【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅩⅥーhell breakー
「ここは…どこだ?」
蒼は眼を覚ました。
ここは真っ黒な空間だった。
何もなく、停滞した世界。
「おいおい…何がどうなってんだ?俺は確かルミナスに斬られて」
そう、蒼はルミナスに斬られた瞬間、意識を失い、気が付いたらここにいたのだ。
「ここは…一体…」
「冥界…だよ…救われない魂が眠る場所」
「!?」
蒼は声のする方向に振り向いた。
そこにいたのは青がかった黒髪に黒いハイライトが無い瞳、黒い法服を纏っている青年であった。
「てめぇは…クリフォト!?」
「久し振りだね…トキガミアオ」
「てめぇ…何でここに…」
「ここはね…天国に…いや、『世界宮殿』に行けなかった者が来る世界…つまりここは冥界さ。哀れな魂達が行き着く虚無の世界」
クリフォトはそう言った。
冥界とはガルディアが管理している空間で生前に非道な行いをした者や悪魔と契約した者が送り込まれる場所だ。
話には聞いていたがこんな場所であったとは。
クリフォト・ユールスナール、かつて蒼が敵対していた男であり、三年前、慧留を拉致し、慧留をUSWの王女に仕立て上げようとしていた男だ。
悪魔と契約した最初の人間であり、何を考えているかよく分からない不気味な男であった。
「ツキカゲエルは…元気にしてるかね?」
「ああ、まぁお前の望むような状態になってないとだけ言っとくぜ」
「そうか…まぁ、それはそれで一興…」
「何だと?」
「もっと…ツキカゲエルがどうなったのか…聞かせて欲しいな」
クリフォトの考えが分からなかった。
だが、特に何もする事が無い蒼は仕方が無いのでクリフォトの話に付き合う事にした。
クリフォトが死んだ後の慧留の話をした。
どれだけ話したのか分からないがかなり長い時間を話した様な気がする。
「そうか…ツキカゲエルは…世界にとって大きな存在になったんだな」
「ああ」
「そうか…なら…良かった」
「え?」
「私はね…自分が生きたという証を遺したかったんだよ…それはどんな形でも良かった。USWの王女に仕立て上げるというのは私が望んだ一つの形に過ぎない。私のやった事が結果的に実を結んでいればどんな形でも良かった」
そう言えば、蒼はクリフォトとこうしてゆっくりと話した事は無かった。
そんな機会が無かったので当たり前と言えば当たり前なのだが今のクリフォトは娘の成長を楽しんでいる父親そのものであった。
「慧留は…いつかはUSWに戻るとも言ってたぜ」
「そうか…だが…今の世界は…」
「多分…ルミナスが世界征服してる…」
「そうか…それは……面白くないね…」
クリフォトはそう呟いた。
「どういう事だ?」
「今現世ではルミナスによって世界が支配されているのだろう?それはつまらないだろう。世界というのは思い通りになってはいけないのさ…思い通りになる世界…それは停滞した世界となんら変わらない…それでは私がツキカゲエルを見出だした意味が無いね」
「へっ…慧留なら大丈夫さ」
「だが…味方は一人でも多い方がいい」
「え?」
「ここから出るぞ。トキガミアオ」
「はぁ!?」
クリフォトがいきなりとんでも無い事を言い出した。
「いやいやいや!どうやって出るんだよ!?だって俺、死んでるんだぞ!?」
「私も最初はそう思ったが…君はまだ死んでない。私と違って肉体がある。ならば…脱出出来る可能性があるかもしれない」
冥界からの脱出は基本的には不可能な筈だ。
しかし、クリフォトはそれが可能だと宣っている。
「だがまぁ…私一人では不十分だ…何人か仲間を集めないとね」
「仲間?」
「ああ…まぁ、協力者だよ。ある人物に会いに行く」
「ある人物?」
「ああ、私の知り合いに冥界と現世を行き来する力を持っている者がいた」
「!? まさか…」
「ああ…そのまさかさ。君の話の通りなら、彼はこの世界のどこかにいる筈だ。まずは彼に会いに行こう」
「けど…話をしてくれるとは思えないんだが…」
「だが彼しかこの冥界を抜け出せる方法を知る者はいない。つべこべ言わずに行こうか」
「ちょっと待てよ!?俺とアンタは敵同士だった筈だ!?なのに何でアンタは素直に俺に協力するんだよ!?」
「私が遺したツキカゲエルの為さ…ルミナスに現世が支配されていると聞いて面白くないと私は感じた。気に入らないから邪魔をしてやる…そう思っただけさ」
ある意味、クリフォトらしい理由ではあった。
気に入らないから叩き潰すという考えはスープレイガに近いとも感じた。
「それとも、君はここから出たくないのかい?」
「それは…」
蒼は少し考えた。
確かに、ここから出たいという気持ちはあった。
そして、意図ははっきりと分からないがクリフォトは蒼に協力しようとしている。
ならば、断る理由は無かった。
自分が生きているのなら、それはまだ、蒼にはするべき事があるという事だ。
クリフォトは正直信用出来ないが、他に宛もいないのでクリフォトを信じるしか無い。
「分かった。アンタを取り合えず信じるよ。俺はここから出たいしな」
「ふふ…天使が悪魔の誘いに乗るなんて…面白いね」
クリフォトが面白おかしくそう言ったが蒼は無視した。
「そいつの居場所は分かるのか?」
「まぁ、私と彼は精神を繋げた事もあるし、ガルディアが死んだ今、彼の呪縛も緩んでいる筈だ。今すぐ…アザゼルに会いに行こう」
そう言ってクリフォトは歩き出した。
蒼はそのクリフォトに着いていった。
「トキガミアオ…君は…子供の頃、天国だとか地獄だとかを信じていたかい?」
「何だよ?いきなり?」
「そう言った想像力は何物にも勝る力となる」
蒼はクリフォトの言葉の意味が分からなかった。
「そろそろ出るよ。出口だ」
クリフォトがそう言うと上から淡い光が差し込んだ。
クリフォトと蒼は光の方向へと進んだ。
そう、クリフォトも蒼も上下逆さまの状態で歩いていた。
「なっ!?」
蒼は驚愕した。何故ならー
「ようこそ、トキガミアオ…ここが…冥界だよ」
どうやら、蒼とクリフォトは冥界の地下にいた様だ。
「私は暗い場所が好きなので敢えてあの場所にいたのだよ」
「悪趣味な野郎だ」
「さてと…平衡感覚がおかしくなりそうだが…まぁ、あまり気にする必要はない。いつもと同じようにすればいい」
「つってもな~…」
蒼は辺りを見回した。
何というか…ゴチャゴチャした場所であった。
さっきの場所よりは明るいがそれでもかなり薄暗いし、あらゆる物質が捻れ曲がっていてこの世のモノとは思えなかった。
更に空間が安定しておらず、常に歪みが出続けている。
「で?アザゼルはどこにいんだよ?」
「どうやら…この辺りにはいない様だ。もっと先に進んでみようか」
クリフォトは特に驚く様子も無く、冥界を進み続けた。
蒼は冥界のあまりに不気味な空間に圧倒されているというのに。
「アンタ…こんなメチャクチャな空間を見ても全く驚かねぇんだな」
「まぁ、私は君より長くこの世界にいるからね…それに、この程度の事に一々驚く程、感受性も豊かでは無いのでね」
クリフォトは苦笑しながらそう言った。
「!? 何だ!?あれは!?」
「あれは冥界の番犬…『冥界犬』だね」
「なっ!?」
「この冥界では無限の苦しみを与える。その為には苦しみを与える者が必要だろ?その内の一体があの『冥界犬』さ。そして、そう言った者達の総称を『冥界審判者』という」
「『冥界審判者』…懺悔しろって事かよ…」
蒼は氷の刀である【氷水天皇】を振るい、冥界犬を凍り付かせた。
冥界犬はそのまま砕け散った。
「ほぉ~、前より強くなってるね~」
クリフォトが感心する様にそう言った。
「くそ…無数に出てきやがる…」
冥界犬は一体だけではなかった。
見た限り数十匹いた。
「いや、一体しかいなかったらそりゃ大した驚異にはならないさ。奴等の恐ろしいところはその圧倒的物量さ。しかもこの空間の捻れにより奴等、冥界審判者は造られているから無限に出現し続けるよ」
「御丁寧に解説どうも!じゃあ、逃げるしかねぇんだな!?」
「そういう事だね。とっととずらかるよ!」
クリフォトと蒼は冥界犬から逃げた。
しかし、冥界犬はしつこく二人を追跡していた。
「奴等は一度匂いを覚えたらずっと追い続ける」
「なっ!?じゃあ、逃げようがねぇしすぐに死んじまうだろ!?」
「いや、ここでは何度殺されても生き返る。まぁ、生き返れる回数には個人差があるけどね」
この冥界の住人は基本的に殺されても再び甦る。
何故そうさせるかというと死の苦痛を無限に味わわせる為だ。
そして、無限の苦痛を味わった後、最終的には生き返れなくなり、この冥界の養分となり、魂が完全に消滅するのだという。
「ガルディアは随分と悪趣味な場所を統治してたんだな…」
「ここの所、ガルディアは冥界を出る事が多かったから冥界は結構騒ぎになってたよ。ガルディアがいないとこの冥界はヤバイからね」
「どういう事だ?」
「冥界はガルディアによって制御、統制されているんだよ。その統制者が死ねばこの空間が消えるのは自明の理さ」
「なっ!?」
クリフォトがさらっととんでもない事を言うと蒼は驚愕した。
ガルディアが死んだ事でこの冥界は崩壊の危機なのだと言う。
「まぁ、新たな統制者が見つかれば破壊は阻止されるかもね。とはいっても時間の問題だね。既に冥界は崩壊を始めてるし」
「何でそんな重要な事を最初に言わねぇんだよ!しかもお前、メチャクチャ冷静じゃねぇか!?」
「私はこの世界がどうなろうが知った事では無いからね。それに、そんな事は君が気にする事ではない。君はここから出なければならない」
「やっぱお前はよく分からねぇ奴だな」
クリフォトは常に冷静であった。
どうやら本当にこの世界が潰れようがどうでもいいようだ。
彼の価値基準がイマイチ蒼は分からなかった。
「さてと…ん?」
「どうした?」
「アザゼルの気配を見つけた」
「何!?どこだ!?」
「こっちだよ!」
クリフォトが上に行くと蒼もそれに着いていった。
するとバカデカイ塔があった。
「あれは…ネルヘルカの塔!?」
「…の一つだね」
「え?」
「ネルヘルカの塔はこの冥界に無数に存在するんだよ。かつてアザゼルがその内の一つと現世を繋げた事があったが、それは極一部に過ぎない」
かつて、アザゼルはUSWの四大神を利用して冥界と現世を繋げた事があった。
結果的には蒼達によって阻止され、ガルディアによりアザゼルは冥界に連れていかれた。
「あの塔の中にいるのか?」
「恐らくね」
「そうかよ!だったら行くぜ!」
蒼とクリフォトはネルヘルカの塔へと向かった。
クリフォトによるとこの塔の中までは冥界犬は追っては来ないとの事だ。
しかし、ネルヘルカの塔は一定時間経つと他の場所に移動するらしく、それにより、中にいた者は強制的に外に出されるらしいので絶対安全という訳では無い。
「ここが入り口だね」
「入り口からしか入れねぇってのが面倒だな」
「この塔は入り口以外から入ろうとしても特殊な空間の捻れのせいで入れない」
「この塔のどこにいるんだ?」
「一番下だね。この塔は下に行けば行く程上へ行くんだ」
「は?」
「細かい事は気にせずに行くよ」
クリフォトがそう言って塔に入ると蒼もクリフォトに着いていった。
「冥界のネルヘルカの塔は見ての通り、頂上がくっきり斬られた様になってる。あれは区切られているからだ。残りのネルヘルカの塔は現世に繋がってる」
「成る程な。つまり、現世にあるネルヘルカの塔が上へ行く程頂上に着くのに対してここのネルヘルカの塔は下に行くんだな」
「そう言う事さ」
蒼とクリフォトはどんどん下に降りていく。
蒼は一度、この塔に入った事があったが、現世のネルヘルカの塔とここ、冥界のネルヘルカの塔とでは造りがまるで異なっていた。
「そろそろ地下に着くよ」
「ああ」
蒼とクリフォトは最下層に辿り着いた。
しかし、アザゼルの姿は見えなかった。
「アザゼル…そこにいるのは分かっている。出てきなよ」
クリフォトがそう言うと黒色の長髪に灰色の瞳を持ち、ボロボロの白Tシャツを着た男がやって来た。
容姿は中性的なのだが服がボロボロなのでみすぼらしさがかなり出ていた。
これがアザゼルの本当の姿の様だ。
「まさか…こんな所でお前に会う事になるなんてな…時神蒼」
「それはこっちの台詞だぜ、アザゼル」
「アザゼル…君も知っていると思うが、ガルディアが死んだ」
「ああ、そうらしいな…これで忌々しい呪縛から解放される…という訳では無いが私を縛るモノは無くなった」
「私は彼をこの冥界から脱出させてやろうと考えている。その為には君の協力が必要なんだ。受けてくれるかい?」
「断る」
…まぁ、蒼にとっては予想出来ていたので対して驚きはしなかった。
「やっぱりダメかい?」
「ダメだ。私にメリットが無い」
「前みたいに冥界から抜け出せねぇのかよ」
「あの時は四大神の力を利用したからここと冥界を行き来する事が出来た。だが…四宮舞は死に、それにより四大神も死んだ。前と同じ方法ではここから抜け出す事など出来ん。私に出来る事はせいぜいここと現世を繋ぐトンネルを造る事くらいだ」
「他に方法は無いのかい?」
「それを今、探っていた所だ」
どうやら、アザゼルも抜け出し方が分からない様だ。
「なら…どの様な条件があれば…我々に協力してくれる?」
「クリフォト…お前は何故、時神蒼に肩入れする?お前も私もそいつに倒されたんだぞ」
「世界はルミナスの一人勝ち状態だ。それは面白くない」
「ああ、このネルヘルカの塔で現世の様子を見ていたから知っている。時神蒼がルミナスに現世でボコボコにされた所はお笑いだったよ」
アザゼルは笑いながらそう言った。
どうやら、アザゼルは現世の様子をネルヘルカの塔を通じて見ていた様だ。
蒼はアザゼルの言葉に少しイラッとしたがそんな事を気にしている場合では無かった。
「この塔を通じて様子を見れるのなら、この塔を使ってここから出られるのでは無いか?」
「いや、現世と冥界の境界に強大な空間の捻れがあって、私の力ではどうにもならないよ」
「そうか…だが、時神蒼がここから抜け出せたとなると、君がここから出るのに重要なサンプルにならないかい?」
「………」
クリフォトがそう言うとアザゼルは眉を動かした。
「そう言えば時神蒼…貴様、肉体を持っているな?」
「ああ、クリフォトも言ってたな。どういう事だ?」
「お前は死なずにここに送り込まれたという事だ。普通そんな事は有り得ない。何があった?」
「? お前、現世の事は把握してるんじゃねぇのか?」
「ああ、そうだ。だが、『世界宮殿』であった事は知らん。お前が『世界宮殿』に向かった事は知っているがその後どうなったのかまでは知らん。まぁ、ルミナスが勝利して世界がルミナス一色になったという結果は知ってるがな」
どうやら、冥界から現世の様子は見れる様だが世界宮殿の様子は見れない様だ。
「で?何があった」
アザゼルがそう言うと蒼は世界宮殿であった事を話した。
ルミナスに斬られ、意識を失って気が付いたらここにいたという事を伝えた。
「成る程な…ルミナスの能力は事象の上書きでそれを受けた貴様がここに飛ばされた…と…」
「そうだ」
「ならばおかしいな。ルミナスの能力が本当に事象の上書きなら何故お前は生きている?もしそれが本当なら貴様は跡形も無く、魂ごと消滅している筈だ」
「そう言えば…」
「考えられるのは二つだな。一つはルミナスの能力が事象の上書きでは無いか、二つ目はお前が何らかの方法でルミナスの能力を打ち消し、その副作用的な何かでここに飛ばされた可能性の二つだ」
アザゼルは冷静に蒼の状況を分析した。
そして、アザゼルはニヤリと嗤った。
「?」
蒼はアザゼルの考えが分からなかった。
「良いだろう…協力してやる。見たところ、時神蒼は肉体を持っている。ならば…ここから抜け出せる可能性がある。ただし…条件がある」
「条件?」
「時神蒼…貴様の身体を冥界から出て依り代を見つけるまで貸してもらう」
「…どういう事だい?てっきりトキガミアオの身体を奪うと言うと思ったんだが?」
「時神蒼の身体を奪えればそうしたい所だが…今の時神蒼は強大な力を持っている…奪おうとすれば今度こそ私の魂は完全に消滅してしまう…」
アザゼルは生まれつき肉体を持っていない霊体の存在であり、現世に留まる時は現世の肉体に取り憑いていないと消滅してしまう存在なのだ。
なので、アザゼルは冥界と現世を繋げる事で冥界と現世の境界を無くし、現世で自由を手に入れるようとしたのだが結果的に蒼の妨害とアザゼルの計画を知ったガルディアによって冥界に閉じ込められる事になった。
だが、蒼はアザゼルの提案に承諾しかねていた。
それも当然だ。アザゼルは舞に憑依して悪事を働いたのは事実であり、冥界から抜け出せば悪事をしないとも限らなかった。
それこそ、ガルディアがいない今度こそ、冥界と現世を繋げるという愚行を行わないとも言えなかった。
「なら、こっちからも条件がある」
「お前、立場を分かっているのか?私の方が立場は上だよ?」
「いや、そうでもねぇよ。俺もお前もここから出たいのは同じさ。ならば、俺からも条件を付けるのは当然だろ?」
そう、ここから出たいのは蒼もそうだが、アザゼルも同じなのだ。
だから、蒼とアザゼルはどちらが不利でも有利でも無いという以外と立場は拮抗しているのだ。
「一応、聞いてやる」
「悪事はするな。前みたいな事をやれば今度こそお前を殺す。俺の氷は前と違ってお前を完全に消滅させれる」
「それは…おっかないな…だが、悪事をしないだけで後は自由なら…こんな世界にずっといるよりは遥かにマシだ…良いだろう。約束しよう」
アザゼルは素直に蒼の要求を飲んだ。
元々アザゼルは現世を自由に生きたいというのが根っこの目的で冥界に来て、ここに嫌気が差していたのでアザゼルにとって蒼が提示した条件など些細なモノなのだろう。
それでもアザゼルは蒼の要求を無視する可能性があったがここを抜け出すにはアザゼルの協力が必要不可欠なのも事実だし、もし破れば蒼が始末すれば良いだけだ。
「ふっ…交渉成立だな…ならば、早速お前の身体に憑かせて貰うぞ」
アザゼルはそう言ってエネルギー体となって蒼の身体に入っていった。
「どうだ?」
蒼はアザゼルに問うた。
『寒!?どうなっているのだ!?この体は!?』
「霊体なのに寒さ感じるのっておかしくないか?」
『私はそれだけ高度な霊体なのだ!』
「いや、答えになってねぇよ」
蒼は呆れる様にそう言った。
自分以外の魂が身体に入るのは変な気分だなと蒼は思った。
まぁ、こんな体験が出来る事などそうそう無いのが。
「で?アザゼル、ここから抜け出すにはどうすればいい?」
『取り合えず、時神蒼のこの生身の肉体と私の現世と冥界を繋げる能力は必要だ』
アザゼルはこのネルヘルカの塔を通じて現世の様子を見ていたと言っていたがそんな事が出来るのはアザゼルだけだ。
アザゼルは冥界と現世を繋げる能力があり、このアザゼルの能力はここから出るのに必要不可欠だろう。
「じゃあ、このままお前が現世とここを繋げて俺が出れば良いのか?」
『いや、空間の捻れは強大だ。いくら時神蒼でもその空間の歪みから抜け出すのは不可能だろう』
「今のトキガミアオでも無理なんて…それは魂げたねぇ…」
『それだけ異なる世界へ行く事は困難なんだよ。だから…空間操作に長けたヒトが必要だ』
「空間操作…う…」
蒼は空間操作という単語を聞いて心当たりのある人物がいた。
『まぁ、時神蒼が考えてる通りだよ。そいつに頼むしか無い。そいつも確か、この冥界に落っことされた筈だからな』
「心を読むな!心を!てか何でお前、俺の考えてる事が分かるんだよ!?」
『お前の身体に入ってるからに決まってるだろ』
「そんな当たり前の事みたいに言うな!プライバシーの侵害だ!」
「つべこべ言わずにそいつを探しに行くぞ」
「二人は何の話をしてるんだい?」
「ああ、空間操作の使い手に心当たりがあったんだよ」
「へぇ?それは誰なんだい?」
「すぐに分かる」
「勿体振らないでくれよ」
クリフォトが仲間外れにされた小学生の様であった。
「?」
謎の地響きが起こったと思ったらネルヘルカの塔が無くなっていた。
『どうやら、ネルヘルカの塔は一定時間経過によって移動した様だな』
「じゃあ、また新しい塔を探さねぇと行けねぇのかよ」
『そうだな、そして奴を見つけ出す必要もある』
蒼は勘弁してくれといった様子であった。
一方でアザゼルはもう慣れっこなのかあまり動揺はしていなかった。
「どうやら…冥界犬はいなくなった様だね」
『お前ら…あんなのに追われてたのか…』
アザゼルが呆れた様にそう言った。
まさか蒼もかつての敵と協力する事になろうとは夢にも思わなかったし彼等も同じ気持ちであろう。
「じゃあ、君達の言う、例のあいつとやらを探しに行こうか」
「つってもな…この冥界って広いんだろ?あいつはどこにいるのか検討もつかねぇぞ…」
『それなら問題無い。私はこの冥界の地形を全て把握している』
「君も暇だね~」
『ここにいる者達は全員暇人のニート同然だろう!?それに私はこの冥界から抜け出す為にこの冥界を研究していたんだ!ちゃんと理由があるんだよ!何もしてないお前とは違う!』
「分かった…分かったからそんなに怒らないでくれ」
アザゼルとクリフォトが非常にコミカルなやり取りをしていた。
蒼は知らないだけで本来の彼等の性格はこんな感じなのかもしれない。
出会い方が違えば、蒼とクリフォトとアザゼルだって仲間になっていたのかもしれないのだ。
「それにしても同じ様な道が続くな~。本当に進んでんのか?」
『ああ、問題なく進んでいる』
「で?アザゼル…あいつの宛はあんのかよ?」
『宛は無いが手掛かりはある。奴は冥界審判者とよく戦っている。恐らく、今回もそこに奴がいる』
「何であいつがそんな事をしてんだよ。あいつは別に戦闘狂って訳でもねぇだろ」
『そんな事を私が知るか!本人に直接会って聞くんだね』
「何だろう…私だけ微妙に仲間外れにされてるこの感じ。何か気に入らない」
クリフォトがそう呟いた。
そもそも、こうなったのはクリフォトが発端なのにクリフォトがこうも蚊帳の外だとクリフォト本人も気に食わない。
いや、別にクリフォトは普段はこんかムキにはならないが今回は別だ。
クリフォトがここまで動いているのは現世にいる慧留の手助けをする為だ。
クリフォトが見出だした慧留が簡単に倒されてはクリフォト自身、面白く無い訳だ。
だからこそ、クリフォトはかつての敵であった蒼と協力した訳だが…
「クリフォトってそう言う事あんま気にしないと思ってたんだけどな」
「………君は自分が主催したのにその主導権が勝手に別の者に取られたら嫌だろう?気に入らないだろう?それと同じだ」
クリフォトは以外と負けず嫌いな所があるなと蒼は思った。
いや、負けず嫌いというより、自分が始めた事を誰かによって邪魔されるのが嫌なのだろう。
クリフォトはどんな形であれ、慧留の力を見出だしたのは事実であり、彼女の成長に心踊らせていた。
なのに、ルミナスのせいでそれを邪魔されている訳だ。
クリフォトからすればそれは面白く無いのだ。
だからこそ、クリフォトは蒼に協力している。
クリフォトは決して善意で蒼に協力している訳では無い。
人間、そう簡単に変わりはしない。
利害が一致しているから協力しているに過ぎない。
だが、そういった利害一致の関係は下手な友情よりもよっぽど宛になるのも事実だ。
何故なら、利害一致の関係を裏切れば相手だけでなく自分にも危害が及ぶからだ。
だから利害一致の関係は下手な約束よりよっぽど信用出来るのだ。
蒼はアザゼルもクリフォトも完全に信用した訳では無い。
利害一致の関係で協力しているだけだ。
だが、例えどんな人物であろうとその人物が利であるのなら有効活用しない手は無い。
むしろ、利用しないのは愚かと言えるだろう。
『さてと…そろそろ…辿り着く頃か?』
アザゼルはそう呟いた。
すると、大量の冥界審判者がいた。
巨大な巨人、頭が三頭ある巨大な犬、冥界犬もいた。
「うわ…」
「いっぱいいるね…」
『言っておくが私は戦わないよ。というか戦えない。肉体を持たない私の戦闘力はミジンコ同然だからね』
「じゃあ、俺とクリフォトで何とかしないと行けねぇのかよ!?」
「面白いね…始めようか」
蒼、クリフォト、アザゼル(この場ではいないに等しい)の共同戦線が始まった。
To be continued




