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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
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【第十章】道化狂乱篇Ⅸーfear 2ー

「ここは…どこだ?」


 蒼はそう呟いた。

 蒼はプラネット・サーカスの一人、マーリン・モリガンと戦っていた。

 しかし、蒼はマーリンに全く歯が立たずマーリンの空間に閉じ込められてしまった。

 この空間にあるものは鏡だけだ。

 鏡と黒い空間、あるのはそれだけだ。


「チクショウ…閉じ込められたのか…」


 蒼は周囲を確認したがやはり鏡と黒い空間があるのみだ。


「どうやら…【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】は発動したままらしいな…」


 蒼は目の前の屈みに斬撃を叩き込んだ。

 しかし、ビクともしなかった。


「くそ…頑丈だな…」


 ここから出る方法も分からない、目の前の鏡も斬れない。

 しかし、ここでもたもたしている訳にはいかなかった。

 あそこにはまだ一夜達が戦っている。

 あのマーリンという少女はかなりの使い手だ。

 蒼を軽々と閉じ込めた様な奴だ。


「【氷菓神刀(クリスタシア・デーゲン)】!」


 蒼は氷の斬撃を放ったがやはり鏡はビクともしなかった。


「くそ…くそ…!」


 蒼は何度も何度も斬撃を加えるが全くと言っていいほどビクともしなかった。


「どうすれば…」


 蒼は途方に暮れていた。






「ワタクシはオーディン様の為に!」

「くっ…バカな事を…」


 アリアナはルバートとの激戦を繰り広げていたがルバートに自身の能力の弱点を見切られ、満身創痍の状態だった。

 そこで、アリアナは自身の命と引き換えに恐怖の力を戦場にばら蒔くつもりなのだ。

 アリアナの能力が発動すれば敵味方問わずかなりの被害が出るだろう。


「今頃…どこも戦っている状態でしょうね…そんな戦場にワタクシの力がばら蒔かれば…どうなりますかねぇ?」


 アリアナは笑いながらそう言った。


「分かっているのかい?その力を使えば君は死ぬんだよ?」

「それも本望ですわ!オーディン様の為なら…!」

「くそ…身体が…動かない…」


 ルバートはかなりのダメージを受けていた。

 アリアナが自発的に自身の凶行を止めない限り止めるのは不可能だろう。


「味方ごと…やるつもりかい?」

「ええ、オーディン様を復活させるには多くの人間や魔族の魂を生け贄に捧げる必要がありますからねぇ…」

「生け贄?」

「私達プラネット・サーカスが殺した者は全てオーディン様の生け贄となるのです…」

「何だって!?」

「これはその為の戦争ですわ。戦争は多くの死がありますわ。その死を全て無駄にせず、オーディン様の肥やしとなる…素晴らしいではありませんの」

「そんな事を聞いて…尚更止めない訳には行かないね…」


 ルバートはアリアナを直接止めるのは止めた。

 と言うより、今のアリアナを止めるのは不可能だ。

 ならば、やる事はたった一つだ。

 アリアナの恐怖の力の範囲を可能な限り押さえ込む。


「グノウェー…霊力を借りるよ!」


 ルバートは自身の中にいるグノウェーから霊力を取り出し、自身の霊力を上昇させた。


「【闇の空間(ダーク・スペース)】!」


 アリアナから半径十メートル程に黒いドームが形成された。

 これで恐怖の力を押さえ込む。


「確かに…闇属性のドームを作れば…被害は抑えられるかもしれませんわねぇ…ですが…ワタクシの力…見謝るな!」


 アリアナの身体が徐々に収縮し始めた。


「ワタクシはこれから…オーディン様の元へと還る!」


 アリアナの身体が白い球体へと変わっていく。


「さぁ…恐怖しなさい!絶望しなさい!」


 白い球体はヒビが入り始めていた。


ー【恐レ戦ク絶望ノ神棒(ダグダ・ストラーフ・トゥイシャチャ)】!!!


 白い球体から無数の白い棒が飛び出した。






 ここは、第一部隊の戦場だ。

 ここでは黒宮とドラコニキルが指揮しており、戦いは既に始まっていた。

 こちらの兵士のコピーが多くいるし、手配書(アオス・テーター)に乗っている犯罪者も多くいた。


「これは…厄介ですね」

「ふー、だからと言って、ここが落とされる訳には行かないな」


 この場所は神聖ローマからそう離れていない。ここを突破されたら神聖ローマにある本部まで一直線である。


「さて………!?」

「どうしました?ドラコニキルさん」

「何か…来る!?」


 ドラコニキルがそう言って後ろを振り向いた。

 すると、無数の白い棒がこちら目掛けて飛んできた。


「全員、ここから退避しろ!!!!!」


 ドラコニキルが今までにない大声でそう言うと兵士達は速やかに白い棒から逃げた。

 この部隊は十二支連合帝国の者が多く配属されており、赤島や兎神、くるや薊もこの隊に配属されている。


「何だ?ありゃ?」

「知るか!だが、当たればヤバイのは何となく分かる!」

「うわわわわ…」

「くっ!?」


 赤島が驚き、兎神はヤケクソ気味に叫び、くるは動揺しており、薊も驚愕していた。

 白い棒の雨が敵味方関係なく襲い掛かる。

 黒宮、ドラコニキル、赤島、兎神、くる、薊はどうにか白い棒を全て回避しきったが殆どの兵士は白い棒に命中してしまった。


「ぐああああああああああああああああああああ!!!!」

「ぎぇあああああああああああ!!!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」

「だずげ…あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 白い棒に命中した者は敵味方問わず悲鳴を上げ、発狂しながら死んでいっていた。

 あまりに悲鳴が多過ぎて頭がどうかしそうであった。


「これは…」

「恐らくこれは…」

「ああ、アリアナ・サンタマザーの仕業だろう」


 ドラコニキル達はすぐに誰の仕業か検討がついた。

 アリアナの能力は事前に把握していた。

 白い棒に命中すれば恐怖のイメージに叩き込まれ、発狂して死ぬという。


「これだけの広範囲で攻撃出来るのは聞いてないがね」

「恐らく…隠し玉として使ったんでしょう…ヤバイですよ…あの白い棒は向こう側もかなりの数が飛んでます…」


 そう、この白い棒はかなりの範囲に拡散していた。

 この様子だと全ての部隊に影響が出るだろう。 


 黒宮が危惧した通り…にはならなかったものの、白い棒は第二、第五部隊にまで拡散していた。

 アリアナのいた場所から距離のあった第三、第四部隊に被害は出なかったが逆に一番近かった第一部隊は敵味方問わず壊滅的な被害を受けていた。






「うっ…」


 ルバートの全身に白い棒が突き刺さっていた。

 アリアナの最後っ屁は手痛いモノだった。

 ルバートなりに被害は押さえ込んだがそれでも第一部隊は壊滅的な被害を受け、第二、第五部隊にも被害が出てしまった様だ。

 しかし、ルバートがアリアナの自滅を抑え込まなければ全ての部隊に被害が出ていただろう。

 ルバートはそのまま倒れた。


「お…おい!」


 インベルとアポロがルバートの元へと駆け寄った。


「この棒は確か…闇属性攻撃で無効化出来る筈…」


 アポロとインベルはルバートの戦いの一部始終を見ていた為、対策が分かっていた。


「【死滅銃弾(サリエル・バレッド)】!」


 アポロは銃弾でルバートに刺さっていた白い棒を全て打ち払った。


「う…君たち…無事だったのか?」

「俺達はセラフィム騎士団で張った結界で守られたから無事でしたよ」


 どうやら、アリアナが自滅する直前、セラフィム騎士団全員で結界を貼り、天使城(セラフィム・ヴァール)を守った様だ。


「それより、あなたは速く治療をしないとね」

「はは…そう…だ…ね…」


 ルバートはそのまま気を失った。






「何とか守りきったわね…皆、御苦労だったわね」


 ルミナスがそう言った。

 ミルフィーユ、インベル、アポロ以外のセラフィム騎士団で天使城(セラフィム・ヴァール)を中心に強力な結界を貼った。

 それにより、ここにはアリアナの攻撃による被害はゼロだ。


「さて…でも喜んでばかりはいられないわね」


 アリアナは確かに倒す事に成功した。

 しかし、アリアナの自爆攻撃により、第一、第二、第五部隊にかなりの被害が出た。

 ルバートが被害を押さえ込んでくれたお陰で第三、第四部隊には被害が無かったがそれでもかなりの戦力を削られた。

 更に第一部隊に至っては壊滅的な被害が出ていた。


「まぁ、それは相手も同じですがね」


 灰色の髪と瞳を持った眼鏡を掛けた青年がそう言った。

 彼の名はアルダール・マーブル。

 セラフィム騎士団の一人であり、参謀でもある人物だ。


「それでも…こちらの戦力を減らされたと考えれば不味いわね」


 ルミナスはそう呟いた。

 確かにアリアナによりこちらの兵力はかなり減らされてしまった。

 本部の兵力が減っただけならともかく、彼女の自爆攻撃により、他の部隊まで甚大な被害が出てしまっていた。

 特に第一部隊は壊滅的な打撃を受けていた。

 それは無論敵もなのだが、向こうには擬流跡土がいる。

 彼は死者を蘇生させたり、コピー人形を造る事が出来る為、彼を倒さなければ根本的に向こうの兵力を減らす事は出来ない。


「どうします?」

「そうね、取り合えず、こちらの状況を確認するのが先ね」

「ルミナス!」


 アルダールとルミナスが話しているとアポロがやって来た。


「アポロ、状況を」

「命令するな!…こっちの部隊もアリアナの部隊もほぼ壊滅状態よ。ルバートとインベルと私以外は殆どやられたわ。その上、ルバートは重症でしばらくは私が治療に専念するわ」

「ルバートを瀕死に追い込むなんて…アリアナは予想以上のやり手だったようね」

「このまままた本部を攻め込まれたら…」


 湊はそう怪訝したがルミナスがそれをすぐに否定した。


「それは無いわね」

「ええ、向こうの奇襲が失敗した以上、迂闊にはこちらに攻め込めないでしょうしね…少なくともしばらくは大丈夫ですよ。安心は出来ませんが」

「とは言え、ルミナスにはかなりの仕事をされたわ。彼女の自爆で実際にこっちはかなりの打撃を受けたわ」

「今すぐ、擬流跡土の捜索をしたい所ですね」

「そうね…でも、まだクメールの元へ向かったフローフル達の連絡がまだな以上、迂闊に動くのは得策ではないわ」

「そうですね、クメールも厄介な能力を持っています。彼等の連絡を待つのがベストではありますが…」

「悠長に待っていられる様な余裕も私達には無いわね。よって、制限時間を設けましょう」

「妥当な判断です。長くても十二時間以内に連絡が無ければ…」

「そうね…」


 ルミナスとアルダールの話は大体纏まった。


「さて…ここからね…」






「あーらら、もうクメールとアリアナがやられちゃったか~(;´д`)」


 ロキはそんな事を呟いていた。


「思ったより速かったね~(;´д`)。向こうを少し見くびり過ぎていたかな?」


 ロキは今、大韓連邦のアジトにいた。

 このアジトにオーディンが封じられている。

 ロキはオーディン復活までこの場所を守らなければならない。


「まぁ、こちらもかなりの大軍で攻めてるからね~。そう簡単にはここは落とせないぞ?(^_^)」


 ロキは嗤いながらそう呟いた。

 ロキはオーディンを見つめていた。

 オーディンは機械仕掛けの人形と言った姿をしていた。

 身体は機械で構成されており、歯車が多くあった。

 これが人間の造り出した人工神であり、全てを破壊しかねない破滅の神。

 オーディンに今、多くの魂が吸い込まれていた。


「ふふふ…アリアナはよく働いてくれた…これだけの魂を回収するとはね…クメールは…まぁ、今回の戦いではあまり回収出来なかったみたいだけど…月影慧留を実質戦闘不能までに追い込んでくれたからよしとするかな?」


 そう、オーディンに吸い込まれている魂は全て、この戦争でプラネット・サーカスが殺した人や魔族の魂達だ。

 アリアナは自爆した事で敵味方問わず多くの人間や魔族を殺した。

 その魂が全て、オーディンへと送られているのだ。


「多少予想外の事はあったけど…特に支障は無いね…残る『童話人(グリム)』は僕を含めて後八人…問題無いね…」


 そう、計画は順調に進んでいる。

 オーディン復活までそう長くは無いだろう。

 オーディンさえ復活すればロキも本格的に戦争へ参加する予定だ。


「ふふふ…この楽しい楽しい祭りに…僕もようやく参加出来る訳だ…(*´∀`)あー、ウズウズするな~(^○^)」


 ロキは心底楽しそうにそう言った。

 そもそもこの戦争を起こしたのはロキだ。

 ロキは今まで戦争を起こしても自らがプレイヤーとして参加する事は無かった。

 ロキにとって戦いとは…戦争とは娯楽であり祭りであり、それを遠くから眺めるのがロキにとっての娯楽であった。

 しかし、今の四大帝国は平和ボケしており、大きな争いが無くなってきていた。

 ロキは心底退屈であった。

 だからこそ、己が参加してまで大きな戦争を起こした。

 これからの戦争だけの世界の実現の為に。

 ロキは自分が戦うより、相手が戦い、殺し合うのを眺める方が好きなのだ。

 例えるなら、野球をプレイするのは興味ないが野球観戦は好きという人がいるだろう、それと同じ原理である。


「フローフルもマーリンにより、幽閉する事に成功した。流れは全体的に僕らに傾いている…( ☆∀☆)」


 ロキ達プラネット・サーカスの大きな障害の一つであった蒼を封じる事が出来た。


「しかも、マーリンの鏡の世界は徐々に封印した者の霊力を奪い続ける。そう!フローフル・ローマカイザーは死ぬのだ!(* ̄∇ ̄*)」


 ロキは高揚しながらそう言った。


「まぁ…ルミナスを殺さなければこちらに勝利は無いが…問題無いね!\(^o^)/」


 プラネット・サーカスの勝利条件は総大将であるルミナスを殺す事だ。

 彼女を殺す事で完全に世界を征服出来る。

 あるべき世界に戻す事が出来るのだ。

 ロキはケタケタ嗤っていた。





「かなりやられたわね…」


 フォルテはそう粒やいた。

 ここは、第二部隊の戦場だ。

 現在はお互いに身を隠し、夜襲に備えている状態だ。

 突如襲い掛かった白い棒の雨、あれに当たった者は例外無く発狂し、絶命していた。

 兵力の約半分程まで削られていた。

 しかし、それは敵も同様であり、白い棒の雨が収まった後、すぐにお互い撤退した。

 考えられるとすれば敵の能力だ。

 味方にあんな能力を持っている者は聞いていない。

 明日になれば再び戦いが始まるだろう。

 この部隊にはフォルテだけでなく、スープレイガとアルビレーヌ、ヘレトーアのラピドがいた。

 彼等は無論全員無事だった。

 今は交代で見張りをしていた。

 フォルテは自身の部隊を確認しつつ、見張りの状態を確認していた。

 フォルテはここの部隊の隊長だ。

 戦いの勝利に導く責任があるのだ。

 戦争である以上、犠牲が出るのは覚悟しなくてはならない。

 しかし、だからこそ、戦争には勝たねばならない。


「フォルテ隊長、そろそろ就寝して下さい」

「ええ、分かってる。ご苦労様、アルビレーヌ」

「いいえ、そんな…今はスープレイガが見張りをしています」

「そうか、アルビレーヌも休みなさい」

「分かりました」


 アルビレーヌはフォルテの元から去っていった。

 フォルテは仮眠を取る事にした。






 スープレイガは一人で見張りをしていた。

 アルビレーヌ、ラピドと三人体制で交代で見張りをしていた。

 別に見張りが不満という訳では無い。

 むしろ、見張りは敵を逸早く発見でき、スープレイガとしてはありがたい所だった。


「時神のヤロー…やられたら承知しねぇぞ…」


 スープレイガはそう呟いた。

 スープレイガは蒼の事を目の敵にしていた。

 スープレイガは蒼に敗北して以降、事ある事に蒼を付け狙っていた。

 蒼を倒すのは自分だ。だから、他の者に蒼が倒される事がスープレイガには許せないのだ。

 蒼は今、先遣隊としてクメールの所へ向かっている筈だ。

 しかし、未だに彼等からの連絡が来ないという。


「随分と落ち着かない様子ね、レイ」

「アルビレーヌか…まだ交代の時間じゃねーだろ」

「そうね…様子を見に来ただけよ。そんなに気になる?蒼の事?」

「そんなんじゃねーよ」

「何だかんだで彼の事、心配してるのね。そういうの、ツンデレって言うのよ?」

「誰がツンデレだ!俺はただ…あいつが俺以外の奴に殺されるのが我慢ならねぇだけだ!」


 スープレイガがアルビレーヌに叫び混じりにそう言った。

 アルビレーヌはそんなスープレイガを見てクスクス笑っていた。


「何がおかしい!?」

「いやだって…アンタがそこまで他人に固執したとこ、見た事無かったから」

「お前は相変わらず感に障る奴だな…」


 スープレイガはアルビレーヌにいいように振り回される事が多い。

 スープレイガはその好戦的な性格と喧嘩腰の性格のせいで同じ七魔王(セブン・ドゥクス)からも避けられ勝ちであった。

 しかし、唯一アルビレーヌのみはスープレイガと対等に話し、ドラコニキルもスープレイガに関してはアルビレーヌに全面的に任せている程だ。


「それはどうも」

「相手はどんな奴か分からねぇってのに…」

「珍しく警戒してるのね」

「さっきあんな事があったばかりだからな…『童話人(グリム)』…得体の知れない奴等だ…」


 スープレイガは突如白い棒の雨に襲われ、多くの兵士が死んだ事を思い出していた。

 あれを見せられたらスープレイガとて警戒はするというものだ。


「確かに…敵の強さは想像以上ね…間違いなく…今まで戦ってきた敵の中で最も強い」

「それでも…俺は負けねぇ…!」

「威勢は良いけど、それがフラグにならないようにね」

「………お前はたまに何を言っているか微塵も理解出来ない時があるな」


 スープレイガがそう言った。そんな時ー


「!?」


 スープレイガはいきなり表情を変えた。


「スープレイガ?」

「近くに人の気配が感じる…」


 スープレイガはそう言って周囲を見回した。

 そして、スープレイガは気配を正確に見つけ出した。


「そこだ!」


 スープレイガは光の刃を近くの岩影に放った。

 すると、人影が出現し、二人の前に立った。

 左目に黒い眼帯を着けており、薄茜色の短い髪と瞳を持つ、ゴシックメタルな服を着ていた女性であった。


「ふっ…見つかってしまったか…気配を消しつつ近付いたつもりだったのだが…やはり…我が漆黒の魔力は抑えきれなかったか…」

「アルビレーヌ…あいつは何て言ってるんだ?」

「要約すると自身の強すぎる力を抑えきれずに見つかってしまった…って言ってるわね」


 何故、彼女の言葉が分かるのかスープレイガにとってはとても疑問なのだがまぁ、今回ばかりはアルビレーヌがいて助かったと思った。


「我が名はバートル・ツェペシ!闇の中に生まれし、虚無の王女にして全てを支配する吸血鬼の王!我に仇なす者は永劫の虚無の眠りに誘われる事になるであろう!」

「虚無の王女なのに吸血鬼の王ってなんだよ?王女か王かどっちなんだよ?」

「あの子は所謂中二病という奴ね。やたら難しい言葉を使いたがったりかっこいい表現を使いたがる人達の事よ」


 アルビレーヌは冷静にそう言った。

 彼女はアルビレーヌの言う通り、中二病とやらの様だ。


「中二病?何だそれ?」

「まぁ、あれよ、思春期の少年少女によくある症状よ。色々パターンはあるけど、スープレイガみたいに色々な事に反抗したがる所謂DQN(ドキュン)系、「自分は絶対にこれは流行ると思ったんだよね~」とかいきなりコーヒーのブラックを飲みたがるイキリ系、そして彼女の様にやたら難解な言葉を使ったり壮大に見せたり自分には特別な力があるんだと思い込んでる邪気眼系の三つに大別されているわ」

「ちょっと待て何で俺を例えに出した?」


 スープレイガは釈然としないといった様子だったがアルビレーヌはスルーした。

 因みに中二病は一般的にアルビレーヌが言った通りなのだが最も知られているのはバートルの様な邪気眼系である。


「我のかっこいい自己紹介を侮辱するか…まぁ、常人に我の力を理解出来ぬのは致し方ない事なのかも知れんな。だが、貴様達は思い知る事になるであろう。我の封じられし、暗黒の力を…そして、貴様等は無限の眠りに誘われるのだ…」


 バートルは左手を眼帯に置くポーズを決めながらそう言った。

 スープレイガはマジで彼女が何を言ってるのか分からなかった。

 というか、何故一々喋る度にポーズを決めるのかも意味不明だった。


「なぁ?アルビレーヌ、あいつ何て言ってるんだ?」

「要は「私の力でお前達はやられるだろう」って言ってるのよ…」


 アルビレーヌも呆れた様にそう言った。


「さっきから思ったんだが、何でお前はあいつのあの意味分からない言葉が分かるんだ?」

「まぁ…雰囲気ね…」

「もしかしてお前も昔そういう経験が…」

「ある訳無いでしょバカにしてるの流石の私も怒るわよ?」

「なんか…済まねぇ…」


 アルビレーヌが珍しくキレ気味だったのであのスープレイガが珍しく謝った。


「あいつのあの意味不明な言葉が分かるなんて…俺、お前の事を生まれて初めて天才だと思ったぞ」

「今までで一番嬉しくない誉め言葉をどうもありがとう」


 アルビレーヌは心底嫌そうにそう言った。


「貴様等は一体何をそんなにコソコソ喋っている?我が偉大なる力に恐れ平伏したか?」

「ああ、お前のその意味不明な言葉に困惑してる」

「意味不明…まぁ、無理もあるまい。凡人に血染め姫である我の崇高なる言の葉を理解出来ぬのは無理な話。だが恥じる事は無い…それは貴様等が弱者だから…というだけではない、我の力が天地を砕く程なのだから…」

「言ってる意味はさっぱりだが煽られてるのは何となく分かったぜ…」

「そうね…それは確かよ」

「何となくだがてめぇのその頭のおかしい喋りの意味が分かってきたぜ」

「ん~、誰が頭のおかしい話し方だって?」

「てめぇ以外にいる訳ねぇだろ」

「貴様…我を愚弄する気か…よかろう…貴様等は我が力で捩じ伏せて魅せよう…大紅蓮地獄の如き苦しみを味わうがよい!」


 バートルが尊大にそう宣言した。

 バートルに対してふざけた奴だとはスープレイガは思っていたが魔力の高さは本物であり、プラネット・サーカスの幹部を名乗るだけの事はあると感じた。


「行くぞ!」


 バートルはスープレイガとアルビレーヌに突っ込んで行った。






 ここは第五部隊。

 ここも第一、第二同様、アリアナの白い棒の被害を受けていた。

 だが、第一、第二部隊に比べて被害は比較的少なかった。

 現在、ここの部隊は乱戦常態であった。

 第五部隊隊長である厳陣を筆頭にプラネット・サーカスの軍勢と戦っていた。


「くっ…思ったより数が多いな…」


 厳陣達第五部隊は擬流跡土が生き返らせたとされる死者達と戦っていた。

 しかも、死者達は殆どが手配書(アオス・テーター)に載っている様な重罪人ばかりだ。

 いくつかこちらの戦力をコピーした兵隊もおり、戦況は混乱している状態だ。

 擬流跡土を倒さない限り、向こうの戦力が減る事は無い。

 跡土だけではない、クメールの他者を洗脳する能力も厄介であり、プラネット・サーカスの幹部クラスはいずれも厄介な能力の持ち主ばかりである。

 全員が四大帝国の長に相当する実力があるというのは頷ける話である。

 今はお互いに拮抗している状態だが、いつ均衡が崩れてもおかしくない状況だ。


「何だ!?あれは!?」


「!?」


 厳陣は声のした方向を見た。

 すると、巨大な猿の化け物が現れた。

 その猿は体長二十メートル以上はあった。


「デカ過ぎる…」


 誰かがそう呟いた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 大猿が咆哮を上げ、暴れ始めた。


『うああああああ!!!』


 多くの兵士が大猿に虐殺された。

 兵士達は魔術や霊術を放ったが大猿の身体は非常に頑強であり、生半可な攻撃では傷一つ付かなかった。


「あれは…合成獣(キメラ)か!?」


 厳陣はそう言った。

 キメラとは動物と動物を掛け合わせて造る獣だ。

 かつて、十二支連合帝国にも混獣(ダイダラボッチ)を造っていたがあれとは似たようなモノだ。

 だが、混獣(ダイダラボッチ)は魔族を融合させているがキメラはあくまで動物と動物を融合させている。


「だが、ただのキメラと違って莫大な霊力が練り込まれている…並の兵士では歯が立たんぞ…」


 厳陣がそう言った。

 ただのキメラならば大した驚異では無い。

 しかし、目の前にいるキメラは莫大な霊力を纏っていた。

 それにより、普通のキメラとは比べ物にならないくらいに強化されている。

 厳陣は炎の剣を作り出し、一撃で大猿のキメラを倒した。


「凄い…」

「これが…常森総帥の力…」


 厳陣は兵士達の前に立った。


「怯むな!敵はまだ立っている!私に続け!」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


 厳陣の言葉で兵士達は士気を取り戻し、再び敵と戦った。


「ぐううううう…」


 今度は鯨の様な巨大な姿をした化け物が現れた。

 恐らく、キメラだろう。

 その巨体は尋常では無く、大き過ぎて全貌が分からなかった。


「まだいたのか…いや…奴だけではない…」


 厳陣は辺りを見回した。

 すると、巨大な鯨のキメラ以外にも四体程発見した。

 一体目は十メートル級のパンダのキメラ、二体目は腕が十本以上ある人間の顔をした金剛力士の様なキメラ、三体目は眼が十個以上ある巨大な蜘蛛のキメラ、そして最後は全身に触手が生えているタコのキメラであった。

 どれも強大な魔力を纏っていた。

 厳陣は炎の剣で巨大な鯨を攻撃したが物量が大き過ぎて炎が全身まで行き届いていなかった。


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』


 耳をつんざく咆哮を鯨のキメラが上げると炎が掻き消えた。

 今は夜だ。そのせいで厳陣の【太陽(ザ・シャイン)】は本来の力を引き出せない。


「厄介な事になった…」


 厳陣はそう呟いた。





To be continued

 今回のアリアナ・サンタマザーですが、名前のモデルは多分露骨だったのでバレバレだと思いますがマザー・テレサです。

 今回のアリアナというキャラクターもマザー・テレサの負の部分を強調しました。なので割りと終始狂ってましたね。アリアナは僕が今回の敵キャラで一番思い通りに書けました。最後までブレる事の無かったキャラでもあるので。でもこういう己の欲望の為だけに戦うキャラって書くの難しいと感じました。童話のモチーフはロミオとジュリエットです。これまた分かりにくかったと思います。愛の為に全てを捧げたロミオとジュリエット、彼女もまた自身の信じる者の為に全てを捧げたという訳ですね。

 今回はルバートもやっとまともに活躍させられたので良かったです。ルバートは結構掴み所の無い所がありますが今回もそうでしたね。彼女を書くのはとても難しいです(笑)

 という訳でこの道化狂乱篇はまだまだ続きます。それでは!

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