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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【最終章】天界叛逆篇
177/196

【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅩⅠーmichaelー

「ここが…ルミナスの城か…」


 蒼は一人でルミナスのいる城へとやって来た。

 蒼はルミナスの言う通りに光の柱をくぐった。

 すると、上空に浮遊している城へとワープされていた。

 この城はどことなくかつての『世界宮殿(パルテノス)』の十三階層に似ていた。

 ここからでも蒼はルミナスの霊圧を感じ取っていた。

 前までのルミナスですら蒼は相手にならなかったのに、あの時よりもルミナスの霊圧が強大になっているのが分かった。

 蒼一人では勝ちの目は薄そうであった。

 だが、蒼は進むしか無い、モタモタはしていられないのだ。

 蒼は仲間達を信じている。必ず、皆もこの場所へとやって来るとそう信じている。

 蒼は歩き出した。

 前へ前へ進む度にルミナスの異質な霊圧が感じ取れた。

 ルミナスは蒼の想像もつかないような強さを手に入れているのだろう。

 アスディアを倒したのがその証拠だろう。

 蒼は結局最後までアスディアを倒す事が出来なかった。

 蒼が倒せなかったアスディアを倒したルミナスを、蒼は倒さなくてはならない。

 もし、ルミナスが勝利すればこの世界はルミナスによって支配されてしまう。

 そうなればこの世の終わりを意味する。

 ルミナスのやろうとしている事はある意味、正しいのかもしれない。

 世界を一つにする為には人々の心を縛るしか無いのかもしれない。

 だが、蒼はどうしてもそれを認める事が出来なかった。

 蒼だけでは無い、蒼の仲間達も皆、同じ気持ちだ。

 人々の心を縛って自分一人だけが世界を支配するなど…そんなモノは偽りの平和だ。

 そんな偽りの平和を、蒼達は許容する訳には行かなかった。

 だが、力無き者が吠えたところで何の意味も無い。

 誰かを否定するには力が必要だ。

 例えこちらが正しかったとしても相手は感情でそれを否定し続ける。

 そして、力で全て捩じ伏せられてしまうのだ。

 何かを変えるには…何かを成し得る為には力が必要なのだ。

 蒼は今ある己の力をルミナスに全てぶつけ、ルミナスを倒し、この世界を守る。

 蒼はルミナスの元へと向かっていた。






「【無法日向(ミカエル)】」


 フランの後ろに光の刃が六枚展開され、屍、薊、くるに襲い掛かる。

 薊とくると屍はフランの攻撃を回避していた。


「そらよ!」


 屍は地面に触れてそこから槍を錬成し、フランにぶん投げた。

 屍の両手には紺色の手袋がしてあった。

 この手袋はただの手袋ではなく『錬金手袋(れんきんてぶくろ)』であり、物質に触れるだけで錬金が出来る。

 しかし、フランは屍の攻撃を回避した。


「【伊弉冉舞姫(イザナミノマイヒメ)】!」


 薊は傘から無数の針を放った。

 彼女の武器は神器と呼ばれる神の力が内包された武器であり、彼女の神器である【伊弉冉舞姫(イザナミノマイヒメ)】は毒の神器であり、厳密には相手の致死量を操作出来る。

 毒針に当たれば勿論相手は致死量を操作され、動けなくなり、最終的には死に至る。

 しかし、フランは光の刃を盾にして薊の毒針を防いだ。


「下らん小細工を…」


 フランは後ろから誰かが来る気配を感じていた。


「【月読尊(ツクヨミノミコト)】!」


 くるは自身の頭上にある月輪(がちりん)が光輝いた。

 彼女の扱う武器も神器であり、光を見た者を幻術に嵌める事が出来る。


「くっ!?」


 フランはくるの月輪の光をまともに見てしまった。

 フランはいつの間にか赤い水が流れている川にいた。

 これはくるの幻術だ。

 赤い水がフランに襲い掛かり、水に触れた場所が骨に変わっていた。


ーくっ!?この私が…この程度の幻術に…負けはせん!


 フランは気合いだけで幻術を打ち破った。

 しかし、時既に遅しであった。

 フランの身体中には既に【伊弉冉舞姫(イザナミノマイヒメ)】の毒針が刺さっていた。

 フランはそのまま倒れた。

 フランの血液の致死量が薊の能力によって下げられ、フランの血液そのものが毒に変わったのだ。


「うっ…」


「これで終わりだな…」


 意外に呆気なかったなと屍達は思った。

 相手は天使親衛隊(フィーア・エンデ)であり、セラフィム騎士団屈指の実力者の筈なのだが薊の能力により呆気なく倒れた。

 後はフランが死ぬのを待つだけだ。


「ふ…何を勝った気でいる?私はまだ本気を出してないぞ」

「その状況で何が出来るって言うのかしら?」

「出来るわよ。【第二解放(エンゲルアルビオン)】」


 フランの【第二解放(エンゲルアルビオン)】が発動した。


「なっ、何!?」


 くるが驚愕していた。

 やがて、フランの姿が現れた。

 フランの背中に巨大な金色の翼が生えていた。

 武器は消失しており、それ以外に変化は無かった。

 しかしー


「私の毒を受けたのに…何で…普通に立ってるのよ?」

「【無限変化神使(ミカエル)】。これが私の【第二解放(エンゲルアルビオン)】だ。私の【第二解放(エンゲルアルビオン)】の能力は…あらゆる物質を…()()()()()()()だ」

「「「なっ!?」」」


 つまり、フランは【無限変化神使(ミカエル)】の能力で自身の身体を作り替えて薊の【伊弉冉舞姫(イザナミノマイヒメ)】の毒を無効化したという事だ。


「私はどんなモノでも作り替える事が出来る。物質を分解、再構築する錬金術と近い能力だ。それだけではない。私の【無限変化神使(ミカエル)】は物質を作り替えるのに限度が無い。つまり…」


 フランはそう言って腕を六本に増やした。

 両側に三本づつ腕が生えていた。


「肉体改造も自在に出来る。貴様の錬金術では出来ない芸当だろう?」

「作り替えるって言うより…改造に近いな」


 一応、屍も人体を崩壊させる能力があるし、自身の骨から武器を作ったりは出来る。

 しかし、フランの様に人体を自在に変化させる事は出来ない。

 生物を別の物質に錬成するのは高い技術が必要であり、中でも人体は特に複雑なのだ。

 なので屍は人体に対しては錬金術の原理である理解→崩壊→再構築ではなく、途中の崩壊で止めるまでしか出来ない。

 フランの能力は屍と似たような能力である所の騒ぎでは無い。これはー


「参ったな…こいつの能力…俺の完全上位互換じゃねぇかよ…」


 恐らく、屍の崩壊の力もフランには効かない。

 崩壊の力が発動させる前に肉体を再び再構築されて終わりだ。

 そもそも屍の崩壊の力は錬金術の一種である為、発動させるには対象の体構造を理解しなければならない。

 その為、途中で身体の体構造を変えられたら能力そのものを無効化されてしまう。

 フランのこの能力はほぼ無敵に近い能力である。

 確かにこれでは屍の錬金術の完全上位互換と言わざるを得ない。


「これが私の能力…【天使神の改造(エンゲル・ウムビルデン)】だ」


 フランはそう言って屍達に襲い掛かる。

 薊は傘から毒針を放ったがフランに当たってもフランはすぐに身体を作り替え、傷を修復していた。

 更に手から鎌を作り出し、一本一本に鎌を持たせていた。


「くっ!?」


 屍は地面に触れ、そこから壁を作り出した。

 しかし、フランは武器を鎌からハンマーに変化させ、屍の作り出した壁を一瞬で砕いた。

 だが、フランの前に屍達はいなかった。


「こっちだよ!」


 屍はフランの真上におり、自身の骨から槍を錬成し、槍を伸ばしてフランを貫いた。

 フランの右腕を三本持っていく事には成功したがすぐにフランの腕は修復され、フランのもう片方の三本の左腕が鎌に変化し、屍を切り裂いた。


「ぐっ!?」


 フランの後ろから薊が再び【伊弉冉舞姫(イザナミノマイヒメ)】を使い攻撃するがフランの後ろの地面から無数の剣が薊に襲い掛かる。

 薊はフランの攻撃を回避出来る筈もなく全身を剣で貫かれた。


「かはっ!?」

「私の【無限変化神使(ミカエル)】は触れた場所を時間差で作り替える事も出来る。貴様がいたその場所は私の足が触れていた。だから任意で作り替える事が可能だ」

「【月読尊(ツクヨミノミコト)】!」


 くるがフランに幻術を掛けようとした。

 しかしー


「同じ轍は踏まん」


 フランは眼を作り替え、くるの【月読尊(ツクヨミノミコト)】の光を通さなかった。

 更にフランは背中にエンジンを作り出し、くるの元へと光速で接近し、六本の腕と両足を剣に変えてくるを切り刻んだ。


「きゃああああ!!!」


 薊とくるは一瞬でフランに倒されてしまった。


「くる!薊!」


 屍はくると薊を救出し、両手が塞がっていた。

 フランの尋常じゃない身体能力も恐らく、自身の身体を改造して作り替えているからだ。


ーここは一旦引かねぇと勝ち目がねぇ!


 屍は一旦フランから離れる事にした。

 逃げ切るのは不可能だが少しの間だけでも時間を稼ぎたいのが現状であった。

 薊とくるは気絶しており、二人を安全な場所に置く必要があるからだ。


「足手まといがいると苦労するな」

「黙れ」


 屍は一旦薊を離し、地面に手を触れた。

 すると地面に巨大な壁が出現した。

 屍はすぐに薊とくるを抱え、フランの前から逃げた。


「逃げ腰か…下らない」


 屍は両手が塞がっていてはまともに錬金術は扱えない。

 足でも扱えない事は無いがやはり両手より精度が落ちる。

 だが、フランは身体に触れただけで物質を改造出来る。

 やはり、フランの能力は屍の上位互換だ。


「ここなら…」


 屍は薊とくるを安全な場所に置いて、フランの元へと向かった。


「ほらよ!」


 屍は周囲の建物を無数の爆弾に錬成し、フランに投げ付けた。


「!?」


 すると、無数の爆弾は一気に爆発し、その爆発がフランに襲い掛かる。


「無駄だ!」

「くそっ!?」


 フランは屍の身体を真っ二つに鎌で切り裂いた。

 しかし、目の前に屍の姿は無かった。


「なっ!?」


 フランが切り裂いたのはただの爆風であった。

 爆風が影の役割を果たし、それにより屍はフランの攻撃を避けたのだ。


「アンタはどうも、おつむの方はあまり良くねぇみてぇだな!」


 屍は瓦礫を巨大なブーメランに変えてフランに投げ付けた。

 フランは回避が間に合わず、屍のブーメランを直撃で受けた。

 屍の錬成したブーメランはかなりの破壊力があり、フランの身体を真っ二つに切り裂いた。

 しかし、引き裂かれたフランの上半身と下半身が引き寄せられる様に身体がくっついた。


「ちぃ!」


 やはり、普通に手傷を負わせるだけではフランを倒すのは不可能だ。

 フランの身体は無限に改造出来る。

 それはつまり、身体にどんなにダメージを与えても再生してしまう事を意味する。

 仮にフランの今の体構造を解析した所でまた改造されればそれが無意味になる。

 フランの能力はほぼ無敵と言ってもいいだろう。


「無駄だというのが分からんのか?」


 フランは無数の空気弾を飛ばした。

 空気弾は屍の身体を貫く。


「くっ!?」

「更に」


 フランがそう言うと屍の周囲がいきなり爆発した。


「ぐあああああああああああ!?」

「空気を空気弾と爆発に作り替えた。私は概念をも作り替える事が出来る」


 フランの能力は物質の改造、どの様に改造するかは本人の自由自在という訳だ。

 しかも屍と違って触れてなくても能力を発動させる事が出来る。


ーだが…どんなもんにも弱点は必ず存在する!それを…見極める!


 そう、この世界に完全無欠などという事は有り得ない。

 何か強力な能力がある時はそれ相応の危険性(リスク)があるし、何らかの制約も必ずある筈だ。

 フランの能力にも弱点…或いは能力発動に必要な条件が必ずある筈なのだ。

 だが、フランの能力は見た所、発動条件はかなり緩い様に思える。

 彼女の能力は非常に使い勝手が良いのは事実だろう。


「何を考えているかは知らんが貴様の様な奴は速めに始末しておいた方がいい」

「へぇ?随分…慌ててるじゃ…はぁ…ねぇかよ」

「追い詰められた相手程怖いモノは無いからな。思わぬ反撃に会う前に貴様を殺す」


 フランは仮にも何百年も戦い続けている天使だ。

 精神的な油断も隙も殆ど無いと言ってもいいだろう。

 精神的な揺さぶりを今した所で追い詰められているのが屍である以上、殆ど意味を成さないだろう。

 だが必ずどこかに隙がある筈だ。

 まずはフランの能力…エンゲリアスの能力を屍は頭の中で整理を始めた。

 しかし、フランがそんな悠長に時間を与えてくれる筈も無く、屍に襲い掛かる。

 屍は虚空に手を置き、霧を錬成した。

 一応、屍も空気を別の物質に錬成する事が可能になっていた。

 だが、フランの様に攻撃的な能力は扱えない。

 精々目眩まし程度にしか使えない。

 フランは剣圧で屍の作り出した霧を払った。

 だが、既に屍の姿は無かった。


「不利と分かればすぐに逃げる…慎重な奴だな」


 フランは辺りを見回したが屍の姿は無かった。

 しかし、そう遠くには逃げていない筈だ。


「逃がさん…」


 フランは屍を探し始めた。


「ふぅ…どうにか撒けたが…見つかるのも時間の問題だな…これは…」


 屍はフランから数十メートル離れた場所にいた。

 建物の中に隠れていたのだ。

 周囲の建物はすべて白で構成されていたが、中も全て真っ白であった。


「どうにかして奴の弱点を暴かねぇとな…」


 屍はフランの能力を思い出していた。

 フランの第一解放(アインスエンゲル)の能力は物質の増加。

 そして、第二解放(エンゲルアルビオン)の能力はあらゆる物質の改造であり、改造出来る範囲は自身の見える所であればほぼ無限であり、概念すら改造する事が出来る。

 フランの第二解放(エンゲルアルビオン)は背中に金色の翼が追加されただけで殆ど変化が無かった。


ー待てよ?そもそも身体を無闇やたらに改造したら身体が保たないんじゃ…


 そう、人間に限らず生物の身体は欠損したり無理矢理変化させれば必ず身体に負担が掛かり、最悪死ぬ。

 フランだけが特別な筈が無い。必ず、フランの身体にも改造の影響が及ばない場所がある筈なのだ。


「見つけたぞ」

「!?」


 屍の目の前にフランがいた。


「バカな!?一分も経ってないぞ!?どうやって…」

「ここら一帯を改造して貴様のいる場所を特定してそこまで距離を詰めた」

「!?」


 屍は驚愕したが驚いてばかりはいられない。


「これで貴様は終わりだ!」


 フランは屍の身体を切り裂いた。

 しかし、屍の身体が瓦礫となってバラバラになった。

 どうやら変わり身であった様だ。


「そう慌てんなよ」


 瓦礫の後ろに屍がいた。

 屍は両手に骨で出来た青竜刀を持っていた。


「何をするつもりだ?」

「まぁ、見てなって」


 屍はそう言って座り込み、二振りの青竜刀を地面に突き刺した。


「ふざけるなその前に貴様を殺す!」


 フランが屍に突っ込む。


「【伊邪那岐千年桜桃源郷(イザナギせんねんざくらとうげんきょう)】」


 屍とフランの周辺が完全に桜と野原に変化していた。

 屍はここら一帯を桃源郷の姿に練金させたのだ。

 桜が咲き乱れているだけでなく、川もあり、緑も豊かでまるで天国の様であった。


「どうだ?綺麗なもんだろ?」

「天界主である私に天国を見せるだと?ふざけるな!」


 フランはそう言ってここら一帯を再び元の形へと戻そうとした。しかしー


「何!?」


 桜の樹木がフランの身体を貫いた。


「ここは俺の世界だ…そう簡単には変えさせねぇぜ…アンタのその能力は霊力を込めて物体に触れなければ発動しないならば…触れさせなければいいのさ」


 屍がそう言うと川の水が一斉にフランに襲い掛かる。

 更にフランの周囲に霧が発生し、姿が見えなくなった。

 屍はあらゆる物質を別の形に練金する事が出来る。

 屍は錬金術の力を極限にまで極め、とうとう自然環境まで変化させるまでに至った。

 環境を操る事が出来ると言っても過言では無い。


「桃源郷っつっても俺が想像した桃源郷に過ぎねぇ…本当にこんな感じなのかは分かれねぇが…」


 更に地面から火柱が出現し、フランに直撃した。

 それにより、フランの左手足が吹き飛んだ。

 フランは霧によって攻撃の場所が全く分からなかった。


「くっ!?だが…身体が粉々にならなければいくらでも作り直せる!」


 フランはそう言って吹き飛んだ左手足を修復し、更に腹を貫いていた樹木を引きちぎり、逆に自身の手で改造して樹木の龍を造りだし、屍に襲い掛かる。


「【時崩(トキクズシ)】」


 屍はフランの作り出した樹木の龍の時を止めた。

 屍の【時崩(トキクズシ)】はあらゆる物質のみの時間を止める事が出来る。

 そして…それはつまり…


「……なっ!?動かない!?」


 フランの動きが完全に止まっていた。

 フランの能力は自分を含めたあらゆる物質の改造であり、フランの今の身体は生物のそれでは無かった。

 だが、フランの身体が完全に生物では無くなっていない為、完全に意識までは停止していなかった。

 屍の時間停止は物質にしか作用せず、生物には全く効かない。

 だが、フランの身体は殆どが生物のモノでは無い以上、屍の時間停止にまともに影響を受けてしまう。


「思った通りだ…アンタは身体を別の物質に変えてる…だから生物のモノでは無くなっている。だが、自身の身体を完全に物質に変えるのは死を意味する。だからお前の身体のどこかに必ず改造出来ない場所が存在する。だからアンタには俺の時を止める能力にある程度影響を受けてる。そんで…」


 屍はフランの作り出した木龍に触れ、巨大な大刀に変化させた。

 屍は止まった物質も自在に練金する事も可能となっていた。


「くっ!?」


 フランは突然身体を動かせる様になった。


「生物の身体に改造したか」


 屍はすぐにフランのやった事を見抜いた。


「だが…もう遅いな」


 屍はそう言って大刀をフランに振り上げた。

 屍はフランの左翼ごと、フランの左手足を切り裂いた。


「!?」

「アンタが一切変化させてない場所…そこがお前の弱点…そう、その金色の翼がお前の改造の能力の核であり、そこを壊せばお前は無敵じゃ無くなる」


 フランの翼は高濃度の霊圧硬度を誇る。

 その理由は屍が言うようにそこがフランの力の核だからだ。

 そして、同時に急所でもあり、この場所はフランが自身の身体を改造する時にフランが生命維持をするのに必要な場所でもある。

 この翼を軽々と壊す屍の霊圧は驚異的と言える。

 また、単純にフランは屍と相性が致命的に悪かった。

 屍の能力が錬金術だけならフランは勝つことが出来ただろう。

 だが、屍の物質の時間停止の能力により、フランの強みである自身の身体の改造が制限された。

 もし、屍以外が相手ならフランは敗けはしなかっただろう。


「まだだ!私は…セラフィム騎士団だぞ!翼が片方ある!能力はまだ使える!」

「!?」


 フランは周囲の空気と桜の樹木を無数の剣に改造し、屍に向かって放った。

 屍は連続で大技を使い過ぎた為、霊力をかなり消耗し、動けなくなっていた。


「ぐぁ!?」


 屍は無数の剣に貫かれ、壁に激突した。


「これで…終わりだ!」

「くそ!?」


 フランは屍に近付き、残った右手の剣で屍の身体を真っ二つに切り裂こうとする。


「「!?」」


 しかし、どういう訳かフランの太刀筋の軌道がそれ、屍のいない場所に剣を振っていた。


「これは…まさか!?」


 そう、フランは幻術に嵌まっていた。

 フランは今、骸骨の幻覚を見ていた。


「舐めるな!」


 フランは先程と同じように幻術を気合いと霊圧で吹き飛ばした。

 だが、時既に遅しであった。


「がはっ!?」


 フランの心臓に巨大な刀が刺さっていた。

 これは薊の作った毒の刀であった。

 更にフランの右翼も薊の刀によって切り裂かれていた。


「薊…くる…」


 そう、フランを幻術に嵌めたのはフラン、最後の止めの一撃を食らわせたのは薊であった。


「くっ…そ………」


 フランは壁に頭をぶつけ、そのまま倒れた。


「何で…」

「私達が足手まといになる訳にもいかないしね」

「何とか…勝てたね…」


 薊もくるもボロボロであった。


「こいつは…」


 屍はフランが生きているかどうか脈を測った。


「辛うじて生きてるな」

「けど…私の毒で時期に死ぬわ」

「フラン、こいつを解毒してくれ」

「!? 屍ちゃん!?」

「俺はこいつを倒すのが目的で殺す事じゃねぇ」

「そうは言っても、心臓の傷も深いわよ?」

「俺が重症の傷だけ塞ぐ」

「はぁ…変わったわね…あなた」

「それはお互い様だ」

「二人がそう言うなら私は止めないけど…なんか変な感じ…」


 薊と屍はフランの治療を始めた。








 フランはずっとローマカイザーに遣えていた。

 フランは生まれた時からローマカイザーに育てられ、そしてローマカイザーを守る為に生きる事を運命付けられていた。

 だから、フランはその使命感を生き甲斐とし、ずっと何百年もローマカイザーに遣え続けていた。

 やがて、フランはセラフィム騎士団の団長にまで登り詰めていた。

 しかし、フランにとって自身の地位などどうでも良かった。

 今まで通り、ローマカイザーに遣え続けていればそれで良かった。

 フランにとって本当に恐ろしいのはローマカイザーに完全に見放される事だ。

 フランにとってローマカイザーに遣える事こそが生き甲斐であり、それを失うとフランは空っぽになってしまう。

 だからフランは新しく入ってきた新参者であるローグヴェルトが新たな団長となり、フランが副団長に降格になった時は大して気にしてはいなかった。

 何故、フランがここまでローマカイザーに遣える事に拘るのか…それはフラン自身にも分からなかった。

 子供にとっては親は絶対的存在であり、それを失うと全てを失ってしまう…フランも恐らくそんな感じなのだろう。

 フランにとってローマカイザーは自身の育ての親であり、絶対的な存在…だからこそ、フランはローマカイザーを守る事に固執していた。

 だが、それがフランの意思なのだろうか?それはローマカイザーに動かされているだけでフラン自身は人形も同然なのでは無いだろうか。

 確かにルミナスは神聖ローマを統一し、更にはこの世界全てを一つにしようとしている。

 だが、ルミナスの行っている事をフランは正しいとは思えなかった。

 弱き者を潰し、そして、武力で全てを捩じ伏せ、手に入れた平和を本当の平和と呼べるのだろうか?

 フランはそう考える様になっていった。

 仲間の…友の言葉を無視してまで掴み取る勝利に何の意味があるのだろうか?

 フランは五年前のローマ聖戦で仲間であったフローフル、インベル、アポロの裏切りに衝撃を受けた。

 彼等はエリシアを助けようとしただけだ。フランとてそんな事は分かっていた。

 ローマ聖戦はフローフル達がエリシアを助ける為に起こした戦争だ。

 フランもかつての友が殺されるのは心を痛めた。

 だが、フローフル達の様に助けようとは絶対にしなかった。

 やがて戦争は終結し、フローフル達の死んだ様な顔を見て…フランが痛くなったのだ。

 それだけではない、フランは痛かったのだ。友だった筈のエリシアが処刑される事にも…

 フランは分からなくなっていた。

 かつてはローマカイザーが絶対に正しいと疑わなかった。

 だが、ローマ聖戦を期に、フランは本当にローマカイザーが正しいのか…分からなくなっていたのだ。

 屍達と戦っている時も心の片隅に、フランはその事を考えていた。

 フランはフローフル達がルミナスを止めようとしている事を否定しきれていなかったのだ。

 そして…フランは隙を見せた。それが敗因に繋がった。

 フランはこの矛盾した感情がなんなのか…未だに分からない。

 もしかしたらこれが…心というモノなのかもしれない。

 フランの意思は…ローマ聖戦の時からブレていたのだ。

 こんな気持ちで戦いに挑めば負けるのは至極当然と言えるだろう。

 フランはもう、ここで死ぬのだろう。

 しかし、フランにはもう、何もない。最後に相応しい死に様だろう。







「………」


 フランは眼が覚めた。

 だが、身体が動かない。


「起きたみてぇだな」

「天草…屍!?」


 フランは自身の身体を見た。

 よく見れば治療されていた。


「何のつもりだ!?」


 フランは近くにいた屍にそう問い質した。


「俺達はアンタを倒す事が目的で殺す事が目的じゃねぇ」

「ふざけるな!私に生き恥を晒すつもりか!?私は貴様等に負けたのだ!ならば…私は死なねばならないのだ!」

「ふーん、で?お前はそうやってまた逃げるのか?」

「!?」

「負ければ死ぬ…まぁ戦争だしそれが道理だろうな。けど、お前はこうして助かった。普通なら幸運だったと喜ぶべきだ」

「ふざけるな…負けは死んだと同じだ」

「俺も昔はそう思ってたよ。けど違った。敗北ってのはな…勝利の為の糧だ」


 薊とくるは黙っていた。

 そう、屍もかつてはフランと同じ事を考えていた。

 かつて、屍はアザミの花というテロ組織のリーダーであった。

 敗北は許されず、世界を変えるには勝利し続ける事が正しく、負ければ死ぬしか無いと思っていた。


「勝者が全部正しいなら…誰も生き方を間違ったりしねぇだろ…」


 そう、この世界はそんな単純なモノではない。

 勝ち続ければそれだけ周りに狙われる。

 簡単な話、勝ち続けても負け続けてもペナルティーがある。


「アンタと戦って何となく、アンタが心のどこかで迷ってるのが分かった。何に迷ってるのかは知らねぇがな」

「…気味の悪い奴だ」

「それは確かにそうね、戦っただけで相手の心を読むのは普通に気持ち悪いわね」

「薊!?お前はどっちの味方なんだよ!」

「けど…死ぬ事が逃げだって事は…私もそう思うわね」

「そーそ、今は生き延びた事を喜びなよ。どうせ、後悔も悲しみも後でくるんだからさ」


 薊とくるの言う通りだ。

 どうせ何もしなくても後悔するし悲しみもやって来る。

 ならば、出来る限り悔いの無い選択をし、やってから後悔する方がいいのかもしれない。


「全く…貴様等は本当に…気味の悪い奴等だ」

「え?それって屍ちゃんだけじゃくてくるも?」

「それはちょっと癪ね」

「お前らマジでどっちの味方なんだよ!?」


 屍は叫び混じりにそう言った。

 不思議な奴等だとフランは思った。

 少しだけ…折り合いを付けられたのかもしれないと…フランはそう…思った。


「じゃあ…俺は先に行くぜ」

「私達も…くっ!?」

「うぅ…」


 薊とくるも屍に続けこうとしたが立ち上がる事が出来なかった。


「薊とくるはここに残ってろ。俺一人で行く」

「…分かった。気を付けてね」

「必ず、生きて戻りなさい、屍」

「ああ」


 屍はそう言って走っていった。


「全く…貴様等は甘いな…私の傷を治してそのまま先に進むとはな…」

「それでも…動けないのは一緒よ」

「私は貴様等に負けた…今更手を出すという事もしない…全く…敵に負けた挙げ句…命まで助けられるとは…これ程屈辱な事はそうは無い…」


 フランは吐き捨てる様にそう言った。







「はぁ…はぁ…」


 屍はフランとの戦いでそれなりにダメージを受けていた。

 このまま進むのは無謀だとは分かっている。

 しかし、このまま立ち止まる訳には行かなかった。


「おめでとう…よくここまで来れたわね」

「ルミナス!?」


 屍はルミナスが自身の目の前に現れ、身構えた。


「今の私は立体映像(ホログラム)よ。攻撃しても無駄」

「なら何の様だ?」

「道案内に来ただけよ。私の後ろにある光の柱…あそこを通れば私のいるあの空中の城へ行く事が出来る」

「わざわざそれを教えるなんてどういうつもりだ?」

「貴方達は徹底的に叩き潰さなければならない事は今回で理解したわ…だから…私の手で纏めて貴方達を叩き潰して上げる…そう思っただけよ」

「そういう事かよ…」

「貴方以外にもフローフル、プロテア、霧宮美浪が向かっているわ。速く来なさい」


 ルミナスの立体映像(ホログラム)はそのまま消えていった。

 どうやらその三人以外はやられてしまった様だ。

 だが、屍は霊圧を探ってみた所、誰一人死者が出ていない事は何となく分かった。

 本当なら救助に向かいたい所だがここからでは遠すぎるしそんな余裕は無い。

 ならば、屍の取る行動は一つだ。


「待っていろ…ルミナス…俺が…いや、俺達がお前を倒す!」


 屍はそう言って光の柱を潜った。

 すると、屍は光に包まれ、上空の城へとワープしていった。







To be continued

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