【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅤーtabooー
プロテアとワッフルは相変わらず戦い続けていた。
プロテアはワッフルに攻撃を加えるもワッフルの能力により、傷が回復されてしまった。
「それは…厄介な力ね」
「それだけじゃあ、無いよ」
ワッフルは樹の杖で後ろに生えている樹木から果実を取り出した。
そして、その果実は徐々に成長し、人の形に変化していた。
「なっ!?」
「僕はこうやって生命を産み出す事が出来る」
ワッフルはそう言って更に果実を五個程取り出し、それら全てが人形に変わった。
「【果実創造】。僕のこの力は神に匹敵する力…僕こそが神に相応しいのです!」
ワッフルの形をした人形が一斉にプロテアに襲い掛かってきた。
プロテアは鉄の剣でワッフルの作った人形を切り裂いた。
「ホラホラ、倒してもどんどん増えるよ」
ワッフルはそう言って兵士を無数に増やした。
どうやら増やせる上限が存在しない様であった。
プロテアは一人一人のワッフルの人形を確実に殺していった。
「【鉄神剣眼】!」
プロテアが目視した人形は無数の鉄の剣により貫かれた。
プロテアはワッフル本体を見たが人形達が身代わりとなってワッフル本体に届かなかった。
「無駄だよ。君が僕に攻撃が届くことはない」
更にワッフルは人形をぶつけてきた。
プロテアはそのワッフルの人形を切り裂いた。
すると、人形から液体が飛び出し、プロテアはその液体をモロに被った。
プロテアはその瞬間、この液体が何かを知り、焦った。
ーこれは…油!?
ワッフルの人形はプロテアに突撃を続けた。
プロテアは人形の猛攻に逃げ切れず、人形を切り裂いた。
その瞬間、炎が出現し、プロテアの身体に引火し、爆発した。
「さて…やったかな?」
しかし、プロテアは身体が少し焦げている程度の傷しか負っていなかった。
「やっぱりあの程度では駄目か」
ワッフルの作った人形は中身に色々なモノが入っている。
ワッフルの作った果実の兵士は自然エネルギーを取り込んで作っている為、火、水、土、風の四大元素を帯びた攻撃をする事が可能だ。
ワッフルは火、水、土、風、光の五属性を扱う事が出来る。
「思ったより…面倒ね」
ワッフルの人形はまた襲ってきた。
今度は人形の口から風と炎が放たれた。
炎が風を喰らい、更に巨大化した。
「【鉄万化眼】!」
プロテアは鉄の防壁を出現させたが炎はあっという間に鉄を溶かし崩した。
ーくっ!?やっぱり、風属性が加わった火を相手に鉄で対応するのは無理ね。
更に今度は水と土の攻撃が放たれた。
ー!?不味い!?
プロテアは水と土の攻撃をまともに受けてしまった。
「くっ!?」
プロテアは上手く鉄を作る事が出来なくなっていた。
プロテアの最大の弱点は水である。
水を浴びると鉄を出現させてもすぐに錆びてしまう。
更に生成する事すら困難だ。
「へぇー、水が弱点なんだね。じゃあ、その弱点、突かせて貰うよ」
ワッフルは水属性と風属性の人形を作り、プロテアに攻撃を仕掛けた。
プロテアは攻撃を回避しきれず水に飲み込まれた。
「くっ!?」
プロテアはそのまま倒れた。
「ふぅ~、何とか倒せた」
「いいえ、まだよ」
「へ?」
プロテアがワッフルの背後にいた。
プロテアはワッフルの首を切り裂こうとした。
しかし、ワッフルは何とか攻撃を回避し、人形達もワッフルの前に現れ、人形達はそのまま自爆した。
プロテアはそのまま爆風により吹き飛ばされた。
ワッフルは自身の作った人形で爆風を完全にガードしていた。
「今度こそ…やったかな?」
プロテアは鉄の防壁を張っていたが守りきれずに左腕が火傷していた。
「あなたのその後ろの樹木、随分頑丈なのね」
「そりゃあ、僕のエンゲリアスだからね」
「成る程…ならば本気でその大樹を斬り倒さないと行けない訳ね」
「無理だよ」
「いいえ、私ならそれが可能よ」
プロテアは両眼を見開いた。
すると、プロテアの周囲から無数の鉄の剣が出現し、プロテアの身体を包み込んだ。
すると、武将の甲冑の鎧を纏った鉄の巨人が出現した。
大きさは恐らく十メートルは下らない。
それだけ巨大な巨人であった。
巨人の額の部分に鉄のガラスで覆われているプロテアがいた。
「なっ!?何だい…?それは…」
「【鉄神巨兵】」
鉄の巨人が動き出し、右手から巨大な剣を出現させた。
「【鉄魔王剣】」
プロテアが眼を見開いた。
そしてー
「【時空神速】!」
鉄の巨人は巨体とは思えない程速く動き、一撃でワッフルの大樹を斬り倒した。
「なっ!?」
ワッフルが驚愕していた。
それもそうだ。いきなり鉄の巨人に自身のエンゲリアスを斬り飛ばされては驚くのも当然だろう。
巨大な樹木が斬り倒された事でワッフルが作り出した分身体も消え去った。
「これで終わりね」
プロテアは鉄の巨人を消し去り、地面に着地した。
そして、プロテアはワッフルの眼前に迫り、ワッフルの喉に剣を突き立てた。
「どうする?降参する?」
「は…はい…降参します…」
ワッフルはプロテアにあっさりと敗けを認めた。
ワッフルの目の前には折れたエンゲリアスがあった。
これではまともに戦う事も出来ないだろう。
「【鉄万化眼】」
ワッフルは鉄の縄で拘束された。
「くっ!?」
「しばらくはここで大人しくしていて貰うわ」
「君のその力…君は一体…何者なんだ」
「ただの人間よ。私はね」
「はは…冗談キツいよ」
ワッフルはこんな文字通り人間離れした力を見たのだ。
プロテアの言葉は信用出来なかった。
「ねぇ?一つ聞いてもいいかしら?」
「何だい?」
「ルミナスの目的って何なの?」
「さぁ?僕には分からないね。そもそも、あの人の本心を知ってる人が果たして何人いるのかな?」
「そんな得体の知れない人に従ってるっていうの?」
「得体の知れる知れないの問題じゃないよ。彼女はローマカイザーの皇帝。それだけで従う理由には十分だよ」
プロテアはワッフルの言葉が理解出来なかった。
皇帝だから、一番偉いから、それだけの理由で全員素直に従うセラフィム騎士団は異常だと思った。
彼等には仲間意識や信頼関係があまり感じられなかった。
今までの敵は大なり小なり仲間に対して何かしら意識していた。
だが、今回のセラフィム騎士団は皇帝の…ルミナスの命令に従っているだけだ。
プロテアはセラフィム騎士団と…神聖ローマと戦っているというより、ルミナス一人と戦っている気分であった。
そう、セラフィム騎士団も神聖ローマも全てがルミナスのモノであり、一体感なんて呼べる生易しいモノではない。
「それだけで従うなんてまるでルミナスの人形ね」
「ルミナスは皆にとっての太陽だ。太陽は一つであり、唯一絶対の存在。僕達はその太陽から光を貰う民衆に過ぎない。民衆はただただ、太陽に支配されるままさ。それに、ルミナス陛下は史上初めて神聖ローマを統一した。それだけでも彼女にカリスマを感じる者は多い。陛下を理解する必要なんてない。陛下は完璧な存在なのだから」
「………」
プロテアは、そうは思えなかった。
完璧な存在なんてこの世界にありなどしない。
それは例え神であってもだ。
完璧とはその名の通り、欠点は無く、創造の余地は無く、誰も立ち入る隙が無いという事だ。
そんなモノが有り得るとは、プロテアには到底思えなかった。
だが、仲間にここまで言わせるルミナスはそれ程の存在であるのだろう。
プロテアもルミナスの事は少しだけ蒼から聞いている。
蒼はあらゆる勝負でルミナスに一度も勝った事が無いという。
ルミナスは確かに、普通とは違うのかも知れない。
「君達がどれだけ抗おうが、ルミナス陛下を止める事など出来はしない」
「それでも、ルミナスを止めないとこの世界は終わってしまう」
「ルミナス陛下の創る世界が間違っていると?」
「間違ってない世界なんて無いわ。それを無理矢理正しくしようとしても無理な話よ。ルミナスだってそれは代わらないわ」
「その減らず口がいつまで叩けるか…楽しみだね」
「私達は必ずルミナスに勝つわ」
ルミナスだって完璧では無い。
プロテアはそう確信している。
だからこそ、止める術だって必ずある。
「もう行くわ。精々、すぐにでも仲間に発見される事を祈るのね」
「僕を殺さなくていいのかい?」
「あなたを殺しても意味が無いわ」
「僕は君の敵だ。殺す価値が無くとも生かす価値はもっと無いだろうに」
「それでもよ」
そう、プロテアは今までとは違うのだ。
プロテアはこの世界を守る為に、そして何より蒼達の為に戦っているのだ。
誰かを殺す為に戦っているのでは無い。
「甘いね…その甘さが命取りになる」
「あなた、意外とよく喋るのね」
「僕はお喋りだよ。この見た目のせいか、よく無口だと思われるけどね」
「そう。死んでないと良いわね」
プロテアはワッフルの前から去っていった。
「そうか…僕は…僕達は…ルミナス陛下の人形…か…」
プロテアに指摘されるまでワッフルはそんな事を考えてもみなかった。
神聖ローマはローマカイザーに従うのが絶対であり、それ以外の理由など無かった。
確かにルミナスにはカリスマ性があるし、実際、神聖ローマを統一している。
しかし、ルミナスに必要以上に踏み入る者は誰一人として存在しなかった。
姉妹であるアポロやジェラートでさえ、ルミナスに踏み入る事など絶対にしなかった。
何故なら、そんな事をするまでもなく、ルミナスは一人でセラフィム騎士団を、神聖ローマを束ねていた。
そう、全て一人で完璧にこなしているルミナスこそが完璧な存在であり、ルミナスに従う事こそが正しい道であるとワッフルはそう思っていた。
ワッフルだけではない、他の騎士団員や神聖ローマの者達も全員そう思っている事だろう。
実際、ルミナスは何一つしくじってはいない。
だが、ルミナスに本当に弱点など無いのだろうか、もしかしたら、見えてないだけでルミナスにも何かしらの事があるのでは無いか。
だが、ワッフルがいくらそんな事を考えた所で無駄であるのは事実であった。
何故なら、ワッフルはセラフィム騎士団の一番の新人であり、ルミナスの事をよく知らない。
「全く…何が何だかさっぱりだよ」
ワッフルはそう呟いた。
四神天城跡地で黒宮とルバートは改造天使を倒していっていた。
一夜が改造天使を殺す対処法を見出だしてくれたお陰で改造天使を倒す事が出来ていた。
「お待たせ~」
空中から澪が現れ、改造天使を捩じ伏せた。
「さて…順調に倒せてますね」
「うん、一夜のお陰だね」
兵士達も改造天使を順調に倒していた。
このまま進めば神聖ローマを全滅させる事も不可能では無いだろう。
「!? 上から何か来る!」
ルバートがそう言うと黒宮と澪は上を向いた。
すると、上から巨大な何かが落下した。
それは機械的な造りをした白い白馬だった。
「何だ?あれ?」
「あれは…」
ルバートはデミウルゴス達の死体から記憶を探っており、その中であれを見た覚えがある。
あれはヘレトーア大戦の時、一瞬でデミウルゴス達を惨殺した神聖ローマの白馬。
「ヴェングスゴルデクス…」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ルバートがヴェングスゴルデクスの名を呼ぶとヴェングスゴルデクスは夜空に向かって咆哮した。
「「!?」」
蒼と慧留は四神天城跡地へと向かっていた。
だがその道中で四神天城で強大な霊圧を感じた。
「蒼!」
「ああ…急いだ方が良さそうだな」
蒼と慧留は急いで四神天城へと向かった。
「凄い霊圧だね…」
ルバートは冷や汗をかいていた。
ヴェングスゴルデクスの恐ろしさは知っていたが間近で見ると凄まじい威圧感であった。
人工物とは思えない程、生物的であり、霊圧も神獣クラスである。
「来ますよ!」
ヴェングスゴルデクスが突進した。
突進の速度は凄まじく速かった。
「ぐあああ!!」
「がはっ!?」
黒宮、澪、ルバートはどうにか攻撃を回避したが多くの兵士達がヴェングスゴルデクスによって吹き飛ばされてしまった。
「これはヤバイですね…澪さん!ここにいる負傷者達をメラルさんごと転送魔法で移動させて下さい!ルバートさんはその間、私と共に奴の足止めをお願いします!」
「分かりました!」
「仕方無いね」
ルバートは黄金の巨大な兎の姿に変化した。
ルバートの身体に封印されているヘレトーアの神、グノウェーだ。
ルバートはその姿でヴェングスゴルデクスの動きを止めた。
しかし、ヴェングスゴルデクスのパワーは凄まじく、ルバートが押し負けていた。
ーくっ!?何て力だ!?
更に黒宮は自身の影を針の形に変化させ、ヴェングスゴルデクスの身体に影の針を突き刺し、動きを止めた。
黒宮とルバートの二人掛かりでようやく止められる程の化け物であるという事だ。
「澪さん!速く!」
「はい!」
澪は転送魔法を準備をした。
しかし、大人数を移動させる訳であるからそれなりに時間が掛かる。
澪は大急ぎで準備をした。しかしー
「ヤバイよ…!このままだと一分も保たない!」
「くっ!?」
ルバートと黒宮も堪えるがこのままだとここにいる怪我人が全滅してしまう。
「澪さん!澪さんの転送魔法陣を繋げ合わせました!」
湊が現れ、澪にそう言った。
すると、転送魔法を発動可能の状態になっていた。
「ナイス、ミットン!」
澪は転送魔法を発動し、怪我人含めて、自身と湊、メラルを別の場所へと飛ばした。
「董河さん…流石…厳陣が見込んだ人だ…」
黒宮がそう呟いた。
湊は力は無いが状況の判断力とそれに対する最良の行動が出来る人物だ。
その湊の能力で今まで絶望的状況を打破する事も多かった。
「さて…僕らでどうにかしてこのデカブツを何とかしないとね!」
「ああ!勿論だ!」
「俺達も続くぞ!」
『おお!』
黒宮とルバートを中心に多くの兵士達がヴェングスゴルデクスに突っ込んでいった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ヴェングスゴルデクスは額から光の針を飛ばした。
「!?」
ルバートは光の針を回避しようとしたが左腕に当たってしまった。
その瞬間、左腕が青白く燃え始め、その炎が広がっていった。
ーヤバイ!?
ルバートは自身の左腕を口から放った光の光線で吹き飛ばし、グノウェーの姿を解除し、元の姿に戻った。
ルバートは左腕が欠損していた。
あの光の針に当たったのはルバートだけでは無かった。
多くの兵士達があの光の針に当たった。
「ぐあああああああ!!!」
「がっ!?」
「何だ!?これは!?」
光の針に当たった者は例外無く身体から青白い炎が発生し、灰となって死んでいた。
恐らくあの光の針に命中すると即死する様だ。
ルバートはたまたま左腕に当たっただけだったので炎が広がる前に左腕を消し飛ばして無事だったが他の場所に命中していたらルバートも即死であっただろう。
「いけませんね」
黒宮も攻撃を回避していた。
黒宮も本能的に察知したのだ。
ヴェングスゴルデクスの放つあの光の針はヤバイと。当たれば黒宮でも確実に死ぬと。
ヴェングスゴルデクスは巨体とは思えない程素早く、更に一撃必殺の攻撃も持っている。
唯一霊圧硬度だけはそこまで硬くは無いのだが見ての通り、傷は超速再生ですぐに治してしまう。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスは再び突進をした。
ルバートもグノウェーの姿になる訳にはいかなかった。
あんな即死攻撃があると分かった以上、グノウェーの姿になるという事はあの即死攻撃の的にしかならない。
「どうする?黒宮君?」
「そうですね。正直、グノウェーが使えないのはキツいですね。あの巨体の動きを止めるだけでも僕とあなたのグノウェーの力があってやっとだっていうのに」
「そだね~。とは言っても僕も死にたくないしあの姿にはなれないよもう。的を大きくするだけだし。まぁ…」
「あの光の針は撃つにはインターバルがある様ですね」
まず、そうと見て間違いないだろう。
もしインターバルが存在しないのであれば撃つタイミングはいくらでもあった。
わざわざ突進で攻撃する必要すら無いのだから。
「いずれにしても、あの針が無くても厄介な事には変わりないよ。基本能力も相当高い」
「ええ。あの針が飛んでくる前にどうにかしないと」
ヴェングスゴルデクスが再び突進をしてきた。
ルバートと黒宮はどうにか攻撃をカイヒシタガ、だんだんヴェングスゴルデクスの攻撃速度が上がっていた。
「このままでは不味いね」
黒宮は影を使ってヴェングスゴルデクスの動きを止めようとするもヴェングスゴルデクスは霊圧だけで黒宮の影を捩じ伏せてくる。
「くっ!?」
更にヴェングスゴルデクスは常に身体に光を放っている為、自身の身体から一切影が出来ていない。
これでは黒宮の【身代わりの影】も使えない。
影を操る黒宮にとって光は最大の天敵なのだ。
ルバートも魔法攻撃を加えるが決定打にはならず、傷もすぐに修復していた。
「バケモノだね…これは…」
ヴェングスゴルデクスが突然姿が消えた。
すると、ルバートの目の前にヴェングスゴルデクスがやって来た。
「なっ!?」
ルバートはヴェングスゴルデクスの突進をまともに喰らい、そのまま吹き飛ばされ、その衝撃でビルが何個も倒れた。
「ぐっ…」
ルバートはそのまま気を失った。
「くっ!?」
黒宮はヴェングスゴルデクスに近付いた。
しかし、ヴェングスゴルデクスは黒宮を踏み潰した。
「がぁ!?」
更にヴェングスゴルデクスは光の針を放った。
その光の針は黒宮の身体に直撃した。
「ぐっ!?」
黒宮の身体から青い炎が吹き出していた。
ーここまで…ですか…
黒宮は千年前から今までずっと、途方もない時間を過ごしていた。
黒宮にとって殺戮こそが至高であった。
誰かを殺す事で生きている事を実感出来た。
そうして厳陣と出会うまで黒宮は殺戮の限りを尽くしていた。
黒宮は今まで大きな戦争に参加しては多くの魔族や人間を殺し回っていた。
千年前の混沌戦争、五百年前のヒューマニック・リベリオンにも参加した事がある。
しかし、ある日、その殺戮の日々が終わりを告げる事となった。
六十年前、黒宮は厳陣と出会ったのだ。
「貴様が…殺戮の真祖、黒宮か」
「どなたです?」
「私は常森厳陣。十二支連合帝国の少佐だ」
「軍人ですか…面白い…」
「貴様を拘束、或いは抹殺せよとの命令が出ている。大人しく私に捕まればその命を助ける事も考えるが?」
「私は真祖ですよ?そんな私を殺せると?」
「ならば…試してみるか?」
厳陣は眼つきを鋭くした。
黒宮は直感した。この男は今まで戦ってきた者の中で最も強いと。
だからこそ、黒宮は闘志を震わせた。
これは武者震いだ。強者を倒し、自分自身の存在を…生きている事を実感するための。
「いいでしょう!」
厳陣と黒宮は戦いを始めた。
両者共に力は拮抗しており、互角の戦いを始めた。繰り広げた。
彼等は三日三晩争い続けた。
二人の戦いは熾烈を極めた。
「私の…負け…ですね」
厳陣と黒宮の戦いは厳陣の勝利だった。
「そうだな」
「さぁ、私を殺せるなら殺してください。まぁ、殺せたら…の話ですけど」
恐らく、厳陣では黒宮を殺す事は不可能だろう。
黒宮は不老不死であり、如何なる手段でも殺せない。少なくとも厳陣では黒宮を殺す事は出来ない。
「そうだな…だからといって…拘束をした所で貴様ほどの実力ならば脱獄するの可能性も十分あり得る」
「なら…どうすると?」
黒宮は厳陣に問うた。
そして、厳陣は口を開いた。
「貴様はこれから私の部下にする」
「はぁ?」
厳陣のあまりに衝撃的な発言に黒宮はすっとんきょうな声を上げた。
悪逆の限りを尽くした大犯罪者を自身の部下に置くというのだ。
とても正気の沙汰とは思えなかった。
「お前は腕が立つ、下手に牢獄にぶち込むより、側に置いておく方がいい」
「バカな事を言うのですね…私があなたに盾を突くかも分かりませんよ?」
「その時は、私が貴様を止める。私がお前の檻になる」
厳陣の考えは分からなかったが、黒宮は敗者だ。
敗者は勝者に従う、それがこの世界のルールだ。
「分かりましたよ。まぁそれ以前に、十二支連合帝国が納得するかどうかですが…あの国は他の国と比べて魔族嫌いが多い事で有名ですからね」
「私がいればそんな心配はいらない」
「でしょうね…あなたはこの私を倒す程の人だ…」
「ああ…それに私は軍人のして生涯をまっとうする気は無い」
「どういう事です?」
「私は…イシュガルドの人間だ」
「イシュガルド…道理で…」
黒宮はイシュガルドの事は知っていた。
イシュガルドはこの世界の自然エネルギーを扱う特別な人間であり、普通の人間より成長速度と老化速度が遅い特殊な人間だ。
「私はイシュガルドを抜け、十二支連合帝国に来た」
「成る程…口減らしですね」
イシュガルドはヘレトーアにあるトライデントと呼ばれる町に住んでいた。
しかし、今より昔、トライデントは飢餓が深刻化し、口減らしが行われた。
厳陣はその口減らしによりトライデントから追い出された者の子供であった。
しかし、十二支連合帝国はイシュガルドにとって過酷な場所であった。
十二支連合帝国は魔族を迫害していた。殆ど魔族に近いイシュガルド達もそれは例外では無かったのだ。
厳陣もその内の一人であった。
だからこそ、厳陣は決めたのだ。
「私が十二支連合帝国の総帥となり、国を変える。お前は私の腹心になって貰う」
「………」
黒宮は厳陣の発言に驚き固まった。
そしてー
「はははははははははは!!!」
余りの可笑しさに黒宮は吹き出した。
「そこまで笑うか?」
「いや、何を言い出すかと思えば…随分とデカく出たね…ふふふ…面白い…。いいでしょう、あなたのそのバカな野望に…乗っかって上げましょう」
黒宮は厳陣の野望を聞いて厳陣の野望に付いていく事に決めた。
昔の様に派手に誰かを殺すという事は出来なくなるだろうがこれはこれで楽しめそうだと黒宮は思った。
どうせ退屈しのぎだ。黒宮は厳陣に何かを感じたのだ。
「決まりだ。ならばお前は俺が死ぬまで付いていって貰う」
「いいでしょう。まぁその前に私があなたを殺しているかもしれませんけどね」
「上等だ。やれるモノならそうして欲しいモノだな。そう言えば黒宮、貴様は下の名前はあるのか?」
「下の名前…ですか?」
「私は常森が名字で厳陣という名前がある」
「私は黒宮だけですけど?」
「そうか…ならば私がお前に名を付ける。でないと貴様の戸籍が作れんしな」
「面倒ですね。まぁ、何でもいいですよ」
黒宮はどうでも良さそうにそう言った。
別に名前など誰かを識別するための記号に過ぎない。
黒宮にとってはどうでもいい事だった。
「大いなる志をお前に乗せる。私の野望をお前に乗せる。だから、大志だ」
「そうですか」
「ああ、貴様はこれから、黒宮大志だ」
「黒宮、大志…」
黒宮はこの時、ただの黒宮から黒宮大志となったのだ。
この時、黒宮と厳陣は新たな道を歩き出したのだ。
黒宮にとって、厳陣との日々はまいにちが新鮮であり、大切なモノとなった。
厳陣は今の十二支連合帝国を作り、そして死んでいった。
ならば黒宮のやる事は厳陣の遺した十二支連合帝国を守る事だった。
だが、結局それも失敗してしまった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスは絶叫を上げていた。
黒宮の身体はボロボロに崩れ始めていた。
ー全く…情けない…最後でしたね…
ヴェングスゴルデクスが黒宮を再び踏み潰そうとする。
「【氷魔天刀】」
突然、ヴェングスゴルデクスの足が凍り付いた。
「時…神…さん…」
黒宮の目の前に現れたのは時神蒼であった。
「黒宮さん!」
蒼は黒宮の所へと駆け寄った。
「時神さん…私は…どうやら…ここまでの様です…後は…託しますよ」
「黒宮さん!」
ー厳陣…今すぐ…私もそっちへ逝きます。
黒宮の身体は灰となって消えていった。
蒼は黒宮の死を黙って看取った。
「てめぇ…」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
ヴェングスゴルデクスは蒼に突進した。
「【χ第二解放】」
蒼の身体に黒い衣が纏われた。
更に氷で出来た黒い氷の翼が生え、腕にはχを象った籠手が着いていた。
「【氷黒楽園】!」
蒼はヴェングスゴルデクスに斬撃を放った。
ヴェングスゴルデクスはそのまま吹き飛ばされた。
ヴェングスゴルデクスの身体の半分が欠損していた。
しかし、超速再生で傷が修復していっていた。
「こりゃあ…完全に粉々にしねぇと勝てねぇな…」
蒼はそう言って左手を上げた。
すると、白い鞘が左手に出現した。
そして、蒼は右手に持っている黒刀をその白い鞘に納めた。
「【再起動】」
蒼の【χ第二解放】が解除された。
そしてー
「行くぜ…【第二解放】」
To be continued




