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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
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【第十章】道化狂乱篇ⅩⅡーdollー

 美浪は一人、本部へと抜け出た。

 誰にも言わずに、一人で飛び出した。

 目的はただ一つ、擬流跡土を探し出し、倒す事だ。

 一夜は現時点では跡土を倒す事を拒んでいる。

 何故なら、跡土を倒せば跡土によって生き返った者は全員死んでしまうからだ。

 美浪もそれは例外では無く、跡土を殺せば美浪は死ぬ。

 だが、プラネット・サーカスの兵力の大半は跡土の造ったコピー人形や生き返らせた者達なのだ。

 跡土を倒さねば連合の勝利は無い。

 だからこそ、美浪は一人で跡土を探し、倒すつもりなのだ。

 今は夜中であり、一夜も眠りについていた。

 美浪は誰にも気付かれずに外へと出ていった。

 美浪は跡土によって一度生き返らせられている。

 あの時の記憶を美浪は取り戻していた。

 美浪の村を消し去ったのもあの男なのだ。

 美浪を殺し、美浪を生き返らせた男、それが跡土だ。

 美浪にとっては跡土は因縁の相手であり、どうしても自分で決着を着けたかった。

 しかし、跡土を倒すという事は、美浪も死んでしまう事を意味する。

 その事実を知るのは一夜のみである。

 一夜は美浪を助けようと跡土の捜索をさせないだろう。

 しかし、それではこの戦争を終わらせる事など出来ない。

 跡土を倒さねばこの戦争に勝利は無いのだ。


「擬流跡土…あなたは私が倒す…」


 美浪は外に出て捜索を開始した。

 一見、美浪には跡土を探す手掛かりは無いように思えた。

 しかし、美浪は跡土の話を聞いて一つの仮説を建てた。

 それは跡土が死ねば美浪も死ぬ…という事は美浪と跡土の魂、或いは霊力が強く繋がっているからではないかと。

 そうであれば跡土の霊圧を逆探知する事が可能なのでは無いかと。

 あまりにも確証が無さすぎる仮説だがやってみる価値は十分にある。

 美浪は跡土の霊力の逆探知を始めた。

 逆探知は然程難しくは無かった。

 そして、跡土の霊力を逆探知する事に成功した。


「見つけた…」


 美浪は跡土の霊力を探知するとその方向へと走り出した。

 美浪の走力であれば然程時間は掛からない。

 ここから約千キロ先にある洞窟に気配を感じる事が出来た。

 跡土は今、自身の造った人形を操作するのに神経を注いでいる為、美浪に逆探知された事に全く気が付いていなかった。

 これは好機だ。気付かれる前に跡土の元へと近付く。

 やがて美浪は目的地に辿り着いた。

 ここはモンゴル帝国だ。この国はかなり特殊且つ辺境の土地であり、ここの人間や魔族は基本的に定住はせず、定期的に移動しながら生活している。

 馬車が基本的な交通手段であり、砂漠の国である。

 この国は基本的に砂漠しか無いので見つけるのは容易である。

 美浪は周辺を探索を始めた。

 跡土は必ずこの辺りにいる筈だ。

 美浪は霊力の探知を続けた。

 周りには沢山のテントがあった。

 ここの国の人間はテントで簡易的な家を作っている。

 そうする事で移住しやすくしているのだ。

 少し歩くと大きな洞窟を発見した。


「感じる…ここに…擬流跡土がいる…」


 確信があった。今までにない程の強い気配。

 間違いなくここには擬流跡土がいる。

 美浪は気配を殺しながら洞窟へと入っていった。






「成る程…ミーを逆探知したのかネ…よくそんな発想が出来たネ」

「あなたが死ねば私も死ぬ言うんやったら、私とあなたの霊力が繋がってる可能性があると仮定出来る」

「思ったより頭がキレる様だネ。しかし、君はバカだネ。まさか、一人で来るとは…」


 跡土は美浪が来た事に大した驚きを見せる様子は無かった。

 だが、一人でのこのこやって来たのは意外だった様だ。


「あなたは…私一人で倒す…その為に来たんや」

「おいおい…いくらなんでも舐めすぎ…」

「私の眼は誤魔化せへんで。あなた、この戦争で多くのコピー人形を操作しとるせいで今の時点でもかなりの霊力が消耗しとる」

「成る程…だから一人でもやれると?全く…参るネ…」


 跡土はそう言って首を回した。


「流石に人形を操作しながら君と戦うのは無謀だネ…一旦リンクを切るか」

「…霊力の消耗が無くなった」

「とは言っても霊力は完全に回復した訳では無い。けど、ミーを倒さない限り人形の活動自体は続くよ?」


 跡土の造った人形は跡土が直接操作しなくても活動は出来る。

 だが、跡土が霊力を供給した方が人形もより強さを発揮出来るのだ。

 今の跡土はかなりの霊力を消耗している。

 美浪一人でも勝機はあった。


「まさか…君に逆探知されるとはネ。油断していたネ…」


 跡土は服を脱ぎ始めた。


「何を…」

「悪いけど…ミーも忙しいんだ…一気にカタを着けさせて貰うネ…」

「なっ…!?」


 美浪は跡土の姿を見て驚愕した。

 何故ならー


「久し振りだネ…自分を使()()()()


 跡土の体は人形そのものであった。

 跡土の身体は肉体では無く、無機物で構成されていた。

 これが、跡土が人間にも関わらず歳を全く取っていなかった理由だ。

 身体が無機物である以上、手入れさえしていれば長持ちするし、朽ちてもまた新しく作り替えればいいだけだ。


「身体が…人形に…」

「そう…ミーの身体は人形そのものだネ…」

「蒼に左手を切られても出血が無かったのはそれが理由やな…」

「ミーの造り出した人形は何も他人をベースに造ったモノだけでは無いネ…自身を傀儡化する事で…永遠の芸術を手に入れたのだネ」


 蒼に切られた腕も修復していた。

 恐らく、あの後別の手をくっつけたのだろう。

 しかし、これは厄介である。


「怖じ気づいたかネ?」

「度肝は抜いたけど…大した事やあらへんわ!」


 美浪は思いっきり跡土を思いっきり殴り飛ばした。

 すると、跡土の身体はバラバラになった。


「やった!」

「甘いネ」


 バラバラになった跡土の五体は修復し、元に戻っていた。


「おっと、首の位置が逆だネ」


 跡土はそう言って首を百八十度回転させた。


「な…」

「君の攻撃はミーには通じない…ミーの身体は人形…ミーの身体を粉々にでもしない限り倒せないネ」

「そんな筈あらへん…弱点が…必ずある筈や」

「へぇ?その根拠はどこから来るのやら…」


 跡土はそう言って右手を伸ばした。

 右手からは刀のギミックが出ており、美浪に襲い掛かる。


「【神掛(かみかかり)】!」


 美浪の身体から狼の形をした霊力の衣が出現した。


「カミカカリ…か…確かその力の正式名称は【狂犬神掛(ヴァナルガンド)】だった筈だが…まぁ、いいネ。君のその力…神を憑依させて霊力のオーラを発生させるが…あくまでもオーラ。攻撃範囲はそこまで広くは無いネ!」


 跡土は両手の掌から突起物を出現させ、そこから炎を噴射した。

 美浪は跡土の攻撃を回避した。


「【天時飛(アマシタカ)】!」


 美浪は一瞬で跡土の目の前に詰め寄った。


ーバカな!?何時の間に!?


「はあああああああ!!!」


 美浪は跡土の顔面を殴り飛ばした。

 すると、首だけが吹っ飛んだ。

 やはりというべきか。出血は無かった。


「やった…」


 美浪がそう言うと跡土の胴体が突然動き出し、身体中からワイヤーが出現し、美浪を捕らえた。

 美浪はワイヤーに縛られた先から出血していた。

 ワイヤーには霊力が纏っており、拘束力が増していた。


「くっ!?」


 美浪は全身から霊圧を飛ばして跡土のワイヤーを弾き、その隙に跡土から距離を取った。


()っ!?」


 跡土の首は胴体に引き寄せられる様に飛んでいき、再びくっついた。

 跡土の顔には傷一つついていなかった。


「まさか…わざと…」

「そうだネ…ミーは君に殴られる直前わざと首を外してダメージを逃がしたネ」

「くっ…」


 文字通り、跡土の身体は変幻自在であった。

 身体をバラバラにしても修復するし首を飛ばしても修復する。

 だがー


「諦めてくれたかネ?」

「まだ…諦めへんわ!」

「面倒だネ。ならば取って置きを見せるネ」


 そう言って跡土は傀儡を召喚した。

 能面の傀儡が無数にいた。


「これは…ミーのお気に入りの傀儡の一品。その名も…【人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)】」

「な!?」


 十や二十では無い。百近くの人形が跡土の前に存在していた。


「これら全てをミーが操る」


 そう言って跡土は霊力の糸を人形全てに取り付けた。


「ミーの芸術を見せてやるネ」


 跡土の傀儡達が美浪に襲い掛かる。

 跡土の傀儡が一斉に襲い掛かってきた。


「【天時飛(アマシタカ)】!」


 美浪は時間を飛ばして跡土に詰め寄ろうとするが人形の数が多過ぎて跡土に近付けなかった。


「そう言えば君は時間を飛ばす能力を持っているみたいだけどこの数ではそれでも出し抜け無いネ!君が飛ばせる時間はそう長くはないからネ!」

「きゃあ!」


 美浪は人形の一体に捕まった。

 更に五体ほどの人形が美浪に詰め寄り、刀で攻撃を仕掛けた。


「そぉら!」


 美浪は傀儡に捕まっていた為、攻撃を回避する事が出来ず、刀に切り刻まれた。


「きゃあ!」

「まだまだだネ!」


 跡土は指を動かしそう叫んだ。


「【狼砲(ろういづつ)】!」


 美浪は両手から霊力の塊を放ち、傀儡達を吹き飛ばした。


「うっ!?」

「毒が効いてきてるみたいだネ。ミーの傀儡は全て痺れ毒を入れているネ。まぁ、殺せる様な毒では無いが動きを鈍らせるには十分だネ」


 美浪は身体が痺れていた。

 美浪の身体は並大抵の毒は効かない。

 跡土の造った痺れ毒は相当な効力の様だ。


「【身体強化(フィジカルエンチャント)】!」


 美浪は自身の身体を強化して毒に抗った。


「持ち直すとはやるネ…だが、長続きはしない筈ネ!」


 跡土は傀儡の操作を再び始めた。

 跡土の傀儡は一体一体かなりの頑丈さを誇っていた。

 美浪が一発殴ったくらいでは壊れない上に一体一体に様々なギミックが仕込まれており、それら全てを対応するのは少なくとも美浪では不可能であった。

 跡土は百を越える傀儡を操作し続けている。

 霊力を大量に消耗するだけでなく相当な神経を使う筈だ。


「くっ!?」


 美浪は傀儡を殴り飛ばすが数が多過ぎる。

 一体一体には様々なギミックが仕込まれており、無数の毒針が美浪へ飛んでいった。

 美浪は【天時飛(アマシタカ)】で時間を飛ばして回避したが逃げ切るのは不可能だった。


「終わりネ!」


 美浪は傀儡に囲まれ、毒刀を身体中に刺された。






「くそ…!倒しても倒しても敵が減らねぇ!」


 第二部隊の兵士がそう叫んだ。

 第二部隊だけではない、第三、第四部隊も同じであった。

 跡土が無限に人形を増やしている限りプラネット・サーカスの兵力が減る事は無い。

 どこの部隊も徐々にじり貧になっているのが現状だ。

 連合軍側の死体ばかり増えていく。


「誰か…擬流跡土を倒してくれ…!」






 美浪は全身に毒刀を刺されていた。

 間違いなく重症であった。

 更に毒刀によって痺れが出ており身体を動かすのが困難であった。


「終わりネ…ミーのお気に入りの傀儡まで出したんだ…倒れてくれないと困る」


 跡土はそう言いながら美浪近付いた。


「自分の「作品」を自分で壊すのは少々心が痛むが…これで終わりネ」


 跡土が美浪の首を刀で切り落とそうとする。

 その瞬間ー


「な…!?」


 美浪は突然立ち上がり、跡土の両手を殴り飛ばした。


「これで…はぁ…傀儡は操れへん…」

「まさか…まだ立てるのか?」


 跡土の毒が効いていないというのか?

 いや、効いている筈だ。

 実際、美浪の身体はかなり震えていた。


「あなたの毒は…確かに強力…けど、耐性を付ければ問題あらへん」

「成る程…やはりフェンリル…獣か…ミーの毒に耐性を付けたのかネ…だが…」


 跡土は倒れた傀儡の腕を引き寄せ、両手にくっ付けた。

 跡土はその両手を動かした。


「くっ…」

「無駄だネ…ミーは死なない。仮に腕をもいでもこの様に繋ぎ合わせる事だって出来るネ!」


 跡土は傀儡を再び動かし美浪に攻撃を仕掛けた。

 しかし、先程より明らかに傀儡の動きのキレが落ちていた。


「【天時飛(アマシタカ)】!」


 美浪は時間を飛ばして周囲の傀儡を打ち砕いた。

 跡土は距離を取って残りの傀儡を操った。


「【狼砲(ろういづつ)】」


 美浪は両手から霊力の衝撃波を放ち、跡土の傀儡…【人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)】を全て打ち砕いた。


「くっ…」

「霊力がかなり消費してる…動きにキレがあらへんな」


 跡土はこれまで戦争に駆り出した人形を操作していた事で美浪と戦う前から霊力がかなり消耗していた事、更に不意打ちで腕をもがれて急遽傀儡の腕を代用した事で本来の傀儡の操作が出来なかったのだ。


「やれやれ…ここまでやるとはネ…ミーが万全の状態では無かったとは言え褒めてやるネ」

「それは…どうも…」


 美浪は強がりながらそう言った。

 美浪にはハッキリ言って余裕なんて無い。

 相手はかなりのハンデを背負った状態で美浪と戦っているのだ。

 にも関わらず美浪は跡土に圧倒されていた。

 不意打ちが決まっていなかったら美浪が一方的にやられていただろう。

 それに、美浪は元が魔族の為、毒に対してはある程度耐性はあるのだがそれでも手傷が酷くとても長時間戦闘が出来る状態では無かった。


「こうなったら…奥の手を使うしか無いネ…」


ー!? まだ奥の手が…


「これがミーの最後の傀儡ネ!見せてやろう…ミーの最高傑作…【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】を!」


 現れたのは巨大な人の形をした傀儡であった。


「なんや…それは…」

「ミーが造り上げた最高傑作ネ…これでみなみ…君を殺すネ!」


 跡土は指を動かした。

 すると、傀儡の口が開き、無数の針を飛ばした。


「!?」


 美浪は傀儡の攻撃を回避した。

 更に、傀儡に肉薄した。

 先程の集団傀儡と違って今回は一体の上、巨体の為、的がでかい。


「【狼砲(ろういづつ)】!」


 美浪は霊力の塊を傀儡にぶつけた。


「中々の威力ネ…だが…」

「な!?」


 傀儡は傷一つ付いていなかった。

 更に傀儡は腕の中に手のギミックが仕掛けられており、無数の手が美浪を襲う。


「きゃあ!」


 美浪は吹っ飛ばされ、無数の手に押さえ付けられた。


「ミーのこの【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】は霊力の攻撃を通さない超チタン合金で造られてる…更にこの傀儡には百を越えるギミックが仕掛けられていて…毒の種類も千差万別にあるネ…いくら君が毒に強い耐性があるとはいえ、勿論、苦手な毒もある筈ネ…まぁ、粉々にすれば関係無いか…」


 跡土はそう言って傀儡を再び操り、美浪を握り潰そうとした。

 美浪は脱出しようとするも力が強い上にこの傀儡はかなりの硬度を誇る為、壊す事も出来なかった。


「くっあ…あ…」

「自分の造った作品を自分で壊すのは心が痛むが…死ね…」


 美浪は力を思いっきり込めた。


「はああああ!!!」


 美浪は力尽くで腕から脱出した。


「流石に…その馬鹿力をどうにかしないと苦労しそうだネ…」


 このまま長期戦に持ち込んで美浪が弱るのを待つのも悪くなかったがあまり時間を飛ばして掛けているとこちらの霊力が持たない可能性があった。

 傀儡の術自体は霊力の消耗が少ない上に跡土はかなりの霊力の量を持っている。

 だが、それでも長時間使えば消耗していく。

 跡土はこの戦争で傀儡の術を乱発し過ぎているせいで本来の霊力の半分以上を持っていかれていた。


「さっさとケリを着けるかネ…」


 跡土はそう言って傀儡を動かした。

 傀儡の口から煙が吹き出してきた。

 無論、これは毒煙だ。


「【狼砲(ろういづつ)】!」


 美浪は洞窟に穴を開けてその穴から洞窟を脱出した。

 外を抜けると夜の砂漠であった。


「ちっ…やはり毒煙は悪手だったか」


 跡土は傀儡を動かしながら洞窟から抜け出した。

 巨大な傀儡が無理矢理洞窟から脱出した為、洞窟が崩落した。


「な!?あの巨体で何てスピードや!?」


 美浪は思ったより傀儡の速度が速くて驚いていた。

 普通、巨体であればある程、移動スピードは遅い傾向にあるのだが、この傀儡は相当速かった。


「さぁ?この攻撃は回避しきれるかネ!?」


 跡土がそう言うと傀儡の全身から無数の武器が飛び出した。


「【天時飛(アマシタカ)】!」


 美浪は時を飛ばし、攻撃を回避し、跡土へ肉薄した。


「!?」

「終わりや!」

「それはどうかな?」

「な!?」


 跡土の眼前へと迫ったというのに美浪は動きを止めた。


ー動かへん!?


「自分の周り、よく見てみるネ…」

「!?」


 跡土が言うように美浪は自身の周りを見た。

 すると、目視が困難なワイヤーが張り巡らされていた。

 これで美浪の動きを止めていたのだ。


「いつの間に…」

「無数の武器のギミックを発動させた時だネ…あれは陽動、本当の狙いはコレネ」

「うっ…」

「君は…ミー自身で殺してやるネ!」


 跡土は腹から刀を出し、美浪の脇腹を貫いた。

 更に跡土は全身からノコギリ状の刃を出し、美浪を抱き締めた。


「がっ…」


 すると、美浪の全身から出血した。


「みなみ…君はここで終わりネ」


 跡土は美浪を離し、美浪の脇腹に刺さっていた刀も引き抜いた。

 美浪はそのまま倒れた。

 美浪の身体から血の花を咲かせていた。

 美浪の意識は完全に失われていた。


「みなみ…」





 天使大戦。それは人間が魔族を支配しようと起こした戦争だ。

 この戦争では人間は霊呪法、二十二式精霊術、そして、今まで殺した魔族達を実験体にし、研鑽した結果、人間は魔族を圧倒する力を身に付けた。

 二百年前に起こったその戦争によりほぼ全ての魔族は人間の管理下に置かれた。

 擬流跡土は十二支連合帝国と呼ばれる前の…日本の軍隊の一員であった。

 跡土は幼少の頃、両親を魔族に殺されている。

 跡土は両親が死んだ悲しみを埋める為に傀儡の術を覚え、傀儡を造る事に傾倒していった。

 やがて、傀儡使いとしての技量と魔族をも圧倒するその戦闘力から日本軍に力を思いっきり買われ、軍人として天使大戦に参加する事になった。

 この時点で跡土は15歳という若さであった。

 跡土は天使大戦で大きく活躍した。

 それこそ、このまま何も起こらなければ英雄と呼ばれていただろう。

 だが、跡土はそんな事はどうでもよかった。

 戦争なんか興味が無かった。

 戦ってそこから多くの人形を造る事で何かを見出だせるのではと跡土は思ったが戦っても日本軍で闘った所で見つからなかった。

 跡土は天使大戦終結前に日本軍に見切りを付け、日本軍を抜けた。

 そして、跡土は小さい村を襲撃した。

 その村は神聖ローマから移住してきたフェンリルの一族が住む村だった。

 跡土はフェンリルの人形を造ろうと目論み、この村を襲ったのだ。

 だが、跡土は何も得られなかった。

 この村は年老いたフェンリルが数匹住んでいただけで若い者も全員が子供であった。

 跡土は村にいるフェンリルを虐殺した。


ー使い物にならないのなら、俺の糧となれ!


 跡土は村を焼き討ちし、襲った。


「何や?これ…」


 小さい頃の美浪は何が何だか分からなかった。

 美浪はこの頃、ごく普通に祖父母と共に暮らしていた。

 丁度この頃は一人で村外れまで散歩をしていたのだ。

 戻ってみるとこの有り様であった。


「お爺ちゃん!お婆ちゃん!」


 美浪は走った。

 しかし、家は全て焼けており、倒れているのは村人や狼の姿をしたフェンリル達の死体だった。


「何で…どうして…」


 美浪は辺りを見回した。

 すると、強い衝撃が美浪を襲った。


ーえ?


 美浪は吹き飛ばされ、壁に激突した。

 身体が動かなかった。

 全身から血が吹き出しているのが分かった。

 身体が業火に焼かれていく。

 しかし、今の美浪は痛みすら感じなかった。

 聞こえる…仲間達の声が…悲しみが…痛みが…苦しみが…聞こえてくる。

 今は戦争中だがこの村は安全だと聞いていたのに。

 何故、こんな事になっているのか、美浪には分からなかった。


「儚いモノだなネ…命とは…儚く…脆い…」


 この村を焼き討ちした張本人がそう呟いた。

 そう、命とは簡単に奪われる、奪えてしまう。

 跡土が今、行っている事が正にそれだ。

 だからこそ、跡土は傀儡を造る事に傾倒していった。

 傀儡は朽ちる事が無い、跡土にとって傀儡が唯一の心の友であり慰めであった。

 中でも跡土は魔族や人間の死体をベースに傀儡を造る人傀儡に傾倒していた。

 しかし、人傀儡を造るには死体が丈夫で無くてはならない為、誰でも可能という訳ではない。

 跡土は何も感じなかった。

 この村を破壊しても…何も…

 跡土は宛もなく歩いててた所で一人の少女を見つけた。

 今にも…いや、もう命尽きようとしている少女であった。

 跡土は死者を生き返らせる術を研究していた。

 跡土の求める永遠の傀儡を造るのに役立つからだ。

 跡土は自分の気まぐれに従う事にした。

 特に理由は無かった。

 目の前で死にかけている少女、美浪を生き返らせる事にした。

 美浪の瞳に光が完全に消えていた。


「【輪廻転生(りんねてんせい)】」


 跡土は美浪を生き返らせる事に成功した。

 しかし、美浪が生き返った瞬間、光が出現し、何処かへと消えてしまった。


「な…失敗した…のか?」


 跡土は落胆するでも無く、悲しむわけでもなくそう言った。

 まだまだ研究が足りていなかった様だ。


「まぁ、いいネ。これからミーはどんどん新しい傀儡を造る…そして…朽ちる事の無い永久の美を手に入れるネ」


 跡土はそう言って自身が滅ぼした村を後にした。






 跡土のフェンリルの村の襲撃は完全に独断であった。

 故に日本軍の指揮系統は混乱していた。

 まさか、跡土に裏切られるとは想定していなかったのだ。

 跡土は日本軍の指示を従順に聞いており、一度たりとも背いた事など無かったのだ。

 その状態でこの様なデカイ打撃を与えた。

 これにより、跡土は日本軍…後の十二支連合帝国きっての大悪党として名を残す事となった。

 だが、跡土の消息は誰も掴めず表向きでは死んだとされている。

 しかし、跡土は生きていた。水面下で活動を続けていた。

 十二支連合帝国が建国された後、跡土は自分の身体を弄くり始めた。

 そうする内に身体の殆どが傀儡のそれへと変化していった。

 少しずつ、自分を人形へと変えていった。

 だが、所詮は元は人間、完全な人形になる事など出来る筈も無かった。

 それでも身体の大半が傀儡と化した事で歳は全く取らなくなった。

 それにより、跡土は人間にも関わらず二百年以上の時を生きてきた。

 肉体が全く老いる事も無かったのだ。

 しかし、跡土はそれでも満足出来なかった。

 やはり、駄目なのだ。完全な人形にならなくては。

 跡土は身も、心も、人形になりたかった。

 心があるからこそ、悲しみがあり、とてつもなく…不完全だ。

 跡土は肉体を傀儡に出来ても、心までは人形に変える事は出来なかった。

 だから、跡土は満足出来なかったのだ。

 跡土は人や魔族を密かに殺し続け、傀儡を造り続けた。

 その過程で生まれた傀儡の一つが【人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)】と【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】だ。

 【人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)】は百の魔族と人をベースに造った人傀儡兵団であり、【からくり・近松神楽(ちかまつかぐら)】は数百の人間と魔族の身体をバラバラにしてそれを繋ぎ合わせながら造り、無機物と合成しながら造った人傀儡である。

 跡土の最高傑作の人傀儡はこの二種類だがこれら以外にも二百種類以上の人傀儡を造っており、彼のやっている事はさながら狂気染みていた。

 跡土は求め続けた。永久の…朽ちる事の無い美しい人形に。

 そして、その人形に自分が成る事を望み続けた。

 跡土がそうこうさ迷っている内に天使大戦は終結した。

 天使大戦により、多くの魔族と人が命を落とした。

 跡土はそこで死体を回収して傀儡を造り続けた。

 飽きる事無く、いつまでもいつまでも…造り続けた。

 そんな跡土の姿は少し…ほんの少しだけ…寂しげであった。






 跡土は広野を歩いていた。

 何もない広野。あるのは死体だけだった。

 いつもの様に跡土は死体集めをしていた。

 死体の異臭にはもう慣れた。

 最初は吐き気を催す程だったが今となってはその異臭も気にも止めなくなっていた。

 人間は…慣れてしまうのだ。

 人を殺す…生物を殺す…初めての時は戸惑いが生まれるだろう。

 だが、続けていく内に何も感じなくなっていってしまうのだ。

 人によっては殺す事が楽しくなっていく者すらいる。

 人が何億年も生き続ける事が出来た理由の一つが「慣れる」…つまりは順応していく事にあるのだ。

 跡土が死体集めに慣れるのは必然であった。

 慣れていけば心が磨り減って行く。

 ならば何故感情という不完全で曖昧なモノがあるのだ。

 跡土はずっとそう思っていた。

 何かを奪っていってそれで心が磨り減って行くのなら何故感情などというモノがあるのだ。

 この感情が人を弱くしているのだ…跡土はそう考えるようになった。

 だからこそ、人形になりたいのだ、身も、心も。

 そうすれば楽になれる。不完全な感情に縛られる事も無い。


「随分と…死んだような眼をしてるですね」


 そんな声が聞こえた。

 小さな少女の様な声であった。

 こんな所に少女がいる筈が無いと跡土は思ったが実際に少女の声が聞こえたのだ。


「誰だネ?」


 跡土は特に驚く様子も無く、問い質した。

 少女は少しムスッとした様子で答えた。


「まずはこっちを見て欲しいです」


 少女がそう言うので跡土は声のした方へと向いた。

 そこにいたのは小さな少女であった。

 外見年齢は大体十歳前後だろうか。

 しかし、こんな小さな少女が何故こんか死体だらけの場所にいるのか疑問であった。


「君は…一体何者ネ?」


 跡土が少女に訪ねた。

 跡土は少女にそこまで興味があるという訳では無かったが一応、名前くらいは聞いておこうと思った。

 少女は特に何も反応すること無く、淡々と答えた。


「わたしの名前はエスデス・ジルド。この世界に平和と痛みをもたらす者です」






To be continued

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