【最終章】使徒叛逆篇ⅩⅣー神聖ローマ侵攻ー
アスディアは一人で『世界宮殿』の最上階にいた。
そして、アスディアは侵入者の気配を察知した。
「来たか」
アスディアだけではない、イシュガル、ガルディア、アウス、ランクル、ジェネミも侵入者を察知した。
やって来たのは言うまでもない、ルミナスだ。
「ここが…『世界宮殿』…」
ルミナスが辺りを見回しながらそう言った。
無機質な空間と白のみで構成されている世界であった。
「陛下、いかがなさいます?」
「勿論、最上階に行くわよ」
ルミナスはそう言って歩き出した。
この『世界宮殿』は十三階層まであり、その頂上に『世界宮殿』の中枢があり、そこにはこの世界を安定させている真の『世界宮殿』の王、クロノスがいる。
「ここから先は行かせん!」
現れたのはガルディアであった。
「冥界王ガルディアか」
「俺だけじゃない」
ガルディアの順にデメテル、ジェネミ、ランクル、アウス、イシュガルが現れた。
アスディア以外のパルテミシア十二神が勢揃いしていた。
「舐められたモノだな。貴様ら二人だけとは」
「別に…舐めちゃいないわ。それに…何を以て敵が私達だけ…という判断になるのかしら?」
「どういう事だ…」
ガルディアはルミナスの言葉の意味が分からなかった。
「あくまで私が戦うのはアスディアだけよ。それ以外の十二神と戦う気は無いわ」
「ならば我々五人を貴様の腹心が相手をする…という事か?」
「運命を見る神と聞いて呆れるわね」
ジェネミの言葉にルミナスは呆れ果てていた。
「まだるっこしいな…要するに何が言いてぇんだよ!」
「そうね、アウス。シンプルに行きましょう。貴方達雑兵の相手は…私の親衛隊が…お相手しましょう」
ルミナスはそう言って右手を掲げた。
すると、四本の光の柱が出現した。
そして、四人の天使が現れた。
最初に現れたのは『墓場主』Millefeuille・Betelgeuse。
二人目は『法廷主』Eclair・Pailpendorer。
三人目は『地獄王』JEJE・Jellutiiga。
そして、『天界主』四人目がFran・Vellnekell。
彼ら四人は天使親衛隊と呼ばれるセラフィム騎士団上位の精鋭達だ。
「何だ?あの術は」
「恐らく召還術だね」
アウスの疑問にランクルが答えた。
「ふん…下らん。俺の神具で一気にカタを着ける」
ガルディアがそう言うと頭に兜が出現し、左手に黒い瓢箪が出現した。
そして、瓢箪から黒い二又槍が出現した。
ハデスの神具、瓢箪黒槍と冥界の兜だ。
神具とは神が持つ武器であり、絶対の矛である。
「貴様らがいくら束になろうが…俺の力の前では無力だ」
ハデスはそのまま姿が消えた。
ハデスの兜は被った者の姿を消す能力がある。
「【無法日向】」
「【呪縛紫鎖】」
「【溶岩使徒】」
「【第二解放】」
ミルフィーユ以外の三人は『第一解放』、ミルフィーユのみ【第二解放】を発動した。
フランの後ろには光で出来た刃が円状になって並んでおり、エクレアの周りは紫色の鎖が無数に出現した。
ジェジェは巨大な溶岩の棍棒が出現していた。
「【朧弦月風騎士宮殿】」
ミルフィーユの周囲は竜巻の乱気流が渦巻いていた。
「無駄だ」
そう言ってガルディアはジェジェの首を切り落とした。
「「「!?」」」
姿が全く見えない。
見えない内に倒された。
「え?」
エクレアはそんな声を上げた。
いつの間にか腹部に槍が刺さっていたからだ。
そして、そのまま腹を裂かれ、エクレアは倒れた。
「バカな!?こんな…」
フランは辺りを見回したが喉を裂かれ、倒された。
「うわ~、いくらなんでもこれは強すぎ……!?」
ミルフィーユは風の動きでガルディアの動きを察知し、攻撃を凌いだ。
更に突風をガルディアにぶつけた。
やがて、ガルディアは実体化した。
「最初から本気を出して【第二解放】を使ったのは正解だったな」
ガルディアがミルフィーユに対してそう言った。
しかし、ミルフィーユの肩はガルディアによって切り裂かれていた。
更に傷口から力が抜けていく様な感覚にミルフィーユは襲われた。
「何?これ…」
「俺のこの槍は切った者の生命力を奪う死の槍だ。かすっただけで相手の生命力を奪い続ける」
「それって要するに一撃必殺って事?ふざけてるね…」
ミルフィーユはそう呟いた。
流石はガルディアといった所である。
彼はパルテミシア十二神の第三権力者という地位にいるがその実力は第一権力者であるアスディアとほぼ互角なのだ。
事実上彼の実力はパルテミシア十二神のナンバーツーなのだ。
「陛下…」
「そうね…流石にガルディアが相手じゃあの四人でも分が悪いわね」
ルミナスはそう言って両手から霊力を放出した。
「? 何をするつもりだ?」
ガルディアが訝しげにルミナスを見た。
ガルディアは姿を再び消し、ルミナスに攻撃を仕掛けた。
「【霊力伝達】」
ルミナスは四人に霊力を譲渡した。
ルミナスはこの『世界宮殿』に満ちている霊力を吸収し、その霊力を天使親衛隊に送ったのだ。
ガルディアの一撃はローグヴェルトにより完全に防がれた。
「!?」
「貴様の姿や霊力を感じずとも…捕らえる事は容易だ!」
ローグヴェルトはガルディアを弾き飛ばし、そのままガルディアを空へと打ち上げた。
「【滅殺虹剣】!」
吹き飛ばされたガルディアをローグヴェルトは追い掛けた。
「マジかよ…ガルディアとやり合える奴がいたのかよ…」
アウスはかなり驚愕していた。
「驚いている暇は無いわよ?」
ルミナスがそう言うとフラン、ジェジェ、エクレア、ミルフィーユが立ち上がった。
「な!?」
ジェジェも取れた首がくっついており、全員傷が完全に回復していた。
「これは…一体!?」
「私は自身の霊力を相手に送り込み、譲渡出来るのよ」
【霊力伝達】は九代皇帝にしてルミナスの父であるヤハヴェラの能力だ。
味方に霊力を譲渡し、回復させる事も可能だ。
「ちぃ!」
アウスは耳のピアスを武器に変えた。
それは銀色の杖となった。アウスの神具、ケリュケイオンだ。
「黄金の竪琴」
ジェネミは竪琴を出現させた。
「本気で行きますよ!」
ランクルは白馬を召還した。
ランクルの神具、ペガサスだ。
ランクルの神具だけは生物の姿をしている。
「トライデント」
イシュガルは三又槍を握った。
「さて…じゃあ、私は先に行かせて貰うわ」
ルミナスはそのまま上の階層へと向かおうとした。
「待て!」
アウスがルミナスを追いかけようとするがミルフィーユの風がそれを阻む。
「くっ!?」
「悪いけど命令だからね。行かせられないよ」
ルミナスが風を操ってアウスに攻撃を仕掛ける。
「はっ!?こんなもん!」
アウスは風を杖で防ぎ、別の物質に錬金しようとした。
しかしー
「!? アウス!それは駄目だ!避けろ!」
ジェネミがミルフィーユの風に違和感を感じ、アウスに警告するも遅かった。
アウスの身体は杖ごと貫かれていた。
「なっ…」
「私の風に貫けないモノは無いよ」
アウスは貫かれた脇腹を抑えていた。
だが、何とか倒れはしなかった。
「奴の風…さっきまでの風とは違う…」
「ルミナスによって…強化された…という事かな?」
イシュガルとランクルがそれぞれ推測していた。
「違うよ…これは…あくまでも私の能力だよ。確かに霊力は強化されたけどそれだけでここまで圧倒したりなんかしないよ」
「圧倒…だと…?舐められた…モンだ!」
アウスはそう言って地面に手を置いて地面を棍棒に錬成し、ミルフィーユにぶつけた。
「無駄だよ」
ミルフィーユの風はアウスの錬成した棍棒を粉々にし、再びアウスの身体を貫いた。
「………」
「アウス!」
アウスはそのまま倒れた。
「君達の力はそんなモノじゃないだろ?もっと楽しませてよ!」
ミルフィーユがそう言って突っ込んで行き、フラン、ジェジェ、エクレアはそれに続いた。
ルミナスは一人で『世界宮殿』の頂へと向かっていた。
「もう少しで頂上ね」
ルミナスは光速で空を飛びながらそう言った。
やがて、ルミナスは最上階へと到着した。
ルミナスがこの最上階を見た最初の感想は「空虚」である。
白い、圧倒的に白かった。
この『世界宮殿』自体、大半が白で構成されていたがここの階層の白さはまるで違っていた。
白すぎて空虚ささえ感じる。
「とうとう…ここまで来てしまったか…」
ルミナスの目の前にアスディアが現れた。
『世界宮殿』の事実上の統治者にしてパルテミシア十二神のリーダーでもある男だ。
「他の五人が下で戦ってる中、高みの見物とはね」
「僕はこの階層の守護が使命だからね。ここを落とされるわけには行かないのさ。とは言え、君がここに来るのは予想の範囲内だ」
「随分強気ね?これから貴方は私に殺されると言うのに」
「強気なのは君の方だよ。神に向かって…ましてやこの世界で最も強い神に喧嘩を売るなんてさ」
「私はこの世で最も強い。私が敗ける事などありえない」
「何か妙に話が噛み合っていない様な気がするんだが」
「それは、貴方の頭が私に追い付いていないからよ」
「何か微妙にバカにされた感じでムカつく」
二人の会話はとてもこれから殺し合いをする会話とは思えなかった。
「私のご先祖様がこんなチャラチャラした人とは思わなかったわ」
「僕も自分の末裔がこんな生意気だとは思わなかったよ」
「けど、貴方はもう、この『世界宮殿』での役目を終える」
「それはいいね!僕だってこんなクソ面倒な役目を終えられるなら願ってもない!」
「それ、本気で行ってるのかしら?」
「僕はね、自由になりたいんだよ。こんなオモチャの管理をするよりね」
「この世界を安定させている装置をオモチャ呼ばわりとは大した感性ね」
「僕にとって…この場所はどうでもいいんだよ」
「何が言いたいの?」
「今の君に言った所で…分からないさ」
アスディアは意味深にそう言った。
ルミナスはアスディアの考えている事が分からなかった。
「君こそ、この『世界宮殿』を支配して…その先に何を求める?」
「欲しいモノを手に入れる」
「それってフローフルかい?」
「………」
「残念だけど…ここを支配して世界を征服しても、君の欲しいモノは手に入らない。この世界ってね、悪い意味で平等でね。自分にとって最も欲しいモノが中々手に入らず、自分にとって必要の無いモノや他人が欲しているモノが簡単に手に入ってしまうモノなんだよ」
「確かにそうね…けど、手に入れるのは不可能では無いわ」
「いいや、少なくとも君のやり方じゃあ無理だね。全部自分だけで自己完結してる君じゃあね」
ルミナスはアスディアの言葉の意味がさっぱり分からなかった。
ルミナスは今まで一人で全てを成し得た。
他の者達には無い、特別な力がルミナスはあった。
そう、ルミナスはその圧倒的力で全てを可能にしてきた。
だからこそ、ルミナスは力こそが全てを可能にする事が出来る事を悟った。
だが、ルミナス以外がそんなやり方をしても無駄である。
だからこそ、ルミナス自身がそれを成し得ようとしている。
そして今、ルミナスは世界征服の一歩手前まで来ていた。
「貴方を倒して、私の正しさを証明して見せるわ」
「勝者が全員正しいなら…誰も生き方を間違ったりはしないよ。仮に君が僕に勝てたとして、それが君の正しさの証明にはならない」
「いいえ、この世界は勝利が全て。勝者は全てが肯定されて…敗者は全て否定されてしまう。敗ければ何も残らない」
そう、ルミナスは見てきた。
勝者には栄光を、敗者には何も残らなかった。
だからこそ、ルミナスは勝ち続けた。
全てを手に入れる為に。
「全部自分一人だけで事を成しても何も変われないよ。君はそれを分かっていない」
「知ったような口を聞くのね。もう、止めましょう」
「そうだね、これ以上話した所で平行線だ。僕は君を止める」
「止められはしない、私が勝つ」
「もしそうなってしまったら…その時は君の弟に任せるさ」
「例えフローフルでも私は倒せない」
ルミナスは長剣を抜いた。
「【第二解放】」
ルミナスの頭上に白い王冠が出現し、背中には四対の真っ白の翼が生えていた。
ルミナスの使う最強のエンゲリアス、【白滅天使】の真の姿だ。
「【裁きの白天翼】」
「………凄まじい霊圧だ」
アスディアは正直、ルミナスの霊圧がここまで強大だとは思わなかった。
彼女の霊圧だけでここ『世界宮殿』は地響きが起こっていた。
「【雷帝神鞭剣】」
アスディアは右手に雷の剣を出現させた。
アスディアの神具、【雷帝神鞭剣】だ。
「本気…という訳ね」
「まぁね」
アスディアは白い雷を纏っていた。
「霊魔結合の一つ…白雷ね」
アスディアの扱っている白い雷は光属性と雷属性を組み合わせた霊魔結合であり、アスディアが最も得意とする霊魔結合だ。
白雷は光属性の活性の力により強大な力を持っている。
「さて…行くよ!」
アスディアとルミナスは刃を交えた。
ルミナスには何もなかった。
いや、ルミナスは全て持っていた、故に何もなかった。
ルミナスは幼少期から天才と謳われ、何をやるにしても一番であった。
故にルミナスに近付く者は誰もいなかった。
そんな彼女に普通に接していたのは最初はエリシアだけであった。
ルミナスは常に孤独であった。
だが、ルミナスはその孤独を辛い、悲しいと感じた事が無かった。
ルミナスはこの頃から自分は他人とは違うという事を悟っていたのだ。
だからこそ、ルミナスはこの頃は大して独りである事を気にしてはいなかった。
この頃のルミナスは純粋そのものであり、誰から見ても、彼女は天使に見えた事だろう。
しかし、ルミナスとフローフルが出会った事でルミナスは変わり始めた。
ルミナスは初めてフローフルと対面した時、フローフルが自分と同じであると感じたのだ。
しかし、ルミナスとフローフルが会う事は中々無かった。
そんな時、フローフルがルミナスの元へとやって来た。
「あなたは…フローフル?」
「え?…驚いたな…君みたいなお偉いさんが僕の事を知ってるなんて」
「知ってるよ…姉弟…なんだから」
「姉弟ねぇ…まぁ、そうなんだろうけど…俺はただの養子だしなぁ…出来損ないの」
フローフルはルミナスの父の腹違いの息子…だが遊女の息子という事で周りからの評価があまりよろしく無かった。
「何でここに来たの?」
「たまたまだよ。エリシアの授業が怠くて抜け出して来たんだよ。ここだとバレずらいし…頼むよ、僕を匿って」
「それは別にいいけれど」
ルミナスはフローフルの態度を見て、驚いていた。
何故なら、周りからはルミナスはかなり丁重に扱われており、今のフローフルの様に砕けた話し方をする者が今までいなかったからだ。
だから、ルミナスにとって、フローフルは凄く新鮮で…魅力的に写った。
「ねぇ、話をしない?私、このまま無言で君にいられるのちょっと嫌だな」
「あー、それもそうか。じゃあ、何を話す?」
「フローフルは…周りの人達をどう思う?」
「俺は…鬱陶しい…かな…俺の事を言いたい放題言いやがって…」
「そうなんだ」
「お前はどうなんだよ?ルミナス」
「え?」
「お前はどうなんだよ?やっぱあれか?チヤホヤされてるからお前はそうは思わねぇか」
フローフルは皮肉混じりにそう言った。
しかし、ルミナスはその事に一々気にする事は無かった。
「分からない。何も…感じない」
「お…おう…そうか…」
ルミナスの言葉が意外だったのかフローフルは歯切れの悪い返事をした。
「フローフルって…変わってるよね」
「そうか?あんま考えた事ねぇけど」
「変わってる。私、あなたみたいに気楽に話せる人がいなかったから…」
「話し相手になりたいならいつでも来てやるよ。皇女なんて言うからどんな尊大な奴かと思ったら、良い奴だなお前。じゃあな」
フローフルはそう言ってルミナスから去っていった。
ルミナスはフローフルと普通に話せた。
今までルミナスと話していた者は全員ルミナスを特別扱いするか腫れ物に触るかの様な扱いをしていた。
フローフルはそういった事はせず、ルミナスと対等に接してくれている。
ルミナスにとって、それがとても嬉しかったのだ。
ルミナスはこの時、世界は…人は…魔族は…理解し合う事が出来ない存在だと諦めかけていた。
ルミナスは別に世界の平和とかそんな大それた事は望んでいなかったし掲げてもいなかった。
ただ、自分を理解してくれる人がいなかった事が何より辛かったのだ。
ルミナスはフローフルと出会って、自分の事を理解してくれる人がいるという希望を持てた。
それからフローフルはルミナスの所へ度々遊びに行き、色々な勝負をした。
フローフルはこの時にルミナスにいくつかの霊呪法を教わった。
だが、ルミナスは何をやるにしても天才であり、フローフルはルミナスに勝負事で勝った事が一度も無かった。
ルミナスはこんな日々がずっと続けばいいのにとそう思った。
ルミナスにとってフローフルといる時間は堪らなく好きでフローフルとずっと一緒にいたいと願う様になった。
しかし、フローフルとルミナスが共にいる時間が少しづつ減っていった。
フローフルに新しい友達が出来たのだ。
インベルだ。フローフルはインベルと共に過ごす時間の方が多くなっていった。
そのきっかけを作ったのは…エリシアであった。
ルミナスはフローフルからエリシアの話をよく聞いていたので彼女の事を知っていた。
というより、エリシアはセラフィム騎士団の一員であり、ルミナスは彼女と既に顔見知りであった。
そして、時が進むにつれ、フローフルはインベルだけでなく、ルミナスの妹であり、神聖ローマ第三皇女であるアポロとも親しくなっていた。
ルミナスはというと大人でも根を上げる様な勉強や修行を黙々とやっていた。
休む時間は寝る時くらいしか無かった。
昔のルミナスならば何も思わず淡々とこなしていただろう。
だが、今は違う。
ルミナスは知ってしまったのだ。誰かを愛する心を。
それを知ってしまったルミナスはその喪失感に苦しむ様になっていた。
ルミナスはフローフルと合いたい。ずっとずっとそう思っていた。
誰かを愛する事…それはとても尊く、素敵な事だ。
その人の事を考えずにはいられない、そんな感情だ。
ルミナスはフローフルに…恋をしていたのだ。
そんなある時、ルミナスは城から抜け出し、フローフルに会いに行った。
少しの間会うだけだ。ならば大丈夫、バレずに済む、そう思っていた。
ルミナスはフローフルに会いたくて会いたくて、フローフルのいる場所へと走っていった。
ーフローフル!もうすぐ…また…会える…!
ルミナスはフローフルのいる場所へと辿り着いた。
しかしー
「………」
ルミナスは虚ろな眼をしていた。
ルミナスの目の前にはフローフルがいた。
だが、そこにいたのはフローフル独りでは無かった。
インベル、アポロと楽しそうに話しており、その中にエリシアとがいた。
そこでルミナスは気が付いてしまったのだ。
ルミナスは…独りで孤独なフローフルが好きであった事を。
そして、ルミナスは蒼の周りの者達に激しく嫉妬していた。
そう、嫉妬である。ルミナスはインベルにアポロにそして何より、エリシアに嫉妬していた。
いや、エリシアに関しては嫉妬だけでは無い、怨みも抱いていた。
フローフルは自分と同じ孤独であった。
ルミナスはそんな孤独なフローフルに惹かれたのだ。
だが、エリシアがフローフルを変えてしまった。
フローフルに友が出来、性格も明るくなっていった。
そこにはルミナスの知るフローフル・ローマカイザーはいなかった。
ー許せない
ルミナスは激しくエリシアを憎悪した。
蒼を取り巻く者達に対して激しく嫉妬した。
だからこそ、ルミナスは決めたのだ。
ーフローフルを自分と同じ場所へ引きずり降ろしてやると
ルミナスはそれからますます勉強や修行に精を出す様になった。
フローフルを自分と同じ孤独へと引きずり降ろす為に、フローフルを自分のモノにする為に。
そして、ルミナスはこの世界の…『世界宮殿』について調べる様になっていった。
『世界宮殿』の中枢には時の神であるクロノスが眠っている。
このクロノスは世界を安定させる概念装置であり、魔族を産み出した根元でもある。
このクロノスを支配する事でこの世界にいる全ての者を支配する事が出来る。
そうすればフローフルを手に入れる事が出来る、ルミナスはそう確信した。
だが、知識や経験だけでは『世界宮殿』に行く事は難しいだろう。
なのでルミナスはローマカイザーの継承を行える様に準備を始めた。
本来ならローマカイザーの継承は皇帝になってから行うものなのだが父であるヤハヴェラが病弱であり、余命も僅かであったのでルミナスが皇帝候補となっていた。
しかし、ルミナスは幼いが故にヤハヴェラが無き後に後継者争いが起こるのは必至であり、ルミナスはその争いに勝たねばならなかった。
やがて、ヤハヴェラは死に、後継者争いが起こった。
結果的にはルミナスがローマカイザーの十代目後継者となった。
ルミナスは歴代ローマカイザー最強と謳われていた、故にこうなるのもある意味必然であった。
ーやった…やったよ…!フローフル!まずは…第一歩!
そう、ルミナスにとって皇帝になる事など始めの第一歩に過ぎない。
その次はローマの統一、更にその次は四大帝国の統一、そして『世界宮殿』へと乗り込んでこの世界を完全に征服し、フローフルを自分のモノにする。
ここまでがルミナスの野望だ。
だが、そこまで辿り着くにはあまりにも遠い。
いくらルミナスでも一代でここまで辿り着くのは不可能であろう。
そう、ルミナス一人の知識と経験だけでは。
だからこそ、ルミナスは継承の儀を速く行いたかった。
継承の儀を行う事で今までのローマカイザーの記憶が全て自身に引き継がれる。
そうすればルミナスの知らない知識や情報を多く得る事が出来る。
それが出来ればルミナスだけでも世界征服をする事は不可能ではない。
いや、ルミナスならば必ずそれを成し得る事が出来る。ルミナス自身、そう確信した。
一度でも愛を知ってしまったその時、人は憎しみのリスクをせおう事になる。
この世界には表と裏があり、それは紙一重で危うい状態で成り立っているモノだ。
ルミナスの中に芽生えた黒い感情…こんな汚い感情を抱くとはルミナス本人も思っても見なかっただろう。
ルミナスはフローフルを自分のモノにしたい、自分の手でフローフルを汚したい、孤独で空虚なフローフルを見たい、フローフルの色々な表情を近くで見たい、嬉しい表情でも悲しい表情でもそんなのはどうだっていい、ルミナスはフローフルを自分しか見れないように自分の色に染め上げたかった。
ルミナスは本来は純粋で無垢な人間だ。
しかし、その特異な力と純粋過ぎる性格が裏目に出て、今の様な思考回路になってしまった。
愛が深ければ深いほどそれを失った時の絶望は大きい。
今のルミナスがまさにそうだ。
「待っててね…フローフル…私が…あなたを迎えに行くから。あなたは私のモノ、誰にも渡さない…孤独で空虚で…虚ろなあなたに戻してあげる。私と同じ場所にもう一度戻して上げる。あなたの笑顔も苦痛も悲しみも痛みも嬉しさも何もかも全て…私のモノ…あなたの心も…私はあなた無しでは生きていけない…そんなの不平等だよね?だから…フローフル…あなたも私無しでは生きていけない様にしないと…フローフル…あなたは…私と永遠に二人きりで生きていく…」
そう、ルミナスはフローフルさえいれば後はどうでもいいのだ。
フローフルがいない世界なんてルミナスには考えられない。
世界征服などフローフルを手に入れる為のついでに過ぎない。
フローフルを自分のモノにしたならば後はもうどうでもいい。
ルミナスはこの時、悟ったのだ。
愛は何よりも強く、深い感情であり、そして…何よりも恐ろしい化け物にもなり得るという事を。
制御の効かない感情であり、何よりも強力で強大感情、それが愛。
ルミナスはフローフルを手に入れる為なら何だってする。
何を犠牲にしても構わない。そんな危険な感情がルミナスにはあった。
愛情深い故にそれを失う事で憎しみへととって変わってしまう。
今のルミナスは正にそんな状態であった。
最初から悪い人間などいない。あらゆる環境、人間関係、色々な要因が重なって歪んでいってしまうのだ。
ルミナスは正にその極致と言える。
ルミナスは一人、歩き続けた。
失ったモノを取り戻す為に。
To be continued




