【第十章】道化狂乱篇ⅩⅧーrememberー
僕は一体何者なのだろう?
そんな事は考えもしなかった。
否、考える余裕が無かった。
何故なら、フローフルはそれだけ陰惨な暮らしをしていたのだから。
フローフルは生まれたばかりの時、母親に棄てられた。
母はそれからすぐに死に、フローフルは一人で路頭をさ迷っていた。
一人で歩いた。歩き続けた。いつまでもいつまでも…どこまでも。
フローフルはこの時、雪原以外の景色を見た事が無かった。
フローフルが歩く先々に雪が降っていたからだ。
フローフルの水色の髪はまるで氷の様で…水の様で…
雪以外の景色を見たかった。この世界はもっと広い筈なのだ。
フローフルは少なくともそう信じ込んでいた。
そんな時、フローフルの目の前に一人の女性が立っていた。
「ようやく見つけたわ、フローフル。陛下の子供…」
黒色の長い髪に桜色の瞳を持っていた。服は桜色の宗教服を着ていた。
「私はエリシア。あなたを迎えに来たわ」
ーこれはフローフルの記憶?
そう、ここはフローフルの…時神蒼の記憶だ。
プロテアと蒼はマーリンとの戦いで記憶が混じり合い、お互いの過去を見ていた。
昔の記憶だ。かなり曖昧な筈なのに蒼の記憶は鮮明であった。
プロテアはこの記憶の世界とは別の存在だ。
ここの記憶を覗く事しか出来ない。
蒼は…フローフルは自身の力を制御出来ずに常に雪を降らせていた。
それにより、神聖ローマはフローフルの存在を知った。
フローフル、そしてルミナスの父であるヤハヴェラ・アークキエル・ローマカイザーはフローフルの捜索を行っていた。
そして、今エリシアが見つけ出した。
「あなたは…私が育てる…例え…どんな手段を使っても…」
エリシアは殺意にも似た瞳でそう言った。
エリシアの話はプロテアも聞いていた。
フローフル、インベル、アポロにとって先生の様な存在であり、特にフローフルにとっては親代わりだったと聞く。
しかし、その割りにはエリシアがフローフルに対して向ける視線はかなり劣悪であった。
まるでフローフルを道具の様に見ている様であった。
ーどうなってるの?
ーこれは?プロテアの記憶か?
蒼はプロテアの記憶を覗いていた。
楽しそうに家族と過ごしているプロテアの姿。
しかし、それがやがて戦争により絶望へと変わっていった。
殺される仲間達、家族、そして…消えない痛み。
愛する者は簡単に失い、ゴミの様に人が死んでいき、癒えない痛みを産み続ける、それが戦争だ。
プロテアは幼い頃からずっとこの痛みから戦い続けていたのだ。
やがて、プロテアは復讐者として仲間と共に行動し、力を付けていき、色々な国を転々とする事も珍しく無かった。
プロテアは銀髪赤目が目立つ為、ローブを着ていた。
そんな時、プロテアは神聖ローマにやって来た。
この時、プロテアが神聖ローマに潜入捜査をしていた。
プロテアにとって四大帝国は全て敵であった。
だから、神聖ローマのスパイ活動も行っていたのだ。
スパイ活動を行う際は髪を黒色に染めていた。
銀髪はイシュガルドの特徴である為、素性を隠す必要があった。
ーあいつ…ローマにも来てたのか…
蒼はプロテアが神聖ローマに来ていたという事実に少し驚いていた。
しかも、プロテアは神聖ローマでスパイ活動も行っていたのだ。
この頃のフローフルは幼い子供であった。
ーあれは…俺?
プロテアは天使城で一人の小さい子供を見掛けた。
プロテアは引っ張られていく少年を見た。
少年は綺麗な水色の髪に瞳をしており、背中に小さな氷で出来た翼が生えていた。
「あの子は?」
「ああ、あいつはフローフル・キー・ローマカイザー。最近発見されたローマカイザーの第四皇子だよ」
「なっ!?」
プロテアは近くにいた人に聞くと驚愕していた。
プロテアはヤハヴェラの子供はルミナスしか聞いていなかった。
他に皇女が二人いる事くらいしか知らなかった。
四人目の皇子がいるとは初耳だった。
「随分と驚くな」
「えっ?あっ…何でもない」
プロテアは少しだけフローフルの事が気になった。
フローフルの身体は所々凍り付いていた。
今は春でそんなに寒くない筈なのにあれは異常だった。
プロテアはフローフルの様子をこっそり見に行った。
やがて、蒼の意識が黒へと変わっていった。
「がああああああああああああああ!!!!」
フローフルはエリシアに身体全身を切り刻まれていた。
「どうしたの?こんなモノでは無いでしょ?あなたの力は?」
ー話と違う…どうなってるのよ…
プロテアはフローフルとエリシアは親子の様な関係だと聞いていた。
しかし、エリシアはフローフルを血塗れになるまで切り刻んでいた。
これではただの虐待…いや、虐待と呼んで住むレベルでは無かった。
「ううううう…」
「さぁ?私を殺してみなさい?あなたは私の道具なんだから…」
エリシアはフローフルの左眼にナイフを突き立てた。
「あ…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
フローフルはエリシアに刀を持って遅い掛かるがその度に返り討ちにされた。
「速く…私を殺しなさい…でないと…私は…」
エリシアの言葉はプロテアには聞こえなかった。
プロテアにとってエリシアのやっている事はただの拷問であった。
「止めなさい!」
プロテアがエリシアに止めにいった。
「あなたは…確か天使城の見張りね。こんな所に来るなんて…あなたに関係無いわ」
「何言ってるの!?その子はまだ子供よ!!!」
「それ以上言うのであればここで捕らえるわ」
エリシアがそう言うとプロテアの周りにエリシアの部下達が取り囲んだ。
「くっ…!」
プロテアはスパイである。
だからこそ、あまり迂闊な行動は出来ない。
プロテアは大人しく引き下がった。
ー何よ…これ…こんな事…私の記憶には…
そう、プロテアは全く覚えていなかった。
この記憶は今から恐らく十年以上前の話だ。
神聖ローマにスパイ活動をしていたのは覚えていたがフローフルと会っていたなど忘れる筈が無い。
ならば、何故…更にこの記憶には違和感がある。
そう、エリシアの事だ。
時神蒼が語ったエリシアと今目の前にあるエリシアはあまりに印象が違い過ぎる。
今、プロテアが見ているエリシアは残虐である。
とても、蒼が語ったエリシアでは無かった。
プロテアはそんな事を考えてる内に景色が真っ黒に変わっていった。
プロテアは一人で道端を歩きながら考えた。
あの子は何者なのか?
何故、あんな小さい子供があんな目に会わなければならないのか?
プロテアは自分達以外にも苦しい思いをしている者が魔族、人、世界問わずに多くいる事を痛感した。
自分の目的はあくまで復讐。だが、この時のプロテアは別の感情が芽生えていた。
あの子を助けてあげたいと…そう考える様になっていた。
復讐以外の感情が芽生えるのは久し振りの事だった。
何故、プロテア自身、こんな事を思う様になったのかは分からない。
もしかしたら、自分と同じ様な者に対して哀れんでいたのかもしれない。
プロテアは天使城の方を見詰めていた。
フローフルは毎日虐待の様な日々を過ごしていた。
エリシアから…そしてフローフルを助けてくれる者は誰一人としていなかった。
フローフルは心身ともに疲弊しきっていた。
フローフルは何も無かった。
今、フローフルは小さい部屋に閉じ込められていた。
そこにあったのは窓だけであった。
「…?」
フローフルは窓から誰かがやって来る事に気が付いていた。
それは前にフローフルを助けようとしていた少女であった。
「【鉄王剣】」
プロテアは鉄の剣を出現させ、窓を切り裂いた。
「!? グルルルルル…」
フローフルは威嚇する様にプロテアを見詰めた。
「大丈夫よ。怖くないわ。ここから出してあげる」
プロテアはそう言ってフローフルに近付き、フローフルの頭を触ろうとした。
フローフルはそんなプロテアの行動に驚き、プロテアに噛み付いた。
「うっ!?」
しかし、プロテアはもう一方の手でフローフルの頭を優しく撫でた。
「………」
フローフルは安心したのかプロテアを離した。
「さぁ、行きましょう」
プロテアはフローフルの前に手を差し伸べた。
「…あ……」
フローフルは怯えながらもプロテアの手を掴んだ。
そして、プロテアとフローフルはその瞬間、虚空へと姿が消えた。
フローフルが歩く先に雪が降っていた。
「この子がいる場所に雪が降ってる…このままでは見つかるのも時間の問題ね」
全く、スパイ活動をしていた筈なのに結局厄介事に首を突っ込んでしまった。
これではもうスパイ活動をするのは無理だろう。
「確か…あなたはフローフル…だったわね?」
「フー?」
「もしかして…言葉が分からないの?」
「こ?」
どうやらフローフルは言葉が全く分からなかったらしい。
あんな拷問の様な日を送っていればそれもそうか。
しかも、フローフルは幼いのだ。
「これは…言葉を教えた方がいいわね」
プロテアはフローフルに言葉と文字を教えた。
プロテアがフローフルに言葉を教えてから一月経った。
フローフル自身、かなり要領が良かった様でプロテアが教えた言葉をどんどん覚えていった。
「プロテアは…どうしてぼくをたすけてくれるの?」
「さぁね、ただの気まぐれよ」
プロテアはフローフルに素っ気なくそう答えた。
プロテア自身、何故自分があんな愚行を行ったのか分からないのだ。
「そんな下らない事を言ってる暇があるならさっさと逃げるわよ」
「どこにいくの?」
「さぁね、とにかく、明日にでもこの国を抜けれるわ」
プロテアはとにかくヘレトーアのアジトに戻ろうと考えていた。
今まではイシュガルドの仲間と自分で五人で暮らしていたが一人増えるくらい別にどうとでもなるだろう。
本当に何故プロテアはしかも神聖ローマの皇子を拐ってこんな事をしているのか分からない。
もしかしたら仲間達にショタコンと煽られるかもしれない…それは絶対にあってはならない。
そもそもあのままあそこに置いていたらフローフルが精神的に保たなかっただろう。
プロテアがそんな事を考えている内に近くに神聖ローマの兵士達が来ていた。
「隠れて蒔いた方がいいやね」
プロテアはフローフルと共に近くの壁に隠れた。
「見つかった?」
「いいえ」
エリシアは数人の部下と共にフローフルを追っていた。
エリシアはフローフルを拐った人物に心当たりがある。
あの黒髪赤目の女だ。
「速く見つけないと…それにしても…妙ね。雪が降らなくなってきてる…」
天使城には特殊な結界を張っていた事により雪が降らなかったのだがそうでなければ雪が降っていた筈なのだ。
「まさか…霊力を制御出来る様になっていったって事?このまま国を抜けられたら捜索が困難になるわね…フローフル…あなたは「鍵」なのよ…ローマカイザーを殺す為の…その為にも…」
エリシアは何かとても焦っている様であった。
ーどういう事?
フローフルと共に隠れていたプロテアはエリシアの言葉が疑問だった。
エリシアはローマカイザー側の人間の筈なのに何故、ローマカイザーを殺すなんて事を言っているのだ。
エリシアの行動にはあまりにも不審な点が多過ぎた。
もしかしたら、エリシアには何か別の目的があってその為にフローフルを使おうとしているのではないか。プロテアはそう考えた。
「どうやら、ここにはいない様ね」
エリシアはそう言ってここから去っていった。
プロテアはフローフルを抱き締めながらこう呟いた。
「大丈夫よ。あなたは…絶対に守る」
「もう少しで抜けられるわ」
プロテアはフローフルと共に国境を抜けそうであった。
そこは広い広野であった。
プロテアとフローフルはそのまま走った。
「そこまでよ」
プロテアとフローフルはその声を聞き、足を止めた。
目の前にはエリシアとその部下達がいた。
既に先回りされていた様だ。
「どうしてここが…」
「ここが神聖ローマの国境を抜けるのに最適な道だからよ。さぁ、フローフルを返して貰うわ」
「あなたみたいな奴にこの子は渡せないわね」
プロテアは鉄の剣を顕現させた。
「あなたとフローフルは何も関係が無い筈でしょ?それなのに何故、フローフルを逃がそうとするの?」
「目の前で拷問の様な生活をさせられてる人を放っておけるっていうの?」
「あなたのそれは偽善よ」
「偽善でも構わないわ。少なくともあなたよりマシよ」
エリシアはプロテアとフローフルを見詰めた。
「いいわ。なら、私を倒してみなさい」
エリシアはそう言って黒い刀を構えた。
「うっ…」
「プロテア!」
プロテアはすぐにエリシアに倒された。
一方的であった。
プロテアは時を加速、減速させる能力を使うのだがエリシアには一切通用しなかった。
通用しない理由は単純だった。
「疑問に思ってるでしょ?何故、私にあなたの時間の加速、減速能力が通用しないのか…それは簡単よ。私もあなたと同じ、や、あなた以上に時間捜索を使えるからよ」
「なっ…」
「所詮はその程度…あなた、その力はアルカナね。という事はイシュガルド…」
エリシアはプロテアを見据えた。
「とにかく、あなたはここで始末するわ」
「…くっ……」
「プロ…テア…」
フローフルは既にエリシアの部下達に捕らえられていた。
フローフルはプロテアがやられた姿を見て、下を向いてへたりこんだ。
「プロテア…プロテア!!!!!!」
フローフルの霊力が暴発した。
「なっ!?これは…うわああああああああああああああああああああ!!!!」
フローフルの周囲に氷が出現し、エリシアの部下達が凍り付けにされた。
「これは…ふっ…やっと覚醒したわね…」
エリシアは満足げにそう言ってフローフルの氷を一瞬で砕いた。
そして、フローフルの首を峰打ちし、気絶させた。
「フロー…フル…」
「記憶を消すわ。あなた達が会う事は二度と無い」
フローフルとプロテアは台座に二人揃って寝かせられており、頭に装置を付けられていた。
「イシュガルドの少女…あなたには感謝してるわ。あなたのお蔭でフローフルの力を引き出せた。どうやら…私のやり方は間違ってた様ね」
エリシアはそう呟いた。
エリシアは本気で殺しに掛かればフローフルは強くなると考えていた。
だが、そうでは無かった。
「優しさ…それによる感情の発露…それがフローフルを強く成長させるのに必要なモノだった。あなたはそれに気付かせてくれた。その礼に命までは取らないわ。まぁ、記憶は消させて貰うけど」
そう言ってエリシアはプロテアとフローフルの記憶消去を始めた。
エリシアの目的。それはローマカイザーを倒す事だ。
だが、エリシアの力ではそれが不可能だ。
ローマカイザー…特にその直系であるアークキエルの者達には特殊な能力がある。
それはアークキエルこ系譜に生まれた者は今までのアークキエル達の記憶が引き継がれる事だ。
神聖ローマの皇帝は全てローマカイザーがやっていた。その歴代ローマカイザー皇帝の記憶が全て引き継がれるのだ。
ヤハヴェラの力が弱まっている今、その娘であるルミナスはいずれ、全ローマカイザーの記憶を引き継ぎ、初代皇帝であるヤハヴェの意思で行動する事になるだろう。
そうなれば世界は終わってしまう。
エリシアはこの世界を終わらせるつもりは無い。
友と約束したのだ。この世界を必ず守り抜くと。
その為ならどんな犠牲も厭わない。
そう思っていたがそれがそもそもの失敗だった様だ。
「フローフル、そしてこのイシュガルドの少女。人と魔族が出会い、新たなモノを二人で作り出す…その一端を見たような気がする…私は…失敗したのね…」
エリシアはそう呟いた。
「イシュガルドの少女は適当にどこかへと放っておきましょう。もしかしたら…役に立つかもしれないしね」
エリシアはそう呟いた。
フローフルにとってプロテアはいい影響を受けた様だ。
エリシアからすればプロテアをここに置いても良かったが彼女がイシュガルドと分かれば神聖ローマも黙ってはいない。
放っておくのが無難だろう。
「フローフル…あなたには私を…ルミナスを倒せるくらい、強くなって貰わないとね」
「随分と、その子を買ってるですね。エリシア」
後ろから声が聞こえた。
そこにいたのは小さな少女であった。
「エスデス、来てたのね」
「ええ。たまには古巣に戻るのも悪くないと思ったです」
エスデスはそう言った。
エスデスは神聖ローマ出身であり、エリシアの弟子だった。
「不出来な弟子を持つと大変よ」
「よく言うです。………エリシア…いくらあなたでもわたしの邪魔をする事は許さないです」
「あなたの目的は私にとっては知った事では無いわ」
「ならいいです。フローフルか…」
何かエスデスはフローフルを見て思う所があったのかフローフルを見つめていた。
しかし、エスデスはすぐにエリシアの前から去っていった。
フローフルは…時神蒼は…生きる事に…自分が何者なのか…そんな事を何も疑問に思わなかった。
思えなかった。エリシアに戦う事が全てだと教えられたから。
そして、拷問の様な毎日を過ごした。
フローフルは最初から一人きりだったのだ。
いや、フローフルに限らず自分自身は一人しかいないのだ。
だけど、それでも、フローフルは普通が羨ましかった。
家族がいて、仲間がいて、友達がいて、そうやって普通に過ごせる者が堪らなく羨ましかった。
フローフルは生きる意味を見出だせずにいた。
結局、親に捨てられ、エリシアにずっと利用されてきた。
そんな時だ。彼女が…プロテアが現れたのは。
プロテアは…フローフルを外の世界へと連れ出してくれた。
雪と銀世界しか知らなかったフローフルにとって、それはとても新鮮であった。
文字も教えてくれた、言葉も教えてくれた。
プロテアはフローフルに沢山の事を教えてくれていたのだ。
フローフルはずっと…忘れていた。
こんな大事な事を忘れていた。
自分の命の恩人の事を…ずっと…ずっと…忘れていたのだ。
エリシアはプロテアとの邂逅を境にフローフルに対して優しくなっていった。
今までのエリシアのやり方ではフローフルを強く出来ない事を分かったのだ。
フローフルは…あの時、プロテアと一緒にいたかった。
プロテアともっと色々な場所を巡りたかった。
プロテアと…結ばれたかった。
蒼はそんな事を考えている内に光へと飲み込まれていった。
忘れていた。忘れさせられていた。
プロテアは消された過去を蒼と通じて見た事で全てを思い出した。
ーフローフルも…思い出しているのだろうか?
プロテアはそんな事を考えていた。
プロテアは忘れていた。
だが、思い出した。
プロテアはエリシアと会っていた。
そして、そのエリシアにより、フローフルもプロテアも記憶を消された。
同じだった。二人は同じだったのだ。
たった一月程の時間ではあったが随分濃密な時間であった。
しかし、プロテアは記憶の中で言っていたエリシアの言葉に引っ掛かりを覚えていた。
エリシアは何故あそこまでしてローマカイザーを滅ぼそうとしていたのか。
断片的な記憶の為、今は憶測でしか考えが及ばない。
それに蒼から聞いたエリシアと今、記憶を辿ったエリシアではあまりにも印象が違い過ぎる。
エリシアはパルテノス十二神に相当する力を持っている筈だ。
そんなエリシアが警戒しなければならない程、ローマカイザーは強大という事だろうか?
今の神聖ローマの皇帝はルミナス・アークキエル・ローマカイザーだ。
彼女は歴代最強の皇帝と名高い。
そんな彼女だがキナ臭い噂も多いらしい。
プロテアは彼女と会った事がつい最近まで無かったのでどういう人物かは把握しきれていないが、確かに得体の知れなさと危うい感じは確かにした。
霊力が強大だとか力が強大だとかそんな話では無い。
とにかく、異質なのだ。
それはまるで、深海にも光が指している様な…圧倒的で強過ぎる光。
ルミナスはそんな人物であるようにプロテアは思えた。
しかし、これはプロテアの憶測でしか無く、何も確証は無かった。
かつて、蒼とプロテアは会っていた。
二人は共に生きる事を望んでいた。
そして今、巡り巡って二人は共にいる。
これは運命の様にプロテアは思えた。
そんな事を考えている内にプロテアは黒い空間から光が指し、光へと飲み込まれていった。
時は戻り、ここは現代の天使城。
現在、第四次世界大戦を迎えており、ルミナスはそこで戦闘の指揮をしていた。
「エリシア…ローマカイザーを壊そうとした女…」
ルミナスはそう呟いた。
ルミナスはエリシアに怒りを覚えていた。
ルミナスはエリシアが死んだ後、彼女の事を色々調べたが過去に彼女はローマカイザーを潰す為に色々と手を打っていた事が分かった。
エリシアはローマカイザーを滅ぼそうとしていたのだ。
ローマカイザーは危険な存在でいずれ、この世界を脅かす存在になると分かっていたからだ。
プロテアと蒼が十数年前に会っていた事もルミナスは知っていた。
ルミナスは歴代全ローマカイザーの記憶を受け継いでいる。
そして、その記憶からルミナスはローマカイザーが世界統一を成し遂げようとしていた事を知った。
ルミナスはそれを完遂させる役割を持っているのだ。
「手始めに…世界征服…まるで小学生の考えそうな事ね」
ルミナスは皮肉混じりにそう言った。
だが、何がなんでも成し得なければならない事だ。
ルミナスのその先の目的の為には。
ルミナスはずっと…ずっとフローフルの事を考えて生きてきた。
フローフルのいない世界が堪らなく嫌なのだ。
ルミナスは必ず、目的を成し得て見せる。そう、決意した。
蒼とプロテアは数秒だけ硬直していた。
マーリンはアポロに動きを止められており、インベルはマーリンにより拘束されていた。
「フローフル!プロテア!」
「「!?」」
アポロの呼び声に二人は意識を取り戻した。
「今のは…」
「やっばり…フローフルも?」
「お前もか?プロテア…」
蒼もプロテアもこの数秒であまりに多くの情報が入り込み過ぎて思考が追い付いていなかった。
蒼もプロテアも同じ記憶を見ていた様だ。
「じゃあ…お前が…俺を連れ出した…」
「………」
蒼の言葉にプロテアは黙っていた。
それは蒼の記憶が正しいという証明でもあった。
「見つめ合ってるとこ悪いけど君達はとっとと死んで貰うよ!」
「しまっ!?」
アポロはマーリンに一瞬の隙を突かれ、マーリンは蒼とプロテアに鏡の欠片で攻撃を仕掛けた。
プロテアは【鉄神剣眼】で攻撃を防ごうとした。しかしー
「うっ!?」
先程までの戦いで眼を酷使し過ぎた。
能力が発動しなかった。
「【三重虚神】」
蒼は霊呪法で鏡の欠片を防御した。
「【死滅天使神剣】!」
アポロはインベル目掛けて斬撃を放ち、インベルを縛っていた鏡を切り裂いた。
「サンキュー!アポロ!」
インベルはマーリン目掛けて砲撃を放った。
マーリンは鏡でインベルの攻撃を反射した。
「ちぃ!」
インベルは砲撃を回避し、蒼とプロテア前へ移動した。
「フローフル…お前…」
「はぁ…はぁ…」
「メチャクチャ霊力取られてんじゃねーか!」
インベルは蒼の状態を見て、驚愕していた。
蒼はかなり霊力を取られており、とても戦える様な状態では無かった。
プロテアも霊力がほぼ尽きてる上に瞳力の使い過ぎで眼の負担も物凄い事になっている。
この二人はとても戦える状態では無い。
「フローフルとプロテアはここかろ逃げなさい。今のあなた達がここにいても足手まといよ」
「そういうこった。後は俺らに任せろ!」
アポロとインベルがそう言った。
二人の言葉を聞き、蒼とプロテアは頷いた。
確かに、霊力が尽きかけている二人がここにいても足手まといになるだけだ。
「逃がすと思うのかい?折角捕まえた獲物を!」
マーリンは蒼とプロテアに攻撃を仕掛けた。
しかし、インベルが二人から攻撃を守った。
「行け!」
蒼はプロテアを担いで、急いでマーリンから離れた。
アポロはこの広域結界に穴を開け、蒼とプロテアはその穴を通ってこの場から脱出した。
マーリンは急いで追い掛けたが蒼とプロテアが出た瞬間、穴は塞がっていた。
「くっ!?」
「あの子達を追い掛けたいなら…私達を倒してからにしなさい」
アポロが挑発する様にそう言うとマーリンは少しだけ楽しそうにしていた。
「上等だよ」
To be continued
今回は過去回想が主でした。
蒼とプロテアは過去に会ってたんですよね~。この話は後々重要になります。エリシアは今まで優しい人みたいなイメージでしたので結構驚いた人も多かったのでは無いでしょうか?ですが、エリシアの本質は変わってなくてどっちもエリシアなんです。エリシアは蒼と出会って何を思ったのか、それは皆さんのご想像にお任せします。
そして、ようやく蒼は脱出出来ました。いや遅いよ(笑)しかも蒼の見せ場はまだまだ先だし。
それでは、次回は多分別の戦いになると思います!それではまた!




