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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【最終章】天界叛逆篇
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【最終章】天界叛逆篇Ⅷー立ち上がる為にー

 神聖ローマが撤退してから三日経っていた。

 慧留は半身不随となってしまい、車椅子で動いていた。

 屍は薊とくるの元へと向かっていた。

 プロテア、澪、美浪はUSWで保護され、明日には十二支連合帝国に戻ってくるそうだ。

 一夜は至急用意されたテントに籠っていた。

 皆、傷は一応回復しており、どうにか動ける様にはなっていた。

 蒼も慧留に左手足を時間回帰で元通りになっていた。

 しかし、それ以降、蒼は姿を見せずどこかへと行ってしまっていた。


「一夜さん!時神君は…どこに行ったんですかね?」

「僕にも分からないよ」

「いいんですか!?このままだと…」

「蒼はあの程度で折れたりなんかしないさ!僕は今僕に出来る事をやらないと行けないんだ!」


 一夜はそう言ってパソコンを動かしていた。

 どうやら、一夜は早々に立ち直り、パソコンを動かしていた。

 一夜には何もしてやれない。

 一夜はあの戦いの後、蒼と会った。

 あれは再起するには時間を要する事である事は一夜も分かっていた。

 だからこそ、蒼が立ち直った時の為に一夜は備えなければならなかった。

 確かにルミナスの言う事は間違ってはいないのだろう。

 それは一夜は認めざるを得ないと思った。

 だが、だからと言って一夜達の居場所を奪っていい理由にはならない。

 一夜はルミナスの計画を何としても止めたい。

 一夜はこの三日間色々調べて分かった事がある。

 ルミナスが開いた『世界宮殿(パルテノス)』への扉は完全に扉の空間を凍結するのに一週間は掛かる様だ。

 あれから三日経っている。

 だがそれでも後四日の時間はある。

 その間に戦力を整えて行くしか無い。

 だが…問題はそれだけではなかった。

 四大帝国は今、最早、均衡を保ってはおらず、十二支連合帝国、USW、ヘレトーアの三国は士気を完全に失っていた。

 戦力以前に戦士の闘志が萎えている状態ではとても戦う事など出来なかった。

 これでは戦う以前の問題だ。

 それに『世界宮殿(パルテノス)』がどのような場所かすら分からない曖昧な状態であった。

 それだけではない、ルミナスの計画に賛同している者も多くおり、神聖ローマに亡命する者達が多くいるのも現実であり、戦力以前に戦う事が出来るかすら怪しい所であった。

 確かにルミナスのやろうとしている事はある意味では世界平和であり、賛同する者達が多いのも事実だ。

 だが、多くの人や魔族の尊厳を無視するその計画を一夜はどうしても許容出来なかった。

 我が儘かもしれない、自分勝手かもしれない、それでも一夜は納得出来なかった。

 だからこそ、一夜はこうして抗っているのだ。


「蒼…君は…必ず戻ってくる!」





 蒼は一人で海を眺めていた。

 海は広い、海の広さに比べれば今起こっている争いも些細なモノなのかもしれない。

 蒼は自身の無力感に苛まれていた。

 強くなったつもりでいた…だが、ルミナスに全く歯が立たなかった。

 何も…出来なかった。

 蒼の瞳に光は無く、虚ろであった。

 ルミナスのやろうとしている事を正しいとは蒼は思えなかった。

 だが、それでも、ルミナスに刃向かう気にはならなかった。

 ルミナスに…現実を思い知らされた。

 どんなに強く願ってもそれ以上に強い思いと力の前では全て踏み潰されてしまう。


「俺は…一体どうすれば…」


 蒼はもう、訳が分からなくなっていた。

 もう…どうだっていい。

 蒼は慧留が半身不随になったと知り、絶望した。

 蒼はこの世界を変えるのは…その架け橋となるのは慧留であると信じていた。

 生きてはいたものの、蒼が慧留を守れなかった事には変わり無い。

 その事実を突き付けられ、蒼は絶望した。

 それだけではない、屍も内臓の殆どが吹き飛んでおり、今後戦うのは厳しいと言われた。

 今までとは比べ物にならない程の被害を受けていた。

 蒼はもう…全てがどうでもよくなっていた。

 どうせ守れないのなら…わざわざしんどい思いをしてまで抗う必要も無いだろう。

 もう、全てが終わったのだ。


「何もう全部諦めた様な顔してんだよ!」


 誰かが蒼の頭を殴った。


「痛って!?………て…インベル!?何で…ここに」

「私もいるわ」

「アポロ!?二人とも何で…」

「神聖ローマから逃げてきた。今回の戦いが終わって、セラフィム騎士団全員が油断している時に俺達は逃亡した」

「逃げ切るだけでも結構大変だったわね。お陰で服はボロボロ…また新しい服を用意しないとね」

「何で…お前ら逃げてきたんだよ」

「決まったんだろ、お前がルミナスにボコボコにやられたって聞いて駆け付けたんだよ!」

「それに…私はルミナスのやり方が気に入らない。だからあなたの所に来た…それだけよ」

「素直じゃねーな?アポロ…」

「インベル、なんか言った?」

ヴぇ(いえ)マリモ(なにも)!」

「滑舌悪すぎて何言ってるか分かんねぇよ」


 インベルとアポロのやり取りに蒼は突っ込みを入れた。


「少しは…らしさを取り戻したらしいな」


 インベルがそう言った。

 確かに、今の蒼には眼に光が戻っていた。


「久々に昔の友達に会えて、安心したのかもな」

「おお?お前、どうしたんだ?いつもなら…」

「真面目な話、俺はお前らがいて本当に良かったって思ってるよ」


 蒼がそう言った。

 そう、五年前まで蒼を支えていたのは間違いなくインベルとアポロであった。

 彼等の存在があったからこそ、蒼は今へと繋がっていられたのだ。


「なっ…何だよ!お前!照れるじゃねーかよ!?」


 インベルが訳の分からないテンションでそう言った。

 普段、蒼からそんな言葉をかけられる事が無いので動転していた様だ。


「バッカじゃないの…私達…友達でしょう…助け合うのは…当たり前よ…」


 珍しくアポロも顔を赤くしながら素直に同意していた。

 普段、アポロは蒼とインベルに…特にインベルに対して扱いが雑なのでしゃあなしに二人とつるんでいるのかと思ったらそういう訳でも無かったらしい。


「アポロ…お前、そんな事を思って…」

「あっ、ごめん今の無し、やっぱあなた達は鬱陶しいわ。蒼はウジウジ悩むしインベルは頭パーだし」

「ねぇ?俺達の感動を返してくれませんかね!?」


 インベルは溜まらず叫んだ。

 すると、蒼が突然笑い出した。


「ははははははは!…ははははははは…」


 すると、インベルとアポロも笑い出した。


「ははははははは!」

「ふふ…」


 そんな姿を見て、インベルは蒼もアポロも素直じゃないだけなんだなと思った。

 ローマカイザーというのは思っている事とつくづく逆の事を言うのが好きな様だ。

 要はインベルから見たローマカイザーはメンヘラツンデレ集団だ。

 まぁ、この事は心に留めておくだけで本人達には絶対に言わないが。言ったら間違いなく殺される。


「それにしても…お前らバカだなぁ…向こうに従っていれば痛い目見ずに済んだかもしれねぇのによ…」


 蒼は吐き捨てる様にそう言った。

 少なくとも逃亡した蒼は無理にしてもインベルとアポロには神聖ローマに留まり続けて神聖ローマと共に世界征服をする事も出来たのだ。

 それなのに、彼等は神聖ローマから逃げた。


「バカはお前だ。お前が俺達と同じ立場だったとしても同じ選択をしたさ」

「そうね、あの国に従うくらいならあなたに付いた方がマシだもの」

「そんな事言ってられるのも今の内だ…ルミナスは…強過ぎる…あんなの…勝てる訳ねぇよ…」

「随分と弱気ね…一度負けたくらいで…」

「一度じゃねぇ!俺は…あいつに勝った事なんて…一度もねぇんだよ!」


 蒼は叫んだ。

 そう、むかしからそうなのだ。

 蒼はルミナスに勝った事が一度もなく相討った事すら無かった。

 何度も何度ももがいたが…結局追い付く所か遠退いていって…追い縋る事すら出来ない。


「だから…諦めるのか…」


 更にインベルは続けた。


「諦めて!膝まずいて泣くのか!?」


 インベルにしては珍しく、声を荒げて言った。

 アポロもそんなインベルに珍しくビックリしていた。


「ルミナスをどうにか出来るのは…多分お前だけだ!そのお前が!折れてどうするんだよ!?」

「お前には分からねぇんだよ…ルミナスがどんだけヤバイのか…お前に…同じ相手に一度も勝てずにいる苦しみが分かるかよ!?」

「分かる!俺は…俺だけか…お前をライバルだと思ってたのは…」

「!?」

「俺は…俺だって…お前に一度も勝てないままだ…それでも俺はお前に勝とうと、日々努力してんだよ!お前に勝とうと!俺だって必死にもがいてんだよ!そんな…俺が憧れたお前が…!簡単に心が折れそうになってる…!これを…みすみす見逃せると思ってんのかよ!?」


 インベルは…初めて蒼に会った時からずっと蒼を追い掛けていた。

 そして、共にミルフィーユに弟子入りして一緒に戦っていくうちに一緒に強くなっているのが実感出来た。

 だが、蒼はいつもいつも、インベルの一歩先へ行っていた。

 でも、インベルは負けまいと食らい付き、何度負けても追い掛け続けていた。


「何…言ってんだよ…お前は…」

「やっぱり…お前は俺をー」

「俺は…お前が俺より劣ってるなんて思った事は…一度もねぇよ」

「!?」


 そう、蒼は知っていた。

 自分なんかより、インベルの方が強いという事を。

 蒼はかつて他人と接する事を拒絶していた。

 蒼の事を白い目で見る者達が多くおり、蒼は誰に対しても期待していなかった。

 そんな時にインベルが蒼に手を伸ばしてくれた。

 誰が何と言おうと蒼にとって一番最初の友達は間違いなくインベルなのだ。

 インベルは他人を素直に信じるが出来る奴だった。

 蒼には無い、強さをインベルは持っていたのだ。

 だから、蒼はインベルが自分に劣っているだなんて一度たりとも思った事が無かった。


「あなた達は本当にバカね。根本的な所でズレてるわ。私達は…いえ、皆それぞれ違う強さがある。あなた達はそれをお互いを認め合ってるから友達をやってるんでしょ?…私も含めてね」


 アポロにしては随分と飾り気のない言葉で素直にそう言った。

 そう、それぞれ違う力が、強さがあって、それを認め合ってるからこそ、友として在り続けたのだ。

 だからこそ、蒼とインベルとアポロは今でも友として在り続けているのだ。


「だから、あなたにもルミナスには無い強さが必ずあるわ。私が言うんだから間違いないわ。多分、ルミナスもそれを感じてるから…あなたに魅入られたのかもね」


 アポロもインベルと蒼の事を欠かけがえのない友だと感じている。

 普段は蒼以上にぶっきらぼうで無愛想な彼女だが本当の所、素直になれないだけなのだ。

 けど、こんな状況だからこそアポロは素直に言いたい事を言葉に出来る。

 蒼は少しだけ…二人に励まされて光を取り戻した気がした。


「インベル…アポロ…ありがとな」


 こんなに二人に励まされたとあっては蒼一人が落ち込んでいる訳にも行かなかった。

 前へ進まねばならなかった。


「アポロ、一つ、頼みがあるんだが…いいか?」

「え?」


 アポロは蒼の頼みを聞いた。






 ここはUSW、砂漠に一人、少女が座っていた。


「こんな所にいたんやな、プロテア」

「何?その喋り方、何語?」

「関西弁は立派な日本語や!」


 プロテアのあんまりな言いように美浪は溜まらず叫んだ。


「何の様なの?」


 プロテアがそう言うと美浪はプロテアに拳を向けた。

 プロテアは反応に遅れていた。

 いや、遅れていたというよりはー


「やっぱり…失明寸前やな…特に左眼」

「いつから気付いてたの?」

「三日前、あの戦いが終わってからだよね」


 どうやら、最初からバレていたらしい。

 いや、隠しているつもりも無かったのだが。


「私は…また肝心な時に戦えない…」

「何も戦場で戦うだけが戦いやあらへんと思うけど?」


「ふー、全く以てその通りだ」


 二人の前に現れたのはドラコニキルであった。


「ドラコニキルさん!?」

「………」


 美浪は驚き、プロテアは無言だった。


「君達、礼を言うのが遅れたね。我々を助けてくれた事、礼を言うよ」

「いえ、お礼ならラナエルに…危険を知らせてくれたのは彼女ですし」

「そうだな。そうそう、プロテア…だったかな?何故、そこまで戦う事に拘る?何も戦いとは直接戦うだけではない。指揮官も戦いだ。命令を下すものもまた、別の戦いをしている」

「私には…戦って道を切り開くしか無いのよ。そうする事しか…出来ない…」

「そうか…ならば、そういうやり方が出来ない世界になったらどうする?」

「そんな事が…」

「有り得なくは無いよ?だって、魔族が生まれる前の十二支連合帝国なんかは争いなんかは無かったらしいからね。まぁ、小さな犯罪はたくさんあったみたいだが」


 そう、かつて日本と呼ばれた十二支連合帝国は魔族がこの世に存在する前は争いが比較的少なく、店の店員であったり事務作業であったり、とにかく戦いに縁遠い職業が大半だったそうだ。

 プロテアも話には聞いた事はあったが現実味が無さすぎて実感が沸かなかった。


「皆、それぞれの形で戦ってる。新しい戦い方を見つけないと行けない時は必ずやって来る。今回、君にとってはいい機会だと思うが?」

「いえ…少なくとも…今は…今はダメなの!フローフル達が戦ってる…せめて今回の戦いだけは…私は戦い抜かないと行けないの!確かに…あなたが言うように、いずれは違う戦い方を見つけないといけない時が来るかもしれない。けど、今はまだ、その時じゃない!」


 そう、蒼が戦っている。

 皆が戦っている。

 蒼達が戦うのを止めない限り、それはプロテアにとっては別の戦いを選ぶ時ではない。

 プロテアは誓ったのだ。

 必ず死んでいった者達の分まで幸せになると。

 その為にも蒼達と共に戦って、未来を切り開いて行く事、それこそがプロテアの望む幸せがあるとプロテアは確信している。

 だから、今はまだ、その時では無いのだ。


「そうか…君がそこまで言うのなら…多分まだ変え時では無いのかもしれないね…俺は…君の様に確かな信念を持っている訳では無いから…正直、君達の考えは分からない。けど…不思議なモノだな…そうやって足掻いてもがいてる人を見ると…不思議と…助けたくなるモノだ」


 ドラコニキルはそう言った。

 ドラコニキルはただただ、平穏に暮らしたいだけだ。

 それなのに総帥代理をやらされたり厄介事ばかり押し付けられたりで散々だ。

 ドラコニキルはただの義務感で自分の役割をこなしているに過ぎない。

 だから自分の信念を以て何かを成し得ようとする彼女等の気持ちはあまり分からなかった。

 けど、何故だろう、そんな人達は不思議と眩しく見えるのだ。

 蒼と戦ってから…ドラコニキルの心境にも変化があった様でそういう所も見るようになっていた。


「時神蒼が…そうさせてるのか…」

「蒼は…不思議な人ですよ…人を変えていく力がある」

「なら、その力でルミナスを止めて欲しいモノだな」

「出来ますよ、絶対に」

「そうか…まぁ、俺も時神蒼によって変えられた者の一人だからな…奴に賭けてみるのも面白いかもしれないな」


 ドラコニキルはらしくない事を言っている事は重々承知している。

 だが、今はこの絶望的状況に蒼に賭けてみたくなったのだ。


「我々USWは十二支連合帝国と協力する。そして…神聖ローマを…止める」


 ドラコニキルはそう言って去っていった。


「プロテア…私に出来る事があるなら、協力するね」

「ええ、ありがとう、美浪」


 プロテアと美浪は立ち上がった。






「はー、まさかこんな事になるなんてね~、全く…信じらんないよ…」


 ウルオッサが怠そうにそう言っていた。

 彼は今、闇魔殿(オプスデラカストラ)の近くの砂漠にいた。


「そうね…だからといって…このまま神聖ローマの好きにさせる事は出来ないわ」

「でもさ、ルミナスのやろうとしてる事って形はどうあれ、世界平和だよね?僕は彼女のやり方に賛成かな?」

「あなた、それ本気で言ってるの?」


 ウルオッサの言葉にアルビレーヌは怒りを露にした。


「いやだって…平和ならそれでいいじゃん?」

「人の心を縛り付けるのが平和だっていうの?」

「いや、縛りなんて今でもあるじゃん?それが増えるだけだよ」

「増えるだけで…人も魔族も苦しくなるモノなのよ。心はそんなに安くないわ」


 ウルオッサとアルビレーヌが問答をしているとスープレイガはどうでも良さそうに空を見上げていた。


「スープレイガはどう思うの?」

「知らね、どうでもいいんだよんな下らねぇ事は…俺は戦いたいから戦う。理由なんか入らねぇし気に入らねぇなら叩き潰す。あのルミナスとかいう女は気に入らねぇ。だから叩き潰す」

「レイらしいわね」

「メチャクチャだね…」


 スープレイガはそう言った。

 気に入らなければ潰す。

 スープレイガの行動原理は昔からそうだ。

 ある意味単純な人物である。


「そう言えば、思ったんだけど…スープレイガさんってどうしてアオチーにいつも突っ掛かるんですか?」


 スープレイガの前に突然澪が現れた。


「あ?さっきも行ったろ?気に入らねぇからだよ」

「何が気に入らないんですか?」

「あいつは俺より強いと思ってやがる…俺を舐めた眼で見やがる…そして何より…」


 スープレイガはそのまま続けた。


「何となく…眼が離せねぇんだよ…だからムカつく」

「あー、その気持ち何となく分かります」

「どう言う事?僕全く分からないんですけど!?」

「そうね、蒼は確かにそう言う所があるわね」

「あれ!?僕だけ置いてけぼり!?」


 一人だけ話についていけてないウルオッサは溜まらず叫んだ。

 ウルオッサは蒼とそこまで深く関わった事が無かったので分からないのは当然である。


「アオチーは確かに人を惹き付ける力があるよ…だから…賭けてみたくなる」

「はー、そういうモンかね~」


 ウルオッサは適当な感じでそう言った。


「お前らが時神に期待しようがしなかろうがんな事ぁどうでもいい、けどな、俺は神聖ローマをぶっ潰す!あいつらは気に入らねぇ…」

「レイ…あなたも素直じゃないわね」

「はっ!何言ってんだかな…」


 スープレイガはそのままどこかへ行った。


「じゃあ、あたしも帰る準備をしますか!」


 澪はそう呟いた。





「ごめんなさい…私の力でも…治せないわ…」


 蒼はアポロに慧留の下半身を治して貰おうとした。

 だが、それは無理だった様だ。


「ローグヴェルトの力が強過ぎて、私の力ではどうにも出来ない…屍も同じ様にね…本当にごめんなさい…」

「ううん、気持ちだけでも十分だよ!ありがとう、アポロ。それに私の場合は下半身が無くても両手さえ無事なら戦えるし!」


 確かに慧留の能力であれば両足が使えなくとも戦えはするだろうがそれでも戦闘力は格段に落ちる。


「それにしても…思ったより立ち直りが速かったな時神」

「ああ、お陰さんでな」


 屍が皮肉る様にそう言った。

 ここには屍だけではない、一夜もいた。


「蒼、とにかく、今は時間が無い…残りは長く見積もっても四日…下手したらこれよりも速く動き出す可能性は十分にある」

「ああ、それまでに少なくとも兵士達の士気くらいは回復させないとな」


 十二支連合帝国は今、総帥がいないの状態だ。

 厳陣が死んだ事により、国の士気は低下していた。

 このままでは仮に次に侵攻があった時、あっという間に倒されてしまうだろう。


「どうする?」

「私が…話をします」


 慧留が自分から名乗り出た。


「月影…相手は十二支連合帝国の国民だぞ?お前がどうにか出来るのか?」

「屍…私には夢がある…ここで皆を支えないと、その夢は叶いはしないよ。それに…私は戦う。どんな形でも…例え戦場に出れなくても…皆と一緒に戦うんだ」


 慧留は真っ直ぐな眼でそう言った。


「そうだね、僕らの中だと慧留ちゃんが話をするのが一番いいかもしれないね」

「ああ、むしろ、慧留じゃないと駄目だ」


 一夜も蒼も賛同した様だ。


「なら、ここに兵士達を集めよう」


 一夜はそう言った。





 あれから数時間後、十二支連合帝国の兵士達が四神天城(シシンテンジョウ)跡地に集まった。


「これから何の話をするんだろうな…」

「もう…この世の終わりだ」

「俺達にもう未来は無いんだ…」


 魔道警察官達は非常に弱気であった。


「常森総帥は死んだんだ…もう…終わりだ」

「この演説にだって…何の意味が…」


 そう、これから、慧留が演説を行う。

 皆の士気を取り戻す為に必要な事だ。

 この演説は一夜の計らいにより、USW、ヘレトーアにも中継されている。

 ここから、慧留の戦いが始まる。


「慧留、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ありがと、蒼、皆」

「じゃあ、行ってこい」

「うん」


 慧留は車椅子を動かした。

 そして、魔道警察官達の前へと現れた。


「何だ?女…」

「結構可愛い子だな」

「あれって…」

「足、どうしたんだろ?」

「前の戦いで無くなったとか?」


 魔道警察官達が私語を話し始める。

 慧留は構わずに話を始めた。


「皆さん、ここに集まって貰いありがとうございます。私は…月影慧留、神聖ローマの抜け人で、今は苗木日和というマンションに住んでいます」

「神聖ローマ?」

「え?でも…抜け人って事はもうローマの人じゃないって事?」


 魔道警察官は戸惑うが慧留は話を続ける。


「私は天使です。そして…今は訳あって堕天して…半分は悪魔です。単刀直入に言います。私達、十二支連合帝国はこれから、神聖ローマと決戦します!その為にあなた達の力を貸して欲しいのです!」


 慧留がそう言うと人々はざわめいた。


「ふざけんな!もう…負けたんだよ!」

「常森総帥もいない!どうやって神聖ローマを倒すと言うの!?」

「ふざけんな!てめぇごときに何が出来んだよ!」


 慧留に対する罵倒も聞こえてきた。

 それでも慧留は屈する事なく続けた。


「ルミナスは今、『世界宮殿(パルテノス)』を支配し、人々の心を縛り付け、平和を実現しようとしています。彼女のやろうとしている事は人一人一人の尊厳を奪う事です!」

「だから戦えと!?ふざけるな!死んだらそれで終わりだ!」

「あなたと違って私達には家族がいる!そんな事で命は賭けられない!」


 更にざわめき出した。


「ルミナスのやろうとしている事ですが…私は…それも一つの道であると…考えています。人の心を縛り付けて…平和を無理矢理達成する…そうした方が楽だと…思う自分もいるんです…これはきっと…私の弱さで…皆さんも心からルミナスの思想を反対出来る人は少ないと思います」

「慧留?」


 蒼は慧留の名を呼んだ。

 慧留のさっきの言葉で民衆の空気が変わった。


「私のこの両足は…先の戦いで友にやられました。ですが私は…友に足を潰された事より…その友を止める事が出来なかった自分が…凄く…凄く悔しかったんです…私は…ルミナスのやろうとしている事は少しだけだけど…理解は出来るんです…無理矢理人を従わせた方が楽に決まってる…けど…それでも…人の自由を…尊厳を奪っていい理由にも思えなくて…矛盾してますよね…でも、こうした矛盾した感情は誰にだってあると思うんです。大切な人がいるからこそ、その人を守る為に誰かを傷つけなければならない時がある」


 そう、人はそうした矛盾した感情に苦しめられているのだ。

 誰かを守る為に誰かを傷付ける、それは致し方無い時も勿論あったかもしれない。


「愛があれば…同時に憎しみも生まれます。今は…その憎しみで溢れているのは私にも分かります。しかも…その憎しみは…どこにぶつけていいのか分からない…」


 愛があるからこそ、憎しみは生まれ、その憎しみが更なる悲しみを産み、それが戦争となる。

 戦争が終わり、一時の平和が生まれても、またいつどこで戦争がまた始まるかも分からなかった。


「でも…私は思うんです…愛も憎しみも…きっと意味があるからあるんだって…ルミナスの目的が達成されれば…確かに争いは無くなると思います…けど…そこには何も無い…空っぽの世界なんです…人が感情を持たない…空虚な世界…止まった世界…進歩の無い世界で…ただただ虚しい世界になっていくんです。私は…皆とぶつかって、助け合って生きて行きたいんです!辛い事、悲しい事、体験したくも無い思いは沢山あると思います!ですけど…その感情があるからこそ!人は誰かに優しくも出来る!」


 辛い気持ちが、悲しい気持ちが、憎しみがあるからこそ、人は相手を同じ気持ちにさせたくないという気持ちが働く。

 そこから誰かに優しくする事も出来る。

 だからこそ、人は助け合い、生きていく事が出来るのだ。


「私は…若い!若すぎる!だから…皆さんが…今までどんな辛い人生を歩んできたか…想像する事すら難しいです!でも…それでも人は…理解し合えなくても…分かり合う事は出来なくても…寄り添う事は出来る!私は…皆の自由を…友達を…仲間を守りたい!だから…その為に…その為に…私は…皆と一緒に…歩いて生きたいんです!」


 慧留は涙を堪えながらそう言った。

 いつの間にか、魔道警察官達は皆、慧留の話に耳を傾けていた。

 慧留には演説の技術なんて全く分からない。

 自分の思いを正直に伝える事しか出来ない。


「全く…あれを無自覚にやってるんだから…参るわね」

「そうだね、でも、それが慧留ちゃんって感じ!」


 魔道警察官側にいた薊くるがそう言った。


「辛い事、悲しい事、それは皆と寄り添い助け合えばきっと乗り越えられる!皆、希望を明日を守る為に…力を貸して下さい!」


 慧留がそう言うと魔道警察官達は大声で叫んだ。


「ああ!」

「力を貸すぜ!」

「あいつらに俺達の底力を見せてやろうぜ!」


 十二支連合帝国だけではない、中継で聞いていたUSW、ヘレトーアも同じ様な反応をしていた。


ーやっぱり、凄ぇよ…慧留は…


 蒼はしみじみとそう思った。

 慧留は色んな人達を動かす力がある。

 理想主義者の能天気な奴だが、何故か力を貸したくなる…慧留とはそんな人物なのだ。

 慧留の演説により、十二支連合帝国、ヘレトーア、USW共にどうにか士気を取り戻す事が出来た。

 そして、蒼達は再び立ち上がり、ルミナス達の戦いへと身を投じる事になった。





To be continued

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