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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
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【第十章】道化狂乱篇ⅩⅩⅡーfuture2ー

 ドラコニキルとイワンは未だに交戦していた。


「ふー、月が綺麗だな…」

「随分と余裕だな…」

「そんな事は無いよ。ただ、ここまで綺麗な満月を見たのは久し振りだと思っただけだ」

「それを余裕をこいてると言うのだ」

「戦いにおいてある程度余裕を持つのは大事な事だよ」

「それは強者にのみ許された特権だ!」

「いや違うね。強者は強者ならではの苦しみがあるものさ」

「分かった様な事を言う」

「分かるさ…この世界は不釣り合いながらもある程度バランスが保たれている」


 ドラコニキルは淡々とそう言った。


「何が言いたい?」

「強者には強者の恐怖があり、弱者には弱者の強みがあるのさ」

「下らん…圧倒的強者の前ではそんなものは負け犬の遠吠えよ」

「ならば…証明してやろう…」


 ドラコニキルはそう言ってイワンに斬りかかった。

 しかし、ドラコニキルは依然として余裕の表情であった。


「【黒炎刃翼(アトルム・フラムマアーラ)】」


 翼が刃の様に展開され、更に黒炎を纏ってイワンに攻撃した。

 しかし、イワンは未来改変により、黒炎を回避した。

 やはり、イワンの能力は強力であった。


「【黒炎天魔剣(イグニルム・グラディウス)】!」


 イワンの回避位置を読み、ドラコニキルはイワンを切り裂いた。


「くっ!?」


 イワンは鋏をドラコニキルに向けるがドラコニキルの翼がイワンの鋏を燃やした。


「何!?」

「貴様の未来改変は連続使用出来ない。だからこそ、その間は俺の黒炎はお前の武器を燃やせる」


 イワンはドラコニキルから離れたが鋏から黒炎は消えなかった。


「無駄だ。その炎は対象を焼き尽くすまで消えない」

「【世界変化(フトゥールム・タグエル)】!」


 鋏を燃やす黒炎が消えた。

 だが、鋏はかなりボロボロになっていた。


「くっ!?」

「かなりボロボロだな…何度か降り下ろせば折れるんじゃないか?」

「黙れ」

「お前は恐らくその武器で未来改変を行っている。つまり、その武器を折ればお前は無力化される」

「ちぃ!」


 ドラコニキルはイワンの弱点を見切っていた。

 そう、イワンの未来改変は全てあの黒い巨大な鋏、【死の鋏(デス・シャフォル)】によって行われていた。

 イワンの力の全てはあの鋏に集中している。


「行くぞ!」


 ドラコニキルは全身に黒炎を纏った。


「【黒焔魔塵剣(イグニレード・グラディアス)】!」


 ドラコニキルはそのままイワンに突進した。

 全ての黒炎を身体中に纏い攻撃する、ドラコニキル最大の技だ。


「いいだろう…ならば貴様の全てを叩き伏してやろう!」


 イワンは鋏にありったけの霊圧を込めてドラコニキルに迎え撃った。


「!?」


 イワンは突然の目眩に襲われた。

 いや、景色が反転していた。


ーこれは…幻術!?


 ドラコニキルは幻術は全く使えなかった筈だ。

 ならば、考えられるとしたらー


「あの小娘か!」


 イワンはくるの位置を補足し、鋏で黒い衝撃波をくるへと放った。

 くるはイワンの攻撃を回避しきれず直撃した。


「うっ!?」


 くるはそのまま気を失った。

 だが、その時には既に遅かった。

 ドラコニキルは既にイワンの眼前へと迫っていた。


「しまっ!?」

「これで…終わりだ!!!!」


 ドラコニキルはイワンの鋏に攻撃をした。


「くうううううううう!!!」

「ひび割れている割りには頑丈だな…」

「くそ…!」


 イワンは未来改変の力をくるを倒す時に使ってしまったのでしばらくは使えない。

 その隙をドラコニキルに突かれた。

 これがドラコニキルの作戦だったのだ。

 すぐに破れてしまう幻術も要は使い所だ。

 ドラコニキルはくるの幻術攻撃がイワンに対して有効である事を前もって確認していた。

 そして、イワンも幻術を一瞬で解除する事が出来たがイワンは戦闘力が高いドラコニキルを優先的に殺そうとしていた。

 イワンが戦闘力が高い者の順で敵を狙う事もドラコニキルは把握していた。

 だからこそ、この時の為にくるは今まで大きな行動には出なかった。

 くるなら簡単に殺せるからと後回しにしたイワンの完全な失策であり、幻術に対して甘く見すぎた結果である。


「だから言っただろ?弱者には弱者の戦い方があるってな!」


 ドラコニキルはそう言ってイワンの鋏に黒炎を加えていた。


「くっ!?余は負けん!負ける筈があるかあああああああああああああああああああああ!!!!」


 イワンは鋏に霊圧を込めるがまだ未来改変を発動する事は出来なかった。

 ドラコニキルの黒炎は強力であり一度ドラコニキルから離れなければ未来改変を行う事が出来ない。

 ドラコニキルにとってもこの一撃がイワンを倒す最後のチャンスだ。

 ここを逃せば恐らくドラコニキルは負ける。


「俺は…負けん!!!!」


 ドラコニキルはアンタレスの仲間達の事を思い出していた。

 別に仲間の為にとか考えて戦う方では無いと思っていたがどうもそういう訳でも無かった様だ。


「おのれ…!雑魚の分際で…!この余を…!ふざけるなあああああああああああああああああああああああ!!!!」


 イワンは激情に刈られていた。

 ドラコニキルは最後の力を振り絞った。


「砕けろおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 ドラコニキルはイワンの鋏を燃やし尽くし、粉々にした。

 更にイワンの身体を切り裂いた。


ー馬鹿な…


 ドラコニキルはそのままイワンから離れた。

 すると、黒炎が大きくなり、イワンの全身を蝕んだ。


「はぁ…はぁ…」


 ドラコニキルは黒炎をずっと見つめていた。

 だが、黒炎は一向に収まる気配が無かった。


「馬鹿な…」


 ドラコニキルは絶句した。

 何故なら…黒炎でその身を焼かれながらも未だにイワンは立っていた。


「負け…ぬ…貴…様ら…如…き…に……」


 イワンは粉々になった鋏の刃を拾い、ドラコニキルに斬りかかってきた。


「負ける筈が無いのだあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 イワンは果敢にドラコニキルの方へと向かっていった。


「はぁ!」


 しかし、ドラコニキルはあっさりとイワンを切り捨てた。


ーおのれ…この余が…こいつら…如…き…に……


 黒炎は更に激しくなりイワンの身体を影も形も残さずに燃やし尽くした。


「終わった…」


 ドラコニキルはくるの所へと向かい、くるの傷を焼いて塞いだ。

 くるも未来改変の力を受けて身体が腐敗し掛かっていた。


「やりましたね…ドラコニキルさん」

「ああ…黒宮大志…動けるか?」

「ええ…何とか…イワンが死んで…未来改変の力が解けた様です」

「そうか…ならば黒宮大志は蛇姫薊を頼む。俺は御登くるを」

「分かりました」


 黒宮は薊を背負い、ドラコニキルはくるを背負った。


「赤島英明と兎神審矢は良くやってくれた…」

「ええ…」

「戦いには必ず犠牲が付き物だ。だが…彼ら無くしてはイワンを倒す事は出来なかった」

「そうですね…」


 そう、戦争は多くの仲間が死ぬ。

 その死者達に報いる為には勝つしか道はないのだ。


「負けるわけには行かない」

「戻りましょう」


 ドラコニキルと黒宮は歩いていった。






 魂が満たされていく。

 この第四次世界大戦は多くの死傷者が出た。

 その魂全てがオーディンへと吸い込まれていった。

 オーディンは意思を持たない破壊の神。

 人間が造り出した破滅の神。

 そのオーディンは今、覚醒しようとしている。

 そして、新たな魂が入ってきた。

 これは…イワン・ライグルの魂だ。

 オーディンはイワンの魂を喰らった。

 そして、イワンの過去がフラッシュバックした。

 イワンは一人孤独に闘い、勝利する事で全てを手に入れてきた。

 だか、イワンはそうしていく内に指名手配され、追われる身となり、そこでプラネット・サーカスに勧誘され、プラネット・サーカスに入った。

 イワンだけでは無い。プラネット・サーカスは皆、ロキの思想の元、集められている。

 ロキが仲間を集め、そして、オーディン復活を目論んでいた。

 オーディンは動き始めた。

 オーディンは巨大な機械仕掛けの人形であり、身体のあちこちに歯車が付いていた。

 動きはぎこちなく、まるで壊れた人形の様であった。

 そう、この瞬間、オーディンは覚醒した。

 オーディンは暗闇の中、咆哮した。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」






「さて…さてさ~て?まだ続けるのかな?( ̄ー ̄)」


 ロキはやれやれといった顔でそう言った。


「はぁ…はぁ…」

「君も往生際が悪いね~(T0T)。君がいくら僕に攻撃しようが…僕には傷一つ付ける事なんか出来やしないよ?(^o^;)」


 フォルテは傷だらけにも関わらずロキは全くの無傷であった。


「言ったでしょ?負けるわけには行かないのよ」

「はー、そうか…なら…さっさと決着を着けさせて貰うよ…【闇誘う大穴(ダビデ・トリペス)】」


 フォルテはすぐに自身の違和感に気が付いた。

 フォルテはその場から離れようとしたがとてつもない力で身体が吸い寄せられた。


「くっ!?」


 フォルテは何とか謎の引力から脱出したが左腕が欠損していた。


「はー、殺しきれなかったか…( ̄ー ̄)。やっぱり久し振りだと空間調節が難しいな~(T0T)」

「今のは…」

「聞いてなかった?というか何となく気が付いてるんだろ?僕の能力は空間操作…つまりそういう事さ(*´∀`)」

「私の身体を異空間へ飛ばそうとしたって事?」

「そういう事さ\(^o^)/。まぁ、調節をしくじって上手く行かなかったけど…今度はミスらない(^◇^)」


 ロキは笑みを浮かべてそう言った。

 ロキの能力は空間を操作する能力、そしてどんな攻撃もすり抜ける能力の二つの能力を持っている。

 この二つの能力によってフォルテはロキに傷一つ付けられずに追い詰められている。


「一つ…聞いていいかな?」

「何だい?(*´∀`)答えれる限りの事を答えよう」

「あなた、これだけの力があるのに何でオーディンなんて化け物を復活させようとしてるの?他に目的があるの?」

「あー、そうだね…確かに具体的な目的を言ってなかったね…オーディンを復活させてこの世界を混沌へと誘う…というアバウトな説明しかしてなかったな~(-.-)。そうだね、どうせ君は死ぬ。だから僕の本当の目的を教えるよ」

「本当の目的?」

「ああ、僕の本当の目的は…「完全体」になる事さ(*´∀`)」

「完全体?どういう事?」

「この世界を混沌へと誘う…争いだけの世界…あるべき世界へと返す事が目的だと言ったね?けどね、それだけじゃあ、僕の願いは叶えられないんだよ(^o^;)何故だか分かるかい?」

「『世界宮殿(パルテノス)』…」

「御名答」


 そう、『世界宮殿(パルテノス)』がある以上、この世界を争いだけの世界へと変えたとしても元に戻されてしまう。

 本気で世界を変えようとすれば『世界宮殿(パルテノス)』をどうにかしなければ話にならない。


「だからね、『世界宮殿(パルテノス)』を制圧しなければならないんだよ。でも、いくら僕でもあの『世界宮殿(パルテノス)』を守護しているパルテミシア十二神全てを倒す事は出来ない…そこで、オーディンと一つになる必要があるのさ」

「!?」

「そう…オーディンと一つになり、『世界宮殿(パルテノス)』を破壊し、この世界を戦争だけの世界にする…それが僕の目的だよ」

「争いだけの世界を作って…何になるというの!」

「僕は悪戯好きの神、ロキだよ??(*´∀`)意味など無い。この世界の混沌を楽しむだけだよm(。≧Д≦。)m」


 嗤っていた。ロキはそう言って嗤っていた。

 フォルテにとってロキの行動は理解不能であった。

 ロキにとってこの世界が壊れようがどうでも良いのだ。

 自分が楽しければ…それでいいのだ。


「人や魔族という名のオモチャが自分の思い通りに動いてそしてパレードを行ってくれる…これほど愉快で楽しい事は無い!」

「あなた…やっぱり異常だね…」

「異常…か…確かにそうかもしれないね…プラネット・サーカスがそもそも狂った組織だからね」

「あなたがそうさせた!」

「まぁ、確かにそうさせたのは事実だけど…彼らは全員自分自身で最終的には選択している…自分から狂気の道へと行ったんだよ?」


 そう、あくまでロキは彼等を…『童話人(グリム)』を導いただけだ。

 アリアナに偽りの神、オーディンを信じ込ませたのは事実だがアリアナ自身、その神を信じる選択をした。

 ソニーは復讐に飢え、人や魔族を殺し続けていた。

 その居場所を与えたのはロキだがソニーも自分でその道を選択した。

 クメールは大人の汚い部分を見て、子供しか愛せなくなった。

 そんなクメールに道を示し、クメールは子供だけの帝国を創る事に成功した。

 メンゲレはマッドサイエンティストで非道な実験をしており、追われる身となったがプラネット・サーカスという隠れ簑を見つけた。

 バートルは夫が死んでからおかしくなり、拷問の趣味に目覚めた。

 変われる機会はあったのにバートルはプラネット・サーカスで狂う事を選択した。

 跡土は人や魔族を人形に変える非道な行いを行っていた。

 そして、自身の芸術を見出だす為にプラネット・サーカスに入る選択をした。

 マーリンは争いと平和を両方求めるという矛盾した感情を抱いていたが、プラネット・サーカスに入る事を選択している。

 エスデスは平和を求めてプラネット・サーカスに入っている。

 イワンは勝利に飢え、勝つことばかりに手段を選んでおり、その勝利を掴む為にプラネット・サーカスに入った。


「そう…僕達『童話人(グリム)』は嗜好、性癖、求めるもの、全てがバラバラだ。けどね…最終的にはこの組織に入る選択を…狂い続ける選択をしているのさ!ヘ(≧▽≦ヘ)♪ヾ(@゜▽゜@)ノヽ(*´▽)ノ♪バラバラな個性が集まり、一つとなった組織は何よりも強い…それは君も分かるだろ?(^o^;)そう!僕達はそう選択したんだ!何も僕がそうさせた訳では無いよ(^o^;)」


 ロキはケタケタ嗤いながらそう言った。

 そう、ロキはあくまで導いただけだ。

 選択したのはあくまでも彼等なのだ。


「まぁ、確かにこの闘いで僕を裏切った『童話人(グリム)』も何人かはいた…けど、僕と共に歩む事を選択した事は変わらない!ヽ(*´▽)ノ♪」

「そうね…あなたの言う事も一理はあるのかもね…けど…あなたの好きにはさせる訳には行かない!」

「君は確か妖精族だろ?希少種だね。いずれは滅び行く…(T_T)そう…この世界だって永遠では無い…( ノД`)…悲しい事にこの世界に永遠なんて存在しない…いずれは朽ちて消える…そんな世界を守る意味が…あるのかい!?((((;゜Д゜)))」


 ロキの言う通り、この世界には限りがある。

 いずれは朽ちるし消えてしまう。

 人も魔族もそれは変わらない。

 ロキはいずれ消える世界を守っても意味がないと言いたいのだ。

 それなら好き勝手荒らして食い潰せばいい。それがロキの根源的な考えなのだろう。


「意味なら在る」

「何だって?(゜゜;)」

「意味なら在ると言ったんだよ」

「ほぇ~(-.-)、たまげたなぁ…(^o^;)」

「あなたの言う通り、この世界は永遠じゃないや。寿命もある、限りもある…けど、その限られた時間を必死で生きる事に意味がある」

「戯れ言だね…そんなのはただの言い訳だよ(^o^;)。この世界のあらゆるモノに価値なんて無い。あるのは苦痛、苦しみ、絶望だけだよ。だからこそ、殺し合い、奪い合いという最高の娯楽を提供すると言っているのに君達と来たら…(´・c_・`)」

「あなたのそれはただの押し付けよ!闘いを…あらそいを望んでいない者達…その争いのせいで苦しんでる人達が大勢いる!そんな人達まで争いに身を投じさせるのは間違ってる」

「ならば君達に一体何が出来たと言うんだい?(; ̄Д ̄)?君達四大帝国は小国を迫害し、魔族…そして人間すらも否定してきた。(´・c_・`)。君達の平和が…小国にとっての暴力なんだよ(*ToT)。プラネット・サーカスに四大帝国以外の殆どの小国が付いたのがその証明だよ(^ー^)」


 そう、四大帝国の政策で小国が多大な被害が出ているのは事実で平和を望む者もいれば無論殺し合い、争いを望む者も、戦争が無ければ生きてはいけない人種や魔族がいるのも事実だ。

 多くの苦しみや痛みを味わっているのは四大帝国だけではない、小国も…いや、この世界そのものも痛みを受けている。

 人は魔族は…知らず知らずの内に他人を傷付けている。

 そして、その傷が争いに変わり、殺し合いに変わり、そして戦争となる。

 戦争が起きれば多くの死者が出る。そこから憎しみが生まれる。

 戦争が終わったとしてもまた憎しみによって争いが始まってしまう。

 そう、この世界は…憎しみによって支配されている。

 愛があるからこそ憎しみが生まれ、憎しみがあるから争いが生まれる。

 愛情は憎しみを孕むリスクも生まれる。

 愛と憎しみは表裏一体であり、人を魔族を…強くも弱くもするし優しさも狂気も産み出す。


「いくら君達が努力をしようが…世界そのものを変える事は出来ない!ならば!いっそ全て諦めて投げ出せばいい!そうすれば…楽になれる…苦しまずに住む!滅びを待つだけだ(*^▽^)/★*☆♪」


 ロキの言っている事は恐らく、間違ってはいないのだろう。

 だが…フォルテはどうしても納得行かなかった。

 何故かは分からない…だが、納得出来なかった。


「違う…そんなのは逃げてるだけだ」

「逃げてるだけ?結構じゃないか…逃げる事の何がいけない?」

「いえ、あなたから逃げれば世界は終わる。だからこそ、私はあなたをここで倒す!」

「やれるものならやってみると良いよ。(^ー^)まぁ、無理だろうけどね!」







「ここは…」


 月影慧留は目を覚ました。

 ここは天使城(セラフィム・ヴァール)の医務室であった。

 どうやら、長い間慧留は気を失っていた様だ。


「起きたか…」


 やって来たのはローグヴェルトであった。


「ローグ…」

「久し振り…という訳でも無いか」

「ローグ…あなたに聞きたい事がある」

「何だ?まぁ、答えられる事は無いだろうけどな」

「君、何で天使になったの?人間…だったよね」

「ルミナス陛下が俺を天使に転生して蘇らせて下さったのだ」

「天使に…転生!?そんな…事が…」


 慧留はにわかに信じられないといった顔をしていた。

 それもそうだ。人間を…天使に変えて転生するなどという話は聞いた事もない。


「信じろとは言わん。だが、事実だ」

「ルミナスは…何を企んでるの?」

「人聞きが悪いな…陛下がそんな風に見えるか?」

「蒼から五年前の事を聞いた」

「ならこれも知っている筈だ。俺は五年前に時神蒼達が起こした戦争で一度死んだ。むしろ陛下はそんな俺を助けてくれた恩人だ」

「それは…でも、ルミナスが何らかの事を計画してるのは事実だよね?」

「仮にそうだとして…貴様は何故そこまで時神蒼…フローフルを信じる?」

「フローフルは悪い人じゃないよ」

「それは陛下も同じだ」

「ううん、蒼とルミナスは明らかに違うよ」

「それは否定しない」

「ルミナスは…上手く言えないけど得体の知れなさがあった」

「それは貴様が陛下とあまり関わって来なかったからだ。俺から見ればフローフルの方が得体が知れんがな…」

「私は…蒼を信じるよ」

「それで…俺と刃を交える事になってもか?」

「そういうローグもどうなの?私と戦う覚悟…あるの?」


 ローグヴェルトと慧留の話は友達の再会とは思えない程、辛辣であった。

 慧留とローグヴェルトではこの五年間で別々のモノを見てきた。

 その五年間は二人を決別させるには十分過ぎたのだ。


「俺は陛下と共に在る。陛下に命を拾って貰った時からな」

「私も蒼を信じるよ。蒼のお陰で私は救われたから」

「どうやら、お互いに覚悟は出来ているらしいな」

「そうだね、私は君と戦うよ、ローグ」

「俺も貴様等が陛下に楯突くとあらば、お前だろうが排除する、エル」


 二人がめいかくに決別した瞬間であった。

 慧留は蒼を信じ、ローグヴェルトはルミナスを信じている。

 二人はそれぞれ異なる者を支持している。

 蒼とルミナス、慧留とローグヴェルト…この四人が次の闘いのキーマンとなるのは容易に想像出来る。


「まぁ、今は味方同士だし、そこまで張り合う事も無いよね」

「そうだな」

「所で、今はどのくらい戦況が進んでるの?」

「正直、五分と五分だが…ついさっき、ドゥームプロモ・ドラコニキルから『童話人(グリム)』の一人であるイワン・ライグルを倒したという報告とジェラートからはマーリンも倒したと報告が入った」

「蒼は…皆は無事なの!?」

「時神蒼は現在エスデス・ジルドと交戦中だ。そして…ルミナス陛下が戦場へ出た」

「!?」

「敵はもう、エスデスとロキの二人だけという事だ。だが…死傷者も多く出ている…」

「どういう…」

「四宮舞、グリーフアルト・ギアール、グリトニオン・ニヒルが死亡した」

「え?」

「それだけじゃない、ルバート・セイント霧宮美浪は重症、報告によるとインベル、アポロ、プロテアも重症だそうだ」

「そんな…」


 慧留はローグヴェルトから仲間の死を聞き、悲しみにうちひしがれた。


「これが…戦争だ」

「言われなくても…分かってるよ…」

「俺もお前も…結局は一人の魔族に過ぎない…無力だ」


 ローグヴェルトは自身の無力感を吐露した。

 ローグヴェルトは拳を握り締めていた。

 そんなローグヴェルトを見て、根っこは変わっていないだと慧留は少しだけ安心した。


「それでも…勝たないとね…」

「ああ、そうでないと死んだ者達の犠牲が無駄になる」

「ローグ…根っこは変わっていないんだね…安心したよ」

「お前も相変わらずの様だ。愚直なくらい真っ直ぐで…人の心を動かす」


 そう、慧留は人の心を動かす何かがある。

 ローグヴェルトはそう思っていた。

 そして、慧留もまた、ローグヴェルトが正義感の強い優しい人物である事を知っており、二人とも根っこは変わっていないのだ。


「ローグとこんなに落ち着いて話すの…本当に久し振り…」

「そうだな…まぁ、この五年間でお互い色々と変わってしまったがな」

「ねぇ?ローグ…私達、元に戻れるよね?」

「どうだろうな…それは分からん」


 慧留もローグヴェルトもあまりに変化しすぎた。

 この二人が元の関係に戻れるか…そんな事はローグヴェルトには分からなかった。


「私は戻るって信じてるよ」

「そうか…多分、お前はそれでいいんだ。お前は…そのままでいろ」

「言われなくても…もう絶対に迷わないよ」


 慧留は今から三年前、蒼と衝突して悩んだ事があった。

 でも、世界だとかこれからの未来の行く末とかどうのこうのを考えるのは慧留らしく無かったのだ。

 今を精一杯生きる。

 それが慧留の生き方だ。

 とんでもなく不器用で真っ直ぐな生き方だが、慧留はこれ以外の行き方が出来ない。

 だからこそ、慧留は色々な人や魔族の心を動かしてきたのだ。


「今を大事に生きる…そうすれば過去も未来も…きっと輝かしいモノになる筈だから」

「………」


 ローグヴェルトは慧留を見て考えを改めた。

 ()()()()()()()

 だが、ただ変わった訳では無い。

 成長したのだ。昔の慧留ならこんな絶望的状況に前を向こうとなどしなかった。


ーフローフルが…時神蒼が…そうさせたのか…


 ローグヴェルトは慧留を見て、慧留の輝かしい未来を予感した。

 慧留ならば、この不条理な世界を変えてくれる…そう…期待させてくれる。

 そう…予感させてくれる…


「ローグ?」

「俺は陛下の代理でもある。いつまでもここにはいられない」

「そっか…」

「じゃあな」

「待って、ローグ」


 ローグが医務室から出ようとした時、慧留はローグヴェルトを止めた。


「何だ?」

「お見舞い、来てくれてありがとう」


 慧留は笑顔でそう言った。

 慧留は気が付いていた。

 ローグヴェルトが慧留の見舞いに来ていた事に。


「別に死なれては困るから様子を見に来ただけだ」

「昔はもっと素直だったのに…ちょっと寂しいよ」

「そうかよ…」


 ローグヴェルトはそのまま去っていった。


「蒼、今君は戦ってるんだよね?なら…勝ってよ」


 慧留はそう呟いた。

 慧留は信じているのだ。

 蒼が必ず勝つことを。

 慧留は蒼によって救われた。

 そして、慧留に居場所が出来た。

 慧留にとって蒼は英雄なのだ。

 だからこそ、絶対に勝てると信じているのだ。

 蒼はきっと、どんな困難にだって打ち勝てる。


「私も…こんな所でグズグズしちゃいられない…けど…身体が動かないや」


 慧留はクメールに酷くやられていた。

 なのでしばらくは動く事が出来ない。

 ならば、慧留のやる事は一つだ。

 傷を癒して次の戦いに備える事だ。

 戦いはまだ終わっていないしこの戦いが終わったとしてもまた新たな戦いが生まれるかもしれない。

 慧留はとにかく次に来るであろう戦いに備える。それが、今の慧留に出来る事だ。

 そして、もう一つ、慧留には出来る事がある。

 それは、蒼の、屍の、一夜の、澪の、プロテアの、美浪の…そして、仲間の無事を祈る事だ。

 今の慧留に出来る事はこれくらいしかない。

 だが、そんな些細な事であっても、今の慧留はそうするしか無いのだ。


「皆…無事でいて…」


 慧留はそう呟いた。





To be continued

 今回のイワンの名前の由来はイワン四世です。今までは時間系の能力は味方しか使わなかったけど今回のイワンは敵キャラで初めて時間系の能力を使うキャラとなりました。

 今回、久し振りにドラコニキルが活躍しました。スープレイガはしょっちゅう活躍してるけどスープレイガに比べて見せ場が少ないんですよね…(現在のUSWのトップなので中々活躍させ辛い)

 次回からとうとう蒼の戦いが始まります。久しぶりに蒼が戦います。今回の話で初めてまともな戦闘をします。

 それでは!

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