【第九章】天使輪廻篇ⅩⅨーShadow and Light ー
厳陣と美浪は今の所はほぼ互角の戦いをしていた。しかしー
「くっ…」
「どうした?それで終わりか?」
余裕が無いのは間違いなく美浪の方であった。
美浪は身体に霊力を纏わせ、更に時飛ばしの能力を使っているというのに互角だ。
対して厳陣は自身の能力をあまり晒していない。
これは単純な力の差であろう。
厳陣は四大帝国の長だ。恐らく、世界的に見ても厳陣の実力は十本の指に入る。
逆に言えばそんな化け物を相手に健闘している美浪が凄いとも取れる。
「君は……!?」
「!?」
厳陣は急に身体を震わせた。
美浪は少し驚いたが厳陣はすぐに元の状態へと戻った。
と、思われていたがー
「やあ、久し振りだネ、みなみ」
「? あなたは…常森総帥の偽物では無いですね」
「ああ、ミーはこいつらを造った者だネ。そして…君も…」
何者かが厳陣のコピーの身体を概して美浪と会話をしていた。
「あなたの名は?」
「ミーかい?ミーの名前は…擬流跡土。ちょっとした有名人…と言った所かネ」
「あなたは何の為にこんな事を?」
「そうだネ…仲間の手伝いをしていたんだネ。だが、その仲間はもう死んだ。だからミーはこのまま退散しようと思ったのだが…そんな時に君がいた」
「だから…一体どういう…」
「君は…ミーが生き返らせた…そう言ってるんだネ」
「な!?」
美浪は跡土の言葉を聞き、衝撃を受けた。
生き返らせた?つまり、美浪は一度死んで…
「…まさか…あの炎の中にいた人って…」
「何だ…覚えているネ。そう、あの時、ミーは君を生き返らせた。だが、どういう訳か、君が息を吹き返した瞬間、君は何処かへ消えてしまったネ。まさか、生きていたとはネ」
美浪は跡土の喋り方に聞き覚えがあった。
あの特徴的な喋り方、忘れようが無かった。
慧留の力で過去の自分の記憶を断片的に見たのだがその時と喋り方が全く同じであった。
「君が何故あの場から姿を消し、今、ここにいるのかは分からないが…ただ一つ言えるのは君はミーが二百年前の天使大戦の時に生き返らせた…それは確実だネ」
美浪は黙り込んだ。
跡土の話が本当なら美浪は二百年前の人物という事になる。
しかし、美浪は思った以上に冷静であった。
「それで…何が言いたいんですか?」
「ミーの軍門に下って欲しいネ」
跡土ははっきりとそう言った。
つまり、跡土は美浪をこちら側に引き込もうとしているのだろう。
「お断りします」
「はぁ…やっぱりか~」
跡土はどうも美浪が自身の誘いに断る事は想定の範囲内だった様だ。
「私にはもう、仲間がいます。あなたには…従いません」
「そう言うと思ったネ。じゃあ、しょうがない。自分で生き返らせた魔族を自分の手で殺すなどなるべくしたくは無かったが…ここで死んで貰うネ!」
そう言って跡土の意識は厳陣のコピーから完全に消え去った。
「そう言う事だ。貴様はここで死んで貰う」
「どうやら自分が意識を乗っ取られてた事は覚えてるみたいですね」
「ああ、私は…私達は跡土から造られたからな。跡土と意識の共有が出来るのは当然だ」
「そうですか」
なら、何故美浪は跡土に意識を乗っ取られなかったのか。
美浪を自分の軍門に下したいのなら美浪を直接あやつればいいだけだ。
跡土は美浪を生き返らせたと言っていた。
これはあくまで美浪の推測だがー
「あくまで意識を乗っ取れるのはコピーだけで生き返らせた者の意識までは乗っ取れない」
「ほう、中々鋭い」
「いいんですか?主の能力のネタばらしをして」
「それくらいバレた所で大した問題では無いからな」
厳陣はそう言った。
やはり、美浪の推測は当たっていた様だ。
「貴様は…自身を生き返らせた恩人より今の仲間を信用するというのか?」
「例え恩人だろうと私の今の居場所を襲ってる時点で私は容赦しません」
「成る程…君は…もっと優柔不断な人物かと思ったが…思ったよりはっきりとした自分の考えを持っているのだな」
「その口振りからして、思考や考え方もオリジナルと同じ様ですね」
「ほう、これは一本取られた」
そう、厳陣の今の口振りからして美浪の事をある程度見てきたから言える事だ。
恐らく、思考や知識も本人とほぼ同じの様だ。
「あなたは…擬流跡土に何故従っているのですか?」
「創造主に従うのは当然だろう?」
「そこは本人と違いますね」
「そりゃあくまでコピーなんだ。何から何まで同じな訳があるまい」
「コピーだから機械的なのかと思ったら…思ったより人間臭いんですね」
「貴様からそんな言葉が出るとはな」
このまま話し続けてもただの平行線だ。
一つ言えるのは美浪は跡土には絶対に従わないし、厳陣のコピーは跡土に従うという事だ。
「私は…負けない!」
「!?」
厳陣の後ろから慧留が攻撃を仕掛けた。
厳陣は攻撃を難なく防ぎ、慧留を吹き飛ばした。
「う!?」
「そうか…抗うか…ならば…来い」
厳陣はそう言った。
「ちっ!」
「影さえ何とかすれば勝てると思いましたか?」
スープレイガと黒宮は戦い続けていた。
スープレイガは自身の光の能力で黒宮の影を封じていたのだが、黒宮はあの手この手で影を作り出し、スープレイガを圧倒していた。
「影が無ければ作ればいい。私は一応、オリジナルの記憶と経験を全て持っています。戦い方は色々あるのですよ」
「そうらしいな」
黒宮はそう言って足を蹴った。
そこから発生した土煙の影からスープレイガに攻撃を仕掛けた。
スープレイガはそれを回避するが黒宮の攻撃は続く。
「まだまだ」
黒宮は自身の左手を軽く切って血飛沫から影を出現させた。
「【影棒】」
黒宮の影は棒状になり、スープレイガの身体を貫いた。
「がはっ!?」
スープレイガは吐血をした。
しかし、スープレイガは影の棒を引き抜き、黒宮に突撃した。
「だから無駄ですよ」
黒宮は影に隠れた。
「【影隠れ】」
「ちぃ!」
「君は接近戦を得意とする悪魔だ。ならば、距離を取って着実に倒して行けばいい」
「簡単に言ってくれるじゃねーか!」
スープレイガはどこから聞こえるか分からない黒宮の声に憎々しげに呟いた。
確かにスープレイガは接近戦を得意とする。
遠距離で攻撃をした方が得策だろう。
スープレイガが一方的に有利と思えたこの戦いだが黒宮にも利があった様だ。
とは言え、それを差し引いても能力の相性はスープレイガが圧倒的に有利だ。
にも関わらず、黒宮がここまでスープレイガを圧倒しているのは戦闘経験と単純な力の差であろう。
「さぁ?どうする?」
黒宮がスープレイガを煽る様にそう言ってくる。
まぁ、実際、挑発もしているのだろう。
スープレイガも流石にあんな見え見えな挑発に乗るほど短慮では無い。
戦いにおいて最も不味い事は冷静さを欠く事だ。
「【光刃刀】!」
スープレイガは四肢に光の刃を展開した。
そして、光速で動き、黒宮に攻撃をした。
「ちぃ!」
「攻撃を防ぐのは容易ですよ」
「【光銃弾】」
スープレイガの四肢から光の光弾が発射された。
「な!?」
黒宮は不意の攻撃でガードしきれず光弾が直撃した。
更にスープレイガは右手の鉤爪で黒宮を切り裂いた。
黒宮は距離を取ろうと上空へと逃げるが決してスープレイガは黒宮を逃がさなかった。
「はぁ!」
スープレイガは黒宮の頭上に先回りし、両手でスープレイガを叩き落とした。
「ぐっ!?」
「【光刃刀】!」
スープレイガは巨大な光の爪を黒宮目掛けて飛ばした。
巨大な爆風が発生した。
スープレイガは地上へと降りた。
「流石にくたば…」
スープレイガが言い掛けた途端、スープレイガの周囲が黒く染まった。
「何だ…これは!?」
「【影領域】」
黒宮が立ち上がりながらそう言った。
「この世界はあらゆる光を通しません。とは言え、あなたの光までは無効化は出来ませんが…この領域内全てが私の攻撃範囲なのですよ!」
黒宮はそう言って地面に手を置くと、黒宮は影に身を隠した。
そして、スープレイガの後ろから影の刀が飛んできた。
スープレイガは刀に背中を刺された。
「な!?」
スープレイガの光で影はすぐに消えたがスープレイガの周囲から影の刀が無限に飛んでくる。
「くっ!?」
スープレイガは刀を防ごうとするが数があまりにも多い、全身に刀が突き刺さっていた。
スープレイガは影に殴り掛かったが影はビクともしなかった。
更に影から影の刀が出現し、スープレイガの身体を貫く。
「ぐあああああ!!!」
スープレイガは遂に倒れてしまった。
『ふふふ…終わりですか?まぁ、あれだけの攻撃を受けてまだ形を保っているだけでも大したモノですが…』
黒宮はどこからかそう言ってくる。
黒宮は影に隠れている為、スープレイガは彼の居場所が掴めなかった。
「ぐっ…」
『おやおや、まだ息がありますか?ならば今度こそ徹底的に叩き潰しましょう』
黒宮がそう言うとスープレイガは影に身体が引きずられ始めた。
黒宮は影でスープレイガを圧殺するつもりだ。
スープレイガは既に【悪魔解放】が解除されていた。
元のスープレイガに戻っていた。万事休すである。
「おいおい、俺がいつ敗けを認めたよ?」
スープレイガがそう言って、剣を影に突き刺した。
「わざわざ俺を影に引きずり込もうとしたのが失敗だったな!【王魔光輝】!」
「!? しまっ!?」
黒宮は今までで一番の驚愕の表情をした。
影の内側から光輝き、【影領域】全てにスープレイガの光が支配する。
【影領域】が解除され、黒宮の姿が露になった。
「くっ!?」
先程の光の影響で黒宮の身体は焼け焦げていた。
スープレイガは黒宮の隙を見逃さなかった。
スープレイガは黒宮に接近した。
黒宮のコピーは本体と違って超速再生は使えない。
「【光刃刀】!」
スープレイガは黒宮の身体を真っ二つに切り裂いた。
「が…見…事です…」
黒宮の身体は粒子となって四散し、人形の紙人形になった。
「くっ!」
スープレイガは片膝を付いた。
危なかった。もし、本物と同じで超速再生を持っていたらスープレイガに勝ち目は無かっただろう。
相性はスープレイガが圧倒的に有利だった。
それにも関わらずスープレイガは終始黒宮に圧倒されていた。
「くそ…相性良くてこの様か…」
スープレイガは自分が圧倒的に有利だったにも関わらずここまでの苦戦を強いられた事に非常に腹を立てていた。
これが十二支連合帝国総帥の腹心。コピーとはいえ、その実力は圧倒的なものだった。
「ようやく見つけたぞ。スープレイガ」
後ろから声が聞こえた。
やって来たのは赤黒い髪に黒人で長身の男だった。
スープレイガにとってよく見覚えのある人物だった。
「グリトニオンか…ち…ここまでかよ…」
「全く…何をやっている?ボロボロではないか」
「ちょっと厄介な事に巻き込まれてな…」
「まぁ、後で話はじっくりと聞こう。戻るぞ」
そう言って、グリトニオンは『黒門』を開いた。
この黒い門は異空間が広がっており、一瞬でUSWまで移動できる。
「時神とは決着を着けれなかったが、まぁいい。今度こそ…ぶっ飛ばす!」
「貴様は取り合えず今から懲罰室だ」
グリトニオンはスープレイガの首根っこを掴みながら『黒門』へと入っていった。
「おい!グリトニオン!担いで行け!首根っこを掴むな!」
「無断で国を抜け出した分際で何を言ってる馬鹿者が。少しは反省しろ」
「うるせぇ!こっちは怪我人だぞ!」
「こんな時だけ怪我人の主張をするな」
グリトニオンはスープレイガの言葉を軽くスルーしながら門に入っていった。
やがて門は消え去り、そこには何も残っていなかった。
To be continued




