【第十章】道化狂乱篇ⅩⅤー【鉄神剣眼(アインハイス)】ー
インベルとアポロとプロテアは広野を走っていた。
現在、彼等は蒼を鏡の世界に綴じ込めたマーリン・モリガンを捜索していた。
今はマーリンの衣服を頼りに捜索していた。
衣服に霊力を込めてそれを伝って捜索しているのだ。
衣服には霊力や匂いが付着しやすく逆探知しやすいのだ。
しかし、時間が経てば消えてしまうため早くに見つけ出さなくてはならない。
「ここから数十キロに恐らくマーリンがいるわ!」
「よし!ならさっさとフローフルを助けるぞ!」
「ええ」
アポロがマーリンの逆探知をして先頭に立っており、順にインベル、プロテアが走っていた。
アポロ達は急いでマーリンの元へ向かっていた。
「フローフル…待ってて!」
アポロ達は只ひたすら走り続けた。
「どうなってんだ?ちっともマーリンとかいう奴の姿が見えねぇぞ!?」
「これは…どういう…」
インベルとプロテアがかなり焦燥していた。
あれから何時間も走り続けたがマーリンの姿が見えなかったのだ。
只一人アポロのみが冷静に状況を確認していた。
「距離が徐々に離れていってる…恐らく敵の術か何かね」
「一体どんな術なの?」
「幻術…と言いたい所だけどどうも違うわね」
幻術に掛かっているのならアポロ達の霊力が乱れている筈だがそんか事も無いため幻術ではない。
だとしたら考えられる事はー
「な!?アポロ!プロテア!」
インベルとアポロとプロテアの距離が徐々に開いていた。
「これは…」
「な!?アポロ!インベル!?」
三人はそれぞれ引き離されてしまった。
「これは…どういう…」
プロテアがそう呟いた。
だが、プロテアは何となくこの敵の能力が少しだけ分かった気がする。
「ようこそ…地獄の入り口へ」
「やっぱり敵の能力だったのね…」
プロテアの目の前に現れたのは口に歯の形をした面を被っており、白いコートに身を包んでいる青紫の髪と瞳を持った男であった。
「あなたは?」
プロテアが問うと男は歯の形をした面を外した。
すると、男の口は抉れており、抉れた左側の顎に9の数字が刻まれていた。
「プラネット・サーカス『童話人』第九の席、ルーターのソニー・ビルドアルファ。君達の悲鳴を聞きに来た」
ソニーは歯の形をした面を元の位地に戻した。
「悲鳴を聞くのが趣味なんて悪趣味ね」
「いや、苦しんでいる者の姿を見ると興奮してしまうんだ」
「プラネット・サーカスはどいつもこいつもおかしな奴ばかりね」
「それはどうも」
「所であなたのその力…どうやら指定したモノの距離を伸ばす能力ね」
「………」
「あなたは指定した場所の距離を伸ばす伸ばす事が出来る。本来なら数十メートルしかない距離を何キロメートルの道にする事が出来る」
「御名答、大した分析力だ」
「その能力で私達を疲弊させようとしたのね」
「まぁね。けど、君が思ったよりオレの能力に感付いたみたいだから引き離した」
「それで、真っ先に私を倒そうっていうのね」
「そういう事だ!ああ、一つ言い忘れていたが…君のさっきの解説…厳密には半分正解だ!」
ソニーがそう言うとソニーの身体が巨大化した。
ーいえ、違う…これは…
プロテアはすぐに異変に気が付いた。
ソニーが大きくなっているのでは無い。
プロテアが縮んでいるのだ。
「な!?」
「終わりだ!」
ソニーはプロテアを踏み潰そうとしたがプロテアは攻撃を回避した。
ソニーの能力は恐らく、物質の大きさを縮尺、拡張する能力だ。
どうやらそれは生物にも作用する様でプロテアの身体が縮んでしまったのはその為だ。
「【鉄時雨】!」
上空から鉄の雨が降ってきた。
ソニーは降ってきた鉄の雨の大きさを小さくし、攻撃を回避した。
更にソニーはポケットから小さな盾を取り出し、その盾を巨大な盾に変化させた。
「オレの【希望の盾】を受けてみろ!」
ソニーは盾を自分の前に置いた。
一体何がしたいのかプロテアには分からなかったがプロテアは小さくなった身体で盾ごとソニーに攻撃を仕掛けた。
「【鉄魔王剣】!」
盾は一瞬でヒビが入った。
「その盾…大した強度じゃないわね」
「ふふ…【希望の盾】にヒビが入った!」
ソニーがそう言った瞬間、プロテアの右肩がバッサリと切り裂かれていた。
「!?」
プロテアはソニーの前から一歩下がった。
「まさか…あなたのその盾に傷を付けるとそのダメージが私に返ってくる…というの?」
「御名答!厳密にはオレの【伸縮】を受けた者を全員身体をリンクさせる!」
「全員?まさか…アポロとインベルも…」
「そこは想像に任せるよ…さぁ?君はその小さい身体でオレの盾を傷付けずに倒せるかな?」
プロテアはソニーの安易な挑発には乗らなかった。
「確かに…あなたのその能力は厄介ね…けど、所詮は子供騙しよ」
プロテアはそう言ってソニーの背中に剣をぶっ刺した。
「な!?」
「私は時間の加速と減速を同時に行える。いくら身体が縮もうがあなたの背後を取れば関係無いわ」
「くっ!」
ソニーはプロテアを掴もうとしたがプロテアは既にソニーから離れていた。
そして、ソニーはすぐに心臓に刺さっていた剣を引き抜いた。
「心臓を刺しても死なないなんて…」
「ふっ…傷を極限までに縮尺したんだ…そうすれば死なない…どうやら…お前に変な小細工は通じない様だな」
「ソニーはそう言って盾を消した」
「何故わざわざ盾を消したの?」
「盾を消さなければ本来の力を発現出来ないんだよ。ここからは本気でやる。時間の加速と減速…お前がプロテア・イシュガルドだったとはな…」
そう言うと霊圧が上昇し始めた。この上昇率は異常であった。
「【神の巨人】」
ソニーの身体は巨大化した。
それも数十メートル級の大きさであった。
「な!?」
プロテアは身体が縮んだままの為、余計に大きく見えた。
「行くぞ…」
ソニーは動き出した。
ソニーは両手にメリケンサックが着いていた。
更に、顔は骨が剥き出しになっており、痛々しい姿をしていた。
顔だけではない身体のあちこちに骨が浮き出ていた。
ソニーの動きは非常に緩慢であった。これならー
「!?」
プロテアはソニーにいつの間にか殴り飛ばされていた。
ーな!?
プロテアは驚愕した。
ー一体どうやって………まさか!?
プロテアはソニーの今の超速攻撃のカラクリに気が付いた。
ソニーの能力は物質の伸縮。つまりはそういう事だ。
攻撃する時に自身とプロテアの距離を急速に縮めてあたかも高速で攻撃した様に見せていたのだ。
プロテアはすぐに立ち上がった。
しかし、ソニーの攻撃力は相当高く、プロテアは全身から血が吹き出していた。
プロテアは鉄の剣を顕現させ、ソニーに攻撃を仕掛けた。
「【鉄魔王剣】!」
しかし、ソニーはプロテアの攻撃が当たる前に二人の距離を今度は逆に遠ざけて攻撃を回避した。
「な!?」
そして、プロテアが大振りの隙が出来た瞬間に再び距離を縮めてプロテアを再び殴り飛ばした。
「かはっ!?」
プロテアは再びソニーに吹き飛ばされた。
物質の伸縮…地味な能力ながら汎用性の高い厄介な能力であった。
こちらから攻撃しようとすれば距離を伸ばされ、向こうから攻撃が来れば距離を縮められて当たりやすくなる。
更に巨体により相当な攻撃力も持っている。
パワー、スピード共にずば抜けて高い。
だが、どんな技や術にも必ず弱点はある筈だ。それを突き止めるのを優先すべきだ。
ーまずは能力を詳しく把握する。
「【鉄連鎖針】!」
プロテアは地面から無数の鉄の針を発生させた。
しかし、ソニーは針との距離を伸ばし、攻撃を回避した。
「まだよ!」
プロテアは更に針を展開させたがソニーはその度に距離を伸ばした。
やがてプロテアの鉄の針の拡張は完全に止まり、止まっ瞬間鉄の針は砕け散った。
「無駄な足掻きだ!」
ソニーは数秒拳に力を込めてタメを作り、一気にプロテアとの距離を縮めた。
「【鉄鎧冑】!」
プロテアは鉄の鎧を一瞬で纏い、ソニーの攻撃を軽減した。
しかし、身体が縮んでいるせいで思うように力が出せない上に向こうの攻撃力は高いため防ぎきれず鎧は粉々に砕けた。
ーやっぱり…思った通り…伸ばす距離、縮尺する距離の対象が大きければ大きいほど…タメが必要のようね
プロテアはさっきの攻撃だけで冷静に分析した。
ソニーは動作無しで能力を発動させる事が出来るがその場合の物質や距離の伸縮限界は約十メートルが限界だ。
それでも連続して発動は可能だが連続発動出来るのは五回までの様だ。
伸縮する距離を大きくしようとすればするほどタメが必要になり予備動作も大きくなり予測しやすい。
しかし、相手は予備動作無しによる攻撃が殆どだ。
予備動作無しでも相手の動きを予測する必要がある。
「眼よ…眼を凝らせば…見える筈…」
プロテアはソニーをよく観察した。
「何を考えてるか知らんがお前はここで終わりだ」
ソニーはプロテアと距離を詰め、再び殴ってきた。
プロテアは【時空加速】で自身の時間を加速させ、【時空減速】でソニーの時間を遅くして攻撃を凌いだ。
「時間の加速と減速か…厄介だな…」
「うっ!?」
突然、プロテアの身体に鱗のようなモノが出現した。
これはポセイドンの鱗と呼ばれるモノでプロテアの霊力が消耗し過ぎている時に自動的に発動する力だ。
しかし、プロテアはこの力のコントロールが不完全であり、一歩間違えると暴走してしまう。
今はどうにか意識を繋ぎ止めているが速く勝負を着けなければプロテアの意識が保てない。
ーくそ…こんな…時に…
プロテアはまたもやソニーに殴り飛ばされた。
しかし、ポセイドンの鱗により、身体は今までの何倍も頑丈になっており、ダメージは受けていなかった。
むしろ、逆にソニーの左手が出血していた。
「これは…成る程…それがポセイドンの鱗というやつか…堅いな…」
「はぁ…はぁ…私の事…随分とよく知ってるのね」
「敵の情報を収集するのは常識だろ?とは言え、お前はその力を全く制御できてないみたいだがな」
「ふ…言ってくれるわね…あなたのその姿も醜いわね…あなたの方こそ力を制御出来てるか怪しいわね」
「挑発のつもりか?生憎、力は完全に制御できているんだよ!」
ソニーは既にプロテアの眼前に迫っていた。
「くっ!?」
プロテアは鉄の剣を咄嗟に作り出し、ソニーの拳を防いだ。
そして、プロテアはソニーの左拳を切り裂いた。
「はああああああああ!!!!」
「くっ!?」
ソニーは呻き声をあげたが今度はプロテアを上空へと蹴り飛ばした。
ソニーは気が付いていた。
プロテアがソニーの動きに付いてき始めている事に。
「予測…少しづつ…予測出来る様に…なってきた」
プロテアは上空に吹き飛ばされながらそう呟いた。
プロテアはソニーの癖や動きを探りながらソニーの距離を伸縮するタイミング、場所を予測していた。
予測していればソニーより速く対応が出来る。
だが、不完全だ。
更に、さっきのソニーの蹴り飛ばしにより、プロテアの身体の鱗にヒビが入っていた。
ソニーの攻撃力は伸縮の能力とあの巨体によるモノだ。
プロテアのポセイドンの鱗をも引き剥がす破壊力。
あまりグズグスはしていられない。
「もっと…速く…!」
プロテアは空中で体勢を建て直そうとした。
しかし、ソニーが既にプロテアの目の前に来ていた。
ーしまっ!?空中でゆっくり滞空してたせいでタメの隙が!?
そう、プロテアが体勢を建て直すのにかなりの時間があった。
長距離でもソニーの能力で距離を縮めるには十分であった。
「これで…終わりだああ!!!」
ソニーがプロテアを地上へと思いっきり蹴り飛ばした。
「ぐああああああああああ!!!」
プロテアはそのまま地上へと落下した。
落下とソニーの蹴りによる衝撃は凄まじく、プロテアは身体中のあちこちの骨が砕けており、最早立つことすら出来なかった。
「随分と手こずらせてくれたな…まぁ、それももう終わりだ」
プロテアは身体を動かそうとするがポセイドンの鱗が身体を侵食し始めていた。
ーく…くそ…こんな鱗…
プロテアは必死で抵抗した。
やがて、プロテアの視界が黒くなり始めた。
「くっ…これは…敵の術?とにかく…プロテアとインベルに合流しないと」
アポロがそう言いながら周囲を見回したがあるのは広野だけであった。
アポロの左肩には刀傷らしきモノがあった。
これは恐らく、敵の能力だ。
しかし、どこでどう攻撃をしているのかは分からなかった。
おまけに二人とも離れてしまった。
「速く…見つけ出さないと…!」
アポロはインベルとプロテアを探すのを続行した。
「アポロ!プロテア!どこにいるんだ?」
インベルもアポロ同様二人を探していた。
無論、インベルにも左肩には刀傷が着いていた。
敵の能力である事は明白だがインベルは訳が分からなかった。
「くっそ…とにかく見つけねぇと!」
「ここは…」
プロテアはいつの間にか黒い空間にいた。
成る程、これが精神世界というやつなのだろう。
プロテアは目の前を見た。
見た目は茶髪の髪に青白い瞳に航海士を思わせる服装をしていた男がいた。
「イシュガル?」
「厳密にはお前の中に在るイシュガルだ。イシュガルであってイシュガルじゃない」
「どういう…意味よ…」
「どうやら、この時が来たか…目覚めの時だ」
「ご免なさい。話が見えてこないわ」
気が付くとここにいた上にいきなりイシュガルが訳の分からない事を言えば当然そうなるだろう。
プロテアはイシュガルの力を引いているとは聞いてはいたがまさか精神世界で会う事になるとは。
「君が俺の鱗を発現して暴走するのは俺の力を制御出来て無いからだ。だから…その為の力をお前に与える」
「そう…なら速く…」
「その前に…君から聞いておきたい事がある」
「何よ?あまり時間は無いのよ」
「分かってる。だからすぐ終わる」
「で?聞いておきたい事って何よ?」
「お前はかつて復讐者として修羅の道を生きてきた。なのに今は別の道を歩もうとしている。プロテア、今のお前は戦いの先に何を望む?」
プロテアはイシュガルの問いを聞いて、目を瞑って考えた。
そう、プロテアはかつて、十二支連合帝国に…USWに…神聖ローマに…そしてヘレトーアに全てを奪われた。
愛する家族も、家も、一族も全て…そして、プロテアは修羅の道を歩む事を決意した。
そして、復讐の対象であった閻魔を殺し、USWのグリゴリと殺すだけ殺し続けた。
だが、そんなプロテアを止めてくれた人達がいた。
蒼と慧留だ。彼等のお蔭で少しだけプロテアは復讐心を捨てられた気がした。
その後すぐに奇しくも復讐の対象であったヘレトーアに向かう事になり、プロテアはそこで自分の家へと戻り、蒼と共に運命を受け入れる事を決意した。
幸せになる事を…皆を…もう一度手に入れた仲間を守る事を決意した。
今回の戦いも…そうだ…
「私を…こんな私を受け入れてくれる仲間の為に戦って…その先で…皆の為に幸せになる。それが私の答えよ」
プロテアはそう答えた。
イシュガルはとても満足げな顔をしていた。
「そうか、今の君なら…この力を託せるな。復讐心はどんどん膨れ上がる。例え復讐を終えても新な痛みが生まれ、その憎しみの連鎖が戦争だ。君のやろうとしている事は普遍的な事でありながら、それはとても難しい…だが、今の君なら出来る気がする。……さぁ、利き手を」
プロテアはイシュガルの指示通り利き手である左手を出した。
イシュガルはプロテアと手を重ね、そして意識は白く染まっていった。
ピクッとプロテアの手が動いた気がした。
ーバカな…もう動けない筈だ…何故…
ソニーはプロテアを見つめた。
プロテアは身体を起こし始めた。
「!?」
プロテアの左眼が髪で隠れていたがポセイドンの鱗は完全に無くなっていた。
「何故…動ける…」
「さぁね…何でかしらね…多分、死んじゃいけないからだと思うわ」
そう、プロテアは蒼を助けなければならないのだ。
そして、この戦争を終わらせてその先をプロテアは掴みたいのだ。だからー
プロテアは思い浮かべた。慧留、一夜、屍、美浪、澪、インベル、アポロ、十二支連合帝国の皆、USW、神聖ローマの皆、ヘレトーアの皆…そして…蒼の事を…思い浮かべた。
プロテアは左眼をソニーに向けた。
「【鉄神剣眼】」
プロテアの瞳から血が吹き出した。
すると、ソニーの周囲に無数の鉄の剣が出現し、ソニーを串刺しにした。
「なっ!?何だこれは!?があああああああああああ!!!!」
プロテアの瞳が変化していた。
変化してるのは左眼のみであり、今まで赤かった瞳が黒色に変化しており、中心に十字架の紋様が刻まれていた。
鉄の剣はソニーを中心に発生していた。
「何がどうなって…くっ…!?」
ソニーは身体を縮めて元の大きさに戻り、プロテアから距離を取ったがそれでもプロテアがソニーに左眼のピントを合わせる度に無数の鉄の剣は追い掛け、そして、串刺しにした。
「ぎゃああああああああああ↑↑↓↓♂!?!?」
ソニーは叫び声を上げた。
「うっ!?」
プロテアはあまりの激痛に左眼を閉じた。
ーこの左眼…あまり多用は出来ないわね…
プロテアは左眼を押さえた。
プロテアの瞳、【鉄神剣眼】はプロテアのイシュガルの力が全て眼に宿った事で開眼した。
【鉄神剣眼】はその眼がピントを合わせた対象に無数の鉄の剣を出現させ、串刺しにする。
予備動作が全く無く、眼を合わせただけで相手に攻撃出来る強力な瞳術だが、発動するとさっきのプロテアの様に瞳から血が流れ、眼にとてつもない負担が掛かる。
発動時間もそう長くは無く、数十秒が限度だ。
「はぁ…はぁ…何だ…その力は…うっ!?」
ソニーが全身に鉄の剣を突き刺さっている為、身体はボロボロで吐血した。
ソニーは自身の能力で傷を小さくしてはいるが刺された場所があまりにも多過ぎた。
相当なダメージを負っていた。
「さぁね…」
「声が…声が…声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が声が…叫び声が足りない…足りない…」
「?」
「はぁー、君の素晴らしい叫び声や呻き声を聞きたかったのにィ~。興奮するのにィ…こんな事をされたら…俺の息子が…おっ勃た無いじゃないか!!!!」
「………あなたの言いたい事はほんの少しだけど分かるわ」
プロテアはかつて復讐者だった。
恨みを持った者を何人も殺してきた。
殺すことで…殺す者の悲鳴や叫びを聞くことで心が浄化させる気がした。
ソニーが何故そんな性癖を持っているのかは分からない。
だが、根っこの所はかつての自分とと変わらないんだろうなとプロテアは思った。
「まるで…昔の私を見てるようだわ」
今のソニーの狂気を見てプロテアはそう思った。
狂気に取り憑かれた者の末路…それはとても悲惨な運命を辿る事になる。
「悲鳴…それがオレの心を唯一慰めてくれた…オレをこんな風にしやがった奴等の悲鳴を聴く事でなぁ!?」
ソニーは幼い頃に快楽殺人者の拷問を受け、あの様な口になってしまった。
殺されずに済んだのはソニーが寸での所で奇跡的に逃亡に成功したからだ。
しかし、その快楽殺人者は国と癒着しており、それにより事件を隠蔽された。
ソニーが住んでいた国はエジプト共和国であり、この国は小国の中でも特に犯罪者との癒着が多い国であった。
ソニーはエジプト共和国を壊滅させ、自身をこんな目に合わせた快楽殺人者を殺し、ソニーはそこで目覚めてしまったのだ。
人の悲鳴を聴く事で快感を覚える様になってしまったのだ。
それにより、ソニーは皮肉にもその快楽殺人者と同じ快楽殺人者に成り変わってしまったのだ。
そして、自身の立場が危うくなり始めた所でプラネット・サーカスに勧誘され、今に至る。
「あなたが昔、何があって何を思ったのか…今の私には分からない。けど…私はここであなたに大人しくやられる訳には行かないわ。私はフローフルを助けないといけない」
「貴様はここでオレが殺す!殺す!殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ーーーーーーーすすすすすす!!!!」
ソニーは完全に我を忘れていた。
ソニーは再び身体を巨大化させた。
さっきとは比べ物にならないくらい巨大化しており、恐らく、大きさは五十メートルは軽く越えていた。
「【鉄神剣眼】!!」
プロテアにとっては狙う的が大きくなっただけだった。
ソニーの巨体に無数の鉄の剣が襲い掛かり、鉄の剣はソニーの身体を貫いていく。
「があああああああああああ!!!!」
プロテアは身体中の骨がボロボロの為、ここから動く事が出来なかった。
プロテアは左眼に霊力を込め続けた。
プロテアの【鉄神剣眼】が発動すると左眼に出血が伴い、眼に相当な負担が掛かるのは勿論だが大量の霊力も消耗する。
だが、これだけ身体を突き刺されてもソニーはプロテアを倒そうとプロテアに近付いてくる。
「!」
プロテアはソニーを縛り上げるイメージをした。
すると、ソニーの身体を貫いていた剣が徐々に形を変えていき、鉄の縄へと変化した。
プロテアの【鉄神剣眼】によって発動した鉄はプロテアの意思によって形を自在に変化させる事も可能であり、非常に応用性の高い能力である。
「うっ!?」
しかし、形を変えようとすると更に右眼に負担が掛かる。
プロテアの右眼は左眼の様な分かりやすい変化は無いもののちゃんと能力は宿っており、【鉄神剣眼】によって発生した鉄の形態をコントロール出来る。
ソニーの身体に鉄が捩じ込まれた状態で身体を完全に縛り上げられていた。
しかし、ソニーは身体を跳躍させ、プロテアを押し潰そうとした。
「【鉄万化眼】!!」
プロテアはソニーを縛っている鉄を変化させた。
ソニーを縛り上げた鉄の一部が棒に変化し、プロテアに落下するソニーの巨体をそのまま維持した。
「なっ!?」
「【鉄神剣眼】!!!」
プロテアは最後の力を振り絞り、ソニーの身体に無数の鉄の剣を出現させ、貫き、再び、ソニーを串刺しにした。
「ぎゃああああああああああ…」
ソニーは完全に力尽きた。
「はぁ…はあ…はぁ…」
プロテアはそのまま倒れた。
ソニーの身体が少しづつ小さくなっていった。
しかし、プロテアの造り出した無数の鉄はプロテアの霊力が尽きた事で消えてしまった。
「!?」
ソニーの身体が縮み終わる前にこのままではプロテアはソニーの身体に押し潰されてしまう。
その時ー
「?」
間一髪で何者かがプロテアの身体を抱え、ソニーに押し潰される前に逃げ切った。
その人物はー
「インベル…」
「ふぅ~、危なかったな~…って、何だこいつ!?デカ過ぎだろ!?しかも何かちょっとづつ小さくなってるし!?」
インベルがプロテアを助けたのだ。
「何とか合流出来たわね」
インベルの後にやって来たアポロがそう言った。
「アポロ…インベル…何で…」
プロテアは左眼を押さえながらそう言った。
「よく分からないわ。うろうろしてたらたまたまあなたが見えたから…」
どうやら、ソニーが我を忘れた時にインベルとアポロの周辺に掛けていた能力が解けていた様だ。
インベルとアポロの左肩にも傷があり、恐らく、ソニーの能力によるものだ。
「ボロボロね…今すぐ治すわ」
プロテアがそう言って自身のエンゲリアスである【死滅天使】を顕現し、プロテアを治療を始めた。
プロテアは左眼を押さえていた左手を離した。
「あなた…その眼…」
「あっ!?お前左眼が黒くなってるぞ!?どうなって…」
「新しい力よ」
「………」
アポロがかなり深刻そうな顔をしていた。
「? アポロ?」
「プロテア…あなたの左眼…かなり視力が下がってるわ。左眼だけじゃない…右眼も…この短期間でこの下がり様は異常だわ」
そんな事はプロテア本人が一番分かっていた。
左眼を使えば使うほど視界が悪くなっていったからだ。
右眼も同様であり、この眼にはかなりの危険性がある。
「プロテア…その眼の力…もう使わない方がいいわ。後何度か使い続ければ…失明するわ」
「あなたの力では治せないの?」
「無理ね。恐らく、慧留でも不可能よ」
アポロはそう断言した。
アポロはプロテアの眼を治療しようとしたが何度試しても視力を元に戻せなかった。
そして、恐らく失明したら眼の力は失われるだろう。
「使い処は考えないと行けない…か…」
「出来ればもう二度と使わない方がいいわね。この眼の力は…強過ぎる…」
アポロはそう言っていた。
プロテアの両眼には神気が纏われていた。
この特殊な霊力のせいで治療が出来なかった。
「取り合えず他の所も治療するから」
「自分の治療はいいの?」
「そんなの後でも出来るわ。あなたが一番酷いんだから」
アポロはそう言ってプロテアを治療した。
「たく…アポロは素直じゃねーな」
「うるさい」
「…はい」
インベルがアポロを茶化すとアポロがキレた。
「これで…治療は終わりね」
「サンキュー、アポロ」
「ありがとう」
「じゃ、行くわよ!」
アポロとインベルとプロテアは広野から走り出した。
「おやおや…?君、もしかして前の…」
そんな声が聞こえた。
「誰だ!?」
「出てきなさい!」
インベルとアポロがそう叫んだ。
この声、プロテアには聞き覚えがあった。
間違いない、この声はー
「マーリン・モリガン」
「正解正解☆だよー!!」
そう言ってマーリンは現れた。
相変わらずアイドル衣装の様な服に身を包んでいた。
「こいつが…」
「マーリン…モリガン…」
インベルとアポロは息を飲んだ。
とてつもない霊圧であった。
向かい合うだけで吐き気がする。
「さぁさぁ?君達を倒すとするかな?」
「フローフルは…無事なんでしょうね?」
「さぁさぁ?それはご想像にお任せするするよ」
アポロの問いにマーリンはふざけた様に答えた。
「四宮先生はあなたが…」
「四宮舞…あれは大した奴だったよ~。もう、この世にはいないけどね」
「そう、ならば意地でもフローフルを助け出す!」
マーリンとの戦いが今、始まる。
To be continued




