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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
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【第十章】道化狂乱篇ⅩⅩⅤーdeath tree hevenー

 エスデスは人質ごと騎士団を殺害してしまっていた。

 これにより、仲間にも反感を買ってしまい、全員組織を抜けた。

 だけならまだしもエスデスを殺そうとプラネット・サーカスの仲間達がエスデスを殺しに掛かった。

 プラネット・サーカスはメビウスの思想の元で集まった殆どが人間であった。

 エスデスは絶望した。天使も人間も…いや、この世界に生きる魔族や人全てが守る価値も無いクソ以下の存在だった。

 エスデスはプラネット・サーカスの仲間を全員殺し、そして…再び一人となった。

 メビウスが死んでからだ、彼が死んでからエスデスは狂ってしまった。

 誰かを殺す事に快感すら覚えていた。

 だが、殺した後、それ以上の虚無感が襲い掛かる。

 しかし、その虚無感すら、誰かを殺したときの快感に還元される。

 もう、メチャクチャだった。いや、もう何もかもメチャクチャにしたかった。


「わたしは…どうすれば…」


 もう、何かを殺す事でしかエスデスは自分の存在を見出だせない。

 エスデスは砂漠で路頭に迷っていた。


「君は…強い力を感じるね(*´∀`)」

「誰です?」

「ん?僕かい?僕はロキ・カオストリクスタシア。悪戯好きの神さ」

「悪戯好き…邪神か…笑える話です」

「うんうん、そうだね。僕はね…君と同じ気持ちなのさ(-.-)」

「どういう事です?」

「この世界に…嫌気が差してるΣ(ノд<)」

「………」

「この世界に生きる者達は愚かだ!何かを傷付けて生きているのに!それに気が付かずノウノウと生きてる…!(´д`|||)滅ぼすべきだ…」


 ロキは下卑た顔をしながらそう言った。

 この男はどことなく怪しげな雰囲気を纏っていたがエスデスにとってはそんな事はどうでも良かった。


「だから…何だと言うです?」

「僕が協力するよ。君の…世界破壊を…ね…」


 ロキがそう言うとエスデスははっとした顔でそう言った。

 そうだ、エスデスの掲げるもの、それは世界平和。それを達成するには…皆と繋がりを持つ事だと思い込んでいた。

 だが、実際は違った。人や魔族は奪い合う事しか脳の無いクソ共だ。ならばやるべき事は一つだろう。


ーこの世界に生きる生物を全て滅ぼす。それが本当の世界平和だー


「悪戯好きの神と手を組む…ですか…いいです、あなたの悪ふざけに付き合ってやるです」


 悪戯好きの神というくらいだ。どうせ、エスデスを焚き付けて悪ふざけをしたいだけだろう。

 そんな事はエスデスには分かっていた。

 いや、分かっていたからこそロキの悪ふざけに乗った。

 エスデスはもう、全てを壊さずにはいられなかった。

 全てを怖し、そして自分一人だけになる。それが世界平和、世界の再興だ。


「ふふふ…なら、仲間を集めないとね(*´∀`)」

「あなた以外に仲間はいないです?」

「生憎、僕は一人だ…(´д`|||)君も一人だ…という事で、僕らは一からスタートする訳だ!(/_;)/~~」

「なら、組織の名前も決まってないですね」

「そうなるねー(* ̄∇ ̄*)」

「プラネット・サーカス」

「???」

「プラネット・サーカス。わたし達の組織の名はプラネット・サーカスです」

「プラネット・サーカス…いいセンスだ。よし!それにしよう!」


 こうして、慈善団体であったプラネット・サーカスは各地の戦争を請け負ったり国を壊滅させるテロリスト集団へと成り代わっていた。





 ロキはエスデスと組む以前から暗躍しており、エスデスという強力なカードを得た事で、本格的に活動を始めた。

 まずは仲間を勧誘した。

 イワン、マーリン、跡土、クメール、バートル、ソニー、アリアナ、メンゲレを仲間にし、プラネット・サーカスの幹部、『童話人(グリム)』が誕生。

 後に起こった第三次世界大戦もプラネット・サーカスは小国で戦争を請け負っていた事以外は表だった活動はしておらず水面下で勢力を拡大していた。

 イシュガルド内乱が起こってしばらくしてからだ。

 神聖ローマはイシュガルドの内乱がプラネット・サーカスの仕業である事を掴んでいた。

 そこでエリシアが派遣され、とうとう、エリシアとエスデスの最悪の再会を果たす事になった。


「まさか…あなたとこんな形で会う事になるとはね…出来れば…こんか形で会いたく無かったわ…メビウスはどうしたの?」

「とっくに死んだです…何もかもが…無意味だった…だからこそ…わたしは全てを壊してやるです」

「そんな…」


 エリシアはエスデスの言葉に驚愕した。

 いや、悲しかった。エスデスは気弱だったが優しい人物だった。

 なのに、ここまで豹変してしまっていた。

 今のエスデスにあの頃の面影は無かった。


「どうやら…ここまでの様です」

「待って!エスデス!!」


 エリシアはエスデスを呼び止めるがエスデスはそのままどこか消えていった。

 エリシアはこの時、悟ったのだ。

 次に弟子を取る時はエスデスの様にはしないと。

 エリシアが蒼に虐待同然の修行を強いていたのはこれが一つの遠因だった。






「何だよ…それ?」


 蒼は驚愕していた。

 何故なら、エスデスの周囲には無数の樹木が生えていた。

 しかも、それだけではない。


「【天花浄楽(あまはなのじょうらく)】」


 花が…咲いていた。

 樹木に無数の花が咲いていたのだ。

 蒼の目の前にある花が咲き乱れる景色はまるで極楽浄土の様であった。


「この花は全てを喰らい尽くす…」

「どういう事だ!?」

「この花の匂いを嗅いだ者は幻術世界へと閉じ込められ、養分となる」

「!?」


 蒼の意識が無くなっていく。

 世界が反転するかのような錯覚に襲われる。


ーなっ!?意識が…


「出来れば…この力は使いたくは無かったですが…あなたには極楽の死を提供するです」


 蒼の意識が完全に無くなった。

 すると、蒼の身体に樹木が絡み付き、蒼を縛り上げた。


「このままあなたを吸い付くしたい所ですが…あなたは油断出来ないです。すぐに殺してやるです」


 エスデスはそう言って蒼に向かって両手を向けた。


「【天花浄楽(あまはなのじょうらく)天獄(てんごく)】」


 エスデスの両手が花へと変わり、その花から霊力が収束されていく。

 この一撃で蒼を跡形もなく消し去るつもりだ。

 蒼の潜在能力は計り知れない。霊力を奪い尽くす前に殺しておいた方が安全だとエスデスは判断したのだ。


「これで…終わりです!」


 エスデスは巨大な霊圧の塊を放った。






 意識が…消えていく…溶けていく…

 蒼は深海へと落ちていく様な感覚に襲われていた。

 抗おうとするが抗えば抗うほど深海へと沈んでいく。


ー俺は…死ぬのか?


 蒼はそう考えていた。

 今までやられそうになった事は何度もあった。

 しかし、その度に蒼は打ち勝ってきた。

 だが、それもここで終わってしまうのだろうか?


ーくそ…


 蒼の意識は消えていった。





「!」


 蒼は目が覚めた。

 気が付いたらコンビニにいた。

 先程まで蒼はエスデスと戦っていた筈なのだ。


ー俺は…さっきまで深海に…


 そう、蒼は先程まで深海に沈んでいたのだ。

 それなのに何事も無かったかの様にコンビニにいた。

 しかもこの場所は十二支連合帝国だ。

 現在、蒼は神聖ローマの近くにいた筈だ。

 それなのに…何故こんな所にー


「フローフル!」


 そんな声が聞こえた。

 やった来たのはプロテアであった。

 プロテアは別の敵と戦っていた筈だ。

 そもそも、今目の前にいるプロテアは明らかにおかしかった。

 いつも以上にオシャレをしており、蒼はかなり違和感があった。


「御免なさい。待った?」

「いや、今来た所だ」

「じゃあ、行きましょう!」


 プロテアと蒼は一緒に走り出した。

 それから蒼とプロテアは色々な所へ行った。

 これではまるでデートだ。

 今まであった戦いを忘れてしまいそうになる。


「うわっ!?」

「ホラー映画…苦手なのに何で来たんだ?」


 まず元に蒼とプロテアは映画を見に行った。

 プロテアはホラー映画が苦手なのに何故かこの映画を見たいと言い出したのだ。

 まぁ、案の定怖がりまくっていたが。

 プロテアはこういうのにはかなり慣れてるイメージがあるが以外とそういう訳でも無いようだ。


「うわああああああ!!!」

「うおおおおおおお!!!」


 次は遊園地に行き、ジェットコースターに乗った。

 二人とも絶叫していた。

 プロテアも蒼もとても楽しそうであった。

 それから水族館、繁華街など色々な場所へ行った。

 あまり行った事の無い様な場所にもたくさん周った。


「蒼!プロテア!」


 蒼とプロテアに声を掛けてきたのは慧留であった。

 相変わらず元気がいい奴だと蒼は思った。

 プロテアもやれやれといった顔をしていた。


「相変わらず仲がいいね~」

「茶化すなよ、一夜」


 一夜だけではない、美浪、屍、澪に湊、「遥」もいた。


ーあれ?


 蒼は何か違和感を感じた。


「ねえ?これから皆でどっか行かない?」

「どうする?プロテア?」

「フローフルがいいなら…私は構わないわ」

「じゃあ、行くか!」


 蒼がそう言うと皆で遊びに行く事にした。

 まず向かったのはカラオケボックスであった。


「ここだな」

「ちょっ!?蒼、そこ部屋間違って…」


 慧留が呼び止めようとしたが遅かった。

 蒼が扉を開いた。そこにはー


「フローフル?」


 カラオケボックスにはインベル、アポロ、「エリシア」、ミルフィーユがいた。


「お前らもここに来てたのか?奇遇だな」

「そうね、とんだ腐れ縁だわ」

「何か冷たくね?アポロ?」

「そんな事無いわ。少なくともインベル、あなたよりはね」

「あれ?俺結構懐厚い方だと思ってたんですけど!?」

「自分で自分の事懐厚いとか無いわ~」

「全くね、少しは自分の事を見つめ直した方がいいわね」

「お前らひどくね!?」


 蒼とアポロの雑な弄りにインベルの心が折れそうであった。


「どうせなら、皆で遊ばない?」


 ミルフィーユは軽いノリでそう言った。


「そうだな!」


 蒼がそう言うと皆で歌を歌った。

 それからボーリングに行ったり、ゲーセンに行ったりとにかく遊びまくった。

 どこかへ遊びに行く度に知り合いに会い、人が増えていった。

 薊、くる、スープレイガ、ドラコニキル、アルビレーヌ、ウルオッサ、フォルテ、ルバートも蒼達と一緒になって行動していた。

 かつての敵とも手を取り合い、平和な世界であった。

 これは…きっと幻なのだろう。

 それでも今の蒼は…とても幸せであった。

 幻でも…とても幸せであった。

 何も本物に囚われる事はない。

 だって、現実世界でもそもそも本物なんて存在しないではないか。

 嘘と真実が入り交じり、いずれはどれが嘘か本当か分からなくなる。

 ならば、幻のこの世界でも幻でも同じではないか。

 幸せな情景、思い出が蘇ってくる。

 毎日毎日、穏やかな日々を過ごせればそれでいい。

 永遠に回り続ける。永遠に。

 ここが…本当の楽園。本当の幸せ。

 こんな幸せな日々が続けばいいと…そう思った。

 皆がいる…仲間と過ごす時間が…こんなにも愛しい…こんなにも…温かい…


ーそうだ…俺は…ここにいてもいいんだ…


 蒼はそう言って眼を閉じた。

 やがて、世界は全て白へと変わっていった。


ーこれは本当にあなたが望んだもの?


「!?」


 蒼は身体中に激痛が襲い掛かってきた。

 蒼の目の前にピンクのツインテールに瞳を持った少女がいた。音峰遥だ。


ーどういう事だ?遥さんは俺の隣にー


 そう、蒼の隣に仲間達がたくさんいた。

 目の前に遥がいるなど…あり得ないのだ。


「蒼、私はもう…死んでるの」


 遥の言葉に蒼は眼を見開いた。

 そうだ…遥は…死んだのだ。

 プラネット・サーカスに…神混髏奇(こうまるく)…いや、ロキ・カオストリクスタシアに…

 遥だけではない、エリシアももう、死んでいるのだ。

 生きてはいないのだ。

 蒼はすぐにここから離れようとした。しかしー


「待って、フローフル?どこにいくの?」

「そうだよ、蒼!何でここから離れようとするの?」


 プロテアと慧留が蒼を呼び止めた。


「そうだよ蒼、ここが君のいたい居場所じゃないのかい?」

「時神、俺達を見捨てるのか?」

「蒼…ここにいて欲しい…」


 一夜、屍、美浪も蒼を呼び止めていた。

 分かっている、彼等は…だが…


「俺は…」

「蒼、あなたはどうしたいの?現実に戻りたいの?それとも、この幻の世界でずっと快楽を得続ける?」


 目の前にいる遥がそう訪ねてきた。

 蒼は…今、とても幸せだ。

 この幸せを手放すなどどうして出来ようものか。

 例え、幻でもここに争いも蟠りも無い。平和な世界だ。

 平和が一番だろう。

 ここでは誰も悲しまない、苦しまない、それどころか、幸せな気持ちで満たしてくれる。

 蒼はここに留まろうとする。

 きっと、蒼が欲しがってたのはこういうものだったのだ。

 向こうの遥は止めようとはしなかった。

 あくまでも蒼の言葉に全てを任せるつもりだ。


ーそうだ…これでようやく…楽になれる…


 蒼は再び眼を閉じようとした。

 そうだ、これでいい。こんな平和な世界なんだ。

 平和が一番ではないか。そう思った。

 この世界は奪い合うだけじゃないか、ならば…この幻に逃げた方が…

 しかし、蒼はその直前、色々な記憶が流れ込んできた。


「!?」


 遥の墓で悲しむ皆、自分の家を燃やして泣いていたプロテア、慧留と戦った時の記憶。

 色々な悲しみの記憶が蒼の脳裏によぎった。

 何故、こんなものがよぎるのか…

 そして、蒼は今までの事を思い出した。

 蒼は…フローフル・キー・ローマカイザーは一度死んだ。

 プロテアと引き裂かれ、エリシアを失い、フローフルは死に、時は止まってしまった。

 だが、慧留と出会ってから…止まっていた時間が動き出した。

 そこからアザミの花と戦い、十二支連合帝国と戦い、慧留を助け出す為にUSWと戦った。

 それから時が経ち、蒼達は舞を助けに行き、そこからすぐにイシュガルドとの戦いに美を投じた。

 そこでプロテアと再会を果たした。

 イシュガルドとの戦いが終わり、ヘレトーアと戦い、パルテミシア十二神の一人であるイシュガルと戦い、その後、プラネット・サーカスの一人、擬流跡土と戦った。

 そう…全て…繋がっている。繋がっているのだ。

 喜びも…悲しみも…憎しみも…温もりも…全て繋がっているのだ。

 蒼は今までの感情は悲しみだけでは無かった筈だ。喜びだけでは無かった筈だ。

 そう、全てが入り交じって…ゴチャゴチャで…

 喜びが全てでは無い…悲しみが全てでは無い…

 様々な感情が入り交じるからこそ、生きていると言えるのでは無いか?

 もし、このどちらかしか無いのなら…それは果たして生きていると言えるのだろうか。

 否、そんなもの…生きていないのと…死んでいるのと同じだ。

 ならば、今の蒼にすべき事とはなんだ?

 そんなもの…答えは決まっている。

 考えるまでも無かった。そんな事…とっくに分かりきっていたではないか。

 蒼は閉じ掛けていた瞳を再び開いた。


ー俺は一体…何に迷ってたんだ…


 蒼は自嘲する様にそう言った。

 そう、何も悩む必要など無かったのだ。

 蒼のやる事など…最初から決まっていたというのに…それに今まで気付けなかった…いや、気付けないフリをしていた。

 逃げても結局同じだ。

 逃げた所で何も変わりはしない。

 ならば、どうするかー


「はは…そうだな…俺は…」


 そう言って蒼は両手に刀を顕現させた。

 右手に水色の刀、左手には黒刀を握り、慧留とプロテアを切り裂いた。


「え?」

「どうして?」


 慧留とプロテアの幻はそのまま消え去った。

 そう…ここは幻術の世界…幻なのだ。


「蒼!?」

「時神…何を…!?」


 一夜と屍は狼狽えていた。

 いきなり仲間を斬り裂いたら驚くのも当然であろう。


「お前らは俺の妄想で作られた幻だ…本物じゃねぇ!」


 蒼は一夜と屍も切り裂き、美浪も、遥も、澪も、くるも薊も…全てたたっ斬った。

 無論、全てが幻だ。

 やがて、世界は白から黒へと変わった。


「そう…戻るのね」

「ああ…また…アンタに助けられたな…遥さん」

「私はあなたを助けた覚え…無いけど?」

「いや…あるさ…アンタだけじゃねぇ…」


 そう、皆に…助けられてきた。

 それはきっと…これからも変わらないのだろう。


「俺はきっと…この世界で生きても納得出来ねぇ」

「そうでしょうね」


 遥は笑いながらそう言った。

 分かっている、目の前の遥は蒼の頭で作られている幻影に過ぎないのだ。

 遥はもう、死んでいる。

 死んだ人間は生き返らない。それは魔族も同じだ。

 分かりきってる。だが、蒼の頭の中に幻影として現れたという事は、つまりはそういう事なのだろう。


「俺、意外と割り切りやすい性格だと思ってたんだけどな」

「そう?じゃあ、あなたは自分の事をまるで理解してないわね」

「そうみたいだな」

「あなたはそう単純な人間じゃないわ」

「そう…みたいだな。けど、それは俺だけじゃない。皆そうだ。皆…面倒臭いんだよ…けど、それでいいんじゃねぇか?」


 人間、誰だって単純じゃない。

 それは魔族とて同じだ。

 感情がある限り、人は、魔族は…単純ではいられない。

 だが、だからこそ、生きているからこそ輝くものも存在するのも事実だ。

 


「これで…最後だ…」

「ええ。あなたの幸運を願うわ」

「ありがとな」


 蒼は遥の最後の幻影を切り裂いた。

 そして、世界は白でも黒でもなく氷が出現し、やがて氷解していく。

 蒼はエスデスの作り出した幻影を振りほどき戻るべき世界へと戻っていった。





「これで…終わりです!」


 エスデスは両手の花から巨大な霊力の一撃を放った。

 しかしー


「!?」


 蒼は意識が覚醒し、そして刀を振るった。


「【χ(カイザー) μπλεμελαν(ブルメラス) degen(デーゲン)】!」


 蒼は青黒い斬撃を放ち、エスデスの攻撃を消し飛ばし、更に自身の身体に絡み付いていた樹木を切り飛ばした。


「なっ!?」


 エスデスは驚愕していた。


「よう…」

「何故…わたしの…奥の手が…」

「悪いな…まだ死ねねぇんだ」

「幻術の理想の世界に浸っておけばいいものを…」

「あんな幻じゃあ、満足出来ねぇ質でな。やっぱり、幸せってのは…夢ってのは…現実で掴まねぇとな!」


 蒼の瞳はとても真っ直ぐであった。

 迷いが…完全に消えていた。

 そう、幻の中で掴んだ理想は所詮はまやかしだ。そんなものを詰め込んでも虚しい気持ちにさせるだけだ。


「どうやって…わたしの【天花浄楽(あまはなのじょうらく)】の幻術を解いた…です?」

「アンタの幻術はかなり強力だ。だが、俺の氷の前では無力だ」


 そう、蒼は身体の中の花粉も周囲の花粉も全て凍らせていたのだ。

 蒼の氷は概念すらも影響を及ぼし、全ての機能を停止させる事が出来、更に生命活動や魔力の流れ、果ては時間や空間すらも停止させる事が出来る。

 蒼の能力はエスデスとかなり相性がいいのだ。


「関係無い!もう一度幻術で今度こそ貴様を殺す!【天花浄楽(あまはなのじょうらく)】!」


 エスデスは再び樹木の花を展開し、花粉を撒き散らす。

 この花粉の匂いを嗅いだ者は幻術世界へと誘う死の花粉だ。


「同じ手は二度食わねぇよ!【時間凍結(クロノス・パゴス)】!」


 蒼は刀を振るった。

 すると、周囲の樹木、花粉全てが凍り付いていた。

 更にはその周辺の大地まで凍り付いていた。

 今の蒼に迷いも恐れもない。今の蒼がこの程度の小細工が通用する筈も無かった。


「!?」

「俺の氷は全ての時間を停止させる。概念や能力すらもな…お前の樹木から出てきた花粉も今やただの氷の粒だ」


 【時間凍結(クロノス・パゴス)】はあらゆるものの時間の機能を停止させる能力だ。

 それは相手の能力そのものを停止させる事が出来る。


「お前のその樹木は周囲の生命エネルギーを吸って動いてる。ここら一帯の生命エネルギーを全て停止させた。これでお前は不死じゃ無くなった訳だ」

「くっ!?」


 蒼の力で最も強力なのは停止能力だ。

 この停止能力は概念すらも影響を与え、時間や空間、相手の能力そのものを停止させる事が出来る。

 エスデスが不死なのはこの世界の生命エネルギーを使っているからだ。

 だが、この世界全ての生命エネルギーを無尽蔵に使える訳では無く、エネルギーを吸える範囲にも限界がある。

 蒼はそこまで把握しており、【時間凍結(クロノス・パゴス)】でエスデスの生命エネルギーを取り込める範囲を全て凍り付かせた。


「最初からその力を使えば良かったんじゃ無いです?」

「生憎だが、【時間凍結(クロノス・パゴス)】は一回の戦闘につき一回しか使えなくてな。使い所が肝心なんだよ」

「くっ!?」


 エスデスは今までで一番焦っていた。


ー負ける?この…わたしが…!?


 エスデスはこんな所で負ける訳にはいかない。


「負けない…負けない…!」


 エスデスは樹木を無数に発生させた。


「【王樹界凛(おうじゅかいりん)修羅千劍(しゅらせんけん)】!」


 蒼は樹木の剣を回避しながら切り裂いていった。


「【氷菓神刀(クリスタシア・デーゲン)】」


 蒼はエスデスの樹木を全て凍らせた。


「馬鹿な…全て…凍り付かせただと!?」


 蒼の力は圧倒的であった。


「そんなの…そんなの…ありえるかです!!!あなた…何故…何故そんなに強いです!?何故…!」

「さぁな…そんなもん、分からねぇよ…ただな、俺にも…ようやく何か夢が見つかりそうなんだよ」


 蒼はエスデスの問いにそう呟いた。

 エスデスは分からなかった。

 何故、蒼がここまで強いのか。

 エスデスはプラネット・サーカス創設期のメンバーであり、その『童話人(グリム)』の中で最強クラスの実力を持っている。

 にも関わらず蒼はそのエスデスを軽々と越えてくる。

 蒼のこの底知れない強さがエスデスを更に焦らせた。


「この世界は奪い合い…争奪です!こんな…失うだけの世界に…こんな腐った世界を…守る価値があるのか!?」

「そんなもん知るか!俺は俺の守りたいもののために戦う!」

「あなたは何も守れない!わたしが消す!あなたには…答えが無い!」


 エスデスは樹木を出現させ、そこから巨大な花が咲いた。

 更にエスデスの両手が樹木へと変わり、花が咲いた。

 花の部分から霊力が収束されていった。

 今までの中で最も強大な霊圧だ。これで決めるつもりだ。


「悪いな…俺は死ねねぇ…」


 蒼はそう言って黒刀を再び弓に変形させた。

 更に蒼は風、炎、氷の三種類の弓矢を出現させた。


「何もかも…全て消し飛べ!」


 エスデスは全身全霊の一撃を放った。


「【天花浄楽(あまはなのじょうらく)外道天獄(げどうてんごく)】!!!!」


 エスデスの一撃が蒼に襲い掛かる。


「氷点の果て、写らざる三手の花、儚き恋慕、生命の交わり、幾奥の先へ在るその眼を見よ!霊呪法第九百九十五番!【金枝篇(きんしへん)】!!!」


 蒼は氷の花を出現させ、その花から氷のレーザーが発射された。


「完全詠唱の九百番台の霊呪法程度で…防ぎきれないです!!」


 フルパワーで霊呪法を放ったがエスデスの最後の一撃は凄まじく、すぐに突破されてしまうだろう。

 だがー


「十分だよ…十分時間稼ぎにはなった…」


 蒼は矢を引き絞っていた。


「答えを持たないあなたに…このわたしは倒せないです!ここで…消えろ!!!」


 エスデスは更に霊圧を上昇させる。

 だが、エスデスの攻撃は一時的に止まった。


「なっ!?わたしの…攻撃を止めた…」


「はあ…はあ…言っただろ?まだ死ねないって…」


 蒼がそう言うと蒼の矢の霊圧が急激に上昇した。

 先程の矢の一撃とは比べ物にならない霊圧だ。

 エスデスはあまりの衝撃に動揺を隠しきれていなかった。


「な…何なんですか!あなたは!!!」

「俺は…十二支連合帝国の…時神蒼だ!」


 蒼はそう言って矢を放った。


「【王ノ四神矢(カイザー・クインテット・ティフナス)】」


 蒼は矢を放った。

 氷、炎、風、そして闇属性の四種類の霊力を練り合わせて放った矢だ。

 蒼の矢とエスデスの霊力砲が激突する。


「この世界に…本当の平和は無い!だからわたしが全てを壊す!」

「そんな事はねぇ!!!救いは…必ずある!」

「戯れ言だ!最初は平穏に暮らせても…いずれ奪い合いが始まる…その先に待つのは何だと思います?孤独!孤独です!!!あの地獄を味わうくらいなら…最初から全て消してしまえばいいです!!!!」

「例え…お前の言う通りだったとしても!俺は俺の守りたいものの為に戦う!そう…決めたんだよ!!!誓ったんだよ!!!」

「誓った?誰にです?」

「誰にでもねぇよ…ただ…俺自身に…!そう誓ったんだよ!!!!」


 蒼の矢が押し始めていた。


「憎しみの連鎖は誰にも止められない…この世界は憎しみに支配されている…新たな憎しみを産み続ける!だからこそ!この世界の全てはこの世界の養分になるべきなんです!!」

「そんなのはお前のただのエゴだ!人は…魔族は…変われる!!」

「何も変わりはしない!憎しみは憎しみでしか壊せない。だからといって壊した所で新たな憎しみが生まれ続ける!」

「そんな事はねぇ!憎しみを憎しみで壊す事なんか出来ねぇよ!俺はお前を止める…!それで…お前の言う…世界を平和にだってしてやる!!!!」

「何度も言わせるな!答えを持たない持たないあなたが如きが…世界を救うなど到底無理です!」

「確かに…お前の言う様に答えを見つけるのは難しいのかもな…けどそれでも…俺は答えを見つけて!お前の出来なかった事をやってやるよ!!!!!」


 蒼の矢は巨大化し、エスデスの霊力砲を吹き飛ばした。

 そして、エスデスに蒼の矢が命中した。







To be continued

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