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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
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【第十章】道化狂乱篇ⅩⅢーdoll 2ー

「美浪君!?何で…いないんだ…」


 一夜は朝になり、美浪の様子を見に行ったのだが、美浪はどこにもいなかった。

 だとすると、考えられる事は一つだけだった。


「まさか…一人で…擬流跡土を追っていったのか!?」


 一夜はそう推測した…というより、そうとしか考えられなかった。

 美浪は一夜に余計な心配をさせない為に単身で跡土の所へと向かったのだ。


「何てバカな事を…」


 一夜は急いで本部の司令室へと向かった。

 そして、一夜はそこにいる湊に声をかけた。


「湊君!」

「一夜さん!?どうしたんですか?」

「美浪君が単身で擬流跡土の所へと向かった。美浪君のいる場所を確認してくれ!」

「わ…分かりました!」


 湊が美浪の霊圧の探索を始めた。


「今頃、霧宮美浪と擬流跡土は戦っている頃でしょうね」


 ルミナスがそう言うと皆は驚愕の反応をした。


「ルミナス陛下…何故…そう言い切れるのです?」

「あの子、昨日の夜に本部から出ていったわ。彼女の霊力の流れを見た所、擬流跡土を逆探知した様ね」


ー逆探知…そうか…美浪君と擬流跡土は命を共有してる。だから霊力も繋がってるから逆探知が出来たのか!?


 一夜はそう推測した。


「ルミナス陛下…知っていながら…何故美浪君を止めなかったんですか?」

「本人がやる気を出してるのに止める理由なんて無いでしょ?それに、単独で行った方が効率もいいわ」

「そういう問題じゃ無いでしょう!?あなたは総大将ですよ!?そんな仲間を捨て駒にするような…」

「戦争は勝利が全てよ。勝たねば意味が無いわ。勝つ為なら私はどんな犠牲も厭わないし万でも億でも死体を積み上げても良いわ」


 ルミナスの言葉に一夜は苛立ちを覚え、ルミナスに詰め寄ろうとしたがアルダールがそれを止めた。


「身の程を弁えろ。苗木一夜」

「………」


「!? 発見しました!ここからおよそおよそ東百キロ先にいます!」


 湊がそう言うと一夜は背をアルダールとルミナスに向けた。

 一夜はルミナスという人物を少しだけ分かった気がした。

 確かに蒼の言う通り、どこか…壊れている。

 ルミナスは自分の欲しいモノであればどんな犠牲も払うだろう。

 払えてしまうのだ。それは一組織のリーダーはルミナスの様に卑劣にならざるを得ない。

 しかし、一夜はその事にどうしても納得できない。

 恐らく、ルミナスは正しいのだろう。

 だが、一夜はルミナスの言葉一つ一つに狂気を感じずにはいられない。

 ルミナスはとにかく異質なのだ。


「蒼が君を拒む理由が少しだけ分かった気がします」

「…言葉選びには気を付けなさい、苗木一夜」


 ルミナスは今までで一番怒気を孕んだ声で一夜にそう言った。

 一夜は少し驚いたがあくまでも表向きでは平静を保っていた。


「あなたに一泡吹かせられて良かったですよ」


 一夜はそう言ってこの場から去っていった。


「彼は中々頭がキレる…それに…心理戦も得意の様です。大した奴ですね」

「そうね…危うく…キレそうになったわ」


 ルミナスは一夜に対して殺意を剥き出しにしながらそう言った。

 ルミナスは蒼を寵愛している。

 故に蒼の事を話すとルミナスは冷静さを失うという欠点があった。

 ルミナスは蒼が今、マーリンによって幽閉されている事にもかなり焦っていた。

 鏡の世界はこの世界とは別世界だ。

 流石のルミナスも別世界にまで干渉出来る程の力は無い。

 つまり、ルミナスは何としてもマーリンから蒼を助け出したい所であった。

 しかし、ルミナスは連合軍の総大将である以上、迂闊に戦場へ出る事は出来ない。

 ルミナスからすれば自分が出張れば速いと考えているのだが周りはそう考えてはいない。当然であるが。


「さて…どう転ぶか…」


 アルダールは眼鏡をクイッと上げながらそう言った。






「君は…一体何者ネ?」

「わたしの名前はエスデス・ジルド。この世界に平和と痛みをもたらす者です」

「言ってる意味が分からないネ」


 天使大戦が終結した頃、跡土は死体集めを行っていたがその時にエスデスと名乗る謎の少女と出会った。

 跡土はエスデスの意味不明な言葉に呆れていた。


「なんですその顔は?」

「痛みと平和をもたらす者とか…今時の中二病患者でもそんな事は言わないネ」

「な!?ちゅ…中二病!?わたしは中二病では無いです!」

「さっきまで冷静だったのに随分と取り乱しているネ。そっちの表情方が年相応ネ」

「あなたはどうもわたしを見くびっているようです。良いでしょう、わたしがただの小さい幼女だと思ったら大きな…」

「あー、はいはい。もう遅いんだからお家へ帰りなさい」

「わたしを幼女扱いするなです!」

「いや、君自分で幼女って…」

「他人に言われると腹立つのです!今に見てろです!後何年かしたらあなたがわたしを嫌らしい目で見れるくらいにはグラマスに成長して見せるです!!!って何言わせてるんです!?この変態!ロリコン!」


 エスデスの表情をコロコロ変えるわ話している内容が支離滅裂で最早会話になっていなかった。

 跡土は一体どういう反応をすればいいか分からなかったが何となくこれだけは言える。


「君、絶対にあまり体型が成長しないタイプネ」

「なっ!?なんでそんな…確かにここ百年くらい成長してないけど…いえ!まだ希望は棄ててはダメですエスデス!まだ…まだぁ…」


 エスデスは涙目になっていた。

 もう訳が分からなかった。


「…て、え?百年??」


 跡土はエスデスがさらっと凄い事を言っていたのできょとんとした反応をした。


「ふふん!そう!わたしはあなたの何倍もの時を生きてるです!口の聞き方には気をつけて」

「要は合法ロリってやつかネ」

「う…う…」


 跡土のあんまりな発言にエスデスは再び涙目になっていた。

 何だか悪い事をしてる気分になった跡土は少しだけ申し訳ないな~なんて思った。


「まぁ…いいです。そんな事より話をするです」

「(切り替え速いな~)話って何だネ?」

「あなたを…ある組織に勧誘しに来たです」

「勧誘?」

「プラネット・サーカス…あなたにはわたしと共にこの組織に入って貰うです」

「プラネット…サーカス?何だネその組織は?聞いた事が無いネ」

「聞いた事がある無いはどうでもいいです。四の五の言わずにあなたはわたしの勧誘に乗ればいいだけです」

「随分と偉そうな物言いだネ」


 跡土はエスデスの偉そうな物言いが気に入らなかった様だ。

 と言うより、得体の知れない組織に勧誘されたら警戒するのが普通であり、跡土は何もおかしくはない。

 得体の知れない組織に勧誘するエスデスの方がおかしいだろう。


「偉そうも何もわたしは偉いです。あなたに拒否権は無いです。まぁ、どんな組織かを説明せずに無理矢理入れるというのもアレですし、説明はするです。まぁ、活動内容は自由です。何をやっても許される組織です」

「?もっと具体的に説明するネ」

「プラネット・サーカスにはあなたの様な国際指名手配者が多くいるです。プラネット・サーカスはそんな犯罪者達を守る事が出来るです。あなたは好きな様に出来、仲間も好きな様に出来るです。要はギブアンドテイクの関係です」

「それは美味しい話だネ」


 跡土の立場はかなり厳しいモノがあった。

 今や跡土は十二支連合帝国だけでは留まらない大犯罪者だ。

 向こうは死に物狂いで跡土を探しているだろう。

 確かに跡土には自分を守ってくれる支援(バック)はあればいいのは事実だ。


「だけど、その心配は無いネ。何故なら…自分の身は自分で守るネ」


 跡土はそう言って巻物を取り出し、傀儡を召喚した。


「随分と巨大な人形です」


 エスデスはそう呟いた。

 無理もない、跡土が召喚した傀儡はエスデスとは比べ物にならない程に巨大だったからだ。


「【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】…ミーの最高傑作ネ!」

「そう…どうやら、力尽くでどうにかするしか無いみたいです」

「出来るかネ!」


 跡土は傀儡を操作し、エスデスに襲い掛かった。

 傀儡は口からエスデス目掛けて武器を放った。

 エスデスは淡々と傀儡の攻撃を回避した。


「動きが速いネ!ならば…これならどうだ!」


 跡土は様々なギミックを駆使してエスデスに攻撃を仕掛けたがエスデスはその攻撃全てを回避した。


「はぁ…もう…終わらせるです。【死種神征(ししょうしんせい)】!」


 エスデスが両手を上げると白い雨が降ってきた。


「何だネ?これは…」

「これは死の雨…これで終わりです」

「何を…!?」


 跡土はいきなり身体が重くなるのを感じた。

 いや、これは力が抜けていく感覚だ。

 傀儡の動きも完全に止まっており、跡土が操作してもピクリとも動かなかった。


「あ…あ…!?」


ー言葉が出ない!?


「これで…終わりです。わたしの【死種神征(ししょうしんせい)】は触れただけで相手の命を喰らうです。まぁ、あなたには加減したから死なずに済んでいますけど」

「!?」


 エスデスがばら蒔いたこの白い雨の様なモノは種だ。

 種をばら蒔き、その種に触れたモノの生命を強制的に奪い取る能力である。

 しかし、跡土の身体は殆ど傀儡の状態であり、【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】も同様だ。


「疑問です?あなたは人形なのに何故生命を喰らうわたしの力を喰らったのかと。簡単です、あなたは霊力を扱う以上、生身の肉体が必要です。生身の肉体がある以上、わたしの種は効果を発揮するです。傀儡が動かないのもあなた自身がわたしの力に干渉されている以上、霊力で動いてる傀儡も動かせないです」


 エスデスは淡々とそう言った。

 明らかに次元が違っていた。

 触れたら即死の攻撃が無造作にばら蒔く能力…そんな能力はデタラメ過ぎである。


「さてと…」

「!? 身体が…」


 跡土は身体を起こした。

 エスデスが術を解いたのだ。


「どうするです?まぁ、選択権はあなたには無いですけど」

「分かったネ…その組織に入ってやるネ」


 跡土はエスデスの要求を飲んだ。飲まざるを得なかった。

 跡土はエスデスの能力を綺麗と思った、思ってしまったのだ。

 他人の能力に魅入られた以上、跡土は自身の敗けを認めざるを得なかった。

 だが、跡土はエスデスに素直に敗けを認めて終わる気は無かった。


「だけど一つ、条件があるネ」

「条件?何です?」

「ミーが君と戦う時、必ずそれに応じるネ」

「何だ…そんな事ですか。別にいいです。もっとも、負けるつもりは全くないですけど」


 上等だ、跡土はそう思った。

 跡土は絶対に認めない。自分の芸術が最強なのだ。

 今回は跡土がエスデスに敗北を喫したが次は負けない。

 エスデスは強い、それは間違いないがそれでも実力だけならまだしも芸術家としても負けるのは跡土としては感に障った。

 跡土が幼少の頃から求め続けた芸術をここで否定されたままでは絶対に終われない。


「ミーは必ず…必ず君を倒して…真の芸術家になってやるネ!」

「あなたの言ってる事は全然分かんないです。あなたの言う芸術って何です?」

「芸術とは、朽ちる事の無い永久の美ネ!その為にミーは人形を造り続けた!」

「やっぱり分からないです。どうもわたしは芸術家の考えが理解出来ないみたいです」

「それはそうだろうネ。芸術家とは常に誰にも理解されずに自身の美を極めるモノネ」

「それって楽しいです?誰にも理解されずに一人だけの芸術に浸って楽しいです?そんなのただの自慰(オナニー)じゃ無いですか?」

「さらっと下ネタぶっ込むのは止めて欲しいネ」

「なら君のそれは自慰(オナニー)と呼ばずに何て言えば良いです?」

「いずれ、ミーの芸術を理解出来る者が現れるネ」


 そう、跡土はそう信じている。

 芸術家が最初から皆に理解される筈が無い。

 独特な感性を持ってこそ、芸術性は見出だされ、そして人々を虜にしていくのだ。

 跡土の掲げる芸術を完成させるならば跡土はどんな事だってする。


「ミーの事ばかり喋るのは癪ネ。君の目的は何なんだネ?」

「わたしの目的に興味があるなんて物好きです」

「さっき言っただろう?ミーの事ばかり話をさせられて癪なんだネ」


 どうやら、跡土は相当面倒臭い男であるなとエスデスは思った。

 エスデスは彼の感性がよく分からなかった。

 だがいずれにしろ、自分の事を少しは話さないと跡土は納得しないだろうと思った。


「この世界を痛みによって平和にする…とだけ言っておくです」

「平和の為にテロリスト組織に入るなんて世話無いネ」

「そうです?いつの時代も時代を作ってきたのはテロリストです。何もおかしい事はありません」

「いや、その理屈はおかしい」


 そう、時代を変えてきたのはいつの世も変わる前の時代においては変えてきた人物は異端児なのだ。

 エスデスの言っている事はあながち間違っている訳ではない。


「わたしの事は話したです。さっさと行くです」


 エスデスがそう言うと跡土はエスデスに付いていった。

 そして、跡土は誓ったのだ。必ず…エスデスを倒すと。






「まだ息があるのかネ…しぶとい…」


 跡土はそう呟いた。

 跡土は美浪と戦闘を行っていた。

 そして、美浪は跡土の多彩な傀儡攻撃を受け、倒れていた。

 ここは砂漠。美浪の周囲には赤い砂が咲いていた。

 これは間違いなく美浪の血だ。


「これで…終わりネ!」


 跡土は毒刀で美浪の首を跳ねようとした。


「!?」


 しかし、美浪はいつの間にか起き上がっており、跡土の顎を思いっきり殴り飛ばした。

 跡土は分離が間に合わず頭に殴られた衝撃をもろに受けた。


「はぁ…はぁ…」


 美浪は【天時飛(アマシタカ)】で一瞬時を飛ばして跡土に殴り付けたのだ。


「バカな…まだ…立てるなんて…」

「私は…結構しぶといんや…はぁ…はぁ…」


 跡土は立ち上がろうとしたが中々身体を動かせなかった。


「くっ…」


ー!? ダメージを受けてる?今までは受けてる様子が無かったのに


 美浪は疑問に思った。

 今までの跡土はどんなに殴り飛ばしてもダメージを受けた様子は無かった。

 なのに今の跡土は明らかにダメージを受けていた。


「!? まさか…」


 美浪は今までの跡土との戦いを思い出していた。

 傀儡でダメージを受ける事が無いのなら何故わざわざ分離して衝撃を逃がす必要があったのか。

 美浪の腕力を持っても跡土の身体を破壊出来なかった。

 わざわざ分離してダメージを逃がす必要が無かった筈だ。

 それなのにわざわざ身体を分離させて美浪のダメージを逃がしていたのは…恐らく()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 そして、美浪は肝心な事を見落としていた。

 そもそも霊力や魔力は身体エネルギーによるモノだ。

 つまり、どうしても生身の肉体が必要なのだ。

 魔族であるのなら、霊体でも普通に霊術や魔術を使える者はいるが跡土は人間だ。

 必ず生身の肉体がある筈だ。そして、その生身の肉体の部分が弱点で美浪はさっきその弱点を突いた。

 だからこそ、跡土は動きを止めているのだ。

 先程美浪が殴り付けたのは顎。考えられる弱点はー


「そういう事か…」


 美浪はそう呟いた。


ーあいつ…まさかミーの弱点に気が付いたのか?


 跡土はかなり焦燥した表情をしていた。

 しかし、跡土は身体を起こす事は出来ないが傀儡を動かす事は可能であった。

 跡土はもう二度と美浪に近付かない事にした。

 近付けば弱点を突かれる可能性が高かったからだ。


ーこの【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】で倒す!


 跡土は巨大傀儡を操作し、美浪に襲い掛かった。

 傀儡は美浪に腕を伸ばして襲い掛かった。

 跡土は傀儡の中に隠れていた。

 どうやら、もう美浪に近付くつもりは無いらしい。

 こうなってしまったら美浪が接近して跡土を倒すしか無い。

 美浪は傀儡に接近した。


「君に…ミーの傀儡は倒せないネ!」


 跡土は傀儡内に仕込まれている無数の武器を放った。

 美浪は攻撃を回避しようとするが数が多過ぎて全て回避するのは不可能であった。


「くっ!?」


 美浪は武器を殴りながら回避をしたがそれでも対応しきれずに身体中に武器が突き刺さっていった。

 美浪は身体中に刺さった武器を引き抜いた。


「動きが鈍ってきたネ…もうそろそろ限界みたいだネ…」


 だが、跡土は最後まで油断する気は無かった。

 あくまで傀儡で止めを指す。

 跡土は自身を覆っていた傀儡を展開した。


「これで…終わりネ!」


 跡土は傀儡に仕込まれていた武器を全て美浪目掛けて放った。


「【天時飛(アマシタカ)】!」

「無駄だネ!この距離なら君が時を飛ばしても間に合わ…」


 しかし、美浪は既に跡土の眼前にいた。


「な!?」

「【双狼拳(そうろうけん)】!」


 美浪は跡土の頭を両手で思いっきり殴り付けた。


「がっ!?」


 跡土はそのまま吹き飛ばされた。


「バカ…な…君の時飛ばしの時間は…五秒の筈…あの距離では…」

「違うね…私はわざと…時を飛ばす時間をずらしていた。私が飛ばせる事が出来る時間は七秒や…」

「な!?」

「とはいっても…さっきまではあなたの言う通り、五秒までしか飛ばせなかったけどね」

「いつから七秒まで飛ばせるようになった!?」

「あなたの一つ目の傀儡を全滅させる前や。あの時、傀儡の数が多過ぎて私の時を飛ばす時間まで把握しとらんかったみたいやし」


 美浪は【人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)】が全滅する前に七秒間の時を飛ばせるようになっていた。

 この時から既に美浪は今の不意を突く作戦を思い付いたのだ。


「何故…このタイミングで…」

「あなたは私を殺そうとして傀儡の全てのギミックを使って殺しに掛かる。そう踏んだ。傀儡のギミックを発動させるには傀儡を展開させる必要がある」

「あ…」

「そう、あなたが傀儡で最大攻撃をする時、あなた自身に最も大きい隙が生じる。私が勝つにはそこを狙うしか無かったんや」

「な…」


 美浪の分析力は相当なモノだった。

 一夜のせいで霞み勝ちだが、美浪も相当な分析力を持っており、傀儡師の弱点も把握していた。

 それを踏まえて今の展開を作り出したのだ。


「あなたのその傀儡…【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】は頑強に作られてた…それを壊すのは少なくとも私の力では無理だった…あなたが無防備になる隙を突くしか無かったんや」


 油断しないようにしていたつもりが却って自身の弱点を晒してしまっていたという事だ。

 それに、美浪は跡土の顔面を両手で思いっきり殴り付けた。

 跡土の弱点もやはり把握していた。


「ミーの弱点が脳である事に…いつ気付いたネ」

「それは不意打ちであなたの顎を殴り飛ばした時や。今まで防戦一方になってた理由はそれや。あなたの弱点が分かるまで手が出せなかった」


 そう、身体が傀儡化している上にバラバラにしても再生する為、弱点が分かるまでは美浪は迂闊には動かなかった。

 しかし、跡土の顎を殴り飛ばした時に跡土は明らかに動きが鈍くなっていた。

 この時、美浪は確信したのだ、跡土の弱点が脳である事を。


「顎は脳と直接神経が繋がっている。だからあなたの身体は脳だけは生身のままだと推測出来た」

「だから…脳が弱点と…分かった訳か…」


 跡土は頭がぐるぐるする感覚に襲われた。

 跡土は先程の一撃で脳を完全に破壊された。

 それでも即死しないのは跡土が傀儡化しているからである。


「ふふふ…まさか…自分の作品に殺されるとはネ…まぁ…これも一つの芸術…だ…ネ…」

「………」


 美浪は跡土を静かに見ていた。

 跡土は脳を完全に破壊されている。

 もう、指一本動かす事も出来ないだろう。


「なぁ、みなみ…ミーはどこで間違えたと思う?」

「そんなの…分からへんわ…」

「そう…だネ…ミーは何も…間違ってはいなかった…芸術を求め続けるこの気持ちに…偽りは無い…人形に…成りたかった…」

「?」

「天使大戦…あの戦争でミーは魔族に両親を殺された…ミーはその後、軍に入ったが…人間や魔族の醜い心に嫌気が指した…そして、心があるからこそ、苦しかった…だから…心が無い…人形に成りたかった…芸術を極めたその先に心を無くしたかったネ」

「………」


 美浪は跡土の話を黙って聞いていた。

 そして美浪は理解した。跡土は…孤独だったのだ。

 人々の醜い争いが起こるのは心があるからだと、跡土はそう思っている。

 そして、それは間違いではない。

 感情があるからこそ、憎しみが生まれ、やがて憎しみが争いを産み出してしまう。

 跡土はそれを悟ったから、心を棄てて完全な人形に成りたかったのだ。


「だが…所詮はどこまで言っても…ミーは人間で…人形に成り損ねた不完全な人形。人間でも人形でも無い…中途半端な存在ネ」


 跡土は自嘲する様にそう言った。


「あなたの言ってる事は…間違ってないと思います。確かに…心があるから…誰かを失う悲しさや虚しさもあると思います。けど…だからこそ、無くしちゃいけないんですよ」

「何を言いたいネ…?」

「心があるからこそ、嬉しいこと、楽しいことを、心から楽しめる。明日の事を…好きになれる」

「苦しみの前では無力だ!楽しみより、憎しみの方が多い!星の数程ある!それを…そんな苦しみを…味わい続けて何になる!?」

「痛いのを我慢して明日に繋げないといけないんです。きっとそな為に…心があるんだと私は思います」


 美浪は跡土にそう言った。

 美浪の眼には迷いが無かった。

 跡土は美浪の真っ直ぐな眼を見て、自身の敗北を悟った。


ー成る程…勝てないネ…これは…


「みなみ…見事だったネ…君はミーを倒した。けど残念、例え君が勝とうとも君は死ぬ」

「分かってますよ。覚悟は出来てます」

「本当なら…君を助けたい所なんだがネ…君がこれから苦しみとどう向き合うのか…見てみたかった…」


 跡土は名残惜しそうにそう言った。

 そう、今回の美浪はどう足掻いても負け戦なのだ。

 美浪と跡土は命が繋がっており、跡土が死ねば美浪も死ぬ。

 というより、跡土が死ねばコピー人形と跡土によって生き返らせた者達は全て消え去る。


「随分と私に同情するんやな」

「そうじゃない…君は…ミーの最高傑作だ。だからこそ、ここで消えてしまうのが惜しい。全く…朽ちる事の無い永久の美が芸術と謳っていたミーが…とんだ恥晒しネ」

「私はあなたに作られたんじゃない。……私は自分の意思でここまで来たんや。公開は…あらへん」

「そうか…ミー…は…もうじき…動か…な…く…なる…き…みの…勝ちだ……ミー…は…」


 跡土の身体がどんどん動かなくなっていく。

 それはまるで壊れた玩具が徐々に動かなくなっていく様に。

 まるで…壊れた人形のようであった。


(ぼく)に最高傑作を魅せてくれてありがとう…美浪…


 跡土は今度こそ完全に動かなくなった。





「!?何だ!?向こうの兵士がどんどんいなくなってるぞ!?」


 各戦場で跡土が造っていたコピー人形と死人が次々と消えていっていた。


「まさか…誰かが…擬流跡土を倒したのか!?」


 跡土が死んだ事で跡土が造り出した兵士達が消えたのだ。


「ルミナス様…これは…」

「どうやら、霧宮美浪がやった様ね」






 跡土は完全に動かなくなっていた。


「やった…終わった…」


 美浪はそう言うと身体が急速に重く、いや、軽くなるのを感じた。

 やはり、跡土の言った通りだったようだ。


「そうか…私はやっぱ…死ぬんやな…」


 美浪は今までの事を思い出していた。

 昔はごくごく平凡に過ごしていた。

 しかし、跡土によって一度殺され、それからいつの間にか二百年程経ち、一夜と出会った。

 それから月日が経ち、美浪は高校生活がスタートした。

 そこからは驚きの連続だった。

 入学してそうそう、蒼や美浪達と出会い、アザミの花と戦った。

 しばらくしたら今度の敵は十二支連合帝国になった。

 それからは友達となった慧留を助ける為にUSWに乗り込んだ。

 それから三年経ったら今度は先生だった舞が敵となった。

 更にはイシュガルドと全面抗争となり、そこで先輩だった遥を失った。

 この時の美浪は本当に悲しかった。助けてあげられなかったのが悲しかった。

 仇討ちはしたがそれでも残ったのは虚しさのみだった。

 そこから更に事態は激化し、ヘレトーアと残りの四大帝国で戦争になった。

 そこからはプロテアを巡ってパルテミシア十二神と一悶着起き、その後、蒼の過去を聞く事になった。

 そう、蒼の過去を知って、美浪も失われた自分の記憶を知ろうと思ったのだ。

 それから美浪は跡土と接触し、跡土に事実を聞かされた時、記憶が完全に戻った。

 記憶が戻ったあの時から、美浪は決めていた。

 何がなんでも自分が跡土を倒すと。

 そして、それが今、叶った。

 自分で跡土との因縁を終わらせる事が出来たのだ。

 未練は無い…後悔は無い…と言ったら嘘になる。

 もっと…もっと…美浪は皆と一緒にいたかった。

 美浪には何もなかった…だが、今は蒼が、慧留が屍が、プロテアが、澪が、湊が…そして何より、自分を導いてくれた一夜がいた。

 美浪は一夜のお陰で多くの繋がりを持てた。

 そんな彼等と一緒にいれて、美浪は幸せだった。

 さよならをしなければいけないのが…美浪にとっては辛かった。

 美浪は気が付くと涙が出ていた。

 悲しいのだ。とても…とてつもなく…悲しいのだ。

 自分で因縁を終わらせたのに…それで満足な筈だったのに…美浪は後悔したのだ。

 跡土を倒せば自分が死ぬことなど本人から聞かされて分かっていた。

 分かっていた上でそうした筈なのに…美浪は涙が止まらなかった。


「もっと…もっと…皆と一緒にいたかった…」


 美浪がそう呟いたその時ー


「言っただろう?君は絶対に死なせない。君は…僕の一番最初のお客さんだ。だから、死なせない!」

「!?」


 美浪は驚いて声のする方向へと向いた。

 そこにいたのは…


「一夜…さん…」





To be continued

 擬流跡土のモデルは近松門左衛門です。この人は別に悪さはしてないですね(笑)美浪との因縁の相手として書いた彼ですがどうでしたかね?最初は十二支連合帝国をぶっ壊すという衝撃デビューを果たした訳ですがこの話では割りと序盤にやられました。

 今回の話でエスデスの事を少しだけ書きました。エスデスは今章初登場キャラでありながらかなりインパクトのあるキャラとなっています。後に彼女は重大な立ち位置になる予定ですのでご期待を。

 今回は敵キャラの過去や背景にスポットを当てているので結構な長丁場となっています。勿論、味方サイドにも注目です。

 それではまた。

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