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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【最終章】天界叛逆篇
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【最終章】天界叛逆篇Ⅶーloserー

 蒼はルミナスとローグヴェルトの前に立っていた。

 ここは花園神社、古くから存在する十二支連合帝国の神社だ。

 雨は激しさを増していた。


「陛下、ここは私が…」


 ローグヴェルトは蒼と戦おうとするがルミナスがローグヴェルトを制止した。

 そして、ルミナスは蒼を見つめた。

 強い眼になった…ルミナスはそう感じた。

 今までの戦いが蒼を強くさせたのだろう。

 ルミナスはそう感じた。


「ルミナス…」

「久し振り…でも無いわね。何かしら?」

「これは…どういう事だ?」

「見ての通り、戦争よ」

「これをやったのはお前か?」

「あなたから見て、どう思うかしら?」

「ふざけてんのか?」


 蒼は今にも怒りを爆発させそうであった。

 ルミナスはあくまでも惚ける様な仕草をしていた。

 別に蒼を焚き付けるつもりがある訳では無かったがルミナスは蒼がここまで怒りを露にしている理由が理解出来なかったのだ。


「俺の仲間を!俺の居場所を!こんな風にしたのはてめぇかって聞いてんだよ!!!!」


 蒼は霊圧を爆発させた。

 少なくともルミナスが蒼の霊圧がここまで大きく感じた事は無かった。

 ルミナスは少し、嬉しそうな顔をしていた。


「そうよ」


 ルミナスははっきりとそう答えた。

 すると、蒼はルミナスに突撃した。


「こうなっては仕方無いわね…潰していきましょう」

「【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】!!!」


 蒼はさっきまで使うのを禁じていた【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】を発動した。

 蒼の背中には氷の黒い翼が生えており、更に全身には黒い衣に覆われており、両手にはχ(カイ)をあしらった籠手が着いていた。


「【氷菓神刀(クリスタシア・デーゲン)】!!!!」

「【破滅の王剣(ネメア・デーゲン)】!!!!」


 蒼は氷の刃を放ち、ルミナスは翼から長剣を出現させ、光の衝撃波を発生させた。

 ルミナスはまだ【第二解放(エンゲルアルビオン)】を解除していなかったのである。

 二人の刃がぶつかり合い、それだけで周囲の建造物を吹き飛ばした。

 ルミナスと蒼、二人の頂上決戦が今、幕を開けた。

 二人の霊圧は現在、拮抗していた。

 ローグヴェルトは信じられないと言った顔をしていた。

 前までの蒼を知っているローグヴェルトからすれば今のルミナスに互角に渡り合えているのが信じられなかった。

 蒼は取るに足らないガキだった筈。

 ここまで急速に成長しているとはローグヴェルトも流石に驚きを隠せなかった。


「だが…それでも陛下が負ける事など天地がひっくり返ったとしてもあり得んがな」


 ローグヴェルトはそう言った。

 蒼とルミナスの斬撃の応酬は続いた。


「ここまで…成長するとはね…USWで会った時とは比べ物にからないわ」

「そうかよ!」


 白と黒が激突する。

 よく、物語で戦う時や白黒はっきり着けるということわざがある様に、白は勝利と正義、黒は敗北と悪を意味する事が多い。

 だが、今の蒼とルミナスはどうだ。

 白い刃を向けるルミナスが世界を壊す為に戦っている。

 黒い刃を向ける蒼は世界を守る為に戦っている。

 蒼とルミナスに限っては白と黒の立場が逆だと言えるだろう。

 いや、そもそも白も黒も無いのかもしれない。

 ルミナスにはルミナスの正義、蒼には蒼の正義がある。

 二人ともその正義に駆り立てられた普通の人間だ。


「こうなったら…少し剣の速度をあげないとね…【神速剣術(シュエトコンスト)】」


 ルミナスの剣の速度が上がった。

 それだけでは無い、ルミナスは左手にも光の剣を翼から生成し、攻撃してきた。

 ルミナスの動きには一切の無駄がなく洗礼されていた。

 蒼の攻撃も一切の無駄がなく回避していた。

 とても人間の…いやそれどころか魔族の動きですら無かった。


「くっ!?」

「これがローマカイザーの霊術の一つよ」


 ルミナスの扱っている今の術は五代目皇帝、ディユが使っていたローマカイザーの霊術の一つ、【神速剣術(シュエトコンスト)】。

 ディユは剣術の達人であり、この力で当時では最強の剣術使いとして名を轟かせていた。

 蒼はどうにかルミナスの攻撃を回避し、受け流していたが太刀筋が全く読めない上にかなりの攻撃力の為、これでは防戦一方であった。

 蒼の身体は気が付けばかなりの掠り傷があった。

 対してルミナスの身体は全くの無傷であった。

 更にルミナスは右足に長剣を生成し、それを蒼の顔面目掛けて飛ばした。

 蒼はどうにかしてその攻撃を回避した。

 接近戦では分が悪いと判断した蒼はルミナスから距離を取った。

 そして、蒼は一気に勝負を決めるべく霊圧を黒刀に集中させた。

 氷属性と時属性…二つの属性を融合させた極大の一撃だ。


「【χ(カイザー)μπλεπελαν(ブルメラス)degen(デーゲン)】」


 蒼は極大の一撃を放った。

 しかし、ルミナスは翼を盾にし、蒼の極大の斬撃を防ぎきった。


「なっ!?」

「中々の威力ね…けど…私には効かないわ」


 ルミナスは平然としていた。

 蒼のこの斬撃はあのイシュガルを一撃で倒し、パルテミシア十二神と同等の力を持つエスデスにも大ダメージを与えた程の一撃だ。

 それなのに…ルミナスは片翼だけでその一撃を完全に防ぎきっていた。


「フローフル…これでも…まだ私に勝てるっていうの?」

「うるせぇ!【金枝篇(きんしへん)】!」


 蒼は今度は霊呪法を使った。

 蒼は氷の花を出現させ、そこから無数の氷のレーザーが放たれた。

 霊呪法…人間が身に付けた魔を払う力。

 本来なら人間でしか扱えない力だが蒼もルミナスもハーフエンジェルであり、半分は人間だ。

 故に霊呪法を扱う事も可能だ。


「【極楽鳥花(ごくらくちょうか)】」


 ルミナスは白い花を咲かせ、その白い花が無数の白い鳥に変化した。

 白い鳥は氷のレーザーにより凍り付いたが鳥は無数にいた。

 氷のレーザーが対応しきれないくらい多くの鳥がいた。

 やがて鳥は蒼を捕らえ、爆発した。


「フローフル…それは悪手よ…そもそも霊呪法の撃ち合いに貴方が私に勝った事なんて無いでしょう?ああ、それなら剣術でも勝った事が無いわね」


 煙から蒼が出てきた。


「はぁ…はぁ…」


 蒼は全身に血が吹き出していた。

 ルミナスの放った霊呪法は最強クラスの霊呪法だ。

 蒼の放った霊呪法も最強クラスの破壊力を持つのだがやはり霊呪法の撃ち合いもルミナスの方が一枚も二枚も上手であった様だ。


「諦めなさい…あなたに…勝ち目は無いわ」

「はぁ…うるせぇよ…誰が…諦めるかよ…【氷魔連刃(ひょうまれんじん)】!」


 蒼は地面から氷の刃を出現させ、ルミナスに攻撃した。


「【虚神(きょじん)】」


 ルミナスの前に巨大な霊力の盾が展開された。

 その盾が蒼の攻撃を完全に遮断した。

 蒼は呆然とその様を眺めていた。


「嘘…だろ…」

「貴方の力は私には通じないわ…力は付けた…貴方は確かに強い。けど…私には遠く及ばないわ」


 蒼はいつの間にかルミナスの霊圧を全く感じなくなっていた。

 二次元が三次元に一切干渉出来ない様に霊圧も次元レベルに差があると全く感じなくなるという。

 蒼はパルテミシア十二神と同等の力を得ている筈だ。

 その蒼ですらルミナスは軽々と踏み越えてしまうのか。

 ルミナスは蒼よりも…更に上の次元に立っているというのか。


「いや…まだだ!まだ終わってねぇ!」


 蒼は黒刀を弓に変形させた。

 そして、火、水、雷、土、風の五つの属性を矢へと交えた。

 これは蒼の最大の遠距離攻撃だ。

 この攻撃であのオーディンと融合したロキに致命傷を負わせた。

 蒼は矢を弓に変形させた。くっつけた。

 すると、更に闇属性が矢に上乗せされ、六種類の属性が矢に付加されていた。


「【六崩破滅矢(カイザー・エクシー・ヴェロス)】!!!」


 蒼はルミナスに巨大な霊圧の矢を放った。

 空間が歪む程の強大な一撃だ。


「はぁ…フローフル…聞き分けが無いのは相変わらずね」


 だというのにルミナスは蒼の極大の一撃にあまり焦っている様子を見せていない。

 ルミナスは右手に翼の霊力を収束した。

 今回はいつもよりも霊力を溜める時間が長かった。

 そして、ルミナスは右手を振り上げた。


「【破滅の王剣(ネメア・デーゲン)】」


 ルミナスの剣は蒼の矢を真っ二つに切り裂いた。

 すると、蒼の極大の一撃は跡形も無く消し飛んだ。


「嘘…だろ…」


 蒼がそう言った瞬間、蒼の左手足と左側の氷の翼が吹き飛んでいた。

 更に蒼の黒い弓も真っ二つに切り裂かれていた。


「がっ…」


 蒼はそのまま倒れた。

 ルミナスも蒼をここまで傷付けるのは不毛だった様で溜め息を吐いた。


「これで終わりよ。分かったでしょう?貴方に私は倒せない」

「ぐっ!?」


 蒼は立ち上がろうとした。

 しかし、立つ事は愚か剣を握る事すら出来なかった。

 蒼の【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】は既に完全に解除されていた。

 蒼の前にあったのは折れた二振りのエンゲリアス、【氷水天皇(ザドキエル)】と【黒時皇帝(ザフキエル)】であった。


ー痛みが…全く…感じねぇ…


 雨は止まず、激しさを増していた。

 激しさを増した雨はまるで蒼の血を洗い流す様であった。

 ルミナスは蒼に近付き、蒼を見下ろした。

 蒼はそんなルミナスの顔が僅かに見えた。

 蒼はルミナスのその顔を見てまるで…自分が哀れに思われている様であった。

 蒼はその顔を見ても闘志は奮い立てられなかった。

 蒼はそれ程、ルミナスに実力差を見せてつけられた。

 蒼の本気の剣術も、本気の霊呪法も、本気の弓術も…全てルミナスは蟻を踏み潰すかの如く完膚無きまでに叩き潰した。

 ルミナスは蒼の前から離れていった。


「止めは私が…」

「ローグヴェルト…止めは必要無いわ。もう、フローフルには立ち上がる力は残っていないわ。例え私に歯向かう力を持っても…私を倒す事は無いわ」


 ルミナスはローグヴェルトにそう言った。

 すると、ローグヴェルトは剣をしまった。


「分かりました」

「少し予定が狂ってしまったけど…大した問題じゃないわ。『光門(テューア)』を開きなさい」

「畏まりました」


 ローグヴェルトは虚空に左手を指した。

 すると、光の門が出現した。


「蒼!」


 やって来たのは一夜だった。

 一夜の身体もボロボロであった。

 ここに来る途中、神聖ローマの兵士に相当痛めつけられたのだろう。

 一夜は足を滑らせ、転げた。


「ぐっ!?」


 そんな一夜の…蒼の…惨めな姿を見て、ルミナスはどこか哀れむ様な顔をしていた。


「貴方達はもう…無理をする必要は無いわ。私が…世界を一つにするから」

「世界を…自分のものだけにしたいと言っている様にしか聞こえない!君は…君は一体何なんだ!」


 一夜はルミナスに問うた。

 ルミナスはあくまで冷静だった。

 冷静に…答えた。


「私は…愛に…憎しみに…正義に駆り立てられた普通の人間よ。貴方達と何も変わらない」

「何…だと…!?」

「そうね…どうせもう最後よ。私の思いを…フローフルの意識が消える前に話しておいて上げるわ」


 ルミナスはそう言って話を始めた。


「この世界は平等じゃない…四大帝国は大きくなり過ぎた…人口は増え、自国民の利益を優先する様になっていった。そうしなければ民が貧困で飢える。そんな時に我々四大帝国が取った行動は何?それは…小国を踏み潰す事よ。こうして…安寧と秩序を守る為に無秩序を引き起こすという矛盾を産み出す結果となった。私は…そんな世界に絶望していたし、期待も持てなかった」


 そう、ルミナスは幼い頃から悟っていたのだ。

 四大帝国の負の部分を。

 そして、人と魔族は人と人は魔族と魔族は…分かり合う事が出来ないと悟らざるを得なかった。


「分かり合えない…けど…フローフルと出会って私は僅かな希望を見出だしたわ。人は変われる…理解し合える…分かり合える…そう…思っていた時もあった…」


 そう、全てに絶望していたルミナス…そんな時に自分と同じハーフエンジェルである蒼と出会い、ルミナスはお互いに分かり合える事もあると知った。

 だが、ルミナスは分かり合って…そこから愛が生まれたとしてもそれは大きな憎しみになる事を悟った。

 ルミナスは蒼と常に一緒にいるエリシアを疎ましく思っていた。

 妬みから、やがて憎しみにとって代わっていった。

 愛を知れば…同時に憎しみの危険性(リスク)を生む。


「けどね…愛と憎しみは表裏一体…一歩違えばすぐに変わる…そして…憎しみは憎しみを呼び、復讐は復讐を呼び、それがやがて戦争になり、小さな憎しみが積もり積もって…戦争が終わっても勝った側にも負けた側にも憎しみや悲しみを生み出し、そしてまた争いが始まる…」


 ルミナスはそのまま続けた。

 一夜も…意識絶え絶えの蒼もルミナスの話を聞いていた。


       「憎しみの連鎖が始まるわ」


 蒼はルミナスのこの言葉を聞いて、エスデスの事を思い出していた。

 過去から未来へ…憎しみは伝わっていき、それが未来を予感させる。

 蒼はかつて闘ったエスデスの言葉とエスデスの渡った壮絶な過去を今更ながら再び大きく実感する事となった。


「感情があるから…愛があるからこそ憎しみを産み出し、愛があるからこそ、誰かを恨み、憎む要因にもなる…愛があるからこそ…欲望が生まれる…人は…魔族は…憎しみに…そして欲望に支配されている」


 何かを欲し、それを奪い合い、争う。

 大切な人を守る為に誰かを傷付けなければならない。

 誰かを傷付ければ…誰かを殺せばそれをすれば人に殺される。

 愛があるからこそ、憎しみが生まれ、争いは生まれる。

 それが戦争であり、この世界の歴史は憎しみと勝者によって偽られた英断であると知る。

 そこから過去へ…そして未来を予感させ、それが巡り回るのが歴史と知る。


「私は…フローフルを愛してる…だからこそ…私はこの世界を平和にしたいのよ…」

「愛してる人を…こんな風にするのかい?頭がイカれてるよ…君は…」

「それは貴方の倫理観でしょ?愛には様々な形があるわ…その愛が喪失する時…人は憎しみという化け物へと成り果てる…言ったでしょ?私も貴方もフローフルも…いえ、この世界にいる全ての人、魔族はそうやって愛や憎しみに駆り立てられた普通の弱い存在なのよ」


 蒼はエスデスだけでは無い。

 ミルフィーユの言葉を思い出していた。

 あれは、インベルとアポロの三人でミルフィーユの元で修行していた時の事だ。

 ミルフィーユが蒼とインベル、アポロの三人に憎しみについて話し出したのだ。


『この世界は…憎しみで溢れてる』

『憎しみ?』


 インベルはミルフィーユに疑問を浮かべた。

 何故ミルフィーユがいきなりそんな話をするのかが疑問だった。


『てっきり、ミルフィーユ先生は戦う事しか頭に無いんだと思ってました』

『アポロ、君ちょっと辛口過ぎない?』


 ミルフィーユはアポロの発言に少し凹んでいた。

 まぁ、ミルフィーユの普段の言動を見ていては仕方の無い気もするのだが。


『私にだって、憎しみについて考える事があるわ。だから私は無益な殺生はしないわ。憎しみは連鎖するわ。私は戦いが好きだけど…中にはそうは思わない人だっている。それに…殺し合いは楽しくないわ。とはいっても、私がこう思うようになったのはつい最近だけどね』

『ミルフィーユは…憎しみをどうにかするには…どうしたらいいと思う?』


 蒼はミルフィーユにそう問い掛けた。


『それが分かれば苦労は無いよ…私にも、その答えは分からない。君達と出会って私は変わった。それから憎しみについて少しだけ考える様になった。それだけだよ』


 ミルフィーユにも答えは見つかっていない様だった。




 蒼はミルフィーユだけではない、エリシアも似たような事を言っていた事を思い出した。


『この世界には憎しみが蔓延っているわ…私はこれをどうにかしたいとは思ってるんだけど…難しくてね』

『憎しみ?』

『ええ、あなたはどう?あなたを捨てた母を…恨んではいないの?』

『僕は…よく分からないよ』

『そうか…』


 エリシアは複雑な表情をしていた。


『フローフル、あなたはきっと…これから憎しみと戦う事になるわ。あなただけじゃない。この世界に生きる人達皆が…その憎しみと戦ってる』

『なんか…難しいよ』

『私が答えを見つけられなかったその時は…あなたに答えを託すとするかな』


 エリシアのあの言葉の意味が今になってようやく分かった気がした。

 何も変わらない。ルミナスはそう言ったがその通りだった。

 正義は己の主観と価値観で何色にも変わる。

 ルミナスも蒼も結局は己の信じるモノの為に抗う普通の存在だ。

 蒼は分からなくなった。

 今を強く生きても過去と未来が輝かしいモノになると蒼は信じていた。

 エスデスとの戦いで答えを出した筈だった。

 だが…仮にそれが出来たとしても人の思いは止まらない。

 それで本当に平和を掴む事が出来るとは…今の蒼にはとても思えなかった。


「フローフル…貴方はそれでも…憎しみや争いの無い平和な世界を作れると思ってるの?感情があり、愛があり、そこから憎しみや悲しみ、怒りを産み出す。そう…それらを全て無くして統制するしか…この世界を平和にする方法は無いのよ」

「そんなの…ただの偽りの世界だ!」


 ルミナスの主張に一夜はそうはっきりと断言した。

 確かに一夜の言う通りだ。

 この世界にいる存在の心を全て支配して屈服させる。

 それが一番楽な方法だろう。

 だが、人一人一人の尊厳を無視したその行為はただの偽りの平和だ。


「ならば苗木一夜…貴方はどうすれば正解だと思うの?」

「そ…それは…」


 一夜はそこで言葉を詰まらせた。

 一夜もルミナスの言葉にある程度納得していた。

 ルミナスを倒せば、全てが丸く収まる。

 少なくともさっきまでの一夜はそう思っていた。

 しかし、ルミナスの話を聞き、そんな簡単なモノでは無い事が分かった。

 何かを守るには何かを傷付けなければならない。

 矛盾したこの無秩序がこの世界の本質であると悟らざるを得なかった。


「そう…正解なんて無いのよ…この世界に意味を見出だそうとした所で…返ってくるのは絶望と諦めだけ…この世界に最早、価値など無いのよ」

「………」


 蒼は朧気な景色の中、ルミナスを見つめた。

 しかし、遠い、蒼の手からルミナスが遠ざかっている様だった。

 蒼はルミナスの事をかつては尊敬していた。

 何でも出来て、何をやっても蒼はルミナスに勝てなかった。

 けど、そんなルミナスを追い掛けたくて、追い抜きたくて…だからこそ、強くなろうとした。

 なのに、ルミナスはどんどん先に進んでいて近付く所かますます遠くなっていった。

 あれからちっとも差が縮んでいなかった。

 結局、蒼はルミナスから逃げただけなのかもしれない。

 五年前のあの日、ルミナスにちゃんと向き合っていたのならこんな事にはならなかったのかもしれない。

 そもそも最初から、蒼は失敗していたのかもしれない。

 ルミナスはいつの間にか変わってしまっていた。

 いや、蒼はルミナスの事を何一つ見えていなかった。


「私は…世界の為…そして何より…フローフル…貴方の為に私はこの世界を変えるのよ」


 蒼はルミナスに何かを言おうとしたが、既に血を流し過ぎている上に意識も絶え絶えなこんな状態で声など出る筈も無かった。


「納得の行かない者達もいるでしょうね。けど、私の計画が成功すれば、誰も反対する者はいなくなるわ」

「力で…支配している様なモノじゃないか…」

「それを言うのならば…選挙で選ばれる者も英雄も…力のある者が選ばれているわ。社会性だろうが民主制だろうが独裁政治だろうが…それは変わらないわ。勝利という名の光に民衆はひれ伏し、従うしかない。私がやろうとしているのはその勝者達と何も変わらない」


 世界を、歴史を変えてきた者は皆、勝者達だ。

 独裁者だって勝ち続けてさえいれば必ず英雄扱いされた者もいただろう。

 革命だってそうだ。

 革命家が国を変えれば英雄扱いだが負ければ賊軍扱いだ。

 同じ革命家でも勝ったか負けただけで片や英雄と呼ばれ、片や賊軍呼ばわりされる。

 この世界は間違いなく歪んでいる。

 歪んで捻れて不条理で無秩序だ。

 そんな無秩序と不条理の波に飲まれ、憎しみに支配されている。

 それはこの世界に生きる者達が大なり小なり背負っている。

 ルミナスも蒼も根本的には同じなのかもしれない。

 だが、ルミナスと蒼はこうして、違う道を歩んでいる。

 交わって闘ったが、蒼は無惨にもルミナスに破れ去った。

 これが結果だ。ここでルミナスが『世界宮殿(パルテノス)』を掌握し、世界を完全に支配すれば間違いなく英雄扱いされるだろう。

 それはそれで一つの道なのかもしれないと蒼は感じ始めていた。

 人間は魔族は…そこまで意思の強い生き物では無い。

 断固として誓った筈なのに敗北を受ければその意思も簡単に挫かれ、勝利という美酒に酔いしれる。


「これが…最後の悲しみの雨になるでしょうね…私は…この悲しみを全て包み込む。この間違った世界を正す」


 ルミナスはそう言ってローグヴェルトと共に光の門へと入っていく。

 止めなければならない、止めなければならないのに…

 身体が動かない、声が出ない、力が抜けていく。

 まただ、また失敗してしまった。


「フローフル、苗木一夜…貴様らが何をしようが…我々を止める事は出来ない。もし、次に我々に刃向かえば…その命、無いと思え」


 ルミナスとローグヴェルトはそう言い残して去っていった。

 二人がいなくなった瞬間、更に雨が激しさを増した気がした。

 仲間を助けられなかった、昔の仲間を止められなかった、自分の居場所をメチャクチャにされた。

 それだけでは飽きたらず敵に完膚無きにまで叩き潰された。

 何一つ、成し得る事が出来なかった。


 何の為にここまで強くなった?

 何の為にここまで来た?

 何の為に生きてきた?

 何の為に……

 何の為に…

 何の為に

 何の…


 何も…何も守れなかった。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 蒼は叫んだ。いつまでも…いつまでも…


 雨は更に激しさを増し、蒼の悲しみと呼応して強くなっている様であった。

 蒼は叫びながらも泣き続けた。

 蒼の涙する姿を見たのは一夜にとって初めてだった。

 そんな蒼の姿を見て、一夜は目を伏せ、悲しみに暮れる事しか出来なかった。

 一夜は己の無力さを思い知る事になった。


 涙するのは悔しいからだ。

 涙するのは悲しいからだ。

 涙するのは己の無力さを呪うからだ。

 涙するのは希望にすがるからだ。


 嬉し涙というのもあるが今の状況ではそんな事は有り得ない。

 蒼はただただ、自身の無力さを呪うしか無かった。

 悲しくて辛くて苦しくて…そんな感情が一気に襲い掛かる。

 心にぽっかりと穴が空くというのは…こういう感覚なのだろうか。

 蒼は五年前のあの時と同じ感覚を今、改めて味わう羽目になった。

 五年前と…結局の所何一つ、少しも変わってなどいなかった。

 蒼にとって…それは絶望するに余りあるものだった。


 雨は止まず、死んでいった血を洗い流していった。

 争いを癒す、ほんの一時の恵みの雨であり、そして悲しみを孕んだ悲しい雨でもあった。

 雨は不吉な予感をさせる。

 だが、今回のはそんな生易しいモノでは無かった。

 不吉な予感をさせるだけであればどんなに優しかった事か。

 ただただ、己の悲しみ、無力感を再確認させるだけのものだった。

 今までの事が全て無駄に感じてしまえる程のそれだけ強い悲しみと絶望感、それが一気に襲い掛かる。

 今回の戦争も死傷者は膨大となり、十二支連合帝国、ヘレトーア、そしてUSWに大きな痛みを残した。

 ヘレトーアはそうそうに降伏した為、今回の戦争では被害は殆ど無かったものの、前の第四次世界大戦によりヘレトーアの被害はUSWや十二支連合帝国よりも甚大であった為、既に壊滅寸前であった。

 神聖ローマの今回の被害はセラフィム騎士団を三名倒す事には成功したものの、それ以外の被害はほぼゼロであり、はっきり言って圧勝と言ってもいい。

 神聖ローマが実質四大帝国の一強状態になっており、最早、均衡を保ってはいない。

 これを気に燻っている小国達がまた戦争を引き起こすかもしれない。

 武力で何でもかんでも屈服させ続けたツケがここに来て回ってしまった。

 全て、神聖ローマの思い描いた通りのシナリオへと動き出していた。

 ルミナスは十二支連合帝国総帥、常森厳陣を殺した。

 今回の戦いで最も大きな打撃を受けたのは十二支連合帝国だろう。

 USWは幸いにもドラコニキルが生きていた為、辛うじて国の崩壊は防げるだろう。

 だが、十二支連合帝国はそうもいかない。

 ヘレトーアも被害は甚大であり、神聖ローマ以外の三国は最早、国力を維持する事は愚か、国の存続までもが危うい状態となっていた。

 世界は…神聖ローマに負けたのだ。

 こうして、十二支連合帝国、USW、ヘレトーアは神聖ローマ一国に惨敗する形でこの戦いは終結した。





To be continued

 はい、タイトルと展開的にお察しかもしれませんが、蒼がルミナスにフルボッコにされました。劇中で蒼とルミナスが交戦するのは本編では二度目となりますがいずれも惨敗してます。蒼にとって最大最強の宿敵、それがルミナスです。蒼はこれまで殆ど負けることはありませんでしたが、このルミナスに対してはいずれも惨敗。これからどうなるんでしょうね?今回はルミナス達セラフィム騎士団完全勝利に終わりました。何気に敵側が終始完全勝利するのは初めてな気がします。

 平和って何なんでしょうね?人によって平和の形って違うから争いが起こるとも言えます。ルミナスの目指す平和と蒼の目指す平和は徹底的に違っていて多分、ぶつかった所で平行線になります。というか、実際なってました。蒼がこれから立ち向かって行くモノです。最終章らしく、手強い相手となっています。

 今回で大体話の四分の一くらい終わりました。あくまで話の四分の一で話数の四分の一ではないです。これから新展開へと突入していきます。それではお楽しみに!

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