【第九章】天使輪廻篇ⅩⅩー星降る聖戦ー
慧留と美浪は現在、厳陣のコピーと交戦中である。
二対一の状況にも関わらず厳陣は慧留と美浪を圧倒していた。
「時を操る力…確かに強大な力だがその分扱いも難しい。君達はその力をまだ完全には扱えてはいない」
厳陣はそう言った。
確かにそうだ。慧留は時間回帰と過去改変、美浪は時間を飛ばす能力を持っているがこれらの能力は強大な力だが彼女等は特に美浪は能力を使える様になってから日が浅い為、力を完全には使いこなせてはいなかった。
そうでなくとも時間を操るというこの世界の条理を無視した能力である。
「今の君達は私の脅威にはなり得ない。仮にも私は十二支連合帝国の総帥だ。君達を倒す事など容易い」
「言ってくれるね…偽物」
「偽物とはいえ、本人と変わらない戦闘力がある。君達は…その私を倒せるか?」
厳陣は余裕の表情を崩さなかった。
厳陣は二人とは比べ物にならないくらいの戦いを経験しており、そして、圧倒的な力を持っている。余裕を崩さないのは当然とも言えた。
「【冥界創造】!」
厳陣の頭上から無数の黒色の剣が落下してきた。
慧留の過去改変の能力だ。
「下らん」
厳陣は【炎帝爆殺】で全ての剣を溶かした。
「!?」
厳陣は少し驚いた表情をした。
それもそうだ、厳陣の隙を突いて美浪が攻撃を仕掛けてきていたからだ。
【天時飛】により美浪は時間を飛ばしていた為、厳陣は知らない内に攻撃を受けていた。
「【狼砲】!」
厳陣は美浪の一撃で吹き飛ばされた。
しかし、厳陣はすぐに立ち上がり、そこまでダメージを受けていない様だった。
「油断していた。見事な連携だ。だが、ダメージを軽減させる事など容易い」
厳陣は美浪に殴られる直前、身体を半歩引き、ダメージを殺していた。
時を飛ばした美浪の動きにある程度対応出来る辺り、やはり厳陣は化け物と言える。
「【双黒魔剣】!」
美浪は厳陣の後ろから両手で生成した黒い剣で連続で斬撃を与えた。
しかし、厳陣の後ろから霊力の壁が展開され、攻撃が完全に防がれていた。
「隙を伺ってからの斬撃は悪くないが、場所が良くない。背中は人体の最大の死角だ。そんな所を何も防御を施さずにいると思うか?」
厳陣が使ったのは霊呪法第五百一番【設置盾】だ。
この霊呪法はあらかじめ設置し、設置場所に攻撃をした時に発動するトラップ型の霊呪法だが、それを自身の背中に設置するとは想定していなかった。
「【白天撃】」
巨大な白い槍が慧留に襲い掛かった。
九百番台の霊呪法は一撃で街を吹き飛ばす程の破壊力がある。
慧留はそんな一撃をまともに受けてしまった。
「ぐあ!」
慧留は咄嗟に【悪魔盾】を展開し、ダメージを抑えたが、慧留の額や身体からは血が滲み出ていた。
「さぁ、どうする?」
「はぁ!」
厳陣が問い掛けると後ろから美浪が厳陣を殴ろうとするが、厳陣は美浪の拳を素手で掴んだ。
「!?」
「私が君の拳を掴めたのがそんなにおかしいかな?」
厳陣は美浪に徒手空拳で攻撃した。
厳陣は霊呪法の【四肢蘭風】を使っていた。
四百番台の霊呪法は中級者ならばある程度使える程度の霊呪法だが厳陣の扱う霊呪法は質が全く異なっていた。
仮に同じ能力が使えたとしても能力は個人の資質と鍛練で差が出るモノである。
厳陣は四百番台の霊呪法で格闘戦で美浪を圧倒していた。
これが力の差である。
「ぐっ…」
「この程度か…?」
厳陣は慧留の攻撃にも直ぐ様対応し、慧留を美浪の方へと吹き飛ばした。
慧留と美浪は厳陣が強い事は知っていた。
それでも二人なら何とかなると思っていた。
だが甘かった。厳陣の強さは慧留と美浪の想像の遥か上を行っていた。
「君達は…何の為に戦う?」
「「?」」
厳陣の問い掛けに二人は疑問を浮かべた。
「戦いには理由が必要だ。そうでなくては戦えなくなる」
「それは…」
「………」
厳陣の問いに二人は言葉を詰まらせた。
「理由は無いか?」
「理由はあるよ。蒼達を皆を守る為だよ」
「漠然とした理由だな。はっきり言うぞ。この先は恐らく、いや、確実に戦争になる。それこそ、世界を巻き込むような戦争にな。自分の身近にいる人間を守るなど弱い理由だな」
「それは…」
「そもそも平和とは…平穏とは何だ?四大帝国のやって来た事は何だ?それは恐怖による、武力による支配だ。四大帝国以外の小国はどうだ?治安は悪く、奪い合い、争っている。お前達はそんな人々や魔族を全て助けようと言うのか!?」
厳陣はそう言った。
厳陣が言っている事は恐らく正しいのだと慧留は思った。
確かに四大帝国以外の小国はあまりいい話は聞かない。
治安は不安定だし内乱も日常茶飯事、四大帝国による武力による制圧。
四大帝国が比較的平和でいられているのは小国の犠牲も少なからずあるのだろう。
「そんなの…分かんないよ…けど…私は信じたいんだよ!人の…魔族の可能性を!平和な世界を創れるって!」
「そんなモノは幻だ。実際、四大帝国以外の小国は全て、プラネット・サーカスの軍門に下った。四大帝国に復讐する為に。貴様ら四大帝国の今までやって来た悪行のツケが回ったとも言えるな」
「私は…世界の事なんか分からない…けど、話し合いをすれば…」
「話せば分かる…か…なら何故戦争が起こるのだ?理由はいくつもあるな。相手が気に入らない、自分の居場所を守る為…色々あるが…戦争を快楽としている者がいるのも事実。そんな奴等にも話し合いでどうにかするつもりなのか?」
「…っ!」
そう、話せば分かる…それは大半の人物や魔族にだって言える事だろう。
しかし、戦争が好きな者、戦争無くしては生きられない者がいるのもまた事実。
そんな者達が話し合いなど到底出来ないだろう。
それだけではない、小国は少なくとも大国である四大帝国に多くの犠牲が払われている。
許せる筈が無い。だからこそ、小国はプラネット・サーカスに下ったのだ。
四大帝国に復讐をする為に。
「もういい、霧宮美浪、君はどうなんだ?君は…何の為に戦う?」
厳陣は美浪に問い質した。
美浪は先程から一言も話していなかった。
美浪は慧留よりも戦う理由を見出だせていなかった。
今はただ、自分が跡土の仲間になりたくない、一夜達と共にいたいという理由だけで戦っている。
そんな弱い理由でこれから先、戦っていけるのか、美浪は焦燥を抱いていた。
「私は…自分の居場所を守りたくて…戦っています」
「そうか…ならば、何故そこまでして戦う?見たところ、時神蒼は無事だ。誰も死んではいない」
「それでも、一夜さん達は戦ってます!なのに…」
「使命感か…下らん!そんな理由で戦えるとでも思っているのか!?」
厳陣は美浪を叱責した。
そうだ、美浪は仲間が戦ってるから…その使命感だけで戦っている。
戦う理由を見出だせていないのだ。
慧留は曲がりなりにも戦う理由を見出だしている。
しかし、美浪は周りに流されてばかりで自分の意思で戦えていない。
「それは…」
美浪は厳陣に自身の核心を突く言葉を言われ、更に動揺していた。
美浪は分からなくなっていた。
確かに美浪は跡土の仲間にはなりたくない、だが、それだけだ…それに何の意味があると言うのだ…
美浪は義務感だけで戦ってきた。それは紛れもない事実だ。
美浪はその真実を突き付けられ、下を向いていた。
「美浪ちゃん!」
「!」
「あの人の言葉に惑わされないで!美浪ちゃんにはちゃんと戦う理由がある筈だよ!」
「ううん、私はやっぱり、あの人の言う通りで」
「そんな事無い!美浪ちゃんは自分で記憶を取り戻そうとした!確かにきっかけは私だったのかもしれない…けど!そこから記憶を取り戻そうとしたのは…紛れもない美浪ちゃんの意思だよ」
「!?」
慧留の言葉を聞き、美浪はハッと顔を上げた。
厳陣は何故かどことなく、嬉しそうであった。
「戦う理由なんて…そんなに難しくないよ!自分が信じるモノの為に戦う!私は…それだけで十分だよ!」
「貴様は…それだけで信じられるのか!?また、裏切られるかもしれないぞ!それでも…!」
「例え裏切られても…それでも信じぬかなきゃならないんだよ!私は何回…何百回裏切られてもそれでも人を…魔族を…信じるって決めたんだ!三年前から!ずっと!だから…私は美浪ちゃんを信じる!」
慧留はそう断言した。
慧留は三年前のUSWの一件で蒼達が信じられなくなり、いや、もっと言うと世界そのものが信じられなくなり、蒼達と敵対した。
しかし、蒼は…一夜は…屍は…美浪は…皆は…慧留を信じてくれた。
戦いながらも、迷いながらも、命懸けで慧留を助けてくれた。
だから慧留は決めたのだ。信じると。
蒼を、一夜を、屍を、プロテアを、美浪を十二支連合帝国の仲間達、USWの人達を、ヘレトーアの人達を、神聖ローマを、皆を、世界を信じると、そう決めたのだ。
「理由なんか何でもいい!自分にとって納得の行くものなら!なんだっていい!私は…最後まで諦めない!信じ続ける!」
慧留がそう言うと美浪はどこかスッキリとした様な顔をした。
どうやら、美浪の方も吹っ切れた様だ。
「そうですね…慧留ちゃん…私は…一夜さんに助けられて…そこから多くの仲間に出会った…」
美浪は過去を思い出していた。
一人だった美浪を優しく引き取ってくれた一夜、そして、そこから出会った多くの仲間達。
一夜がいたから、美浪の世界は広がったのだ。
その一夜の為に、そして、それにより作られた居場所の為に戦う。
これは義務感なんかじゃない。美浪の心からの意思だ。
「だから、私は一夜さんが作ってくれた…居場所を守る為に戦う!戦う理由なんて…それだけで十分です!」
美浪は決意の眼差しでそう言った。
厳陣は何故か少し嬉しそうな顔をしていた。
「そうか…ならば…私も全力で貴様らを始末するとしよう」
厳陣はそう言って空中に浮遊した。
そして、厳陣は両手を上げた。
すると、厳陣の両手から炎と岩が出現した。
炎と岩は融合し、巨大な炎の隕石となっていた。
「【炎岩隕石】」
今までとは比較にならない破壊力を秘めていた。
こんなモノが落下すればトウキョウ所かその数十倍の範囲で被害が出るだろう。
「【冥界創造】!」
慧留は隕石を消し去ろうとするが駄目だ。
改変する容量がデカ過ぎて慧留の今の力では改変しきれない。
「はあ!」
美浪は隕石に突っ込み、両手で思いっきり殴った。
しかし、隕石はビクともせず、そのまま落下していくばかりだ。
「ぐううううう!!!」
美浪は必死で踏ん張るがやはり隕石は落下を続けていた。
慧留は【双黒魔剣】で美浪と共に隕石を止めようとした。
二人掛かりでようやく隕石の落下が止まった。
後はこの隕石を壊すだけだがなにせ物量がとんでもない為、簡単には壊せなそうだ。
「負けない…!絶対に!」
美浪はそう叫んだ。
そう、美浪は負ける訳にはいかないのだ。
皆を守る為にも、自分の居場所を守る為にも。
「私達は…絶対に勝つ!」
慧留はそう言って隕石の時間を巻き戻した。
【世界逆流】により、時間を巻き戻していたのだ。
しかし、これだけの物量を完全に巻き戻すのはほぼ不可能だ。
出来たとしても落下するまでは保たない。
だから巻き戻しで物量を少しでも小さくし、それを破壊する。
「【狼砲】!」
「うああああああああああ!!」
美浪と慧留は隕石を破壊した。
隕石は粉々となり消え去った。
「ほう、やるな。だが、二個目はどうだ?」
しかし、厳陣は隕石をもう一つ作り出しており、二人に再び迫っていた。
「うああああああああああ!!!」
「きゃあああああああああ!!!」
慧留と美浪は炎の隕石に飲み込まれた。
隕石が落下し、周囲は大爆発を起こした。
「何だ?あれは!」
「急がないとやばそうだね!」
「くそ!間に合ってくれ!」
蒼と一夜とプロテアは慧留達がいる辺りに隕石が落下していたのが見えた。
「悪い一夜!先に行く!プロテアは一夜を頼む!」
「分かったわ!」
「ああ!速く行ってやってくれ!」
蒼はそう言って時間を加速させ、急いで慧留のいる方へと向かった。
「さて…どうなったか…」
周囲はとてつもない熱気と溶岩が発生していた。
二個目の隕石は一個目の隕石より威力が出なかった為、被害が少ないがそれでも二人を仕留めるには十分だった。
「まだ、人の形を保てているとはな…」
厳陣がそう呟いた。
厳陣の目の前で慧留とプロテアは倒れていた。
全身が焼け爛れており、倒れていた。
「うっ…」
慧留が起き上がろうとするが身体を起こせない。
美浪は完全に気を失っていた。
だが!幸いにも美浪は死んではいなかった。
「二人ともまだ息があるのか…しぶといやつらだ」
「随分手こずってる見たいね」
現れたのはプロテアであった。
だが、厳陣の方にいるという事はあのプロテアはコピーだろう。
「思ったより骨のある奴等だったのでな」
「そんな…ローグヴェルトは?」
「ああ、あの男はどこかに消えていったわ」
どうやら、ローグヴェルトは無事のようだ。
安堵する慧留だがそんな事をしている場合では今はない。
「止めは私が指すわ」
「まぁ、それでいいだろう。私は時神蒼を探すとするよ」
厳陣がこの場から去ろうとし、慧留は鉄の剣を生成して二人に近付いていった。
「悪く…思わないでね」
プロテアが慧留に斬りかかろうとしたその時ー
「【氷魔連刃】」
プロテアの地面から無数の氷の刃が出現した。
「!?」
プロテアは即座に慧留達から離れた。
厳陣もその事に気が付き、プロテアの方へと向いた。
「蒼…良かった…」
慧留がそう呟いて気を失った。
現れたのは蒼であった。
蒼はとてつもない怒りの形相を浮かべていた。
「てめぇら…」
「探す手間が省けたわね」
プロテアがそう言いながら自身の時間を加速させて蒼に肉薄した。
しかし、蒼は即座に【χ第二解放】を発動させ、プロテアの剣を防いだ。
「【氷黒楽園】」
「【時空減衰】!」
プロテアは蒼の動きを遅くする。
しかしー
「【時間氷結】!」
プロテアの【時空減衰】の機能を停止させ、蒼は普通の速度に戻っていた。
「な!?」
【時間氷結】は物質の機能停止だけでなく概念にも効果がある。
プロテアの時間の加速も減速も蒼の前では無意味であった。
「【氷菓神刀】!」
蒼はプロテアの身体を切り裂いた。
「バカな…」
プロテアは一撃でやられた。
身体は粒子となって消え去り、紙人形のみが残った。
「ほう…」
僅か数秒でプロテアが蒼によってやられた。
蒼の力は想像を遥かに越えていた。
「始めようぜ…一瞬で…終わらせてやる」
蒼がそう宣言した。
「一瞬で…終わらせるか…大きく出たな…時神蒼…」
「さっきのプロテアの偽物と戦って分かった。やっぱりお前らは本物より弱いってな」
「何だと?」
「お前らにあるのはあくまでも情報と能力だけだ。それを使いこなせるだけの力は無い」
人によって得た情報、価値観、あらゆるモノが違っている。
その情報や能力を手に入れたとしてもそれを使いこなせるかどうかは別問題だというわけだ。
「ほう…ならば…見せて貰おうか!」
厳陣は【炎帝爆殺】で蒼に攻撃を仕掛けた。
しかし、蒼は右手で厳陣の炎の剣を掴んだ。
「!?」
掴んだ炎の剣は爆発する事無く凍り付いた。
厳陣は流石に驚愕の表情を浮かべていた。
防いだのならば…回避出来て…いや、本来なら防ぐ事も回避する事も出来ないだろうがそれでも防いだり回避したりするのは分かる。だが、受け止めた。
「何を動揺してんだよ?受け止めただけだぞ?」
「調子に乗るな!」
厳陣は蒼から距離を取った。
「今のは瞬間的に君の力が私を上回っただけに過ぎない!そんな事が起きぬよう、霊呪法で押し潰してやる!」
厳陣はそう言って霊呪法の詠唱を始めた。
「斬斬と鳴り響く慟哭、暗黒へと染まる虚無の器、溢れだし、滲み出し、安寧を脅かす、月輪には闇の傀儡、日輪には聖なる鼓動、眠りを妨げるは恐怖、目覚めを妨げるは憂鬱、全てを滅し、罪を縫い付ける!霊呪法第九百四十番!【黒神蓮華】!」
蒼の周囲の半径十メートル程に黒い巨大な黒い蓮の華が出現した。
「完全詠唱の【黒神蓮華】だ!貴様の身体はその華に飲み込まれ、影も形も残るまい!終わりだ!時神蒼!!!」
蒼は蓮の華に身体が飲み込まれていく。
しかしー
「!?」
蒼は右手で蓮の華を払い、左手の黒刀で華を切り裂いた。
すると、蓮の華は全て凍り付き、粉々に砕けた。
「な…そんな…バカな…」
厳陣は後退さった。
蒼はたったの二撃で完全詠唱した九百番台の霊呪法を打ち砕いた。
厳陣は動揺が走っていた。
そう、これは恐怖だ。
「本物の常森さんなら…これくらいの事じゃビビらなかったろうな…アンタは所詮、偽物だ」
蒼が一瞬で厳陣に間合いを詰め、左手の黒刀で切り裂いた。
厳陣は再び、蒼から距離を取った。
「はぁ…はぁ…」
「アンタの力ってのは…その程度なのか?」
「黙れ…【炎岩隕石】」
厳陣は慧留と美浪に引導を渡した一撃を蒼に放った。
上空から炎の隕石が出現し、蒼に襲い掛かる。
「!?」
蒼は流石にこの一撃はヤバイと思い、上空へと飛び上がった。
そして、蒼の黒刀には水を帯びており、隕石に思いっきり斬撃を与えた。
「【水月天剣】」
蒼が炎の隕石を切り裂くと隕石は真っ二つに切り裂き、粉々に散った。
「【炎岩隕石】まで…」
最早、勝負になってはいなかった。
終始蒼が厳陣を圧倒していた。
ここまで蒼が圧倒するのは勿論、蒼が強いのもあるがそれ以上に彼は厳陣のコピーでしかなく、実戦が足りていない。
本物の厳陣であったなら蒼にここまで圧倒される筈が無いのだ。
「まだだ…もうすぐ…夜が来る…」
厳陣が言う通り既に日は暮れており、空には綺麗な満月があった。
「何をするつもりだ?」
「【狂月光】!」
月が赤くなり、蒼はその月を見てしまった。
「貴様は月を見た!この赤い月を見れば貴様は死ぬ!」
そう、厳陣の【狂月光】で赤くなった月を見ると相手を幻術世界に引きずり込み、殺す。
「能力にさえ気が付けばんなもん喰らわねぇよ」
蒼はそう言って厳陣の前に肉薄していた。
「バカな!?どうやって…!?」
そして、厳陣は気が付いた。
蒼は月を見てはいない。
眼を凍らせていたのだ。
「終わりだ!【氷菓神刀】!」
蒼は厳陣を切り裂いた。
そして、厳陣の身体は凍結した。
厳陣の身体は粉々に砕け散り、光の粒子となって消えた。
残っていたのは人形の紙人形だけであった。
「蒼!」
「フローフル!」
丁度蒼と厳陣の決着が着いたとき、一夜とプロテアはやって来た。
「一夜、プロテア」
「分かってる!すぐに慧留ちゃん達を!」
一夜は慧留と美浪と屍を運んだ。
「全員、やられてしまったネ」
跡土は溜め息混じりにそう言った。
仮にも自分で造った作品だ。
壊されれば多少なりとも傷心するものだろう。
これで、十二支連合帝国に送り込んだコピー達は全滅した事になる。
「やれやれ…こうなったら…十二支連合帝国にはミーと同じ痛みを受けて貰わないといけないネ」
美浪と会ったらここから消えようと思っていたが気が変わった。
これだけ多くの自分の造った作品が潰されたとなると跡土も怒りを覚えずにはいられなかった。
芸術者の性格は気まぐれで繊細なモノなのだ。
跡土は歩き出した。そして、マンホールから地上へと出た。
そう、跡土は今まで地下に潜伏していたのだ。
ビルの上では目立つので地下を選択したのだ。
だが、もう隠れる必要は無い。
「さて…逆襲、しようかな?」
蒼達は治療を終え、四神天城に来ていた。
そこには厳陣と黒宮だけでなく、舞、湊、澪もいた。
そして、蒼達は全ての事情を厳陣達に話した。
擬流跡土について厳陣達から聞き出したかったからだ。
「成る程…にわかには信じがたいが…」
「つまり、苗木さんなら擬流跡土の造ったコピー人形を見破れる…という訳ですね」
厳陣と黒宮が納得したようにそう言った。
「それで…擬流跡土ってのは何者なんだ?」
「擬流跡土とは天使大戦で多くの戦果を上げた人物であり、自国である十二支連合帝国の人間や魔族を大量虐殺した事でも知られる手配書S級犯罪者です。死んだと思っていましたが…」
「確かにこれが擬流跡土の仕業なら納得ですね」
「どういう事だよ?湊?」
湊の言葉に蒼が質問を返した。
黒宮が擬流跡土の事を知っているのは当然として何故湊が彼を知っているのかは疑問だった。
「擬流跡土は天才陰陽師でこの国きっての最強の陰陽師なんだよ。これほど精巧な式神を造れるのなんて彼くらいだよ」
「ちょっと待って、陰陽師って事は人間なの?」
「はい、そうですよ。擬流跡土は人間です。確かにプロテアさんが疑問に思うのは当然かもしれないですね。僕だってさっぱりです。イシュガルドでも無いのにこんなに長生きしてるなんて…」
擬流跡土は人間、それは間違いない。
しかし、それなら疑問が残る。それは擬流跡土は少なくとも二百年以上生きている事になるのだ。
身体の作りが特殊なイシュガルドはともかく、それ以外の人間がこれ程までに長生きするのはあり得ない。
何らかの理由がある筈だ。
「神とか悪魔とか…契約してるんじゃねーか?アラルガンドもそうだっただろう」
アラルガンドは人間でありながら蒼に倒されるまでの五百年間生き続けていた。
その理由は天使ケルビエルと契約していたからだ。
「それはどうかな?確かに考えられなくは無いんですけど何となく違う気がするよ」
「? どういう事だい?」
「契約をした場合、契約したモノの霊力、あるいは魔力が感知できるモノなんです。けど、この式神からは感じるのはあくまでも人間の霊力ですよ。可能性は無くは無いですけど…」
一夜の質問に湊が簡潔に答えた。
「なら、彼はどうやって…」
「謎は深まるばかりだね~。いや~、参った参った」
「そんな呑気な事を言っとる場合では無いがの」
澪がお手上げ宣言すると舞はそんな澪に突っ込みを入れた。
しかし、澪がお手上げ宣言するのも無理も無い話ではあった。
擬流跡土の事はあまりにも謎過ぎる。
S級犯罪者である事以外は分からない。
そもそも擬流跡土については陰陽師の間ですらそこまで知られていない、天才陰陽師であり、大量に虐殺をした事くらいしか伝わってはいなかった。
それ以外は全て、謎に包まれている。
「いずれにしても…彼は本物の天才ですよ」
「湊がそんな素直に言うって事は相当なんだろうな」
「………」
美浪はさっきからずっと黙っていた。
そう、美浪は誰にも打ち明けていない事がある。
それは自分が二百年の妖で一度死んで生き返っているという事だ。
この事は厳陣達には愚か、一夜達にすら美浪は話していなかった。
いずれは話さなくてはならない事は分かっているのだが、話すタイミングが無いのと何より、話す事が怖い。
「美浪君?」
一夜が美浪の名前を呼ぶ。
「あっ、いえ、何でも無いですよ」
「…ならいいんだけど」
一夜は明らかに美浪の様子がおかしい事に気が付いていた。
「まぁ、とにかく、擬流跡土はこの国のどこかに潜伏しているのは決定的ですね。そして、コピーばかり寄越している所、本人の戦闘力は恐らくそこまで高くない事が予想出来ます。最悪逃げられている可能性がありますが…捜索隊を出しましょう」
「顔は分かってるのか?」
「ええ、確か手配書に乗って…ありました!」
黒宮は手配書を出し、それを蒼達に見せた。
見た目は右半分が黒髪、左半分が白髪であり、瞳は紫色の三白眼で花柄の和服を着ていた。
「こいつが…擬流跡土」
「………」
美浪はこの顔に見覚えがあった。
やはり、そうだ。あの時の男だ。
美浪を生き返らせたと思われるあの男だった。
疑念から確信へと変わってしまった。
美浪は自分と跡土の関係を言うしか無かった。
「なんか…不気味な奴だな…まぁ、当たり前かもしんねーけど」
屍がそう呟いた。
確かに屍の言う通り、かなり異質な雰囲気は漂っていた。
「捜索隊には苗木さんにも加わって貰います。現状、偽物を区別出来るのはあなただけです」
「分かりました」
黒宮がそう言うと一夜はコクりと頷いた。
「ねぇ!何あれ!?」
澪がそう言って窓の空へと指差した。
すると、空に浮いている人影があった。
しかし、ここからは高すぎてどんな顔かは見えなかった。
「外へ出た方が良さそうだね」
一夜がそう言うと一同は全員外へ出た。
To be continued




