表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【最終章】天界叛逆篇
181/196

【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅩⅤーresetー

 あれから数ヵ月経ち、今は三月になっていた。

 月影慧留は苗木日和の一室で眼を覚ました。

 神聖ローマとの戦いが終わり、戦いはルミナスの完全勝利に終わった。

 『世界宮殿(パルテノス)』を支配したルミナスにより、ローグヴェルトと慧留以外の者はルミナスの奴隷も同然となってしまった。

 それは一夜達もそうであるし、蒼の友であったインベルとアポロも同様だ。

 それでも、心が完全に支配された訳では無いので慧留は一夜達と協力して蒼を生き返らせる手段を探ったが結局それも叶わず、蒼が戻ってくる事は無かった。

 プロテアが過去に遡り、蒼を助け出そうとしたが過去にも未来にも蒼は存在していなかったのだという。

 ルミナスの事象の上書きがそれ程にまで強力な力であるという事だ。

 一夜、屍、美浪、プロテア、蒼の仲間達は皆、蒼の死を悲しんだ。

 しかし、死んだ者の魂が戻る事は無い。

 慧留はすぐに大学に行く準備をした。

 今は春休み中だが論文を書く為の資料集めに行かなくてはならない。

 慧留は淡々と準備を済ませ、すぐに大学へと出発した。

 神聖ローマとの戦い以降、慧留は他の仲間達と疎遠になっていた。

 一応、苗木日和には今でも住んでいるのだが、仲間と会わない様にしていた。

 慧留は最近、イヤホンを聞きながら外を出る様になっていた。

 そうなった理由は単純だ。

 どこにいってもルミナスルミナスだ。

 世界中の人々がルミナスを崇め奉り、本当に神の様な存在になっていたのだ。

 慧留は自分一人だけ阻害されている様な気分であった。

 しかし、世界が良い方向に進んでいるのは確かであった。

 四大帝国を完全に占領した神聖ローマは他の小国にも侵攻を開始し、ルミナスはとうとう、世界統一という偉業を成し遂げてしまった。

 そして、戦争の完全撤廃と貧困や食糧問題もルミナス達神聖ローマの研究により解消されていた。

 ルミナスの独裁政治が良いように回っているのだ。

 ルミナスの今やっている事はかつて、慧留が望んでいたモノだ。

 それが、慧留ではなく、ルミナスによって成し得た。

 それだけ…それだけの筈なのに…慧留は何故か、今のこの世界が良いとは思えなかった。

 それが何故なのか?自分だけ違うから…蒼がいないから…いや、そうではない、そうではないのだ。

 確かにそれもある…あるのだが…もっと…もっと…違う理由な気がするのだが…それは慧留本人にも分からなかった。

 慧留がボーッとしながら進んでいると既に大学に着いていた。


「あ…いつの間に…」


 慧留は大学の中に入っていった。

 そして、図書館に引き籠り、一人で本を探していた。

 そう言えば神聖ローマの貴族制が廃止になったそうだ。

 神聖ローマだけではない、世界中の貴族達が撤廃されたのだ。

 そう、ローマカイザー以外は。

 全てがゼロに…リセットされたのだ。

 軍事力も全て神聖ローマに統合された。

 ルミナスを敵に回すという事はこの世界そのものを敵に回す事と同義だ。

 パルテミシア十二神も全員死んだ。

 そう、この世界を見守っていた十三人の神々は死に、一人の神によりこの世界は統一された。

 全てが無になり、始まりを迎えた。

 慧留はもう、どうしたらいいのか分からなかった。

 ルミナスはもう、この慧留達とは違う存在になってしまっている。

 今のルミナスを倒すなんて事は…慧留には出来そうに無かった。

 いや、そもそも出来たとしても、不用意にこの世界のルールを変えるのは間違いだ。

 そう、慧留がこの世界を受け入れれば全てが丸く収まるのだ。

 でも、何でだろう。そうと分かっていても慧留は今を受け入れる事が出来なかった。


「私は…何で…何でだろう…?」


 慧留が本棚の前でボーッとしていると一人の青年がやって来た。


「月影?」

「屍…」

「何やってんだよ?」

「調べもの」

「そうかよ…」


 屍はそう言って慧留の隣に来た。


「屍はさ…やっぱり…今の世界が正しいと思う?」

「そりゃあそうだろ。世界は平和になった。最初から俺らが降伏してりゃもっと楽に平和になってたろうぜ。そうすりゃあ…時神も死なずに済んだ…」


 屍は悲しげにそう言った。

 そう、あくまでルミナスが支配しているのはルミナスに逆らわない様にするだけであり、それ以外の心は縛ってはいない。

 屍は…間違いなく蒼の親友であった。

 だからこそ、蒼の死を誰よりも悲しんでいた。


「あいつには借りがあったのによ…返しきれない借りがさ…あいつは暗闇にいた俺を助けてくれた。俺があいつを止めてれば…何度もそう思う」

「屍…」

「この世界は本当に平和だ。魔族と人間の蟠りも完全に無くなった。本当にルミナス様は救世主だ」


 そう、ルミナスは間違いなくこの世界の救世主だ。

 慧留もそれを認めざるを得なかった。


「慧留…せっかく…この世界は平和になったんだ…馬鹿な事は…考えんなよな」

「………」

「なんか湿っぽい話になっちまったな…じゃあ俺行くわ」


 屍はそう言って去っていった。

 慧留は少しだけ…気が楽になった気がした。

 確かに屍はルミナスに洗脳されたままだけど、蒼に対する気持ちは変わってなかった。

 慧留は少し…思い詰め過ぎていたのかも知れない。


「気分転換に…世界でも回ろうかな」


 慧留はそう言って大学を出ていった。





 慧留は身仕度を済ませ、世界旅行に出掛けた。

 まず最初はオセアニアを中心に旅行した。

 船に乗ったり飛行機に乗ったりしてオセアニアを回った。

 そして、ヘレトーアに辿り着いた。


「ルバート!」

「ん?君は…慧留君かい?」


 ヘレトーアの町の一つであるコロセアにルバートはいた。


「久し振りだね、何で君がここに?」

「そう言うルバートだって何でここに?」

「僕は今日は休みだよ。平和になったからやる事も少なくてね」

「いや、平和になったらなったでやる事はいっぱいあるでしょ?」

「まぁ、細かい事は気にしなくてもいいさ。それより、十二支連合帝国は大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫ですよ。澪さんが上手くやってくれてます」


 十二支連合帝国総帥である常森厳陣、その腹心である黒宮大志が亡くなり、新たな十二支連合帝国の総帥には常森澪が就いた。

 あの若さで澪は十二支連合帝国をよく纏められていた。


「そっか…なら安心したよ。一夜君達は元気にしてるかい?」

「はい」

「そうか、なら、今度遊びに行こうかな?」

「ははは…そんな時間あるんですか?」

「時間なんて作ればいいのさ」

「そうですか」

「そういう君はこんな所にいて大丈夫なのかい?学業とか…色々あるだろ?」

「大丈夫ですよ少しくらい」

「それに…蒼君も…」

「そうですね…まだ…全部は納得しきれて無いです。けど…それでも、前を向かないと…私はその為に時間が欲しいんです」

「そうか。ならば…好きにするといいさ。ああ、それと、プロテアも元気かい?」

「はい、元気にやってますよ」

「そうか、彼女は蒼君の事が好きだったからね。傷心していないか心配だったんだよ」

「………」

「平和になっても…癒えない痛みというのは存在する。それが戦争だからね。けど、その戦争ももう、終わりだ。ルミナス様が全てを変えて下さったのだから」


 ルバートはそう言った。

 世界中がルミナスに支配されているのだから当たり前といえば当たり前だ。

 分かってはいたがやはりキツイものがある。


「じゃあ、私、もう行きますね」

「もっとゆっくりしてもいいのに…」

「いえ、もう行きます。それでは、お元気で」


 慧留はそう言ってルバートの前から去っていった。

 慧留は次の目的地へと向かった。

 そう、慧留にとって馴染みのある場所であり、慧留の運命を変えたあの場所へ…





「やっぱり不気味だし、砂漠だらけだね~」


 慧留はUSWのネオワシントンに来ていた。

 慧留がかつてここに来た時はドラコニキルに拉致された時だ。

 あれから、慧留はこのUSWに来た事は一度も無かった。

 少し懐かしさを感じると共に少し不安でもあった。


「ま、考えても仕方無いよね」


 慧留はそう言って『闇魔殿(オプスデラカストラ)』へ向かった。


「慧留!慧留じゃない!」


 『闇魔殿(オプスデラカストラ)』の入り口に現れたのはアルビレーヌであった。


「アルビレーヌさん!」

「久し振りね!会いたかったわ!」


 慧留とアルビレーヌは抱き合ってそう言った。


「奥でドラコニキルが待ってるわ!」


 アルビレーヌはそう言って慧留を案内した。

 慧留とアルビレーヌは城の中に入っていった。


「よう、久し振りじゃねぇか…月影慧留」


 城の中にスープレイガがいた。

 スープレイガはどこか苛ついている様に見えた。


「うん、久し振りだね、スープレイガ」

「何の様だ?てめぇがこんな所に来るなんて…」

「何でもいいでしょ、レイ?さっ、さっさと行くわよ、慧留」

「時神は…俺が殺す筈だった…」


 スープレイガがそう言うと慧留とアルビレーヌが足を止めた。


「だがあいつは…ルミナスに殺られちまった…許せる筈がねぇ…人の獲物を勝手に取りやがって…だが…ルミナスに攻撃しようとしても見えない何かに縛られて思考を奪われる。悔しいが…俺じゃああいつを殺せねぇ…」

「………」


 慧留は黙ってスープレイガの話を聞いていた。

 スープレイガは元々この世界の平和を望んでいた訳では無い。

 闘争こそがスープレイガの生き甲斐であり、蒼はそのスープレイガが定めた獲物だったのだ。

 その獲物をルミナスに殺された。スープレイガはルミナスに恨みを持っていた。


「月影慧留…お前は…ルミナスを倒すんだよな?お前しかいねぇんだよ…」

「行きましょう、慧留」

「はい…」


 慧留とアルビレーヌがスープレイガの前から去っていく。


「待て…!逃げ…」


「スープレイガ…ありがとう。蒼の事、好きでいてくれて…私に…勇気をくれて…ありがとう」


 慧留はスープレイガにそう言い残して去っていった。

 スープレイガはそう言って壁を叩き付けた。

 別に好きとかそういう訳では無い。

 だが、慧留の目からはそう見えたのだろう。


「ふざけんな…クソ!」





「待っていたよ。慧留」

「うん、久し振り。ドラコニキル」


 執務室にドラコニキルはいた。

 そして、ラナエルも。


「久し振りだぞ!慧留!」

「うん、ラナエルも久し振り」

「で?何故こんな所に?」

「私…今の世界の事を少しでも知りたくて…その為には世界を回るのが良いかなって」

「成る程…ふー、世界は…良い方向へと変わった。この世界に時神蒼はもう、いない。これは紛れもない事実であり、君にとっては大きい事だ…そして…スープレイガにとっても…ね…」

「うん」

「我々は今のこの世界に満足している。だが、中には不満に思う者、納得も行かない者も存在する。君や…スープレイガの様にね」

「私自身…分からないんです…どうすればいいのか…」

「どうするのかは…自分で決めるしかない」


 そう、運命に従うか、抗うか…それは自分が決める事だ。

 しかし、運命をありのままに受け入れるのと逃げるのとでは訳が違う。

 一見、運命を受け入れている様で実は逃げているのかもしれない。

 慧留は今、どうすればいいのか…分からない状態なのだ。


「私は…探さないと行けないと思います…自分がどうするべきなのかを」

「ああ…」

「運命とは残酷な道標であり、そして抗うべき壁でもある。お前がその大きな運命にどう向き合うか…それはお前が決めろ。正解は…一つじゃないんだ」

「うん、そうだね…ありがとう、ドラコニキル。私、もう行くよ」


 慧留はそう言ってドラコニキルの前から去っていった。


「アルビレーヌ…もし…慧留がルミナス様に手を出せば…我々USWも動かざるを得なくなる」

「ええ、分かっているわ。もし…もしも慧留がルミナス様に敵対する事になれば…」

「ほ…本当にそうするしかないのか?何か…話し合いで済ませる事は…」

「ラナエル…それは無理だ。慧留は一度決めた事は絶対に折れない。慧留がこの世界にもし反旗を翻すのなら…慧留を殺すしか無い」


 そう、ルミナスを敵に回すという事は世界全てが敵になるという事。

 慧留は世界と戦うか世界を受け入れるか…この二択を選択するしかないのだ。





「月影」


 慧留が『闇魔殿(オプスデラカストラ)』から出ようとした時、スープレイガが慧留を呼び止めた。


「スープレイガ…」

「ルミナスを倒す決心をしたなら…俺を呼べ…一人でも味方は多い方がいいだろ」

「スープレイガ…」

「勘違いすんなよ!俺は…時神を殺したルミナスが気に入らねぇ…!それだけだ!」

「うん、分かってるよ。ありがとう、スープレイガ」


 スープレイガが紙切れを慧留に投げた。

 スープレイガの連絡先の様だ。


「待ってる」

「…うん」


 慧留はそのままスープレイガから去っていった。

 そして、慧留は次の国に向かう事にした。

 四大帝国最後の国であり…世界の頂点である超大国。

 神聖ローマ合衆国へ…






「ここに帰ってくるのは五年…いや、六年振りくらいか…」


 神聖ローマは慧留の出身地であり、蒼の出身地でもある。

 かつて、慧留はこの国の内戦から逃げて来て、十二支連合帝国まで逃げてきたのだ。

 だが、その内戦を起こしたのは他でも無い、蒼であった。

 ローマ聖戦と呼ばれたその内乱は蒼と慧留に深い傷を残した。


「慧留…」

「アポロ…」


 町を歩いているとアポロがいた。

 アポロは蒼の友達であり、姉でもある。


「どうしてここに?」

「ちょっと…気分転換」

「いや、気分転換にならないでしょ…だってこの国は…」


 そう、この国は慧留にとってはあまり良いことがあるような国では無い。

 むしろ、記憶から消し去りたい様な事ばかりが残っている筈だ。


「ううん、気分転換だけじゃないんだ。この世界の事をもっとよく知らなきゃって思って」

「そう、そういう事ね。で?どこに行こうとしてるの?」

「ルミナスに…会いたいんだ」

「はぁ!?」


 慧留のあまりに素頓狂な発言にアポロは驚いた。

 何故なら、前まで命の取り合いをしていた者と会いたいなどと言い出したからだ。


「まさか…あなた…ルミナスを殺そうってんじゃないでしょうね?」

「ううん、そんな事したら、世界が敵になっちゃうし…それに…私じゃルミナスは倒せないよ」

「それもそうね、分かったわ。じゃあ、行きましょう」


 やはり、アポロもルミナスによって洗脳されている様であった。

 セラフィム騎士団の者ならもしかしたらと思ったがどうやら本当にローグヴェルト以外の騎士団はルミナスにより洗脳されている様であった。

 アポロと慧留はルミナスのいる場所である『天使城(セラフィム・ヴァール)』へと向かった。





「何のつもりだ!?アポロ!!」


 城の前にいたアルダールがそう言った。

 確かに部外者をいきなり城に入れようとするアポロはどうかしているとしか言いようが無いだろう。


「久し振り!慧留!」

「うん、久し振り、インベル」


 アルダールの隣にインベルもおり、元気そうであった。


「別に会わせても良いんじゃない?」


 アルダールとインベルの後ろに現れたのはミルフィーユであった。


「なっ!?何を馬鹿な事を…!」

「ルミナス陛下が慧留を連れていけって連絡があったよ」

「なっ!?それは…本当か!?」

「そう言う訳だから…じゃ」


 ミルフィーユはアポロと慧留を連れて城の中へと入って行った。


「まさか…陛下が…」

「そりゃ、話したい事とかあるんじゃないっすかね…フローフルの事もありますし」


 インベルはそう言った。

 インベルも最初は信じられなかった。

 まさか、ルミナスが蒼を殺したなんて…そして、インベルもアポロも…信じたく無かった。

 友達である蒼が死んでしまったなどと。


「俺は…また…友達を守れなかった…」


 インベルは自嘲する様にそう言った。

 蒼が死ぬくらいなら…そもそも戦わなければ良かったと…そう思わずにはいられなかった。

 結果論だと言われればそれまでだが…引き返す事は出来た筈なのだ。

 だが…結局こうなってしまった。


「何が正しいのかなんて…結果が出るまで分からんモノだ。逆に…結果が出ない事には正しいとは限らん。もしかしたら…間違っているのかもしれない」

「アルダールさん…珍しく良い事言いますね」

「貴様…あまり舐めた事を言っていると叩き潰すぞ」

「じょ…冗談冗談…ジョークですよ!」


 インベルは笑いながらそう言った。


「まぁ、いい。とにもかくにも、我々は世界を手に入れた…」


 そう、神聖ローマは世界を統一した。


「世界を一つにする…そりゃ…そっちの方が楽でしょうけど…本当にこれが正しいんですかね?」

「お前は陛下を認めないと言うのか?」

「別にそうとは言ってないです。陛下のお陰で世界は平和になったのは事実ですよ。ですけど…」


 インベルもやはり、どこか納得出来ない部分がある様だった。

 ルミナスのやっている事が間違いだとは思わない。だが、何か煮え切らない思いもある訳で。

 アルダールとインベルはぼんやりとしながら空を見上げた。






 慧留はミルフィーユとアポロにルミナスのいる所へと案内されていた。


「何でまたルミナスに会おうと思ったの?」

「話したい事があるからだよ」

「フローフルの事?」

「それもあるけどそれとはまた別の話だよ」

「フローフルの墓はここにあるわ」


 アポロは慧留に紙切れを渡された。

 蒼の墓は神聖ローマに安置されている。


「アポロは毎日、フローフルの墓に行ってるんだよ」

「それはミルフィーユ先生もでしょ!」

「……インベルもだよ」


 ミルフィーユもアポロも辛気臭い顔をしていた。

 フローフルを失った悲しみはインベルもアポロもミルフィーユも同じなのだ。


「エル…」


 門の前にいたのはローグヴェルトであった。


「ローグ…」

「アポロ、ミルフィーユ、後は俺がエルを連れていく。お前達は持ち場に戻れ」

「分かったよ」

「………分かりました」


 ミルフィーユとアポロはそう言って慧留とローグヴェルトから去って行った。


「久し振りだな、エル。まさかこうも速くやって来るとは思わなかった」

「私も…いつまでも立ち止まってる訳には行かないからね」

「…そうか」


 ローグヴェルトは門を開いた。

 すると、そこにはルミナスがいた。


「まさか、貴女から私に会いに来るなんてね…月影慧留…いや、エル・マクガヴェイン」

「ルミナス…」


 慧留とルミナスの空気は険悪そのものであった。

 無理もない。前までは命の取り合いをしていたからだ。


「何で…蒼を殺したの?」

「フローフルの犠牲は必要だった…私が本当の意味でこの世界の神になる為に」

「何だよ…それ…」

「何かを得る為には何かを棄てなければならないわ。私にとって、それがフローフルだった…私は…フローフルを手に入れる為に…世界を手に入れようとした…けど…それが間違いだった…私の唯一の失敗は…フローフルに心を奪われていた事よ。それを棄てて初めて私は神となった」

「そんなの…そんなのは違う!それが正しいなら…何で…何で君はそんな苦しそうなんだよ!」


 慧留はルミナスにそう言い放った。

 慧留から見れば、ルミナスの顔はとても悲痛に見えた。

 痛々しくて…悲しみに溢れている…そんな顔であった。


「この統一した世界を維持し続けるには…私は心を棄てなきゃならないのよ。そうしなければ…ならないのよ」

「そんな重荷を君一人で背負わないと行けないのか!?」

「それが…私が神を殺し、神に成り代わった私の使命なのよ」


 ルミナスは最初は蒼と一緒にいたい。

 ただそれだけが望みだった筈だ。

 なのに、いつの間にか世界を維持し続ける事にすげ変わっていた。

 ルミナスも同じだ…いや、慧留以上に…蒼を失った悲しみを受け入れられていない。


「私が…私がやらなければならないのよ。私にしか出来ない」

「だったら…何で私だけ生かした!?あの時、私を殺せば…君の望む世界は完成された!なのに…何で私を生かした!?」

「前にも言ったでしょ?これ以上…殺す必要が無いからよ。人を殺せば人に殺される。殺しても…憎しみが生まれるだけよ」

「いや違う!それだけじゃない!それだけは絶対に断言出来る!」


 何故だか分からないが慧留はルミナスの言っている事が全て嘘では無いのだろうが本当の事を言っているとは思えなかった。

 もし、ルミナスの言う事が全て本当ならあんな辛そうな顔は決してしない。


「貴女に私の何が分かるっていうのよ?貴女は…」

「分からないから聞いてるんだよ!」

「…フローフルやローグヴェルトが貴女に拘る理由が、少しだけ分かったわ。貴女はやっぱり…私にとって天敵だわ」

「どういう…」

「どうするつもり?貴女は…私をこのまま殺す?それとも…ここから逃げる?」

「そういう話をしてるんじゃないんだよ!私は君と話に来たんだよ!」

「ならその話はもう終わりよ。もう…帰りなさい」

「そうやっていつもいつも…蒼から逃げてたんでしょ?」

「!?」


 慧留がそう言った瞬間、ルミナスは表情を強張らせた。


「君は蒼から逃げてた。蒼の気持ちから逃げてた!蒼の事を考えもせず、自分の都合の良いようにしてきた!」

「黙れ…」

「誰かの気持ちを知ろうともしないで、その人を自分のモノにしようなんて、都合が良すぎるよ!こんなの…貴女は間違ってる!」

「うるさい!」


 ルミナスは慧留の頬をビンタした。


「陛下!落ち着いてください!」


 ローグヴェルトが二人の間に割って入った。


「ローグヴェルト…」

「ローグ…」

「エル…済まないが…今日はもう、帰ってくれ」

「うん…分かったよ」


 ローグヴェルトが慧留を部屋から連れ出した。

 そして、ルミナス一人になった。


ー私が…この私が…()()()


 ルミナスは生まれて初めて敗北感を味わっていた。

 パルテミシア十二神のリーダーであるアスディアでも、ルミナスと対等に戦った蒼でもルミナスに勝つ事が出来なかった。

 なのに…一人の少女の言葉により、ルミナスは激情に刈られた。

 いや、今までも何度か似たような事はあったが、ここまで感情を剥き出しにする事など無かった。

 ルミナスは一人の弱い少女の…たった一言の言葉により…打ち負かされたのだ。


「ふざけるな…こんな…こんな事が…あってはならない!私が負けるなど…そんな事…!」


 ルミナスはかつてない程怒りに燃えていた。

 そして、ルミナスは確信した。

 ルミナスにとって最大の障壁はアスディアでも蒼でも無かった。

 月影慧留だ。ルミナスにとって月影慧留こそが真の最大の障壁だったのだ。

 ならば、ルミナスのやる事は只一つ。

 ルミナスは慧留を殺すつもりは無いが慧留を完膚無きにまで心を折る必要があると思った。

 慧留の心は殆ど折れていたが完全には死んでない。

 ならば、ルミナスのやる事はその慧留の心を完全に打ち砕く事だ。

 そうする事でルミナスは本当の意味でこの世界を統一出来る。


「月影慧留…貴女は…私が倒す…そして、私が貴女の全てを否定して上げるわ!」





「ローグ…」

「エル…あれから…どうだ?」

「前と同じ…とは行かないね。皆…ルミナスに支配された…」


 慧留とローグヴェルトは城の外で会話をしていた。


「ローグはさ…やっぱり…ルミナスの味方であり続けるの?」


 慧留はローグヴェルトに問い質した。

 慧留以外でルミナスに洗脳されていないのはローグヴェルトだけなのだ。


「勿論だ。俺は…ルミナス様に生かされた。陛下には感謝しているさ…お前とも…こうして話す事が出来ている訳だしな」


 ローグヴェルトは満足げにそう言った。

 どうやら、ローグヴェルトは慧留と全力で戦ってからはどこか吹っ切れた様であった。


「そっか…」

「だからこそ、今の陛下を放っておく事は俺には出来ない」

「え?」

「俺は陛下の味方だ。だからこそ、陛下の重荷を永遠に背負わせる訳には行かない。今の陛下は…孤独そのものだ」

「!」


 慧留は気が付いた。

 そうだ、今のルミナスも慧留と同じなのだ。

 いや、今の慧留にはローグヴェルトがいる。

 しかし、ルミナスは孤独だ。

 ならば、ルミナスが慧留をあの時、殺さなかったのはー


「エル?」

「もしかしたらさ…ルミナスは…」


 慧留はルミナスの本当の狙いを口にした。


「本当に…そうなのか?」

「うん…多分そう」

「そうか…」

「けど…私は…ルミナスの思い通りにはならない!」

「俺もそうだ。そんなエンディングは…俺も御免だ」

「うん、やっぱり…結末はハッピーエンドじゃないとね」


 慧留とローグヴェルトは和解した。

 今までは色々あってすれ違ったけれど…こうして道は交わり、一つとなったのだ。


「ローグ…」

「悪いが…俺はお前に直接力を貸す事は出来ない。だが…待たずとも俺達の道は必ず交わるだろう。その時は」

「うん、ありがとう。ローグ」


 そう言って慧留はローグヴェルトから去って言った。

 そう、慧留には新たにやる事が出来た。

 慧留がやろうとしている事は…恐らく間違っているのだろう。

 それでも慧留は…その間違いを止める事は出来なかった。

 何が正しいか、何が間違っているのか…自分の道は自分で決めるモノだ。

 慧留はこの世界に抗う事を決意した。

 いや、抗うのではない。慧留はいつだってそうだった。

 慧留は誰かを倒したり、勝って終わらせる様な事は得意ではない。

 それは蒼の方が得意であり、慧留はまた違う。

 慧留には慧留にしか出来ない事がある。

 慧留は決して、ルミナスを倒すだとか殺すなんて事は考えていない。

 慧留はいつだってやる事は同じだった。

 そう、慧留のやる事はいつも一つ。


「私が…ルミナスを助ける!」





To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ