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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
133/196

【第十章】道化狂乱篇Ⅶーlove 2ー

 クメール・サロットサロットは裕福な家庭に生まれた。

 神聖ローマの天使として期待されていた。

 大人達はクメールは裕福な名家であるサロットサロット家の生まれである為、期待されていた。

 そして、クメールはその期待に負けないくらいには優秀な人物であった。

 そうして、クメールは大人になるまで何不自由なく過ごしてきた。

 だが、突如としてクメールの人生を狂わせる大きな事件が起こった。

 クメールの地位と才能に嫉妬した大人達がクメールを騙し、裏切ったのだ。

 クメールは謂れの無い罪を大人達に被せられた。

 当時、クメールの周囲には連続殺人が相次いでおり、クメールに嫉妬した大人達はクメールに罪を擦り付けたのだ。


「違う!僕じゃない!」


 クメールはそう言ったが聞き入れられる筈もなくクメールは牢獄に閉じ込められた。


「僕じゃないのに…どうして…」


 クメールは牢獄から脱走し、犯人を探した。

 クメールが捕まって以来、連続殺人事件は無くなった。

 この連続殺人自体もクメールを陥れる為の罠である可能性が高かった。

 そして、クメールは犯人を突き止めた。

 連続殺人事件の犯人は…自分を慕っていた同級生の友達だった。


「どうして…」

「昔は…君の事を凄いと思ってたよ…けど、大人になるにつれて…君の才能に嫉妬した。何故お前なんだと…俺だってこんなに努力してるのに…!」


 そう、これは汚い大人達の手によってクメールは陥れられたのだ。

 かつての子供の頃の友達も、大人になるにつれて歪んでいったのだ。

 大人になれば嘘を吐く事を覚える。

 大人になれば人を騙す事を覚える。

 大人になれば人を裏切る事を覚える。

 クメールはそんな大人に絶望したのだ。


「ふざけるな…ふざけるな…」


 クメールは無気力となり、その場を後にし、牢獄へと戻った。

 それからしばらくして、クメールが濡れ衣を着せられていた事が公になり、クメールは無罪放免になり、釈放された。

 しかし、それでもこれを気に騒ぎ立てる大人達もおり、クメールはそんな大人達に絶望した。

 クメールは一人になった。家族は誹謗中傷を浴び続け、両親共に自殺した。

 クメールは一人きりになった。

 当時は天使大戦により、国が安定していなかった時期でもあった為、神聖ローマは余計に混乱していた。


「あの…だいじょうぶですか?」


 一人、途方に暮れていたクメールに声を掛けた者がいた。

 年端も行かぬ少年であった。


「君は?」

「僕はーーです!一緒に遊んでよ!お兄ちゃん!」


 そうして、クメールはその少年と遊ぶようになった。

 そう、その少年と遊ぶのがクメールにとっては癒しだった。


 しかしーそれから数十年経った時、状況は一変した。

 またしてもクメールは裏切られた。大人によって。

 裏切ったのはあの時の少年だった。

 クメールが一部の大人に迫害を受けていた事を知って、それを利用したのだ。

 クメールは再び、絶望した。

 大人になったからクメールは陥れられた。

 子供の純粋な心のままであればこんな事はされなかった。

 大人になるにつれ、心が汚れていく。

 クメールはそう悟らざるを得なかった。

 そして、クメールは自信を迫害した大人達を全員殺し、更にあの時の少年も殺した。

 クメールは大人を嫌悪する様になった。

 そして、クメールは誓ったのだ。

 子供だけの世界を創る事を。嘘の無い、裏切りの無い世界を…創ろうと誓ったのだ。





「月影慧留…貴様に我輩の夢の邪魔をさせない!」

「昔、君に何があったのかは知らないけど、君は…間違ってる!」


 慧留はクメールの事情を知る筈もない。

 だが、慧留もクメールが異常に子供を執着するには何か訳がある…という事だけは今までの戦いで察していた。


「大人は嘘を吐く!騙す!陥れる!我輩は…陥れられたのだ!!汚い大人達に…我輩のプライドを…誇りを…大切なモノを…大人達は全て奪った!子供も大人になるにつれて…汚くなっていく…だから!我輩は子供だけの世界を創る!!」


 クメールは眼を血走らせながらそう言った。

 身体全身が触手で覆われている為、眼すら朧気にしか見えなかった。

 しかし、慧留はクメールに対して思う所はあった。

 確かに、クメールの言う事は一理ある。


「そうだね…大人になると確かにずる賢くなると思うよ。嘘だって吐く、誰かを裏切る事だってあるかもしれない…けど…それでも…子供を玩具にしていい理由には…ならないよ…」

「黙るのだ!目的達成の為には犠牲も止む得ない!我輩は願いを叶える為なら何でもするのだ!何でもだ!貴殿を殺さなければならないのなら殺すのだ!貴殿を殺すのに子供が必要とあらばそれを利用するのだ!!」


 クメールはそう言って触手を使って慧留に攻撃を仕掛けた。

 慧留はクメールに対して憎み切れなくなってきていた。

 子供を利用してまで慧留に攻撃をした時は確かに慧留はクメールに対して殺意が沸いた。

 しかし、クメールの気持ちを少し聞き、それが少し変化した。

 クメールの話から察するに大人達に虐げられ、子供だけがクメールの救いだった事が分かる。

 そんなクメールを誰が責め立てる資格があるだろうか。

 だが、クメールのやり方を肯定する訳には行かない。

 クメールのやっている事は間違っている。それは慧留は自信を持って言える。


「君自身を虐げてきた大人達を恨む気持ちを抑えろとは言わないよ…けど…君は本当はどうしたかったの?」

「!?」


 子供だけの国を創りたかった。

 それがクメールの望み…いや違う…本当は…本当は…


「黙れ!黙れ!黙るのだ!!!貴殿に…貴殿に何が分かると言うのだ!!」

「あなたの望みは本当に子供だけの世界を創る事なの?本当は…自分を認めてくれる人が欲しかったんじゃ無いの?寂しかったんじゃないの?」

「うるさい!煩い!!!」


 慧留はクメールの触手を錫杖と黒い剣で切り裂いた。

 クメールは慧留の言葉を否定する。


「嘘の無い世界を…子供だけの世界を…!」

「確かに…嘘を吐かれるのは嫌だし、裏切られるのも嫌だよ…大人になったらきっと汚い事も覚える。子供の頃の純粋さは子供の頃にしか無いのかもしれない…でも…でもね…君は…大人でしょ?今の君は、君を虐げた大人と同じだよ…子供を利用して…虐げている…そんな汚い大人と同じだよ…大人になっても子供の頃から変わらずにいれる人もきっといるよ…」

「そんな者はいない!何百年ま生きた我輩だからこそ断言して言える!そんな事はあり得ないのだ!!」

「子供が支えになってたのなら…その子供を良い大人に導くのがきっと君のやらなきゃならない事なんだよ…」

「黙れ!黙れ!黙れ!黙るのだ!!!」


 慧留は今のクメールを見て、心を痛めていた。


ーそうだ、最初から悪い人なんて…一人もいないんだ…


 慧留はそう、強く思った。

 慧留だって大人にウンザリした事もあった。

 大人はすぐに戦争を引き起こす。

 この世界にだって慧留は未だに納得してないし、踏ん切りも付けられていない。

 けど、この世界に必死で抗っている人達が、魔族達がいる。

 必死で必死で生きている者達がいる。

 そんな人々や魔族達を見たら…慧留は強く思うのだ。

 そんな人達や魔族を助けたい、支えたい、守ってあげたいって…そう思うのだ。

 クメールも被害者なのだとしたら…慧留は…強く思う。


ー救ってあげたいと。


「君の心の縛りを…私がほどいて見せる!!」

「黙れ!」


 クメールの触手は慧留に襲い掛かる。

 慧留は黒い盾を展開した。


「【魔王大盾(グラン・スクートゥム)】!」


 黒い盾はクメールの攻撃を完全に防いだ。

 しかし、触手は増殖し、慧留の身体を再び貫いた。


「がっ!?」

「貴様は何も出来ない!何も救えないのだ!ここで…消え失せろ!!」


 クメールはそう叫んだ。


「【千本黒魔劍(グラディオス・デル・ミールレ)】」


 クメールの周囲には無数の黒い剣が出現していた。


「な!?」


 無数の黒い剣がクメールを貫いた。

 【千本黒魔劍(グラディオス・デル・ミールレ)】は慧留の『魔歌(マーニア)』である【黒魔剣(グラディウス)】と慧留の過去改変の【冥界創造(プラエテート)】を組み合わせた技だ。

 過去改変により、無数の【黒魔剣(グラディウス)】を出現させ、一斉に攻撃した。

 過去改変能力による技なのでほぼ予備動作無し(ノーモーション)で技を放てる強力な技だ。

 ただし、二つの技を同時に使っている為、大量の魔力を消耗する。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 慧留はかなり息を切らしていた。

 もう、魔力が無い。限界である。


「がふ…」

「!?」


 クメールは未だに立ち上がっていた。

 クメールは身体の殆どが吹き飛んでいた。右眼、脇腹、右足、左腕が吹き飛んでおり、更に、心臓も抉られていた。左足と右腕も原型を留めないくらいグチャグチャになっていた。

 クメールはそんな状態で長時間立てる筈もなくすぐに倒れた。


「もう…終わりだよ…君に…勝ち目は無い…うっ…!?」


 慧留も相当な重症であった。二人ともとても戦える様な状態では無かった。


「まだだ…まだ…負けない…のだ…我輩の…我輩の…」


 クメールの身体は既に再生を始めていた。

 とんでもない生命力であった。


「どうしてこんな…クメールには…もう霊力が……まさか……!」


 慧留は周囲の子供達を見回した。

 慧留の思った通りだった。

 クメールは()()()()()()()()()()()()()()()


「我輩は…負け…ない…のだ…」

「ねぇ?そんな事をして何になるの?もう…」

「我輩は負けない!我輩は…大人達を……!?」


 クメールは途中で言葉を止めた。

 何故ならー


「何故…泣いている…ふざけてるか…貴殿は…今は戦争中だぞ!?」

「悲しいんだよ…何で…そんな事を…君は…」

「!?」


 クメールは昔を思い出していた。





 それはクメールが完全に大人達に完全に絶望する少し前、クメールは雨の中、一人で街をさ迷っていた。

 そんな時、小さな女の子がクメールに声を掛けてきた。


「おじちゃん?」

「何だ…子供か…何の様なのだ?」

「ねぇ?わたしの家に来ない?」

「我輩といると君まで不幸になる。とっとと消えるのだ」


 この子も大きくなったらきっと、クメールを裏切る。

 クメールはそう考えていた。

 だからこそ、クメールは関わりたく無かった。


「何で…そんな事を言うの?」

「!? 何故…泣いているのだ?」


 少女は…泣いていた。


「家族はいるのだろう?速く…」

「家族は死んだよ…病気で…」

「そうか…」

「ねぇ、一緒にあたしの家まで来て」


 クメールは少女の家に付いていく事にした。

 そして、少女の家に辿り着いた。

 家はボロボロであり、殆ど何も無かった。


「貴殿の年齢は?」

「八歳」

「八歳で一人で切り盛りしてるのか…凄いのだ…」

「おじちゃんは?」

「我輩は…はて?何年生きたのだ?分からないのだ」


 クメールはこの頃はまだ、子供達を虐待する様にはなっていなかった。

 しかし、この頃のクメールは多くの大人達を殺していたので神聖ローマでも指名手配されていた。


「コホッ…コホッ…!」

「!? 大丈夫か!?」

「うん、大丈夫…」


 少女はそうは言ったが口から血を吐いていた。

 とても大丈夫そうには見えなかった。


「病気…なのか?」

「うん、後、十日くらいしか生きられないんだって…」

「そんな…」


 少女は相当重い重病にかかっていた様だ。

 残りは十日しか生きられない。彼女の歳はまだ八だ。

 若い、余りにも若すぎる。


「だから…一人でこれからしぬだけだったんだ…けど…あなたに出会えた。ねぇ?最初で最後のお願い、聞いてくれる?」

「なんなのだ?」

「わたしがしぬまで…みまもって…」


 少女はそうクメールにお願いした。




 少女の古い家に住む様になってから五日目、クメールは自分の経緯を話した。

 どうせ、後五日で死ぬ命だ。何を話しても問題は無いだろう。


「そうなんだ…おじちゃんもたいへんだったんだね…」

「ああ、大人達は腐っている…だから…」

「わたしのおとうさんとおかあさんは優しかったよ?」

「それは貴殿が娘だからだ。きっと裏では…」

「ううん、おとうさんもおかあさんも身体は弱かったけど必死でみんなを助けながら生きてたよ?きっと、おじちゃんの回りの大人がそんな酷い達ばかりだっただけで、きっとやさしい人もいるよ」

「どうして…そう言いきれるのだ?」

「だって!わたしの目の前にいる大人はやさしい人だから!」

「!?」


 クメールは少女の笑顔に心を打たれた。

 そして、初めて自分のやった事に後悔をした気がした。


「我輩は…優しくなど…間違いだらけだ…」

「ううん、こうして、わたしをみまもってくれてる。だから、わたしにとってのあなたはやさしい人…それにね…きっと…まちがいはだれでもするよ…でもね…私は信じてるんだ…やさしい人で溢れる…そんな世界がきっと来るって…」


 少女は笑顔でそう言った。

 その笑顔がクメールにとって、儚く見えたのだ。





 十日目、少女は痩せこけていた。

 もう、意識も朦朧としていた。

 クメールなりにあらゆる手は尽くしたが虚しくも結果は得られなかった。


「…あり…が…とう…おじちゃん…さい…ご…のさい…ご…で一…人…でしな…ず…に…」

「ああ…」


 クメールはな泣かなかった。

 泣けなかった。この子を不安にさせたくは無かった。

 そう、クメールは泣いてはいけなかったのだ。

 せめて、彼女が逝くまでは。


「おじ…ちゃん…きっと…あら…われ…る…よ…おじ…ちゃん…の…よう…な…やさ…しい…おと…な…に…」


 この少女は病が治らない事を知った大人達に見捨てられたのだ。

 もし、クメールが現れなければ彼女は一人でここで死ぬ所だったのだ。


「我輩は…優しくなど……」

「ううん…わたし…に…とっては…そう…なんだよ?」


 少女は笑顔でそう言った。


「貴殿の…名前は…?」

「ああ、そうだ…ね…わたし…のな…まえ…おし…て…なか…た…ね…」


 少女はか細く自分の名前をクメールに告げた。

 そしてー


「あり…が…………」


 少女は静かに生き絶えた。

 その顔はとても…穏やかな表情をしていた。


 それから数日、この家は壊された。

 あんな少女の死にすら悲しめない大人達にクメールは絶望した。

 大人達はあの家族を疫病扱い、人間とすら扱っていなかった。

 クメールは彼女の墓を作り、埋葬した。





「貴殿は…あの時の…」

「?」


 クメールは慧留を見て、昔出会った少女の面影を感じた。


「貴殿は…貴殿は…変わらないでいられると言うのか!?心を…荒まずに生きていけるというのか!?」

「大人になれば…確かに嫌な事とかずる賢い事とか相手を虐げる事を覚えてくる…それは否定しないよ…それでも…変わらないモノだってきっとある」

「それで…死ぬとしてもか?」

「私は…死なないよ…私は…この世界を平和にしたい!皆が…笑い合える様な…そんな…世界に…!」

「絵空事だ!そんな事…!」

「出来る!私は…変わらない!」


 慧留の望みは昔から一つだ。

 争いの無い、差別の無い平和な世界を実現したい。

 皆が…笑い合える様な…そんな世界に…


「貴殿は純粋だ!だが、その純粋さはいつか必ず消える!心は…常に変化を続けるのだ!それを…」

「私は一度過ちを犯した。皆が積み上げて来たモノを壊そうとした」


 慧留は三年前のUSWの事を思い出していた。

 『世界宮殿(パルテノス)』の仕組みを知り、絶望し、蒼達に牙を向けてまで『世界宮殿(パルテノス)』を壊そうとした。

 だが、それは今までこの世界で足掻いて来た者達の思いを無駄にする事だと後で気付かされたのだ。


「………」

「間違いは…誰だってするよ…人も魔族も関係ないよ…それでも…私に…託してくれてる人達がいる…その人達の思いが消えない限り、私は折れない!」

「…!?」


 クメールは慧留の後ろに多くの仲間の幻影が見えた。

 不思議だ…とクメールは思った。

 慧留は…新たな可能性と未来を予感させてくれる。

 あの時の少女の様な儚く、月光の様な少女であった。

 クメールはいつからか…子供に執着する様になっていた。

 それが歪みに歪み、今の様な状態になった。

 そう…クメールは…


「そうか…我輩は…」


ーこの子に託す為に…戦ってきたのだ。


 クメールは…そう…感じたのだ。


「…………」


 クメールが膝を付くと、子供達が全員気絶した。

 舞と美浪も気絶した。

 クメールの術が完全に解けたのだ。


「クメール…」

「そうか…我輩の役目は…もう、とっくに終わっていたのだな…」


 クメールが目を閉じ、そう言った。

 クメールは既に触手も引っ込めていた。

 もう、戦う気は無いようだ。


「貴殿は…不思議な奴だ…貴殿を見ていると…新たな未来を予感させてくれる…そう言えば、貴殿は歳はいくつなのだ?」

「……今日で21だけど?」

「そうか…取り敢えずは…合格なのだ…どこまで君のその甘い考えを貫けるか…見物なのだ…」


 クメールが笑みを浮かべてそう言った。


「聞くのだ、月影慧留。人の心は…弱いのだ…魔族も…同じなのだ…心とは…弱いモノなのだ…本当に貴殿が平和を望むのなら…この脆くて弱い心とどう向き合う?これから…貴殿が向き合っていかねばならないもの…なのだ…ガハッ!?」


 クメールはそう言って、吐血した。


「!?」

「はぁ…はぁ…貴殿が答えを見つけるまで見届けたい所だったが…それももう無理なのだ…我輩は…自分の罪を償わなければならないのだ」


 そう言って、クメールは口を開いた。

 そして、口から大量の霊力が溢れだした。

 霊力は操られていた子供達に降り注がれた。

 子供達の精気が取り戻していった。


「君は…」

「はぁ…はぁ…」


 クメールの髪は真っ白になっていた。


「死んだ者達は生き返らせられない…だが、生きている者達はまだ間に合うのだ…これがせめてもの償いなのだ…まぁ…割りに合ってないのは分かっているがね…」

「クメール…」

「月影慧留…かつて我輩は…貴殿と同じ思想を持つ少女と出会った。あの時、彼女の言葉は戯れ事だと思っていた…だが…目の前に…その戯れ事を堂々と胸を張って言える者が現れた…だからこそ…我輩は…貴殿に託す…あの子が…我輩に託してくれた様に」


 クメールは残り僅かな霊力を慧留に向けて放った。

 慧留は避けなかった。避ける必要など無かった。

 慧留はその霊力を受け取った。

 すると、クメールの過去が鮮明に頭に入り込んできた。

 クメールの思い、願いが…そして、彼の犯した罪が…流れ込んできた。


「我輩のやって来た事は間違いばかりだったのだ…些細ないざこざから…ここまで大きな罪へと変わってしまった」

「君は…憎しみという化け物と…ずっと…」

「いや、我輩は憎しみに負けたのだ…だからこそ…子供達を虐待し続けていた…あの子の思いも無駄にしてしまった。だがようやく…あの子の思いを…無にせずに…託す事が出来た気がするのだ…」

「クメール…あなたの思い、彼女の願い…確かに…受け取ったよ」


 慧留が涙を流しそう言った。

 すると、クメールは笑顔でー


「慧留…貴殿なら…本当に…」


 クメールはそう言って倒れ、力尽きた。

 そして、クメールの亡骸は粉々になって消えていった。


ーようやく、そっちに行けるよ、ニア





「慧留」


 蒼達が慧留の前にやって来た。


「勝ったんだな…」

「勝ったとか…負けたとか…そういうのじゃないよ…」

「慧留?何で…泣いてるんだ?」


 蒼が慧留に尋ねるが慧留は何も答えずに涙を拭いた。


「何でも無いよ、とにかく、すっごく大事なモノを託されたんだ。だからー」


 慧留が何かを言い掛けたが慧留は気を失ってしまった。


「相当なダメージを負っていたからな…無理もない」


 屍が慧留を担いだ。


「これからどうする?」

「とにかく、ここにいる子供達を安全な場所に送った方がいいだろうね」


 プロテアの問いに一夜が答えた。


「ん?ここどこ?」

「あれ?ここは?」

「もう大丈夫だ。俺達が安全な場所に連れていく」

「ホント!?」


 子供達は普通に元気な様だ。


「皆?」

「ここは…一体…」


 後ろから美浪と舞がやって来た。

 どうやら二人とも元に戻った様だ。


「美浪、四宮さん!」

「四宮先生じゃ!」


 舞は蒼にそう言った。


「二人はプラネット・サーカスの一人に操られてたんですよ」

「それで…記憶が…」

「敵は倒したのか?」

「ええ、何とかね。とは言え、私達はかなり消耗したけどね」


 蒼達はかなりの傷を負っていた。

 相手が子供なので本気を出せずにじり貧になってしまった結果だ。

 その上、慧留も力尽きて気を失ってしまっている。

 今すぐにでもここから撤退するのが得策だろう。


「とにかく、これであたし達の役割は終わったわけだね。なら、さっさとトンズラするよ」


 澪がそう言うと皆はコクりと頷き、外へ出ようとする。


「うわわわわわわ!!!まっさかクメールを倒しちゃうなんてスッゴ~い!スッゴ~い!」


「「「「「「「「!?」」」」」」」」


 やけに可愛らしい声が聞こえ、蒼達は驚いた。

 すると、蒼達の目の前に人影が現れた。

 その見た目は大きいセピアの瞳を持ち、桃色のふわふわした髪が特徴のアイドル風の衣装を着た女性がいた。


「誰だ…!?てめぇは…!?」


 屍が少女に問い掛ける。


「プラネット・サーカスの『童話人(グリム)』、第四の席、魔境王女、マーリン・モリガンだよだよ~☆」


 マーリンはそう言って左肩を見せた。確かに4の数字が刻まれていた。


「!?」

「『上位数字者(ハイ・ナンバーズ)』…このタイミングで!?」

「だって君達の戦いをずっと見て見てたしね~。いや~、凄い凄いね~、あのクメールを倒しちゃうなんてさ。いや、それ以上に…」


 マーリンは慧留を見た。


「クメールがまさか裏切るなんてね~。ただのロリコンとショタコンだと思ってたのに…月影慧留…奇妙な女だねだね~」

「おいおい…この人数だよ?こっちは七人、対して君は一人。どう考えても君の方が不利じゃないかな?」

「君、話を聞いてなかったの?言ったっしょ?全部見てたって。君達が弱ってるのも知って知ってるんだよ☆」


 マーリンはウィンクしながらそう言った。

 どうやら、一夜の揺さぶりには引っ掛かってはくれない様だ。

 確かに今は七対一だが、皆消耗しきっていた。

 しかも、相手は『上位数字者(ハイ・ナンバーズ)』だ。

 『童話人(グリム)』の中でも屈指の実力者の一人だ。


「それに…マーリンには時神蒼君を何としても仕留めないといけないいけないからね~。ロキにそう命令されてるし」

「へっ…そうかよ…なら、ここでてめぇを倒してやるよ!」


 蒼は二振りのエンゲリアスを重ねた。


「【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】!!」


 蒼は【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】を発動した。

 全身に黒い衣で覆われており、両手にはχ(カイ)を象った籠手が着いていた。

 背中には黒い氷の翼が生えており、蒼のエンゲリアスである【氷水天皇(ザドキエル)】と【黒時皇帝(ザフキエル)】は融合しており、黒い氷の刀に変化していた。


「【氷黒楽園(アルカディア・メランアリス)】!」


 蒼はマーリンに切りかかった。

 マーリンは左手を蒼に向けた。

 すると、蒼の斬撃はマーリンの一歩手前で止まった。

 まるで、見えない何かに阻まれている様であった。


「【鏡転写(インイカース)】」


 マーリンから衝撃波が放たれる。


「ぐあっ!?」


 蒼はその衝撃波にやられ、吹き飛ばされてしまった。


「嘘…だろ!?」

「フローフルの斬撃を完全に防いだ!?」


 屍とプロテアは驚いていた。

 それもそうだろう。

 蒼は今、【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】を使っているのだ。

 あの蒼の一撃はあのパルテミシア十二神のイシュガルですら容易には止められなかった。

 しかし、マーリンはその一撃をこうも簡単に止めた。


「そんなに驚くことはないないでしょ?ただ君の攻撃をそっくりそのまま返しただけなんだからさ」


 マーリンは至極当然の様にそう言った。


「何…だと…」

「ネタバラししてあげるよ」


 マーリンがそう言うとマーリンの眼の前に巨大な鏡が出現した。


「鏡!?」

「そう、マーリンの能力は鏡。マーリンの鏡は全てを反射するの。全て…ね…」

「ならば、君の周囲全てに鏡を展開すれば絶対防御だね」

「ま、それが出来たら間違いなく私が最強だったよねよね?」

「…だろうね、恐らくその鏡は一ヶ所にしか置けない…でも、目視するのは困難みたいだし、わざわざネタバラしした意味があるのかい?」

「意味は特に無いよ?でも、私の鏡は戦闘が始まると透過能力が消えちゃうんだ。透過と反射の能力は別物だからね。だから、ネタをバラした所で私は有利にも不利にもならならないって訳☆」

「どうやら…ただのバカでは無いみたいだね…」


 流石は『上位数字者(ハイ・ナンバーズ)』だけあり、良い能力を持っている。

 鏡による全ての物理攻撃の反射、非常に厄介な能力である。


「なら、鏡の無い場所に殴り込めばいいだけだ!【時空疾走(クロノス・トレケイン)】!」


 蒼は自身の時間を加速させ、マーリンの後ろに回り込んだ。

 しかし、既にマーリンの鏡は後ろに移動していた。


「な!?」

「悪くは無いけど、ちょっと軽率軽率だね~。後ろは死角。最も狙われやすい場所だよ?そんな所を無警戒な筈無いよね?」


 蒼はまた、マーリンの鏡に刀を当ててしまった。

 すると、再び衝撃波が発生し、蒼を吹き飛ばした。


「クソ…」

「悪いけど、時間は掛けられないよ?蒼君、君は永遠の迷宮で眠ってね☆」

「ふざけるな!【χ(カイザー) μπλεμελαν(ブルメラス) degen(デーゲン)】!!!」


 蒼は氷属性と時属性を融合させた極大の一撃をマーリンに放とうとした。しかしー


「夢の迷宮へ御案内~、【無限迷宮(ラビリントス)】!」


 蒼の四方に鏡が出現し、蒼を飲み込んだ。


「な!?」


 鏡は蒼を飲み込み、そのまま消えていった。


「蒼!!!」


 一夜は蒼の名を呼んだがそこにあるのは虚空だけであった。


「そんな…フローフルは…」

「心配無いよ?死んでないよ?ただ…鏡の平次元に彼を飛ばしたんだよ。その名の通り、無限の平次元だよ?」

「な!?」

「この世界に囚われたが最後、二度と抜け出せない。ただただ死に絶えるのみ…だよ?」

「さぁて…これで一番厄介なのは始末できた…消耗しきってる君達だけなら…取るに足らないね」


 マーリンはそう言って屍達を見つめた。




To be continued

 はい、道化狂乱篇も話が進んできましたね(全然進んでない)。今回の最初の敵であるクメールはとにかく生理的嫌悪を掻き立てるキャラを目指して造りました。更に今回の敵であるプラネット・サーカスの殆どのキャラの名前には由来がありましてずばり、歴史上で悪名を轟かせた(あるいはそうとされる)歴史上人物がつけられています。クメールのモデルは言わずもがなポル・ポトと呼ばれるカンボジアの独裁者です。童話もモデルにしていてクメールのモデルはかえるの王子様です。分かりづらいかも知れませんが(笑)

 まぁ、今回の敵は頭のおかしい奴等というのをコンセプトにしてたのですが…意外と根っからの狂人はいないものですね。やっぱり悪に堕ちるにはほぼ必ず理由があるんだなって。

 まだこのお話は序盤です。まだまだ続きます。それでは!

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