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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
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【第十章】道化狂乱篇ⅩⅩⅨーawakingー

 蒼は暗闇にいた。

 蒼の目の前に水色の長い髪の少女と黒色の髪の長い少女がいた。


「前とは随分と姿が違うんだな…ザドキエル、ザフキエル」

「そうね、あなたは【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】の状態でここへ来るのは初めてだったわね」


 水色の長い髪の少女、ザドキエルがそう言った。


「あなたはこれから…私達の最後の力を使う事になるわ!」


 黒色の髪の少女、ザフキエルがそう言った。


「最後の…力…」

「私達に出来るのはここまでよ…後は…自分で考えなさい」


 ザドキエルはそう言って白色の鞘を出現させた。


「それは…」

「あなたは今まで…私の力を全開にして戦った事は無かった…あなたが使っていた力はザフキエルの力…私の力を全開にする事で…あなたは本来の力に目覚める…」


 ザドキエルはそう言った。


「けど…覚えておきなさい!大き過ぎる力には必ず代償があるものよ。あなたは…その代償を支払う事になるわ!」


 ザフキエルがそう言った。


「引き下がるなら今よ」

「ザフキエル…俺の選択はもう…決まってるんだよ…」


 蒼はそう言った。

 そう、蒼はもう、覚悟を決めているのだ。

 エンゲリアスにわざわざ問答をする程でも無い。


「分かってるの!?この力は…」

「代償があるんだろ?話の流れ的に分かる。この世は等価交換…か…錬金術みたいだな…」


 蒼は薄ら笑いを浮かべながらそう言った。

 何かを得る為には…何かを犠牲にしなくてはならない。

 蒼はそんな事は分かっていた。

 だが…一つ言えるのはこのまま蒼が何もしなければ間違いなく蒼は死ぬ。

 そうすれば悲しむ者もいる。

 蒼にとって死など怖くはない。

 だが…それで今までの罪を償えるとはどうしても思えなかった。

 自分が死ぬ事で全て丸く収まるのであれば蒼は喜んで死を選んだだろう。

 だが…それでは駄目なのだと…思うようになった。


「希望を持つ事は…時として絶望を産み出すわ。あなたはそれで良いの?」

「希望を持つ事が間違いだなんて…俺は思わない。そんなのは絶対に違うって言える。何度だって言い返せる」

「人はそうして…一つの希望を得る為に億の絶望を味わって…消えていった」

「けど、掴み取った奴がいる。だからこうして世界は今も生きてる」

「もしかしたら…明日には滅ぶかもしれない…」

「この世界は…絶対に終わらせない」

「そう言いきれる根拠はどこにある?」

「そんなの知るか!俺が終わらせたくないから…皆がこの世界を終わらせたくないから終わらせないだけだ!自分の限界は自分で決める!」


 蒼はザドキエルにそう言った。

 そう、蒼はいつだってそうしてきた。

 絶望だって何度も味わってきた。

 しかし、その度に乗り越えてきたのだ。

 仲間と共に…そして…己の力で。


「そうか…ならば…良いのね?」

「ああ」

「少し前まではただの小僧だったのに…随分と成長したモノね」

「全くよ!あの…月影慧留とかいう奴のお陰なのかしらね?」

「そうかもな…」


 勿論、慧留だけではない。

 蒼の仲間達が蒼をここまで連れてきてくれた。

 皆の力で蒼はまた新しい道を歩むことが出来た。

 一人では出来ない事も皆とならやってこれた。

 上手くいかない事もあった。

 仲間が死ぬ事だってあった。

 けど、それでも蒼は前へ進んでいられた。

 多くの犠牲でこの世界は成り立っている。

 それは紛れもない事実だ。

 だが、それにより繋がる命だってきっとある。


「例えどうなろうと…俺は絶対に諦めない!プロテアが…慧留が…一夜が…屍が…美浪が…皆が!俺を待っているから」


 蒼の真っ直ぐな眼を見て、ザドキエルは少しだけ微笑んだ。


「あたしはもう消えるわ!アンタの答えを十分聞けたしね!もう会う事も無いから最後に一言言っとくわ」


 ザフキエルは蒼に背を向けて少しだけ顔を覗かせてこう言った。


「ありがと」


 ザフキエルはそのまま消えていった。

 素直じゃない奴だと蒼もザドキエルも思った。

 ザフキエルが消えた瞬間、世界は暗闇から青空へと変わった。


「………」

「あなたの本来の力はこの鞘によって封じられてる…これが…本当の…【氷水天皇(ザドキエル)】よ」


 ザフキエルはそのまま消え去った。

 残ったのは白い鞘だけであった。

 蒼はゆっくりとザフキエルの残した鞘へと向かった。

 蒼はこれまでの事を思い出していた。

 全ては…運命だったのかもしれない。

 蒼は自分の生まれなんかどうでも良かった。

 誰かを守る力があれば…それだけで良かった。


「俺は…」


 蒼は鞘へと手を伸ばした。

 すると鞘は光輝いた。





「はぁ!!」


 蒼はロキの出現させた空間の穴を凍らせた。


「!?何…だと…!?」


 ロキは蒼が空間の穴を凍らせた事に驚いていた。

 まだこれ程の力が残っていたのかとロキは思った。


「行くぜ…」


 蒼は左手に鞘を持った。

 その鞘は蒼の左手から突然現れた。

 その鞘は雪の様に真っ白であった。


「【再起動(ジプノータス)】」


 蒼は鞘に黒刀を入れた。

 すると、鞘が消え、黒刀は真っ白になった。


「【第二解放(エンゲルアルビオン)】」


 蒼は再び【第二解放(エンゲルアルビオン)】を発動した。

 蒼の周囲から黒と水色の霊圧が迸った。

 更に上空から光が蒼に向けて放たれた。


「何だ?まさか…」


 蒼は姿を表した。

 蒼の右手には黒刀、左手には蒼色の刀の二本の刀を持っていた。

 更に背中には霊力で出来た翼が左側のみに生えており、蒼かった。

 そして、服はシンプルな黒い衣を纏っていた。

 しかし、左足と右手は欠損したままであり、ギリギリの状態であった。


「行くぜ…」


 蒼はそう言うとロキの眼前へと迫っていた。


「何!?」


 蒼はロキを攻撃した。

 ロキはそのまま吹き飛ばされた。


「くっ!?」


 ロキはすぐに態勢を立て直し、空間の穴を出現させた。


「これで…終わりだよ!」


 ロキは再び蒼を異空間へと飲み込もうとする。

 しかし、蒼は左側に生えている翼を展開して逃れた。


「何!?」


 更にロキの左肩を切り裂いた。


「がっ!?」


 更に蒼は翼から霊力の羽根を発射した。


「くそ!?」


 ロキは空間に穴を開け、蒼の攻撃を全て防いだ。


「!?」


 蒼は両手の刀に霊圧を放ち、ロキに接近した。

 ロキは回避しようとしたが逃げ切れなかった。


「はああああああああああああああああああああ!!!!」


 蒼はロキを真っ二つに切り裂いた。


「ぐああああああああ!!!!」


 ロキはそのまま爆散した。


「はぁ…はぁ…」


 ロキが爆散したと同時にロキの空間が消え去り、蒼は元の世界に戻った。

 辺りには誰もいなかった。

 慧留達のいる場所とは別の場所におり、ここには蒼しかいなかった。

 蒼は肩膝を着いて倒れた。

 更に蒼の【第二解放(エンゲルアルビオン)】が解除され、蒼は元の姿に戻っていた。


「!?…何だと?」


 蒼は驚愕した。

 何故なら…周囲の塵が集まった。

 すると、ロキともう一体の機械仕掛けの人形が姿を表した。

 ロキは両眼を閉じており、更に第三の眼も消えていた。

 もう一体の機械仕掛けの人形もボロボロになっており、今にも崩れ去りそうであった。


「ふっ…これまで…か…」


 ロキがそう言うと機械仕掛けの人形…オーディンが塵になり始めた。

 どうやら、オーディンは完全に死んだ様だ。

 ロキは蒼の言葉を思い出していた。

 過去でも無く、未来でもなく今を歩いていきたいと…そう言った。

 嘘も真実も無くてはならないモノだと。

 世界は回り続けるのだと…

 この世界を…託した者を守り続けると…そう言ったのだ。


「くそ…」


 蒼はロキと再び戦おうとしていた。


「そう構えるな…僕にはもう…戦う力は残っていないよ…辛うじて身体を再生させたけど…どうやら死をほんの少しだけ遠ざけたに過ぎないらしい…」


 眼が見えない状態でもロキは蒼の動きを把握していた。

 だが、彼の言っている事は嘘では無さそうだ。

 ロキの身体が塵になり始めた。


「残念だよ…君が絶望する顔を見れなくてさ…」


 ロキは蒼に毒づいた。

 ロキは本当に心底残念そうにそう言った。


「………」


 蒼は黙ってロキを見ていた。


「これ以上は何をやっても無駄だね…僕はもう…死ぬ…けど…最後に無駄な事をするとしようかな…」


 ロキはそう呟いた。


「無駄な…事?どういう事だ?」


 蒼はロキの言葉の意味が分からなかった。

 ロキは立ち上がり、塵となったオーディンの残骸をかき集め、ボロボロの鍵を精製した。

 そして、ロキは蒼にその鍵で殴りかかった。

 蒼は水色の刀、【氷水天皇(ザドキエル)】を手に取り、ロキの鍵を防いだ。






「ここは…」


 蒼は自身の精神世界にいた。


「ここが君の精神世界か…蒼い…実に蒼い世界だね」


 ロキが蒼の精神世界に現れた。


「ロキ…てめぇ…何で!?」

「言ったろ?無駄な事をするって…君が本当に戦いを続けるのならこれから君はルミナスと戦う事になるだろうね…だから…ルミナスの目的を教えておこうと思ってね」

「!?」

「ルミナスは…『世界宮殿(パルテノス)』を乗っ取り、支配する事が目的のようだ…恐らく、五年前のローマ聖戦もこの現世と『世界宮殿(パルテノス)』を繋ぐ為の実験だ。そして…この戦争の目的も僕の両眼を奪う事だった」

「何でルミナスはお前の両眼を奪う必要があったんだ!?」

「僕の両眼が…『世界宮殿(パルテノス)』へ行くために必要だからだよ」

「何…だと!?」

「恐らく、ルミナスは『世界宮殿(パルテノス)』へと行く準備を完了している。後は『世界宮殿(パルテノス)』へと行く重霊地に向かうだけだ」

「重霊地?それはどこだ?」

「重霊地は四ヶ所…ここまで言えば…分かるね?」

「まさか…」

「そう、重霊地は…USWのオワシントン、ヘレトーアの精霊城(ラウフ・カルス)、そして…十二支連合帝国の…トウキョウだよ」

「要するに…ルミナスは四大帝国を敵に回すって事か?」

「さぁな…いずれにせよ、ルミナスはこの三つの内のいずれかを狙うだろう」

「一ヶ所だけか?」

「この三ヵ所は言ってしまえば入り口のようなモノだ。一ヶ所だけの筈だよ。まぁ、彼女の事だ全て狙う可能性もあるかもしれないがな…」


 ルミナスは恐らく全ての条件が整っている。

 ならば、すぐに『世界宮殿(パルテノス)』に行こうと動く筈だ。


「それに…彼女はどうやら、この戦争で四大帝国を疲弊させる事も目的の一つだった様だね。恐らく、この戦争終結後すぐにでも動き出す」

「何で…お前は俺にそんな事…」

「さぁね…言ったろ?無駄な事をしたくなったと…特に意味は無いよ…」


 ロキはもう死ぬ。

 この世界がどうなろうが知った事では無い。

 なのに、ロキは蒼にルミナスの目的を教えた。


「気紛れだよ…」

「お前らしいな…」


 蒼は呆れる様にそう言った。

 ロキは常に考えが読めない。

 蒼が今まで戦ってきた敵は理由は違えど何かしらの目的や理由があり、蒼はそれを感じ取っていた。

 戦っている時は夢中だから終わってから気が付く事が多いのだが、強い相手であればある程、その思いは強いのだ。

 ロキは強かった。なのに…蒼はロキからは何も感じなかった。

 ロキの考えも思考も全く読めなかった。


「結局…僕は何がしたかったのか…自分でも分からなかったのかもしれないね…嘘は…己を見えなくする…そのせいで自分の目的が消えてれば世話は無いがね…」


 結局、ロキも自分の事が見えなくなっていた様だ。

 だが、それ以前からこの様に狂気に満ちた性格である事も事実のようだ。

 ロキは文字通りのピエロの様だった。


「躍り狂ってバカやって楽しむのがピエロなら…醜くカッコ悪く死ぬのもピエロさ…ふふふ…君が絶望に満ちた顔を見れないのは本当に残念だ…だからせめて…君に絶望の一筋を与えただけさ」

「悪いが…俺はお前の思い通りにはならねぇ!俺は…ルミナスを止める!」

「倒す…では無いのかい?」

「そうだ。俺はあいつを止める」

「そうかい…ならば…好きにするんだね…僕は君に絶望への道標を示しただけだ。ああ、そうだ。君に忠告しておくよ。その力、あまり使わない方がいいよ?君も…()()()()()()()()()

「!?」


 ロキの言葉に蒼は驚愕していた。

 ロキの身体が消え始めた。


「まぁいいさ。僕は『世界宮殿(パルテノス)』で君の絶望した顔を見ているとするよ…君が…()()()()()()()、どんな顔をするか…楽しみだ…はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…」


 ロキは嗤いながら消えていった。


「!」


 蒼は気が付けば現実世界に戻っていた。


「俺は…」


 蒼は空を見上げた。

 空は綺麗な青空であった。

 この空を守れたのならば…それが平和へと繋がる…蒼はそう思った。

 何が正しくて間違っているのか…今の蒼には分からない。

 だが、運命と世界と戦う事は出来る。

 蒼はこの戦争で一つの答えを出した。

 だが、それで終わりではない。また、蒼には新たな戦いが待ち受けている。


「俺は…」


 蒼は何かを言おうとしたがもう、身体が限界に来ていた。


ーやべ…意識が…


 蒼はそのまま倒れて意識を失った。







 第四次世界大戦は終結した。

 役十万の兵士の内、役半分が犠牲となった。

 プラネット・サーカスは壊滅し、手を組んでいた小国も降伏した。

 これにより、結果的には四大帝国の勝利に終わった。

 だが、その代償はあまりにも大きかった。

 特にヘレトーアには甚大な被害が出ており、ほぼ壊滅に近い状態であった。

 フォルテ・セイントが死んだのがとにかく痛手であった。

 USWの『七魔王(セブン・ドゥクス)』も二名死亡するという事態が引き起こり、メンバーの約半数が死んだ。

 更に十二支連合帝国も被害が出ていた。

 四宮舞、赤島英明、兎神審矢が殉職し大きな影を落とした。

 戦争終結後、ルミナスを中心に戦後の後始末をし、一週間が経過した。






 プロテアはフォルテの墓に来ていた。

 ここはヘレトーアの妖精達が住む森であり、自然豊かであった。


「プロテア…」

「フローフル…」


 蒼はプロテアの隣に立った。


「友達…だったんだよな…」

「ええ…」


 プロテアは涙を滲ませていた。

 五十年前に別れて以降、プロテアとフォルテは殆ど話せなかった。

 ヘレトーア戦争の後も一応、プロテアとフォルテは和解したがそれ以降、話せなかったのだ。

 プロテアはそれを悔いていた。


「折角…仲直り出来たと思ったのに…死ぬなんて…」

「………戦争だったんだ…人も魔族も…沢山死んだ…俺達が生きてるだけでもラッキーだった………てそんな簡単に割り切れねぇよな…」


 蒼は知っている。

 戦争で大切な人を失った悲しみを、痛みを、苦しみを。


「戦争は…憎しみの連鎖だ。争いは憎しみを生み、憎しみはまた戦いを産み出す、そしてまた憎しみ…憎しみの連鎖だ…俺達は誰もが…その憎しみと戦っている…」

「ええ、そうね…結局…復讐は新たな戦いを生むだけのモノにしかならない…でも…頭では分かっていても…」

「ああ…それが憎しみだ。理解してても納得は出来ない…感情が…赦してはくれない…」


 プロテアもかつては復讐者だった。

 自分の全てを奪った四大帝国に復讐をしようとしていた。

 そしてこの戦争で、両親の仇であった四宮舞が死んだ。

 プロテアは舞の死を知って最初に沸き起こった感情…それは…

 満足感でも悦びでも無かった…

 悲しさと虚無感だけだった。

 そう、プロテアは分かっていたのだ。

 復讐をしても生まれるのは虚しさだけだという事を。

 それでも人や魔族は同じ事を繰り返してしまう。

 憎しみがそうさせるのだ。

 そう、この世界は…憎しみに支配されているのだ。


「歴史はいつだって…勝者によって塗り替えられてきた」

「それが歴史だ…負ければ何も変えられないのは…いつの時代も同じだ」


 だけど、蒼は勝者が全て正しいとはどうしても思えなかった。

 それはプロテアも同じだ。


「私達は…正しかったのかしら?」

「それは…俺にも分からねぇ…仲間も沢山失った…けど…ここで止まったら…それこそ…皆の死が無駄になる」

「そうね、私達は止まれない…」

「ああ」


 プロテアと蒼は決心した。


ーフォルテ…あなたの出来なかった事を…私が引き継ぐ


 託されたモノを受け継いでいく、それが生きる者が死人にしてやれる唯一の救いだ。

 蒼を始め、この戦争で生き残った者達はこの戦争で死んだ者達に未来を託されたのだ。


「俺は…仲間を絶対に死なせはしない!」


 蒼はそう呟いた。


「私も、もうこれ以上は誰も死なせない!だから…もっと、もっと強くなる!」

「俺もだ…俺も強くなる」


 蒼はそう言った。

 そう、誰かを護る為には強さが必要だ。

 誰かを護る為には…強くなるしか無いのだ。


「フローフルは…何でヘレトーアに来たの?あなた、十二支連合帝国に戻ったんじゃ…」

「俺は…今回の戦争で死んでいった奴等の墓を回ってたんだよ。さっき…USWにも行ったよ」


 蒼は今回の戦争で死んだ者達の墓を回っていた。

 この痛みを忘れない為に…そして何より、死んでいった者達を…忘れない様に。


「プロテアはこれから、どうするんだ?」

「私は…この後十二支連合帝国に戻るわ」

「そうか、俺も十二支連合帝国に戻る。もう、回り終わったしな」

「そう…」

「なぁ…あの時の事…」

「ああ、昔、私とあなたは出会ってたのね…」

「やっぱり、お前も忘れてたのか」

「ええ、不思議なモノね…こうして…またあなたと巡り会うなんて」


 そう、不思議なモノだ。

 二人は出会い、そして別れ、年月を経て再び巡り会った。

 まるで…誰かに仕組まれていたかのようだ。

 いや、もしかしたらこれこそが…本当に神の仕業なのかもしれない。

 二人の出会いはただの運命では無く、必然であったのかもしれない。


「俺は…プロテアに助けられたんだよな…あの時」

「私もあなたに救われた」


 蒼はプロテアに昔助けて貰い、言葉も教えて貰った。

 プロテアも前にあったイシュガルドの一件で蒼に救われた。


「これから何があろうと…俺達はずっと一緒だ」

「ええ、そうね」


 蒼がそう言うとプロテアは笑顔でそう言った。


「じゃあ、行きましょうか」

「そうだな」


 蒼とプロテアはフォルテに別れを告げ、そのまま去っていった。






 慧留は一人で十二支連合帝国の墓に立っていた。

 街の復興が進み、前と殆ど変わらない状態まで戻っていた。


「月影…」


 慧留は後ろから声が聞こえたので振り向いた。


「屍…」


 そう、そこにいたのは屍であった。


「墓参りか?」

「そう言う屍は?」

「俺もだ」


 そう、屍は殉職した赤島と兎神の墓参りに来ていた。

 屍の後ろにはくると薊もいた。


「くる、薊も…久し振り」

「ええ、久し振りね」

「慧留ちゃん、久し振りだね」


 慧留が二人に挨拶すると二人とも返事を返した。


「犠牲というのは…いつになっても慣れないモノよ」

「そうだね…」


 薊の言葉に慧留は頷いた。


「しんちゃんもひでちゃんも…最後まで立派に戦ったんだよ…」

「ああ、そうだ。英明も審矢も…最後まで戦い抜いた」


 屍がくるの言葉に同意した。


「今日のお墓は随分と賑やかだね~」


 また人がやって来た様だ。

 やって来たのは澪だった。


「常森」

「シカちゃん久し振り…でも無いか。皆も」

「音峰さん…ですか?」

「うん、まぁね。でも、今回はそれだけじゃないよ。今回の戦い…人がいっぱい死んだからね…」


 澪にしてはかなり珍しい辛気臭い顔をしていた。

 戦争で多くの命を落としたのだから当然と言えば当然だった。


「私、戦いに勝てば…勝ちさえすれば…全部丸く収まるのかと思ってた」


 慧留はそう言った。

 実際、慧留は蒼達と出会ってから勝つ事で今までは何とかなっていたのだ。

 だが、今回は違った。

 今回は勝ちはしたが多くの犠牲者が出た。

 その上、小国からも多くの悼みや悲しみを訴えられた。

 慧留は自分の考えの甘さをこの戦争で思い知った。

 差別の無い平和な世界を創りたい…それが慧留の望みだった。

 そして、それは少しづつ、出来てきている気がしていた。

 だが、そうではなかった。

 それ所か、慧留は自分の周りの事しか見ておらず、小国達の苦しみを見れていなかった。

 平和とはそう簡単なモノでは無いのだ。

 慧留は四大帝国の存在が小国にとっての暴力である事に気が付いていなかった。

 ならば、変えて行かねばならないと慧留は思った。

 もっと、広い世界を見て、差別の無い平和な世界を創りたいと、慧留はそう…より一層強く願う様になった。


「でも、違うんだよね。勝つだけじゃ…相手を倒すだけじゃあ…何も解決しないんだよね。今回、それが分かったよ」

「月影…お前…」

「私のやろうとしてる事は多分すっごく無謀で甘い事なんだと思う。けど…それでも私は!皆を助けたい!平和に…この世界をより良くしていきたい!」


 慧留は真っ直ぐな瞳でそう言った。

 慧留はいつだって…誰かの為に生きている。

 そんな慧留の生き方が不器用で眩しくて…人を惹き付けるのだろう。


「全く…お前は筋金入りのバカだな…けど…それでいいのかもな…」


 屍は呆れながらも慧留を称賛した。

 慧留の様に一つの信念を貫き続けられる者はそうはいない。


「ふふ…あなた、昔から変わってないわね」

「慧留ちゃんは本当に真っ直ぐだね!」


 薊もくるも屍と同じような反応をしていた。


「えるるんは真っ直ぐでかっこいいね~。えるるんがもしかしたら…この世界を変える架け橋になるのかもしれないね」

「そうなれるかどうかは分からないですけど…なれる様になります」


 慧留は知っている。

 望めば、願えば…前へ進めば…出来ない事は無いという事を。

 失敗も恐らくするだろう。

 だが、それでも必ず出来る。

 それを教えてくれたのは蒼なのだ。

 慧留は蒼がいたからこそ、真っ直ぐに突き進む事が出来るのだ。


「だから…歩き続けるよ…進み続ける…」






「一夜さん…お墓参り…行かなくてもいいんですか?」


 美浪が一夜にそう言った。

 二人は現在、一夜の家にいた。


「僕はそんな柄じゃないんだよ…それに…葬式には出た。わざわざもう一回行く必要は無いよ」

「一夜さんらしいですね…」

「そう言う美浪君はどうなんだい?」

「私は行きましたよ、一人で。まぁ、私はこの戦争が終わったら確実に死ぬと思ってたんでまさか自分がお墓に埋まる側じゃなくて行く側になるなんて思わなかったです」


 そう、美浪はこの戦争が終われば死ぬ筈だったのだ。

 プラネット・サーカスの一人であった擬流跡土と美浪は命が繋がっており、跡土が死ねば美浪も死ぬ筈だった。

 しかし、一夜が美浪を助け出してくれた。


「僕の大事なお客さんである以上、簡単に死なせないよ。君だけじゃない、蒼も、慧留ちゃんも、屍も、プロテアも…蛇姫君もくる君もね」


 一夜は今苗木日和に住んでいる人達の名前を言った。

 そう、一夜は絶対に仲間を死なせないと誓ったのだ。

 一夜は蒼達と共にする事で平穏な日常から脱した。

 一夜は日常から脱したかった。ただそれだけだった。

 だが、蒼と出会って美浪と出会ってそれが変わり始めたのだ。

 やがて慧留や屍達、プロテアと出会い、そして彼等と共に戦う内に一夜の心境にも変化が現れ始めた。

 一夜は自分のマンションに住まわしているお客さん達に誰一人死んで欲しくない。

 それは単なるお客さんだからではない。

 一夜はあくまでお客さんと表現しているが仲間として一夜は彼等を守りたいと思うようになった。


「一夜さんらしいですね」

「僕らしさって何さ?」

「普段は掴み所無くて皆を引っ掻き回す事が多いけどいざという時は皆の為必死になる…それが一夜さんです」

「そんなはっきりと言われると照れるね…」

「? 本当の事を言ってるだけですよ?」

「ははは…僕は…結構薄情な人間だと思ったんだけどね…」

「自分にとって無関心な人に対してはそうですね」

「辛辣だね…」

「それでいいじゃないですか…皆平等に優しく出来る人間の方が少ないと思います。それくらい割り切ってる人の方がいいと思います。そういう事は他に出来る人にやらせておけばいいんですよ…」

「慧留ちゃんや蒼みたいな人に…かい?」

「そうですね。彼等みたいな人達にそういう事はやらせておけばいいんですよ」


 美浪も一夜も蒼と慧留の凄さは知っていた。

 彼等には彼等にしか出来ない事がある。

 だが、美浪も一夜は知っている。蒼や慧留に出来ない事が自分達には出来る事があるという事を。


「そうだね、役割ってのがあるからね。出来る人に出来る事任せるのが賢い選択だ。そして…その賢い選択を導くのが僕の役目だ」

「そうですよ~。私には私にしか出来ない事をやりきります」

「所で美浪君、何故僕の家に?」

「ちゃんとお礼を言えてなかったので…助けてくれてありがとうございます」

「止してくれよ…僕は別にお礼を言われる様な事はしていないよ…けどまぁ…素直にその気持ちは受け取って置こうかな」


 別にお礼を言われる為に行動した訳では無いがお礼を言われるのは悪い気はしなかったので一夜は美浪の言葉を素直に受け取る事にした。


「所で一夜さん…パソコンで何を見てるんですか?」

「ああ、それはね…今回の戦争で…いくつか引っ掛かる事があってね」

「引っ掛かる事?」

「ああ、恐らくだが…戦いはまだ終わっていない」

「え?」


 一夜あの第四次世界大戦に違和感を感じ取っていた。

 だからこそ、一夜は今回の戦争の情報を集め回っていた。


「怪しいと思う所はいくつかあってね…まず一つはこの戦争は最初から最後まで神聖ローマが有利になる様に動かされていた」


 一夜はこれが一番怪しいと思っていた。

 そう、今回の戦争は実質神聖ローマの一人勝ちなのだ。

 他の国はそれぞれ重要な人物が死んでいるにも関わらず神聖ローマは死傷者が最も少なかった上に重要人物は一人も死んでいない。

 戦争全体で見ても神聖ローマが有利になる様に計算されていたのだ。


「二つ目はやはり小国が一斉降伏した事だね」

「それってそんなにおかしいですか?要であるプラネット・サーカスが壊滅すれば他の国は小国も降伏するのは普通だと思いますけど…」

「確かにそうだが向こうも国の命が掛かっている状況だ。何ヵ国は抵抗する筈なんだ。なのに…抵抗した国が一国も無かったというのは妙な話なんだよ」


 そう、小国も戦争で国の存亡が掛かっているのだ。

 確かに要であったプラネット・サーカスが壊滅して降伏するのは当然だが中には抵抗する国も存在する筈なのだ。

 それが一国も無く、すんなり進んだというのだ。

 それにー


「後始末を全てローマがやったのにやはり違和感がある…どうも…神聖ローマはキナ臭さが感じるね…」

「考え過ぎじゃないですか?」

「いや、蒼からルミナスの事を予め聞いてはいたけど…あれは相当キナ臭いよ」

「確かに…普通じゃない感じはしましたけど…」


 一夜も美浪もルミナスの事はある程度は蒼に聞いているし直接会った事もある。

 確かにルミナスからは底知れぬ何かを美浪も感じてはいた。


「彼女は何かをしようとしている。そして…この世界を崩壊させかねない何かをね」

「一夜さんがそこまで言うなんて…」


 ルミナスは何かをしようとしている。それは間違いない。


「まぁ、とは言え何をしようとしているのかは僕にも分からないけどね。あくまでも可能性の話さ」

「それにルミナスは神聖ローマの皇帝ですからね~。いくらルミナスの目的が分かっても証拠が皆無じゃ動けないですよ」

「問題はそこなんだよね…僕の今やっている事も状況証拠を探しているに過ぎないしね」


 いくらルミナスが怪しいと踏んでいても彼女が皇帝である以上、彼女に探りを入れるには制限が掛かる。

 それに状況証拠だけでは動くにも動けない。

 ルミナスが事を起こす前に止めるには彼女を追い詰めるだけの証拠が必要だ。

 それに、彼女は歴代の皇帝の中でも最強と謳われ、神聖ローマの内乱を収め、統一を成した。

 そんな彼女を妥当しようと思えば他のローマの者達が黙ってはいないだろう。


「一夜さんは…ルミナスの事をどう思ってるんですか?」

「正直な話、悪人とは言えないと思うよ。けど、正しいとは思えない」

「よく分からないです」

「そうだね、僕も自分で何を言ってるのかさっぱりだ」


 一夜は自嘲するようにそう言った。


「戦争が終われば…全てが終われる訳じゃ無いんですね」

「そんな甘いもんじゃないよ。戦争が終わって、勝ったものが全て正しいのなら…この世の中はもっと単純(シンプル)だったさ」


 そう、歴史とは勝者が作り上げて来たものだが、この世界が成り立っているのは敗者がいるからなのだ。

 勝利だけが全てなら人も魔族も誰だって生きる道を間違えたりはしないだろう。


「そうですね…」

「戦いは終わらないよ…多分、ずっとね」


 一夜はそう言った。





To be continued

 とうとう、戦争篇も次で終わりです。次以降は最終章に入ります。今回の戦いは今までで最大規模の戦いになったと思います。死亡したキャラも一番多かったですしね。

 ロキというキャラを考えたのは初期の方で物語を掻き乱すピエロキャラみたいな感じで作りました。モデルはまんまですが北欧神話の悪戯好きの神、ロキです。ロキはとても重要なキャラでした。蒼達の因縁の相手であり、敵キャラの中でもかなり癖の強いキャラでした。毎回毎回語尾に絵文字付けるのが凄く面倒臭かったです(笑)。ですがロキの能力はこの章に入るまでちゃんと考えておらず、どうしようか凄く迷いました(笑)。散々好き勝手やらせといて格好いい感じに死んだのはどうかな~と思いましたけどそれもロキらしいかなと思いました。

 次にオーディンについてです。こいつはね、この章に入って急遽考えました。というのも、ロキをこの章のラスボスにするのは最初から決めてたんですけど何かないとロキだけでは役不足だなと感じたんで入れました。要するにロキの強化パッチ要因です。

 今回は過去最長の章となりましたが最終章はこれより更に長くなります。最後まで走り抜けるのでお付き合い下さい。それでは!

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