【第十章】道化狂乱篇ⅩⅣー誓いー
「待って!なえきん!君、あたしの力を借りずにミンミンの所に行くつもり!?あたしのテレポート使った方が速いよ!?」
一夜は澪に呼び止められた。
「ああ、そうだね。済まない」
「なえきん凄い隈だよ?寝てないんじゃ…」
「ああ、ずっと…考えていたからね…そして…思い付いた。美浪君を助ける方法を…」
「どういう…」
「説明している時間は無い!速く僕を飛ばしてくれ!」
「分かったよ…」
澪は一夜をテレポートで飛ばした。
「一夜…さん…」
「全く…君はたまにとんでもない事をするね…」
「どうして…」
「君を…助けに来た」
「無理ですよ…私は…もう…」
「不可能なんて無いさ。僕がそれを可能にする!」
一夜はそう言って右手を地面に叩き付けた。
すると、美浪の周りに魔法陣が出現した。
「…え?」
美浪は身体が再び重くなるのを感じた。
先程までは身体が軽くなり、この世から消える感覚を感じたが今はその逆だ。
「この…術式は…魂を縛る術だ…はぁ…はぁ…擬流跡土の生き返らせの術は泰山府君祭によるモノだ。その術式を組み換えれば…魂を縛る事は出来る!」
一夜は息を切らしながらそう言った。
泰山府君祭とは陰陽師が行ったとされる死者を転生する儀式だ。
実際に成功させた者はおらず、擬流跡土がそれを成功させていた。
「けど、魂を縛るだけじゃ…この術式が解けた瞬間に…」
「ああ、君は死ぬ。だから…僕と結婚してくれ!」
「はぁ!?」
「いや、違うな…語弊があるな…これを着けて欲しいんだよ」
一夜がそう言って美浪に銀の指輪を渡した。
美浪は訳が分からなくなっていた。
ーえ?結婚??何それ??どう言うことや?
「いいから速く…!左薬指じゃないと駄目だからね!」
「何でそんなに指定が細かいんですか!?てか、その場所って結婚する時に着ける場所じゃ…」
「僕は絶対に君を助けるって決めた!」
「何でそこまで…!」
「さぁね…仲間だから…かな?それに…僕にとって君は特別なんだよ…上手く言えないけどね」
一夜の言ってる事はいつも訳が分からない。
美浪は一夜の考えが全く分からない。
けど、分かってる事が一つだけある。
一夜は美浪を命懸けで助けようとしている。
普段は自分の知的探求を求めているだけだがたまに、一夜は損得勘定抜きで必死で仲間を助けようとする。
だが、今の一夜はそれとは違う、別の何かを感じる。
「君は…いいのかい?このまま死んでも…」
「それは…」
「僕は嫌だ!君が死ぬのは…寂しいよ…きっと…皆もそうだ…」
一夜は絞り出す様にそう言った。
今の彼には強い思いが感じられた。
美浪はいつの間にか口を開いていた。
「私も…嫌や…!もっと、もっと皆と一緒に…!一夜さんと一緒にいたい!」
美浪はそう言って左薬指に指輪をはめた。
すると、術式が消えた。
「え?何で…?」
「その指輪で君の魂をその身体に留めているのさ」
「でも…それを維持し続けるには…」
美浪が言い掛けると一夜は自身の左薬指を美浪に見せた。
一夜の左薬指には美浪と同じ指輪が着いていた。
「僕の霊力と君の霊力をリンクして…君の魂を留めた」
「どうして…そこまで…」
「どうしてって…それは…」
一夜は笑顔でこう答えた。
「君が一番最初のお客さんだからだよ」
一夜はそう言った。
「もう…何なんですか…あなたは…」
美浪は涙を流しながらそう言った。
「でも、良かったよ。君が僕と同じ気持ちで」
「当たり前です!私も…一夜さん達の仲間…ですから…」
「そうだね」
「でも、何で左薬指だったんですか?」
「えっ?あっ…それは…左薬指が一番霊力を繋げやすかったからだよ。済まない…その場所に指輪をするのが一番確実だったんだ…君がこれから嫁に行くときに困るね…」
一夜が心底申し訳無さそうにそう言った。
「いいえ、別に困りませんよ?」
「え?何故だい?」
「教えませんよ。絶対に」
美浪は笑顔でそう言った。
「それにしても…あの擬流跡土をよく倒せたね」
「彼は多くの傀儡をこの戦争で動かしてました。それで力が弱まってたんですよ」
「成る程ね…とは言え、君は重症だ。今すぐに治療が必要だ。立てるかい?」
「大…丈夫…で…」
美浪はそう言うが立ち上がる事が出来なかった。
なので一夜が美浪をおんぶした。
「どうやら、無理そうだね」
「ちょっ!?一夜さん!?」
「どうしたんだい?そんなに慌てて…」
「いやその…重い…ですよ?」
「ああ、大丈夫だよ。思ってた程でも無いし」
「な!?」
どうやら一夜は美浪の事を重いと思ってた様だ。
その事実に美浪はショックを受けた。
「ーろして」
「え?」
「下ろして下ろして!下ろして下さい!」
「うわわわ!?美浪君どうしたんだい!?暴れないでくれ!」
一夜はこういう所にデリカシーが無いと美浪は思った。
一方、一夜は美浪が何故怒っているのか全く理解出来ていなかった。
しばらくして美浪は傷の痛みか大人しくなった。
「全く…君の考えている事は分からん」
「一夜さんはデリカシーをもっと学んだ方がいいと思います」
二人は微妙な空気になりながら歩いて行った。
すると、すぐ近くに澪がいた。
「澪君…待たせたね」
「んーん。あれだけ君達のラブラブっぷりを見せつけられるとあたしももう何も言う事は無いよー」
澪は棒読みでそう呟いた。
顔は全く笑っていなかった。
「そそそ…そういうのじゃあ…」
「?澪君、君は一体何訳の分からない事を言ってるんだい?」
「君のその反応はある意味天才だよなえきん」
澪は一夜に呆れながらそう言った。
「ミンミンはボロボロだね…」
「報告は僕がやるよ。美浪君はすぐにでも治療しないとヤバイ」
「そうだね。今すぐに元に戻るよ!」
澪達はそう言ってテレポートを使い、本部へと帰還した。
「「「「「「!?」」」」」」
『童話人』達は跡土の死を察知した。
「何と…!?我が盟友、跡土がやられてしまっただと!?」
バートルがそう言った。
因みにバートルは今、スープレイガとアルビレーヌと戦闘中である。
「ふ~ん、まさか彼がやられるなんて…彼、結構強かったと思ったんだけどね」
メンゲレはどこからかそう呟いた。
「うぇ~、跡土やられちゃったんだ~」
マーリンが嫌そうにそう呟いた。
「『上位数字者』と聞いて呆れる…」
ソニーが呆れながらそう呟いた。
「ガキが…簡単にやられおって…」
戦闘中のイワンがそう呟いた。
「跡土…まさかやられてしまうなんて…これでこちらが一気に不利になったです」
エスデスがそう呟いた。
プラネット・サーカスの兵力の大半が跡土によって造られた人形や死者達なのだ。
跡土が殺された事により、プラネット・サーカスの戦力の大半を失った事になる。
所詮、小国から集めた兵士など烏合の衆に過ぎない。
跡土が『上位数字者』なのは人形やコピー体、死者を甦らせる事で実質無限の兵隊が造れる事が大きいのだ。
戦闘力自体は『上位数字者』どころか『童話人』全体でも高い方では無い。
「辛いモノですね…友達が死ぬというのは…まぁ、あんな弱点丸だしの造形ですしね…」
エスデスは跡土の弱点にとっくに気付いていた。
まぁ、エスデスの場合は弱点を探すまでもなく跡土を殺す事は出来たが。
エスデスは少なくとも跡土を友達と思っていた様だ。
跡土はどう考えてもエスデスにそんな事は思ってなかっただろうが。
エスデスは跡土の感性は正直意味が分からなかったが彼との会話は何となく楽しかった。
…跡土は全く楽しそうでは無かったが。
「争いに犠牲は付き物です。ですが、それを終わらせましょう」
エスデスはそう言って立ち上がった。
「おー!マンマミーヤ!何てこったい!跡土がやられた!?(´д`|||)」
ロキは衝撃を受けたかのようにそう叫んだ。
「これで『童話人』も後七人…思った以上に向こうはやるみたいだね…」
ロキは跡土がやられた事に相当びっくりしていた。
これで今までならプラネット・サーカスが優勢だったのに一気に劣性になった。
それだけ、跡土はプラネット・サーカスの戦力増強に欠かせない存在だったのだ。
「まぁいいさ。オーディンさえ復活出来ればね…」
「ふ…こうなっては…余がやるしかあるまい」
ここは第三部隊。
ここではいきなりプラネット・サーカスのメンバーであるイワンが戦闘に乱入してきた。
部隊長はウルオッサである。
今、彼は衝撃を受けている。
あのイワンだ。彼の罪状は一人で一国を潰した事である。
「ヤッバイね~これは…」
ウルオッサが冷や汗を掻いた。
突如として第三部隊の兵隊の何人かが動きを止めて消滅した。
恐らく、擬流跡土が倒されたのだろう。
とは言え、今のウルオッサに余裕など無かった。
目の前に化け物がいるのだから。
「世の力…とくと見せてやる」
イワンはそう言って走り出し、薙刀を召喚した。
そして、薙刀を振るって第三部隊の兵士達を薙ぎ倒して行った。
「ぐぁ!?」
「がっ!?」
「うっ!?」
「ぎ!」
「がばっ!?」
イワンはとんでもない速度で敵を倒していく。
ウルオッサの能力は相手の力を弱体化させる事だ。
だが、イワンはその力を受けている筈なのにそれを全く見せずに敵を倒している。
「【世界変化】」
イワンがそう言って薙刀を振るうとと第三部隊の殆どがが全滅していた。
残っているのは数十名だけだ。
「な!?」
「やはり…余が出れば一瞬だったな」
ー何が起こった!?こいつは一体…何を!?
訳が分からなかった。
いつの間にか自分以外の仲間が死んでいた。
「余はこの世界を統べる支配者だ。余がいる限り、貴様らが勝つことはない!」
確かにこのままでは確実に負ける。
こうなったらやる事は一つだ。
「撤退だ!皆、撤退しろ!!!」
ウルオッサがそう言うと兵士達は逃げ始めた。
勝ち目の無い戦闘をする程、ウルオッサはバカでは無いし、そんな面倒な事はしない。
ここは逃げるが勝ちである。
「逃がすと思っているのか?」
イワンが攻撃をしようとしたその時、ウルオッサがイワンの薙刀を掴んだ。
「!?」
「君のさっきの技はこの薙刀を振るう事で発動してた…なら、これを掴めば…」
「成る程、よく見ている。だが…」
イワンが薙刀の後ろを振るった。
すると、イワンの姿はいつの間にか消えており、ウルオッサよ肩を切り裂いていた。
「な!?」
まるで時間が飛んだかの様であった。
いや、そんな次元の話ではない。
まるで事象を書き換えられたかのようだった。
「確かに…余の力はこの薙刀を振るう事で発動する。だが、振り方は自由だ」
「お前の能力は…事象の書き換えか…」
「半分正解だ。よくそこまで見抜いた。だが…」
イワンが薙刀でウルオッサに攻撃した。
ウルオッサはどうにか回避していたが攻撃速度が相当速かった。
「くっ!?」
「終わりだ!」
イワンは薙刀を思いっきり振るった。
ウルオッサは攻撃を回避した。
だが、ウルオッサの身体が真っ二つに切り裂かれていた。
「なっ!?」
「終わりだ」
ウルオッサはそのまま倒れた。
「残り数人は逃がしたが…まぁ、いい。ここの制圧は完了した。次はどこの部隊に向かおうか…」
イワンはそのまま去っていった。
「ぶはっ!?」
イワンがいなくなった所を見計らってウルオッサは地面から出てきた。
ウルオッサはイワンが出現する少し前に地中に隠れていた。
さっきまでイワンと戦っていたのはウルオッサの分身だ。
「【擬態分身】…こんな所で魔歌が役立つとはね…苦手だったけどこれだけは必死で練習して良かった~」
ウルオッサは悪魔が扱う魔術である魔歌を苦手としていたが分身だけは必死で練習して上手くなっていたのだ。
隠れたりバックレたりするのに便利だからだ。
実際、あの分身はかなりの精巧に造られており、良くできた分身なのだが代償に自身の魔力が半分になるという欠点もあった。
「それにしても…イワン・ライグル…厄介なのがいたモノだね…」
ウルオッサは何とか生き残った数十人の兵士を逃がす事に成功したし、自身もこうやって逃げ仰せた。
イワン一人に部隊をほぼ壊滅させられたが完敗では無い。
最悪の事態だけは防げた。
「とはいっても…奴の能力が分からない。…どうすれば…」
ウルオッサは熟考したが考えても仕方無いと結論付けた。面倒臭いし。
「戻ろうかな…」
ウルオッサは第三部隊を後にした。
「!? 第三部隊…ほぼ壊滅です」
「!?何ですって!?」
突然の報告にルミナスも驚いていた。
まぁ、いきなり部隊が壊滅したとか言われたらそりゃ驚きもするだろう。
「! 部隊長のウルオッサからの伝令!数十人の兵士は逃がせたがそれ以外は全滅。敵はプラネット・サーカスのイワン・ライグルだそうです!」
「イワン…成る程…それなら納得ね」
「そのイワン…て奴、そんなに強いんですか?」
「イワンはたった一日で一国を滅ぼした事のある怪物よ。部隊長が無事だったのと全滅しなかっただけでもラッキーよ」
「敵の情報は?」
「敵の能力は詳しくは判明出来てない様で…しかし、推測では事象を書き換える能力の可能性が高いとの事です!」
湊がルミナスにそう伝えた。
「相手はイワンもいるのね…」
「今のところ…全員S級犯罪者ばかりですね…まともな奴が一人もいませんね…全く…」
「擬流跡土を倒してこちらが有利とはいえ気を抜ける状況では無いわね。向こうにはエスデス・ジルドにマーリン・モリガンもいるわ」
判明してるだけでも事象を書き換える能力の持ち主に鏡であらゆる攻撃を反射する能力の持ち主…チート過ぎて湊は目眩を覚えた。
今までも大きな事件や事態はあったがそれまでとは規模がまるで違う。
今回の戦争は文字通り、世界を巻き込んでいる戦争だ。
規模が違うのも当然だが、そんな場所の最前線に自分がいると思うと目眩をするのも当然だろう。
「只今戻りました~」
やって来たのは澪と一夜と…美浪であった。
「戻ってきたのね…全員無事みたいだけど…霧宮美浪は重症ね。すぐに治療室に連れていきなさい」
「ミンミンはあたしが連れていくよ」
「頼んだ、澪君」
澪は美浪を治療室に連れていった。
「霧宮美浪は死なずに済んだのね…驚いたわ、一体…どんな裏技を使ったのかしら?」
「君、美浪君の事を知っていたのかい?」
「ええ、知っていたわ」
「その上で…美浪君を見過ごしたのか!?」
「無事だったのなら何よりだわ。擬流跡土を倒す程の実力者…まだ役立つわね」
「ふざけるな!!」
「あなた、随分と態度が悪いわね。私は一応、ここの総大将であると同時に神聖ローマの皇帝なのだけど?」
「そんな肩書きは僕にとっては知ったこっちゃないね!」
一夜は肩書きなどには捕らわれない。
ルミナスは一夜を見てクスリと笑った。
「何がおかしい?」
「いえ、フローフルがあなたを気に入る理由が何となく分かったわ」
「それはどうも。こっちも君の人物像が何となく分かったよ」
「へぇ?聞いてみたいわね。私ってあなたにとってどんな人物なのかを」
「君は…独りだ」
「そう…」
ルミナスは余裕の表情でそう言った。そして、言葉を続けた。
「やっぱり、あなたは…気味が悪いわね」
「お褒めに預かり光栄です」
一夜はそう言った。
「で?擬流跡土はやはり霧宮美浪が倒したのね」
「はい、その通りです」
「他に情報は?」
「あなたに言う必要のある情報はもうありませんよ」
「そう、良くやったわ。あなたにはここで待機して随時状況把握をして貰うわ」
「分かりました」
一夜は大人しくルミナスの指示に従った。
「蒼…無事でいてくれよ…!」
「くそ…くそ…!」
蒼は未だにマーリンの鏡の世界に閉じ込められていた。
更に、どんどん霊力が吸われる感覚も感じていた。
このままでは蒼の霊力が奪い尽くされて死に至るだろう。
蒼は刃を振るい続けるがこの鏡の世界に出られる気が全くしなかった。
やはり、内側からでは脱出は不可能だろう。
ならば外側からなら可能かもしれないがここは平次元であり、本来の世界とは別空間の場所だ。
誰かが都合良くここに来てくれる…なんて事はまず無いだろう。
ここで手をこまねいている訳にも行かない。何としてもここから脱出をしなくてはならない。
蒼がこうやって閉じ込められている間にも多くの者達が血を流し、死んでいっている。
蒼は戦争の悲惨さをよく知っていた。
だからこそ、蒼はここから抜け出し、戦争を終わらせにいかなければならない。
蒼一人が加わった所ですぐには戦争も終わらないだろう。
しかし、マーリンが蒼をここまでして閉じ込めたからにはプラネット・サーカスはそれだけ蒼を警戒しているという現れでもある。
蒼が戦争に参加すれば必ず事態は変化する。
「そんなにここから出たい?フローフル?」
「!? 誰だ!?」
蒼は突如として声が聞こえたので辺りを見回した。
すると、目の前に現れたのはボサボサのピンク色の長い髪に黄色い瞳を持った小柄な少女であった。
更に白いボロボロの服を着ており、かなり貧相な印象を受ける。
蒼はその人物をよく知っている。
そう、その人物はー
「ジェラート…!?何でここに!?まさか…お前も!?」
「ううん。私のこの身体は霊体だよ。精神だけこの世界に飛んでるんだよ。だから今の私は無力ないたいけな少女だよ」
「ならどうしてこんな所にいるんだよ」
「あなたがマーリンの鏡の平次元に閉じ込められた事を知って平次元まで来たんだよ。でも残念ながらさっきも言った通り、私の場合は魂しかこの平次元に入れないから精々あなたと会話する事しか出来ないよ」
「そうかよ…だったら邪魔すんな!俺はここから…」
「無理だよ。マーリンの【無限迷宮】は内側からじゃあ絶対に抜け出せない」
「な!?何でそんな事…」
「私はプラネット・サーカスに所属してた事があってそれで『童話人』全員の能力を知ってる。まぁ、全部って訳じゃないけど」
「な!?」
蒼はジェラートの衝撃的な事実に驚いた。
「どういう事だよ…それ…」
「最も、今は抜けてるけどね。お陰でこっちは追われる身に…」
「いや、アンタ殆ど外に出てなかったんじゃ…」
「ああ、今のこの霊体の能力を使ってプラネット・サーカスの諜報活動をしてたんだよ」
「何で…プラネット・サーカスの情報を言わなかった?」
そう、ジェラートは今回、戦争に直接参加しておらず天使城の自室で籠っているのだ。
しかもジェラートはプラネット・サーカスの情報を一切伝えていない。
「私にも色々事情があるからね~。戦争なんていう下らない遊戯に付き合ってられないんだよ」
「どういう事だ?じゃあ、何で下らない事をしてる暇が無いんなら俺に今油を売ってんだよ?」
「これは実験だよ。平次元に私の霊体を往き来する事が出来るかどうかのね。君に会ったのはついでさ」
ジェラートはつくづく読めない人物だと蒼は思った。
「で?俺にわざわざ会いに来たって事は脱出の方法を教えてくれるんなよな?」
「別に教えてもいいけど…どの道運頼りだよ?」
「何だと?」
「誰かがここの平次元の場所を突き止めて外側から君を閉じ込めてる鏡を破壊するか、術者本人を倒すしか無いんだよ」
「やっぱりそうかよ…」
蒼は溜め息混じりにそう言った。
予想はしていたがやはりそうなのかと思った。
「どうせ運ゲーなんだし…しばらくの間、私と話をしよう」
「お前と話す余裕はねぇ」
「プラネット・サーカスと四大帝国の関係の事について話そうと思ったんだけど」
「!?どういう事だ?」
「やっと食い付いた」
「プラネット・サーカスと四大帝国の関係ってどういう事だ?」
「プラネット・サーカスと四大帝国は少なからず関係を持ってる…という事だよ」
「そりゃそうだろ?擬流跡土は十二支連合帝国の奴らしいしクメールも神聖ローマの…」
「そうじゃない…プラネット・サーカスはUSW以外の四大帝国と癒着関係にあるんだよ」
「な!?」
蒼は驚愕の表情をした。
それもそうだ。今は四大帝国とプラネット・サーカスが争っている筈なのにその四大帝国がプラネット・サーカスと関係を持っていた事があったというのだ。
「まぁ、国そのものが関係を持ってたってのは流石に無いよ。十二支連合帝国は閻魔一族だけみたいだしヘレトーアはアラルガンドだけだよ」
「また閻魔とアラルガンドかよ…」
蒼は呆れた様にそう呟いた。
つくづく面倒事ばかり作っている奴等だと思った。
しかもこいつらの共通点は人間である事だ。
「いつの世も何かをやらかすのは人間であらゆるモノは全て人間に利用されるって事だね」
「意外にもクリフォトは関与して無いんだな…」
「クリフォトは世界どころか己の名誉にすら執着の無い空虚な男だったからね。興味が無かったんじゃ無いかな?」
クリフォトはかつて蒼と戦った事があり、その時はカーシス・ベルセルクと名乗っており、最終的には慧留が引導を渡した。
そのクリフォトの目的は自分の存在価値を見出だす事であり、それ以外の事には全く関心を持たない空虚な人物でもあった。
プラネット・サーカスに興味を示さないのも必然だったのだろう。
言うまでもなくクリフォトは倫理観がぶっ飛んでいる人物なのだが閻魔とかを見てるとまだまともに見えてしまう。不思議である。
アラルガンドは大切な人を助けるために利用するモノを全て利用するという人間臭い一面があった為、まだ擁護のしようがあるが閻魔は己の野心だけで行動する所謂悪に憑かれた血族であり、擁護のしようもない一族である。
「具体的には何をやってたんだ?」
「主な役目は戦争の請け負いだね。プラネット・サーカスが小国をほぼ全て支配出来た理由だよ」
「あいつらのせいかよ!?ふざけんなよ!!どんだけ面倒な事やらかしてんだ!!!」
蒼は溜まらず声を上げた。
要するに今回の戦争の元の原因が完全に四大帝国がその一端を担っている事になる。
「そして…神聖ローマは二世代前の皇帝…テレンド・アークキエル・ローマカイザー…彼がプラネット・サーカスと癒着していた。まぁ、ルミナスはその事を知っててプラネット・サーカスを利用しつつ潰そうとしてるね」
「利用?どういう事だよ?」
「ルミナスが何をしようとしてるのかは私には分からない。けど、何らかの計画を立ててそれでプラネット・サーカスを利用しようとしてるのは確かだね」
「ルミナスは…何をしようとしてんだよ…」
「そんなの私には分からないよ。君の方がまだ彼女の事が分かるんじゃない?」
そんな事を言われても蒼にはルミナスの考えなど分かる筈もない。
もし分かっていたのならローマ聖戦の時にもっと巧くやれていた筈だ。
結局、彼女の本心を理解しているものなど一人もいないのかもしれない。
「分からねぇよ…そんなの…」
「だろうね。分かってたらルミナスから逃げるなんて事はしなかっただろうしね。ただ、一つ言えるのはルミナスをこのまま野放しにすると大きな事が起こるよ。まぁ、今更彼女を止めるのは手遅れだろうね」
「それでも…俺はあいつを止めないと行けねぇ…」
蒼は誓ったのだ。
もう、逃げないと。
ルミナスと戦う事に決めたのだ。
だが、その前にプラネット・サーカスだ。
彼等をどうにかしなければこの世界が終わる。
「所で…プラネット・サーカスはオーディンの復活。それは知ってるよね?」
「ああ、その為に起こした戦争だろ?」
「なら、どうやってオーディンを復活させる気だと思う?」
「…そう言えば…あいつらはどうやって…」
「答えは簡単。死者を生け贄にするんだよ。この戦争でプラネット・サーカスに殺された者は全て、オーディンに魂が吸いとられ、復活の養分にされる。それはプラネット・サーカス側も例外じゃ無い」
「な!?」
「最も…四宮舞は自身の魂を四大神に喰わせてたみたいだから生け贄にはならなかったみたいだけど」
蒼は衝撃を受けた。
何故なら、この戦争そのものがオーディンの晩餐なのだ。
この戦争を仕掛ける事自体がロキの狙いであり、勝敗はどうでも良かったのだ。
「何で…その事を俺にだけに言った?上に言えば戦争は…」
「止められたかもしれないね」
「ならー」
「私にとってこの世界はどうでもいい。一々ルミナス達に報告する義理は無いし例えしてたとしても止められなかった可能性が高いよ。プラネット・サーカスは今や四大帝国の総力に匹敵する大組織。そのプラネット・サーカスが全勢力を以て四大帝国を潰しに来たならどの道戦争は避けられない」
「俺にだけその事実を言った答えになってねぇだろそれ」
「そうだね…君に言ったのは気まぐれだね。君は不思議だ」
「何だよ…それ…」
「君は私の友人だ。だからかな?」
「友人である以前に姉弟なんだが?」
「関係無いよ。私にとって君は友人。だからといったらなんだけど…気まぐれついでに私の目的…悲願についても教えておくよ」
「悲願?」
そう言えば今までプラネット・サーカスに関する話ばかりをしていたがジェラート自身の目的は謎のままだった。
ジェラートはあまり自分の事を話そうとしなかったし、蒼自身そこまで他人に踏み込むタイプでも無かったので知らないままだった。
「私は転生を繰り返して…ケルビエルを取り戻す事で記憶を保持し続けてきた。そして…力を蓄えていった。何のためだと思う?」
「いや、それが分かんねぇから聞いてんだろ?」
「私は新たな世界を造って一人だけで異世界に過ごしたいんだよ…それが私の悲願」
「そうかよ…」
「? 驚かないの?」
「どんな御大層な事を企んでるのかと思えばそんな事かよ。びっくりしたのは異世界を造り出そうとしてるってとこだけだな。要はアンタはこの世界が嫌なわけだ。だから別世界に言って逃げ出したい。別にそう思うのは普通だろ?」
「何でそう思うの?」
「俺も…お前とそうは変わらない…俺だってこの世界が地獄だと何度も思ったさ。だから、お前のその考えを否定する気は無い」
「でも、肯定もしないんだね」
「まぁな、お前みたいに逃げるってのも一つの手だと思う。けどな、こんな地獄みたいな世界で必死になって戦ってる奴もいる。そんな奴等を見てたらさ…この世界を否定しきれなくなっていったんだよ」
蒼はそう言って慧留達を思い浮かべた。
そう、戦っているのだ。
抗っているのだ。だから、この世界を否定しきる事は蒼には出来なかった。
「だからこそ、俺はルミナスと戦うと決めた」
「それが例え、間違いだったとしても?」
「何が正しいか間違ってるかなんて死ぬ時まで分かんねぇ。なら、自分が正しいと思うことを愚直にやるしかねぇだろ」
「呆れるね…でも…君のそんな所に私は惹かれたのかもね」
ジェラートは少しだけ笑いながらそう言った。
ジェラートは蒼の事を少しだけ気に入っていた。
ジェラートにとってこの世界は汚れたものでしか無かった。
だが、蒼と出会った事でそれが少しだけ変わったのだ。
「だから俺は…ここから必ず出る!そして…この戦争を終わらせる!」
「立派な大志だね~。まぁ、ここから出られるかどうかはまた別問題だけど…そう言えば…君、プロテアと再開してたんだね」
「? どういう事だ?」
「そうか…その様子だと君もプロテアも忘れたままみたいだね」
ジェラートが意味深にそう言った。
「忘れてる?どういう…」
「何でも無いよ。…そろそろ私も時間だね…どうか死なない事を願っているよ~」
ジェラートはそう言って消えていった。
問題は何も解決していなかった。
しかし、蒼は自分のすべき事が何となく見えた気がした。
To be continued




