【第九章】天使輪廻篇ⅩⅦーreviveー
現在、苗木日和周辺は慧留、美浪、屍、ローグヴェルト、スープレイガの五人が厳陣、黒宮、屍、プロテアのコピーの四人戦闘をしていた。
舞のコピーもいたのだがそれは屍の手によってなんとか倒せた。
しかし、屍もかなりのダメージを受けており、慧留も同様であった。
「行きますよ!」
黒宮は影を操り、攻撃を仕掛けた。
スープレイガとローグヴェルトが突撃する。
しかし、屍のコピーが地面から鉄の棘を大量に錬成してスープレイガとローグヴェルトに放った。
二人は攻撃を上空に飛んで回避するがその隙にプロテアのコピーと厳陣が既に上空にいた。
厳陣は【炎帝爆殺】を放ち、プロテアは【鉄魔王剣】を放った。
スープレイガとローグヴェルトは後ろを振り向く隙も無かった。
しかし、慧留の過去改変能力で二人の攻撃の軌道を反らした。
更に美浪の【天時飛】で自身の時を飛ばし、二人を殴り飛ばした。
「くっ…」
「チィっ!」
「甘いですよ」
黒宮は地面の影を巨大な針に変えて攻撃を仕掛けた。
スープレイガとローグヴェルトはどうにかして回避したが、慧留と屍と美浪は攻撃を受けてしまった。
「ぐっ」
「がっ!?」
「うっ!?」
「【身代わりの影】」
スープレイガの影が人の形となって襲い掛かってきた。
スープレイガは攻撃を回避するが自分の影なのでどこまでも追ってくる。
「スープレイガ!その影に攻撃すれば、そのダメージが自分に返ってくるよ!気を付けて!」
「何!?」
慧留の言葉を聞き、スープレイガは驚いた。
厄介な能力だ。
自身の影に直接攻撃を加えるとダメージが返ってくるとは…
しかし、これは影だ。スープレイガは一つの解決策を思い付いた。
「【光刃刀】!」
スープレイガの剣が光輝いた。
しかし、スープレイガはその光を飛ばす事はしなかった。
あくまで光を自身の影に与えただけだ。
すると、影は消え、【身代わりの影】が解除された。
「な!?」
「やっぱりな…光があるから影がある…だが、光で影を消しちまえばてめぇの能力は半減する」
「チィ!」
誤算だった。
黒宮にまさかあんな天敵が存在するとは。
どうやら、スープレイガと黒宮の相性は最悪の様だ。
「てめぇから先に片付けてやるぜ!」
スープレイガは黒宮に刃を向けた。
黒宮は素手でスープレイガの剣を受け止めるがー
「【黒閃光】」
「!?」
黒宮は至近距離で黒い閃光を受けた。
「くっ!?」
「吸血鬼特有の再生能力は無ぇらしいな!やっぱりコピーだからか!?」
「くっ…」
想像以上に面倒だった。
黒宮はコピー体であるが故にオリジナルと違って再生能力を有していない。
再生能力さえあればスープレイガ相手でもゴリ押せたかもしれないが今は相当不利だ。
「おらぁ!」
黒宮とスープレイガは他の七人からどんどん距離が離れていく。
懸命な判断だろう。黒宮の能力は乱戦になると厄介だ。
引き離して一対一に持ち込んだ方がいい。
「スープレイガ!?」
慧留はその状況に驚いたがこっちも油断している暇は無い。
「喰らいやがれ!」
屍は【アルダメルクリー】で爆弾を錬成し、厳陣に飛ばした。
「【虚神】」
しかし、爆発する前に厳陣は霊呪法で盾を生成し、防いだ。
「【阿修羅千手観音】」
厳陣の後ろに千手観音が出現し、屍に無数の張り手で襲い掛かってきた。
「ぐああああああああああああああああああああ!!!!」
あまりの攻撃の速さに屍は成す術も無く攻撃を受け、殴り飛ばされた。
既に黒宮に重症を追わされており、屍は限界を迎えていた。
そこに更に強力な霊呪法をぶつけられ、屍は血塗れになり、地面に伏した。
完全に意識を失っていた。
「屍!」
「よそ見をしている暇は無いぞ」
「!?」
「【狼砲】!!」
霊力の塊が厳陣に襲い掛かったが厳陣ら難なく攻撃を回避した。
「慧留ちゃん、大丈夫ですか!?」
「うん、何とか…」
慧留が言い掛けた所で屍が槍で慧留に襲い掛かった。
「外したか…」
「慧留ちゃん、ここは分断しましょう」
「分かった」
美浪はそう言って厳陣に殴り掛かった。
慧留は屍に接近した。
「【黒魔剣】!」
慧留は左手に黒い剣を顕現させた。
悪魔が使う呪術、【魔歌】の一つだ。
慧留の武器は錫杖だ。
この錫杖は過去改変の際に使用されるが殺傷能力は高くない。
なので慧留は【魔歌】を使用しながら戦う。
「ちっ、てめぇが相手か…」
「私だと相手にならないって言いたいの?」
「むしろ逆だ」
「何だって?」
屍は錬金術を使い、周囲のコンクリートを鉄の槌に変え、慧留に襲い掛かった。
「【冥界創造】!」
慧留は過去改変を使い、コンクリートを無かった事にした。
更に慧留は【黒閃光】を放った。
「【時崩】!」
屍は【黒閃光】の時間を止めた。
屍の物質の時間停止だ。
だが、厳密には生物以外の時間を止める事が出来る。魔力や霊力の流れも止める事は可能だ。
「【双黒魔剣】!」
「!?」
慧留は既に【神速】で屍の背後に回り込んでいた。
いくら屍でも反応しきれなかった。
そして、屍は左腕を切り落とされてしまった。
「ぐっ…」
「あくまでも自分が認識しないと止められないみたいだね」
「そう言う事だ…」
屍は眉を潜めながらそう言った。
そう、屍が止める物質の認識をしないと指定範囲内に入っても時を止める事は出来ない。
更にあくまで時間を止めるだけなので物質の元から持っている力までが封じ込められる訳ではないので接近戦に特化した武器には効果が薄い。
更に屍の時間停止能力はそこまで時間の拘束力は高くない。
「確かに…私と君では相性最悪だね」
「全く…ついてない…」
屍はそう言って接近した。
「俺は【アルダメルクリー】で貴様の体構造を解析出来る!悪いが一気に勝負を決めさせて貰うぞ」
「!?」
屍には奥の手があった。
それは【アルダメルクリー】により、相手の体構造を解析し、問答無用で破壊する力だ。
決まればほぼ一撃の極大の必殺だ。
先程左手は切り落とした。
右手を切り落とせば慧留の勝ちだ。
「させないよ!」
慧留は【世界逆流】で過去改変を行い、屍の足元を崩した。
「【時崩】!」
しかし、慧留が崩した。足場の時間を止め、再び足場を作り直し、慧留に近付いた。
更に屍は錬金術で鉄の縄を錬金し、慧留の身体を縛った。
「くっ!?」
「これで…終わりだ!」
「【魔王大盾】!」
慧留は巨大な盾を展開したが一瞬で粉々になった。
「【世界逆流】!」
慧留は過去改変で再び【魔王大盾】を発動した。
「くっ!?」
慧留は屍が一瞬止まった隙に鉄の縄を【黒魔剣】で千切った。
そして、慧留は屍の右手を切り落とした。
「がっ…」
しかしー
「!?」
屍の腕を切り落とした瞬間に屍の切り落とされた右手が巨大な爆弾に変わっていた。
大地を震わす程の爆風が慧留に襲い掛かる。
勿論、屍の身体は木っ端微塵となり、紙切れとなっていた。
慧留は爆発する前に咄嗟に【悪魔盾】を展開した為、ダメージは抑えられ即死はしなかったが爆発の威力は凄まじく、慧留の身体は大量に出血していた。
「う…油断…しちゃったな…」
しかし、美浪と厳陣がまだ戦っている。
慧留も加勢しなくてはならない。
慧留は美浪と厳陣の元へと向かった。
「行くぜ…ケルビエル…」
蒼はそう言ってケルビエルに接近した。
ー!? 速い!?
ケルビエルは弓で蒼の斬撃を防いだ。
しかし、ケルビエルは上空へと吹き飛ばされてしまった。
「けど、霊力を消してしまえば関係ないわ!」
ケルビエルはそう言って弓を掲げた。
しかし、何も起こらなかった。
「!? …なぜ…何故何も起こらないの!?」
「無駄だよ。君の言ってるのはこの矢の事だろう?」
「な!?」
一夜はケルビエルに矢を見せた。
確かにあれはアラルガンドが蒼に仕込んだ矢だ。
「まさか…取り除ける筈が…」
「そうだね…確かに慧留ちゃんの力だけでは無理だった」
「どういう…」
「慧留ちゃんの過去改変能力と屍の錬金術を組み合わせて蒼の中にあった矢を抜いたのさ」
「!? そんな…事が…」
屍はケルビエルの矢が慧留の力だけではどうにも出来ない事を知っていた。
だから屍の力を借りたのだ。
「そう言う訳だ。行くぜ…」
蒼はそう言ってケルビエルに斬撃を放った。
ケルビエルはどうにかして回避するが蒼は既にケルビエルの後ろに回り込んでいた。
「【時間疾走】」
蒼はケルビエルの背中をバッサリと切り裂いた。
「くっ!?」
ケルビエルは予備動作無しで矢を放った。
「【世界停滞】」
蒼は周囲の時間を止めた。
蒼の世界は白黒になっていた。
「【氷菓神刀】!」
蒼は氷の刃をケルビエルに放った。
時が再び動き出した瞬間、ケルビエルは氷の斬撃により吹き飛ばされた。
「がっ!?」
蒼はケルビエルに更に追い討ちを掛けようとする。
「ふざっ…けるな!」
ケルビエルは矢を無数に放った。
「【世界停滞】」
再び蒼は世界の時を停止させた。
そして、僅か数秒でケルビエルの矢を全て叩き落とした。
「な!?」
時が動き出した瞬間、ケルビエルは驚愕の声を上げた。
蒼の【世界停滞】が止められる時間は五秒と【時間停止】と変わらないが時間の拘束力が段違いだ。
【時間停止】はアラルガンドクラスの実力者なら簡単に破られていたが【世界停滞】は拘束力が上がっている為、ケルビエルは全く反応出来なかった。
「はぁ!」
蒼はケルビエルに斬りかかった。
ケルビエルは弓で攻撃を防ぐが防戦一方だ。
「蒼が完全にケルビエルを圧倒しているね」
「当然よ。ケルビエルの力は恐らく、アラルガンドより弱いわ。イシュガルと同等以上に戦った今の蒼に何の小細工も無しに勝てる筈が無いわ」
プロテアが言う事は尤もである。
蒼の実力は今やこの世界で最強クラスだ。
パルテミシア十二神クラスの実力者が相手で無ければ何の対策も立てずに蒼と戦うのは無謀だろう。
「く…」
ケルビエルは蒼により再び吹き飛ばされてしまった。
完全に蒼が圧倒している。
「まだだ…まだよ!」
ケルビエルは更に霊圧を上げた。
そして、弓から無数の矢を放った。
蒼は矢を乱舞して切り裂いた。
しかし、先程より威力が上がっているのと矢の数が段違いに多くなっていたので蒼は途中で乱舞を止め、飛んで回避した。
しかし、蒼が回避した場所にはケルビエルが先回りしていた。
「!?」
「終わりよ!」
「【時間疾走】」
蒼がケルビエルの更に上に回り込んだ。
だが、その瞬間、ケルビエルは蒼に弓を向けた。
「!?」
「これで本当に終わりよ!」
ケルビエルは蒼に極大の矢を放った。
ケルビエルの全霊力を込めた渾身の矢だ。
蒼は黒刀でガードしたが、矢の威力は凄まじく蒼は上へ押されていた。
「くっ…」
「そのまま吹き飛べ!」
ケルビエルは更に攻撃を強めた。
蒼は更に上へと押されていた。
このままでは蒼は矢の攻撃により吹き飛ばされてしまうだろう。
「【時間氷結】」
蒼はケルビエルの矢を凍らせ、完全に無力化した。
「そんな…」
【時間氷結】は【世界停滞】に氷の停止の力を加える事で全ての攻撃を凍らせ、無力化する。
蒼の奥の手の一つだ。
「ふっ!」
蒼はケルビエルに再び斬撃を放ち、吹き飛ばした。
「ぐぁあ!」
「悪いな…もう、終わらせる」
ケルビエルは傷だらけだというのに蒼はほぼ無傷だ。
ここまで力の差があろうとは。
蒼の霊圧は凄まじく、ケルビエルでは彼の力の上限が見えない。
あまりにも、蒼は圧倒的だった。
「私は…負け…無い…」
ケルビエルはそう言うが蒼は既に刀に霊圧を込めていた。
今までとは比べ物にならない霊力の奔流だった。
蒼の得意属性は時属性と氷属性。
二つの力が融合し、刀から蒼い霊圧を放っていた。
それを見たケルビエルが絶望の表情へと変わる。
力の差がありすぎるというレベルでは無い。
最早、次元が違う。
「何よ…何なのよ!その力は!!」
ケルビエルは叫ぶが無情にも蒼は既に霊圧の装填を終えている。
ケルビエルは歯軋りし、その後、蒼に巨大な矢を放った。
「うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ケルビエルは叫んだ。
「【χμπλεμελανdegen】!」
蒼は巨大な蒼い斬撃をケルビエルに飛ばした。
蒼い斬撃は一瞬でケルビエルの巨大な矢を消し飛ばし、ケルビエルに直撃した。
直撃した瞬間、巨大な火柱が立ち、爆風と轟音が襲い掛かる。
「ぐあ!」
「くっ!」
一夜とプロテアはその衝撃に少しばかり怯んだ。
「………」
蒼はずっとケルビエルのいる方を見ていた。
やがて煙は消え去り、ケルビエルの姿が露になった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ケルビエルの全身が焼け焦げており、全身から血が流れていた。
更に弓は粉々に砕け散っていた。
最早、戦える状態では無かった。
ケルビエルは地上へと落ちていった。
蒼はケルビエルを追って地上へと降りた。
「くっ…が…」
ケルビエルは空き地で膝まずく様に倒れていた。
「終わりだな…」
「殺すなら…さっさと…殺しなさい」
「………」
蒼はケルビエルに刃を向けた。
そして今、斬りかかろうとしたその時ー
「駄目だよ~、フローフル。その子を殺しちゃあ」
「「!?」」
蒼とケルビエルの前に現れたのはピンク色のボサボサした長い髪に黄色い瞳を持った色白のボロボロの白い服を着た少女だった。
「ジェラート…何で…」
蒼が疑問を浮かべるが、ケルビエルは蒼以上に驚いていた。
否、怯えている様に見えた。
「何で…あなたが…アイスベル!」
「嫌だなぁ…ケルビエル。今はアイスベルじゃ無くてジェラートだよ?」
「何の…話をしてるんだ?」
蒼はジェラートとケルビエルの話の内容に全くついて行けなかった。
「まぁ、いいや。ようやく…君を取り戻す時が来た」
「あなたは…五百年前に焼き殺された筈じゃあ…」
「ああ、あれは契約していたんだよ、悪魔とね。不死の悪魔…ウロボロスとね」
「!?」
「どういう事だよ!?お前らはどういう関係なんだよ!」
蒼は二人に問い掛けた。
「私達は二人で一つの存在だよ。このケルビエルは元々…私のエンゲリアスなんだからさ」
「な!?」
蒼はジェラートの言葉に驚いていた。
それはそうだ。何百年も存在している天使が自分の武器だと言い出すのだ。
ジェラートの年はアポロと同年代の筈だ。辻褄が合わない。
「私は…千年前、エンゲリアスを使う才能が無かった…だから元老院達は私のエンゲリアスを封印したんだよ。私のエンゲリアスは強力な力を持っていたから」
「元老院?何だよ…それ…?」
「元老院は千年前に存在した司法機関よ…神聖ローマを作り出した者達と言ってもいい…まぁ、今は壊滅してるけどね」
「………」
「私はヒューマニックリベリオンが起こるまで何事も無く生きてきた…けど、ヒューマニックリベリオンが起こった時、私はこの世界に絶望した」
「?」
「絶えない争い…無意味な闘争、奪い合い…この世界は奪い合うように出来てる…私は絶望したよ。だから、私はこの世界の枠から外れたいと思う様になった」
「それで…悪魔と契約したってのか?」
「そうだよ。この世界から外れ、異世界で自由気ままに暮らしたいなって。けど、その為には天使であった頃の身体を犠牲にする必要があった。そして、私はウロボロスと契約し、デモンエンジェルとなり、百年単位で転生を繰り返した」
「転生…だと…?」
「うん、私の名はアイスベル・ファイ・ローマカイザー。ローマカイザー黎明期から私は在り続けている。このジェラートは私が五回目の転生した姿だよ」
ウロボロスの悪魔としての能力は転生だ。
ウロボロスは人と同じくらいの寿命しか生きられない稀有な悪魔だが、その代わり転生をする事が出来る。
事実上、ウロボロスは不死の悪魔という事になる。
ジェラートは五百年前にそのウロボロスと契約し、転生の力を手に入れ、転生する度に力を増大させていた。
「そして…私はケルビエルを操れるまで力を手に入れる事が出来た。私はこの時をずっと待っていたよ。フローフル、感謝するよ。ケルビエルを追い込んでくれて。君は十分に借りを返してくれた」
「借りってのはそう言う事かよ」
ジェラートは蒼が神聖ローマから逃げる手助けをした。
その時、ジェラートは言った。「借りは返して貰う」と。
ジェラートの借りの意味とはそう言う事だ。
「ケルビエルの力を取り戻して、私はこの世界から抜け出し、自由になる。まぁ、私の願いが叶うまでは時間が掛かりそうだけど…そこはゆっくりやっていこうかな」
「アンタの考えてる事は…やっぱ、分かんねぇよ…」
「そうかな?まぁ、私の考えは誰も理解してはくれないんだろうな~」
ジェラートは草臥れた様にそう言った。
「さぁ、ケルビエル。私の元へ戻るんだよ」
「嫌…!私は戻らない…!」
ケルビエルは頑なに拒否した。
蒼は知っている。エンゲリアスにも意志がある事を。
蒼は何度もケルビエルに殺されている。蒼は当然、ケルビエルに憎しみの感情が無い訳では無い。
しかし、今のケルビエルは蒼にとってどこか憐れに見えた。
「まさか、エンゲリアスにここまで強い自我が芽生えちゃうなんてね。これは元老院も予想してなかったろなー。けど、駄~目♪」
ジェラートはケルビエルの胸を素手で貫いた。
「あっ…」
「戻っておいで、ケルビエル」
ジェラートはケルビエルの中にあった黄金の長剣を引き抜いた。
すると、ケルビエルの身体は光の粒子となって消えていった。
「お帰り、ケルビエル」
ジェラートはそう言うが黄金の長剣は返事が無かった。
それはそうだ。ジェラートがケルビエルの意思を完全に消し去ってしまったのだから。
「フローフルもありがとう。お陰でちゃんと忘れ物を取り戻せたよ」
「それは何よりだ」
蒼は皮肉混じりにそう言った。
「フローフルは…随分強くなったみたいだね。三年前とは偉い違いだよ」
「どうだかな」
「謙遜は止してよ。私じゃ…あなたには勝てないかもね~」
「謙遜してんのはどっちだよ。それとも煽ってるつもりか?」
蒼には分かっていた。
今のジェラートはとてつもなく強いという事を。
エンゲリアスは持ち主がいて初めて力を発揮する。
ジェラートの力は恐らく、あのパルテミシア十二神に匹敵するだろう。
「私は未だにセラフィム騎士団に入れない落ちこぼれだよ?」
「今のテメーならそう難しい事じゃねーだろ…化け物が…」
「化け物…とは随分な言い草だね、フローフル。それが命の恩人に対する言葉かな?」
「大して気にもしてねぇのにそういう事を言えた口かよ?」
「はは…違いないね」
ジェラートは嬉しそうにそう言った。
「勝手にローマから抜けて良かったのかよ?」
「問題ないよ。すぐに戻ればいいだけだしね。あー、そうそう。君に言わなきゃならない事があるんだ」
「何だ?それは?」
「蒼!」
「フローフル!」
蒼がアイスベルに問い掛けた時、一夜とプロテアがやって来た。
「フローフルの新しい仲間かな?」
「君は?」
「私はジェラート・ファイ・ローマカイザー神聖ローマ第二王女だよ、一応ね」
「あなたが…」
一夜はジェラートを見つめた。
しかしー
ー平行世界が見えない!?
「無駄だよ、君の力は何なのか知らないけどその力は私には意味が無い」
「…その様だね」
一夜はかなり驚いていた。
一夜の能力が通用しない相手がいるとは。
「で?何なんだよ、言わなきゃならない事って」
「ああ、そうだった。この騒動の元凶だよ」
「君は知ってるのかい?」
「うん、この十二支連合帝国に偽物が多く紛れ込んでるんでしょ?」
「ああ…」
「こんな芸当が出来るのは一人しかいないよ。二百年前の天使大戦で多くの人や魔族を虐殺したあの男だ…」
「それは…一体…」
蒼がジェラートに聞いた。
そして、ジェラートは答えた。
「十二支連合帝国のS級犯罪者…擬流跡土。今はプラネット・サーカス、『童話人』の一人、傀儡王擬流跡土」
「擬流…跡土…」
「うん、プラネット・サーカスの幹部には二つ名があるんだ」
「何で…お前がそんな事を…」
「私もかつて、プラネット・サーカスにいた時期があってね。まぁ、所属してた訳じゃ無いけど」
ジェラートは淡々とそう言った。
つまり、今回の騒動は全て擬流跡土の仕業という事になる。
「そいつは今、どこに?」
「さぁ?そこまでは。多分この国のどこかにいると思うけど」
「君の目的はなんだい?」
「何でもいいでしょ?私はただ自由が欲しいだけだよ」
「フローフル!」
そんな声が聞こえた。
やって来たのはインベルとアポロだった。
「インベル、アポロ」
蒼が二人の名を呼んだ瞬間、アポロの顔の半分が吹き飛んだ。
「「「「!?」」」」
蒼とインベル、プロテアと一夜は驚いていた。
そして、四人はアイスベルの方へと向いた。
ジェラートは小さい金色の弓を持っていた。
恐らく、ジェラートがアポロを瞬殺したのだ。
「ジェラート!何を…!」
「そいつ、偽物だよ。インベルもね」
「な!?」
一夜はインベルを凝視した。
それに、アポロがいた場所には人形の紙切れが残っていた。
「確かに…偽物だね…けど、何で?」
「二人は神聖ローマにいる。ここにいる筈が無い」
「ちぃ!」
インベルは四人から距離を取った。
「【黄金破弓】」
ジェラートがエンゲリアスの名を呼ぶと弓から無数の矢を放った。
「【炎竜天皇】!」
インベルの偽物はエンゲリアスを解放した。
「【黄金破弓】ー【無矢】」
ジェラートは弓から無数の矢を放った。
インベルは上空へと逃げていった。
ジェラートも上空へと上がった。
「逃がさないよ?」
「逃げるかよ!【第二解放】!」
インベルは【第二解放】を発動した。
四翼の赤い翼が生えており、【炎竜天皇】は炎の剣から巨大銃に変化していた。
「【天炎緋血】」
「へぇ~、それが君の【第二解放】か~」
「【炎魂砲撃】!」
巨大銃から炎の砲撃を放った。
ジェラートは攻撃を回避した。
しかし、第二破が既に来ていた。
「【天の足】」
ジェラートは『聖歌』の一つである【天の足】を使用した。
これはその名の通り、高速移動をする術だ。
「流石にアレをまともに喰らうのはヤバイな~」
思ったより威力が凄まじい。
今のジェラートがまともにあの攻撃を喰らうと影も形も残らないだろう。
本人をそのままコピーしているというのは本当の様だ。
「けど、君を倒してさっさと帰らせて貰うよ。他の人達に怒られるのはたまったモンじゃないからね」
「そうか…だが、手に入れたばかりのエンゲリアスを簡単に扱えると思うな。その力を扱えるには何年もの鍛練が必要だ」
「それ、偽物の君が言うんだ…」
「俺はオリジナルの記憶を全て有している。そして、これからは俺が本物になる」
「いんや、君は絶対に本物にはなれないよ。偽物は偽物。模造品に過ぎない」
ジェラートはニヤリと笑いながらそう言った。
「貴様は…俺が偽物だと嘲笑うのか…」
「いや、そうじゃないよ。別に私はそんなのどうでもいいよ。ただ、君が本物とか偽物とかに捕らわれてる様じゃ…私には勝てないよ」
「言ってくれるな…落ちこぼれが…」
「落ちこぼれか…良い響きだね」
「何だと?」
「落ちこぼれって事はさ、これから上がるしか無いんだ。下がらない、上へ行ける。良い事じゃないか。それに…落ちこぼれが必ずしも雑魚とは限らないよ?」
「何が言いたい?」
「考えても見なよ。人間は弱い。にも関わらず人間は魔族を淘汰し、頂点へと上り詰めている」
「それが何だ?」
「何で人が頂点へと行けたと思う?」
ジェラートが問い掛けてきた。
インベルはすぐに答えた。
「叡知と霊呪法だろ。何を分かりきった事を」
「それも勿論ある。けど、それは一つの要素に過ぎないね」
「何だと?なら…何だと言うんだ?」
「答えは一つ。彼等は弱者だからだ」
「何?」
「弱いが故に相手の弱点、弱味を探り、弱いが故に力を付けようと自分を磨く。そして、そこで得た強さは何者にも勝る。そう、弱いからこそ何にでもなる事が出来る。それが人類の強さだよ」
ジェラートはそう言った。
「戯れ言だな…」
「ああ、それともう一つあったよ。それは…意思の力だよ」
「意思…だと…」
「まぁ、君とこれ以上駄弁るつもりは無いよ。終らせよう…」
ジェラートはそう言って金色の弓を掲げた。
「【第二解放】」
To be continued




