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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【最終章】天界叛逆篇
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【最終章】天界叛逆篇Ⅲーrejectー

 蒼達はUSWに到着した。

 ここ、USWは夜が極端に長く、更に全体的に砂漠が多い地域だ。

 USWの首都であるここ、ネオワシントンも例外では無く、砂漠が広がっていた。

 ただし、闇魔殿(オプスデラカストラ)からはかなり距離があり、走る必要がある。


「酷い…」


 美浪はそう呟いた。

 辺りは死体だらけだったからだ。

 全員、黒の軍服を着てるので恐らくUSWの兵士だ。

 最早、これは戦争ですらない。ただの殲滅だ。


「この切り口…間違いねぇ…ミルフィだ」


 蒼はミルフィーユの弟子だ。

 彼女の戦い方は大体理解している。


「確か…闇魔殿(オプスデラカストラ)にドラコニキルさんが幽閉されてるんでしたよね?」

「その筈です」

「さっさとそいつを助け出しましょう。速い方がいいわ」

「プロチンの言う通りだね」

「プロチン?」


 澪が付けた変なあだ名がプロテアにとっては凄く嫌そうであった。


「じゃあ、行くよ!」


 澪がそう言うと蒼、プロテア、美浪、黒宮の五人は走り出した。

 見た目より距離があり、かなり遠かった。


「かなり…遠いな…」

「どれくらいで着くかな?」


 蒼達は走り続けた。

 一時間位走り続けてようやく城の付近に辿り着いた。

 言うまでも無いが城に近付けば近付く程、死体は増えていっていた。


「容赦無しですね」

「ミルフィはそういう奴だ。だが、あいつは戦う事が好きなんであって殺すのが好きって訳じゃねぇ…実際、致命傷は避けてるしな。それでもこれだけの死者がいるって事は誰かが別で止めを指してるな」

「筋金入りの戦闘狂ね…あなたの師匠は」

「強い奴と戦うのが生き甲斐になってるからな、あいつは。多分、あいつはルミナスの目的なんか毛ほども興味が無いんだろうな。強い奴と戦えればいいわけだし」


 ミルフィーユの様な相手が一番厄介だ。

 それは蒼が一番自覚している。


「おっ…そろそろ着くな」


 そこにはミルフィーユ、ノヴェルト、クラッカー、アルダールがいた。

 蒼達は近くの岩影に隠れた。


「ちっ、やっぱりミルフィーユか…」

「あれは…!」


 慧留はクラッカーを見て驚愕していた。


「慧留?どうしたの?」

「あいつは…ローグヴェルトを殺した人だ…でもあの人は元反乱軍なのに…何でセラフィム騎士団に…しかも天使じゃなくて吸血鬼だし」


 そう、慧留はクラッカーと会った事がある。

 それも最悪の形で。

 ローマ聖戦の時に現れた元反乱軍の『ミネルヴァ』のリーダーだった女性だ。

 ローグヴェルトを一度殺しているのだ。


「そう言えば…ローグヴェルトは死んだのに生き返ったって言ってたな…」


 蒼はローグヴェルトの事を思い出していた。

 確か、ローグヴェルトはルミナスが生き返らせたと聞く。

 ルミナスの能力はまだまだ未知数だ。


「どないする?」

「そうですね…ん?あれは…」


 黒宮がある事に気が付いた。

 すると、美浪も気が付いた様だ。


「あれは…ドラコニキルさん、アルビレーヌさん、ウルオッサさん!?」


 美浪がそう言うと蒼達は美浪と黒宮の見てる方を見た。

 すると、そこには黒髪のストレートヘアーと白と黒のオッドアイが特徴の男、ドラコニキルと白人の小柄な男性で緑色の髪と瞳が特徴の青年、ウルオッサと黒がかった茶色のセミロングに茶色のたれ眼でのほほんとした感じの印象が目立ち服は白いワンピースを着ていた少女、アルビレーヌが傷だらけで磔にされていた。


「本当にやられてたんですね…スープレイガさんは確か、任務でここにはいない様ですが…最悪やられた可能性がありますね…」

「磔にされてる所を見ると…恐らく生きてるわ。何としても助け出さないと…」


 蒼達が話しているとアルダールが蒼達のいる方へと向いた。


「そこにいるのは分かっている。出てこい」


 アルダールがそう言うと蒼とプロテアと美浪と澪と黒宮が出てきた。


「へぇ~、まさかフローフルが来るなんてね~。ルミナスの言った通りだね~」

「ミルフィーユ…陛下と呼ぶかルミナス様と呼べ!」

「指図しないでよ~私、一応アンタより立場は上なんだよ?」

「貴様の様な戦闘狂より立場が下だと思うと苛立ちを隠せんな…」

「それ、どういう事かな?」

「察しろバカめ」

「………まぁいいか。こんな話してても拉致が開かないし…」


 先程からミルフィーユとアルダールが口喧嘩をしていたが収めたようだ。


「ミルフィ…」

「今度は敵としてだね…フローフル…」

「やっぱそうかよ…」

「私の性格…知ってるでしょ?」

「まぁな…」

「じゃあ、始めようよ…【第二解放(エンゲルアルビオン)】…」


 ミルフィーユは剣を地面に捨てた。

 すると周囲に竜巻の乱気流が出現した。


「いきなり【第二解放(エンゲルアルビオン)】かよ!?」

「【朧弦月(おぼろげんげつ)風騎士宮殿(ラファエル・パラスト)】」


 ミルフィーユは手で風を操った。


「【第二解放(エンゲルアルビオン)】!」


 髪は白く染まっており、全身に白い衣を纏っていた。


 背中には水色の翼が左右に生えており、頭上には五芒星の形をした輪っかが出現していた。


「【アルカディアの氷菓】」

「あれ、使わないの?【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】ってやつ」

「うるせぇ!」


 蒼はロキに言われた言葉を思い出していた。

 蒼は現在、【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】を使えない…いや、なるべく使いたくないというのが本音だ。

 少なくとも切り札を易々と出すモノでは無い。


「舐められたモノだね…」

「【氷魔天刀(シュネー・デーゲン)】!」


 蒼はミルフィーユの風を凍り付かせた。


「…やるね」

「そう言うお前も…本気出してねぇだろ!」

「なら…私があなたに本気を出させて上げるよ!」


 蒼とミルフィーユの戦闘が始まった。

 蒼とミルフィーユの戦闘の中、ノヴェルトとクラッカーが慧留達に攻撃を仕掛けてきた。

 美浪とクラッカーが激突し、澪とノヴェルトが激突した。


「さて…私の相手は君達二人か…」


 アルダールは黒宮とプロテアを見た。

 プロテアは剣を構え、黒宮も構えていた。


「止してくれよ…私は…セラフィム騎士団ではあるのだが…戦闘力は大して高くは無いのだよ」


 アルダールがそう言った。

 どうやら、嘘は吐いてはいないようだ。


「まぁ、口では何とでも言えますよ」

「そうですね…なので…君達の能力を封じさせて貰いますね。【第二解放(エンゲルアルビオン)】」


 アルダールは本を取り出し、その本が変形した。


「【愚者の本棚(ビブリオテック・アルマハト)】」


 アルダールの本が本棚へと変形した。

 その瞬間、プロテアの鉄の剣が消え、更に黒宮の影も消えた。


「「!?」」

「私のエンゲリアス、【全智天使(ラティエル)】は全ての知識を検索に掛ければ全てを知る事が出来る。まぁ、インターネットの拡張版と思ってくれていい。私の【第二解放(エンゲルアルビオン)】はもう少し踏み込んだ能力でね…【全智天使(ラティエル)】で解析した能力を全て封じ込める事が可能なんだよ。まぁ、封じ込められる容量には限界はあるが…君達二人の能力を封じ込めるくらい訳無いよ」

「なっ!?」


 黒宮は驚愕していた。

 つまり、【全智天使(ラティエル)】で調べた能力は全て無効化する事が出来るという訳だ。


「何が…戦闘力は低いよ…チートじゃない…」

「言ったろ?私に出来るのは解析して封じるのみ…解析した者の能力が使える訳でも無い。出来る事があるとしたら…」


 アルダールは本棚から本を取った。

 そして、本に文字を書いた。


「同士討ちをさせるくらいさ」


 アルダールはプロテアと黒宮に自身が書いた字を見せた。

 内容は「プロテア・イシュガルドと黒宮大志の二人で殺し合う」と書かれていた。

 その文字を見た瞬間、プロテアと黒宮が殴り合い始めた。


「「!?」」

「この私の本に書いた内容は現実になる。まぁ、即死させる様な命令は出来ないけど…精々二人で殺し合ってくれたまえ。あっ、後は武器を用意しないとね」


 アルダールは紙に剣を二振りと書いた。

 すると、剣が二振り出現し、黒宮とプロテアは剣を持ってお互いに斬りかかった。


「くそ!?」

「何よ!これ…!?」


 アルダールの【第二解放(エンゲルアルビオン)】は自身の領域内に敵が入ればほぼ無敵である。

 アルダールは天使親衛隊(フィーア・エンデ)候補者になった事がある程の男だ。

 戦闘力は高くないが能力は間違いなくセラフィム騎士団上位に入る。


「さてと…私はゆっくりと本でも読んでおこうかな…」


 アルダールはそう言って腰掛けて読書を始めた。

 本来なら今の内に敵の情報を調べ上げたい所だがそうする為には【第二解放(エンゲルアルビオン)】を解除する必要がある。

 そうしてしまえば彼等に掛けている術が解けてしまう。

 だからこそ、ここで様子見をするしかない。


「ふ…精々殺し合うんだね…」






「はぁ!」


 蒼は氷の衝撃波を放ち、ミルフィーユの風を凍り付かせた。

 しかしらミルフィーユはすぐに氷を風で砕き、その風で蒼に攻撃を仕掛けた。


「【無限乱風(ヴィンド・ツァルロス)】」


 無数の風の乱気流が蒼に襲い掛かる。

 これではまるで風の爆弾だ。


「うおおおおおおおおお!!!!」


 蒼は風を凍り付かせ、更にー


「【金枝篇(きんしへん)】!!!」


 蒼は霊呪法を放ち、ミルフィーユに攻撃した。

 氷の花が咲き、そこから無数の氷のレーザーが放たれた。

 しかし、ミルフィーユは全ての攻撃を綺麗に回避した。


「綺麗な霊呪法だね…氷の花か…花のモデルは名前の通り、エニシダかな?」

「どうだかな…」


 エニシダというのは金枝篇の別名であり、恐らくエニシダという呼び名の方がイメージしやすいかもしれない。

 蒼の霊呪法である【金枝篇(きんしへん)】はミルフィーユの言う通り金枝篇がモデルの霊呪法だ。

 九百番第の霊呪法は天使の【第二解放(エンゲルアルビオン)】や悪魔の【悪魔解放(ディアブル・アーテル)】と同等、或いはそれ以上に渡り合える強力な霊呪法ばかりだ。

 中でも強力な九百九十番第の霊呪法は全てでは無いが花の名前が由来となっている事が多い。


「不思議だね…こうやって…師匠と弟子が殺し合うなんてね…」

「俺はお前とは違う。俺は戦いに来たんじゃねぇ。ルミナスを止める為に来たんだよ」

「そう、でもルミナスを止めるのは簡単じゃ無いわよ?」

「そんなもん分かって…」

「そうじゃないわ…ルミナスは…あなたの想像を絶するモノがある…」

「どういう事だよ?」

「ルミナスを止めるのは…ほぼ不可能よ」

「やって見ねぇと分からねぇだろ!?」

「なは…まずは私を一瞬で倒せる程強くないとね」

「くっ!?」


 ミルフィーユはとっくに気が付いていた。

 蒼が本気で戦う事を躊躇っている事に。

 そして、躊躇っている理由も。


「フローフル、あなたもしかして…【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】が使えないの?」

「!?」

「やっぱり…そうなのね…」


 そう、蒼は何故か【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】が使えなくなっていたのだ。

 しかし、今まで【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】を使用しても身体に変調をきたす事は無かった。

 ロキとの戦いからだ。

 あの戦い以降、フローフルはまともに【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】が使えなくなった。

 いや、使えない事は無いのだがまともに形を維持出来ずに長時間使うと勝手に解除されてしまうのだ。


「そんな状態で…ルミナスに勝てるなんて本当に思ってるの?」

「それでも…やらねぇと行けねんだよ!」

「はー、やっぱりあなたはバカ弟子ね…まぁ、そういう所は嫌いじゃ無いけどね」


 ミルフィーユは蒼に風の突風で攻撃した。

 ミルフィーユの風はそれ自体が営利な刃物と同じであり、例えるなら鎌鼬の様なのだ。

 そんなミルフィーユの攻撃を何度も喰らう訳には行かない。

 風が吹き荒れる場所に必ず隙間が発生する。

 そこを突けば何とかなる。

 蒼の氷属性とミルフィーユの風属性とでは氷属性の方が強い。

 とは言え、相性上では蒼の方が有利だが今まで蒼はミルフィーユに勝利した事が無い。

 今、蒼がやろうとしている事も賭けに近い。


「霊呪法第九百九十番【胡蝶蘭(こちょうらん)】」


 蒼は霊呪法を放った。

 すると、地面から炎の花が咲き乱れ、無数の火柱を出現させた。


「炎?まさか…そんな高等霊呪法を修得してたなんてね…」


 ミルフィーユはとても楽しそうな顔をしていた。


「行くぜ…」


 蒼がそう言うと蒼はミルフィーユに突っ込んでいった。

 ミルフィーユは戦闘が始まってから一歩も動いていなかった。

 つまり、動かずに蒼と互角に戦っていたという事だ。

 だが…ミルフィーユとてこの状況では動かずにはいられないだろう。


「これは…」


 ミルフィーユは蒼のやろうとしている事に気が付いた。

 ミルフィーユの風が蒼の発生させた火柱に吸い寄せられていたのだ。

 風は気圧の低いところへと流れる。

 ミルフィーユの能力が風である以上、それは例外では無い。

 ミルフィーユは完全にがら空き状態であった。


「悪いが…俺はお前みたいに戦いを楽しむ趣味はねぇ!この一撃で終わらせる!」


 蒼はミルフィーユの眼前へと迫っていた。

 しかし、ミルフィーユは全くと言っていい程焦っていなかった。

 むしろ…


「いいね…フローフル…楽しくなってきたよ…」


 笑っていた。

 追い詰められている筈なのに。

 ミルフィーユはこの状況を心底楽しそうにしていた。

 ミルフィーユは戦闘狂…それは蒼も十分理解していた。

 だが、自分が死ぬかもしれないこの状況を楽しむなんてやはりミルフィーユは普通では無かった。


「言ったでしょ、フローフル?私は生と死が入り交じる本気の戦いが好きだって」


 ミルフィーユはそう言った。

 確かに、蒼はミルフィーユにかつて、何故戦いが好きなのかを問い掛けた時があった。

 ミルフィーユの異常な戦いへの拘りを蒼は気になっていたのだ。

 ミルフィーユは昔は戦いを退屈に感じていた。

 何故ならミルフィーユは幼少の頃からその圧倒的な強さゆえに大概の敵を瞬殺していたからだ。

 だが、セラフィム騎士団に入り、自身と互角の力を持つ者達が多く存在し、戦争を繰り返していく内にギリギリの戦いに快楽を見出だす様になった。

 ミルフィーユは生きるか死ぬか分からないギリギリの戦いを好む様になった。

 端から見ればミルフィーユはマゾヒストにしか見えないだろう。

 だが、ミルフィーユはその容赦の無い力で敵を捩じ伏せてきた。

 要はミルフィーユにとって戦いとはゲームのそれなのだ。

 やがてミルフィーユはまた戦う相手がいなくなる事を拒む様になり、無益な殺生はしなくなった。

 しかし、それでも死ぬ者はいたが。

 それから時が経ち、ミルフィーユはフローフルと出会い、その後、インベルと共に弟子として迎え入れ、アポロも弟子にした。

 今まで弟子を持った事もないし戦う事が生き甲斐な自分が弟子を持つなど考えた事が無かったが育てるというのも悪くないと感じる様になった。

 そして…その弟子と本気で戦える事にミルフィーユは悦びを感じていた。


「うおおおおおおおおお!!!!」

「はぁあ!!!」


 ミルフィーユは風を纏ったパンチで蒼の刀を受け止め、そのまま激突した。






 美浪とクラッカーは激戦を繰り広げていた。

 クラッカーは魔獣を呼び出した。

 美浪は徒手空拳で戦っており、【神掛(カミカカリ)】を使って戦っていた。

 獅子の姿をしており、闇色の不気味な姿をしていた。


「これが…吸血鬼の使い魔…」

「私はルミナス様の為に…負けられないわ…」


 クラッカーの瞳は虚ろであり、まるで心が無いようであった。

 美浪はクラッカーのその姿をとても不気味に感じた。

 まるで、今の彼女はまるで人形の様であった。


「これはおかしいやろ?ルミナスに…何かされたんか?」


「【レグル】…」


 クラッカーがそう言うと獅子の姿をした使い魔の身体がバラバラになり、クラッカーの身体を中心に再構成され、鎧となった。


「そもそも…セラフィム騎士団は天使しか入れないのに…どうして…」


 クラッカーはセラフィム騎士団の白装束を着ている。

 セラフィム騎士団の入団条件の一つとして天使の最終奥義である【第二解放(エンゲルアルビオン)】修得が絶対条件の筈である。

 なのに、何故クラッカーはセラフィム騎士団にいるのか。


「私は…ルミナス様より…新たな力を頂いたのだ…」


 クラッカーはそう言って構えた。


「【第二解放(エンゲルアルビオン)】」

「え?」


 クラッカーがそう言うとクラッカーの霊圧が跳ね上がった。

 そして、クラッカーの姿が変化した。

 まるで猪と獅子が融合した様な化け物の姿となっていた。


「【獅子天使(ヘルヴィム)】」

「何で…吸血鬼が…【第二解放(エンゲルアルビオン)】を…!?」


 クラッカーは魔力では無く、霊力を纏っていていた。

 吸血鬼は悪魔に近い種族だ。

 故に本来なら魔力を使う筈なのだ。

 なのに、クラッカーは【第二解放(エンゲルアルビオン)】を使った瞬間、霊力を纏う様になっていた。

 これは最早、クラッカーがルミナスに何かされたのは明白であった。


「【身体強化(フィジカルエンチャント)】!」


 美浪は【神掛(カミカカリ)】に加えて【身体強化(フィジカルエンチャント)】を発動した。

 【神掛(カミカカリ)】とは自身に神を憑依させ、身体能力を向上させる能力だ。

 美浪は今までフェンリルの魂を身体に纏わせる事で絶大な力を発揮していたのだ。

 【身体強化(フィジカルエンチャント)】は単純に自身の能力を強化する能力だ。

 美浪は直感した。今目の前にいるクラッカーはヤバイと。

 美浪は慧留からクラッカーの話に聞いた事がある。


「【天時飛(アマシタカ)】!」


 美浪は時間を飛ばしてクラッカーを殴り飛ばした。

 突然、時間を飛ばしたのでクラッカーも反応しきれずに飛ばされた。

 かなり吹き飛ばされた筈なのだがクラッカーは殆どダメージを受けていなかった。

 クラッカーの身体はかなりの霊圧硬度を誇っている。


「そんなものは効かない」


 クラッカーは美浪目掛けて突進した。

 動きが速すぎて美浪は回避出来ずクラッカーの突進を直撃してしまった。


「きゃあ!?」


 美浪はそのまま吹き飛ばされた。

 美浪は額から血が流れており、しかもさっきの一撃で肋が折れてしまった。

 美浪も肉弾戦を主体とする為、相当頑丈な筈なのだがクラッカーの身体の霊圧硬度がそれを上回っていた。


「うっ!?」


 美浪は身体の治りが人並み以上に速いだけで即座に傷を治癒する事など出来はしない。

 このままで戦うしかない。


「【狼砲(ろういづつ)】!」


 美浪は両手に霊圧を込めてクラッカーに霊力の砲撃をぶつけた。

 更に美浪は【天時飛(アマシタカ)】でクラッカーと距離を詰め、更に殴り飛ばした。


「!?」


 流石のクラッカーも驚いた様で一瞬だけ怯んだ。

 美浪は拳に霊圧を乗せ、その一撃をクラッカーに叩き込んだ。

 クラッカーはそのまま吹き飛んだがそこまで吹き飛ばなかった。


「そんな…何て硬さなんや?」


 美浪は全力で攻撃した。

 なのに、クラッカーの身体は少し切っただけだった。

 あまりにも硬すぎる。


「行くぞ」


 クラッカーは再び突進をした。

 美浪は時を飛ばしてどうにかクラッカーの攻撃を紙一重で回避していた。

 逆に言えば美浪程の動体視力を持ちながらも時を飛ばさねば回避出来ない程だという事だ。

 美浪の時飛ばしも他の時間を操る能力の例に漏れず一回使うだけでかなりの霊力を消耗する。

 突進の速度がかなり速いのも厄介だがそれ以上にあの身体の硬さだ。

 霊圧硬度が相当高く、慧留の攻撃力ではあの硬さを破るのはかなりの困難であった。

 美浪はクラッカーの身体を掴み、持ち上げて投げ飛ばした。更に上空へ飛んで一撃を放とうとしたが、逆にクラッカーが空中へ飛び、上空にいる美浪を突進してしまった。


「がはっ!?」


 美浪は血を吐きながら吹き飛ばされた。

 美浪は空中から派手に落下した。


「ゴホッ…ゴホッ…」


 慧留はかなりのダメージを受けていた。


「うっ!?」


 クラッカーがゆっくりと美浪に近付いてくる。

 圧倒的であった。

 クラッカーの戦闘力は慧留と会った時より遥かに向上していた。

 美浪の霊力ももう、底を尽きそうであった。

 次の攻撃で決めなければ美浪は間違いなく負ける。


「【双狼拳(そうろうけん)】!」


 美浪は時を飛ばしてクラッカーの真上に移動し、そのまま空中の落下を利用してクラッカーに一撃を叩き込んだ。

 落下の力と美浪の霊圧でクラッカーは相当なダメージを受けている筈だ。


「くっ!?」


 クラッカーはそのまま美浪の攻撃の餌食になった。


「はぁ…はぁ…」


 ギリギリであった。

 後少しで負ける所であった。

 美浪は安堵仕掛けた…しかし…


「なっ!?」


 クラッカーは生きていた。

 しかも、大きなダメージは受けていなかった。

 身体のあちこちにヒビは入ってるものの、そこまで深いダメージは受けていなかった。


「今のは…少しだけ危なかった…だが、私の改造天使の前では無意味だったな」


ー改造天使!?


 聞き慣れない言葉を聞いた美浪は一瞬動きを止めた。

 しかし、それが命取りとなってしまった。

 クラッカーは突進して美浪を三度吹き飛ばした。


「かはっ!?」


 美浪は咄嗟に魔力の盾を張った為、即死は避けられたが身体全身の骨が砕けていた。

 更に美浪の【神掛(カミカカリ)】が解除されていた。

 美浪の霊力は既に限界が近かった。


「うっ…」


 美浪は全身の骨を砕かれ、最早動く事すら出来ない状態であった。


「所詮は…この程度…ルミナス様の前では全ての人間は…魔族は…ひれ伏すしかない…」


 美浪は身体を起こそうとするが骨が砕かれている状態でそんな事が出来る筈も無かった。


「く…まさか…ここまで強いとは…今までとは…次元が違う…」


 神聖ローマは十二支連合帝国やUSW、ヘレトーアと同じ四大帝国だ。

 これらの力はほぼ同等と言われ、この四国により、世界全体の平和が保たれていた。

 だが、今はどうだ。美浪は曲がりなりにも蒼達と共に十二支連合帝国、USW、ヘレトーアと対等に戦ってきた。

 なのに神聖ローマのしたっぱ一人に手も足も出ない。

 神聖ローマは四大帝国最強と名高かったのは事実だがここまで手も足も出ないのは予想外であった。

 これ程の力を今まで神聖ローマは隠して来たのだ。

 今回の戦いの為に。

 それに、クラッカーの話を推測するに神聖ローマは何らかの実験を行っていた。

 改造天使など聞いた事が無い。

 恐らく、クラッカーはその改造天使とやらの実験体なのだろう。


「貴様らが戦ってきた敵など我々に比べれば些細なモノだ…私は…ルミナス様と出会い、()()()()()()()…そして…私はルミナス様の為に生きる事こそが指命」


 先程からクラッカーの話し方に全く抑揚が無かった。

 ルミナスの洗脳する術か何かである事は間違いない。


「!? まさか…他の全ての小国が無条件降伏をしたのも…ルミナスが…」


 美浪はそう考えていた。

 いや、そうとしか考えられなかった。

 第四次世界大戦終結後、殆どの小国は四大帝国に降伏したものの、いくつかの国は降伏しなかったのだ。

 その国の対処は神聖ローマに一任したのだ。

 神聖ローマに一任するのは自然の流れであった。

 他の三国は戦争で相当疲弊していたのに対し、神聖ローマは疲弊が少なかったからだ。

 いくつかの小国は当たり前の様にルミナスに降伏した。

 その小国を取り込むのもルミナスの狙いだとしたら…

 つまり、ルミナスは第四次世界大戦で他の三国を疲弊させつつ、降伏に応じない小国を取り込むのが狙いだったという事になる。

 第四次世界大戦は最初から最後までルミナスの計画通りだったという事になる。

 全て、ルミナスの掌の上に転がされていたに過ぎないのだ。

 三国だけではない、小国もあのプラネット・サーカスすらもルミナスに弄ばれていただけだったのだ。

 十二支連合帝国、USW、ヘレトーア、その他の小国、プラネット・サーカス…全てルミナスの自由自在に操作されていたのだ。

 美浪は改めてルミナスの恐ろしさを感じていた。


「さて…どうやって…あなたを殺そうか…まぁ、踏み潰して殺した方が手っ取り早い」


 クラッカーがゆっくりと美浪に近付いて来ていた。

 このままでは美浪はクラッカーに殺されてしまうだろう。

 他の仲間達も随分と離れた場所で戦闘をしている。

 この状況では仲間からの助けなど期待出来ない。


ー折角…一夜さんが私を生かしてくれたのになぁ…


 美浪はそんな事を考えていた。

 美浪は擬流跡土という、プラネット・サーカスの一人に命を繋がれていた状態だった。

 彼が死ねば美浪も死ぬ。そういう仕組みだった。

 美浪は跡土を単独で倒し、そのまま死を迎える筈だった。

 しかし、一夜が美浪を助け出す方法を発見し、美浪は死なずに済んだのだ。

 美浪は自分の命を繋ぐ事となった左薬指にはめられていた銀色の指輪を見た。

 この指輪は一夜から贈られた大事な指輪だ。

 美浪はこの指輪を見ながらこれから死んで行く自分に涙した。


「御免なさい…一夜さん…御免なさい…皆…私、もう…」


 美浪は死を覚悟した。

 もう、動く力も気力も残っていない。

 後はクラッカーに踏み潰されるのみだ。


「死ね」


 クラッカーは美浪を踏み潰そうとした。

 しかしその瞬間ー


 突然光が現れ、美浪を今踏み潰そうとしていたクラッカーの右足が切り飛ばされた。


「なっ!?」


ー一体…誰が…


 美浪の前に一人の人影が現れた。





To be continued

 早速、激戦となりました。今回は蒼達がUSWに再び行く話となりました。ついに外伝の伏線を回収する時が来ました。神聖ローマは今まで殆ど戦いに参加してなかったので(意図的にそうしてました)今回の話で存分に神聖ローマが暴れてくれる事でしょう。

 そして、今回はアルダールの【第二解放(エンゲルアルビオン)】を披露しました。ちょっと強過ぎるかなとも思いましたが最終章なので。実際の所、神聖ローマとプラネット・サーカスどっちが強いんだ?って話ですよね。まぁ、結論から言うと総力はプラネット・サーカスの方が上です。が、天使親衛隊とローグヴェルト、ルミナスの六人は別次元の強さを持っています。まぁ、彼等の強さは時期に分かると思います。

 それでは、次回またお会いしましょう!

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