表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第十章】道化狂乱篇
132/196

【第十章】道化狂乱篇Ⅵーloveー

 蒼達は澪の転送魔法により、目的地であるカンボジアの地下牢前に辿り着いた。

 ここは入り口であり、ここから地下牢へと繋がっている。


「ここが…地下牢…」

「なんか…不気味だね…」

「牢屋なんてそんなもんよ」

「さぁ、行こうか…」


 蒼達は地下牢に入ろうとする。

 しかし、入り口から多くの子供達がやって来た。


「な!?これは…」


 子供達は武器を持っていた。


「クメール様の為だ!行けー!!!!」


 子供達は武器を持って蒼達に襲い掛かった。


「【世界逆流(レイウェルティ)】!」


 子供達は慧留の時間回帰により、元に戻り、意識を失った。


「おい…かなりの数だったぞ!?」

「恐らく…まだまだいるだろうね…」

「これだけの人数がいるんじゃ慧留の魔力が持たないわ」

「だからといってガキを殺す訳にも行かねぇ…」

「恐らく、これがクメールの狙いだろうね」


 子供を使った心理的な揺さぶり、それがクメールの狙いだろう。

 あまりに卑劣な手段であった。


「行こう!」


 一夜がそう言うと皆は地下牢へと入っていった。


「ここは…」

「地下牢にしては…広すぎね…どれだけの子供が閉じ込められているか…検討がつかないわ」


 プロテアが驚愕していた。

 この地下牢は城を思わせる様な広さだった。

 しかし、地下牢らしく薄暗く、不気味さが際立っていた。


「おい!また子供だぞ!?」


 屍がそう言うと数十名の子供が現れた。

 子供達は蒼達に襲い掛かった。

 蒼達は素手で対応し、子供達を気絶させた。


「う!?」

「がっ!?」

「かはっ!?」


 いくら子供だからとは言え、数は相当多かった。


「!? フローフル!!」


 プロテアは何かに気付いたのか蒼を押し倒した。

 すると、蒼がさっきいた場所にハート型の光線が放たれていた。

 クメールの洗脳する技だ。


「な!?」

「どうやら…気は抜けないみたいだね…」


 一夜は眼鏡をクイッと上げながらそう言った。

 クメールは蒼達を見ている。

 そして、隙あらば洗脳しようという算段だ。

 少人数で来て正解だったようだ。

 もし、こんな所を大人数で来ていたらそれこそクメールの洗脳術に嵌まって泥沼化する所だった。


「だが、奴の攻撃が来たって事は奴は近くにいる…て事だよな?」

「そうだね~。近くにいる筈だよ。っと…あまり呑気にはしてられないけど」


 澪は杖を盾に子供達の攻撃を凌いでいた。

 更に腹部を思いっきり殴って意識を奪った。


「くっ…」


 澪はクメールの攻撃を察知し、回避した。

 彼の攻撃は防ぐのでは無く、避けなければならない。

 蒼達は防戦一方であった。


「くぅ…!」


 屍は光線を回避したがその隙を突いて、子供達が屍の身体をナイフで切り裂いた。

 屍だけでは無い。一夜やプロテアも同様にダメージを受けていた。

 さっさと慧留の力で彼等を元に戻したい所だがどんどん増えていく子供達を相手に魔力を消費し続ければ慧留の霊力が尽きてしまう。

 このままでは蒼達がじり貧だ。


「くっ…【χ(カイザー)…」

「駄目だよ、アオチー!それを使ったら子供達が死んでしまう!」

「ちぃ!」


 そう、蒼の【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】はその強すぎる力ゆえに子供達を殺しかねない。

 しかし、クメールの光線を完全に無効化出来るのは蒼の【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】と慧留の時間回帰と過去改変だけであるのも事実であり、その力を使わなければ勝ち目は無い。


「だったらどうすれば…!」

「クメールの居場所を探知するしか無いよ!」

「どうやって!?」

「…見つけたよ……!【雷刀千本花(らいとうせんぼんか)】!」


 一夜が壁越しに雷の刀を発生させた。

 すると、クメールが姿を表した。


「な!?何故我輩の位置が!?完全に霊力を消していたし、気配も消していたのに!?」

「僕の眼は少し特別でね」

「ムムム…苗木一夜…ドーラーの言う通り、ヤバイ男だ…これだから大人は汚いのだ!大人は消えろ!大人は死ね!!!!死ね!!!!」


 クメールは憎々しげに一夜を睨み付けた。

 雑魚だと思って舐めていたが意外と厄介な能力を持っていた。


「これで…あいつを叩けば…!」

「それはどうかな?」


 クメールがそう言うと美浪と舞がクメールの前に現れた。

 そして、美浪と舞は蒼達に襲い掛かった。


「ちぃ!」

「くっ!?」


 舞は蒼と澪で対応し、美浪は屍とプロテアで対応した。


「後はあなただけ!」


 慧留がそう言って錫杖を持ってクメールに攻撃を仕掛けた。


「ふっ!甘いのだ!」


 クメールは子供達を盾にした。

 しかも、この子供達は今までの子供達より力が強かった。


「なっ!?」


 慧留は子供達に身体を押さえ付けられた。


「くっ!?」


 振りほどこうとしたが子供達の力が強くて離れなかった。


「これで君を洗脳して終わりなのだ!【寵愛の恋矢(アモーレ・ウッルル)】!!」


 クメールは手をハートの形にして慧留に放った。


「【世界逆流(レイウェルティ)】!」


 しかし、慧留は時間回帰の力は予備動作無し(ノーモーション)で発動出来る為、クメールの力を掻き消した。


「ムムム…月影慧留を洗脳するのは不可能だな…ならば、死ねネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネねええええええええええええ!!!!!」


 クメールは跳躍して慧留と子供達を押し潰そうとした。

 しかし、慧留はニヤリと笑った。


「自分から隙を見せるなんてね!【黒魔剣(グラディウス)】!」


 慧留は虚空に黒い剣を出現させ、クメールの脇腹を貫いた。


「ぐべばばばばばばばばばばばばばばばば!?!?!?!?!?」


 クメールがダメージを受けると子供達の力が弱まり、慧留は子供達を振りほどき、クメールを殴り飛ばした。

 そして、慧留は【世界逆流(レイウェルティ)】で子供達を元に戻した。

 その瞬間、子供達は意識を失った。


「ぐぬぅうううううう~~~~!!!よくもよくもよくも!!!!やってくれたのだぁぁぁあああ!!!!」

「子供を使わないと戦えない大人なんて情けないね。それでも君は大人?」

「黙れ!子供は我輩の愛玩動物なのだ!我輩がどう使おうが我輩の自由なのだ!!!!」

「その歪んだ思想を打ち砕いて上げるよ!」


 慧留は錫杖を構えてそう言った。


「ぐべばばばばばばばばばばばばばばばば……」


 クメールは口からハートの形を象った鞭を取り出した。


「はぶ~、どうやら本気で戦う必要があるのだ~~~!!!」


 クメールはそう言って服を脱ぎ出した。

 上だけでなく下まで脱ぎ出し、パンツ一丁になっていた。


「? 何をするつもり?もしかして…【第二解放(エンゲルアルビオン)】!?」


 クメールは神聖ローマの天使だ。

 天使は全員、エンゲリアスという自身の分身であり、武器を持っている。

 全てのエンゲリアスには二段階の解放が可能であり、二段階目の解放を【第二解放(エンゲルアルビオン)】と言い、絶大な力を誇る。


「エンゲルアルビオン?そんなモノは使わないのだ!否!我輩はエンゲルアルビオンの力を棄て、新たな力を手に入れたのだ!!!!それは崇高で素晴らすいいいい力で到底君達では理解出来ないのだ!!!!!」


 クメールは狂った様にそう言って祈りを捧げる様な姿勢を取った。


「何を…」


「【愛する女神(ラブエロ)】」


 クメールの身体は膨張し、そして爆発した。


「!?」


 バラバラになった身体は再構成された。

 身体は肥満体型なのは代わらなかったが更にブヨブヨした身体になっていた。

 全裸なのは相変わらずで身体中に中途半端に毛が生えていた。

 背中にはハート型の翼が生えており、両眼の下に更に眼が着いており、とにかく生理的嫌悪を掻き立てる様な姿をしていた。


「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 クメールはそんな喘ぎ声を上げていた。

 はっきり言って気持ち悪いの一言であった。


「な…この…霊圧…は…」


 気持ちの悪い見た目だが霊圧は相当なモノだった。


「【愛の嘔吐(ラブ・ラノゼ)】」


 クメールは口から嘔吐物を吐き出した。


「ゲロゲロケロゲロ~~~!」

「うっ!?」


 慧留からすれば気持ち悪い事この上なかった。

 嘔吐物はすぐに気化し、ここら一帯を充満した。


「何だ!?これは…」

「ああ…❤クメール様の臭い…」


 舞の霊圧が上昇した。

 舞の銃弾を蒼と澪は回避したがその瞬間、身体の動きが鈍くなるのを感じた。


「つか…なんだこの臭いは…!?臭いとかそんな次元の話じゃねぇぞ!?」

「っ…とにかく…気持ち悪いの一言だね」

「クメールしゃま~❤」


 舞だけでは無い、美浪やクメールに操られている子供達も力が強くなっていた。


「まさか…クメールに操られてる奴がこの臭いを嗅ぐと力を増して逆に操られてない奴は力が落ちるのか!?」


 屍がそう言った。


「むひひひ…当たりなのだ…!だからこそ…【愛の嘔吐(ラブ・ラノゼ)】なのだ!」

「くぅ…」


 とにかくクメールは気持ちの悪い能力であった。


「我輩の愛を受け入れられない愚か者共が!我輩の愛にひれ伏し!我輩の愛を受け入れるのだ!そうすれば気持ちよくなれるのだ!」

「そんな気持ち悪い快楽なんて御免だね!」


 慧留は鼻を隠しながらそう言った。

 はっきり言って吐き気がヤバイ。今すぐにでも吐いてしまいそうだ。

 それくらい異臭が凄かった。

 これは良い匂いだなんて言う奴は頭がイカれているだろう。


「【愛のヒモ(ラブ・エリーニュス)】!!!」


 クメールの両手が触手になり、慧留に襲い掛かった。


「御出で!【時黒王子(ルキフゲ・ロフォンカレ)】!」


 慧留の全身には黒い喪服で包まれ、背中には骨と漆黒の羽根で構成された翼が生えていた。

 瞳は紫色に変化しており、錫杖の色も黒紫色に変化していた。


「悪魔の力か!堕天した悪しき存在よ!我輩の愛の力で成敗してくれようぞ!」

「君みたいな気持ちの悪い姿が愛の姿だっていうなら私は堕天使でもいいよ!」


 慧留はクメールの元へと突っ込んでいった。


「はああああ!!!」


 クメールは自身の身体から更に触手を出現させた。

 身体中から触手が出現しており、最早クメールの原型を留めていなかった。


「くっ!?」


 慧留は左手に黒い剣を出現させた。

 悪魔が使う魔術、【魔歌(マーニア)】の一つである、【黒魔剣(グラディウス)】だ。

 黒い剣でクメールの触手を切り裂く。しかし、斬っても斬っても触手は再生し、慧留に絡み付いてくる。


「くっ!?」

「フムゥー??この触手に触れた者は必ず我輩の愛を受け入れる筈なのだが???貴殿には愛が無いのかぁぁ~~~?????」


 慧留は触手から離れ、クメールから距離を取った。

 慧留は過去改変の力でクメールの力を受けない過去へと変えたのだ。


「貴殿のその力…邪悪だ!!!危険だ!危険だ!危険だ!危険だああああああああああ!!!!!我輩の愛を悉く阻み!そして消し去るその力は危険だああああああああ!!!!!我輩の愛を受け入れられないのは危険だああああ!!!!」


 クメールは慧留に無数の触手で攻撃を仕掛けた。

 触手は営利な刃物の様になっていた。

 どうやらクメールは自身の洗脳をどうやっても無効化してしまう慧留を確実に殺そうとしている様だ。

 しかし、強度はそこまで強い訳では無いようで慧留の【黒魔剣(グラディウス)】で簡単に切り裂く事が出来た。

 しかし、このままでは拉致が開かない。

 クメールの触手は斬っても斬っても再生してくる。

 この再生能力は異常である。


「くっ!?」


 慧留は子供達に身体を捕まれてしまった。

 慧留は過去改変の力で子供達を元に戻そうとするが元に元に戻らなかった。


「な!?」

「我輩の愛の力は強力になっている。いくら貴殿とて一瞬で元に戻すのは容易では無ああああああい!!!!」


 クメールはそう言って触手を慧留に向かって放った。


「ぐはっ!?」

「ク…メール…さ…ま…」


 そして、子供事、慧留の脇腹を貫いた。


「はははははははははははははははははははははは!!!!!愛の力の勝ちだ!!!!愛は勝つ!愛が全てだああああああああ!!!!!」


 クメールは高笑いをしながらそう言った。


「うっ!?」


 慧留は過去改変の力でクメールの触手から抜け出した。


「がはっ!」


 しかし、慧留の過去改変は連続で使用する事は出来ない上に傷までは無かった事には出来ない。

 慧留は犠牲になった子供達を見つめた。


「なんて事を…子供の命を…」

「フン!我輩がどうしようと勝手なのだ!愛の力があれば全てが可能だ!愛に満たされたまま消えた!あの子達も満足だろう!!」

「ふざけるな…」


 慧留は今までにない程の魔力を迸らせていた。

 今の慧留は間違いなく憤怒に燃えていた。

 慧留は戦いで悲しむ事があっても相手を殺したい程怒りに燃えた事は今まで一度も無かった。

 かつて、蒼達と戦った時もこの世界は変えなければならないという使命感の方が強かった。

 純粋な殺意を迸らせたのはクメールが初めてだ。


「ムムム…この魔力は…」

「あなただけは…許せない…」

「貴殿の子供でもないのに何故そこまで怒る!?意味が分からないのだ!」

「愛愛とか言っておきながらそんな事も分からないんだね…呆れるよ」

「義憤か!?愚かな!貴様の様な者を偽善者というのだ!愛があるからこそ争いが生まれる!全ては愛ゆえにあるのだ!その愛をコントロール出来れば争いは終わるのだ~!」

「君のゴミみたいな理屈はもうウンザリだよ。君は…私が…絶対に倒す!」


 慧留はクメールに接近した。


「舐めるな!」


 クメールは触手を慧留に向けた。

 しかし、そこに慧留の菅田は無かった。

 慧留は既に過去改変の力でクメールの後ろに回り込んでいた。


「【双黒魔剣(デュオ・グラディウス)】!!!」


 慧留の右手の錫杖も黒い剣の魔力を纏っており、二つの黒い剣でクメールを切り裂いた。


「ぐぎゅええええええええ!!!!!??????」


 クメールの身体は真っ二つに切り裂かれた。


「なぁんちゃって?」

「!?」


 クメールの下半身が触手となり再生した。

 更に切り裂かれた下半身が触手となり、慧留に襲い掛かった。


「【下半身の愛(セックス・ラブ)】」


 慧留はクメールに全身を貫かれた。


「がっ……」

「終わりなのだ」


 慧留はそのまま倒れた。


「うっ…」

「怒り…悲しみ…それらの感情の根底にあるのは愛…愛…愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛!!!!!愛なのだ!!!!!!愛があるからこそ、あらゆる感情が生まれるのだ!!!子供は汚れを知らない。愛だけを知っている!だから我輩は子供が愛おしい!!!狂おしい!!!無邪気で可愛く!そして、何より…無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢無垢なのだあ!!!!!子供は嘘を吐かない騙さない!裏切らない!だからこそ素晴らしいのだ!」


 クメールは狂った様にそう言った。

 裏切らない、嘘を吐かない…さっきからクメールは何を言ってるのだと慧留は思った。


「うっ…」


 慧留は再び、立ち上がった。


「まだ立つのか~勃つのか~?????」

「君、もしかして、大人に対してトラウマがあるんじゃないの?」

「………………………………………………は?」

「さっきから聞いてれば君は子供に依存してる様に見えるよ…君は大人を恐れてる」

「貴殿は…触れてはいけない所に触れたのだ?」

「!?」


 クメールの霊圧が急激に上昇した。

 これは図星を突かれた怒りから来るものだ。


「貴殿は…貴殿は…貴殿は本当に我輩の天敵なのだ。その力といい、君のさっきの言葉といい、何故貴殿が我輩の前に立ちはだかった!?」


 クメールは既に身体全身が触手になっていた。

 慧留は身体が思うように動かなかった。


「くっ…身体が…」

「我輩の愛を受けてそうそう動ける筈が無いのだ…我輩の愛で全てを治める…子供だけの世界…嘘の無い世界…裏切りが無い世界…そんな世界を創るのだ…その為なら…どんな事でもするのだ…」


 クメールは無数の触手を使い、慧留に襲い掛かった。


「慧留!」


 蒼は慧留の元へと行こうとするが舞によって阻まれる。

 更にクメールの能力のせいで身体能力が大幅に低下しており、それは澪も屍もプロテアも一夜も同じであった。


「あ~クメールしゃま~」

「呂律が回ってないね…早くなんとかしたいけど…」

「くっ…」


 舞を相手に【χ第二解放(カイザー・エンゲルアルビオン)】は使えない。

 最悪の場合、舞を殺してしまうかもしれないからだ。

 舞だけでなくここにいる子供達も全員殺しかねない。

 蒼は実質力を制限せざるを得ないのだ。


「こっちはあのクソ汚ぇゲロのせいで力は落ちてるのに操られてる奴等は逆に強くなってるからな…」

「本当にここまで生理的嫌悪を掻き立てられる能力は初めてよ」


 美浪と交戦している屍とプロテアがそう言った。

 とは言え、実際にクメールは強い。

 単純な洗脳する能力も強力だが、あの図抜けた再生能力と触手による物理攻撃も相当なモノだ。


「カハッ…」

「クフッ…」


「「「「「!?」」」」」


 突然、美浪と舞が吐血をした。

 その姿を見て、蒼、一夜、屍、プロテア、澪は驚いていた。

 蒼達は美浪と舞には直接ダメージは与えていない、それなのに吐血をしたという事はー


「ヤバイね…あいつに操られると肉体にダメージを受け続けるみたいだよ。速く助けないと手遅れになる…」


 澪の言う通りだろう。

 クメールの洗脳の能力はただ相手を操るだけじゃなく、洗脳した者の力を無理矢理引き出し、肉体にもダメージを与える様だ。


「けど…俺たちじゃあどうにも…一夜!」

「ダメだね…悔しいけど…クメールの洗脳の力は相当なモノだよ…慧留ちゃんの能力を使うか、クメール本体を倒すしか無さそうだ」


 一夜がそう言うという事はそれしか方法が無いのだろう。

 しかし、美浪と舞をかわしつつ、クメールの元へ行くだけでも至難の業なのに更にここにいる無数の子供達も避けて進むというのは無理な話である。

 ここにいる子供達もクメールの力によって無理矢理強化されている。

 彼等は美浪や舞より肉体が脆弱な筈である。

 つまり、美浪と舞より肉体の負担が大きい。


「残念だけど…力尽くで進むしか無いわね」

「プロテア!君は…」

「常森澪、これは戦争よ。子供だからって容赦は出来ない。ここで殺すしか無いわ」

「プロテアの言う通りだな。情けはかけられねぇ」


 プロテアの言葉に屍も同意する。

 彼等とて、望んでそう言っている訳では無い。

 しかし、彼等は過酷な戦争を経験している。

 だからこそ、ここで自分達が負ける訳にはいかないという事を分かっている。


「蒼、どうする?」


 一夜は蒼に問い掛ける。

 蒼は考えた。こういう時、慧留が何というか、蒼には分かっていた。

 あの平和主義の慧留の言う事だ。必ず子供を殺させないと言う筈だ。

 しかし、このままではじり貧になるのは目に見えている。

 更に今、慧留は窮地の状況だ。

 蒼達が助けに行かねば慧留は恐らく死んでしまうだろう。

 だが、慧留は決してそれを望まない。

 蒼は迷っていた。慧留の気持ちを取るか、この戦争を有利に進める方を取るか。

 常識的に考えれば子供達を殺して、慧留に加勢するのが当然だろう。

 だが、蒼はそれが正しい事だとはどうしても思えなかった。

 だからと言って、慧留がやられそうになっているのにこのまま野放しにも出来ない。


「俺は…」

「ダメだよ!!ここは…私がやる!」

「慧留!」

「はぁ…はぁ…」


 慧留は黒い剣でクメールの触手を切り裂いた。


「何を言ってるのよ!?そんな事を言ってる場合じゃ…」

「ダメだよ…プロテア…あいつは…絶対に私が倒すから…」


 慧留の意志は変わらない様だ。

 ならば、蒼の選択は一つである。


「分かった…そっちは慧留に任せる」

「ありがとう…蒼」

「けど、ヤバくなったらその時はー」

「分かってるよ!負けないから!」


 慧留はクメールの方へと向いた。


「ムムムムムムムムムムムムムムムムムムムムム…往生際の悪い奴なのだ…」

「あなたには…負けない!絶対に!負けるもんか!!!」


 慧留はクメールに再び、刃を向けた。


「取り合えずこいつらを縛るぞ!」


 蒼はそう言って舞に接近した。

 舞は蒼の攻撃を銃で迎え撃った。


「【流星神速(スター・ドライブ)】!」


 澪は舞に突進した。


「!?」

「【九頭竜黒縛(くずりゅうこくばく)】!!」


 蒼は霊呪法を放った。

 舞の身体から四角い黒い模様が九ヶ所に発生し、動きが止まった。


「更に…【縛十光輪(ばくじゅうこうりん)】!!」


 澪は更に舞を光の縄で縛った。


「くううううう!!!」


 舞はもがくが霊呪法を二重で受けている為、ほどくのは容易では無いだろう。

 とにかく、これで舞を縛る事は出来た。


「どうします?子供達を相手に霊呪法なんか使えませんよ…」

「分かってるよ。意識を奪うしか無いね」


 蒼と澪は子供達の相手をした。

 一方、屍とプロテアも美浪の相手をしていた。


「くっ…厄介だな…」

「時を飛ばす能力がこれだけ厄介とはね…」


 屍もプロテアも美浪を無傷で捕らえるのに苦戦していた。

 とにかく、美浪の足を止めなければ話にならない。


「行くぞ!」

「分かってるわ!」


 プロテアは【鉄魔王剣(ハディード・セイフ)】を顕現し、屍は両手でプロテアの鉄を使い、鉄の縄を錬金した。

 プロテアは美浪に斬りかかるが美浪はプロテアの剣を白刃取りした。


「屍!」

「分かってるよ!」


 屍は鉄の縄で美浪を縛り上げた。

 ただの鉄の縄であったなら、美浪は簡単に引きちぎっただろう。

 だが、屍がプロテアの鉄を錬金した事で屍の霊力も上乗せされ、美浪を縛る事に成功した。


「くっ!?ううううううう!!!」


 しかし、美浪の膂力は相当なモノであり、屍の縄も引きちぎろうとしていた。


「させねぇよ!!」


 屍は『アルダメルクリー』を取り出し、地面を縄に錬金し、更に強く縛り上げた。


「これで…動きは止められたか…」

「ここまでしてようやく動きを止められるなんてね…敵に回すと心底恐ろしいわね」

「全くだ…っと…安心してる暇は無いみたいだな…」


 屍とプロテアに子供達が襲い掛かって来た。

 蒼も澪もプロテアも屍もかなり消耗していた。

 一夜も子供達を気絶させていっていたが一夜は他の六人より戦闘力が低い為、彼等以上に苦戦していた。


「クソ…子供なんかすぐにぶっ潰して月影を助けたい所だが…」

「仕方無いわ。慧留がああ言ったら聞かないわ。ここは持ちこたえるしか無いわ」

「そうだな…」

「慧留は…不思議な子ね」

「ああ、そうだな。あいつは人を引っ張る力がある。俺や時神とはまた違う力だ」


 そう、屍や蒼も他人を惹き付けるカリスマ性があるがそれは力によるモノが大きい。

 彼等は圧倒的実力で他人を惹き付けていた。

 しかし、慧留の他人を惹き付ける力は二人のそれとはまた違う。

 慧留は綺麗事ばかりだ。なのに、何故か頼りたくなる。

 そんな不思議な魅力が慧留にはあった。


「はぁ…はぁ…」


 一夜はかなり息を切らしていた。

 それはそうだ。一夜は戦闘力が極端に低いだけでなく体力も全然無い。

 相手は子供達である。しかし、その圧倒的数の暴力では一夜も辛い所であった。


「死ね!」

「クソ…!」


 一夜が後ろから子供にナイフで刺されそうになっていた。

 しかし、蒼が子供の腕を掴み、脇腹を殴った。

 すると、子供は気絶した。


「ありがとう、蒼」

「礼はいい。つっても…このままだとキツいな…」

「子供達はどんどん現れる。軽く百人は越えてるよ」

「しかも厄介なのは減る気配が全く無いって所だ…」


 蒼と一夜が背中合わせでそう言った。

 そう、恐らく、この地下牢にはまだまだ沢山子供がいるのだろう。

 恐らく、百や二百では無いだろう。


「それにしても…ここまで子供に対して執着するのは少し引っ掛かるね…」

「どういう事だ?」

「いや、クメールはただ単に子供が好きなだけなのかな?と疑問を持っただけさ」

「あ?あいつはロリコンでショタコンで有名なんだぞ?ただの性的嗜好じゃないってのか?」

「ただの性的嗜好でここまで子供に執着するのは異常だよ」

「その異常者の集まりがプラネット・サーカスだろ?」


 蒼はどうやら、クメールの子供好きは単なる彼の性癖だと思っている様だ。

 だが、一夜はそうでは無いような気がしていた。

 子供が好きなだけで大人達を虐殺して子供だけの世界を創るだろうか?

 いや、そんな事は無い。ただ単に子供好きであるのならばわざわざ大人を虐殺するなどという面倒な事はしない筈だ。

 この国では大人は一切いなかった。

 そこまで徹底して子供だけの国を創り、大人を排除したという事はー


「これは僕の勘だけど…もしかしたらクメールは…大人に対してトラウマがあるんじゃないかな?」

「大人にトラウマ?どういう事だ?」

「クメールは子供に対する執着以上に大人に対する嫌悪感の方が凄かった気がするんだよ」

「そうか?」


 言われてみればそうであったような気がしなくも無かったが蒼はそんな事を一々気にも留めなかった。

 だが、大人にコンプレックスを持って子供に執着しすぎてしまうという話はよく聞く。

 クメールももしかしたらそれに該当するのかもしれない。


「それにしても…一夜が他人を気にするなんて珍しいな」

「いや、クメールは不可解な点が多かったから少し気になっただけだよ」


 一夜はそう言った。

 だが、今は状況があまりよろしく無い。

 蒼達に出来る事は、慧留を信じる事だけだ。





To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ