【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅥーArcadia messiah aliceー
慧留は倒れている人達の処置に回りつつ、改造天使を倒していた。
慧留は一旦蒼と離れて倒れている人達を助ける事にしたのだ。
「【拒絶王女】!」
慧留は改造天使達を改造される前の時間へと巻き戻していた。
そして、改造天使の大半は無理矢理生き返らせられた死人である為、巻き戻しが完了した瞬間、昇天していた。
慧留は修行により、巻き戻せる時間の範囲が広がっていた。
「蒼は先に向かったけど…」
慧留はそう言って蒼の向かった方向を見ていた。
四神天城辺りに強大な霊圧が感じられた。
恐らく、あそこには何かが起こっているのだろう。
「慧留ちゃん!」
慧留の前にやって来たのは一夜であった。
どうやら、一夜はアルダールを倒せた様だ。
「一夜さん、無事だったんですね!」
「蒼は?」
「先に四神天城に向かってます」
「そうか、なら僕達も行こう!」
「はい!」
慧留と一夜は四神天城へと向かった。
「所で一夜さん『世界宮殿』への行き方は分かったんですか?」
「ああ、だがその為にも四神天城に行く必要がある。今すぐにでも行かなければならない。でないと手遅れになる」
「どういう事ですか?」
「細かい話は蒼達と合流してからするよ」
一夜と慧留はそのまま四神天城へ走っていった。
ここは四神天城。
黒宮はヴイングスゴルデクスとの戦いで戦死し、ルバートも戦闘不能になっていた。
辺りの兵士達も全滅していた。
つまり、今ここで戦う事が出来るのは蒼だけという事になる。
ここでは現在、蒼とルミナスの造った魔道兵器、ヴェングスゴルデクスと戦闘をしていた。
「【第二解放】」
蒼は【第二解放】を発動した。
しかし、ただの【第二解放】では無い。
蒼は既に【χ第二解放】を発動させていた。
その上に更に【第二解放】を発動したのだ。
蒼の姿が露になった。
蒼は全身に黒い軍服を纏っており、霊力で出来た黒い一対の翼と氷で出来た羽衣を纏っていた。
更に右手には蒼色の刀、左手には黒い刀が握られていた。
「【氷天黒救世楽園】」
ヴェングスゴルデクスが巨大化した。
蒼の並々ならぬ霊圧を感知し、焦ったのだ。
「まだデカくなるのか?」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスは蒼に突進した。
しかし、蒼は氷の盾を作ってヴェングスゴルデクスの突進を止めた。
「【氷神の虚盾】」
氷は頑強であり、ヴェングスゴルデクスの侵入を一切許さなかった。
蒼は右手に霊圧を集中させた。
すると、蒼の右手の刀から風と氷が出現した。
「【風魔氷刀】!」
風を纏った氷の刃がヴェングスゴルデクスの身体を切り裂いた。
風を纏った氷の斬撃により大ダメージを受けていた。
「まだだ!【雷鳴氷刀】!」
今度は雷を纏った氷でヴェングスゴルデクスを切り裂いた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスは光の針を発射した。
この光の針は当たっただけで一撃で相手を殺す死の針であり、あの不死であった黒宮さえも殺した。
「【時空神剣】」
蒼は左手の黒刀から黒い斬撃を放った。
その斬撃はヴェングスゴルデクスの針を消し飛ばし、更にヴェングスゴルデクスの顔面を抉った。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスはそのまま倒れた。
蒼は氷属性以外に火、水、雷、土、風、闇の七つの属性を使う事が出来る。
蒼は今回の修行で光以外の六つの七元属性を全て扱う事が出来る様にになった。
蒼は氷属性と闇属性の力をベースに他の属性を付加して攻撃出来る。
ただし、属性を付加させる事が出来るのは右手の蒼い刀のみであり、左手の黒刀はあくまで闇属性の攻撃しか出来ない。
「【時空停滞】」
蒼は左手の黒刀で時間を止め、その間にヴェングスゴルデクスを切り裂いた。
ヴェングスゴルデクスの身体はバラバラに切り刻まれた。
しかし、ヴェングスゴルデクスは再び再生し、立ち上がってきた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスは全身から光の針を飛ばした。
「やっぱ、身体を木っ端微塵にしねぇとダメか!」
蒼は【時空停滞】で時を止め、光の針を避けた。
更に蒼は二振りの刀を重ねた。
すると、二つの刀は融合し、蒼黒い霊圧を放っていた。
更に蒼の背中の黒い霊圧の翼も勢いが増していた。
「【超越神滅刀】!」
蒼はヴェングスゴルデクスに斬撃をぶつけた。
そして、時は動き出す。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスの身体は凍り付き、そのままバラバラに崩れ落ち、消えていった。
蒼は【第二解放】を解除し、違和感を感じたので自身の左腕を見た。
「!?」
蒼はアスディアに言われた事を思い出していた。
『フローフル、君のその力は君にとっては大きすぎる』
『どういう事だ?』
『君のその力…なるべく使わない方がいい。使えば使う程、君の寿命を縮める事になる』
『………』
『君の左手…既に灰化が進んでいる事は分かっている。後何回かその力を使えば…君は死ぬ』
蒼はなるべくこの力を使わないようにしようと決めていたが早速使ってしまった。
しかしそれも当然だ。相手は黒宮を殺す程の敵だったのだ。
恐らく、蒼が本気を出さなければ倒せなかっただろう。
蒼は無傷でヴェングスゴルデクスを倒せたとはいえ、蒼のあの力…【氷天黒救世楽園】は蒼の身体に甚大な負担が掛かる。
アスディアの修行の時に一回、今回で一回使っている。
たった二度の使用で蒼の左手が灰化が始まっていた。
それにアスディアの話によると慧留の力でも恐らく治すのは不可能であるとの事だ。
「頼む…最後まで保ってくれ…」
「蒼!」
「!?」
蒼は後ろから聞いた声に驚き、左手を隠した。
やって来たのは慧留と一夜であった。
「慧留、一夜」
「蒼、ここの戦いが終わり次第、すぐに『世界宮殿』へ向かうよ」
「向かうってどうやって?」
「奴等はこの十二支連合帝国から『世界宮殿』へ向かった。だからこそ、ここから道を繋ぐ事が出来る!」
「だから、どういう事だよ?」
「慧留ちゃんの力があれば、扉を再び復元させられるって事!」
「そういう事ですか」
慧留の時間の巻き戻しの力で扉が出来る時間まで巻き戻す事が出来れば、『世界宮殿』に入る事が出来る。
「けど、まずはここにいる敵を何とかしねぇと…」
「その必要はもう、無さそうだよ?」
一夜がそう言うと屍と美浪、プロテアがやって来た。
「屍、美浪、プロテア!」
「それだけじゃない」
屍がそう言うと薊とくるもいた。
「薊、くる!」
「久し振りね、蒼」
「蒼ちゃん久し振り!」
薊とくるが蒼に挨拶していた。
「やっと終わったみたいですよ」
美浪がそう言うとドラコニキル、スープレイガ、アルビレーヌ、ウルオッサがやって来た。
「ふー、ようやく折り返し地点という所か」
「ハッ!さっきやられた借りはゼッテー返す!」
「ええ!」
「てかボロボロに倒れてたスープレイガ回収したの僕なんだからちょっとは感謝してよね?」
どうやら、USWの皆も無事の様だった。
「プロテア、ワッフルに勝ったんだな」
「ええ。何とかね」
「よし、これで大体全員揃ったね」
一夜はそう言った。
「慧留ちゃん、頼む!」
「分かりました!【時黒王子】!」
慧留は【悪魔解放】を発動した。
黒い喪服に黒いヴェール、更に骨と漆黒の羽根で出来た翼で構成されていた。
更に瞳は黒紫色に変化していた。
左手には黒紫色の錫杖が握られていた。
「【冥界創造】!」
慧留は空に向かってそう叫んだ。
すると、空に光の扉が開いた。
あれこそがルミナス達が『世界宮殿』へ行くために通って行った光の門だ。
ルミナス達はヴイングスゴルデクスを使ってあの門へと移動したが蒼達はそれが無くとも移動する事が可能だ。
「よし!あれが『世界宮殿』への扉だ!」
慧留は【悪魔解放】を解除した。
慧留は元の姿に戻っていた。
「アオチー!」
「澪さん!」
澪はルバートを担ぎながらやって来た。
どうやらルバートは無事の様であった。
「ここはあたし達に任せて!」
澪がそう言った。
「ああ!」
蒼がそう、頷いた。
「よし!じゃあ、『世界宮殿』に行ったメンバーについて説明するよ!『世界宮殿』にいる敵はルミナス含めて六人。ミルフィーユ、ジェジェ、エクレア、フラン、ローグヴェルトだ」
「恐らく、一人一人がパルテミシア十二神と互角に戦える精鋭達だ。気を抜かない様にしないとね」
「俺達も行くぜ!」
最後に現れたのはインベルとアポロであった。
「アポロ、インベル…」
「これで行くメンツは揃ったわね」
「そうだね、本当なら大軍で行きたい所だけど…負傷者も多い。今はこのメンツで行くのがベストだろうね」
一夜はそう言った。
「じゃあ、さっさと行こうぜ!」
「これが…最後の戦いになるといいな」
蒼、慧留、屍、プロテア、美浪、ドラコニキル、スープレイガ、アルビレーヌ、ウルオッサ、インベル、アポロ、薊、くるの十三人で『世界宮殿』へと行く事になった。
「生憎、僕が行った所で足手まといにしかならないからね。皆、気を付けて行ってくれ!」
一夜がそう言うと皆頷いた。
「今度こそ…ルミナスと決着を着ける!」
「ええ」
「おうよ!」
蒼とアポロ、インベルがそう言った。
「ふー、さっさとこんな戦いを終わらせたいモノだ」
「ふん!俺はあいつらを叩き潰す!そんだけだ」
「あー、面倒臭い」
「さっさと終わらせましょう」
ドラコニキル、スープレイガ、ウルオッサ、アルビレーヌがそう言った。
「行こう!皆で世界を救いに!」
「言われるまでも亡いわ」
「はい!」
慧留、プロテア、美浪がそう言った。
「あいつらを…絶対倒す!」
「ええ、行きましょう」
「勿論だよ!」
屍、薊、くるがそう言った。
「あの扉も長くは保たない!速く行くよ!」
慧留がそう言うと扉から光が出現し、蒼達を包んだ。
その瞬間、蒼達は扉に吸い寄せられる様に飛んでいった。
恐らく、この戦いが最後の決戦になるだろう。
だが、必ず蒼達が勝つ。
今までだって似たような事はあった。
その度に蒼達は乗り越えてきた。
だから今度も必ず上手くいく。
ールミナス…お前はアスディア達と戦って…何を見ている?
蒼は心の中でそう思った。
恐らく、今頃ルミナスとアスディアは戦っているのだろう。
何となくだが蒼にもそれが分かる。
ルミナスはこの戦いの先に何を見ているのか、正直蒼には分からない。
だが、ルミナスの世界を認める訳にはいかない。
蒼はルミナスに幾度となく負け続けた。
そして、前の戦いでも蒼はルミナスに手も足も出なかった。
今度こそ絶対に勝つ。蒼はそう誓った。
蒼はもう、ルミナスから逃げないと誓ったのだ。
ーローグ…あなたは必ず…私が止める!
慧留はローグヴェルトを止める事が出来なかった。
ローグヴェルトはこの世界はルミナスによって正されるべきだと言った。
しかし、慧留はローグヴェルトが昔夢見ていた学校へ行って普通の生活をして、分かったのだ。
この世界は、誰かによって支配していい世界ではないのだと。
世界は何もせずとも回り続ける。人は…魔族は変わる事が出来るのだと、慧留は知ったのだ。
だから慧留の思いを、親友に伝えるのだ。
皆の考えは皆によってそれぞれだが、この世界を守るというのは皆同じ気持ちだ。
だからこそ、この結束の力があれば何者にも勝る力となる。
蒼と慧留達はそれぞれの思いを胸に『世界宮殿』へと向かった。
何を見ている?
その先に何がある?
生きるとは何だ?
憎しみとは?
何もかもが分からない。
千年間、この世界を見たが結局の所、何も分からない。
差別に迫害、法、絆、過去、復讐、因縁、スレ違い、過ち、憎しみの連鎖、戦争、愛憎…あらゆるモノを見通してきた。
だが、結局の所何も変わらない。
ただただ過ぎ去っていくだけだ。
希望も夢も無い、だからといって間違っている訳でもない。ただただ、そこに在るだけだ。
この世界は争いで…大きな犠牲の上で成り立っている。
差別や迫害があるから小さな争いが生まれた。
だからといって法を作った所で法は人を守ってはくれない。
絆という不確かなモノを持てばいずれは裏切られる。
過去に立ち戻っても何も変わらない。
復讐は悲しみを産み出す。
因縁は強く争いへと結びつける。
スレ違いは争いの火種となる。
過ちは無限の苦しみを産み出す。
これらが全て積もり積もって…憎しみの連鎖が始まる。
そうして戦争が、争いが始まり、多くの人や魔族が死んでいった。
殺し合い、蹴落とし合い、逃走する。
生きるという事は誰かを殺す事、喰らう事。
その先に何も見えないし何もない。
憎しみとは…誰もが持っている化け物だ。
千年前、『世界宮殿』は現世とは違う世界へと移動した。
人が造り出したその送致は人間の創造を遥かに越えていたのだ。
その『世界宮殿』により神々や魔族が創られ、そして多くの願いや思いを吸収して『世界宮殿』はやがて、概念そのものへと変化した。
この世界は人間が造り出したオモチャに支配されていたのだ。
人間すらもそのオモチャに支配されていた。
何をこの世界は本当に矛盾だらけだ。
何をするにしても必ず反動があって、何をするにしても必ず上手くいく訳では無い。
本当に思い通りにならない。
千年前の混沌戦争により世界は一時的に魔族の支配下へと置かれた。
しかし、それから五百年後、人間達が反逆をお越し、それから三百年後には再び人間同士の争いへと逆戻りしていた。
いや、それどころか魔族という核兵器より強力な兵器を手に入れた事により、軍事力は増し、更に凄惨な戦争になっていった。
歴史はいつだってそうだ。争いに勝った者が作り、描くモノなのだ。
恐らく、今回の神聖ローマとの戦いで一つの時代が終わる。
この世界が…戦って勝利すれば皆が皆ハッピーエンドになれればどれだけいい事か。
そんな簡単な事では無いのだ。
戦争は勝者にも敗者にも大きな痛みを残す。
勝者は得られたモノを数えて慰める事が出来るが敗者はそれすらも許されない。
痛みは平等だが、安らぎは平等ではない。
この世界は平等では無いのだ。だが、弱者は平等という言葉にすがり付く。
この世界は平等では無い。しかし、平等に見えていなくてはならない。
この世界はゲームで言えば確実にクソゲーだろう。
勝ちすぎても敗けすぎてもペナルティ。
勝者と敗者が蹴落とし合うのがこの世界の絶対的ルールだ。
神ですらこの世界を見通す事は出来ない。
いや、そもそも完璧など、絶対など、永遠など存在しないのだ。
それらの言葉はただの空想だ。
形あるモノはいずれ朽ちる。
ならば…
ーいずれは失うモノに一体何の意味がある?????????
『世界宮殿』は…いや、『世界宮殿』の主、クロノスは考えた。
クロノスが『世界宮殿』で『世界宮殿』がクロノスなのだ。
『世界宮殿』の意思とは時空神クロノスの事だ。
クロノスは概念であり、この世界を創った存在でもある。『世界宮殿』であるのだから。
しかし、クロノスが何を考えた所で何の意味も無い。
クロノスは動く事も何も出来ないのだ。
だが、それでも考えてしまう。
意思が思考が心がそうさせているのかもしれない。
考える事を止めてはならない…そういう事なのかもしれない。
人は唯一考える事が出来る生き物だ。
そして、それは魔族も同じである。
創造力はいつだってこの世界を切り開いてきた。
無から有を産み出す。それは神に等しい力ではないか。
いずれにせよ…世界の終わりは近い。
蒼は思い出していた。
今までの過去を。
蒼は過去にエシリアに拾われてから全てが始まった。
自分がローマカイザーとしての運命を知らない内に背負わされていた。
ルミナスやジェラート、インベルやアポロと出会い、ミルフィーユの元で修行して、エリシアに色々な事を教わった。
プロテアや一夜ともこの頃に会っていた。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。
ルミナスが歪んでしまい、争いが起こった。
蒼はここで過ちを犯した。
そう、エリシアからルミナスから運命から逃げてしまったのだ。
そうして蒼の時間は止まってしまった。
それから慧留と出会い、蒼の運命は大きく変わった。
慧留と出会って人や魔族は分かり合う事が出来る事を知った。
屍を初めとしたアザミの花は自分達の正義の為に戦っていた差別や迫害に抗う為に。
そして、蒼達は十二支連合帝国に疑問を持ち、十二支連合帝国そのものに戦いを挑んだ。
法は確かに人や魔族を守ってはくれない。
だが、そうではないのだ。法とは誰かを守る為にあるんじゃない。
自分自身を制御するために、戒める為にあるのだ。
だから、法が人を守るんじゃなく人が法を守らねばならない事を知った。
USWと戦い、慧留が拐われ助けに行った時、慧留は蒼達と戦う事になった。
蒼はこの時、お互いにぶつかり合わなければ伝わらない事があるという事を知った。
蒼は四大神とアザゼルとの戦いで因縁は…宿命から逃れる事が出来ない事を知った。
イシュガルドの戦いで復讐は悲しみしか産み出さない事を知った。
スレ違いが重なれば大きな争いになるという事を知った。
過去から逃げていても結局は同じだという事を知った。
復讐を復讐で返しても結局は復讐しか産み出さない。
それらが積もり積もって憎しみが連鎖し、争いが起こる。
愛があるからこそ、憎しみが生まれる。だが、その逆だってある筈だ。
愛と憎しみが表裏一体であるのならば憎しみから愛に変わる事だってきっとある。
蒼はそう信じたい。
憎しみは…どこへぶつけていいのか分からない。
だが、それでいいのだ。憎しみに抗うのではなく、憎しみに打ち勝つのでもなく、受け入れる。
耐え続けなければならない。
自分を抑え、戒める。そうする事で平和に繋がっていくと蒼は信じている。
だからこそ、蒼は耐えて抗う事を決意したのだ。
「俺は…ルミナスを必ず止める!」
ローグヴェルトとガルディアは第十二階層で戦っていた。
ローグヴェルトは既に【第二解放】を発動させていた。
ガルディアはローグヴェルトの引力と斥力の能力を前に苦戦を強いられており、実際、ガルディアの攻撃はローグヴェルトに一度も当たってはいない。
ガルディアの神具は一度でも攻撃が当たれば対象の生命エネルギーを喰らい、一撃で倒せるのだがローグヴェルトの能力で一発も攻撃を当てられずにいた。
このままではガルディアがやられてしまうのは明白であった。
「ガルディア、貴様に一つ問う」
「何だ?」
「貴様ほどの力がありながら、何故動かない!?何故…あんなモノに従っていられる!?」
「そうか…貴様は一度死んでいるのだったな」
ローグヴェルトはこの『世界宮殿』のシステムを知り、絶望した。
だからこそ、ルミナスと共にこの世界を変える事を誓ったのだ。
「いいから答えろ!」
「それがルールだからだ。この世界のルールである以上、それに従わなければならない。この世界の秩序を破れば世界は崩壊する。『世界宮殿』は楔なんだよ。楔が無くなれば…世界はあっという間に滅びる」
「無秩序を守るのが貴様らか?ふざけるな!勝手に作られたルールを守れだと!?こんな運命という名の川に流れるままに生きろだと!?ふざけるな!一人一人の存在の価値をこんなモノで決められるなど…!」
「貴様らが例え俺達を倒せても、支配者がクロノスからルミナスに変わるだけだ」
「陛下ならこの世界をいい方向へ導ける」
「いいや、ルミナスは神ではない。普通の人間だ」
「ルミナス陛下はハーフエンジェルだ」
「そういう意味で言ったんじゃない。この世に完璧など在りはしない」
そう、この世界が完璧ならそもそもこんな事態などにはなっていない。
この世界に完璧など存在しないのだ。
例えルミナスがここを支配出来てもいずれは必ず綻びが来る。
「ならば貴様らが全て正しいと?」
「いや、俺達もきっと間違ってるのだろうな。もしかしたら、お前達の方が正しいのかもしれない」
「何だと?」
「それでも…この世界を安定させるのが俺達の務めだ。俺は俺の正義の為に戦う。俺もお前もそこは同じだ」
「…そうだな…俺達は互いの譲れないモノの為に…誇りの為に戦う」
「この『世界宮殿』が全て正しいとは言わない、いや、きっと…間違いだらけなんだろう。この世界は…間違いだらけなんだろう。けどそれでも、地上では運命に抗い、懸命に生きている者達もいるのだ。貴様らのやっている事はその人々を踏みにじる行為だ」
「いつかは皆が理解する時が来る」
「そんな時は来ない!現に貴様らがそうだ。例え人々の心を縛れたとしても、必ず抗う者が現れる」
「ならば…どうすれば世界を一つに出来る?」
「一つになんて…永遠に出来んよ。この世界が在る限りな」
そう、この世界に生きる人達は一人一人違っていて…同じなど無いのだ。
同じに近付く事は出来ても、同じに成れる事は…無い。
世界を一つに近付ける事は出来ても、完全に一つには出来ない。
「ふん…戯れ言を…」
「理解は出来なくてもな…分かり合う事が出来なくてもいいんだよ」
「何だと?どういう意味だ」
「無理に他人を理解する必要は無い。完全に相手を理解する事なんか無理だ。だが…「寄り添う」事は出来るんだよ」
「下らん。そんなモノはただの慰めだ」
「そうだな…確かにそうかもしれない。けどそれでも…俺は無意味だとは思わない」
「冥界の主とは思えない言葉だな」
「そうかもしれんな…だが…それが俺の答えなんでな」
ガルディアも『世界宮殿』のシステムに納得していなかった時があった。
抗う事も考えた。
だが、この世界のシステムに抗うべきは自分では無い事に気が付いたのだ。
そして、どうにか折り合いを付けて自身の運命を受け入れる事に決めたのだ。
この世界に平等など有り得ない。例えルミナスがこの『世界宮殿』を支配した所でそれは変わらない。
だからこそ、ガルディアは止めなくてはならない。
この悲しみの連鎖を、憎しみの連鎖を。
「はぁ!」
ガルディアはローグヴェルトに槍で攻撃した。
しかしー
「【万物斥界】」
ローグヴェルトはガルディアを斥力の力で吹き飛ばした。
「ぐっ!?」
「無駄だ。お前の攻撃は確かに当たれば即死だが…当たらなければ意味がない。俺の能力の前ではお前は無力だ」
「どうやら…その様だな。だが…それでも最後まで抗わせて貰う」
ガルディアは全身に血を流していた。
それに対してローグヴェルトは殆ど無傷であった。
ローグヴェルトは引力と斥力を自在に操る。
相手の攻撃の方向を変換する事も可能であり、ほぼ無敵の状態である。
「行くぞ…」
ガルディアは霊圧でできた巨大な骸骨の鎧を纏った。
「巨大化した所で俺の力の前では無力だ」
「やってみなければ分からんぞ?」
「神とはもっと、聞き分けのいい者達だと思ったんだがな」
「生憎、少なくとも俺は頑固なモノでね」
「その様だな。ならば…ここで死ね…!」
ローグヴェルトは霊圧を上昇させた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ガルディアは巨大な霊圧の槍をローグヴェルトに向かって攻撃した。
「【万物斥界】!」
ローグヴェルトは斥力の力でガルディアを弾こうとした。
しかし、ガルディアは弾かれなかった。
ー何!?【万物斥界】に…耐えるだと!?
ローグヴェルトはガルディアに【万物斥界】を耐えられた反動で逆にローグヴェルトが吹き飛ばされてしまった。
「言っただろう。最後まで抗うってな」
「ふん…流石は最強の神の一角といった所か…やはり簡単には勝たせてはくれない様だな」
ローグヴェルトは空中浮遊をした。
「良いだろう。ならば…この俺の本当の力を見せてやろう」
ローグヴェルトはそう言った。
To be continued




