【第十章】道化狂乱篇ⅩⅩⅣーdeath treeー
「ここは…」
「気が付いた~?」
「常森…くっ!?」
「ここは天使城だよ。まだ安静にしてないと駄目だよ」
澪がそう言うと屍は辺りを見回した。
すると、何人もの怪我人がいた。
隣には慧留もいた。
「屍…起きたんだね」
「月影…大丈夫なのか?」
「それはこっちの台詞だよ…君、身体に大穴空いてたんだよ?」
「まぁ…取り敢えずは無事だな」
「蒼は…大丈夫だった?」
慧留の問いを聞き、屍は気絶する前の事を思い出した。
『時…神…』
『屍…後は任せろ』
蒼はそう一言だけ残し、屍から去っていった。
それから屍は気を失ったのだが澪が運び出した様だ。
「大丈夫だ。あいつは今、戦ってる頃だろうぜ」
「そっか…」
慧留は嬉しそうにそう呟いた。
「残る『童話人』も後四人か~。随分と倒したね」
「こっちの被害も甚大だがな」
「それが…戦争だからね…」
慧留は今にでも飛び出したい所であったが身体が動かない。
それは屍も同じだ。
「えるるん、気持ちは分かるけどここは我慢だよ」
「分かってます」
「俺はしばらく休めるのは好都合だな」
「シカちゃんは素直じゃ無いな~」
「何だと?」
「君もえるるんと同じ気持ちの筈なのに無理してさ」
「別に無理はしてねぇ…知ったような事を言うな」
「分かったよ」
澪はそう言ってここから去ろうとした。
「待て…」
「他の奴等は…どうなった…」
「そうだね…君には伝えとかないとね」
澪はそう言って屍に残酷な事実を告げた。
「赤島英明と兎神審矢の二人が…戦死した」
「え?」
「………」
慧留は眼を見開き、驚いていたのに対し、屍は眼を瞑って歯軋りをしていた。
「どういう事ですか!?赤島さんと兎神さん…が…そんな!」
慧留は澪に否定して欲しかった。しかしー
「残念だけど…事実だよ。赤島英明と兎神審矢の二人はイワン・ライグルに殺された…敵討ちをしようとしても無駄だよ。もう、彼は死んだ。黒宮さんとドラコニキルさんが倒した」
「………英明と審矢は…役に立ったか?」
屍はすがるように聞いてきた。
「彼等無くしては…奴を倒す事は出来なかった」
現れたのはドラコニキルであった。
「ドラコニキル…」
「彼等がいたから…敵の能力を掴め、倒す事が出来た。感謝している」
「…そうか…」
屍は少しだけ、救われた様だった。
「済まない…」
「それが戦争だ。誰かが死ぬのは…仕方無い…けど…あいつらは…役立った…今は…それで十分だ」
「屍…」
慧留もドラコニキルも今の屍の心情を察するに余りあった。
屍の右手からは血が滲み出ていた。それ程、強く拳を握り締めていたからだ。
「必ず…この戦いに…勝ってやる…!あいつらの為にも…犠牲になった奴等の為にも…!」
「うん!」
「ああ」
「だね」
「【王樹界凛】!」
無数の樹木が阿保に襲い掛かる。
現在、エスデスと蒼が交戦していた。
しかし、蒼は一瞬で全ての樹木を凍り付かせた。
「【氷菓神刀】!」
更に蒼はエスデスの身体を半分は凍り付かせた。
その氷は一瞬で砕け散った。
しかし、エスデスは足を樹木の様にして、大地から霊力を吸い取り、身体を復元させた。
「【餓鬼・地導吸樹】」
「厄介だな…」
蒼はそう呟いた。
向こうの樹木は無数に攻撃してくる。
こちらの攻撃を当てても身体を回復させる。ほぼ無敵状態である。
「【王樹界凛・修羅千劍】!」
エスデスは無数の樹木を剣へと変え、蒼に攻撃してきた。
蒼は無数の樹木の剣を回避し、そして、凍らせた。
しかし、数がかなり多く、あちこちに傷が出来ていた。
しかも、傷を負った場所から霊力が吸われていっていた。
いくら莫大な霊力を持つ蒼でもこのままでは霊力を切らしてしまう。
「【時間疾走】」
蒼はエスデスの後ろに回り込んでいた。
エスデスは腕から樹木の剣を顕現し、蒼の攻撃を防いだ。
「流石に…首を跳ねたら死ぬって事か?」
「いいえ、そういう訳では無いです。ただ、そう何度もダメージを受けては先の戦いで困りますからね」
「そうかよ!【水月天剣】!」
蒼は水の衝撃波を放った。
蒼の発生させた水圧は凄まじく、エスデスの剣を切り裂いた。
しかし、エスデス本体は寸での所で蒼の斬撃を回避していた。
「【王樹界凛・畜生刺枝】」
エスデスは腕から樹木を出現させ、そこから無数の鋭利な枝を出現させた。
「【χμπλεμελαν degen】!」
蒼はエスデスごと無数の樹木を吹き飛ばした。
【カイザー・ブルメラス・デーゲン】は蒼の二つの属性を融合させた蒼の必殺技であり、これを受けて立っていた者はいない。
エスデスはその攻撃をゼロ距離から受けた。とても生きているとは思えなかった。
土煙が消え、エスデスの姿が現れた。
上半身が吹き飛んでおり、そのままエスデスの下半身が倒れた。
「終わったか…」
蒼は安堵した。しかしー
「!?」
蒼は驚いていた。
何故なら、下半身の切れ目から樹木が出現し、みるみるとエスデスの身体が元に戻っていたからだ。
「何…だと…?」
やがてエスデスは元の状態に戻り、立ち上がった。
「ふぅ~。まさか、こう何度も身体を吹き飛ばされるとは…驚いたです」
「不死身かよ…こいつ…」
蒼は冷や汗をかいていた。
それもそうだろう。身体の一部を吹き飛ばしても死なない。
上半身を丸々吹き飛ばしても死なない。
傷を負ってもすぐに再生してしまう。
「わたしはこの大地が在る限り…死ぬ事は無いです。わたしは完全な不死です」
エスデスの能力は平たく言えば相手の霊力を根こそぎ奪い、自分は身体を吹き飛ばされても死なないというものだ。
「どんなチートだよ…まさか、本当の不死と相手するとはよ…」
蒼は改めて黒刀を構えた。
「諦めないんですね」
「当たり前だ。俺が負ければ…お前は多くの人や魔族を殺す」
「まぁ、そうです。それがわたしの掲げる平和なので」
「分からねぇな…何でそこまで全ての生き物を排斥しようとする?」
「分からないでしょうね…あなたでは」
エスデスは虚ろな瞳でそう言った。
「お前がどうしようが…俺はお前を倒して…ロキを倒す!」
「あなたがロキを倒せば英雄になれるのでしょうね」
「英雄?そんなもんに興味はねぇよ!俺は俺の守りたいものの為に戦う!」
「守る為に…不確定で曖昧です。そんなものでわたしに勝てると?」
「やってみねぇと分からねぇよ!」
蒼はそう言ってエスデスに斬りかかった。
「時間停止に加速…面倒な能力です」
エスデスは樹木の剣でガードした。
「【王樹界凛・畜生刺枝】」
エスデスの持っていた樹木の剣が枝の様に枝分かれした。
蒼はそのエスデスの無数の枝を切り裂いた。
しかし、数が多く、身体中に枝が刺さった。
「この!」
蒼は樹木を凍らせ、黒刀で砕いた。
更に蒼はエスデスの背後に回り込んだ。
「【王樹界凛・修羅千劍】!」
「甘え!【時間停滞】!」
蒼は時間を止めて黒刀をエスデスの胸に目掛けて飛ばした。
黒刀はエスデスの胸にぐさりと刺さった。
「!?」
「【氷菓神刀】!」
蒼が技の名前を言うとエスデスの身体が凍結した。
そして、周囲の樹木も凍結していた。
「………」
蒼はエスデスの胸に刺さっている黒刀を抜こうとした。
しかし、エスデスは蒼の右手を掴んだ。
「!?」
エスデスを凍らせていた氷が砕け始めていた。
「この程度でわたしを倒せると思ったです?わたしの身体は謂わば生命エネルギーの塊。氷で凍らせたくらいで砕ける程、わたしの身体は脆弱じゃないです!」
エスデスはそう言って身体中から樹木の剣を出現させた。
「【王樹界凛・修羅千劍】!!!」
流石の蒼でもこの至近距離からの攻撃は回避出来ず、全身に樹木の剣が突き刺さった。
更に蒼の霊力が樹木を通して吸われていた。
「ちぃ!」
蒼は身体に刺さった樹木を全て凍り付かせたが、ある程度の霊力はエスデスに吸われていた。
「わたしは霊力が在る限り無敵です。霊力は全ての場所に存在するです。そして…その霊力を全て生命エネルギーに換える事で無限の生命を手にする…」
「成る程な…それがてめぇの不死の秘密って訳か…」
蒼はそう言って立ち上がった。
「まだやるです?あなたは確かに強いです。だけど…このままやっても無意味です」
「そう慌てんなよ。まだ戦いは始まったばかりだろ?お前の能力が少しばかり分かってきたしな」
「どういう事です?」
「俺の眼は霊力や魔力の流れ…果てには時間の流れまでも見える。お前のその樹を操る能力は霊魔結合の属性だ。土、水、光の三種の属性を結合させて作り出してる。フォルテのと同じ原理だ」
「よく気付いたです。確かにわたしの属性である「草属性」はあなたの言うように土、水、光の三つの属性を混ぜて作った…わたしだけの力です」
かつて、蒼達が戦ったヘレトーアのフォルテ・セイントは五大属性である火、水、土、雷、風の五つの属性を結合させてプリズム属性を使用していた。
霊魔結合とは火、水、土、雷、風の五大属性、光と闇の二極属性、氷や鋼などの派生属性のいずれかの属性を複数混ぜてこれらとは別の属性を産み出す能力の事だ。
フォルテのプリズム属性、エスデスが使っている草属性もその霊魔結合の一種だ。
しかし、霊魔結合は特異体質が絡む力である都合上、誰でも扱える訳ではない。
属性を独立して別々に扱う事は大して難しくは無いが複数の属性を使って新たな属性を産み出すのはかなり難しい。
更に複数の属性を融合させて新たな属性を産み出すという能力上、混ぜた属性の数が多ければ強いという訳ではない。
実際、エスデスの草属性はフォルテのプリズム属性とは比べ物にならない程強力である。
「お前のその草属性には霊力を吸収して成長する能力がある…これは光属性の力によるものだ」
「そこまで見抜くとは…大したものです」
五大属性には特殊な能力は無いが二極属性や派生属性の一部には特殊な能力がある。
それは闇属性の場合は概念に影響を与える事だ。時や空間を操る時属性や空間属性は闇属性の亜種だ。要は闇属性は無から形を与える能力だと言える。
逆に光属性は生物に直接影響を与える能力であり、回復や身体強化や、幻術はこの光属性によるものだ。要するに形から生命を与える能力だ。
要するに五大属性を霊魔結合しただけのプリズム属性には特殊な能力は無い。
だが、草属性は別だ。この属性は土と水で草属性の基盤を作り、光属性で生命を与える事で草や樹木を産み出す。
そして、生命力に満ちてる樹木は他の霊力を吸う事で成長していく。
「お前のその不老不死の秘密も恐らく草属性によるものだ。草属性の力で身体中に生命エネルギーを循環させて不死を保ってる」
「…そこまで見抜いているとは驚いたです」
「やはりそうか…」
「だけど…それを見抜いたから何だと言うです?わたしの能力を見抜けても根本的な解決法は無いです。この大地はわたしの苗床…この大地に!空に!海に!霊力が満ちている限り、わたしは無敵です」
「残念だが…その様だな」
そう、エスデスにとってこの世界に在るもの全てがエネルギーなのだ。
この世界のエネルギーが枯渇しない限り、エスデスが死ぬ事は無い。
「ならばどうするです?」
「お前に…一つ言っとかないといけない事がある」
「?」
「この世界に完全無欠は存在しねぇ!お前のその力にも必ず欠点が存在する。その欠点を…俺が暴いてやるよ」
「何を言い出すかと思えば…一つ…良いことを教えてあげるです。わたしのこの力は!あのエリシアですら止める事が出来なかった!分かるです?わたしはエリシアより強いんですよ!」
「そうかよ…俺には関係ねぇよそんなもん。俺はお前を倒す」
「そうですか…ならば…無駄だという事を分からせてやるです!」
エスデスはそう言って再び樹木を発生させた。
「【王樹界凛・修羅千劍】!」
エスデスは蒼に無数の樹木の剣で攻撃を仕掛けた。
「【時間疾走】」
蒼は自身の時間を加速させ、エスデスの攻撃を回避した。
「無駄です!無数の樹木の攻撃はあなた如きに防ぎきれないです!」
樹木の剣の数が徐々に増えてきていた。
ー確かにこれを全て回避するのは無理だな。
「【氷菓神刀】」
樹木の剣は凍り付いた。
「まだです!」
凍り付いても樹木の剣は氷を突き破り、そのまま蒼に攻撃してきた。
「霊呪法第九百九十五番【金枝篇】!」
蒼は両手氷の玉を出現させ、それを地面に落とした。
すると、巨大な花が咲き、そこら一体の樹木を凍り付かせた。
更にその氷の花から氷のレーザーを出現させ、樹木を切り裂いた。
切り裂いた先から凍結し、そして、エスデスの身体を四つに分断した。
【金枝篇】は蒼が現在扱える最強の霊呪法であり、氷の花を咲かせ、そこから無数の氷のレーザーを放つ霊呪法だ。
殺傷能力が凄まじく高く喰らった相手は必ず身体が分断される。とは言えー
「この程度で死ぬなら…苦労はねぇけどな…」
バラバラになったエスデスの五体の切り口から樹木が出現した。
そして、そのまま身体が修復されていった。
「おいおい…勘弁してくれよ…追い詰める所か数が増えてんじゃねぇかよ…」
そう、蒼は先程の霊呪法でエスデスの身体を四つに分断した。
だが、その分断した身体がそのまま再生した為、結果的に四体に増えてしまっていた。
「言ったでしょう?わたしを倒すのは不可能だって」
「このまま戦えばわたしが増える一方です」
「大人しく殺されるです」
「そのままこの世界が終わっていくのを待つです」
分裂したエスデスがそれぞれ別々に喋っていた。
「まぁ、いいです。終わらせるです!【餓鬼・地導吸樹】!」
一人目のエスデスが大地の霊力を吸収し始めた。
「【死種神征・人形開樹】!」
白い種が空から降りだした。
蒼は自分の周りに降ってきた種は全て凍らせた。
しかし、それ以外の白い種は樹木となっていた。
「【王樹界凛・修羅千劍】!」
無数の樹木の剣が出現した。
「【王樹界凛・畜生刺枝】!」
無数の樹木の劍から更に無数の鋭利な枝が出現した。
攻撃範囲が広すぎて最早回避するのは不可能だ。
「霊呪法第九百六十二番【五重虚神】!」
巨大な霊力の盾が五重に出現した。
「無駄です。そんなもの、時間稼ぎにしかならないです」
「時間稼げればいいんだよ!」
蒼はそう言って黒刀を左手に持ち変えた。
「【氷獄矢】」
蒼は右手に氷の矢を出現させた。
「【黒霊弓】」
蒼の黒刀が黒い弓に変形した。
それはまるで地獄の弓の様であった。
【五重虚神】の壁はどんどん突破されていた。
「終わりです!」
蒼は冷静に…落ち着いて矢を引き絞った。
蒼の背中の翼から冷気が漏れ出していた。
更に霊力が蒼の氷の矢に収束され、青黒くなっていた。
「【χμπλεμελαν τυφωναζ】」
蒼の弓から超高密度の霊力の矢が放たれた。
【五重虚神】は既に突破されており、蒼の眼前に樹木が迫っていた時に、蒼は矢を放った。
蒼の放った矢はエスデスの発生させた樹木を一瞬で消し飛ばした。
これは矢というより最早、竜巻であった。
蒼もあまりの破壊力に身体が少し後ろに下がっていた。
一応、背中の翼を展開させて衝撃を抑え込んでいたのだがそれでも相当な衝撃であった。
蒼の矢が吹き飛ばしたのは樹木だけでは無い。
分裂していたエスデスもろとも消し飛ばした。
悲鳴すら聴こえない程の強力な一撃。
如何にエスデスでも欠片が残らない程粉々にされては生きていく事は出来まい。
蒼のあの矢を受けた者は分子レベルまで身体が崩壊する文字通り絶対破壊の能力だ。
「!?」
蒼は驚愕していた。
「はぁ…はぁ…」
エスデスはまだ…生きていた。
「何…だと…!?」
エスデスは蒼を睨み付けた。
「今のは…少し危なかったです…本当に…欠片も残らない程に消される所です…お陰で分裂体は木っ端微塵です」
エスデスは身体の修復を既に始めていた。
エスデスは蒼の矢が放たれた瞬間、大地の霊力をありったけ取り込み、更に他の分裂体を盾にして蒼の攻撃を凌いだのだ。
「全く…凄まじい破壊力です…」
エスデスは既に身体の修復は終えており、全くの無傷であった。
「化け物が…!」
「あなたにだけは言われたく無いです。これだけの力…どうやら…わたしも手を抜く事は出来ないです」
「おいおい嘘だろ?まだ隠し玉があんのかよ…」
蒼は頭が痛くなった。
事実上、不老不死というだけで無理ゲー感が漂っているのにこの上更に奥の手があると来た。
「【天花浄楽】!」
エスデスは両手を重ねてそう叫んだ。
少女には…何もなかった。
少女は忌み子として忌み嫌われていた。
少女は人工的に人間に近付けられた…天使だ。
かつて、天使が人を造ろうとした事があった。
何故そんな事をしたのか…それは人間に近付けば更なる進化が出来ると当時の天使達は考えていたからだ。
二百年前の天使大戦の時だ。
その時の実験体の一人がエスデスという少女であった。
大半の天使が人間に近付いた事により、寿命が縮まり、死んでいき、実験は中止された。
その唯一の生き残りがエスデスであった。
エスデスは天使でありながら人間の因子を持っている所謂人間に成り損ねた天使だ。
しかし、天使と人間…両方の力を手に入れ、神に近い存在でもあった。
だが、その強過ぎる力は軋轢を生み、そしてエスデスは迫害されてきた。
そんな時だ。エスデスを闇から救い出してくれた人がいた。
それは一人の人間の少年であった。
エスデスは自分をこんな風にした天使に恨みを持っていた。
だから天使は信用していなかったのだ。
人間の少年はエスデスを外の世界へと連れ出してくれた。
やがて時は天使大戦も終結し、人間と魔族が手を組む様になっていった。
エスデスと少年は貧しいながら小さな幸せを手にしていた。
だが、その幸せもいつまでも続かなかった。
神聖ローマは内乱が多発しており、すぐにエスデスと少年の居場所を壊されてしまう。
他国に逃げようにも他国の情勢もよく分からない状態で外へ出れば確実に自分達は他国の餌にされる。
強く…強くならねばならなかった。
誰にも負けないくらい…強く。
そして、エスデスと少年は一人の天使と出会う。
少年とエスデスは内乱により身を潜めており、たまたまセラフィム騎士団の者と遭遇した。
そして、エスデスはそのセラフィム騎士団員が天使で無い事に気が付いた。
セラフィム騎士団は天使で構成されている組織であるが天使以外が組織している事も稀にある。
しかし、それは殆ど無く非常に珍しいのだ。
エスデスは天使に恨みはあるがそれ以外の魔族には恨みが無かった。
エスデスは少年にこの事を伝えた。そしてー
「なあアンタ、俺達を弟子にしてくれねぇか?」
少年がそう言った。
「何をバカな…」
仲間が話そうとするがセラフィム騎士団員がそれを止めた。
彼女の名はエリシア・エリス。後に蒼の師匠となる人物だ。
「あなた達はさっさと戻りなさい。この子達とは少し話してそれから戻るわ」
そう言ってエリシアは少年とエスデスに話をした。
「悪いけど弟子を取るつもりは無いの。さっさと帰りなさい」
「アンタ、天使じゃないよな?」
「…何がいいたいのかしら?」
「あなたには天使とは違う霊力を感じるです…そう、まるで神の霊力…」
「………あなた達、名前は」
「俺はメビウス・ジャンヌ」
「わたしは…エスデス・ジルド…」
「いいでしょう。あなた達が自立出来るまで私が面倒を見るわ」
エリシアはこの二人の面倒を見る事にした。
そして、三年程エリシアはメビウスとエスデスの面倒を見た。
「あなた達に教える事はもう無いわ。あなた達自身、これからは自分の力で生きていきなさい」
エリシアは笑顔でそう言った。
エリシアは何だかんだでこの二人といる時間も悪くなかった様だった。
「先生…俺、頑張って生きるよ!」
「ええ。…エスデス…あなたは成長した…そうでしょう?」
「はい、先生」
エリシアはそのまま二人の元から去っていった。
エリシアは今まで弟子を取った事は無かったが悪くないと感じていた。
誰かを教え、導く事も悪くないなと思った。
メビウスとエスデスはエリシアの後ろをいつまでも見つめていた。
メビウスはいつも、平和を造りたいと口にしていた。
そして、メビウスの夢はいつからか、エスデスの夢にもなっていた。
この時はどんな困難だって打ち勝てる…そう…思っていた。
だが、そんなモノはただの幻想であった。
エスデスとメビウスは小さな組織を作り出した。名をプラネット・サーカス。
名前の由来は人や魔族が楽しく暮らせる星のサーカスの様な組織にすると願いを込めて付けた。
やがて、プラネット・サーカスの組織力は拡大していき、神聖ローマも無視できない程強大な組織になった。
そして、セラフィム騎士団とプラネット・サーカスは手を組む事になった。
しかし、それが罠だった。
セラフィム騎士団、及び神聖ローマ軍は最初からプラネット・サーカスを潰すつもりだったのだ。
和平協定と嘘を吐き、エスデスとメビウスを嵌めたのだ。
この時の神聖ローマの陛下はシャイン・アークキエル・ローマカイザー。
神聖ローマの皇帝でも穏健派の皇帝だった筈だがどういう訳か裏切られた。
「貴様がリーダーだな?」
シャインがメビウスに対してそう言った。
仲間の一人が人質にされており、セラフィム騎士団に捕らえられていた。
この頃、エリシアは別の任務で神聖ローマから離れていた為、エリシアはこの後でこの事を知る事になった。
「人質を解放しろ!」
メビウスとエスデスがルミナリエにそう言った。
「ああ、もう少し、近付いて来い。そうすれば解放してやろう」
メビウスはシャインに近付いた。
その瞬間ー
「がっ!?」
メビウスは騎士団が放った矢に貫かれた。
そして、そのまま絶命した。
「え?」
エスデスは何がなんだか訳が分からなかった。
メビウスが死んだ?そんな筈はない。だって…
エスデスはメビウスの死体を見た。
「残りの女も殺せ」
セラフィム騎士団が一斉にエスデスに攻撃を仕掛けた。
エスデスの周囲に樹木が出現し、セラフィム騎士団の攻撃を全て防いだ。
「なっ!?」
「霊魔結合か…」
「面白い能力だね」
セラフィム騎士団副団長であるミルフィーユがそう言った。
「一斉攻撃だ!」
セラフィム騎士団団長であるフランがそう叫ぶと騎士団達が一斉に攻撃を仕掛けた。
「認めない…認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!!!!」
エスデスは涙を流しながら両手を上げた。
「【死種神征】!!!!」
空から白い種が降り注いだ。
その種に触れた者は敵味方関係なく殺していった。
「ぐあああああああああ!!!」
「ぎゃああああああああああ!!!」
「うあああああああああ!!!」
エスデスは更に無数の樹木を発生させ、騎士団を殺しまくった。
「何だ!?この樹は…霊力を吸い取って…ぎゃああああああああああ!!!」
騎士団がどんどん死んでいった。
エスデスの戦い振りはまるで鬼神の様であり、一切を寄せ付けなかった。
「まずいな…引くぞ、フラン、ミルフィーユ」
「分かりました」
「ちぇー、面白くなると思ったのに」
シャイン、フラン、ミルフィーユの三人は身を引いた。
しかし、それ以外の神聖ローマ軍はほぼ全滅していた。
周囲は死体と血にまみれており、それはもうまるで地獄絵図であった。
もう、何もかもがメチャクチャであった。
何一つ、変わっていなかった。
強くなった筈なのに…何も守れなかった。
自分を愛してくれた人すら…エスデスは守れなかった。
ここでエスデスは自覚した。
エスデスが…メビウスが望んだ平和は…ゴミ以下の答えだった事に。
「はぁ…はぁ…」
エスデスは…何故か…嗤っていた。
To be continued




