナスは考えた。
しかし、何も思い当たる事が無かった。
「まさか…ローグヴェルトと月影慧留とジェラートの影響…」
ルミナスはそう考えた。
ローグヴェルトとルミナス、ジェラートは世界宮殿の影響を受けていない。
彼等のせいで世界宮殿は制御不良に陥っているのではないかとルミナスは考えた。
だが、実際は違う。ルミナスは気付いていないがそれが理由ではない。
世界宮殿が制御出来なくなったのはそこではない。
世界宮殿を制御するには全ての人の運命を操らなければならない。
ルミナスはこの二年間、それをたった一人でやっていたのだ。
ルミナスの霊力、精神力とて無限では無い。
この世界を制御する為にルミナスはずっと世界宮殿を制御し続けた。
しかし、それが出来なくなり、容量限界を起こしていたのだ。
パルテミシア十二神は世界宮殿の制御を六人で行っており、更にルミナスの様に世界中の人や魔族をコントロールしていた訳では無かったのでこんな事は起こらなかった。
「私は…この世界を統制しなければならないのよ…私が…私一人で…一人でやらないと…私は…一人なのだから…」
ルミナスは瞳が虚ろになっていた。
蒼を失ったあの日から…ルミナスは狂い始めていたのかもしれない。
自分の手で蒼を…いや、フローフルを殺してしまったあの時から…
ルミナスは毎日の様にあの時の悪夢を見ていた。
その度にルミナスの胸を締め付けた。
蒼を代償にやっと手に入れた平和。その平和をここで潰す訳には行かなかった。
ルミナスは一人…完璧なのだ。全てを手にし、全てを支配する存在なのだ。
誰にも頼ってはならず、全て一人でこの世界を支配し続けなければならない。
王に泣き言は一切許されないのだ。
ならば…ルミナスのやる事は一つだ。
「月影慧留…貴女を最初に…潰す…!」
ルミナスはそう言った。
そう、ルミナスにとっての最大の障害はローグヴェルトでもジェラートでも…ましてや蒼でも無い。
月影慧留…ルミナスにとって彼女が最大の障壁なのだ。
ジェラートもローグヴェルトもどうにでもなる。
出来ればルミナスにとってジェラートもローグヴェルトも殺したくは無い所ではあった。
二人とも神聖ローマの者であり、ルミナスにとっては仲間でもあるのだ。
しかし、慧留を殺しても元に戻らないのであればこの二人を殺すしかない。
ルミナスは異物を排除する事しか頭に無かった。
そう、無駄なのだ。仮にその三人を殺した所でルミナス自身が何とかしなければこの世界は崩壊するのだから。
だが、ルミナスは気付かない。いや、気付く余裕が無いのだ。
ルミナスはこの二年間で常に精神を疲弊し続けていた。
それでも常人であればとっくに廃人となって壊れている所だがルミナスはどうにか持ちこたえていた。
しかし、それももう、限界だ。
所詮、人や魔族の心を支配して手に入れた平和など仮初めに過ぎなかった。
この世界を本当の意味で平和にするなど…不可能なのだ。
感情の力というのは人一人でどうにか出来る代物では無いのだ。
それを出来るとルミナスは思い上がった。
何故なら、ルミナスは今まであらゆる事に負けた事が無かったのだから。
しかし、ルミナスは今、生まれて初めて…敗北を感じている。
この先に待っているのは間違いなく、破滅だ。
世界宮殿の暴走により、この世界は削り取られていき、やがてはこの地球そのものが影も形も遺さずに消え失せる。
そう…このままでは間違いなく破滅する。
このどうにもならない暴走を止める事が出来るのは…世界でたった一人だけだ。
後は神頼みである。際は投げられた。
世界の滅びのカウントダウンが今、始まったのだ。
慧留は十二支連合帝国の海岸まで来ていた。
ローグヴェルトとは既に連絡を取ってある。
慧留はローグヴェルトと共に神聖ローマへと向かう。
だが、ローグヴェルトが来るまでにもう少しだけ時間が掛かる。
それまではここで待機だ。
「さてと…ローグヴェルトが来るまで…」
「残念だけど…それは無理だよ、慧留ちゃん」
「!?」
慧留の後ろに一夜がいた。
一夜だけではない。屍、プロテア、美浪、澪がいた。
「屍、プロテア、美浪、一夜さん、澪さん…」
「君がルミナス様の元へ行く事は分かっていたよ」
一夜の平行世界を見る能力で慧留がここに来る展開を予想していた…という事だろう。
つくづく、一夜は敵に回ると厄介だと思い知らされる。
「慧留ちゃん!思い留まって!ルミナス様を倒すのは…この世界を壊すって事なんやで!?」
「そうだね…けど…私はルミナスのこの世界を認める訳には行かないんだよ」
そう、ルミナスのこの世界は間違っている。
誰かの心を縛って得た平和など嘘っぱちだ。
「月影!時神が死んで…まだ同じ過ちを繰り返すつもりか!?」
「そうだね…私達はあの時失敗した。蒼を死なせてしまった。ルミナスに負けてしまった」
「違う!そもそも陛下に歯向かったのが…」
「それは違うよ屍。ルミナスは間違っている」
過ちとは過去の為では無く、未来の為にあるのだ。
慧留はそれを糧として進もうとしている。
「えるるん、仮に私達を退けられても、世界が君の敵になる。その覚悟…あるの?」
「無かったらこんな事はしないよ」
そう、慧留はもう覚悟は出来ている。
二年前から…既に心は決まっているのだ。
「慧留…出来れば私達はあなたと戦いたく無い…今ならまだ間に合うわ…引いてちょうだい」
「プロテア…何べんも言わせないで。私の心はもう決まってる」
慧留はプロテアの嘆願も突っ跳ねた。
「もう、どれだけ言っても無駄…て事だね」
「それはこっちの台詞だよ…お互いこれ以上は平行線だ…」
慧留はそう言って錫杖を顕現させた。
最初から【拒絶王女】を解放していた。
一夜も屍も美浪も澪もプロテアも既に戦闘体勢に入っていた。
「行くよ…」
慧留は一夜達に向かっていった。
ー二年前の世界宮殿、第十二階層。
「慧留…ルミナスは想像以上にやり手の様だ。もしかしたら、我々全員倒され、最悪の場合、ルミナスにこの世界を支配されてしまうだろう」
ガルディアは慧留にそう言った。
「そんな…」
「そうなった時も想定するべきだ。そうなった時に鍵になるのは…間違いなく君だ」
「え?」
「君は一度堕天した事により、魂が変質している。世界宮殿の支配から逃れられるかもしれん」
「けど…私一人じゃ…」
「君には…俺の力を授ける。この力…使う時が来なければいいがな」
その後、慧留とガルディアは修行をしたが結局慧留はガルディアの力を使いこなす事は出来なかった。
だが、ガルディアの力を慧留は二年の間にローグヴェルトと修行すると共に体得した。
ガルディアの予想は当たってしまった事になる。
そして、ガルディアの言った通り、キーマンは慧留だった。
慧留は世界宮殿の支配から逃れていた。
そして、ルミナスは本当にこの世界を征服してしまった。
慧留はこうなる事が最初から予測出来ていた。
「【鉄神剣眼】!」
慧留はプロテアの出現させた無数の鉄の剣を全て回避した。
「美浪君!今だよ!」
慧留の後ろに既に美浪が回り込んでいた。
「!?」
「はぁ!」
美浪は慧留を蹴り飛ばした。
しかし、慧留は錫杖でどうにか美浪の攻撃を凌いでいた。
一夜によって慧留の動きが全て先読みされてしまう。
やはり、一夜は敵にするとかなり厄介だ。
ーけど…やっぱり一夜さんだけじゃない…他の皆も…強い…!
慧留のいる地面から手が出てきた。
「やば!」
慧留は地面から出てきた手を回避した。
地中から屍が出てきた。
屍の両手が慧留の身体に触れられたらアウトだ。
屍の両手は触れるだけで触れた対象を粉々にしてしまう文字通り一撃必殺である。
流石の屍も慧留を殺すなんて事はしないだろうが一度触れられたら終わりだという事は代わり無い。
「今だよ!常森君!」
「【彗雲流星群】!」
虚空から無数のエネルギー砲が慧留に襲い掛かる。
慧留は流石に攻撃を回避し切れず攻撃を受けた。
「【魔王大盾】!」
慧留はどうにか攻撃を受けきった。
やはりというべきか、彼等は慧留を殺さない様に手加減している。
彼等の目的があくまで慧留を止める事であって殺す事が目的ではない。
その分、手加減しているのだ。
「これでも、考えを改める気はないのかい、慧留ちゃん?分かっている筈だよ。いくら君でも四対一では勝ち目が無いよ」
「それは…どうかな…?」
慧留はそう言って錫杖を構えた。
「やっぱり…これを使うしか無いね…」
慧留の魔力が急激に上昇した。そしてー
「【魔王解放】!」
慧留は新たな力を発動させた。
慧留の背中には骨と漆黒の羽根で出来た翼が生えており、更にその羽根から魔力が放出されていた。
黒い喪服を纏っているのは相変わらずだが、紫色の羽衣が纏われていた。
錫杖も真っ黒に染まっており、まるで影の様であった。更に錫杖の一番上の部分には黒薔薇の意匠が成されていた。
「【黒薔薇拒絶魔女】」
一夜達は慧留の強大な霊圧に驚愕していた。
この力こそが、慧留が二年掛けて習得した奥の手だ。
慧留は眼を凝らした。
すると、今まで見えなかったモノが見えた。
一夜達の身体中に白色の鎖が巻き付けられていた。
恐らく、あの鎖によって精神を支配されているのだろう。
慧留の錫杖…【黒薔薇の錫杖】はこの世界に存在しないモノすらも切り裂く事が出来る。
「【世界逆流】」
慧留は時間の巻き戻しを使い、一夜の後ろへと回り込んだ。
慧留自身がかつて一夜のいた場所まで時間を巻き戻したのだ。
「なっ!?」
「いくら一夜さんの力でも未来を全て見通せる訳じゃない!」
慧留は一夜を縛っていた白い鎖を【黒薔薇の錫杖】で粉々に切り裂いた。
「うっ!?」
一夜はそのまま気を失った。
「一夜さん!?」
美浪は動転して我を忘れて一夜の元へと向かった。
しかし、そこには慧留がいる。
「はぁあ!!」
美浪は時を飛ばして慧留に殴り掛かった。
しかし、慧留は美浪の攻撃を読んでいた。
「なっ!?」
「今の美浪ちゃんは動きが単調だよ。時を飛ばしても動きが読めれば関係無いよ」
続いて慧留は美浪の身体に巻き付いている白い鎖を粉々に切り裂いた。
「うっ…」
美浪もそのまま気を失った。
「【鉄神滅虚剣】!」
プロテアは鉄の巨人を出現させ、巨大な鉄の剣を慧留に向けた。
しかし、慧留はプロテアの攻撃を受け止め、錫杖でプロテアを吹き飛ばした。
それにより、プロテアの身体を守っていた鉄の巨人が一瞬で消し飛んだ。
「そんな…!」
慧留はプロテアの身体に巻き付いている白い鎖を切り裂いた。
その瞬間、プロテアも意識を失った。
「これは…」
澪は驚愕していた。
自分以外、全員敗れ去っていたのだから。
「【流星神速】!」
澪はここから慧留から一旦、距離を取ろうとするが慧留の前では無意味であった。
「距離を取っても無駄だよ」
「!?」
慧留は一瞬で澪の前に追い付き、澪の身体に巻き付いている鎖を粉々に切り裂いた。
「うっ…」
澪はそのまま倒れた。
「ふぅ…」
慧留は解放状態を解き、一息吐いた。
彼等が手加減していなかったらもっと戦いは泥沼になっていただろう。
「エル!」
慧留の前にローグヴェルトが現れた。
「これは一体…」
「うん、ちょっとね。でも、大丈夫だよ。速くローマに行こう」
「それなんだが…思ったよりも厄介な事になってきた」
「どう…いう…」
「これを見てくれ」
ローグヴェルトはとある映像を見せた。
その映像は世界が削り取られている映像だった。
「これって…」
「ああ、世界が消えていっている」
そう、この世界が徐々に無くなってきているのだ。
「どうして…こんな…」
「どうやら神聖ローマを中心に崩壊が発生している様でな。恐らく…」
「ルミナス…!」
「どうやら、陛下を必ず止めなければならなくなってしまった様だ」
このままでは恐らく一週間もすれば崩壊は全世界へと広まり、この世界は完全に消え失せてしまうだろう。
そうならない為にはルミナスを止める以外に方法が無い。
「ルミナス陛下の創り出した世界は…間違っていた…という事か…」
ローグヴェルトはそう呟いた。
確かに、間違っていたのかもしれない。
だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
事態は、一刻も争う。
「じゃあ、速く…」
「う…うん…」
「「!?」」
慧留とローグヴェルトが話していると一夜達が眼を覚ました。
「あれ…ここは…」
「一体どうなって…」
「う…朧気にしか覚えてないわね」
「んー、どうなってるの?」
「くっ…」
一夜達は慧留とローグヴェルトを見つめた。
「ローグヴェルト!?どうして君がここに…!?」
「エルと共にルミナス陛下を止める為だ」
「!?」
「一体…どういう…」
「つーか、何で俺達はここで月影と戦ってたんだ?」
「あれ?そう言えば…」
「………」
一夜は何も言わずにスマホを弄り出した。
「どうやら、この世界は既にルミナスの手に堕ちている様だね。僕らはそのルミナスに洗脳されていた訳だ」
「!? 洗脳が解けてる!?」
「良かった…やっぱりあの白い鎖が…」
一夜達を縛っていた白い鎖は無くなっていた。
どうやら、あの白い鎖により、精神を支配されていた様で、それが無くなった事により、一夜達の洗脳が解けたのだ。
「一夜さん…」
「ああ、大体の事は分かった。君達はこれから…ルミナスを止めに行くのだろう?」
「うん…」
「なら、俺達も…」
「それはダメだよ」
「何で!?」
「今は、君達の洗脳を私が解除したけど、またルミナスに近付いた事で洗脳されるかもしれない。それに…」
「そうだね…なるべく少数で事を運ぶ方が今回は良いのかもしれないね」
一夜はそう言った。
慧留とローグヴェルトはこれからルミナスに戦いを挑む。
それはつまり、この世界そのものを敵に回すという事だ。
一夜達は一時的に慧留が洗脳を解いただけでルミナスの接触によってまた洗脳されるかもしれない。それにー
「私のさっきの力はそう何度も使えない…この力で世界中の人や魔族の洗脳を解くのは不可能だよ…ルミナスを止めるしかない」
「だからって…」
「いや、僕達にもやる事はあるさ」
「え?」
「この十二支連合帝国から慧留ちゃん達の邪魔をさせない事さ」
「そういう事かよ」
「そうだね~。あたし達しか洗脳が解かれていない以上、あたし達がやるしか無いね~」
どうやら、一夜達のやる事は決まった様だ。
「本当に…私達に協力してもいいの?ルミナスの世界は間違いなく…」
「今はルミナスによって世界が滅びようとしている。それに…僕らはいつでも君の味方だよ、慧留ちゃん」
「それに…時神の分まで…戦わねぇとな」
「そうね…私は…私達は…フローフルを守れなかった…だから今度こそ…」
「うん!」
「これ以上…犠牲にさせる訳には行かないね」
どうやら、皆の覚悟は同じの様だ。
「………良い仲間に巡り会った様だな…慧留」
「うん」
「それにしても…何でローグヴェルトが協力してんだよおかしくねぇか?」
屍はごもっともの事を言っていた。
そう言えば慧留とローグヴェルトが既に和解している事は彼等は知らなかったのだ。
「その話は後!ごめん、もう時間が無いから!」
「そう言う事だ。悪いが話は今度だ」
ローグヴェルトはそう言って光の扉を出現させた。
「皆!十二支連合帝国を頼んだよ!」
「任せてくれ!」
「おう!」
「慧留ちゃんも気をつけて!」
「ルミナスを必ず止めなさい!」
「こっちは大丈夫だよ~」
慧留は皆が元に戻って少しだけ、安心した。
「よし、行くぞ、エル」
「うん」
慧留とローグヴェルトは光の扉へと入り、光の扉は消えていった。
「さぁ、僕達も行こう!」
一夜がそう言うと一同はここから去っていった。
「ねぇ、ローグ?どうしてこんな事に…」
「考えられる可能性は…ルミナス陛下が世界宮殿の力を制御出来なくなったからだろう」
慧留とローグヴェルトは光の扉の異空間で会話をしていた。
「ルミナスでも制御出来ないって事?」
「いや、そうじゃない。パルテミシア十二神は世界宮殿の力を制御せずに監視していただけだった。だが、陛下の場合は一人一人の精神を支配して無理矢理、世界を統治していた。一人一人の精神を支配するだけでも霊力以上に精神力が必要だ…逆に言えば陛下一人でこの二年もの間、世界をコントロールしていた事になる」
ルミナスのやっている事がどれだけデタラメな事か慧留は改めて理解した。
そう、今、ルミナスは苦しんでいるのだ。
そして、自分一人ではこの状況を止める事など出来ない。
ならば、慧留のやる事は一つだ。
「ルミナスを…必ず助け出す!」
「ふ…やっぱりお前はおかしな奴だ」
「え?」
「かつて敵対し他者を助けるなど…そんな馬鹿げた事…中々言えるモノでは無い」
「関係無いよ…目の前に苦しんでいる人がいるなら、それを助ける事に意味があるんだよ」
「本当に…お人好しな奴だな。けど………それで良いのかもしれないな…」
そう、慧留はいつだってそうだ。
慧留は色々な人達の心を救ってきた。
慧留と戦った者は殆どの者が彼女の優しさに救われてきた。
慧留は常に誰かを助けようという強い思いを秘めながら戦っていた。
結果的に、慧留は多くの者達の心を救い、そして乗り越えてきた。
何度も何度も壁にぶつかり、その度に立ち上がり、慧留は多くの人を助け、助けられながら乗り越えてきたのだ。
そんな大きな力を持っていた慧留に、自分の事しか考えてなかったローグヴェルトが勝てる筈も無かった。
世界を…差別や憎しみの無い平和な世界にしたい、慧留はいつもそう言っていた。
そして、慧留にはそれが出来るのでは無いかと可能性を感じるのだ。
ルミナスの時とは違う、ルミナスと違って慧留は欠点だらけだ。
失敗も沢山して、壁にぶつかって、困難ばかり慧留に襲い掛かった。
それでも、慧留は負けなかった。
相手を打ちのめすでも無く、否定するわけでも無く、慧留はただ赦し、受け入れてきたのだ。
そうする事で、慧留は大きな大器となっていった。
ルミナスの強さとは別の…正反対の強さ。
慧留のそんな所に蒼を始め、かつての敵すらも引き付け、こうしてローグヴェルトも彼女に再び惹き付けられていた。
「慧留…お前の夢は…今も変わってないのか?」
「夢…うん…変わってないよ。何度も揺らいだ事もあったけど…何度も間違っているかもしれないって思ったけど…私の思いは変わらない。差別や憎しみの無い世界を…私は目指していきたい…もしかしたら…私は間違ってるのかもしれない…けどそれで良いんだよ、何度だって間違って良いんだよ…そうして…成長していくんだから」
そう、ミスを避けて成功するだけが正しい訳では無い。
確かに、失敗せずに成功していれば良い事も沢山ある。
だが、本当の力と言うのは失敗して、次どうするか考えた先にあるのだ。
だから、間違ってもそれを乗り越えて行けば、救いは道は必ず在る。
だからこそ、慧留はもう、迷わないと決めたのだ。
「そうか…ならば急がないとな…そろそろ出口だ」
ローグヴェルトと慧留は光の扉が見えたのでそこへ飛び込んだ。
すると、そこは晴天の青空であり、目の前に巨大な白が見えた。
周りには花が沢山あり、緑が広がっていた。
「時差の関係でここは昼なんだね」
「そういう事だ」
そう、今は十二支連合帝国は夜なのだ。
しかし、ここ神聖ローマは今、真昼だ。
「だが、それだけじゃない。神聖ローマはUSWとは真逆でな…ここは昼の時間が長い」
USWは一日の四分の三が夜だが逆に神聖ローマは一日の四分の三が真昼の様に明るいのだ。
神聖ローマは天使や妖精の楽園でもあり、大気中に膨大な霊力に満ちている。
何もかもがUSWと真逆なのである。
「そしてここが…」
「ああ…『天使城』だ」
こここそが、セラフィム騎士団の総本山、『天使城』だ。
確かにとてつもない威圧感があった。
まぁ、そもそも城とは自身の力を誇示し、威嚇する目的もあるので当然と言えば当然だが…
「何か…不気味な程に静かだね」
「ああ…まるで気配が感じない…」
まるで誰もいないかの様であった。
「! そこにいるのは誰!?」
慧留がそう言うと『天使城』から何人かの人影が見えた。
そこにいたのはー
「ドラコニキル!スープレイガ!アルビレーヌ!ウルオッサ!」
「USWか…!」
慧留達の前に『七魔王』が立ちはだかっていた。
「月影慧留…ルミナス陛下に逆らうとあれば…我々が叩き潰す」
「慧留!こんなバカな事は止めなさい!」
「止める気は無いよ」
慧留はそう言って錫杖を握った。
「慧留…ここは俺一人でやる。お前は陛下の所に行け」
「ローグ!?」
「お前は陛下の元に行かねばならない。そうだろう?それに…」
ローグヴェルトが何か言おうとしたが慧留はローグヴェルトの言葉の意味が分かった。
「増援…」
そう、セラフィム騎士団の『天使親衛隊』のミルフィーユ、エクレア、フランも来ていた。
「悪いけど君達はここで倒させて貰うよ」
「簡単に通れると思わない事ね」
「ローグヴェルト…騎士団長としての誇りを無くしたか!?」
「違うな…俺は…その誇りを取り戻す為に慧留といる」
「ふざけた事を…」
ローグヴェルトはそう言った。
そう、この戦いはローグヴェルト自身が己を拾いに行く戦いなのだ。
「そう言う事だ…行け…慧留」
「けど…!」
いくらローグヴェルトでもこれだけの大人数を相手に戦うのは無謀というモノだ。
だが、『七魔王』と『天使親衛隊』が相手では慧留とローグヴェルト二人掛かりでも苦戦は必死だろう。
「慧留…時間が無い。速く行け!」
ローグヴェルトがそう言うと慧留は渋々了承し、
「死なないでよ!」
「この俺が簡単に死ぬか」
慧留はそう言い残して城の中に入っていった。
「逃がすな!」
フランがそう言うとミルフィーユとエクレアが慧留を追おうとした。
しかし、いきなり身体が重くなり、ミルフィーユとエクレアは足を止めた。
「【第二解放】」
ローグヴェルトは既に【第二解放】を発動していた。
左側に虹色の翼、右側には黒い翼が生えており、右手には虹色の短剣、左手には巨大な黒い大剣を持っていた。
「【終焉の虹黒剣】」
ミルフィーユとエクレアはローグヴェルトの重力を操る技である【天地征圧】だ。
他にも慧留を追おうとするがローグヴェルトの妨害により、追跡が出来なかった。
「まずはローグヴェルトを倒す!」
「そうするといい…だが…出来ればの話だがな」
ローグヴェルトはそう言って剣を構えた。
To be continued




