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フェアレーターノアール  作者: たい焼き
【第九章】天使輪廻篇
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【第九章】天使輪廻篇ⅩⅧー空っぽー

「引き離されてしまいましたか…」


 黒宮は先程慧留達と乱戦していたのだが乱入してきたスープレイガによって引き離されてしまった。


「てめぇの能力は厄介だからな。一対一に持ち込んだ方が都合が良い」

「しかも…私と君とでは相性最悪ですしね…全く…とんだ誤算でしたよ」


 黒宮は憎々しげにそう言った。

 黒宮の影は光が当たると消えてしまう。

 影だから当然と言えば当然なのだが、更に厄介なのがここには一切の遮蔽物が無い事だ。

 影は光と物体の間に発生する。

 光しか無ければそこに影は生まれない。


「煌々と照らせ、【黄金汪魔(ルシファー)】」


 スープレイガは【悪魔解放(ディアブル・アーテル)】を発動した。

 全身に薄い金色の鎧が纏われ、髪は自身の慎重と同じくらい長くなっていた。

 四肢には鋭利な刃物が付いていた。更に金色の王冠が頭上に付いており、牙が生えていた。


「私の能力を把握した上で適切に対策をする…ただただ好戦的な戦闘狂なのかと思っていたら、案外頭が回るんですね」

「そりゃどうも」


 黒宮の皮肉を軽々とスープレイガは受け流した。

 スープレイガの【悪魔解放(ディアブル・アーテル)】は全身から光を放っている。

 これでスープレイガ自身の影が出現する事は無い。

 それにより、黒宮の厄介な技である【身代わりの影(スキア・シルト)】はスープレイガには効かない。


「ただ、勘違いして欲しくないのは…私は今の状態でもあなたを倒す事は出来ますよ」

「言ってくれるな…なら…見せてもらおうか!」


 スープレイガが黒宮に攻撃を仕掛けようとしたその時ー


「「!?」」


 二人は驚愕の表情を浮かべた。


「何ですか?これは…」

「出鱈目な霊圧だな…誰がこんな…」


 ここから遠くにとてつもなく巨大な霊圧を感知した。

 強いとか弱いとかそんな次元では無い。

 そう、それはまるで空の上に海があるような…そんな埒外な感覚であった。

 今までに強大な霊圧を感じた事はあるがここまで異質な霊圧を感じたのは二人にとって初めての事だった。

 いや、果たしてこれは霊圧と呼べるのかすら疑問であった。

 世界の常識や条理をひっくり返す様な…そんな感覚だ。


「どうやら…そちら側にはとんでもない伏兵がいた様ですね」

「どうやら…そうみてぇだな…」


 二人ともこの霊圧の凄まじさを理解していた。

 黒宮にとってこの感覚は久し振りの事だった。

 霊圧だけで恐怖するなど…黒宮はここ数百年の間、感じた事が無かった。


「久し振りですよ…霊圧だけでビビったのは」


 黒宮はそう呟いた。





「【第二解放(エンゲルアルビオン)】」


 ジェラートは【第二解放(エンゲルアルビオン)】を発動させた。

 ジェラートの【第二解放(エンゲルアルビオン)】は左肩のみに金色の翼が生えており、服は銀色の軍服に変わっていた。

 更に頭にも軍服の防止が被られており、弓は巨大化しており、右手には金色の矢が握られていた。


「【滅弓矢(シェキナー)】」


 ジェラートの霊圧は凄まじかった。

 一夜とプロテアは勿論、蒼すらも背筋が凍るような錯覚に襲われた。


「霊圧だけなら…蒼の【氷黒楽園(アルカディア・メランアリス)】と並ぶかもしれない…」


 一夜は冷静にそう言ったが蒼は一切否定しなかった。否、否定できなかった。

 何故ならそれほどまでに、今のジェラートの霊圧は化け物染みていた。


「何だ…その霊圧は…!」


 インベルもジェラートの霊圧に驚いていた。


「初めての【第二解放(エンゲルアルビオン)】だったけど…思ったより上手くいったね」


 そう、ジェラートは今まで【黄金破弓(ケルビエル)】の力を扱えていなかった。

 ジェラートは【黄金破弓(ケルビエル)】を取り戻し、初めての【第二解放(エンゲルアルビオン)】を発動したのだ。


「手に入れたばかりのエンゲリアスを使いこなすなんて…」

「当然だよ。これは元々私のエンゲリアスなんだから。やっと…君の力を十全に使えるよ」


 そう言ってジェラートは右手に持っていた矢を上に掲げた。

 インベルはすぐにヤバイと感じ、攻撃を仕掛けた。


「【炎魂砲撃(ゼーレ・カノーネ)】!」


 インベルは炎の砲撃をジェラートに発射した。

 しかし、炎の砲撃をはジェラートな当たる事は無かった。何故ならー


「な!?」

「【吸霊矢(アブゾーブ・プファイル)】」


 インベルの放った炎の砲撃はジェラートの右手に持っていた矢に吸い込まれてしまったからだ。

 更にインベルの霊力も漏れ出ており、全てジェラートの矢に吸収されていた。


「何なんだよ…これは!」

「私のエンゲリアスの能力は吸収。指定範囲内の霊力を根こそぎ奪う事が出来るよ。勿論、吸収する対象を選ぶ事も出来る」


 本来、霊力の吸収能力は【第二解放(エンゲルアルビオン)】を修得した天使ならある程度備えているがジェラートはその能力を更に強化した能力だ。

 この世界の物質の殆どに霊力や魔力が宿っている。

 それは魔族でも人間でも例外では無い。

 インベルの背中の赤い翼が完全に掻き消えていた。

 天使の翼は霊力で構成されている為、ジェラートの格好の養分だ。

 ただし、効果範囲をジェラートの自由に決められる為、蒼や一夜、プロテアには全く影響が無かった。


「インベルの霊力だけじゃねぇ。建造物から大気の霊力まで吸収してやがる」


 ケルビエルの力は吸収。アラルガンドもその力を使っていたがそれとは比べ物にならない。


「くっ…!」


 インベルは霊力の大半を吸われ、立っているのがやっとの状態だった。


「終らせよう」


 そう言ってジェラートは矢を弓に装填した。

 そして、時空を揺るがす程の霊圧を放っていた。


「くそ…」


 霊圧の大半を奪われ、あれほど強大な力を見ればインベルには打つ手が無かった。


「【終焉の滅矢(ドゥームズデイ)】」


 ジェラートは極大の一撃をインベルに放った。

 すると巨大な雷撃が迸り、爆発した。


「くっ!」

「うわ!?」

「っ!」


 蒼達は何とか吹き飛ばされずに体勢を建て直した。

 そして、蒼達は上空を見た。


「な!?」

「嘘…だろ?」

「あり得ない…!」


 蒼、一夜、プロテアはそれぞれそんな声を上げた。

 それもそうだ。先程までインベルがいた場所には空間の歪みが発生していたからだ。

 インベルの偽物の身体は影も形も無く完全に消滅していた。

 オーバーキルも良いところだ。

 やがて空間の歪みは消滅した。


「うん、初めてにしては上出来…かな?」


 ジェラートは呑気にそんな事を呟いていた。

 先程の一撃で建物はいくつか粉々になっていた。

 もし、上空では無く、地上であんな一撃を放っていればここら一帯は焦土になっていただろう。


「よっと。皆無事みたいだね」

「お前…加減ってもんを知らねぇのか?」

「ごめんごめん、初めての【第二解放(エンゲルアルビオン)】だったから調整を間違えちゃって。でも、空間を開く事は出来た。これで…」


 ジェラートはそう言った。

 蒼達はジェラートのあまりの力に恐れ戦くしか無かった。

 この力は間違いなくセラフィム騎士団に入れるレベルだ。

 いや、それどころかそれすらも凌駕しているだろう。

 しかもー


「未完成であの力…化け物かよ…」


 蒼はそう呟いた。

 そう、ジェラートの【第二解放(エンゲルアルビオン)】は未完成だ。

 その証拠にジェラートの背中には片方しか翼が生えていなかった。

 蒼もかつて、【第二解放(エンゲルアルビオン)】が未完成だった時、片方にしか翼が生えていなかった。

 ジェラートが完全に【第二解放(エンゲルアルビオン)】を修得すればと考えると恐ろしくて仕方がない。


「そうだね。まぁ、そこは地道に何とかしていくよ」

「個人的には何とかしないで欲しいがな」

「そういうわけには行かないね。私の願いの為にも…ね…」


 そう、ジェラートの願いの為には更に上へと登り詰めなければならない。

 こんな所で立ち止まっている訳には行かない。


「そういう訳だから、私はもう帰るよ。腕試しも出来た事だしね。擬流については頑張ってね」


 ジェラートはそう言って蒼達から去っていった。


「僕達も速く慧留ちゃん達を助けに行こう」

「ああ!」


 一夜がそう言うと蒼とプロテアは慧留達の方へと向かった。






「厄介なのが目覚めてしまったわね」


 ルミナスがそんな事を呟いた。

 ルミナスが危惧していた事の一つだ。

 ルミナスはジェラートの事を知っていた。

 ジェラートは百年に一度、身体を消滅させ、再び新たな身体へと再構築する転生術を持っていた。

 記憶についてだが、転生した後は一時的に記憶が失われるがいくつかの切っ掛けで取り戻す事が出来る。

 方法は二つあり、一つは自分が死ぬ直前、つまり転生する時期を迎えた時だ。

 そして、二つ目はケルビエルを見る事だ。

 この二つの条件があったからこそ、ジェラートは記憶を保有して転生を続けられた。

 今から五年前、ジェラートはアラルガンドと遭遇し、アラルガンドの持っているケルビエルを目撃していた。

 それにより記憶が戻ったのだ。

 つまり、ジェラートが蒼の逃亡を幇助したあの時点で記憶を取り戻していたのだ。

 そして、アラルガンドが五年前神聖ローマと繋がっていたのはジェラートが原因だ。

 アラルガンドはケルビエルの持ち主がジェラートである事を知っていた。

 だからこそ、アラルガンドはジェラートを守る事を条件にルミナスと協力をしていたのだ。

 ジェラートが死ねばケルビエルは消滅するからだ。

 ケルビエルはアラルガンドと契約したからジェラートが死んでも死なないと思い込んでいた様だがエンゲリアスと持ち主の繋がりは絶対だ。

 そして、ジェラートはケルビエルが十二支連合帝国にいる事を察知し、神聖ローマをこっそり抜け出し、力を取り戻したという訳だ。


「ジェラートは速めに何とかしたい所ね…手駒に出来れば一番なのだけれど…」


 はっきり言って、ジェラートの考えはルミナスには分からなかった。

 ルミナスはジェラートとあまり話した事が無く、不気味な性格をしていた為、ルミナスはジェラートを避けてきた。

 しかし、避けてきたツケがここに来て回ってしまった。


「ローグヴェルトを呼び戻しましょうか」


 ルミナスはそう言って十二支連合帝国にいるローグヴェルトに念話を飛ばした。






 ローグヴェルトは今、プロテアの偽物と交戦していた。

 ローグヴェルトもプロテアも先程の霊圧に驚いており、硬直状態であった。


「この霊圧…確かにエンゲリアスによるもの…だが、誰か分からない…」


 ローグヴェルトはそう呟いた。

 そう、ローグヴェルトは先程の巨大な霊圧が天使によるモノだと気が付いていたのだ。

 しかし、ローグヴェルトの知らない霊圧だった。


「取り合えず、霊圧は消えたみたいだし、良かったのかもしれないわね、お互いに」

「その様だな」


 巨大な霊圧は今はもう消えている。

 恐らくここから撤退したのだろう。

 更に敵が増えては面倒だ。お互いにとっては良かったのかもしれない。


「あなた、どうしてここまで来たのかしら?」

「それを貴様に教える義理は無いな」

「釣れないのね」

「そう言う貴様こそ、もう分かっているのだろう?この世界が何度も繰り返されている事を」

「ええ、オリジナルの私が随分メチャクチャやったみたいね」


 そう、目の前にいるのはプロテアのコピー。

 プロテア自身の能力は把握していた。

 プロテアの能力である時間の移動でこの世界が何度も繰り返されているという事実を既に知っていた。


「貴様らを動かしているのは誰だ?」

「これほど精巧なコピー体を造れる者は限られているわ。それを考えれば自ずと見えてくるんじゃないかしら?」


 確かに敵の造ったコピーは相当精巧なモノだ。

 姿形だけでなく、能力までそっくりそのままコピーされている。

 この様な物を造れる者は確かに限られるだろう。


「そうだな…貴様を倒して、勝手に調べさせてもらう」

「そう」


 ローグヴェルトとプロテアの戦いが始まろうとしていたその時ー


『ローグヴェルト、すぐに神聖ローマに戻りなさい』


「!?」

「?」


 ローグヴェルトは頭から声が流れ込んだきた。

 これはルミナスによる念話だ。


「………分かりました」


 ローグヴェルトはそう言ってプロテアに背を向けた。


「どこへ行くつもり?」

「神聖ローマへ戻る。悪いが貴様との勝負はこれで終わりだ」

「な!?」


 ローグヴェルトはそう言ってどこかへ消えていった。


「…まぁ、いいわ。これで邪魔者はいなくなったわ」


 プロテアはそう言ってどこかへと消えた。





「ふーん、これはややこしい事になったネ…」


 ドーラー、いや、擬流跡土はそう呟いた。

 そう、ドーラーの正体は擬流跡土だ。

 擬流跡土は二百年前の天使大戦で多大な戦果を残した十二支連合帝国の陰陽師の末裔であり、多くの人間を虐殺した重罪人でもある。

 跡土に限らずプラネット・サーカスの幹部である『童話人(グリム)』はS級犯罪者ばかりだ。

 この世界の犯罪者はアオス・テーターと呼ばれる手配書に記載され、レーティングがDランクからSランクまでランク付けされている。

 Dが最低難易度でそこからC、B、A、Sの順で犯罪者の捕まえる難易度が変わってくる。

 Dランクは四大帝国の小さい警察官達が問題なく捕まえられる程度のレベルで最も多いランクである。

 Cランクは小さい警察官が複数人でやっと捕まえられるレベルであり、Dランクよりはランク付けされてる人数は少ないが驚異とは程遠い。

 Bランクは警察署が総動員してやっと捕まえられるレベルであり、難易度はそこそこ高いと言えるだろう。だが、警察署の間で何とか出来る事が多いため、ここまではそこまで多きな問題となっていない。因みに、元アザミの花のメンバーはリーダーの屍以外はここのランクに相当する。問題は次からだ。

 Aランクは四大帝国の中枢を担ってる幹部クラスが一人出張るくらいのレベルであり、小さい警察官では歯が立たない。かなりの難易度を誇り、手配書(アオス・テーター)の中でも全体の5%しかいないとされている。天草屍やプロテア以外のイシュガルドのメンバー全員、このランクに相当し、かなりの実力者である。

 そして、Sランク。このランクは現在、手配されているのはたったの数名だけだが、その一人一人の戦闘能力は四大帝国の長に相当する戦闘力であり、四大神騒動の首謀者であるアザゼル、プロテアはここに相当する。

 とは言っても前述したアザミの花のメンバーやイシュガルド達は更生した為、手配書(アオス・テーター)から外されている。

 そして、今回の偽物を造って十二支連合帝国を混乱に貶めている跡土は勿論、手配書(アオス・テーター)Sランク相当の重罪人だ。

 跡土の罪状は敵味方問わず人間、及び魔族の大量虐殺である。


「ふふふ…傀儡王の腕の見せ所だネ」


 跡土はそう言って左手に着けていた手袋を取った。

 すると、左手には数字の5が記されていた。

 プラネット・サーカスの幹部は身体のどこかに数字が刻まれており、序列となっている。

 今回の戦いで跡土の兵隊は随分とやられてしまった。

 更にケルビエルまでもがやられてしまった。

 ケルビエルがやられてしまった以上、跡土がこの国に留まって油を売るメリットが無い。

 ここは逃げるしか無いのだが…


「まさか…あの子に会えるなんてね…とっくの昔に死んだのかと思ったけどネ…」


 そう、跡土はもう一つ、やり残した事がある。

 跡土はかつて、天使大戦で一人の人物を生き返らせた。

 その人物は生き返らせた後、どこかへと消えてしまったのだ。


「会えて嬉しいよ…みなみ」


 跡土はそう言って嗤った。

 そう、跡土は天使大戦の時、美浪を生き返らせている。

 あれは二百年前に跡土がこの国の魔族を虐殺した時だ。

 跡土はこの国にかつてあった狼の村を焼き討ちし、皆殺しにした。

 そんな時、跡土は美浪と出会った。

 跡土は昔から気まぐれな男で新しい力を手に入れたらすぐに試したくなる癖があった。

 この時、跡土は丁度生き返りの術を会得したばかりであった。


『君、名前は何と言うのだネ?』


 少女は小さい声で答えた。


『み…なみ……』


 跡土は丁度良い機会だと思い、最近会得した【輪廻転生(りんねてんせい)】を使おうと試みた。


『君を生き返らせるネ』


 少女の意識が薄れていく。

 しかし、跡土はそのまま言葉を続けた。


『今日から君のリバースデイだ』


 跡土がそう言った瞬間、美浪は完全に力尽きた。

 そして、跡土は【輪廻転生(りんねてんせい)】で美浪を生き返らせようとした。

 しかしー


『? これは…どういう事だね?』


 美浪の身体は突如消滅した。

 跡土は美浪を生き返らせるのを失敗したと当時は思っていた。


「だが、みなみは生きていた…理由は分からないが…間違いない…彼女だ」


 跡土は自身が生き返らせた者や自身が造り出したコピーと霊力を共有する事が出来る。

 跡土はそれでケルビエルの位置を把握していた。

 美浪も霊圧をリンクしてみた所、確かに跡土と霊力がリンク出来ていた。

 しかし、ケルビエルと違い、かなりリンクが薄い。

 これの原因はよく分からなかったが恐らく、長い間跡土と美浪が接触していなかった影響だろう。


「う~ん。何とかしてみなみを仲間に引き入れたい所だが…難しいだろうネ」


 美浪は蒼達に付いている。

 引き込むのは難しいだろう。


「おい、いつまで油を売っているつもりなのだ」

「ああ、君か。久し振りだね、クメール。今回はやけに仲間と会うネ」


 黄緑色の髪に瞳、全体的に丸っこい肥満体型が特徴の大男だった。


「ピエロから召集が掛かったからついでにこの国に寄っただけなのだ」

「そうか、てっきりこの国の小学生に悪戯をしようと考えていたのかと思ったネ」

「我輩は紳士なのだ。そんな無闇やたらに子供達に手を出す筈がないのだ。ちゃんと段階を踏んでから…」

「いや、子供に手を出すのは犯罪だネ」

「小学生は最高だぜ☆」


 クメールはどこかで聞いた様な台詞を口にしたが跡土はスルーした。

 この男はクメール・サロットサロット。コードネームはファザー。

 プラネット・サーカスの『童話人(グリム)』の一人だ。

 彼は男女問わず小さい子供が大好きであり、子供を監禁して愛でるのが趣味な色々な意味で危ない、ショタコンとロリコンを併発しているヤバイ人物である。

 性的虐待や調教などやりたい放題であり、一部のメンバーからはドン引きされている。当たり前だが。


「それで?何故ミーに会いに来たネ」

「貴殿は今回、色々なコピーを造ったのだろう?その中に小学生がいたらお裾分け…はぁ…はぁ…」

「帰れ」

「酷い!」

「当たり前だネ!ミーの造ったコレクションを君の玩具にはさせない!」


 跡土とて自身の造ったモノには拘りがあるしそれなりに誇りを持っている。

 それなのにクメールの趣味の道具にされるのはたまったモノでは無い。


「釣れないのだ…」

「当たり前だ。君は自分の恋人を他人にやるか?それと同じだ」

「貴殿の考えは分からないのだ」

「安心するネ。ミーも君の頭おかしい思考は理解出来ないネ」

「貴殿には!あの子供達の素晴らしさが分からんのか!あの小さい身体!ツルペタボディ!もう最高なのだ!」

「さっきから身体の話しかしてないネこのド変態が!」

「何を言う!子供は無垢だ…簡単に心を動かせる、子供は裏切らない…子供は優しい!子供は素晴らしい!あー、この世界が子供だけの世界になればいいのにいい!!」


 クメールのあまりに気持ちの悪い言動に跡土は少し吐き気を催した。

 確かにプラネット・サーカスは一般人から見れば頭のおかしい思想、思考の持ち主ばかりだがクメールはその中でもメンバー内ですらドン引きさせる程の性癖の持ち主だった。


「君の訳の分からない思想は結構だけどミーは忙しいんだ。邪魔をしないでくれるかな?」

「幼女を一人くれたら手を貸してもいいのだ」

「断る帰れ死んでまたもっかい死ね」

「自分、涙いいっすか?」


 クメールはとても悲しそうな顔をしていた。

 クメールはロリコンだしショタコンだが、決してドMでは無い。

 まあ、クメールに限らずヤバイ性癖の持ち主は他にもいるのだからプラネット・サーカスは色々な意味で狂っている。

 そう言う意味では跡土はまだまともな部類なのかもしれない。


「泣くのはいいがここで泣くな。貴様の菌に感染してしまう」

「ねぇ?ねぇ?何でそんな小学生低学年みたいな低レベルなイジメをするのだ?」

「良かったじゃないか。お前の大好きな小学生だぞ?」

「我輩が好きなのは無垢な小学生なのだ!………まぁ、そんな生意気な子供を調教するのはそれはそれで…はぁはぁ…」

「ヤバイ…こいつ早く何とかしないと…」


 跡土は冷や汗をかきながらそう言った。


「ふっ…分かってるのだ。我輩の素晴らしい至高な趣味は誰も理解してくれないのだ…」

「悟った様に言うなロリコン」

「ロリコンでは無いのだ!ショタコンもだ!」

「いや、そこかネ?」

「それに我輩はただの子供好きだ!」

「いいから速くどっか行くネ」


 跡土は吐き捨てる様にそう言った。


「分かったのだ。そこまで言うのなら我輩はピエロの所へ行くのだ。貴殿も速くピエロの元へ行くのだぞ?『童話人(グリム)』全員に召集が掛かっているのだからな?」

「分かっているよ。用が済んだらミーもさっさと行くネ」


 跡土が面倒臭そうにそう言うとクメールはその場から去っていった。


「う~ん。これは…速めに事を済ませた方がいいかネ?」


 跡土は今回の件で自分の仲間達の自由っぷりに少し目眩を感じた。

 髏奇といい、クメールといい、言いたい放題やりたい放題してくる。

 この感じだと他にも誰か来そうだ。

 まぁ、『童話人(グリム)』とてそんな跡土に会いに来る者はもういないとは思うが。

 今回、髏奇が召集した場所がよりにもよって十二支連合帝国に隣接する大韓連邦なのだ。

 それにより殆どの『童話人(グリム)』がこの国を経由して行く事になる。

 これ以上味方に邪魔されるのも跡土にとっては面倒だ。

 だからといってこちらから美浪に会いに行くのもそれはそれで面倒だ。

 何故なら今は乱戦状態だからだ。

 そんな所で跡土が行けば格好の餌だろう。


「全く…ミーは決して強くは無いネ。今回は諦めるか?」


 どうせ美浪を手駒に出来ないのなら会いに行っても意味は無い。

 無いのだが…


「いや、ミーの造った作品だ。ミーが行かねばならないネ」


 そう、跡土は自分の造った作品は全て自身の拘りを感じているのだ。

 芸術家というのはその拘りを大切にしていかなければならない。

 その拘りを捨ててしまえばそれは最早芸術家ではない。


「ならば今はゆっくりと静観する事にするネ。速くミーの元へと辿り着くネ。みなみ」


 跡土は嗤いながらそう言った。






「性癖とは誰もが持っている事だ。けどそれは仕方の無い事だ。だって性癖があるのは子孫を残す為だしね(^_^;)」


 髏奇はそう呟いた。

 ここは大韓連邦のとある洞窟。

 薄暗く、不気味な場所である。


「来たね…ファザー」

「ピエロ…遅くなったのだ」

「いんや、君が一番乗りだよ。全く…他のメンバーも君を見習って欲しいね┐( ̄ヘ ̄)┌」

「久し振りに見るのだ…オーディン様」


 クメールは機械仕掛けの人形を見た。

 髏奇がオーディンと言っていたその存在、クメールも知っていた。


「復活の時は近付いている…我々のリーダーだからね☆」

「復活が待ち遠しいのだ。復活した暁には我輩は世界中に子供帝国を作るのだ!」

「君はもう帝国を作っているじゃないか?満足出来ないのかい?」

「人の欲望というのはどこまでも底が無いモノなのだ!」

「はは…!確かにそうだ!だからこそ…人は尊く、愚か何だよね~(*´∀`)」


 クメールはカンポジアで子供だけの小国を作り上げていた。

 カンポジアの大人は全員、クメールが虐殺し、子供を洗脳した。

 プラネット・サーカスの幹部は全員、何らかの形で小国を一国支配している。

 中でもクメールは小国の大人達を殺し、自分が長となって国を支配していた。

 クメールのこの徹底した子供の虐殺振りから隣国ではかつてのカンボジアの独裁者であるポル・ポトの再来と恐れられている。

 ただし、クメールとポル・ポトは大人達を殺した動機は全く異なる。

 ポル・ポトが大人達を殺していたのは知識があったからだ。

 彼は知識人を弾圧し、農業だけの平和な世界を作ろうとした。

 ポル・ポトが知識人を召集して知識人を機関銃で虐殺したのは有名な話だ。

 ポル・ポトは子供は純粋で汚れていなく、自分のモノにしやすいから洗脳していたのだ。ここはクメールと共通している部分だ。

 クメールの場合はただただ子供が好きで愛でたいという理由だけで大人を殺し、子供を洗脳した子供だけの国を形成した。

 この様に二人は全く思想が異なっている。

 まぁ、二人とも狂っているという点は共通しているのだが。


「我輩は必ず悲願を…いや!理想郷(ユートピア)を創る!」

「ははは…君のそのぶれない思想…とても好きだよ( ´,_ゝ`)」

「済まない。幼女かショタしか興味ないんだ」

「そう言うつもりで言った訳じゃ無いんだけど(--;)」


 自身の性癖の為だけに国を丸々乗っ取るんなんて正気の沙汰では無い。

 しかし、髏奇はクメールのその狂気にとても魅力を感じていた。


 ーやはり、プラネット・サーカスのメンバーは面白い。


 髏奇は心底そう思った。

 思想、考え方、価値観、全てがバラバラで仲が良いとは言えない。

 しかし、それぞれ余すところが無い狂気を持っている。

 その狂気の形は様々であるがどれもこれも髏奇にとっては刺激的な狂気ばかりだ。

 本能のままに生きる。素晴らしい事じゃあないか。


「今回の戦いは今までで最高のパレードになりそうだ」







To be continued


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